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  • 鮮やかな殺人8彼がどうして罪を犯してしまったのか。
    殺されたのは、果たして。

    p9目です。

    [2022/9/11〜現在進行系でTwitterに不定期で上げているもののまとめです。]

    #オリジナル  #創作  #落書き  #殺人  #死ネタ  #男の子  #女の子
    あいと
  • 鮮やかな殺人7彼がどうして罪を犯してしまったのか。
    殺されたのは、果たして。

    p8目です。

    [2022/9/11〜現在進行系でTwitterに不定期で上げているもののまとめです。]

    #オリジナル  #創作  #落書き  #殺人  #死ネタ  #男の子  #女の子
    あいと
  • 鮮やかな殺人彼がどうして罪を犯してしまったのか。
    殺されたのは、果たして。

    [2022/9/11〜現在進行系でTwitterに不定期で上げているもののまとめです。]

    #オリジナル #創作   #落書き  #殺人  #死ネタ  #男の子  #女の子
    あいと
  • 別れ。そして異臭一人の女が、死んだ恋人に囚われ弔う話です。
    暇つぶしになると嬉しいです。

    [2023/1/8にTwitterに投稿したものに少し加筆したものになります。]

    序盤にᎡ18(ヌルい)、全体的にグロが含まれます。苦手な方はご注意を。

    #創作  #死ネタ  #オリジナル  #Ꭱ18  #グロ
    あいと
  • ゆめのあと #サブマス #pkmn #死ネタ #二次創作
    死ネタのような何か。クダリが現実の存在ではない。シャンデラが仄暗いノボ←シャン風味。
    初出:2012/3/13(Pixiv投稿)
    鶏肉
  • 16願い事ひとつ村上くんがブラックトリガーになって帰ってくる話。死ネタ注意。
    ※遊真の黒トリガーつける手を間違えてます。すみません。
    #ワートリ #村来 #死ネタ
    yoimaitake
  • 17来馬先輩が死んでしまう話村来の来馬先輩が死んでしまう話。
    転生エンド&夢オチルート付き。
    #ワートリ #村来 #死ネタ
    yoimaitake
  • 4海で会いましょう #金カム #月いご #死ネタ

    ついったでupした漫画
    月島さんいませんが月いごです
    死ネタです
    花森
  • 9海の底で彼女は待っている #金カム #月いご #死ネタ

    ついったでupした死ネタ漫画
    死ネタNGの方は回れ右
    花森
  • 三男と四男が囚われた話2 #BL松 #カラ一 #おそチョロ #監禁 #年中松 #死ネタ

    !ATTENTION!
    この話は以下の要素を含みます。
    一つでも嫌悪感を感じるものがございましたら早急にブラウザバックをお願いいたします。

    1.おそチョロ、カラ一前提(くっついてない)の上での、一チョロ一です
    2.変態なモブのオッサンが出張ります
    3.拉致、監禁要素があります(被害者:年中松)
    4.異常性癖の表現があります(被害者:年中松)
    5.本編はハッピーエンドで終わります。…が、最後にif分岐として死ネタルートをオマケとして置いてます。


    OKな方はお進みください。


    ーーー

    猫達の協力を得て、チョロ松と一松が何者かに攫われたらしいことは判明したが
    そこから居場所を探し出すのは難航していた。
    2人は黒い車に押し込められて何処かへ連れていかれたらしいのだが
    黒い車など日本全国山ほど走っているし、
    目撃した猫は当然車のナンバーなど覚えているはずもない。
    それに2人を乗せた車が県外へ走り去ってしまったのなら
    猫のネットワークでは限界がある。
    エスパーニャンコはすでに2つ目の薬を飲んでもらっている。
    その効力も明日で切れてしまう。
    残った薬は後1つ。
    デカパン博士からはまだ連絡がないし、猫達に協力してもらえるのは後1週間だろう。

    その日の夜、就寝前にトド松が気になる話を聞いた、と俺たちを真剣な眼差しで見据えながら言ってきた。
    目撃情報や手がかりとは直接関係のない話だけど、と前置きしてからトド松は口を開いた。

    「ここ1年、東京で青年の失踪事件が異様に多発しているらしいんだ。」
    「失踪事件?」
    「うん。その失踪者がね、全員10代〜20代半ばの男性なんだって。」
    「チョロ松と一松もその失踪者の条件に当て嵌まるな。」
    「でもあいつらは誘拐だろ?」
    「そうだけどさ…例えばだよ?
     例えば…その失踪した人達も、兄さん達と同様に誘拐されたんだとしたら?」
    「…どういう事だ?」
    「チョロ松兄さんと一松兄さん以外にも、攫われた人がいるかもってコトかな?!」
    「あくまでも憶測の域だけど…
     でも無関係とも言い切れないと思わない?」
    「確かに、トド松の言うことも一理あるかなー…。
     なぁ、その失踪者ってまだ誰も発見されてねーの?」
    「うん。全員行方不明。…兄さん達も含めて、ね。」

    直接関係のある話ではなかったが、確かに気になる話だ。
    トド松は、念のため失踪した男性達のことも少し調べてみると言って
    さっさと布団に潜り込んでしまった。
    おそ松が電気を消す。
    4人だけの布団の中は温まるのに時間を要するせいか少し寒い。
    隣にいるはずの一松の体温が感じられないのがひどく寂しかった。
    チョロ松と一松が姿を消してから既に1ヶ月半程が経とうとしている。
    2人がいなくなってから、トド松が夜中にこっそりすすり泣いているのを、
    十四松が路地裏で1人涙を流しているのを、
    そして、おそ松が時折緑色のパーカーを目を腫らしてボンヤリ見つめているのを知っている。
    そういう俺も、ふとした拍子に部屋の隅…一松の定位置に目を向けてしまい、
    何も無い空間を見ては情けないことに泣きそうになるのを必死で堪えていた。
    真ん中2人が抜けた穴は想像以上に大きくて、俺も含めた兄弟の落ち込みようはひどいものだった。
    なんだかんだで俺もおそ松も真ん中組を甘やかすのは好きだし、
    末2人も真ん中組に甘えるのが大好きだ。
    もう見つからないのかもしれない、
    そんな思いが一瞬脳裏を過ぎったが、すぐ様頭をブンブン振って思い直す。
    俺はまだ諦めない。
    諦めるわけにはいかない。
    もちろん他の兄弟達だってその思いは同じだ。
    明日はもう少し遠くへ足を伸ばして探してみようか。
    その前にエスパーニャンコに薬をもう一度飲んでもらって、
    あとは協力してくれている一松キャット達にお礼の猫缶を持って行ってやらなければ。
    そんな事を考えながらウトウトとし始めていた時だった。

    カリカリ、と部屋の窓ガラスを引っ掻く音が聞こえた。
    上体だけを起こして窓の方を見ると、そこには外の街灯に照らされて薄っすらと猫のシルエットが見て取れた。
    次いで「ニャーォ」と猫の鳴き声。
    エスパーニャンコだ。
    布団から這い出て窓を開けると、エスパーニャンコはピョイと部屋の中に入ってきた。
    その物音に兄弟達も起き出して先ほど消したばかりの明かりを再び点ける。
    俺たちを見渡して、明るい橙色の毛色の猫が言った。

    『みつけた。』

    ーーー

    深夜、鬱蒼とした森に囲まれた狭い道路を1台の車が走っていた。

    「おいコラもうちょいスピード出せっての!」
    「十分スピード出してるザンス!
     乗せてもらってる分際で文句を言うんじゃないザンス!」

    「そうだよ!もっと急いでよイヤミー!」
    「これでもかなり飛ばしてるザンスよ!
     だからうるさいザンス!」

    「エンジン全開!全カーーーーイ!!ハッスルハッスル!」
    「ええいやかましいザンス!!」

    「フッ…今こそお前の眠れるフォースを解放すべき時だぜ。
     俺はお前を………信じてるぜ!」
    「やかま…イッタイザンスね!!」

    兄貴がイヤミに脅…お願いして8人乗りのワゴン車を出してもらい、
    俺たちは山奥のとある屋敷へ向かっていた。

    エスパーニャンコが夜中に俺たちに教えてくれた。
    山奥の大きな屋敷にチョロ松と一松が囚われていると。
    屋敷の周辺を縄張りにしている猫が庭で一松と遊んだことがあるのだそうだ。
    その猫から近隣の猫へ伝達され、更にまた近隣へ伝達され…
    そうしてとうとうこの辺りを縄張りとする猫達の耳にも入る次第となった。
    猫のネットワークは想像以上に強力だ。
    猫達から受け取った情報を元にトド松が場所を割り出し、
    大切な弟達を取り戻すために真夜中の森を爆走中という訳である。
    話を聞いてみると、何やら不穏な気配も感じられた。
    チョロ松と一松は鎖で繋がれていたとか、とても体温が低かったとか、
    ここ最近は庭に行っても姿を見せない、とか。
    2人は無事なのだろうか。
    どうか無事でいてくれ。

    「カラ松、すっげー顔してんぞ。」
    「え…。」
    「お前今こそ鏡見ろよ。
     そんな顔でチョロ松と一松に会ってみろ、確実に引かれちゃうよ~?」
    「す、すまない…。」

    一体どんな顔をしていたというのか。
    しかし手鏡は生憎家に置いてきてしまった。
    ペシペシと自分の頬を叩く俺を、おそ松は可笑しそうに眺めていたが
    やがて俺の両肩に手を置いて真剣な目で俺を見た。

    「絶対に取り乱すなよ。
     俺たちが最優先するのはチョロ松と一松の無事だ。
     お前キレたら手に負えねーんだからな。」
    「ああ、わかってる。」

    おそ松に背中を叩かれて、知らず握り締めていた拳が少し緩んだ。

    やがて車は県境に位置する山奥の大きな屋敷の前にたどり着いた。
    まるでそこだけタイムスリップしたかのような景観だ。
    闇夜に浮かび上がるようにして佇むそれは、少し不気味に見える。
    俺たちは車を降り、運転手のイヤミには屋敷から少し離れた目立たない場所で待機してもらうことにした。

    「さてと、どっから入るかだけど。」
    「はいはいはい!」
    「はい、十四松くん。」
    「バットで窓ガッシャーン!!」
    「うむ、採用。」
    「ちょっと!何言ってんのおそ松兄さん馬鹿なの?!」
    「え、駄目なのか?」
    「ダメに決まってんだろこのサイコパスが!」
    「…何故だ?」
    「あー!!僕1人でツッコミ捌き切れない!助けてチョロ松兄さぁん!」
    「えー、じゃあどうするんだよー。」
    「…もうこの際正面突破でいいんじゃないか?」
    「正面突破!」
    「待って兄さん達は何する気なの?!
     言っとくけどこの屋敷にチョロ松兄さんと一松兄さんがいる確証はないんだよ?
     もし強引に押し入って全くの無関係な家だったらどうするのさ、
     器物破損で僕達が捕まっちゃうよ!」
    「あー…そうか~まぁそうだなー…。
     うん、よし正面から堂々と行こう。」

    言うや否や、おそ松は玄関のベルを鳴らした。
    背後でトド松が「ちょっと待ってよまだ心の準備が!」と喚いているが、
    済まないが一刻を争うためスルーさせてもらった。
    こんな真夜中に非常識な客人だがこちらはそうも言ってられないのだ。

    暫しの沈黙の後、大きな扉がゆっくりと開いた。

    「こんな夜更けに…一体どなたです?」
    「あ、どーもぉ~」
    「ヒッ…!!お前…!いや、まさか、そんな…!」
    「え?」

    扉から出てきた男はおそ松の顔を見るなり突然青ざめた顔をして中に引っ込んでしまった。
    一体どうしたというのか。

    「あれ…俺なんかした?」
    「俺が見る限り何もしていないと思うが。」
    「うん…非常識な時間にベル鳴らした以外は何もしてないと思うけど。」
    「だよなぁ…?」
    「なんかビックリーというより、怖がってたねー?」
    「俺の隠しきれないカリスマレジェンドなオーラにビビったとか?」
    「いやそれはない。」
    「トド松否定速すぎじゃね?」
    「ったりめーだろ!
     てゆーか、カラ松兄さんばりにイッタイ事言うのやめてくんない?
     今ツッコミ要員いないんだからね?!」
    「え…?」

    玄関扉の前で気の抜けた会話を繰り広げていると再び扉が開いた。
    先ほどの男だ。
    何がそんなに恐ろしいのか、俺たちを見てガクガクと震えながら屋敷の中へ招き入れてくれた。
    男の態度は気になるが、ひとまず中に入れた事に一安心だ。
    それにしても広い屋敷だ。
    豪者な内装に煌びやかな調度品、そして至るところに人形が飾られている。

    この人形達、やけにリアルで少し不気味だ。
    しかも少年や青年の人形ばかりだ。
    この屋敷の持ち主の趣味なのだろうか。
    なかなかいい趣味をしているようだ。
    他人の嗜好にとやかく言うつもり等全く無いが、是非ともお友達にはなりたくない。

    案内されたのは、広々とした応接間だった。
    ソファには、壮年の気品ある男性が腰掛けている。
    こちらにも伝わってくる風格からして、この男性がここの主人なのだろう。
    彼は、俺たちの顔を見るなり目を細めて口角を釣り上げた。

    「ほう…双子人形にはまだ兄弟がいたのか。」

    舐めるようにして俺達の顔をじっくりと眺め、心底愉快そうに笑う男性から発せられた言葉に、
    姿を消したチョロ松と一松を知っているのだろうと確信できた。

    「先ほどはうちの使用人が失礼したね。
     何せ君達が私の双子人形と同じ顔をしていたものだから
     どうやら震え上がってしまったらしい。」

    喉の奥でクツクツと男は笑う。
    その姿に苛立ちを隠そうともせず、おそ松が一歩前に出て挑発的に口を開いた。

    「人形とかどーでもいいんだけどさ、
     俺たち六つ子なの。
     その内2人が行方不明なんだよね。
     なぁオッサン、あんた2人の居場所知ってるんだろ?」
    「ふむ…そうだね。
     折角兄弟が会いに来てくれたんだ。
     少し早いが私の双子人形を特別にお披露目するとしよう。」

    男性はこちらを見て、一層笑みを深めた。

    ーーー


    愉快そうに笑いながら屋敷の主人は立ち上がると、4人の顔を見比べるように眺めた。
    ついてきたまえ、とおそ松達に声を掛けると、徐に応接間の扉を開けて歩き出す。
    おそ松達は顔を見合わせ、しかしすぐに意を決して男の後を追った。

