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    かんざき ももた
  • 8死神探偵エルリアの解 ❷話 試し読みマガジンエッジで現在連載『死神探偵エルリアの解』の第2話試し読み版です。
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    かんざき ももた
  • 64死神探偵エルリアの解 ❶話マガジンエッジで現在連載『死神探偵エルリアの解』の第1話です
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    かんざき ももた
  • 転生物語 #転生 #百合 #蟻 #輪廻転生 #オリジナル #創作 #オリキャラピエローン
  • 小説『勇者だった俺は今世こそ平凡な人生を歩む!』小説『勇者だった俺は今世こそ平凡な人生を歩む!』著・りおさん
    https://estar.jp/novels/23984425

    P830~ 『兄の虚実』(7)
    挿絵描かせて頂きました。
    https://estar.jp/novels/23984425/viewer?page=830



    ****

     ――弟が学園に来ても、もっと冷静に対処できると甘く見積もっていた。

    (とんだ誤算ですよ)

     だが予測していてしかるべきだった。
     昔から――この弟にはさんざん振り回されていたのだから。

     入寮からこっち、島に着いて早々に騒ぎを起こし、反省房入りし、ちょっと目を離した隙に死にかけたり、新聞沙汰になったり、急所を締められたりと落ち着く暇もなく次から次へと冷や冷やさせられ通しで心の休まる暇もない。

     まだ入学から二か月弱にも関わらず、騒動に巻き込まれ過ぎである。

     おまけに裏風紀にまで勝手に所属する始末だ。あんな苛酷で人使いの荒いブラック組織になぜ自ら望んで関わろうとするのか理解不能である。せめて一言相談があっても良さそうなものなのに、事後承諾だったのも腹立たしい。

     平凡に、目立たず騒がず大人しく生きたいなどと、どの口が言うのだ。まるで真逆ではないか。

     そんなきかん坊な弟にお灸を据えるのは、兄として当然の権利である。

    「……さて、お仕置きの時間だよ、翔」

     無抵抗の弟に圧し掛かる自分は、きっと清廉さからはほど遠く、いっそ悪辣にすら見えるだろう。

    『天地開闢の祖にして全知全能を司るリリスリアージュ=サイレンシス=カシアス=ル=エンジューンよ。我の祈りに応えたまへ』

     何千回…いや、数え切れぬほど諳んじてきた起句を唱えた渉は、ゆっくりと弟に顔を近づけた。

     世界を違えた今も尚、神はその申し子を穢す罪咎に身を投じた己にさえ寛大に応じ、己はその御業の残滓に縋って恩恵を享受する。

    『この者に、女神の忠実な僕(しもべ)たるハーヴェス=トール=ライリーヒンの名において癒しと再生の息吹を与えん」

     もし――、神が真実正しき存在ならば、自分は天の雷に貫かれていてもおかしくはないだろうに…。





    ***
    (*挿絵箇所より、1p前部分からお借りしています。



    #オリジナル #創作 #オリキャラ #BL #小説挿絵 #ファンタジー  #転生  #兄弟  #高校生
    朔羽ゆき
  • 小説挿絵『勇者だった俺は今世こそ平凡な人生を歩む!』小説『勇者だった俺は今世こそ平凡な人生を歩む!』著・りおさん
    https://estar.jp/novels/23984425

    P823~【勇者は捕獲】(28)
    挿絵描かせて頂きました。
    https://estar.jp/novels/23984425/viewer?page=823



    *****


    ――完全に油断していたし、そもそも疑ってもいなかった。
     
     
     コーヒーを飲み切った俺は、脱力感と急速な眠気に襲われた。

    (なんだ…これ…?)

     紙製のカップが手から滑り落ち、軽い音をたてて床の上を転がる。

     しかし、落としたカップを拾おうにも、もう俺の身体はソファーから立ち上がることが出来なくなっていた。

     まさかと思いつつ向かいの席の兄を見ると、無機的なレンズ越しにこちらを観察する冷静な双眸と目が合い、――その眼差しを見て確信する。

     この体の変調は、兄の仕業であると。 

    「てめ…クソあに…き…」

     ブラコンが聞いて呆れる。

     コーヒーになんか盛りやがったな…!?

    「無茶な真似をしたらお仕置きだよって言ったよね」

     正しいのは自分だと言いたげな口調だった。当然の顛末だと揺らぎなくこちらを見下ろす瞳がそう語っていた。


    頭を振り、額に手をあてがってこめかみを指で押さえても眠気は失せず、意識よりも先に身体の方が負けてソファーの上を滑りおちようとする。

     それを片腕で必死で支え、かすんできた目で平然と端座する兄を睨んだ。

    「やりすぎ、だろーが…っ」

     いくらなんでも本気で薬を盛るとか、うちの兄貴はマジ頭おかしい。

    「おとー…とに…なに…してん……だ…」

     ――最後まで言い切れたかどうかわからない。
     すでに焦点が定まらないほどに視界が歪んでいた。





    ****
    小説お借りしています。



    #オリジナル #創作 #オリキャラ #BL #創作 #小説 #小説挿絵  #転生  #勇者
    朔羽ゆき
  • 2小説表紙『想思華~悠久の唄~』小説『想思華~悠久の唄~』著・天月天兎さん
    https://estar.jp/novels/19720530
    小説表紙描かせて頂きました。

    ***********

    愛しいひと。

     生まれ変わって、
        きっと貴方の元へ―――…

    *****

    「……あ、の…」

     僕を見つめる瞳は、まるで彼岸花みたいに赤い。その瞳が、ただただ僕を見詰めて離さなくて―――。

     僕も目が離せない。

     何だろう…、何か言いたいのに、言葉が出ない。目も離せない。動く事も、出来ない。

     心臓がドキドキして、胸のずっと奥がキュッとなって、頭の中が熱い。ぼうっとなって、何も考えられない。

     この人は、いったい誰―――?

     ふと気付くと、自分の頬が冷たい。

     閉じる事さえ忘れた僕の目からは、何故かポロポロと涙が溢れていて―――…

     慌てて拭おうとして、僕のものでは無い手が伸びる。

    「………………っ」

     息を飲んだ。

     差し出されたその人の手は、ほんの少し冷たくて……でも、優しく優しく涙を拭いてくれた。

     知りたい…!

     強烈にそう思った。

     この人の事を知りたい。月の化身の様な人。彼岸花の様に赤い瞳を持つ人。冷たいけれど優しい手の持ち主―――。

     涙が止まらない。

     その人が、何度拭いてくれても次々と溢れてくる。

     貴方は…誰?

     そう問い掛けようとして、急な頭痛が僕を襲った。耳鳴りが酷くなって、胸の締め付けが強くなって。

     ―――唐突に、僕の意識はプツリと途切れた。

     意識を完全に手放す瞬間、その人の唇が何かを囁いた。

     何て、言ったの…?

     名前を呼ばれた気がしたけれど、それは僕の名ではなかった。

     誰を呼んだのだろう。その瞳は真っ直ぐに僕を見ているのに。その唇が紡いだ名前は、いったい誰のものだったのだろう。

     意識を手放した僕に、それを確認する術は無かったけれど―――…




    ****

    *小説お借りしています。

    #オリジナル #創作 #BL #小説表紙 #表紙  #鬼  #転生
    朔羽ゆき
  • 【カラ一】再び家族になりました #BL松 #カラ一 #転生 #女体化 ##転生カラ一

    ※非常に読む人を選ぶ文です。
    この作品は以下の要素を含みます。
    少しでも嫌悪感を感じましたら、今すぐブラウザバックをお願いいたします。
    ①転生パロです
    ②キャラの女体化、妊娠・出産の描写を含みます
     (一松とトド松が女の子)
    ③当然のようにキャラ崩壊
    ④書きたいところだけ書いてます

    ーーーーー

    1.

    いろいろあって結婚相手が前世で愛した兄弟だったり、
    生まれてきた息子が前世の兄弟だったりとトンデモナイ展開に見舞われたワケだが、
    そんな事実は何処吹く風、家庭内は至って平和で穏やかな日々が続いていた。
    今世では第1子長男となった十四松はちょっぴり泣き虫な、
    けれど明るく元気いっぱいな子にすくすく成長中だ。
    ただ今休日の昼下がり。
    今年で2歳になった十四松はカラ松と共に玩具のボールとバットを両手に抱えて外へと飛び出して行った。

    一松は2階にある夫婦の寝室で、先月生まれた娘の授乳中だった。
    2年前に十四松が生まれた時点である程度の覚悟はしていたが、
    第2子として誕生したこの娘、やはり何の因果か前世の兄弟だったのだ。
    今世は一松と同じく女の性を持って生まれた娘は大きめの瞳と
    可愛らしいアヒル口を持つ、かつての末弟トド松だ。
    ちなみに、生まれたばかりのトド松を見た瞬間

    「一松、どうしよう娘だ!
     娘ってだけでめちゃくちゃ可愛い!娘超可愛い!!
     きっと美人に育つんだろうな、ああああでも絶対お嫁になんて行かせない!
     彼氏なんて連れてきたら決闘だ!
     娘可愛い!!
     oh マイリトルスイートエンジェル!!」

    と、カラ松が若干キャラを見失いかけながらも、
    しかし安定のイタさとウザさで大興奮だった事もココにお伝えしておく。
    大層な大はしゃぎっぷりだったがこの男、もうそろそろ三十路に突入である。
    そんなカラ松を黙らせなければという前世から続く謎の義務感によって
    「うるせぇ黙れクソ松!」と一松が横っ腹に一発御見舞したのは言うまでもない。
    娘を構いたくて仕方ないカラ松が率先してトド松の世話を焼いてくれたため、
    一松は諸々楽する事ができたのでその辺は感謝しているが。
    ウザイものはどうにも殴って止めなければ気が済まないのである。
    普段キリリと上がった男らしい眉を下げながらトド松の世話を焼くカラ松を間近め見ていたせいか、
    十四松も妹を可愛がり、懸命にお兄ちゃんしようとしている様子は非常に微笑ましかった。

    授乳を終えた頃、遊びに出掛けていたカラ松と十四松が帰ってきた。
    玄関から微かに聞こえてくるカラ松の声に耳をすますと、
    どうやら十四松を連れて風呂場へ直行したようだ。
    きっとたくさん遊んで泥んこになって帰ってきたのだろう。
    そう考えながら、一松はトド松の背中をトントンと叩いてゲップを促す。

    しばらくしてトド松から「げぷっ」と声が聞こえたのと同時に、1階が何やら騒がしくなった。
    トド松もちゃんとゲップ出せたし丁度いいと思い、
    一松は母乳を飲み終えてウトウトしているトド松を腕に抱えて階段を降りた。
    リビングに足を踏み入れると

    カ「十四松!じゅうしまぁ~つ!
      ストップ!ストーップ!!待ちなさい!」
    十「あいあい!」
    カ「いや、止まれ!止まってくれ!!」
    十「あんしんしてください!はいてますよ!!」
    カ「いやいやいや、履いてない!何も履いてない!
      何も安心出来ないぞじゅうしまぁ~つ!!
      服来たら好きなだけ走っていいから!」

    一「…なんだコレ。」

    そこには生まれたてすっぽんぽん状態でキャッキャと走り回る十四松と、
    それを追い掛けるカラ松の姿があった。
    カラ松も十四松と一緒に汗を流したのだろう、バスローブ1枚羽織っただけだ。
    十四松は2歳児とは思えない身のこなしでカラ松の腕をすり抜け
    ちょこまかと楽しそうに逃げ回っている。
    楽しそうに逃げ回る2歳児と必死に追い掛ける三十路のバスローブ男性…実にシュールな光景である。
    クソほど頑丈なカラ松はどうでもいいが、
    まだ幼い十四松がこのまま湯冷めして風邪を引いてしまうのはいただけない。
    仕方なく、一松は助け舟を出すことにした。

    一「十四松、おいで。」
    十「あい!」

    一松が呼ぶと、十四松はパッと明るい笑顔を向けてこちらへ駆け寄ってきた。
    カラ松が「俺の苦労は一体…」と涙しているので、
    「外遊びとシャワーありがとね」と一応労いの言葉をかけておく。
    その一言で復活したカラ松に、こいつチョロ過ぎないかと
    一松は少し心配になったが、深く考えるのはやめておいた。
    折角シャワーを浴びたのに再び汗をかいてしまったカラ松から十四松の着替えを受け取ると、
    腕に抱えていたトド松をベビーベッドに下ろし、一松は十四松をささっと着替えさせた。

    一「十四松、次からはお風呂から出たらすぐに服着ような。」
    十「あい!」
    一「約束できる?」
    十「あい!やくそく!」
    一「ん、いい子。」
    カ「十四松、次から追いかけっこは服を着てからだぜ?アンダースタン?」
    十「あいあい!」
    カ「フッ…頼むぜ、我が息子よ。」

    カラ松と十四松の愉快な追いかけっこが一段落したところで、
    十四松が何かを思い出したように「そーだ!」と玄関へ駆けていった。
    一松は頭上にクエスチョンマークを浮かべているが、
    カラ松は思い当たることがあったらしい。
    程なくして十四松はパタパタと軽やかな足音を響かせて戻ってきた。

    十「ママ、これあげる!」
    一「ん…ありがと、十四松。…これ、どんぐり?」
    十「どんぐり!こうえんにね、いっぱいおちてた!」
    一「へー。たくさん拾ってきたね。」
    十「あい!これはママのぶんで、これはトッティのぶん!」
    一「…トッティ?」
    十「トッティ!トドまつー!」
    一「……そ、う。
      十四松、トド松の分もちゃんと拾ってきてくれたんだ。
      ありがとね。」
    十「えへへー」
    一「ところで何でトッティなの?」
    十「んー?んー…なんでかなぁ?わかんない!」

    チラリとカラ松の方を見ると、
    「俺が教えたワケじゃないぞ。気付けばこう呼んでたんだ。」
    と、眉尻を下げながら一松が聞こうとした事の答えを先回りして答えてくれた。
    "トッティ"はご存知トド松のあだ名だ。
    けれどカラ松も一松も今世のトド松を1度もそのあだ名で呼んだ事はない。
    因みに、一松に至っては十四松やトド松の前ではカラ松の事をクソ松呼ばわりしないようにしている。
    生後1ヶ月の、交友関係など当然築いていないトド松に、あだ名を付けるような友人はまだいない。
    つまり十四松が自分で呼び始めた事になる。
    前世の記憶があるのだろうかと思ったが、十四松の様子を見る限りそのような様子ではない。
    生まれ変わる前からこういった勘は野生並みだったから、
    本能で無意識にそのあだ名が出てきたのかもしれない。

    今思えば、この時に既に兆候は顕れていたのだ。

    ーーー

    そして月日は更に流れ、
    十四松は5歳に、トド松は3歳になった頃。

    ト「やあぁぁーーだああ!
      トドうさぎさんがいいのーーー!!」
    一「うん、気持ちはわかるんだけどね、
      ウサギさん今洗濯中なんだよ。
      アヒルさんとネコさんならあるよ?どっちがいい?」
    ト「ヤ!!うさぎさんっ!!」
    一「うーん、参ったな~。」

    朝の時間とは、即ち戦争の時間である。
    トド松はまだまだイヤイヤ期が抜けず、
    靴下選び1つとっても毎回のようにこんな調子だ。

    一「うーん、じゃあトド松。とりあえずジュース飲む?」
    ト「のむ~♪」

    こういう時は全く違う事に意識を向けさせてしまうに限る。
    一松の作戦が功を奏し、トド松はジュースで機嫌も直ったようだ。
    十四松のイヤイヤ期はそこまで激しくなかったが、トド松はどうにも自己主張が激しい。
    女の子は言語の発達が早いと言うが、確かに十四松と比べても言葉も達者である。
    ハイハイや歩き始めるのは十四松より大分ゆっくりだったが。

    一松がトド松に手を焼いている横では、カラ松がコーヒーを啜りつつ
    ご飯を頬張る十四松を見守っている。
    やがて朝ご飯を食べ終えた十四松が一松に飛び付いてきた。

    十「たべたー!ごちそうさまー!どぅーーん!!」
    一「うわっ」
    カ「十四松!ママのお腹には赤ちゃんがいるんだから
      ぶつかったらダメだと言っただろう?!」
    十「あ…!あい。ごめんなさい…。
      ママ、だいじょうぶ?」
    一「大丈夫、大丈夫。次から気をつけような。」
    十「あい!」

    十四松とはいえ、まだ身体が小さいしそこまで思い切りぶつかってきた
    ワケではないので、大したダメージではなかった。
    そう、現在一松は第3子を妊娠中だ。
    3人目はつわりも軽かったし、特に大きなトラブルもなく順調に育っている。
    ただ、胎動が激しい。
    お腹を蹴る力がやたらと強くて、一松は何度夜中に目を覚ましたか分からない。
    元気な証拠だと思って気にしないようにしているが。

    気付けば、十四松とトド松が一松のお腹にしがみついていた。

    一「2人ともどうした?赤ちゃん動いてる?」
    十「あいさつしてる!」
    ト「トドもあいさつ~♪」
    カ「はは、赤ちゃんは何か言ってるか?」
    ト「ぽんぽんけっけしてる!」
    一「うん、お腹蹴ってるね。あいさつしてるのかな。」
    十「………」
    一「…十四松?」

    一松の大きなお腹にしがみつき、耳をピタリと腹に当てたまま十四松は黙りこくってしまった。
    具合でも悪くなったのか、と危惧した一松が声をかけると、
    十四松は一松を見上げて二パッと笑った。
    具合が悪いわけではなさそうだ。
    その事にホッとしつつも、十四松の向ける笑顔が気になった。
    それは、一松もカラ松もとてもよく知る懐かしい笑顔で。

    一「十四松?」
    十「チョロまつにいさんだ」
    一「…え?!」
    十「いちまつかーさんのおなかにいるの、
      チョロまつにいさんだよ!」

    まだ5歳の幼い子供の声で、しかし十四松はしっかりとした口調でそう言った。
    カラ松と一松が思わず顔を見合わせる。
    トド松はわけが分からずキョトンとしていた。

    カ「十四松、お前…。」
    十「あはは!カラまつにいさんがおとーさんで、
      いちまつにいさんがおかーさんになってる!
      ぼく、こんどはちょうなんだ!すっげーね!!」
    一「十四松、思い出した…の…?!」
    十「うっす!おもいだしちゃった!
      マッスルマッスル!ハッスルハッスル!」

    カラ松と一松が再び顔を見合わせた。
    2人ともその目は驚愕に満ちている。
    カラ松も一松も前世の記憶があるのだから、将来子供たちにも記憶が蘇ることは十分に考えられた。
    トド松が生まれた時も、誰に教えられたわけでもなく「トッティ」と呼んだりしていたが。
    けれどまさか。
    まさか、こんなに早く十四松が前世を思い出すとは思ってもみなかったのだ。
    まだまだ幼い身体と心で、自身とは他の誰かの記憶を抱えるのはかなりの負担だ。
    カラ松も一松も記憶が戻ったのは成人後だが、それでも最初は大いに戸惑った。

    一「…カラ松、そろそろ出ないと時間ないよ。」
    カ「いや、だが…!」
    一「ひとまず十四松は僕が見ておくから。」
    カ「…分かった、頼んだぞ。
      何かあったらすぐに連絡してくれ。」
    一「ん。いってらっしゃい。」
    十「いってらっしゃーい!」
    ト「パパいってらっしゃーい!」
    カ「ああ、いってきます」

    カラ松を見送った後、一松は十四松に向き直った。
    見返してくる無邪気な目は、一松のよく知る六つ子の弟としての十四松の目だった。

    一「さっき思い出したの?」
    十「うん!さっき!」
    一「そっか…どこまで思い出した?」
    十「うーんとね、わりといろいろ!」
    一「いろいろ?」
    十「うん!
      ちいさいころは、いっつもぼくがなきべそかいてて、
      いちまつにいさんがぼくのうで、ひいててくれてたよね!
      ぼくら6にんで、いれかわってイタズラとかしてた!
      それから、カラまつにいさんとやねのうえでうたったり、
      いちまつにいさんとやきうしたりしたね!
      あ、トッティのバイトさきでパフェたべたり、
      プラスとマイナスになっちゃったり、
      ダヨーンのなかにすいこまれちゃったり、
      あとやきう!!」
    一「…そうだね。」
    十「えっとね、えっと…うぇ…い、ろいろ…ヒック、
      おぼえて、ぼく、おぼえてるっ!
      う、うぇぇぇ…!」
    一「十四松!」

    前世の記憶を必死で一松に伝えていた十四松は、限界がきたのか泣き出してしまった。
    一松が小さな十四松を抱きしめる。
    背中をトントンと優しく叩き、「大丈夫だから、大丈夫」と繰り返した。
    トド松が心配そうにこちらを見ている。
    大きな瞳は揺らいでいて、今にも涙が零れ落ちそうだ。

    ト「おにいちゃん、どうしたの?いたいの?」
    一「大丈夫、トド松もこっちおいで。」
    ト「おにいちゃん、トドがイイコイイコしてあげるね」
    十「ヒック…グスっ…うわあぁぁぁぁん!!」
    一「よしよし」
    ト「おにいちゃんイイコ、イイコ…
      なかないで…なか、な…ふぇっ…ぐすっ…」

    十四松の話を聞いた限り、この子はほとんどの記憶を取り戻している。
    幼い身体と心がそう容易く耐えられるわけがないのだ。
    大声を上げて泣き出した十四松につられてトド松も泣き出してしまい、
    そんな2人を一松はしばらくの間、ただただ抱きしめ続けていた。

    どれくらいそうしていただろうか。
    泣き疲れて眠ってしまった十四松とトド松をベッドに運び、
    十四松が通う幼稚園に今日は欠席する旨の連絡を済ませると、一松は深く溜息を吐いた。

    十四松、お前はお前だよ。
    お前の人生なんだ。前世の記憶に引っ張られる事なんてないんだよ。
    お前の好きにしていいんだよ。
    僕もカラ松も、今世の十四松が今世の十四松らしく生きていけることを願っている。
    そう、心で願った。



    やがて3人目が生まれた頃には、カラ松と一松の心配をよそに
    十四松はすっかり落ち着きを取り戻していた。
    幼い子供ながらに、前世の記憶を受け入れたようだ。
    元より前世の十四松は成人後もまるで無邪気な子供のような面があったためか、
    さほど大きな影響も出なかったらしい。
    それでも言動は少々大人びた。

    生まれた3人目は十四松が予言した通り、
    小さめの瞳にへの字口という紛れもなくチョロ松だった。
    前世でも今世でも3番目だ。
    超安産だった。すんなり生まれてくれてありがとう、さすがはチョロ松。

    一「そういえば十四松、どうしてチョロ松だってわかったの?」
    十「えーとね、こえがしたんだよ!」
    カ「声?」
    十「うん!いちまつかーさんのおなかに、みみをあてたらね、
      チョロまつにいさんのこえがしたの!
      それでね、いろいろおもいだしたんだよ!」
    一「そっかー。」
    カ「よくわからんが、お腹から聞こえたというチョロ松の声が
      十四松の記憶が戻るきっかけになったという事か?」
    一「たぶんそうだと思う…ってトド松!コラ叩いちゃダメ!」
    ト「ダメ?」
    一「ダメ!」

    トド松が目をキラキラさせながら一松の腕に抱かれて眠る生後1週間のチョロ松を覗き込み
    小さな額をペチペチと頻りに叩いている。
    止めろと言っても止める気配がない。
    この様子に、カラ松と一松は今世におけるトド松とチョロ松の関係性が見えた気がした。
    トド松は今世では女の子で「姉」だ。
    そしてチョロ松は今世では男の子で「弟」だ。
    弟とはどうやっても姉に勝つのは難しい。
    悲しいかなそういう生き物だ。

    (頑張れ、チョロ松。ご愁傷様、チョロ松…。)

    カラ松と一松は目が合うと思わず同時に苦笑いを浮かべたのだった。

    ーーーーー

    2.