    廊下を進み、辿り着いたのは重厚な扉の前。
    使用人が鍵を開け、扉を押し開けた。
    ギ…と重たい音が響く。
    男に促されるまま中に足を踏み入れると、やけに甘ったるい香りが鼻をついた。

    窓はなく、天井から伸びるシャンデリアが部屋を明るく照らしている。
    高級ホテルのスイートルームのような装いの其処は、まるで生活感が感じられなかった。
    奥には天蓋付きの大きなベッドが存在感を放っている。
    レースカーテンで視界を遮られ、ベッドの中はよく見えなかったが、そこに人影を確認できた。
    それに最初に気付いたのは十四松だった。
    十四松がベッドに駆け寄り、勢いよくカーテンを開け放つ。
    その音に、他の兄弟も自然と視線がベッドへ向かった。
    開け放たれたカーテンの向こう側、ベッドの中には、
    はたしてまるで人形遊びのように着飾られたチョロ松と一松が静かに眠っていた。

    「チョロ松兄さん!一松兄さん!」
    「兄さん達…!本当にここに攫われてたんだ…!」
    「チョロ松、一松…!」
    「やっと見つけた…!!」

    眠る2人を起こそうとトド松がチョロ松を、十四松が一松をガクガクと揺さぶる。

    「兄さん!兄さん、起きて!」
    「兄さん!」

    末の2人が真ん中の2人を起こそうとしている中、おそ松はある事に気付いた。
    チョロ松と一松に枷が嵌められ、鎖で繋がれている。
    思わず呆然と呟いた。

    「おい…なんだよコレ。」

    手枷はチョロ松の左手と一松の右手を繋いでおり、
    足枷はベッドの足に繋がっていた。
    真ん中の2人が自由を奪われ、この部屋に監禁されていただろうことは、容易に想像できた。
    ふつふつと怒りが沸き上がりつつある中、チョロ松と一松が同時に身じろぎ、ゆっくりと瞼を持ち上げた。

    「チョロ松兄さん、一松兄さん!大丈夫?どこか痛くない?!」
    「チョロ松、一松!俺達が分かるか?もう大丈夫だからな!」
    「兄さん、兄さーーん!僕たち迎えに来たんだよ!帰ろ!」
    「チョロ松、一松!……おい、2人とも…どうしたんだよ?!
     なぁ…何か言えって!」

    チョロ松と一松が目を開けたことにより4人に一瞬ホッとした空気が生まれたが、それはすぐに霧散してしまった。
    2人とも目を覚ましたものの、焦点は定まっておらず、虚ろな瞳は虚空を映すばかりだった。
    耳元で必死に語りかける兄弟の声も届いていないのか
    どんなに大声を上げても、手を取ってみても、何の反応も帰ってこない。
    おそ松達の表情が、どんどん凍っていった。

    「…兄さん?」
    「………。」
    「チョロ松兄さん、一松兄さん…?
     ねぇ、どうしたの…?」
    「どうした?!返事してくれ!」
    「チョロ松、一松!
     …なぁ、折角お兄ちゃん達迎えに来てやったんだぞ?
     ガン無視はねーだろ?泣いちゃうよ?!」

    反応は無い。
    おそ松達の事はまるで視界に入っていないようだった。
    双子人形…。
    男の言葉を頭の中で反芻する。
    これでは本当に人形ではないか。
    ここでおそ松は1人納得してしまった。
    屋敷の主人がやけにあっさりとチョロ松と一松に会わせてくれたのは
    何か裏があるのかと勘繰り警戒していたのだが
    あの男にそういった考えはなく、単純におそ松達ではどうにもできないと践んでいたのだろう。
    枷はひどく頑丈で、鍵がなければ真ん中2人を解放する事はできそうにない。
    チョロ松と一松を「双子人形」などと言う頭のイカれたあの男は
    こいつらを手放す気など毛頭ないのだ。
    そして、おそ松達がどう足掻いても2人を連れ出すことはできないと高を括っている。

    (…ナメてくれやがって。)

    この屋敷のどこかに枷を外す鍵があるはず。
    もしくはあの男か、使用人の誰かが所持しているのだろう。
    そう推測したおそ松は薄ら寒い笑みを浮かべる屋敷の主人とその使用人達をみわたした。
    先程この部屋の扉を開けた使用人あたりだろうか。
    そうして思案を巡らせるおそ松の胸中を知ってか知らずか
    屋敷の主人が満足そうな笑みを浮かべて背後から近づいてきた。

    「私の双子人形は可愛いだろう?
     まぁ、まだこれは未完成作品なのだがね。
     完成の日もすぐそこだ。」

    男が笑う。
    人形の完成。
    その意味を理解したおそ松は、衝動のままその男を殴り飛ばした。
    チョロ松と一松に付いていたトド松が声を上げたが、構わずにそのまま殴り飛ばした男に近づいた。

    「おい…オッサン。
     てめぇ俺の弟達に何しやがった…?」

    おそ松は自分でもびっくりする程、胸中がスーッと冷めていくのを感じていた。
    殴られ、仰向けに倒れていた男の胸倉を掴み、
    そのまま馬乗りになって更にもう一発拳を叩き込んだ。

    「答えろよ…!
     チョロ松と一松に何しやがったんだよ…!!」

    一切の手加減なく叩き込まれた拳によって男は気絶してしまったようだ。
    白目を剥く男を見ておそ松は思わず舌打ちをした。
    部屋に武装した使用人が押し入ってきたが、そいつらはカラ松にあっさりとのされていた。
    武装は格好だけで、本当にただの使用人なのだろう。
    トド松に警察を呼んでもらうよう頼むと、おそ松は4人を最初に出迎え応接間へ案内した使用人に詰め寄った。
    再び使用人の顔が青ざめたが、知ったこっちゃない。

    「ヒ…!」
    「なぁ、お兄さん。
     あんたが知ってること教えてくんない?」
    「お、お、俺は、何も…!」
    「へーぇ?
     今俺の弟が警察呼んだよ?
     このオッサンの監禁の手伝いしてたなんてバレたらどうなるかなー?」
    「あ……。」
    「教えてくれたらさぁ〜
     警察の事情聴取で俺達お兄さんの事庇ってあげられるよ?」
    「……わ、わかっ…た…。」

    使用人達は主人への忠誠よりも己の保身を選んだ。
    さほどあの男に忠誠心は持ち合わせていなかったのか
    それとも人形遊びと称した監禁の手伝いをさせられていた事に
    後ろめたさがあったのかはおそ松達の知るところではないが。

    使用人の男から聞いた話だと、この屋敷の主人は元々男色家だったそうだ。
    若く、自分好みの少年や青年を拉致っては、人形のように着飾らせ愛でていた。
    拉致った青年達を抱いたりする事がなかったのは、
    屋敷の主人が不能だった為なのだが、その代わり主人はとんでもない性癖を持ってしまった。
    それが、人形遊び。
    催眠と洗脳を誘発する香を焚き続け、食事に無味無臭の薬を混ぜ、
    連れ去った青年を少しずつ、少しずつ内側から壊して、思考を奪い、身体の自由を奪い
    最終的には命すらも奪う。
    緩やかに緩やかに、当人も気付かないくらいゆっくりと。
    そうして「完全な人形」に仕上げていく事にこの上ない悦びを感じていたのだとか。
    悪趣味過ぎて反吐が出そうだ。
    そうして、命を奪われた人形は防腐処理が施され、永遠にその姿を留めたまま飾られる。
    そう…この屋敷の至る所に飾られた等身大の人形達。
    あれは異常性癖持ちの屋敷の主人に連れ去られ、人形遊びの道具とされ
    人形となってしまった成れの果てだったのだ。

    そして、チョロ松と一松もまた「完全な人形」になってしまう一歩手前だったのだろう。
    状況は決して良いとは言えないが、屋敷に飾られる人形達の仲間入りをしてしまう前に
    おそ松達がたどり着けたのは不幸中の幸いだったと言える。

    その後警察が到着し、4人は軽く事情聴取をされた後に解放された。
    チョロ松と一松は検査のため病院へ搬送される事になった。
    本当は早く家に連れ帰りたかったが、仕方ない。

    屋敷に飾られていた人形となってしまった青年達は
    前にトド松が話していた失踪した青年と一致していた。
    トド松の憶測通り、彼らも連れ去られていたらしい。
    その被害者は実に50人を超えていた。





    夜明けを待って、チョロ松と一松が搬送された病院へ向かった。
    兄弟だと説明すると(同じ顔だから説明するまでもなかったかもしれないが)
    担当医が出てきてすんなりと病室に通してもらえた。
    ドアには「面会謝絶」の札がかけられている。

    ドアの向こう、白い空間にチョロ松と一松は眠っていた。
    搬送される際に枷は外されたが、長く嵌められたままだったのか
    手首と足首には赤く跡が残っている。
    容体は決して良いとは言えないそうだ。
    生命力が著しく低下し、脳の働きもかなり落ちていると聞いた。

    「…兄さん達、大丈夫だよね?」
    「ああ…きっと大丈夫だ。
     今は、2人を信じるしかない。」
    「チョロ松兄さん…一松兄さん…。」
    「………。」

    眠り続ける2人を見て、ふと人形のようだと思ってしまって
    慌ててその考えを振り払った。
    冗談でもそんな事思ってはいけない。
    人形なんかじゃない。
    チョロ松も一松も人間だ。
    呼吸も、体温もちゃんとある。
    ちゃんと血の通った、人間なのだ。

    それから、おそ松達は交代で病院へチョロ松と一松の様子を見に行く事にした。
    2人は度々目を覚ます事もあるのだが、意識朦朧としていてほとんど会話が成立しない。
    当然自力で食事もできず、身体中を何本もの管で繋がれていた。
    鎖よりはずっとマシだが痛々しくてたまに見ていられなくなる。
    植物状態と言って差し支えない程だ。

    生きている。
    2人は生きているのだ。
    たとえ目を覚まさなくとも、言葉を交わすことが出来なくとも、
    その事実だけが、4人を支え続けている。

    今日も、チョロ松と一松は静かに眠り続けている。



    ーーー

    ー ある日の長男の独白

    静かにただひたすら眠り続け、たまに目を開けても意識朦朧としていて
    会話もできなくなったチョロ松と一松を見守り続けて、どのくらい経っただろうか。
    あの屋敷から助け出せた時は、2人を取り戻せた事にただただホッとしていたけど
    植物状態な2人を見続けるのは思っていた以上に辛い。
    カラ松も、十四松も、トド松もそろそろ疲れと諦めの色がチラつき始めている。
    もうチョロ松と一松は一生このままなんじゃないかって。
    誰もそんな事口には出さない、いや出せないけど…おそらく皆が薄々考え始めている。
    考えたくない。いつか2人がまた俺の事を見て、「おそ松兄さん」と呼んでくれる日が来ることを、信じていたいけど。
    信じ続ける事に疲弊してしまう程度には、月日が経ってしまったのだ。
    今日も病室で寝顔を眺めて1日が終わる。

    チョロ松の白い頬をそっと撫でると、陶磁器を思わせる肌触りだった。
    その頬に今度は顔を寄せて唇を押し当ててみた。
    いつもだったら「何しやがんだクソ長男!」って怒号混じりのツッコミが飛んでくるところだ。
    でも今は何も返ってこない。
    何も伝わらない。
    何も、伝えることができない。
    頼むよ、俺ホントチョロ松がいないと割とマジでダメっぽい。
    …いつまで続くのかわからない日々を過ごすのがこんなにも辛いとは思わなかった。

    俺、兄ちゃんなのにな。
    ちゃんと助けてやれなくて、ごめんな。


    ー ある日の次男の独白

    兄弟で交代制でチョロ松と一松の傍にいる事を決めたあの日から、
    何回目かも分からない俺の番が回ってきた。
    何度この部屋を訪れただろう。
    今日も眠り続けるチョロ松と一松の周りだけ、時間が止まってしまったかのようだった。
    2人を眺めながら、いつも思う。
    もう少し早く見つけてやっていれば、
    2人で買い物に出掛けた日に、探してやっていれば、
    そもそも、買い物に俺も付いていけばよかったのかもしれない。
    どれもこれも、今更考えたって無意味なのは解っているが、
    チョロ松と一松が屋敷に監禁されていた間、俺達は平然といつもと変わりない日常を過ごしていたのかと思うと
    どうしてもあの時ああしてれば、と考えてしまうのだ。
    仮に俺も一緒に付いて行ったとして、2人が誘拐される事なく無事に帰ってくる確証などないのだが。
    頭に浮かぶのは後悔と謝罪の言葉ばかりだ。
    俺にはもう「信じてる」なんて言う資格すらないのかもしれない。
    けど、言わせてほしい。
    再び、6人揃って笑い合える日が来るのを、俺は信じてる。

    眠る一松の髪をそっと撫でた。
    柔らかな猫っ毛が、指の間をすり抜けていく。
    前髪を撫ぜると、普段は隠された一松の額と短めの眉が顔を出した。
    吸い寄せられるように、その額にそっと口付けた。
    こんな事したのがバレたら一発殴られるどころじゃ済まないだろうな。
    それこそ、いつかのように石臼をぶん投げられるかもしれない。
    ああ、でも。
    それで目を覚ましてくれるなら、石臼くらい受け入れようじゃないか。
    何だったら俺は一松のその唇に躊躇うことなく自身の唇を重ねてやれる自信がある。

    だって、眠れる姫を起こすのは王子様のキスなんだろう?
    いや、みすみす愛する兄弟を危険に晒した俺は王子などではないし、
    仮に一松の唇を奪ったとて、目を覚ましてはくれないだろう。
    一体何を馬鹿な事を。