    しつこいようだが、朝とは即ち戦いの時間である。
    それに拍車をかけたのは、間違いなく前世における我らが六つ子の長男にして、
    今世では末っ子として生まれてきたおそ松の存在だ。
    今年で小学校に上がる十四松は食事も着替えも自分のことは自分でできるようになり、
    尚且つトド松やチョロ松の面倒を見てくれるようになった。
    今年で年中のトド松はそんな兄の十四松にベッタリで、最近では
    「ぼく、おおきくなったらじゅーしまつおにーちゃんとけっこんする!」
    と宣言するくらいのブラコンっぷりだ。
    完全なる余談だが、
    「そこは『大きくなったらパパと結婚する』が定番じゃないのか…」
    と、唯一の娘であるトド松を特に可愛がっているカラ松が拗ねて一松に冷めた目で見られ、
    十四松に「ドンマイ、カラまつとーさん」と頭を撫でられていたりした。
    2歳になったチョロ松はトド松のように口達者にわがままは言わないものの、とにかくじっとしていない。
    しかも逃げ足が早いので片時も目を離すことができない。
    そして、生後半年に突入した末っ子おそ松は、とにかくやかましい。
    少しでも一松が傍を離れると、たちまち大声で泣きわめく。
    そんなワケで、一松がトド松やチョロ松に朝ご飯を食べさせたり着替えさせたりする時は、
    いつもおそ松のぎゃーぎゃー喚く泣き声がBGMだった。
    それに対してチョロ松が幼児特有の甲高い声で
    「うるせぇぇぇ!!」
    と怒鳴るものだから更にギャン泣きが悪化するという負のスパイラルである。
    ちなみに、そんなおそ松だがカラ松が抱っこしても泣き止まないのだから困ったものだ。
    どうやら一松でないとダメらしい。
    十四松もトド松もチョロ松もそんな事はなかったというのに
    何故おそ松だけ懐いてくれないのか。
    不可解だ。実に不可解だ。
    そんなに俺が父親なのが気に食わないかおそ松このやろう。

    思えば、おそ松は一松のお腹に宿った時からすでに大変手の掛かる子であった。
    妊娠初期には今までで一番重たいつわりに悩まされ、
    ついには一松は水さえ飲むことができずに入院する羽目になり
    しかも重たいつわりは安定期に入っても中々治まってくれなかったし。
    安定期に入ると度々一松はお腹の張りを訴え、
    切迫早産で絶対安静を強いられ再び入院する羽目になり。
    やっと後期に入ったと思ったら今度は逆児が判明したため
    4人目にして初めて一松は逆児体操をしていたのだが、
    努力の甲斐も虚しく逆児は結局直らず。
    それに加えてどうやら胎盤の位置が産道を妨げていたらしく、早々に帝王切開が決定した。
    カラ松は不安がったが、
    「母子共に最も命に危険がない方法だ」
    と医師から説明され、頷くしかなかった。
    一松は自分の腹を切開するどうこうよりも
    「じゃぁ逆児体操する意味なかったんじゃないの」
    とそちらの方をブツクサ文句を言っていた。
    カラ松が一松に「不安じゃないのか」と聞くと
    「え?別にいいよ、だってお腹の子の命が最優先でしょ」とケロッと返された。
    もちろん、一松にも不安が全くなかったわけではないのだろうが
    母は強し。とこの時ほど痛感した日はない。
    帝王切開することが決まっているため、生まれる日も決まっているはずだったのだが
    薬を服用してもお腹の張りが治まらず
    結局予定日よりも2ヶ月以上早く陣痛が始まってしまい
    更には出血が酷かったため、救急車で担ぎ込まれた一松は緊急帝王切開となり
    おそ松は未熟児のラインをギリギリクリアする小ささでなんとか無事に生まれてきた。
    それでも生後3日間は保育器の中だったため、随分心配させたものだ。

    おそ松が生まれた直後の会話を思い出す。

    カ「今回は本当に大変だったな…一松、本当にお疲れ。」
    一「本当に大変だったよ…。
      カラ松も僕が入院してる間わざわざ会社休んで
      十四松たちの面倒見ててくれてありがと。」
    カ「当然だろう!
      俺に出来る事と言ったらそのくらいしかなかったしな。
      …身体の調子どうだ?」
    一「めっちゃお腹痛い…全然身体動かせないヤバイ。
      はぁ…まだお腹にいた方がいい時期だったのに…
      …可哀想なことしちゃった。」
    カ「そうか。…無理するなよ。
      それに、おそ松が待ちきれなくて早く出てきてしまっただけだ。
      一松がその事に責任を感じることはないぞ。
      家の事は気にしないでいいからな。お義母さんも来てくれてるし。」
    一「ん。…それにしても本当に、随分とせっかちだったね、おそ松兄さん。」
    カ「一番最後だったからな。待ちくたびれたんじゃないか?」
    一「おそ松兄さんってばどんだけ構ってちゃんなんだよって話だよね…。
      本当散っ々な目に遭わせてくれたよね。
      そんなに僕の股から出てくるのが嫌だったのかな。
      てめぇの腹かっ開けってか…ヒヒ…あ、ヤバお腹痛い。イタタタ…。」
    カ「だっ大丈夫か一松!いろんな意味で!!」
    一「大丈夫なワケあるかボケころすぞ」
    カ「ヒッすいません!」

    一松は若干の闇オーラを発していたが、妊娠中に散々大変な思いをしていたのは
    間近で見ていて十分に知っていたため何も言えなかった。
    少しくらい愚痴がこぼれても仕方あるまい。
    お腹の中にいた時から構ってちゃんだったおそ松は、生まれてからもやはり構ってちゃんだった。

    ーーー

    カラ松が帰宅する頃には子供達は既に夢の中だ。
    手の掛かるおそ松も、今のところまだ夜泣きは始まっておらず夜は比較的ぐっすり眠ってくれていた。
    リビングに入ると、テーブルにはラップのかけられた1人分の夕食が置かれている。
    ネクタイを解きながら、それをレンジに入れて温めていると、2階から一松が降りてきた。
    玄関が開く音が聞こえたのだろう。

    一「おかえり。」
    カ「ああ、ただいま。」

    キッチンへ引っ込んだ一松は、温かいお茶を持って戻ってきた。
    その手に湯呑みは2つ。
    どうやら一松もここで一休みするらしい。
    夕飯を咀嚼しつつ、カラ松は向かいに腰掛けた一松に話しかけた。

    カ「毎日お疲れ様だな。」
    一「ん。まぁ確かに毎日戦争だよね。でもまぁ、意外となんとかなるモンだね…。」
    カ「一松は何気に要領がいいからな。」
    一「…そっちこそ、毎日…仕事、お疲れ。」
    カ「ああ、ありがとう!大切な家族のためだからな。愛してるぞ一松!」
    一「うるせぇ黙れ。」
    カ「何で?!」

    ドスのきいた一松の声に一瞬怯んだが、照れ隠しだと理解しているカラ松は後ろから一松を抱きすくめた。
    肩口に顔を埋め、腕にぎゅうと力を込めると、「痛いわ馬鹿力が」と一松から抗議の声が上がった。
    その言葉に多少腕の力は緩めたものの、開放するつもりはない。
    微かに石鹸とシャンプーの柔らかな香りがした。

    カ「一松。」
    一「…なに、どうしたの。」
    カ「いや、最近ご無沙汰だと思ってな…。」
    一「な、お、お前な…!」

    悪態をつきながらも、顔を背けた一松の頬が朱色に染まったのを見逃さなかったカラ松は
    耳元でいつもより低い声で囁いた。
    前世も今世も、一松はどうやらカラ松の声に弱いらしい事はなんとなく解っている。

    カ「…一松。」
    一「~~~っ!」
    カ「なぁ、一松…いいだろ?」

    一「…………ん。いい、よ。」

    耳まで赤くした一松にフ、と笑みを零し、
    後ろから抱きしめた体制のまま一松の頬に手を添え、口付けようとしたその時、

    お「うあ゛ああああぁぁぁん!」

    一「え、あっ、おそ松起きた…?!」
    カ「Why?!何で今日に限って夜中に目を覚ますんだおそ松!!」
    一「まあ、仕方ないね。」
    カ「くっ…まさか我が聖なる領域の中に俺達の甘美な夜の邪魔する者がいようとは…!」
    一「はいはい、拗ねない拗ねない。」

    明らかにブスくれているカラ松の頭を、まるで子供をあやすようにポンポンと撫でた一松は
    カラ松の腕からするりと抜け出し、幼い我が子の元へ向かった。
    階段を上りながら「ついに夜泣きが始まったかなー?」なんて呑気に呟いている。
    小さな子がいるのだから仕方ない。
    仕方ないのは、カラ松も頭では理解している。
    しているのだが…。

    (邪魔したようにしか見えないぞ、兄貴…!いや、マイサンおそ松!!)