    すまない、こんな兄を許してくれ。


    ー ある日の五男の独白

    チョロ松兄さんと一松兄さんが帰ってきてくれたのは嬉しいけど、
    手放しに喜ぶことはできない状況だった。
    あの大きな屋敷で人形にされていたチョロ松兄さんと一松兄さんは、
    頭も体も自由を奪われていて、命すら失う寸前だった。
    まだそこから回復せずに今も眠っている。
    それでも僕は、眠る兄さん達に今日も取り留めのない事をたくさん話した。
    そしたら、いつか目を覚ましてくれるんじゃないかって思ったから。
    野球の事はもちろん、おそ松兄さんがパチンコに行かなくなったとか、
    カラ松兄さんが橋へ出掛けなくなったとか
    トド松が夜中に僕にトイレに付いてくるの頼むようになったとか。
    それはもう思い付く限りの事を時間の許す限り、いろいろと。
    でも、2人の容態はなかなか改善しなくて…。
    おそ松兄さんは病院から帰るとベランダで煙草をふかして物思いにふけるようになった。
    前に盗み見た時は、煙を吐き出しながら泣くのを堪えるように空を見上げていた。
    カラ松兄さんは病院から帰ると部屋でボーっとするようになった。
    部屋の隅、いつも一松兄さんがいた場所に何度も何度も視線を向けていた。

    病院の先生は、回復には時間が掛かる、もしかしたら一生このままかもしれない。と言っていた。
    一生このまま?
    それは嫌だ。
    僕は、またチョロ松兄さんと一松兄さんの声が聞きたい。
    また話がしたい。一緒に野球もしたい。

    神様なんて、普段は別段信じたりしてないけど、いるならお願い。
    チョロ松兄さんと一松兄さんが失ってしまった分、僕のを分けてあげるから。
    僕が持ってる分をあげられるだけ分けてあげるから。
    だから、兄さん達を助けて。


    ー ある日の末弟の独白

    今日は僕が病院に行く番だ。
    この順番が回ってくるのは一体何度目なのか、もう数え切れない程の月日は経ったはずだ。
    チョロ松兄さんと一松兄さんは、相変わらず眠っていた。
    2人の寝顔はなんだかとても綺麗なものに見える。
    綺麗な顔して寝ちゃってさ、僕達が今どんな思いでいると思っているのか。
    …正直、僕は病室に来るのが辛かった。
    おそ松兄さんがベランダでボンヤリと煙草を吸ってるのを見る度に
    カラ松兄さんが部屋の隅へ視線を巡らせては微かにその顔が悲しげに歪むのを見る度に
    十四松兄さんが「今日も眠ってた。でもたくさん話しかけてきたよ。」と泣きそうな笑顔で言うのを見る度に
    僕は絶望感と共に病室に足を踏み入れるハメになるのだ。
    今日もやっぱりダメだったんだ、と。
    病室にいると、何をしたらいいのかわからない。
    僕はおそ松兄さんのようにチョロ松兄さんに優しく触れる勇気も
    カラ松兄さんのように一松兄さんの髪を撫でる勇気も
    十四松兄さんのようにひたすら2人に話しかけ続ける勇気も持ち合わせていなかった。
    つまりは、僕はチョロ松兄さんと一松兄さんの悲惨な現状を受け入れたくなくて逃げているのだ。
    このままじゃダメだってわかってるのに。
    そう、このままじゃダメなんだ。
    でもどうしよう、僕にはどうしても勇気がない。
    眠る兄さん達を直視するのが怖い。
    けど僕だって兄さん達には触れたい。

    …そうだ、いっそのこと目を瞑って触ってみようか。
    一体それに何の意味があるのかは自分でもよく分からないけれど。
    何もせずに眺めているだけよりかは、何か意味があるはずだ。
    そうと決まれば、臆病な心が顔を出す前に実行だ。
    ひとまず、チョロ松兄さんのベッド脇に置かれたパイプ椅子に腰掛け、
    細い手を確認すると、それを恐る恐る掴んでギュッと目を閉じた。
    それに呼応するようにチョロ松兄さんの手を握った僕の手にも力がこもった。

    僕、もう逃げたくないよ。
    ううん、逃げないから。
    だから兄さん達も戻ってきて。

    ーーー

    トド松がキツく目を瞑りながらチョロ松の手を握り締めて、さほど時間は経っていない。
    相変わらずトド松は肩を縮こまらせ、目を瞑っていたが

    「ぅ…」

    小さな呻き声が聞こえて、ハッと目を開けた。
    反射的にチョロ松の顔を見ると、その瞳は薄らと開いていた。

    「…チョロ松兄さん?」
    「…ぃ、…たい…。」

    「チョロ松兄さん?!」

    ほとんど掠れていて声になっていなかったが、それでもトド松にはハッキリと理解出来た。
    言葉を発した。
    チョロ松が、あの日から初めて声を出した。
    トド松があまりにも強く、加減を知らずに手を握った事に反応したのだろうか。
    気付けば再びチョロ松は瞼を下ろして眠ってしまっていたが、これまでの事を考えると大きな前進だ。

    トド松は大きく深呼吸すると、震える手で兄達へ連絡を入れた。

    ーーー


    トド松から連絡を受け、いてもたってもいられなかった俺はカラ松と十四松と共に雪崩込むようにして病室に押し入った。
    話に聞いたチョロ松の反応は微かなものだが、それでも今までの様子から比べたら大きな変化だ。
    それこそ、俺達に「もう一度目覚めてくれるかもしれない」と淡い期待を持たせる程には。
    部屋に入るとトド松の呆れたような視線が降り注ぐ。

    「ちょっと…気持ちはわかるけどここ病院なんだからね?」
    「ごめんって!」
    「すまん…どうにも気が急いてな。」
    「めっちゃ走った!」
    「なぁ、トド松。チョロ松が喋ったって…。」
    「うん。僕が、結構強めに手を握ったら、
     少しだけ目を開けて「痛い」って言ったんだ。
     またすぐに寝ちゃったけど…。」
    「十分だ!今まではそんな反応すらもなかったんだからな!」

    カラ松も十四松も、トド松もどこか嬉しそうだ。
    もちろん俺も嬉しい。
    少しでも希望が見えたのだ。
    真ん中2人には何が何でも頑張ってもらいたいところだ。
    いつもより幾分明るい雰囲気の病室で、十四松が元気よく挙手しながら口を開いた。

    「ねぇねぇ!!じゃあ一松兄さんの手もギューってしたら何か反応してくれるかな?!」
    「そうだね…そういえば一松兄さんにはやってなかったな。」
    「んじゃ、やってみようぜ!」
    「よし、なら俺が…」
    「待てカラ松。お前はダメだ。」
    「え?!何故だ!」
    「お前自分が怪力だって事わかってるか?
     一松の手を粉砕する気か。」
    「確かに、カラ松兄さんが力込めて握ったりなんかしたら骨折しかねないよね。」
    「怪我させるのダメ!スリーアウト!チェーンジッ!!」
    「ううっ…!」
    「って事でお兄ちゃんがやってみるな。」

    そう言って落ち込むカラ松を横目に一松のベッドの脇に立った。
    手を握り、そして力を込める。
    …まだ反応は無い。
    跡が残らない程度に、もう少しだけ強く握ってみる。
    …すると、一松の眉間に微かに皺が寄り

    「おわっ!」
    「動いた!一松兄さん自分で手を動かしたッスね!!」
    「眠っててもおそ松兄さんがウザイのわかったのかなぁ?」
    「おいこらトド松!お兄ちゃん割とショック受けてるから!!」

    そう、人形のようだった一松の手が動いたのだ。
    不機嫌そうに、バシッと俺の手を振り払うようにして。
    というか、これは絶対振り払っただろう。
    反応があったのは喜ばしいのだが少しばかり複雑だ。
    兎に角、チョロ松も一松も少しではあるが確かに回復に向かっているということだ。
    いつか、しっかりとその目で俺達を見返してくれる日も来るはずだ。

    ーーー

    チョロ松と一松が少しの反応を見せてくれた日から、1週間が経った。
    わかり易く反応してくれたのはあの日だけで、2人は相変わらずの沈黙を保っている。
    1週間前に声を上げたり、手を動かしたりしたのは気のせいだったんじゃないかって思えるくらいだ。
    昨日もおそ松がチョロ松の手を握ってみたらしいが、反応してくれなかったと困ったように笑っていた。
    おそ松らしくない笑い方だったが、俺は何も言うことが出来なかった。

    どうして2人とも何も返してくれなくなったんだ?
    俺達があまりにしつこいからか?
    …………そうか、しつこかったからか。
    そうだな、そうに違いない。
    チョロ松と一松は兄弟の中でも特出して素直になれない性格だ。
    素直に俺達に返事をする事ができないのだろう。
    ひょっとしたら「いい加減にしやがれ」とそっぽを向いてしまっているのかもしれない。
    …ならば、こちらを無理矢理にでも向かせるまでだ。
    さてどうしたものか。
    生憎と俺はおそ松によって手を握るのは禁止令が出ている。
    手を握る事はできない。
    かと言って、延々と話し掛け続けるのも、チョロ松と一松はすっかり慣れてしまって良い反応は無いだろう。
    怪我をさせることなく、何か身体に慣れない衝撃を与える方法はないだろうか。

    (…………。)

    しばらく考え込んで、俺は一つの方法を思い付いた。
    早速それを実行すべく、一松の傍に寄る。
    白い頬に手を添えると滑らかな感触が手を擽った。
    眠り続けているせいだろう、少し痩せたな。
    前は、一松の頬はもっともっちりしていた気がする。
    そんな事を考えつつも、俺は眠る一松に顔を近付けて
    一松の唇に自身の唇を重ねた。
    無理矢理口をこじ開け、舌をねじ込み、
    文字通り貪るように、意図的に激しくイヤらしく、呼吸を奪うように。
    一松の口内はちゃんと体温があった。
    噛み付くように唇を重ねているうちに、僅かながら頬が上気し息が荒くなってきたのがわかった。

    「んっ…ふ……」

    一松から掠れたような声が漏れ出たが、構わず口内を蹂躙し続けた。
    真っ白なシーツにどちらのものかわからない唾液が染みを作っている。
    段々と口内が熱を帯びてきた。
    その事に興奮して頬に添えていた手を離し、顎を掴んだ。
    その、瞬間

    「~~~い゛っ!!」

    頬に走った強烈な痛みに、思わずガバリと勢いよく上体を起こした。
    次いで、誰かにグッと腕を強く掴まれる感触。

    「えっ…な……い、一松?!」
    「…………。」
    「一松、俺が解るか?!」

    「く…そま、つ……」

    ベッドを見下ろせば、瞳を潤ませ、頬を紅く染め、
    肩で息をしながら胸を上下させる一松の姿があった。
    その目は確かにハッキリと俺を視界に捉えている。
    一松の右手は俺の腕をしっかりと掴み、更に掠れた小さな小さな声だったが、確かに俺を呼んだ。
    本当は本名で呼んで欲しかったが贅沢は言うまい。
    左頬にヒリヒリと痛みが走る。
    俺の腕を掴む手とは反対側の手を見て、一松に引っ掻かれたのだとようやく頭が理解した。

    「一松、気が付いたんだな!
     よかった…本当によかった…!!」
    「く、そ松…てめ…ゼェ、ゼェ…おれ、に…ゼェ、ハァ…何、しやがっ……。」
    「すっすまない!
     ついつい夢中になってな!」
    「しね!!……ゼェ、ゼェ…」

    ディープキスは眠り続けていた一松には結構な身体の負担だったようだ。
    そこは反省した。
    嗚呼、でもお姫様は本当に王子のキスで目が覚めるんだな!
    容赦なく引っ掻かれたが、子猫に噛みつかれたようなものだと思おう。
    御伽噺は決してファンタジーではないのだ。
    …そうだ、チョロ松も同じようにおそ松が起こしてやればいいのではないか?

    しばらくしてなんとか息を整えたらしい一松が、唐突に俺に話しかけてきた。

    「チョロ松兄さんは?」
    「ん?」
    「チョロ松兄さん、どこ?」
    「ああ、隣のベッドにいるぞ。」
    「……!!
     チョロ松兄さ…」
    「ま、待て一松!
     お前もまだ身体が万全じゃないだろう、急に動くな!」

    一松は隣のベッドに眠るチョロ松の姿を確認すると、身体を起こそうとした。
    が、やはりまだ上手く身体が動かせないのだろう
    バランスを崩し、危うくベッドから転倒するところだった。

    「一松、お前がこうして目覚めたんだ。
     チョロ松もきっとすぐに気が付く。」
    「連れてけ。」
    「…はい?」
    「だから、俺をチョロ松兄さんのとこまで、連れてけ。」
    「え…何故?」
    「はやくしろ」
    「あ、はい。」

    自分で歩く事は早々に諦めたらしい一松に言われるがまま、点滴の管に気を付けながら一松を抱き上げ
    チョロ松のベッドまで連れて行った。
    一松は眠るチョロ松の顔をしばらくまじまじと眺めていたが、やがてチョロ松の額に手をそっと置いた。
    そして、チョロ松の耳元でそっと囁いた。

    「兄さん、チョロ松兄さん…。」


    「……一松…?」
    「おはよ、チョロ松兄さん。」
    「ん、おはよう一松。……ここは?」
    「あ、そういえば。
     おいクソ松、どこだここ。」
    「び、病院だが…ちょっと待ってくれ、
     色々整理させてくれないか。」

    まさかの光景だった。
    一松が囁いたたったの一言。
    それで、チョロ松も目を覚ましたのだ。

    ーーー

    「あらまーマジでお目覚めじゃん!
     チョロ松も一松も元気かー?」
    「全然元気じゃない。」
    「僕も最悪だよ…身体が思うように動かないし。」
    「何ヶ月もあんな調子だったんだ。無理もないさ。」
    「チョロ松兄さん!一松兄さん!
     おはようございマッスル!!」
    「うん、おはよう十四松。」
    「ほんとよかったよ…もう!心配したんだからねっ!
     今度何か奢ってくれなきゃ許さないんだから!!」
    「トド松もごめん。心配かけたね。」

    カラ松兄さんから連絡を受けて、僕達は1週間前と同じように慌てて病院に駆けつけた。
    病室には、横にはなっているものの、しっかりと目を開けて僕らを見るチョロ松兄さんと一松兄さんがいた。
    ついついあんな事言っちゃったけど、別に奢ってくれなくたって許してあげるよ。
    だってこうしてまた兄さん達と会話ができたんだもん。
    ちゃんと僕の名前を呼んでくれた。
    もうそれで十分だ。
    あ、奢ってくれるならそこは喜んで奢られるけどね。

    話を聞くと、まずカラ松兄さんが一松兄さんの意識を浮上させる事に成功し
    一松兄さんがチョロ松兄さんを起こした、という事らしい。
    カラ松兄さん曰く、一言ボソッと呟いただけなのにチョロ松兄さんがあっさりと目を覚ましたのだそうだ。
    何それ。
    僕らの苦労は一体何だったの。

    「ところでカラ松は一体どうやって一松を起こしたんだ?」
    「ああ、それはn「喋ったら殺すぞクソ松」…えっ。」
    「なんスかなんスか?!」
    「なになに~?
     つまり一松にとっては恥ずかしい起こされ方だったって事かな~??」

    説明しようとしたカラ松兄さんを一松兄さんが遮った。
    身体が動かせないせいで殴ったりはされなかったけど、物凄い殺意を向けられている。
    の、割に一松兄さんの顔は僅かに赤くなっているもんだから、僕はなんとなく想像がついてしまった。

    「それよりも、なんでチョロ松兄さんは
     一松兄さんの小さな声で目が覚めたの?
     今まで僕ら散々兄さん達に話しかけたり
     触ったりしても何の反応も返ってこなかったのに。」
    「うーん…それが自分でもよく分からないんだよね。」
    「…………暗示だと思う。」
    「え、一松?」
    「あの屋敷にいた間も…チョロ松兄さん、
     俺が声を掛けるとすぐに正気に戻ってたから。」
    「そうなの?!」
    「あー…言われてみればそんな気がするなぁ。
     僕が完全に正気を失っちゃったのって、
     一松の声が聞こえなくなってからだろうし。」
    「じゃあ、一松兄さんの声で元に戻るように、
     無意識のうちに自分で自分に暗示をかけてたってこと?」
    「そうなるのかな…?」

    兄さん達が囚われていたあの屋敷。
    今は解体処分されたらしい其処はさながら檻の中だった。
    悪趣味な男にすべてを奪われそうになる中、チョロ松兄さんも一松兄さんも互いが互いの拠り所だったのだと思う。
    特にチョロ松兄さんは兄の立場だったから、弟である一松兄さんを守るために
    一松兄さんの声には敏感に反応出来るようになったのだろう。
    当然、一松兄さんが眠ってしまうと、もう声も聞けなくなる。
    つまり気を張り続ける事が出来ていた、守るべき相手がいなくなってしまった事で
    チョロ松兄さんも眠りに堕ちてしまったのだ。
    そう考えると、チョロ松兄さんと一松兄さんの間に看過できない共依存関係が出来上がってしまったように思うのだけど
    そこはまぁ、上2人に任せるとしよう。
    ひとまず、今は真ん中の兄さん達の目覚めを喜ぶのが先だ。


    チョロ松兄さんも一松兄さんも、完全に意識を取り戻したことで衰弱していた身体も回復して行った。
    意識が戻った日の病院からの帰り道、カラ松兄さんにもう一度一松兄さんを起こした方法を聞いてみたら、

    「眠り姫を起こすには王子の情熱的なキッスだと相場が決まっているだろう?アンダースタン?」

    …と、概ね予想通りの回答が返ってきた。
    イッタイ言い回しまで予想の範囲内ってどういう事なの。
    もう少し突っ込んで聞いてみると、どうやら王子様の優しい目覚めのキスだなんて生優しいものではなく、
    超濃厚なディープキスをかましたらしい。
    一松兄さんのあの反応も納得だ。
    横で「えー、俺もチョロ松にやればよかった!」とか言ってる長男は無視しておいた。


    ーーー


    暗い、暗い海の底に沈んだみたいだった。
    無理矢理沈められた身体はちっとも言う事を聞かなくて、だんだん意識も薄れていった。
    このままゆっくりと死んでいくんだろう。
    そう思ってた。
    もう少しで深海の闇に完全に沈んでしまう。
    けど僕の身体はその寸でのところでピタリと止まって、今度は少しずつ少しずつ浮上し始めた。
    少しずつ、声が聞こえ始めた。
    少しずつ、誰かに撫でられる感覚を感じ始めた。
    少しずつ、身体の自由がきいてきた。

    あと少し、あと少しで水面に顔を出せそうだ。
    必死にもがいて上に上がろうとしていた僕の身体が、ある日突然フワッと急浮上して
    気付けば僕は2つ上の兄にディープキスをされていた。
    戻ってこれたのは感謝してるけど、感謝はしてるんだけど…
    とりあえず、思い切り殴れないのが残念でならなかった。


    ーーー


    真っ暗な海の底へと沈んでいく1つ下の弟を必死で追いかけた。
    追いかければ僕だってもう引き返すことはできないのはわかってたけど、
    独りにしたくなくて。独りになりたくなくて。
    弟がまた僕を呼んでさえくれれば、一緒に浮上する事ができるはずだと。
    その時はそう信じてた。
    けど、辺りはどんどん暗くなって、いつの間にか僕は見失ってしまったのだ。
    光の届かない深海で、弟を探して、必死にもがいた。
    上を目指せば少しずつ、声が聞こえ始めた。
    少しずつ、誰かの手の感触を感じ始めた。
    少しずつ、声を出せるようになってきた。

    そんな中、ずっと探していた1つ下の弟の声がしたから
    僕は慌てて水面に顔を出したのだ。


    ーーー



    水底から無事に戻ってこれた僕らを出迎えたのは、兄弟達の涙と怒号と笑顔だった。

    両親と共に家に帰ってきた僕らは、家の前でぼんやりとその昭和テイストな古い家屋を見上げていた。
    久々の我が家だ。
    懐かしい。

    母親に促されて扉を開けると、4つの色が視界に飛び込んできた。
    赤、青、黄、桃 ー…

    「「「「おかえり!!」」」」
    「「ただいま。」」

    永く欠けていた緑と紫が戻り
    この家にようやく6つの色が揃った。


    (happy end!!)


    ーーー


    以下はIF分岐の死ネタルートです。
    ハピエンのまま終わりたい方はここでバックをお願いします。
















    優雅に、且つ愉快そうに笑いながら男性は立ち上がると、
    殺気を隠そうともせずに己を睨みつける客人の顔を見比べるように順番に眺めた。
    あっさりと会わせてくれると言い放った男によりおそ松達が一層の不信感を募らせる。

    「ちょうど今日の夕刻に大広間に飾ったところなのだよ。」
    「は?何言って…」
    「非常に素晴らしい出来だ。
     君たちもきっと気に入るだろう。」

    おそ松の声を遮って、尚も屋敷の主人は上機嫌な様子で言葉を続ける。
    男はついてきたまえ、とおそ松達に声を掛けると、応接間の扉を開けて歩き出した。
    おそ松は一瞬迷った様子を見せたものの、すぐに意を決し弟達に目配せして男の後に続いた。

    長い廊下を進み、大広間に足を踏み入れると、
    正面には2人掛けのゴテゴテとした装飾の煌びやかな椅子が置かれていた。
    そして、その椅子には

    「なんだよ、これ…」
    「……っ!!」
    「ぁ……」
    「チョロ松!一松!」

    おそ松が呆然と呟き、
    十四松が息を呑み、
    トド松が声を失い、
    カラ松が叫ぶように2人の名前を呼んだ。
    椅子に座していたのは、紛れもなく彼らが探し続けていたチョロ松と一松だった。

    正しくは
    かつて、チョロ松と一松だったもの、だ。

    人形遊びのような綺麗な服を身にまとった2人は固く目を閉じたまま、
    見事なシンメトリーを描いて寄り添うように静かに椅子に座らされていた。
    まるで人形のよう…いや、正しく人形だった。
    血の気を完全に失った白い肌や目元を縁取る長い睫毛が妖しくも退廃的な雰囲気を醸し出している。
    「人形」に成り果てた三男と四男の姿に打ちひしがれる兄弟の背後では屋敷の主人が満足そうな笑みを浮かべていた。
    屋敷の主人の新たな人形の仲間入りを果たしてしまったチョロ松と一松の元に兄弟が駆け寄る。
    十四松が一松を強く抱き締め、トド松がチョロ松の手を両手で握り締めた。
    おそ松とカラ松はその様子を固唾を飲んで見守った。

    4人はまだ心のどこかで希望を捨て切れずにいたのだ。
    自分達が呼びかければ目を覚ましてくれるのではないか、と。
    しかし、沈黙を貫く真ん中2人に触れた末2人は青ざめ、その顔を盛大に歪めた。

    「チョロ松兄さん、一松兄さん!ねぇ!僕達迎えに来てあげたんだよ?!
     ほら…早く、早く起きて?起きて帰ろう?
     ねえ、お願いだから…!
     お願い…起きて、起きてよぉ…っ」
    「な、んで…なんで、なんでチョロ松兄さんも一松兄さんもこんなに冷たいの?!
     僕知ってるよ!2人ともギューってするとすごく温かいんだよ!
     なのに、なんで?!
     なんで、冷たいの…なんで、息、してない、の…
     なんでなんで?!
     なんで、チョロ松兄さんも…一松兄さんも…心臓の音が、聞こえてこないの…
     兄さん…ヤダよ…!」
    「う、うぅ…うああぁっ…兄さん、兄さあああん!!」

    十四松とトド松の様子から、最悪の事態であることは明白だった。
    末の2人はチョロ松と一松に縋り付いて大声を上げて泣いている。
    その様子におそ松は思わず顔を顰めて手が白くなるくらい拳を握り締め
    カラ松はただただ弟達を感情の抜け切った無表情で呆然と見つめていた。

    「おや、お気に召さなかったかね?」
    「てめぇ…ふざけんなよ!
     チョロ松と一松に…俺の弟達に何しやがった?!」
    「先程から申しているでしょう?
     彼らは双子人形だと。
     実に素晴らしい素材だったよ。
     丈夫でありながら儚さも持ち合わせて…
     ゆっくりゆっくり人形に仕立て上げていくのは実に心躍るものだった。
     時間を掛けて、完璧な人形になったのだよ。
     永遠に美しいままの…っぐ!」

    男が長々と演説のように何か語り出したが、言い終わる前にそれはカラ松の拳によって遮られた。
    無言でゴキリ、と腕を鳴らしたカラ松は、いっそ恐ろしい程の無表情だ。
    カラ松に殴られ、床に仰向けに倒れ伏した男の胸倉を今度はおそ松が掴みあげた。
    紳士然としたその顔に渾身の一発を叩き込む。

    「なあ…こいつらはさ、俺の大事なだーいじな弟達だったワケ。
     人形なんかじゃない、れっきとした人間だったワケ。
     そりゃあ俺達揃いも揃ってクズだしニートだし童貞だけどさぁ?
     それでも人として生きる権利はあったはずなんだよね。」
    「……私にとっては、人形だよ。」
    「ふざけるな!!
     …返せよ…チョロ松と一松を返せ!
     あ、あ…あああああああ!!!」
    「カラ松!バカ抑えろ!!」
    「何故止めるんだおそ松…!こいつのっ!こいつのせいで!」
    「カラ松!」

    男の言葉に激昂したカラ松が一切の容赦なく男を殴り飛ばした。
    おそ松が慌ててカラ松を押さえ込む。
    普段は温厚で沸点が異様に高いカラ松が怒りを顕にするのは、大抵が兄弟が傷付けられた時だ。
    今、目の前には悪趣味な男によって理不尽に「人形」にされ事切れてしまった弟がいる。
    片方は、普段から何でも相談できてしまえそうな、
    それこそ六つ子の中でも特段シンパシーを感じていた優しげな緑の似合う弟。
    片方は、誰よりも寂しがり屋なクセして甘えるのが下手くそで、
    まるで自分から逃げるようにキツく当り散らし暴力を振るう姿さえ可愛く見えて、
    知らずの内に特別な感情を抱いていた紫の似合う弟。
    この場でカラ松の怒りが振り切れてしまうのは必然だった。

    おそ松とてメチャクチャに殴って蹴ってそれこそ殺す勢いで暴力を奮ってやりたかった。
    が、これはチンピラ相手の喧嘩とはわけが違う。
    これ以上こちらが手を出せば面倒なことになる。
    おそ松はそう言い聞かせながらカラ松を必死に押さえ込んだ。
    カラ松の表情は怒りと悲しみと絶望で塗り固められ、その目からはとめどなく涙が溢れている。
    だがその表情とは裏腹に男に向かってとてつもない殺気が放たれていた。


    その後、トド松が呼んだ警察に男は引き渡された。
    おそ松とカラ松が思い切り男を殴った点に関しては、トド松が上手いこと口添えしてくれて
    厳重注意のみのお咎め無しにしてもらえた。
    どう見てもこちらは遺族で被害者なのだ。
    情状酌量を与えてくれたのだろう。

    この屋敷にも捜査の手が入り、至るところに飾られていた等身大の人形達も
    トド松が話していた失踪者達だったことが判明した。
    チョロ松や一松と同様に突然攫われ、男に人形にされてしまったようだ。
    最も古いもので死後半年以上経っている人形もあったが、
    一体どんな技術なのか何かしらの防腐処理を施され、腐敗は見られなかったらしい。
    当然、逮捕された男は重罪に問われることになるだろう。
    おそ松達からすれば、もちろん然るべき処罰は受けて欲しいが、
    それでチョロ松と一松が戻ってくるわけではない。
    自分達の手で制裁を下せないのが、酷く歯痒く悔しかった。

    検察の検証とやらを終えたチョロ松と一松が無言の帰宅をしたのは
    おそ松達が屋敷に乗り込んだ翌々日のことだった。
    父も母も泣き崩れていた。
    残された兄弟も、皆涙を流した。


    ふとおそ松が目を開けると部屋の中は薄暗かった。
    時刻を確認すると午後6時を過ぎた頃だった。
    2階の子供部屋で、どうやら泣きじゃくる末2人を抱き締めながら一緒になっていつの間にか眠ってしまったらしい。
    おそ松の傍らには目元を赤くしながら眠る十四松とトド松の姿があった。
    2人に毛布を掛け直してやったところで、カラ松の姿がないことに気付く。
    眠る末2人を起こさないようにそっと部屋を抜け出し、階段を降りて居間に向かった。
    両親は寝室に籠ってしまっいるようだ。
    居間の襖を開くと、棺に入れられたチョロ松と一松の元に座り込む青色の背中を見つけた。
    カラ松は先程の十四松とトド松と同様に目元を赤く腫らし、静かに一松の髪を撫でていた。
    しばらくの間、ひたすら髪を撫で続けていたカラ松だったが、ふと手を止めると
    今度は一松の頬に手を添え、顔を近づけたかと思うと、眠る一松に口付けた。
    まるで命を吹き込むように、祈りを込めるように。
    当然、一松は目覚めてはくれない。
    その様子に、おそ松は何も言えなかった。
    やがてカラ松は顔を上げ、居間の入口で立ちすくむおそ松と目が合うと、
    眉尻を下げ自嘲気味に笑みを浮かべると
    何も言わずにおそ松の横を通り過ぎ、階段を上がって行った。