    高ぶっていた気持ちを何とか沈めようと、カラ松は深く溜息を吐いて
    ダイニングテーブルに置かれた椅子に腰掛けた。
    そういえば、まだ夕食を食べていなかった。
    一度温めていたが、すっかり冷めてしまっている。
    かといって温め直すのも億劫だったため、このまま箸を取った。
    冷めても美味しいし、問題ない。

    黙々と咀嚼を繰り返していると、泣き声がこちらに近づいてきた。
    扉に目を向けていると、泣き喚くおそ松を腕に抱いた一松が顔を出した。
    なかなか泣き止まないので下に連れてきたようだ。

    一「おそ松は1回泣き出すと泣き止まないねぇ…。」
    カ「いつも思うんだが、おそ松の泣き方って兄弟で一番やかましいな。」
    一「だね。
      声が大きいのは十四松だけど、泣き声はそこまで酷くなかったし。
      てゆーか、十四松はよく笑いよく寝る子だったから。」
    カ「トド松は女の子なだけあって泣き方も可愛らしかったしな。」
    一「チョロ松はギャーギャー喚くような泣き方じゃなかったしね。」
    カ「…おそ松は生まれ変わっても構ってちゃんか。
      今世では俺がその根性叩き直してやる。」
    一「カラ松っておそ松兄さんには容赦ないよね。
      今世のおそ松くんはまだ赤ちゃんだからね?」
    カ「もちろん、それはわかっているぞ!」

    かといって、久々の夫婦の甘い時間を邪魔された恨みは消えないのだが。
    これが他の…チョロ松か十四松かトド松だったら仕方ない、で済ませてしまえただろうに
    やはりカラ松はおそ松には幾分容赦がない。

    一「カラ松。」
    カ「…うん?」
    一「続きは…また、今度。…ね?」
    カ「……っ!ああ!!」

    続きを再開出来たのは、それから半月後だった。

    ーーーーー


    オマケ1
    最初の言葉


    一「初めて喋った言葉?」
    十「うん!学校の宿題でね、出されたんだ!」

    この春から小学校6年生となった十四松がそんな事を聞いてきたのは、休日の昼食後のことだった。
    ちなみにトド松は小学校4年生、チョロ松が小学校1年生、おそ松が幼稚園の年中さんだ。
    どうやら、6年生となった今年は幼い頃の自分を振り返るような授業があるらしく、
    小さい頃の写真やら思い出話を両親から聞いてくるように言われたらしい。

    一「十四松が最初に喋ったのは、確か『ママ』だったかな。」
    十「ママ!ぼく初めて話した言葉は『ママ』っすか!」
    一「うん。」
    ト「ねぇねぇ、トドはトドはー?」
    一「トド松?…トド松は『パパ』だったね。」
    ト「えぇー?!」
    カ「えっ…何か不満か?!」
    一「十四松が最初に『ママ』だったからね…
      カラ松ってばトド松は絶対最初にパパって呼んでもらう!
      って躍起になってたから。」
    カ「フッ…毎日『パパ』って囁いた甲斐があったぜ…!」
    ト「何それイッタイよねぇー!
      ってコトは言わされたんじゃん!
      ぼくも十四松兄さんとおそろいでママがよかったー!」
    カ「何故だトド松…!」
    チ「かあさん、じゃあぼくは?」
    十「あ、ぼくチョロ松の最初の言葉覚えてるよ!
      『まんま』って言ってた!」
    チ「そーなの?」
    カ「ああ、そうだったな。」
    一「十四松が「チョロまんまだよー」って
      チョロ松によくご飯食べさせたりしてくれてたからね。
      十四松の真似して言ったのかな。」
    チ「そーなんだ。」
    お「じゃあおれはー?おれおれ!!」
    カ「あー…おそ松は…」
    お「?」

    カラ松は気まずそうに視線を泳がせてから一松の方を向いた。
    が、一松はそんなカラ松の視線にも動じることはなく。

    一「『おっぱい』」
    お「ん?」
    一「だから、『おっぱい』
      おそ松が最初に喋った言葉。」
    お「おっぱい?」
    一「うん。」
    お「なんで?」
    一「さあ?」
    お「まじウケる!!」
    一「そらコッチの台詞だ。」
    カ「んんん?コッチの台詞なのか?!」

    気付けば十四松の宿題に関係なく、兄弟の最初の言葉の話になっていた。
    宿題をしなければならない十四松本人はというと
    特にそれに気にする様子もなく、兄弟の話を聞きながら楽しそうだ。

    ト「プフッ…おそ松『おっぱい』とか!」
    チ「おそ松おまえ…」
    お「なんだよーいいじゃんかー!」
    十「えー?おそ松らしくていいと思うよー?
      まじウケるね!」

    新生松野家は本日も騒がしい。

    ーーーーー

    オマケ2
    母と娘のお買い物


    一「トド松、買い物行くから手伝って。」
    ト「はーい。」

    夕方、パートから帰ってきた一松はリビングでくつろいでいたトド松に声をかけた。
    スーパーの卵特売お一人様1パックまで、だとか
    野菜ジュース箱売りお一人様1箱まで、だとか
    そういった特売には母によって子供達が駆り出されるのはどこの家庭でも同じだろう。
    トド松も、今日はそういう特売があるのだろうと特に疑問も持たずに返事をした。
    素直についてけば、この母は自分の好きなおやつを買ってくれるし
    別にそうでなくても買い物に出かけるくらいなんてことない。
    それに、一松と2人で出掛けるのが密かにトド松は好きだった。


    トド松に前世の記憶が蘇ったのは小学校に上がった頃だ。
    桜舞い散る入学式の日、淡い桃色のワンピースに白のボレロを纏い
    胸元にはピンク色のバラのコサージュを身につけたトド松を見て
    「トッティかわいーね!」
    と笑う兄の十四松の顔を見て、静かに脳裏に浮上した一つの情景。

    桜並木の下、一つ上の兄に背負われて微睡む自身と、前を歩く兄達。
    兄達は一様に缶ビールを手にしていた。
    今日この日みたいに、桜の花びらが風に乗ってヒラヒラと舞い散る季節だった。

    入学式の帰り道、
    「ねぇ…僕らって六つ子だったりした?」
    と、手を引いて歩くカラ松に尋ねたトド松は両親を随分と驚かせた。
    数年前に記憶を取り戻した十四松と大きく違っていたのは、
    トド松は十四松のように一気に大量の記憶が蘇らなかった事だ。
    最初はボンヤリと、かつての六つ子の兄弟だった、程度しか思い出さなかった。
    それから事あるごとに前世の記憶が少しずつトド松の中に蘇り
    その記憶はゆっくりゆっくりとトド松に溶け込んでいった。


    さて、そんなトド松だが前世は前世、今は今とこの現状を割り切って考えているようで
    両親がかつての兄弟だったという事実もさして問題視していない。
    幼さ故もあるかもしれないが、その辺はさすがのドライモンスターである。

    ト「あれ?スーパー行くんじゃないの?どこ向かってる??」
    一「今日はね、駅近くのショッピングモールまで行くよ。」
    ト「え、そうなの?何買うの?」
    一「トド松、友達のお誕生日会に呼ばれたんでしょ?
      プレゼントと、あとその時に着ていく服買いに行こ。」
    ト「え…!」

    確かに、先日トド松は仲良くなった友達のお誕生日会に招待されていた。
    その事を母である一松に伝えたのは昨日の事だ。
    プレゼントを用意しなければとは考えていたが、
    まさか一松がこうして先に動いてくれるとは思っていなかった。
    驚いて隣を歩く母を見上げるトド松の視線に気付き、
    更にその心情を察したのであろう一松は、いたずらっぽく笑った。

    一「今月ね、ヘルプ要請があってパート入ったりしてたから臨時収入があったの。
      だから少し余裕があるんだよ。男共には内緒、ね?」
    ト「…うん!ありがと、一松かあさん!!」

    今世で女性として生まれてきたのは、一松とトド松だけだ。
    トド松を特別可愛がって甘やかしているのはカラ松だが
    一松もこうして兄弟唯一の女の子であるトド松をちゃんと気にかけてくれているのがわかって
    トド松はなんだかくすぐったい気持ちになった。
    改めて、トド松はまじまじと一松を眺めてみる。
    一松は肩まである髪を右耳の横で淡い紫のシュシュで一つにまとめている。
    少しクセのある髪は緩くウェーブを描き、シュシュから零れ落ちた髪は
    歩く度にフワリと靡いていた。
    オフホワイトのタートルネックにシュシュと同じ淡い紫のカーディガン、下はロングスカート。
    こうして見てみると、どこからどう見てもイイ所の奥様だ。
    それなのに確かに六つ子の兄弟だった頃の面影も色濃く残っているのだから不思議だ。

    一「…トド松、どうかした?」
    ト「ううん、なんでもないよ。」
    一「そう…?」

    たどり着いたショッピングモールでメ●ピアノやポンポ○ットを物色し
    友達へのプレゼントと可愛い洋服を買ってもらったトド松は
    上機嫌で一松と並んで帰路についていた。

    ト「ねぇ、一松かあさんってさ、なんだかんだで
      僕に可愛い服とかアクセとか買ってくれるよね。」
    一「んー…?そう?たまにでしょ。」
    ト「そうだけど、なんか意外だなって。
      だって前世の『一松兄さん』はそういうの無頓着だったもん。」
    一「そりゃ、前世はね。」
    ト「今世はちがうの?」
    一「どーかなぁ…。
      僕はそこまで気にしないし、女子力とかもないけど。
      でもさ…ほら、トド松はせっかく可愛い女の子として生まれてきたんだもん。
      トド松は自分で勝手に女子力は磨くだろうから、
      その辺は放っておいても大丈夫だろうから心配してないんだけど。
      だから、僕は親としてその手助けくらいはするべきかなって思っただけ。」
    ト「…それで、可愛い服?」
    一「そう。嫌だった?」
    ト「ううん!嬉しい!!」
    一「なら良かった。」

    一松が自分の事を可愛い娘だと思ってくれていたことが素直に嬉しくて
    トド松は思わず顔を赤くした。
    そんなトド松を見て目を細める姿は母のそれなのに、
    確かにトド松がよく知る兄だ。
    本当に、今世はこの上なく面白い形で6人が揃ったものだとつくづく思う。

    ト「ねぇ、僕が大きくなっても、大人になっても
      またこうして一緒に買い物行ってくれる?」
    一「…トド松がいいなら、いいよ。」

    夕焼けが2つの長い影を作っていた。


    ーーー

    お粗末さまでした!
    #BL松 #カラ一 #転生 #女体化 ##転生カラ一

    ※非常に読む人を選ぶ文です。
    この作品は以下の要素を含みます。
    少しでも嫌悪感を感じましたら、今すぐブラウザバックをお願いいたします。
    ①転生パロです
    ②キャラの女体化、妊娠・出産の描写を含みます
     (一松とトド松が女の子)
    ③当然のようにキャラ崩壊
    ④書きたいところだけ書いてます

    ーーーーー

    1.

    いろいろあって結婚相手が前世で愛した兄弟だったり、
    生まれてきた息子が前世の兄弟だったりとトンデモナイ展開に見舞われたワケだが、
    そんな事実は何処吹く風、家庭内は至って平和で穏やかな日々が続いていた。
    今世では第1子長男となった十四松はちょっぴり泣き虫な、
    けれど明るく元気いっぱいな子にすくすく成長中だ。
    ただ今休日の昼下がり。
    今年で2歳になった十四松はカラ松と共に玩具のボールとバットを両手に抱えて外へと飛び出して行った。

    一松は2階にある夫婦の寝室で、先月生まれた娘の授乳中だった。
    2年前に十四松が生まれた時点である程度の覚悟はしていたが、
    第2子として誕生したこの娘、やはり何の因果か前世の兄弟だったのだ。
    今世は一松と同じく女の性を持って生まれた娘は大きめの瞳と
    可愛らしいアヒル口を持つ、かつての末弟トド松だ。
    ちなみに、生まれたばかりのトド松を見た瞬間

    「一松、どうしよう娘だ!
     娘ってだけでめちゃくちゃ可愛い!娘超可愛い!!
     きっと美人に育つんだろうな、ああああでも絶対お嫁になんて行かせない!
     彼氏なんて連れてきたら決闘だ!
     娘可愛い!!
     oh マイリトルスイートエンジェル!!」

    と、カラ松が若干キャラを見失いかけながらも、
    しかし安定のイタさとウザさで大興奮だった事もココにお伝えしておく。
    大層な大はしゃぎっぷりだったがこの男、もうそろそろ三十路に突入である。
    そんなカラ松を黙らせなければという前世から続く謎の義務感によって
    「うるせぇ黙れクソ松!」と一松が横っ腹に一発御見舞したのは言うまでもない。
    娘を構いたくて仕方ないカラ松が率先してトド松の世話を焼いてくれたため、
    一松は諸々楽する事ができたのでその辺は感謝しているが。
    ウザイものはどうにも殴って止めなければ気が済まないのである。
    普段キリリと上がった男らしい眉を下げながらトド松の世話を焼くカラ松を間近め見ていたせいか、
    十四松も妹を可愛がり、懸命にお兄ちゃんしようとしている様子は非常に微笑ましかった。

    授乳を終えた頃、遊びに出掛けていたカラ松と十四松が帰ってきた。
    玄関から微かに聞こえてくるカラ松の声に耳をすますと、
    どうやら十四松を連れて風呂場へ直行したようだ。
    きっとたくさん遊んで泥んこになって帰ってきたのだろう。
    そう考えながら、一松はトド松の背中をトントンと叩いてゲップを促す。

    しばらくしてトド松から「げぷっ」と声が聞こえたのと同時に、1階が何やら騒がしくなった。
    トド松もちゃんとゲップ出せたし丁度いいと思い、
    一松は母乳を飲み終えてウトウトしているトド松を腕に抱えて階段を降りた。
    リビングに足を踏み入れると

    カ「十四松!じゅうしまぁ~つ!
      ストップ!ストーップ!!待ちなさい!」
    十「あいあい!」
    カ「いや、止まれ!止まってくれ!!」
    十「あんしんしてください!はいてますよ!!」
    カ「いやいやいや、履いてない!何も履いてない!
      何も安心出来ないぞじゅうしまぁ~つ!!
      服来たら好きなだけ走っていいから!」

    一「…なんだコレ。」

    そこには生まれたてすっぽんぽん状態でキャッキャと走り回る十四松と、
    それを追い掛けるカラ松の姿があった。
    カラ松も十四松と一緒に汗を流したのだろう、バスローブ1枚羽織っただけだ。
    十四松は2歳児とは思えない身のこなしでカラ松の腕をすり抜け
    ちょこまかと楽しそうに逃げ回っている。
    楽しそうに逃げ回る2歳児と必死に追い掛ける三十路のバスローブ男性…実にシュールな光景である。
    クソほど頑丈なカラ松はどうでもいいが、
    まだ幼い十四松がこのまま湯冷めして風邪を引いてしまうのはいただけない。
    仕方なく、一松は助け舟を出すことにした。

    一「十四松、おいで。」
    十「あい!」

    一松が呼ぶと、十四松はパッと明るい笑顔を向けてこちらへ駆け寄ってきた。
    カラ松が「俺の苦労は一体…」と涙しているので、
    「外遊びとシャワーありがとね」と一応労いの言葉をかけておく。
    その一言で復活したカラ松に、こいつチョロ過ぎないかと
    一松は少し心配になったが、深く考えるのはやめておいた。
    折角シャワーを浴びたのに再び汗をかいてしまったカラ松から十四松の着替えを受け取ると、
    腕に抱えていたトド松をベビーベッドに下ろし、一松は十四松をささっと着替えさせた。

    一「十四松、次からはお風呂から出たらすぐに服着ような。」
    十「あい!」
    一「約束できる?」
    十「あい!やくそく!」
    一「ん、いい子。」
    カ「十四松、次から追いかけっこは服を着てからだぜ?アンダースタン?」
    十「あいあい!」
    カ「フッ…頼むぜ、我が息子よ。」

    カラ松と十四松の愉快な追いかけっこが一段落したところで、
    十四松が何かを思い出したように「そーだ!」と玄関へ駆けていった。
    一松は頭上にクエスチョンマークを浮かべているが、
    カラ松は思い当たることがあったらしい。
    程なくして十四松はパタパタと軽やかな足音を響かせて戻ってきた。

    十「ママ、これあげる!」
    一「ん…ありがと、十四松。…これ、どんぐり?」
    十「どんぐり!こうえんにね、いっぱいおちてた!」
    一「へー。たくさん拾ってきたね。」
    十「あい!これはママのぶんで、これはトッティのぶん!」
    一「…トッティ?」
    十「トッティ!トドまつー!」
    一「……そ、う。
      十四松、トド松の分もちゃんと拾ってきてくれたんだ。
      ありがとね。」
    十「えへへー」
    一「ところで何でトッティなの?」
    十「んー?んー…なんでかなぁ?わかんない!」

    チラリとカラ松の方を見ると、
    「俺が教えたワケじゃないぞ。気付けばこう呼んでたんだ。」
    と、眉尻を下げながら一松が聞こうとした事の答えを先回りして答えてくれた。
    "トッティ"はご存知トド松のあだ名だ。
    けれどカラ松も一松も今世のトド松を1度もそのあだ名で呼んだ事はない。
    因みに、一松に至っては十四松やトド松の前ではカラ松の事をクソ松呼ばわりしないようにしている。
    生後1ヶ月の、交友関係など当然築いていないトド松に、あだ名を付けるような友人はまだいない。
    つまり十四松が自分で呼び始めた事になる。
    前世の記憶があるのだろうかと思ったが、十四松の様子を見る限りそのような様子ではない。
    生まれ変わる前からこういった勘は野生並みだったから、
    本能で無意識にそのあだ名が出てきたのかもしれない。

    今思えば、この時に既に兆候は顕れていたのだ。

    ーーー

    そして月日は更に流れ、
    十四松は5歳に、トド松は3歳になった頃。

    ト「やあぁぁーーだああ!
      トドうさぎさんがいいのーーー!!」
    一「うん、気持ちはわかるんだけどね、
      ウサギさん今洗濯中なんだよ。
      アヒルさんとネコさんならあるよ?どっちがいい?」
    ト「ヤ!!うさぎさんっ!!」
    一「うーん、参ったな~。」

    朝の時間とは、即ち戦争の時間である。
    トド松はまだまだイヤイヤ期が抜けず、
    靴下選び1つとっても毎回のようにこんな調子だ。

    一「うーん、じゃあトド松。とりあえずジュース飲む?」
    ト「のむ~♪」

    こういう時は全く違う事に意識を向けさせてしまうに限る。
    一松の作戦が功を奏し、トド松はジュースで機嫌も直ったようだ。
    十四松のイヤイヤ期はそこまで激しくなかったが、トド松はどうにも自己主張が激しい。
    女の子は言語の発達が早いと言うが、確かに十四松と比べても言葉も達者である。
    ハイハイや歩き始めるのは十四松より大分ゆっくりだったが。

    一松がトド松に手を焼いている横では、カラ松がコーヒーを啜りつつ
    ご飯を頬張る十四松を見守っている。
    やがて朝ご飯を食べ終えた十四松が一松に飛び付いてきた。

    十「たべたー!ごちそうさまー!どぅーーん!!」
    一「うわっ」
    カ「十四松!ママのお腹には赤ちゃんがいるんだから
      ぶつかったらダメだと言っただろう?!」
    十「あ…!あい。ごめんなさい…。
      ママ、だいじょうぶ?」
    一「大丈夫、大丈夫。次から気をつけような。」
    十「あい!」

    十四松とはいえ、まだ身体が小さいしそこまで思い切りぶつかってきた
    ワケではないので、大したダメージではなかった。
    そう、現在一松は第3子を妊娠中だ。
    3人目はつわりも軽かったし、特に大きなトラブルもなく順調に育っている。
    ただ、胎動が激しい。
    お腹を蹴る力がやたらと強くて、一松は何度夜中に目を覚ましたか分からない。
    元気な証拠だと思って気にしないようにしているが。

    気付けば、十四松とトド松が一松のお腹にしがみついていた。

    一「2人ともどうした?赤ちゃん動いてる?」
    十「あいさつしてる!」
    ト「トドもあいさつ~♪」
    カ「はは、赤ちゃんは何か言ってるか?」
    ト「ぽんぽんけっけしてる!」
    一「うん、お腹蹴ってるね。あいさつしてるのかな。」
    十「………」
    一「…十四松?」

    一松の大きなお腹にしがみつき、耳をピタリと腹に当てたまま十四松は黙りこくってしまった。
    具合でも悪くなったのか、と危惧した一松が声をかけると、
    十四松は一松を見上げて二パッと笑った。
    具合が悪いわけではなさそうだ。
    その事にホッとしつつも、十四松の向ける笑顔が気になった。
    それは、一松もカラ松もとてもよく知る懐かしい笑顔で。

    一「十四松?」
    十「チョロまつにいさんだ」
    一「…え?!」
    十「いちまつかーさんのおなかにいるの、
      チョロまつにいさんだよ!」

    まだ5歳の幼い子供の声で、しかし十四松はしっかりとした口調でそう言った。
    カラ松と一松が思わず顔を見合わせる。
    トド松はわけが分からずキョトンとしていた。

    カ「十四松、お前…。」
    十「あはは!カラまつにいさんがおとーさんで、
      いちまつにいさんがおかーさんになってる!
      ぼく、こんどはちょうなんだ!すっげーね!!」
    一「十四松、思い出した…の…?!」
    十「うっす!おもいだしちゃった!
      マッスルマッスル!ハッスルハッスル!」

    カラ松と一松が再び顔を見合わせた。
    2人ともその目は驚愕に満ちている。
    カラ松も一松も前世の記憶があるのだから、将来子供たちにも記憶が蘇ることは十分に考えられた。
    トド松が生まれた時も、誰に教えられたわけでもなく「トッティ」と呼んだりしていたが。
    けれどまさか。
    まさか、こんなに早く十四松が前世を思い出すとは思ってもみなかったのだ。
    まだまだ幼い身体と心で、自身とは他の誰かの記憶を抱えるのはかなりの負担だ。
    カラ松も一松も記憶が戻ったのは成人後だが、それでも最初は大いに戸惑った。

    一「…カラ松、そろそろ出ないと時間ないよ。」
    カ「いや、だが…!」
    一「ひとまず十四松は僕が見ておくから。」
    カ「…分かった、頼んだぞ。
      何かあったらすぐに連絡してくれ。」
    一「ん。いってらっしゃい。」
    十「いってらっしゃーい!」
    ト「パパいってらっしゃーい!」
    カ「ああ、いってきます」

    カラ松を見送った後、一松は十四松に向き直った。
    見返してくる無邪気な目は、一松のよく知る六つ子の弟としての十四松の目だった。

    一「さっき思い出したの?」
    十「うん!さっき!」
    一「そっか…どこまで思い出した?」
    十「うーんとね、わりといろいろ!」
    一「いろいろ?」
    十「うん!
      ちいさいころは、いっつもぼくがなきべそかいてて、
      いちまつにいさんがぼくのうで、ひいててくれてたよね!
      ぼくら6にんで、いれかわってイタズラとかしてた!
      それから、カラまつにいさんとやねのうえでうたったり、
      いちまつにいさんとやきうしたりしたね!
      あ、トッティのバイトさきでパフェたべたり、
      プラスとマイナスになっちゃったり、
      ダヨーンのなかにすいこまれちゃったり、
      あとやきう!!」
    一「…そうだね。」
    十「えっとね、えっと…うぇ…い、ろいろ…ヒック、
      おぼえて、ぼく、おぼえてるっ!
      う、うぇぇぇ…!」
    一「十四松!」