    部屋には、おそ松と何も言わずに眠るチョロ松と一松だけが残された。
    おそ松はそっと棺に近寄ると、カラ松が座っていた場所とは反対側に腰を下ろした。
    眠る2人を覗き込む。
    陳腐な言葉だが、本当にただの人形のようだ。
    死んでいるのに、なんでこんなに綺麗に見えるんだろう。
    手を伸ばし、チョロ松の頬に手を添える。
    滑らかで、冷たい。

    カラ松の真似事ではないけれど、
    別にお伽噺の王子様のキスなんてのを信じてるわけでもないのだけど…
    そう、別れの挨拶とでも言おうか。
    明日には2人とも骨だけになって埋葬されてしまう。
    触れ合えるのは今だけだ。
    頬に手を添えたまま、そっと口付けてみた。

    触れた唇も、泣きたいくらい冷たかった。

    (bad end...)
    #BL松 #カラ一 #おそチョロ #監禁 #年中松 #死ネタ

    !ATTENTION!
    この話は以下の要素を含みます。
    一つでも嫌悪感を感じるものがございましたら早急にブラウザバックをお願いいたします。

    1.おそチョロ、カラ一前提(くっついてない)の上での、一チョロ一です
    2.変態なモブのオッサンが出張ります
    3.拉致、監禁要素があります(被害者:年中松)
    4.異常性癖の表現があります(被害者:年中松)
    5.本編はハッピーエンドで終わります。…が、最後にif分岐として死ネタルートをオマケとして置いてます。


    OKな方はお進みください。


    ーーー

    猫達の協力を得て、チョロ松と一松が何者かに攫われたらしいことは判明したが
    そこから居場所を探し出すのは難航していた。
    2人は黒い車に押し込められて何処かへ連れていかれたらしいのだが
    黒い車など日本全国山ほど走っているし、
    目撃した猫は当然車のナンバーなど覚えているはずもない。
    それに2人を乗せた車が県外へ走り去ってしまったのなら
    猫のネットワークでは限界がある。
    エスパーニャンコはすでに2つ目の薬を飲んでもらっている。
    その効力も明日で切れてしまう。
    残った薬は後1つ。
    デカパン博士からはまだ連絡がないし、猫達に協力してもらえるのは後1週間だろう。

    その日の夜、就寝前にトド松が気になる話を聞いた、と俺たちを真剣な眼差しで見据えながら言ってきた。
    目撃情報や手がかりとは直接関係のない話だけど、と前置きしてからトド松は口を開いた。

    「ここ1年、東京で青年の失踪事件が異様に多発しているらしいんだ。」
    「失踪事件?」
    「うん。その失踪者がね、全員10代〜20代半ばの男性なんだって。」
    「チョロ松と一松もその失踪者の条件に当て嵌まるな。」
    「でもあいつらは誘拐だろ?」
    「そうだけどさ…例えばだよ?
     例えば…その失踪した人達も、兄さん達と同様に誘拐されたんだとしたら?」
    「…どういう事だ?」
    「チョロ松兄さんと一松兄さん以外にも、攫われた人がいるかもってコトかな?!」
    「あくまでも憶測の域だけど…
     でも無関係とも言い切れないと思わない?」
    「確かに、トド松の言うことも一理あるかなー…。
     なぁ、その失踪者ってまだ誰も発見されてねーの?」
    「うん。全員行方不明。…兄さん達も含めて、ね。」

    直接関係のある話ではなかったが、確かに気になる話だ。
    トド松は、念のため失踪した男性達のことも少し調べてみると言って
    さっさと布団に潜り込んでしまった。
    おそ松が電気を消す。
    4人だけの布団の中は温まるのに時間を要するせいか少し寒い。
    隣にいるはずの一松の体温が感じられないのがひどく寂しかった。
    チョロ松と一松が姿を消してから既に1ヶ月半程が経とうとしている。
    2人がいなくなってから、トド松が夜中にこっそりすすり泣いているのを、
    十四松が路地裏で1人涙を流しているのを、
    そして、おそ松が時折緑色のパーカーを目を腫らしてボンヤリ見つめているのを知っている。
    そういう俺も、ふとした拍子に部屋の隅…一松の定位置に目を向けてしまい、
    何も無い空間を見ては情けないことに泣きそうになるのを必死で堪えていた。
    真ん中2人が抜けた穴は想像以上に大きくて、俺も含めた兄弟の落ち込みようはひどいものだった。
    なんだかんだで俺もおそ松も真ん中組を甘やかすのは好きだし、
    末2人も真ん中組に甘えるのが大好きだ。
    もう見つからないのかもしれない、
    そんな思いが一瞬脳裏を過ぎったが、すぐ様頭をブンブン振って思い直す。
    俺はまだ諦めない。
    諦めるわけにはいかない。
    もちろん他の兄弟達だってその思いは同じだ。
    明日はもう少し遠くへ足を伸ばして探してみようか。
    その前にエスパーニャンコに薬をもう一度飲んでもらって、
    あとは協力してくれている一松キャット達にお礼の猫缶を持って行ってやらなければ。
    そんな事を考えながらウトウトとし始めていた時だった。

    カリカリ、と部屋の窓ガラスを引っ掻く音が聞こえた。
    上体だけを起こして窓の方を見ると、そこには外の街灯に照らされて薄っすらと猫のシルエットが見て取れた。
    次いで「ニャーォ」と猫の鳴き声。
    エスパーニャンコだ。
    布団から這い出て窓を開けると、エスパーニャンコはピョイと部屋の中に入ってきた。
    その物音に兄弟達も起き出して先ほど消したばかりの明かりを再び点ける。
    俺たちを見渡して、明るい橙色の毛色の猫が言った。

    『みつけた。』

    ーーー

    深夜、鬱蒼とした森に囲まれた狭い道路を1台の車が走っていた。

    「おいコラもうちょいスピード出せっての!」
    「十分スピード出してるザンス!
     乗せてもらってる分際で文句を言うんじゃないザンス!」

    「そうだよ!もっと急いでよイヤミー!」
    「これでもかなり飛ばしてるザンスよ!
     だからうるさいザンス!」

    「エンジン全開!全カーーーーイ!!ハッスルハッスル!」
    「ええいやかましいザンス!!」

    「フッ…今こそお前の眠れるフォースを解放すべき時だぜ。
     俺はお前を………信じてるぜ!」
    「やかま…イッタイザンスね!!」

    兄貴がイヤミに脅…お願いして8人乗りのワゴン車を出してもらい、
    俺たちは山奥のとある屋敷へ向かっていた。

    エスパーニャンコが夜中に俺たちに教えてくれた。
    山奥の大きな屋敷にチョロ松と一松が囚われていると。
    屋敷の周辺を縄張りにしている猫が庭で一松と遊んだことがあるのだそうだ。
    その猫から近隣の猫へ伝達され、更にまた近隣へ伝達され…
    そうしてとうとうこの辺りを縄張りとする猫達の耳にも入る次第となった。
    猫のネットワークは想像以上に強力だ。
    猫達から受け取った情報を元にトド松が場所を割り出し、
    大切な弟達を取り戻すために真夜中の森を爆走中という訳である。
    話を聞いてみると、何やら不穏な気配も感じられた。
    チョロ松と一松は鎖で繋がれていたとか、とても体温が低かったとか、
    ここ最近は庭に行っても姿を見せない、とか。
    2人は無事なのだろうか。
    どうか無事でいてくれ。

    「カラ松、すっげー顔してんぞ。」
    「え…。」
    「お前今こそ鏡見ろよ。
     そんな顔でチョロ松と一松に会ってみろ、確実に引かれちゃうよ~?」
    「す、すまない…。」

    一体どんな顔をしていたというのか。
    しかし手鏡は生憎家に置いてきてしまった。
    ペシペシと自分の頬を叩く俺を、おそ松は可笑しそうに眺めていたが
    やがて俺の両肩に手を置いて真剣な目で俺を見た。

    「絶対に取り乱すなよ。
     俺たちが最優先するのはチョロ松と一松の無事だ。
     お前キレたら手に負えねーんだからな。」
    「ああ、わかってる。」

    おそ松に背中を叩かれて、知らず握り締めていた拳が少し緩んだ。

    やがて車は県境に位置する山奥の大きな屋敷の前にたどり着いた。
    まるでそこだけタイムスリップしたかのような景観だ。
    闇夜に浮かび上がるようにして佇むそれは、少し不気味に見える。
    俺たちは車を降り、運転手のイヤミには屋敷から少し離れた目立たない場所で待機してもらうことにした。

    「さてと、どっから入るかだけど。」
    「はいはいはい!」
    「はい、十四松くん。」
    「バットで窓ガッシャーン!!」
    「うむ、採用。」
    「ちょっと!何言ってんのおそ松兄さん馬鹿なの?!」
    「え、駄目なのか?」
    「ダメに決まってんだろこのサイコパスが!」
    「…何故だ?」
    「あー!!僕1人でツッコミ捌き切れない!助けてチョロ松兄さぁん!」
    「えー、じゃあどうするんだよー。」
    「…もうこの際正面突破でいいんじゃないか?」
    「正面突破!」
    「待って兄さん達は何する気なの?!
     言っとくけどこの屋敷にチョロ松兄さんと一松兄さんがいる確証はないんだよ?
     もし強引に押し入って全くの無関係な家だったらどうするのさ、
     器物破損で僕達が捕まっちゃうよ!」
    「あー…そうか~まぁそうだなー…。
     うん、よし正面から堂々と行こう。」

    言うや否や、おそ松は玄関のベルを鳴らした。
    背後でトド松が「ちょっと待ってよまだ心の準備が!」と喚いているが、
    済まないが一刻を争うためスルーさせてもらった。
    こんな真夜中に非常識な客人だがこちらはそうも言ってられないのだ。

    暫しの沈黙の後、大きな扉がゆっくりと開いた。

    「こんな夜更けに…一体どなたです?」
    「あ、どーもぉ~」
    「ヒッ…!!お前…!いや、まさか、そんな…!」
    「え?」

    扉から出てきた男はおそ松の顔を見るなり突然青ざめた顔をして中に引っ込んでしまった。
    一体どうしたというのか。

    「あれ…俺なんかした?」
    「俺が見る限り何もしていないと思うが。」
    「うん…非常識な時間にベル鳴らした以外は何もしてないと思うけど。」
    「だよなぁ…?」
    「なんかビックリーというより、怖がってたねー?」
    「俺の隠しきれないカリスマレジェンドなオーラにビビったとか?」
    「いやそれはない。」
    「トド松否定速すぎじゃね?」
    「ったりめーだろ!
     てゆーか、カラ松兄さんばりにイッタイ事言うのやめてくんない?
     今ツッコミ要員いないんだからね?!」
    「え…?」

    玄関扉の前で気の抜けた会話を繰り広げていると再び扉が開いた。
    先ほどの男だ。
    何がそんなに恐ろしいのか、俺たちを見てガクガクと震えながら屋敷の中へ招き入れてくれた。
    男の態度は気になるが、ひとまず中に入れた事に一安心だ。
    それにしても広い屋敷だ。
    豪者な内装に煌びやかな調度品、そして至るところに人形が飾られている。

    この人形達、やけにリアルで少し不気味だ。
    しかも少年や青年の人形ばかりだ。
    この屋敷の持ち主の趣味なのだろうか。
    なかなかいい趣味をしているようだ。
    他人の嗜好にとやかく言うつもり等全く無いが、是非ともお友達にはなりたくない。

    案内されたのは、広々とした応接間だった。
    ソファには、壮年の気品ある男性が腰掛けている。
    こちらにも伝わってくる風格からして、この男性がここの主人なのだろう。
    彼は、俺たちの顔を見るなり目を細めて口角を釣り上げた。

    「ほう…双子人形にはまだ兄弟がいたのか。」

    舐めるようにして俺達の顔をじっくりと眺め、心底愉快そうに笑う男性から発せられた言葉に、
    姿を消したチョロ松と一松を知っているのだろうと確信できた。

    「先ほどはうちの使用人が失礼したね。
     何せ君達が私の双子人形と同じ顔をしていたものだから
     どうやら震え上がってしまったらしい。」

    喉の奥でクツクツと男は笑う。
    その姿に苛立ちを隠そうともせず、おそ松が一歩前に出て挑発的に口を開いた。

    「人形とかどーでもいいんだけどさ、
     俺たち六つ子なの。
     その内2人が行方不明なんだよね。
     なぁオッサン、あんた2人の居場所知ってるんだろ?」
    「ふむ…そうだね。
     折角兄弟が会いに来てくれたんだ。
     少し早いが私の双子人形を特別にお披露目するとしよう。」

    男性はこちらを見て、一層笑みを深めた。

    ーーー


    愉快そうに笑いながら屋敷の主人は立ち上がると、4人の顔を見比べるように眺めた。
    ついてきたまえ、とおそ松達に声を掛けると、徐に応接間の扉を開けて歩き出す。
    おそ松達は顔を見合わせ、しかしすぐに意を決して男の後を追った。

    廊下を進み、辿り着いたのは重厚な扉の前。
    使用人が鍵を開け、扉を押し開けた。
    ギ…と重たい音が響く。
    男に促されるまま中に足を踏み入れると、やけに甘ったるい香りが鼻をついた。

    窓はなく、天井から伸びるシャンデリアが部屋を明るく照らしている。
    高級ホテルのスイートルームのような装いの其処は、まるで生活感が感じられなかった。
    奥には天蓋付きの大きなベッドが存在感を放っている。
    レースカーテンで視界を遮られ、ベッドの中はよく見えなかったが、そこに人影を確認できた。
    それに最初に気付いたのは十四松だった。
    十四松がベッドに駆け寄り、勢いよくカーテンを開け放つ。
    その音に、他の兄弟も自然と視線がベッドへ向かった。
    開け放たれたカーテンの向こう側、ベッドの中には、
    はたしてまるで人形遊びのように着飾られたチョロ松と一松が静かに眠っていた。