    前世の記憶を必死で一松に伝えていた十四松は、限界がきたのか泣き出してしまった。
    一松が小さな十四松を抱きしめる。
    背中をトントンと優しく叩き、「大丈夫だから、大丈夫」と繰り返した。
    トド松が心配そうにこちらを見ている。
    大きな瞳は揺らいでいて、今にも涙が零れ落ちそうだ。

    ト「おにいちゃん、どうしたの?いたいの?」
    一「大丈夫、トド松もこっちおいで。」
    ト「おにいちゃん、トドがイイコイイコしてあげるね」
    十「ヒック…グスっ…うわあぁぁぁぁん!!」
    一「よしよし」
    ト「おにいちゃんイイコ、イイコ…
      なかないで…なか、な…ふぇっ…ぐすっ…」

    十四松の話を聞いた限り、この子はほとんどの記憶を取り戻している。
    幼い身体と心がそう容易く耐えられるわけがないのだ。
    大声を上げて泣き出した十四松につられてトド松も泣き出してしまい、
    そんな2人を一松はしばらくの間、ただただ抱きしめ続けていた。

    どれくらいそうしていただろうか。
    泣き疲れて眠ってしまった十四松とトド松をベッドに運び、
    十四松が通う幼稚園に今日は欠席する旨の連絡を済ませると、一松は深く溜息を吐いた。

    十四松、お前はお前だよ。
    お前の人生なんだ。前世の記憶に引っ張られる事なんてないんだよ。
    お前の好きにしていいんだよ。
    僕もカラ松も、今世の十四松が今世の十四松らしく生きていけることを願っている。
    そう、心で願った。



    やがて3人目が生まれた頃には、カラ松と一松の心配をよそに
    十四松はすっかり落ち着きを取り戻していた。
    幼い子供ながらに、前世の記憶を受け入れたようだ。
    元より前世の十四松は成人後もまるで無邪気な子供のような面があったためか、
    さほど大きな影響も出なかったらしい。
    それでも言動は少々大人びた。

    生まれた3人目は十四松が予言した通り、
    小さめの瞳にへの字口という紛れもなくチョロ松だった。
    前世でも今世でも3番目だ。
    超安産だった。すんなり生まれてくれてありがとう、さすがはチョロ松。

    一「そういえば十四松、どうしてチョロ松だってわかったの?」
    十「えーとね、こえがしたんだよ!」
    カ「声?」
    十「うん!いちまつかーさんのおなかに、みみをあてたらね、
      チョロまつにいさんのこえがしたの!
      それでね、いろいろおもいだしたんだよ!」
    一「そっかー。」
    カ「よくわからんが、お腹から聞こえたというチョロ松の声が
      十四松の記憶が戻るきっかけになったという事か?」
    一「たぶんそうだと思う…ってトド松!コラ叩いちゃダメ!」
    ト「ダメ?」
    一「ダメ!」

    トド松が目をキラキラさせながら一松の腕に抱かれて眠る生後1週間のチョロ松を覗き込み
    小さな額をペチペチと頻りに叩いている。
    止めろと言っても止める気配がない。
    この様子に、カラ松と一松は今世におけるトド松とチョロ松の関係性が見えた気がした。
    トド松は今世では女の子で「姉」だ。
    そしてチョロ松は今世では男の子で「弟」だ。
    弟とはどうやっても姉に勝つのは難しい。
    悲しいかなそういう生き物だ。

    (頑張れ、チョロ松。ご愁傷様、チョロ松…。)

    カラ松と一松は目が合うと思わず同時に苦笑いを浮かべたのだった。

    ーーーーー

    2.

    しつこいようだが、朝とは即ち戦いの時間である。
    それに拍車をかけたのは、間違いなく前世における我らが六つ子の長男にして、
    今世では末っ子として生まれてきたおそ松の存在だ。
    今年で小学校に上がる十四松は食事も着替えも自分のことは自分でできるようになり、
    尚且つトド松やチョロ松の面倒を見てくれるようになった。
    今年で年中のトド松はそんな兄の十四松にベッタリで、最近では
    「ぼく、おおきくなったらじゅーしまつおにーちゃんとけっこんする!」
    と宣言するくらいのブラコンっぷりだ。
    完全なる余談だが、
    「そこは『大きくなったらパパと結婚する』が定番じゃないのか…」
    と、唯一の娘であるトド松を特に可愛がっているカラ松が拗ねて一松に冷めた目で見られ、
    十四松に「ドンマイ、カラまつとーさん」と頭を撫でられていたりした。
    2歳になったチョロ松はトド松のように口達者にわがままは言わないものの、とにかくじっとしていない。
    しかも逃げ足が早いので片時も目を離すことができない。
    そして、生後半年に突入した末っ子おそ松は、とにかくやかましい。
    少しでも一松が傍を離れると、たちまち大声で泣きわめく。
    そんなワケで、一松がトド松やチョロ松に朝ご飯を食べさせたり着替えさせたりする時は、
    いつもおそ松のぎゃーぎゃー喚く泣き声がBGMだった。
    それに対してチョロ松が幼児特有の甲高い声で
    「うるせぇぇぇ!!」
    と怒鳴るものだから更にギャン泣きが悪化するという負のスパイラルである。
    ちなみに、そんなおそ松だがカラ松が抱っこしても泣き止まないのだから困ったものだ。
    どうやら一松でないとダメらしい。
    十四松もトド松もチョロ松もそんな事はなかったというのに
    何故おそ松だけ懐いてくれないのか。
    不可解だ。実に不可解だ。
    そんなに俺が父親なのが気に食わないかおそ松このやろう。

    思えば、おそ松は一松のお腹に宿った時からすでに大変手の掛かる子であった。
    妊娠初期には今までで一番重たいつわりに悩まされ、
    ついには一松は水さえ飲むことができずに入院する羽目になり
    しかも重たいつわりは安定期に入っても中々治まってくれなかったし。
    安定期に入ると度々一松はお腹の張りを訴え、
    切迫早産で絶対安静を強いられ再び入院する羽目になり。
    やっと後期に入ったと思ったら今度は逆児が判明したため
    4人目にして初めて一松は逆児体操をしていたのだが、
    努力の甲斐も虚しく逆児は結局直らず。
    それに加えてどうやら胎盤の位置が産道を妨げていたらしく、早々に帝王切開が決定した。
    カラ松は不安がったが、
    「母子共に最も命に危険がない方法だ」
    と医師から説明され、頷くしかなかった。
    一松は自分の腹を切開するどうこうよりも
    「じゃぁ逆児体操する意味なかったんじゃないの」
    とそちらの方をブツクサ文句を言っていた。
    カラ松が一松に「不安じゃないのか」と聞くと
    「え?別にいいよ、だってお腹の子の命が最優先でしょ」とケロッと返された。
    もちろん、一松にも不安が全くなかったわけではないのだろうが
    母は強し。とこの時ほど痛感した日はない。
    帝王切開することが決まっているため、生まれる日も決まっているはずだったのだが
    薬を服用してもお腹の張りが治まらず
    結局予定日よりも2ヶ月以上早く陣痛が始まってしまい
    更には出血が酷かったため、救急車で担ぎ込まれた一松は緊急帝王切開となり
    おそ松は未熟児のラインをギリギリクリアする小ささでなんとか無事に生まれてきた。
    それでも生後3日間は保育器の中だったため、随分心配させたものだ。

    おそ松が生まれた直後の会話を思い出す。

    カ「今回は本当に大変だったな…一松、本当にお疲れ。」
    一「本当に大変だったよ…。
      カラ松も僕が入院してる間わざわざ会社休んで
      十四松たちの面倒見ててくれてありがと。」
    カ「当然だろう!
      俺に出来る事と言ったらそのくらいしかなかったしな。
      …身体の調子どうだ?」
    一「めっちゃお腹痛い…全然身体動かせないヤバイ。
      はぁ…まだお腹にいた方がいい時期だったのに…
      …可哀想なことしちゃった。」
    カ「そうか。…無理するなよ。
      それに、おそ松が待ちきれなくて早く出てきてしまっただけだ。
      一松がその事に責任を感じることはないぞ。
      家の事は気にしないでいいからな。お義母さんも来てくれてるし。」
    一「ん。…それにしても本当に、随分とせっかちだったね、おそ松兄さん。」
    カ「一番最後だったからな。待ちくたびれたんじゃないか?」
    一「おそ松兄さんってばどんだけ構ってちゃんなんだよって話だよね…。
      本当散っ々な目に遭わせてくれたよね。
      そんなに僕の股から出てくるのが嫌だったのかな。
      てめぇの腹かっ開けってか…ヒヒ…あ、ヤバお腹痛い。イタタタ…。」
    カ「だっ大丈夫か一松!いろんな意味で!!」
    一「大丈夫なワケあるかボケころすぞ」
    カ「ヒッすいません!」

    一松は若干の闇オーラを発していたが、妊娠中に散々大変な思いをしていたのは
    間近で見ていて十分に知っていたため何も言えなかった。
    少しくらい愚痴がこぼれても仕方あるまい。
    お腹の中にいた時から構ってちゃんだったおそ松は、生まれてからもやはり構ってちゃんだった。

    ーーー

    カラ松が帰宅する頃には子供達は既に夢の中だ。
    手の掛かるおそ松も、今のところまだ夜泣きは始まっておらず夜は比較的ぐっすり眠ってくれていた。
    リビングに入ると、テーブルにはラップのかけられた1人分の夕食が置かれている。
    ネクタイを解きながら、それをレンジに入れて温めていると、2階から一松が降りてきた。
    玄関が開く音が聞こえたのだろう。

    一「おかえり。」
    カ「ああ、ただいま。」

    キッチンへ引っ込んだ一松は、温かいお茶を持って戻ってきた。
    その手に湯呑みは2つ。
    どうやら一松もここで一休みするらしい。
    夕飯を咀嚼しつつ、カラ松は向かいに腰掛けた一松に話しかけた。

    カ「毎日お疲れ様だな。」
    一「ん。まぁ確かに毎日戦争だよね。でもまぁ、意外となんとかなるモンだね…。」
    カ「一松は何気に要領がいいからな。」
    一「…そっちこそ、毎日…仕事、お疲れ。」
    カ「ああ、ありがとう!大切な家族のためだからな。愛してるぞ一松!」
    一「うるせぇ黙れ。」
    カ「何で?!」

    ドスのきいた一松の声に一瞬怯んだが、照れ隠しだと理解しているカラ松は後ろから一松を抱きすくめた。
    肩口に顔を埋め、腕にぎゅうと力を込めると、「痛いわ馬鹿力が」と一松から抗議の声が上がった。
    その言葉に多少腕の力は緩めたものの、開放するつもりはない。
    微かに石鹸とシャンプーの柔らかな香りがした。

    カ「一松。」
    一「…なに、どうしたの。」
    カ「いや、最近ご無沙汰だと思ってな…。」
    一「な、お、お前な…!」

    悪態をつきながらも、顔を背けた一松の頬が朱色に染まったのを見逃さなかったカラ松は
    耳元でいつもより低い声で囁いた。
    前世も今世も、一松はどうやらカラ松の声に弱いらしい事はなんとなく解っている。

    カ「…一松。」
    一「~~~っ!」
    カ「なぁ、一松…いいだろ?」

    一「…………ん。いい、よ。」

    耳まで赤くした一松にフ、と笑みを零し、
    後ろから抱きしめた体制のまま一松の頬に手を添え、口付けようとしたその時、

    お「うあ゛ああああぁぁぁん!」

    一「え、あっ、おそ松起きた…?!」
    カ「Why?!何で今日に限って夜中に目を覚ますんだおそ松!!」
    一「まあ、仕方ないね。」
    カ「くっ…まさか我が聖なる領域の中に俺達の甘美な夜の邪魔する者がいようとは…!」
    一「はいはい、拗ねない拗ねない。」

    明らかにブスくれているカラ松の頭を、まるで子供をあやすようにポンポンと撫でた一松は
    カラ松の腕からするりと抜け出し、幼い我が子の元へ向かった。
    階段を上りながら「ついに夜泣きが始まったかなー?」なんて呑気に呟いている。
    小さな子がいるのだから仕方ない。
    仕方ないのは、カラ松も頭では理解している。
    しているのだが…。

    (邪魔したようにしか見えないぞ、兄貴…!いや、マイサンおそ松!!)

    高ぶっていた気持ちを何とか沈めようと、カラ松は深く溜息を吐いて
    ダイニングテーブルに置かれた椅子に腰掛けた。
    そういえば、まだ夕食を食べていなかった。
    一度温めていたが、すっかり冷めてしまっている。
    かといって温め直すのも億劫だったため、このまま箸を取った。
    冷めても美味しいし、問題ない。

    黙々と咀嚼を繰り返していると、泣き声がこちらに近づいてきた。
    扉に目を向けていると、泣き喚くおそ松を腕に抱いた一松が顔を出した。
    なかなか泣き止まないので下に連れてきたようだ。

    一「おそ松は1回泣き出すと泣き止まないねぇ…。」
    カ「いつも思うんだが、おそ松の泣き方って兄弟で一番やかましいな。」
    一「だね。
      声が大きいのは十四松だけど、泣き声はそこまで酷くなかったし。
      てゆーか、十四松はよく笑いよく寝る子だったから。」
    カ「トド松は女の子なだけあって泣き方も可愛らしかったしな。」
    一「チョロ松はギャーギャー喚くような泣き方じゃなかったしね。」
    カ「…おそ松は生まれ変わっても構ってちゃんか。
      今世では俺がその根性叩き直してやる。」
    一「カラ松っておそ松兄さんには容赦ないよね。
      今世のおそ松くんはまだ赤ちゃんだからね?」
    カ「もちろん、それはわかっているぞ!」

    かといって、久々の夫婦の甘い時間を邪魔された恨みは消えないのだが。
    これが他の…チョロ松か十四松かトド松だったら仕方ない、で済ませてしまえただろうに
    やはりカラ松はおそ松には幾分容赦がない。

    一「カラ松。」
    カ「…うん?」
    一「続きは…また、今度。…ね?」
    カ「……っ!ああ!!」

    続きを再開出来たのは、それから半月後だった。

    ーーーーー


    オマケ1
    最初の言葉


    一「初めて喋った言葉?」
    十「うん!学校の宿題でね、出されたんだ!」

    この春から小学校6年生となった十四松がそんな事を聞いてきたのは、休日の昼食後のことだった。
    ちなみにトド松は小学校4年生、チョロ松が小学校1年生、おそ松が幼稚園の年中さんだ。
    どうやら、6年生となった今年は幼い頃の自分を振り返るような授業があるらしく、
    小さい頃の写真やら思い出話を両親から聞いてくるように言われたらしい。

    一「十四松が最初に喋ったのは、確か『ママ』だったかな。」
    十「ママ!ぼく初めて話した言葉は『ママ』っすか!」
    一「うん。」
    ト「ねぇねぇ、トドはトドはー?」
    一「トド松?…トド松は『パパ』だったね。」
    ト「えぇー?!」
    カ「えっ…何か不満か?!」
    一「十四松が最初に『ママ』だったからね…
      カラ松ってばトド松は絶対最初にパパって呼んでもらう!
      って躍起になってたから。」
    カ「フッ…毎日『パパ』って囁いた甲斐があったぜ…!」
    ト「何それイッタイよねぇー!
      ってコトは言わされたんじゃん!
      ぼくも十四松兄さんとおそろいでママがよかったー!」
    カ「何故だトド松…!」
    チ「かあさん、じゃあぼくは?」
    十「あ、ぼくチョロ松の最初の言葉覚えてるよ!
      『まんま』って言ってた!」
    チ「そーなの?」
    カ「ああ、そうだったな。」
    一「十四松が「チョロまんまだよー」って
      チョロ松によくご飯食べさせたりしてくれてたからね。
      十四松の真似して言ったのかな。」
    チ「そーなんだ。」
    お「じゃあおれはー?おれおれ!!」
    カ「あー…おそ松は…」
    お「?」

    カラ松は気まずそうに視線を泳がせてから一松の方を向いた。
    が、一松はそんなカラ松の視線にも動じることはなく。

    一「『おっぱい』」
    お「ん?」
    一「だから、『おっぱい』
      おそ松が最初に喋った言葉。」
    お「おっぱい?」
    一「うん。」
    お「なんで?」
    一「さあ?」
    お「まじウケる!!」
    一「そらコッチの台詞だ。」
    カ「んんん?コッチの台詞なのか?!」

    気付けば十四松の宿題に関係なく、兄弟の最初の言葉の話になっていた。
    宿題をしなければならない十四松本人はというと
    特にそれに気にする様子もなく、兄弟の話を聞きながら楽しそうだ。

    ト「プフッ…おそ松『おっぱい』とか!」
    チ「おそ松おまえ…」
    お「なんだよーいいじゃんかー!」
    十「えー?おそ松らしくていいと思うよー?
      まじウケるね!」

    新生松野家は本日も騒がしい。

    ーーーーー

    オマケ2
    母と娘のお買い物


    一「トド松、買い物行くから手伝って。」
    ト「はーい。」

    夕方、パートから帰ってきた一松はリビングでくつろいでいたトド松に声をかけた。
    スーパーの卵特売お一人様1パックまで、だとか
    野菜ジュース箱売りお一人様1箱まで、だとか
    そういった特売には母によって子供達が駆り出されるのはどこの家庭でも同じだろう。
    トド松も、今日はそういう特売があるのだろうと特に疑問も持たずに返事をした。
    素直についてけば、この母は自分の好きなおやつを買ってくれるし
    別にそうでなくても買い物に出かけるくらいなんてことない。
    それに、一松と2人で出掛けるのが密かにトド松は好きだった。


    トド松に前世の記憶が蘇ったのは小学校に上がった頃だ。
    桜舞い散る入学式の日、淡い桃色のワンピースに白のボレロを纏い
    胸元にはピンク色のバラのコサージュを身につけたトド松を見て
    「トッティかわいーね!」
    と笑う兄の十四松の顔を見て、静かに脳裏に浮上した一つの情景。

    桜並木の下、一つ上の兄に背負われて微睡む自身と、前を歩く兄達。
    兄達は一様に缶ビールを手にしていた。
    今日この日みたいに、桜の花びらが風に乗ってヒラヒラと舞い散る季節だった。

    入学式の帰り道、
    「ねぇ…僕らって六つ子だったりした?」
    と、手を引いて歩くカラ松に尋ねたトド松は両親を随分と驚かせた。
    数年前に記憶を取り戻した十四松と大きく違っていたのは、
    トド松は十四松のように一気に大量の記憶が蘇らなかった事だ。
    最初はボンヤリと、かつての六つ子の兄弟だった、程度しか思い出さなかった。
    それから事あるごとに前世の記憶が少しずつトド松の中に蘇り
    その記憶はゆっくりゆっくりとトド松に溶け込んでいった。


    さて、そんなトド松だが前世は前世、今は今とこの現状を割り切って考えているようで
    両親がかつての兄弟だったという事実もさして問題視していない。
    幼さ故もあるかもしれないが、その辺はさすがのドライモンスターである。

    ト「あれ?スーパー行くんじゃないの?どこ向かってる??」
    一「今日はね、駅近くのショッピングモールまで行くよ。」
    ト「え、そうなの?何買うの?」
    一「トド松、友達のお誕生日会に呼ばれたんでしょ?
      プレゼントと、あとその時に着ていく服買いに行こ。」
    ト「え…!」

    確かに、先日トド松は仲良くなった友達のお誕生日会に招待されていた。
    その事を母である一松に伝えたのは昨日の事だ。
    プレゼントを用意しなければとは考えていたが、
    まさか一松がこうして先に動いてくれるとは思っていなかった。
    驚いて隣を歩く母を見上げるトド松の視線に気付き、
    更にその心情を察したのであろう一松は、いたずらっぽく笑った。

    一「今月ね、ヘルプ要請があってパート入ったりしてたから臨時収入があったの。
      だから少し余裕があるんだよ。男共には内緒、ね?」
    ト「…うん!ありがと、一松かあさん!!」

    今世で女性として生まれてきたのは、一松とトド松だけだ。
    トド松を特別可愛がって甘やかしているのはカラ松だが
    一松もこうして兄弟唯一の女の子であるトド松をちゃんと気にかけてくれているのがわかって
    トド松はなんだかくすぐったい気持ちになった。
    改めて、トド松はまじまじと一松を眺めてみる。
    一松は肩まである髪を右耳の横で淡い紫のシュシュで一つにまとめている。
    少しクセのある髪は緩くウェーブを描き、シュシュから零れ落ちた髪は
    歩く度にフワリと靡いていた。
    オフホワイトのタートルネックにシュシュと同じ淡い紫のカーディガン、下はロングスカート。
    こうして見てみると、どこからどう見てもイイ所の奥様だ。
    それなのに確かに六つ子の兄弟だった頃の面影も色濃く残っているのだから不思議だ。

    一「…トド松、どうかした?」
    ト「ううん、なんでもないよ。」
    一「そう…?」

    たどり着いたショッピングモールでメ●ピアノやポンポ○ットを物色し
    友達へのプレゼントと可愛い洋服を買ってもらったトド松は
    上機嫌で一松と並んで帰路についていた。

    ト「ねぇ、一松かあさんってさ、なんだかんだで
      僕に可愛い服とかアクセとか買ってくれるよね。」
    一「んー…?そう?たまにでしょ。」
    ト「そうだけど、なんか意外だなって。
      だって前世の『一松兄さん』はそういうの無頓着だったもん。」
    一「そりゃ、前世はね。」
    ト「今世はちがうの?」
    一「どーかなぁ…。
      僕はそこまで気にしないし、女子力とかもないけど。
      でもさ…ほら、トド松はせっかく可愛い女の子として生まれてきたんだもん。
      トド松は自分で勝手に女子力は磨くだろうから、
      その辺は放っておいても大丈夫だろうから心配してないんだけど。
      だから、僕は親としてその手助けくらいはするべきかなって思っただけ。」
    ト「…それで、可愛い服?」
    一「そう。嫌だった?」
    ト「ううん!嬉しい!!」
    一「なら良かった。」

    一松が自分の事を可愛い娘だと思ってくれていたことが素直に嬉しくて
    トド松は思わず顔を赤くした。
    そんなトド松を見て目を細める姿は母のそれなのに、
    確かにトド松がよく知る兄だ。
    本当に、今世はこの上なく面白い形で6人が揃ったものだとつくづく思う。

    ト「ねぇ、僕が大きくなっても、大人になっても
      またこうして一緒に買い物行ってくれる?」
    一「…トド松がいいなら、いいよ。」

    夕焼けが2つの長い影を作っていた。


    ーーー

    お粗末さまでした!
    焼きナス
  • 【カラ一】この度夫婦になりました #BL松 #カラ一 #転生 #女体化 ##転生カラ一

    ※非常に読む人を選ぶ文です。

    この作品は以下の要素を含みます。
    少しでも嫌悪感を感じましたら、今すぐブラウザバックをお願いいたします。
    ①転生パロです
    ②キャラの女体化、妊娠・出産の描写を含みます
    ③当然のようにキャラ崩壊
    ④書きたいところだけ書いてます

    ーーーーー

    1.