    「チョロ松兄さん!一松兄さん!」
    「兄さん達…!本当にここに攫われてたんだ…!」
    「チョロ松、一松…!」
    「やっと見つけた…!!」

    眠る2人を起こそうとトド松がチョロ松を、十四松が一松をガクガクと揺さぶる。

    「兄さん!兄さん、起きて!」
    「兄さん!」

    末の2人が真ん中の2人を起こそうとしている中、おそ松はある事に気付いた。
    チョロ松と一松に枷が嵌められ、鎖で繋がれている。
    思わず呆然と呟いた。

    「おい…なんだよコレ。」

    手枷はチョロ松の左手と一松の右手を繋いでおり、
    足枷はベッドの足に繋がっていた。
    真ん中の2人が自由を奪われ、この部屋に監禁されていただろうことは、容易に想像できた。
    ふつふつと怒りが沸き上がりつつある中、チョロ松と一松が同時に身じろぎ、ゆっくりと瞼を持ち上げた。

    「チョロ松兄さん、一松兄さん!大丈夫?どこか痛くない?!」
    「チョロ松、一松!俺達が分かるか?もう大丈夫だからな!」
    「兄さん、兄さーーん!僕たち迎えに来たんだよ!帰ろ!」
    「チョロ松、一松!……おい、2人とも…どうしたんだよ?!
     なぁ…何か言えって!」

    チョロ松と一松が目を開けたことにより4人に一瞬ホッとした空気が生まれたが、それはすぐに霧散してしまった。
    2人とも目を覚ましたものの、焦点は定まっておらず、虚ろな瞳は虚空を映すばかりだった。
    耳元で必死に語りかける兄弟の声も届いていないのか
    どんなに大声を上げても、手を取ってみても、何の反応も帰ってこない。
    おそ松達の表情が、どんどん凍っていった。

    「…兄さん?」
    「………。」
    「チョロ松兄さん、一松兄さん…?
     ねぇ、どうしたの…?」
    「どうした?!返事してくれ!」
    「チョロ松、一松!
     …なぁ、折角お兄ちゃん達迎えに来てやったんだぞ?
     ガン無視はねーだろ?泣いちゃうよ?!」

    反応は無い。
    おそ松達の事はまるで視界に入っていないようだった。
    双子人形…。
    男の言葉を頭の中で反芻する。
    これでは本当に人形ではないか。
    ここでおそ松は1人納得してしまった。
    屋敷の主人がやけにあっさりとチョロ松と一松に会わせてくれたのは
    何か裏があるのかと勘繰り警戒していたのだが
    あの男にそういった考えはなく、単純におそ松達ではどうにもできないと践んでいたのだろう。
    枷はひどく頑丈で、鍵がなければ真ん中2人を解放する事はできそうにない。
    チョロ松と一松を「双子人形」などと言う頭のイカれたあの男は
    こいつらを手放す気など毛頭ないのだ。
    そして、おそ松達がどう足掻いても2人を連れ出すことはできないと高を括っている。

    (…ナメてくれやがって。)

    この屋敷のどこかに枷を外す鍵があるはず。
    もしくはあの男か、使用人の誰かが所持しているのだろう。
    そう推測したおそ松は薄ら寒い笑みを浮かべる屋敷の主人とその使用人達をみわたした。
    先程この部屋の扉を開けた使用人あたりだろうか。
    そうして思案を巡らせるおそ松の胸中を知ってか知らずか
    屋敷の主人が満足そうな笑みを浮かべて背後から近づいてきた。

    「私の双子人形は可愛いだろう?
     まぁ、まだこれは未完成作品なのだがね。
     完成の日もすぐそこだ。」

    男が笑う。
    人形の完成。
    その意味を理解したおそ松は、衝動のままその男を殴り飛ばした。
    チョロ松と一松に付いていたトド松が声を上げたが、構わずにそのまま殴り飛ばした男に近づいた。

    「おい…オッサン。
     てめぇ俺の弟達に何しやがった…?」

    おそ松は自分でもびっくりする程、胸中がスーッと冷めていくのを感じていた。
    殴られ、仰向けに倒れていた男の胸倉を掴み、
    そのまま馬乗りになって更にもう一発拳を叩き込んだ。

    「答えろよ…!
     チョロ松と一松に何しやがったんだよ…!!」

    一切の手加減なく叩き込まれた拳によって男は気絶してしまったようだ。
    白目を剥く男を見ておそ松は思わず舌打ちをした。
    部屋に武装した使用人が押し入ってきたが、そいつらはカラ松にあっさりとのされていた。
    武装は格好だけで、本当にただの使用人なのだろう。
    トド松に警察を呼んでもらうよう頼むと、おそ松は4人を最初に出迎え応接間へ案内した使用人に詰め寄った。
    再び使用人の顔が青ざめたが、知ったこっちゃない。

    「ヒ…!」
    「なぁ、お兄さん。
     あんたが知ってること教えてくんない?」
    「お、お、俺は、何も…!」
    「へーぇ?
     今俺の弟が警察呼んだよ?
     このオッサンの監禁の手伝いしてたなんてバレたらどうなるかなー?」
    「あ……。」
    「教えてくれたらさぁ〜
     警察の事情聴取で俺達お兄さんの事庇ってあげられるよ?」
    「……わ、わかっ…た…。」

    使用人達は主人への忠誠よりも己の保身を選んだ。
    さほどあの男に忠誠心は持ち合わせていなかったのか
    それとも人形遊びと称した監禁の手伝いをさせられていた事に
    後ろめたさがあったのかはおそ松達の知るところではないが。

    使用人の男から聞いた話だと、この屋敷の主人は元々男色家だったそうだ。
    若く、自分好みの少年や青年を拉致っては、人形のように着飾らせ愛でていた。
    拉致った青年達を抱いたりする事がなかったのは、
    屋敷の主人が不能だった為なのだが、その代わり主人はとんでもない性癖を持ってしまった。
    それが、人形遊び。
    催眠と洗脳を誘発する香を焚き続け、食事に無味無臭の薬を混ぜ、
    連れ去った青年を少しずつ、少しずつ内側から壊して、思考を奪い、身体の自由を奪い
    最終的には命すらも奪う。
    緩やかに緩やかに、当人も気付かないくらいゆっくりと。
    そうして「完全な人形」に仕上げていく事にこの上ない悦びを感じていたのだとか。
    悪趣味過ぎて反吐が出そうだ。
    そうして、命を奪われた人形は防腐処理が施され、永遠にその姿を留めたまま飾られる。
    そう…この屋敷の至る所に飾られた等身大の人形達。
    あれは異常性癖持ちの屋敷の主人に連れ去られ、人形遊びの道具とされ
    人形となってしまった成れの果てだったのだ。

    そして、チョロ松と一松もまた「完全な人形」になってしまう一歩手前だったのだろう。
    状況は決して良いとは言えないが、屋敷に飾られる人形達の仲間入りをしてしまう前に
    おそ松達がたどり着けたのは不幸中の幸いだったと言える。

    その後警察が到着し、4人は軽く事情聴取をされた後に解放された。
    チョロ松と一松は検査のため病院へ搬送される事になった。
    本当は早く家に連れ帰りたかったが、仕方ない。

    屋敷に飾られていた人形となってしまった青年達は
    前にトド松が話していた失踪した青年と一致していた。
    トド松の憶測通り、彼らも連れ去られていたらしい。
    その被害者は実に50人を超えていた。





    夜明けを待って、チョロ松と一松が搬送された病院へ向かった。
    兄弟だと説明すると(同じ顔だから説明するまでもなかったかもしれないが)
    担当医が出てきてすんなりと病室に通してもらえた。
    ドアには「面会謝絶」の札がかけられている。

    ドアの向こう、白い空間にチョロ松と一松は眠っていた。
    搬送される際に枷は外されたが、長く嵌められたままだったのか
    手首と足首には赤く跡が残っている。
    容体は決して良いとは言えないそうだ。
    生命力が著しく低下し、脳の働きもかなり落ちていると聞いた。

    「…兄さん達、大丈夫だよね?」
    「ああ…きっと大丈夫だ。
     今は、2人を信じるしかない。」
    「チョロ松兄さん…一松兄さん…。」
    「………。」

    眠り続ける2人を見て、ふと人形のようだと思ってしまって
    慌ててその考えを振り払った。
    冗談でもそんな事思ってはいけない。
    人形なんかじゃない。
    チョロ松も一松も人間だ。
    呼吸も、体温もちゃんとある。
    ちゃんと血の通った、人間なのだ。

    それから、おそ松達は交代で病院へチョロ松と一松の様子を見に行く事にした。
    2人は度々目を覚ます事もあるのだが、意識朦朧としていてほとんど会話が成立しない。
    当然自力で食事もできず、身体中を何本もの管で繋がれていた。
    鎖よりはずっとマシだが痛々しくてたまに見ていられなくなる。
    植物状態と言って差し支えない程だ。

    生きている。
    2人は生きているのだ。
    たとえ目を覚まさなくとも、言葉を交わすことが出来なくとも、
    その事実だけが、4人を支え続けている。

    今日も、チョロ松と一松は静かに眠り続けている。



    ーーー

    ー ある日の長男の独白

    静かにただひたすら眠り続け、たまに目を開けても意識朦朧としていて
    会話もできなくなったチョロ松と一松を見守り続けて、どのくらい経っただろうか。
    あの屋敷から助け出せた時は、2人を取り戻せた事にただただホッとしていたけど
    植物状態な2人を見続けるのは思っていた以上に辛い。
    カラ松も、十四松も、トド松もそろそろ疲れと諦めの色がチラつき始めている。
    もうチョロ松と一松は一生このままなんじゃないかって。
    誰もそんな事口には出さない、いや出せないけど…おそらく皆が薄々考え始めている。
    考えたくない。いつか2人がまた俺の事を見て、「おそ松兄さん」と呼んでくれる日が来ることを、信じていたいけど。
    信じ続ける事に疲弊してしまう程度には、月日が経ってしまったのだ。
    今日も病室で寝顔を眺めて1日が終わる。

    チョロ松の白い頬をそっと撫でると、陶磁器を思わせる肌触りだった。
    その頬に今度は顔を寄せて唇を押し当ててみた。
    いつもだったら「何しやがんだクソ長男!」って怒号混じりのツッコミが飛んでくるところだ。
    でも今は何も返ってこない。
    何も伝わらない。
    何も、伝えることができない。
    頼むよ、俺ホントチョロ松がいないと割とマジでダメっぽい。
    …いつまで続くのかわからない日々を過ごすのがこんなにも辛いとは思わなかった。

    俺、兄ちゃんなのにな。
    ちゃんと助けてやれなくて、ごめんな。


    ー ある日の次男の独白

    兄弟で交代制でチョロ松と一松の傍にいる事を決めたあの日から、
    何回目かも分からない俺の番が回ってきた。
    何度この部屋を訪れただろう。
    今日も眠り続けるチョロ松と一松の周りだけ、時間が止まってしまったかのようだった。
    2人を眺めながら、いつも思う。
    もう少し早く見つけてやっていれば、
    2人で買い物に出掛けた日に、探してやっていれば、
    そもそも、買い物に俺も付いていけばよかったのかもしれない。
    どれもこれも、今更考えたって無意味なのは解っているが、
    チョロ松と一松が屋敷に監禁されていた間、俺達は平然といつもと変わりない日常を過ごしていたのかと思うと
    どうしてもあの時ああしてれば、と考えてしまうのだ。
    仮に俺も一緒に付いて行ったとして、2人が誘拐される事なく無事に帰ってくる確証などないのだが。
    頭に浮かぶのは後悔と謝罪の言葉ばかりだ。
    俺にはもう「信じてる」なんて言う資格すらないのかもしれない。
    けど、言わせてほしい。
    再び、6人揃って笑い合える日が来るのを、俺は信じてる。

    眠る一松の髪をそっと撫でた。
    柔らかな猫っ毛が、指の間をすり抜けていく。
    前髪を撫ぜると、普段は隠された一松の額と短めの眉が顔を出した。
    吸い寄せられるように、その額にそっと口付けた。
    こんな事したのがバレたら一発殴られるどころじゃ済まないだろうな。
    それこそ、いつかのように石臼をぶん投げられるかもしれない。
    ああ、でも。
    それで目を覚ましてくれるなら、石臼くらい受け入れようじゃないか。
    何だったら俺は一松のその唇に躊躇うことなく自身の唇を重ねてやれる自信がある。

    だって、眠れる姫を起こすのは王子様のキスなんだろう?
    いや、みすみす愛する兄弟を危険に晒した俺は王子などではないし、
    仮に一松の唇を奪ったとて、目を覚ましてはくれないだろう。
    一体何を馬鹿な事を。

    すまない、こんな兄を許してくれ。


    ー ある日の五男の独白

    チョロ松兄さんと一松兄さんが帰ってきてくれたのは嬉しいけど、
    手放しに喜ぶことはできない状況だった。
    あの大きな屋敷で人形にされていたチョロ松兄さんと一松兄さんは、
    頭も体も自由を奪われていて、命すら失う寸前だった。
    まだそこから回復せずに今も眠っている。
    それでも僕は、眠る兄さん達に今日も取り留めのない事をたくさん話した。
    そしたら、いつか目を覚ましてくれるんじゃないかって思ったから。
    野球の事はもちろん、おそ松兄さんがパチンコに行かなくなったとか、
    カラ松兄さんが橋へ出掛けなくなったとか
    トド松が夜中に僕にトイレに付いてくるの頼むようになったとか。
    それはもう思い付く限りの事を時間の許す限り、いろいろと。
    でも、2人の容態はなかなか改善しなくて…。
    おそ松兄さんは病院から帰るとベランダで煙草をふかして物思いにふけるようになった。
    前に盗み見た時は、煙を吐き出しながら泣くのを堪えるように空を見上げていた。
    カラ松兄さんは病院から帰ると部屋でボーっとするようになった。
    部屋の隅、いつも一松兄さんがいた場所に何度も何度も視線を向けていた。

    病院の先生は、回復には時間が掛かる、もしかしたら一生このままかもしれない。と言っていた。
    一生このまま?
    それは嫌だ。
    僕は、またチョロ松兄さんと一松兄さんの声が聞きたい。
    また話がしたい。一緒に野球もしたい。

    神様なんて、普段は別段信じたりしてないけど、いるならお願い。
    チョロ松兄さんと一松兄さんが失ってしまった分、僕のを分けてあげるから。
    僕が持ってる分をあげられるだけ分けてあげるから。
    だから、兄さん達を助けて。


    ー ある日の末弟の独白

    今日は僕が病院に行く番だ。
    この順番が回ってくるのは一体何度目なのか、もう数え切れない程の月日は経ったはずだ。
    チョロ松兄さんと一松兄さんは、相変わらず眠っていた。
    2人の寝顔はなんだかとても綺麗なものに見える。
    綺麗な顔して寝ちゃってさ、僕達が今どんな思いでいると思っているのか。
    …正直、僕は病室に来るのが辛かった。
    おそ松兄さんがベランダでボンヤリと煙草を吸ってるのを見る度に
    カラ松兄さんが部屋の隅へ視線を巡らせては微かにその顔が悲しげに歪むのを見る度に
    十四松兄さんが「今日も眠ってた。でもたくさん話しかけてきたよ。」と泣きそうな笑顔で言うのを見る度に
    僕は絶望感と共に病室に足を踏み入れるハメになるのだ。
    今日もやっぱりダメだったんだ、と。
    病室にいると、何をしたらいいのかわからない。
    僕はおそ松兄さんのようにチョロ松兄さんに優しく触れる勇気も
    カラ松兄さんのように一松兄さんの髪を撫でる勇気も
    十四松兄さんのようにひたすら2人に話しかけ続ける勇気も持ち合わせていなかった。
    つまりは、僕はチョロ松兄さんと一松兄さんの悲惨な現状を受け入れたくなくて逃げているのだ。
    このままじゃダメだってわかってるのに。
    そう、このままじゃダメなんだ。
    でもどうしよう、僕にはどうしても勇気がない。
    眠る兄さん達を直視するのが怖い。
    けど僕だって兄さん達には触れたい。

    …そうだ、いっそのこと目を瞑って触ってみようか。
    一体それに何の意味があるのかは自分でもよく分からないけれど。
    何もせずに眺めているだけよりかは、何か意味があるはずだ。
    そうと決まれば、臆病な心が顔を出す前に実行だ。
    ひとまず、チョロ松兄さんのベッド脇に置かれたパイプ椅子に腰掛け、
    細い手を確認すると、それを恐る恐る掴んでギュッと目を閉じた。
    それに呼応するようにチョロ松兄さんの手を握った僕の手にも力がこもった。

    僕、もう逃げたくないよ。
    ううん、逃げないから。
    だから兄さん達も戻ってきて。

    ーーー

    トド松がキツく目を瞑りながらチョロ松の手を握り締めて、さほど時間は経っていない。
    相変わらずトド松は肩を縮こまらせ、目を瞑っていたが

    「ぅ…」

    小さな呻き声が聞こえて、ハッと目を開けた。
    反射的にチョロ松の顔を見ると、その瞳は薄らと開いていた。

    「…チョロ松兄さん?」
    「…ぃ、…たい…。」

    「チョロ松兄さん?!」

    ほとんど掠れていて声になっていなかったが、それでもトド松にはハッキリと理解出来た。
    言葉を発した。
    チョロ松が、あの日から初めて声を出した。
    トド松があまりにも強く、加減を知らずに手を握った事に反応したのだろうか。
    気付けば再びチョロ松は瞼を下ろして眠ってしまっていたが、これまでの事を考えると大きな前進だ。

    トド松は大きく深呼吸すると、震える手で兄達へ連絡を入れた。

    ーーー


    トド松から連絡を受け、いてもたってもいられなかった俺はカラ松と十四松と共に雪崩込むようにして病室に押し入った。
    話に聞いたチョロ松の反応は微かなものだが、それでも今までの様子から比べたら大きな変化だ。
    それこそ、俺達に「もう一度目覚めてくれるかもしれない」と淡い期待を持たせる程には。
    部屋に入るとトド松の呆れたような視線が降り注ぐ。

    「ちょっと…気持ちはわかるけどここ病院なんだからね?」
    「ごめんって!」
    「すまん…どうにも気が急いてな。」
    「めっちゃ走った!」
    「なぁ、トド松。チョロ松が喋ったって…。」
    「うん。僕が、結構強めに手を握ったら、
     少しだけ目を開けて「痛い」って言ったんだ。
     またすぐに寝ちゃったけど…。」
    「十分だ!今まではそんな反応すらもなかったんだからな!」

    カラ松も十四松も、トド松もどこか嬉しそうだ。
    もちろん俺も嬉しい。
    少しでも希望が見えたのだ。
    真ん中2人には何が何でも頑張ってもらいたいところだ。
    いつもより幾分明るい雰囲気の病室で、十四松が元気よく挙手しながら口を開いた。

    「ねぇねぇ!!じゃあ一松兄さんの手もギューってしたら何か反応してくれるかな?!」
    「そうだね…そういえば一松兄さんにはやってなかったな。」
    「んじゃ、やってみようぜ!」
    「よし、なら俺が…」
    「待てカラ松。お前はダメだ。」
    「え?!何故だ!」
    「お前自分が怪力だって事わかってるか?
     一松の手を粉砕する気か。」
    「確かに、カラ松兄さんが力込めて握ったりなんかしたら骨折しかねないよね。」
    「怪我させるのダメ!スリーアウト!チェーンジッ!!」
    「ううっ…!」
    「って事でお兄ちゃんがやってみるな。」

    そう言って落ち込むカラ松を横目に一松のベッドの脇に立った。
    手を握り、そして力を込める。
    …まだ反応は無い。
    跡が残らない程度に、もう少しだけ強く握ってみる。
    …すると、一松の眉間に微かに皺が寄り

    「おわっ!」
    「動いた!一松兄さん自分で手を動かしたッスね!!」
    「眠っててもおそ松兄さんがウザイのわかったのかなぁ?」
    「おいこらトド松!お兄ちゃん割とショック受けてるから!!」

    そう、人形のようだった一松の手が動いたのだ。
    不機嫌そうに、バシッと俺の手を振り払うようにして。
    というか、これは絶対振り払っただろう。
    反応があったのは喜ばしいのだが少しばかり複雑だ。
    兎に角、チョロ松も一松も少しではあるが確かに回復に向かっているということだ。
    いつか、しっかりとその目で俺達を見返してくれる日も来るはずだ。

    ーーー

    チョロ松と一松が少しの反応を見せてくれた日から、1週間が経った。
    わかり易く反応してくれたのはあの日だけで、2人は相変わらずの沈黙を保っている。
    1週間前に声を上げたり、手を動かしたりしたのは気のせいだったんじゃないかって思えるくらいだ。
    昨日もおそ松がチョロ松の手を握ってみたらしいが、反応してくれなかったと困ったように笑っていた。
    おそ松らしくない笑い方だったが、俺は何も言うことが出来なかった。

    どうして2人とも何も返してくれなくなったんだ?
    俺達があまりにしつこいからか?
    …………そうか、しつこかったからか。
    そうだな、そうに違いない。
    チョロ松と一松は兄弟の中でも特出して素直になれない性格だ。
    素直に俺達に返事をする事ができないのだろう。
    ひょっとしたら「いい加減にしやがれ」とそっぽを向いてしまっているのかもしれない。
    …ならば、こちらを無理矢理にでも向かせるまでだ。
    さてどうしたものか。
    生憎と俺はおそ松によって手を握るのは禁止令が出ている。
    手を握る事はできない。
    かと言って、延々と話し掛け続けるのも、チョロ松と一松はすっかり慣れてしまって良い反応は無いだろう。
    怪我をさせることなく、何か身体に慣れない衝撃を与える方法はないだろうか。

    (…………。)

    しばらく考え込んで、俺は一つの方法を思い付いた。
    早速それを実行すべく、一松の傍に寄る。
    白い頬に手を添えると滑らかな感触が手を擽った。
    眠り続けているせいだろう、少し痩せたな。
    前は、一松の頬はもっともっちりしていた気がする。
    そんな事を考えつつも、俺は眠る一松に顔を近付けて
    一松の唇に自身の唇を重ねた。
    無理矢理口をこじ開け、舌をねじ込み、
    文字通り貪るように、意図的に激しくイヤらしく、呼吸を奪うように。
    一松の口内はちゃんと体温があった。
    噛み付くように唇を重ねているうちに、僅かながら頬が上気し息が荒くなってきたのがわかった。

    「んっ…ふ……」

    一松から掠れたような声が漏れ出たが、構わず口内を蹂躙し続けた。
    真っ白なシーツにどちらのものかわからない唾液が染みを作っている。
    段々と口内が熱を帯びてきた。
    その事に興奮して頬に添えていた手を離し、顎を掴んだ。
    その、瞬間

    「~~~い゛っ!!」

    頬に走った強烈な痛みに、思わずガバリと勢いよく上体を起こした。
    次いで、誰かにグッと腕を強く掴まれる感触。

    「えっ…な……い、一松?!」
    「…………。」
    「一松、俺が解るか?!」

    「く…そま、つ……」

    ベッドを見下ろせば、瞳を潤ませ、頬を紅く染め、
    肩で息をしながら胸を上下させる一松の姿があった。
    その目は確かにハッキリと俺を視界に捉えている。
    一松の右手は俺の腕をしっかりと掴み、更に掠れた小さな小さな声だったが、確かに俺を呼んだ。
    本当は本名で呼んで欲しかったが贅沢は言うまい。
    左頬にヒリヒリと痛みが走る。
    俺の腕を掴む手とは反対側の手を見て、一松に引っ掻かれたのだとようやく頭が理解した。

    「一松、気が付いたんだな!
     よかった…本当によかった…!!」
    「く、そ松…てめ…ゼェ、ゼェ…おれ、に…ゼェ、ハァ…何、しやがっ……。」
    「すっすまない!
     ついつい夢中になってな!」
    「しね!!……ゼェ、ゼェ…」

    ディープキスは眠り続けていた一松には結構な身体の負担だったようだ。
    そこは反省した。
    嗚呼、でもお姫様は本当に王子のキスで目が覚めるんだな!
    容赦なく引っ掻かれたが、子猫に噛みつかれたようなものだと思おう。
    御伽噺は決してファンタジーではないのだ。
    …そうだ、チョロ松も同じようにおそ松が起こしてやればいいのではないか?

    しばらくしてなんとか息を整えたらしい一松が、唐突に俺に話しかけてきた。

    「チョロ松兄さんは?」
    「ん?」
    「チョロ松兄さん、どこ?」
    「ああ、隣のベッドにいるぞ。」
    「……!!
     チョロ松兄さ…」
    「ま、待て一松!
     お前もまだ身体が万全じゃないだろう、急に動くな!」

    一松は隣のベッドに眠るチョロ松の姿を確認すると、身体を起こそうとした。
    が、やはりまだ上手く身体が動かせないのだろう
    バランスを崩し、危うくベッドから転倒するところだった。

    「一松、お前がこうして目覚めたんだ。
     チョロ松もきっとすぐに気が付く。」
    「連れてけ。」
    「…はい?」
    「だから、俺をチョロ松兄さんのとこまで、連れてけ。」
    「え…何故?」
    「はやくしろ」
    「あ、はい。」

    自分で歩く事は早々に諦めたらしい一松に言われるがまま、点滴の管に気を付けながら一松を抱き上げ
    チョロ松のベッドまで連れて行った。
    一松は眠るチョロ松の顔をしばらくまじまじと眺めていたが、やがてチョロ松の額に手をそっと置いた。
    そして、チョロ松の耳元でそっと囁いた。

    「兄さん、チョロ松兄さん…。」


    「……一松…?」
    「おはよ、チョロ松兄さん。」
    「ん、おはよう一松。……ここは?」
    「あ、そういえば。
     おいクソ松、どこだここ。」
    「び、病院だが…ちょっと待ってくれ、
     色々整理させてくれないか。」

    まさかの光景だった。
    一松が囁いたたったの一言。
    それで、チョロ松も目を覚ましたのだ。

    ーーー

    「あらまーマジでお目覚めじゃん!
     チョロ松も一松も元気かー?」
    「全然元気じゃない。」
    「僕も最悪だよ…身体が思うように動かないし。」
    「何ヶ月もあんな調子だったんだ。無理もないさ。」
    「チョロ松兄さん!一松兄さん!
     おはようございマッスル!!」
    「うん、おはよう十四松。」
    「ほんとよかったよ…もう!心配したんだからねっ!
     今度何か奢ってくれなきゃ許さないんだから!!」
    「トド松もごめん。心配かけたね。」

    カラ松兄さんから連絡を受けて、僕達は1週間前と同じように慌てて病院に駆けつけた。
    病室には、横にはなっているものの、しっかりと目を開けて僕らを見るチョロ松兄さんと一松兄さんがいた。
    ついついあんな事言っちゃったけど、別に奢ってくれなくたって許してあげるよ。
    だってこうしてまた兄さん達と会話ができたんだもん。
    ちゃんと僕の名前を呼んでくれた。
    もうそれで十分だ。
    あ、奢ってくれるならそこは喜んで奢られるけどね。

    話を聞くと、まずカラ松兄さんが一松兄さんの意識を浮上させる事に成功し
    一松兄さんがチョロ松兄さんを起こした、という事らしい。
    カラ松兄さん曰く、一言ボソッと呟いただけなのにチョロ松兄さんがあっさりと目を覚ましたのだそうだ。
    何それ。
    僕らの苦労は一体何だったの。

    「ところでカラ松は一体どうやって一松を起こしたんだ?」
    「ああ、それはn「喋ったら殺すぞクソ松」…えっ。」
    「なんスかなんスか?!」
    「なになに~?
     つまり一松にとっては恥ずかしい起こされ方だったって事かな~??」

    説明しようとしたカラ松兄さんを一松兄さんが遮った。
    身体が動かせないせいで殴ったりはされなかったけど、物凄い殺意を向けられている。
    の、割に一松兄さんの顔は僅かに赤くなっているもんだから、僕はなんとなく想像がついてしまった。

    「それよりも、なんでチョロ松兄さんは
     一松兄さんの小さな声で目が覚めたの?
     今まで僕ら散々兄さん達に話しかけたり
     触ったりしても何の反応も返ってこなかったのに。」
    「うーん…それが自分でもよく分からないんだよね。」
    「…………暗示だと思う。」
    「え、一松?」
    「あの屋敷にいた間も…チョロ松兄さん、
     俺が声を掛けるとすぐに正気に戻ってたから。」
    「そうなの?!」
    「あー…言われてみればそんな気がするなぁ。
     僕が完全に正気を失っちゃったのって、
     一松の声が聞こえなくなってからだろうし。」
    「じゃあ、一松兄さんの声で元に戻るように、
     無意識のうちに自分で自分に暗示をかけてたってこと?」
    「そうなるのかな…?」

    兄さん達が囚われていたあの屋敷。
    今は解体処分されたらしい其処はさながら檻の中だった。
    悪趣味な男にすべてを奪われそうになる中、チョロ松兄さんも一松兄さんも互いが互いの拠り所だったのだと思う。
    特にチョロ松兄さんは兄の立場だったから、弟である一松兄さんを守るために
    一松兄さんの声には敏感に反応出来るようになったのだろう。
    当然、一松兄さんが眠ってしまうと、もう声も聞けなくなる。
    つまり気を張り続ける事が出来ていた、守るべき相手がいなくなってしまった事で
    チョロ松兄さんも眠りに堕ちてしまったのだ。
    そう考えると、チョロ松兄さんと一松兄さんの間に看過できない共依存関係が出来上がってしまったように思うのだけど
    そこはまぁ、上2人に任せるとしよう。
    ひとまず、今は真ん中の兄さん達の目覚めを喜ぶのが先だ。


    チョロ松兄さんも一松兄さんも、完全に意識を取り戻したことで衰弱していた身体も回復して行った。
    意識が戻った日の病院からの帰り道、カラ松兄さんにもう一度一松兄さんを起こした方法を聞いてみたら、

    「眠り姫を起こすには王子の情熱的なキッスだと相場が決まっているだろう?アンダースタン?」

    …と、概ね予想通りの回答が返ってきた。
    イッタイ言い回しまで予想の範囲内ってどういう事なの。
    もう少し突っ込んで聞いてみると、どうやら王子様の優しい目覚めのキスだなんて生優しいものではなく、
    超濃厚なディープキスをかましたらしい。
    一松兄さんのあの反応も納得だ。
    横で「えー、俺もチョロ松にやればよかった!」とか言ってる長男は無視しておいた。


    ーーー


    暗い、暗い海の底に沈んだみたいだった。
    無理矢理沈められた身体はちっとも言う事を聞かなくて、だんだん意識も薄れていった。
    このままゆっくりと死んでいくんだろう。
    そう思ってた。
    もう少しで深海の闇に完全に沈んでしまう。
    けど僕の身体はその寸でのところでピタリと止まって、今度は少しずつ少しずつ浮上し始めた。
    少しずつ、声が聞こえ始めた。
    少しずつ、誰かに撫でられる感覚を感じ始めた。
    少しずつ、身体の自由がきいてきた。

    あと少し、あと少しで水面に顔を出せそうだ。
    必死にもがいて上に上がろうとしていた僕の身体が、ある日突然フワッと急浮上して
    気付けば僕は2つ上の兄にディープキスをされていた。
    戻ってこれたのは感謝してるけど、感謝はしてるんだけど…
    とりあえず、思い切り殴れないのが残念でならなかった。


    ーーー


    真っ暗な海の底へと沈んでいく1つ下の弟を必死で追いかけた。
    追いかければ僕だってもう引き返すことはできないのはわかってたけど、
    独りにしたくなくて。独りになりたくなくて。
    弟がまた僕を呼んでさえくれれば、一緒に浮上する事ができるはずだと。
    その時はそう信じてた。
    けど、辺りはどんどん暗くなって、いつの間にか僕は見失ってしまったのだ。
    光の届かない深海で、弟を探して、必死にもがいた。
    上を目指せば少しずつ、声が聞こえ始めた。
    少しずつ、誰かの手の感触を感じ始めた。
    少しずつ、声を出せるようになってきた。

    そんな中、ずっと探していた1つ下の弟の声がしたから
    僕は慌てて水面に顔を出したのだ。


    ーーー



    水底から無事に戻ってこれた僕らを出迎えたのは、兄弟達の涙と怒号と笑顔だった。

    両親と共に家に帰ってきた僕らは、家の前でぼんやりとその昭和テイストな古い家屋を見上げていた。
    久々の我が家だ。
    懐かしい。

    母親に促されて扉を開けると、4つの色が視界に飛び込んできた。
    赤、青、黄、桃 ー…

    「「「「おかえり!!」」」」
    「「ただいま。」」

    永く欠けていた緑と紫が戻り
    この家にようやく6つの色が揃った。


    (happy end!!)


    ーーー


    以下はIF分岐の死ネタルートです。
    ハピエンのまま終わりたい方はここでバックをお願いします。
















    優雅に、且つ愉快そうに笑いながら男性は立ち上がると、
    殺気を隠そうともせずに己を睨みつける客人の顔を見比べるように順番に眺めた。
    あっさりと会わせてくれると言い放った男によりおそ松達が一層の不信感を募らせる。

    「ちょうど今日の夕刻に大広間に飾ったところなのだよ。」
    「は?何言って…」
    「非常に素晴らしい出来だ。
     君たちもきっと気に入るだろう。」

    おそ松の声を遮って、尚も屋敷の主人は上機嫌な様子で言葉を続ける。
    男はついてきたまえ、とおそ松達に声を掛けると、応接間の扉を開けて歩き出した。
    おそ松は一瞬迷った様子を見せたものの、すぐに意を決し弟達に目配せして男の後に続いた。

    長い廊下を進み、大広間に足を踏み入れると、
    正面には2人掛けのゴテゴテとした装飾の煌びやかな椅子が置かれていた。
    そして、その椅子には

    「なんだよ、これ…」
    「……っ!!」
    「ぁ……」
    「チョロ松!一松!」

    おそ松が呆然と呟き、
    十四松が息を呑み、
    トド松が声を失い、
    カラ松が叫ぶように2人の名前を呼んだ。
    椅子に座していたのは、紛れもなく彼らが探し続けていたチョロ松と一松だった。

    正しくは
    かつて、チョロ松と一松だったもの、だ。

    人形遊びのような綺麗な服を身にまとった2人は固く目を閉じたまま、
    見事なシンメトリーを描いて寄り添うように静かに椅子に座らされていた。
    まるで人形のよう…いや、正しく人形だった。
    血の気を完全に失った白い肌や目元を縁取る長い睫毛が妖しくも退廃的な雰囲気を醸し出している。
    「人形」に成り果てた三男と四男の姿に打ちひしがれる兄弟の背後では屋敷の主人が満足そうな笑みを浮かべていた。
    屋敷の主人の新たな人形の仲間入りを果たしてしまったチョロ松と一松の元に兄弟が駆け寄る。
    十四松が一松を強く抱き締め、トド松がチョロ松の手を両手で握り締めた。
    おそ松とカラ松はその様子を固唾を飲んで見守った。

    4人はまだ心のどこかで希望を捨て切れずにいたのだ。
    自分達が呼びかければ目を覚ましてくれるのではないか、と。
    しかし、沈黙を貫く真ん中2人に触れた末2人は青ざめ、その顔を盛大に歪めた。

    「チョロ松兄さん、一松兄さん!ねぇ!僕達迎えに来てあげたんだよ?!
     ほら…早く、早く起きて?起きて帰ろう?
     ねえ、お願いだから…!
     お願い…起きて、起きてよぉ…っ」
    「な、んで…なんで、なんでチョロ松兄さんも一松兄さんもこんなに冷たいの?!
     僕知ってるよ!2人ともギューってするとすごく温かいんだよ!
     なのに、なんで?!
     なんで、冷たいの…なんで、息、してない、の…
     なんでなんで?!
     なんで、チョロ松兄さんも…一松兄さんも…心臓の音が、聞こえてこないの…
     兄さん…ヤダよ…!」
    「う、うぅ…うああぁっ…兄さん、兄さあああん!!」

    十四松とトド松の様子から、最悪の事態であることは明白だった。
    末の2人はチョロ松と一松に縋り付いて大声を上げて泣いている。
    その様子におそ松は思わず顔を顰めて手が白くなるくらい拳を握り締め
    カラ松はただただ弟達を感情の抜け切った無表情で呆然と見つめていた。

    「おや、お気に召さなかったかね?」
    「てめぇ…ふざけんなよ!
     チョロ松と一松に…俺の弟達に何しやがった?!」
    「先程から申しているでしょう?
     彼らは双子人形だと。
     実に素晴らしい素材だったよ。
     丈夫でありながら儚さも持ち合わせて…
     ゆっくりゆっくり人形に仕立て上げていくのは実に心躍るものだった。
     時間を掛けて、完璧な人形になったのだよ。
     永遠に美しいままの…っぐ!」

    男が長々と演説のように何か語り出したが、言い終わる前にそれはカラ松の拳によって遮られた。
    無言でゴキリ、と腕を鳴らしたカラ松は、いっそ恐ろしい程の無表情だ。
    カラ松に殴られ、床に仰向けに倒れ伏した男の胸倉を今度はおそ松が掴みあげた。
    紳士然としたその顔に渾身の一発を叩き込む。

    「なあ…こいつらはさ、俺の大事なだーいじな弟達だったワケ。
     人形なんかじゃない、れっきとした人間だったワケ。
     そりゃあ俺達揃いも揃ってクズだしニートだし童貞だけどさぁ?
     それでも人として生きる権利はあったはずなんだよね。」
    「……私にとっては、人形だよ。」
    「ふざけるな!!
     …返せよ…チョロ松と一松を返せ!
     あ、あ…あああああああ!!!」
    「カラ松!バカ抑えろ!!」
    「何故止めるんだおそ松…!こいつのっ!こいつのせいで!」
    「カラ松!」

    男の言葉に激昂したカラ松が一切の容赦なく男を殴り飛ばした。
    おそ松が慌ててカラ松を押さえ込む。
    普段は温厚で沸点が異様に高いカラ松が怒りを顕にするのは、大抵が兄弟が傷付けられた時だ。
    今、目の前には悪趣味な男によって理不尽に「人形」にされ事切れてしまった弟がいる。
    片方は、普段から何でも相談できてしまえそうな、
    それこそ六つ子の中でも特段シンパシーを感じていた優しげな緑の似合う弟。
    片方は、誰よりも寂しがり屋なクセして甘えるのが下手くそで、
    まるで自分から逃げるようにキツく当り散らし暴力を振るう姿さえ可愛く見えて、
    知らずの内に特別な感情を抱いていた紫の似合う弟。
    この場でカラ松の怒りが振り切れてしまうのは必然だった。

    おそ松とてメチャクチャに殴って蹴ってそれこそ殺す勢いで暴力を奮ってやりたかった。
    が、これはチンピラ相手の喧嘩とはわけが違う。
    これ以上こちらが手を出せば面倒なことになる。
    おそ松はそう言い聞かせながらカラ松を必死に押さえ込んだ。
    カラ松の表情は怒りと悲しみと絶望で塗り固められ、その目からはとめどなく涙が溢れている。
    だがその表情とは裏腹に男に向かってとてつもない殺気が放たれていた。


    その後、トド松が呼んだ警察に男は引き渡された。
    おそ松とカラ松が思い切り男を殴った点に関しては、トド松が上手いこと口添えしてくれて
    厳重注意のみのお咎め無しにしてもらえた。
    どう見てもこちらは遺族で被害者なのだ。
    情状酌量を与えてくれたのだろう。

    この屋敷にも捜査の手が入り、至るところに飾られていた等身大の人形達も
    トド松が話していた失踪者達だったことが判明した。
    チョロ松や一松と同様に突然攫われ、男に人形にされてしまったようだ。
    最も古いもので死後半年以上経っている人形もあったが、
    一体どんな技術なのか何かしらの防腐処理を施され、腐敗は見られなかったらしい。
    当然、逮捕された男は重罪に問われることになるだろう。
    おそ松達からすれば、もちろん然るべき処罰は受けて欲しいが、
    それでチョロ松と一松が戻ってくるわけではない。
    自分達の手で制裁を下せないのが、酷く歯痒く悔しかった。

    検察の検証とやらを終えたチョロ松と一松が無言の帰宅をしたのは
    おそ松達が屋敷に乗り込んだ翌々日のことだった。
    父も母も泣き崩れていた。
    残された兄弟も、皆涙を流した。


    ふとおそ松が目を開けると部屋の中は薄暗かった。
    時刻を確認すると午後6時を過ぎた頃だった。
    2階の子供部屋で、どうやら泣きじゃくる末2人を抱き締めながら一緒になっていつの間にか眠ってしまったらしい。
    おそ松の傍らには目元を赤くしながら眠る十四松とトド松の姿があった。
    2人に毛布を掛け直してやったところで、カラ松の姿がないことに気付く。
    眠る末2人を起こさないようにそっと部屋を抜け出し、階段を降りて居間に向かった。
    両親は寝室に籠ってしまっいるようだ。
    居間の襖を開くと、棺に入れられたチョロ松と一松の元に座り込む青色の背中を見つけた。
    カラ松は先程の十四松とトド松と同様に目元を赤く腫らし、静かに一松の髪を撫でていた。
    しばらくの間、ひたすら髪を撫で続けていたカラ松だったが、ふと手を止めると
    今度は一松の頬に手を添え、顔を近づけたかと思うと、眠る一松に口付けた。
    まるで命を吹き込むように、祈りを込めるように。
    当然、一松は目覚めてはくれない。
    その様子に、おそ松は何も言えなかった。
    やがてカラ松は顔を上げ、居間の入口で立ちすくむおそ松と目が合うと、
    眉尻を下げ自嘲気味に笑みを浮かべると
    何も言わずにおそ松の横を通り過ぎ、階段を上がって行った。

    部屋には、おそ松と何も言わずに眠るチョロ松と一松だけが残された。
    おそ松はそっと棺に近寄ると、カラ松が座っていた場所とは反対側に腰を下ろした。
    眠る2人を覗き込む。
    陳腐な言葉だが、本当にただの人形のようだ。
    死んでいるのに、なんでこんなに綺麗に見えるんだろう。
    手を伸ばし、チョロ松の頬に手を添える。
    滑らかで、冷たい。

    カラ松の真似事ではないけれど、
    別にお伽噺の王子様のキスなんてのを信じてるわけでもないのだけど…
    そう、別れの挨拶とでも言おうか。
    明日には2人とも骨だけになって埋葬されてしまう。
    触れ合えるのは今だけだ。
    頬に手を添えたまま、そっと口付けてみた。

    触れた唇も、泣きたいくらい冷たかった。

    (bad end...)
    焼きナス
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