    (なぁ、一松…その、俺は…お前のことが…)

    ………



    ああ、またこの夢だ。



    スマホにセットしたアラーム音が鳴り響く。
    時刻は午前6時過ぎ。
    目覚めは最悪だ。

    一人暮らしのワンルーム。
    家具は必要最低限しかない簡素な部屋だ。
    アラームを止めてのそりと起き上がり
    寝ぼけ眼のままトースターに食パンを突っ込むと顔を洗いに洗面台へ向かった。
    顔を洗い、寝癖を直して部屋に戻るとトースターがチン、と軽快な音を立てた。
    程よく焼けたトーストを皿に移してローテーブルに置き、コップに牛乳を注いでテレビをつけた。
    テレビから流れる朝のニュースを流し見しながらトーストを齧り、
    食べ終わったら歯を磨いて着替えて家を出る。
    これがここ数年の松野カラ松のルーチンワークだ。
    就職を機に一人暮らしを始めて早5年。
    それなりの企業でそれなりの成績を上げているし、友人もいる。
    充実した日々を送っているはずだ。
    だが最近、カラ松にはある悩みがあった。

    夢を見るのだ。

    夢の中で、自分は誰かに想いを伝えようとしている。
    けれどそれは結局最後まで伝えられずに目が覚める。
    最初にこの夢を見たのは中学生の頃だった。
    それからというもの、ふとした時に思い出したように同じ夢を見る。
    夢の中で、カラ松は一松という人物に想いを告げようとしていた。
    わかっているのは一松という名前だけだ。
    夢の中で相手の顔をしっかりと見ているはずなのに、
    目が覚めるとその顔は途端にボヤけて思い出せなくなる。
    それなのに、相手を想う切なく胸が締め付けられるような気持ちは目覚める度に胸に残る。
    この夢から覚めた後は、いつもどうしようもない虚無感に襲われた。
    いっそ泣き出したい程に、確かに夢の中でカラ松は一松という人物を愛していた。

    さて、松野カラ松は容姿は悪くはない方だ。
    それなりの企業に勤めているし、今はそれなりの立場になった。
    言い寄ってくる女性も決して少なくないし、何人かと付き合ったことだってあった。
    しかし、どれもこれも全く長続きしなかったのである。
    興味がない訳ではない。
    恋人を作っていつか結婚して平凡な家庭を持ちたい、という思いがない訳でもない。
    自分を好きだと言ってくれた愛らしく可憐な女性と並んで歩き、
    少し高めのレストランで食事をして、ホテルで甘い時間を過ごして。
    ところがそうして愛の言葉を囁いた時に、脳裏にいつも一松のことが過ぎるのだ。
    どんな美女を相手にしても、いい感じの雰囲気になってきたところで毎回一松の事を思い出してしまう。
    そんなわけで、結局目の前の女性とそれ以上付き合うことが出来ず、呆気なく破局を迎えてしまう。
    それもこれもあの夢のせいだ。
    そもそも一松は実在するのかどうかも定かではない。
    それなのに、カラ松は一松に恋をしていてその影を追っている。
    夢を見る度に実際に会ったことすらない一松に惹かれていく自分自身に気付き、
    カラ松は己の救えなさに溜め息を吐いた。
    胸中に燻る虚しさや寂しさを紛らわそうと、何度か女性と関係を持ったが、
    こんな調子で返って逆効果だと気付き、もうここ最近は一切女性と関係は持っていない。
    どうかしている。
    夢の中の、それも姿を思い出せない相手に恋慕するなんて。
    しかし日毎増していくその想いをどうすることもできず、ただただ翻弄されるばかりだった。

    ーーー

    土曜日。
    完全週休二日制の会社のため、ありがたく休日を謳歌するカラ松はベッドの中で惰眠を貪っていた。
    今日はアラームに起こされることもない。
    日はとうに空高く昇っているが、そんな事はお構いなしに夢心地で微睡んでいた。
    が、
    そんなささやかな幸せの時間を破るようにスマホから着信音が鳴り響いた。
    予期せぬ着信に無理やり起こされたカラ松は眉間に皺を寄せ、寝ぼけ眼のまま手を伸ばしスマホを手に取った。
    相手を確認すると自分の母親の名前が表示されていた。
    その事により一層顔を顰める。
    正直無視したくて仕方ないのだが、そうすると後々もっと面倒な事になるのはこれまでの経験則で分かっている。
    カラ松は目を擦りつつ、渋々通話ボタンをタップしてスマホを耳に押し当てた。

    「…もしもし。」
    『もしもし、なんだか声が擦れてるわね。まさかさっきまで寝てたの?』
    「寝てたぞ…今日休日だからな。」
    『あらそう。ちゃんと食べてるの?次のお盆休みには帰って来なさいね?』
    「…ああ。」
    『ところで、来週の日曜日は空けておきなさいね。』
    「…え、何でだ?」
    『父さんがね、お見合い話を持ってきたのよ。何でも得意先の方のお嬢さんなんだとかで。』
    「は?!お見合い?誰が?!」
    『アンタに決まってるでしょ!断ることもできなかったみたいだし、
     父さんの顔を立てると思って、頼むわよ。
     いい加減アンタもそういうの考えてもいいんじゃないの。』
    「え、ちょ…」
    『それじゃ、来週日曜日に赤塚ホテルよ、ちゃんとしたスーツで来なさいね。』
    「いや、待っ」ブツッ

    ツー…ツー…ツー…

    「……嘘だろ。」

    まるで突然の嵐に見舞われたかのようだった。
    全く口を挟む間もなく、一方的に約束を取り付けた母はさっさと通話を切ってしまい、
    後に残るのは呆然としたカラ松の呟きと無機質な機械音のみ。
    唐突に告げられたお見合いの話は、カラ松の心に重くのしかかるばかりであった。
    今までも女性に対して散々な態度しか取れなかったのだ。
    ましてやお見合いだなんて無理に決まっている。
    相手には悪いが、適当に顔だけ合わせて理由を付けて断ってしまおう。
    その方がきっと幸せだ。
    自分にとっても、お見合い相手の女性にとっても。
    カラ松は今日何度目かの溜め息を吐いた。

    ーーー

    迎えた日曜日。
    薄く縦のストライプ模様が入ったスーツにパステルブルーのワイシャツを着たカラ松は、ホテルのロビーに佇んでいた。
    その表情は明らかに沈んでいる。
    表情が冴えない理由は乗り気でないお見合いをしなければならないだけではない。
    今朝またしてもあの夢を見たのだ。
    よりによってお見合いをする今日、見てしまったのだ。
    夢の中で、やっぱり自分は一松という人物に恋焦がれていて、その想いを伝えようとしていた。
    けれど、やはり最後まで想いを口にするのは叶わなかった。
    ただ、いつもと違って一松の姿は少しだけ記憶に残っている。
    ボンヤリとはしているが、確か瞳が深い紫色をしていた。
    瞳の色を覚えていたのは今日が初めてだ。
    それだけで胸の高鳴りを覚えたが、同時にまだ顔も見ていないお見合い相手に罪悪感も感じた。

    久々に会った両親と合流し、ホテルの一階に設けられた上品な装いの和食のレストランの個室に通され、
    相手方を待つことになった。
    憂鬱だ。
    早くこの時間を終えてしまいたい。
    カラ松は俯いてただただ時間が過ぎるのを待っていた。

    しばらく続いた沈黙を破り、個室の襖が開いた。
    反射的に顔を上げたカラ松は、相手女性の顔を見て思わず目を見開いた。

    (一松…?!)

    もう何年も夢の中で恋をしてきた相手。
    顔すらまともに覚えていないのに、何故かそう確信した。

    一松だ、やっと会えた!
    ずっとずっと君を探し求めていたんだ!

    心が、そう叫んでいるようだった。

    薄紫の振袖を身に纏った目の前の女性は、伏し目がちな深い紫色の瞳でカラ松を一瞥すると、
    何も言わずに静かに腰を下ろした。
    凛とした、けれどどこか色香を感じる人だと思った。
    互いの父親が決まり文句を並べた挨拶を交わしているが、それを遮ってカラ松は声を張り上げた。

    「結婚してください!」

    伏して半目状態になっていた振袖女性の目が驚愕でぱっちりと見開かれた。
    カラ松と一松の視線が交わった。

    視線がかち合ったその瞬間、世界が停止した。

    ………



    (なぁ、一松…その、俺は…お前のことが…)

    それを告げたのは確か家に2人きりの夕方だった。
    桜が咲き始め、日中の陽射しが暖かくなってきたものの夜はまだ冷え込む、そんな時期。
    長男はパチンコへ、三男はアイドルのイベントへ、五男と六男は連れ立って何処かへ遊びにそれぞれ出掛けていて、
    家には2人きり。
    お互い自由に家の中で過ごしていたが、チラリと窓際へ目をやると
    壁にもたれ掛かって微睡む一松の姿が目に入った。
    夕陽が一松の白い頬を照らし、窓から入り込む風で柔らかな髪をフワリと靡いた。
    一体どこからやってきたのか、窓から桜の花弁が一片ヒラリと舞い込み、一松の髪に乗った。
    その姿が、とてもとても綺麗に見えて息を呑んだ。

    カラ松は一松に…2つ下の一卵性の兄弟に恋をしていた。

    『一松。』
    『…何。』
    『なあ、一松…その、俺は…』
    『…どうかしたの。』
    『俺は、お前のことが好きだ』
    『……………え。』
    『突然すまない…だが、好きなんだ、一松のことが。』
    『ちょ、ちょっと待って』
    『一松…。』
    『待てってば!』

    一松の瞳に戸惑いの色が浮かんだのがわかった。
    カラ松にやけにキツくあたる一松の鋭い眼差しを直に受け止める度に
    一松がここまで横暴に自身を曝け出せる相手は自分だけなのだと歪んだ優越感を覚えた。
    同時に、その強気な顔を自分の手で歪めてやりたいと、
    その気怠げな目をドロドロに溶かして泣かせてやりたいと、薄暗い欲望が胸を擽った。
    一松もカラ松にキツく当たり散らしながらも、どこかカラ松のことを特別に見ていたことも察していた。
    自分と同じように、一松がカラ松の事を無意識のうちに目で追っているのをカラ松が見逃さないはずがなかった。
    世間一般から見れば到底赦されることのない想いだ。
    報われてはいけない想いだという事はカラ松も一松も十分に理解していた。
    しかし考えてみれば自分達はとうに世間からはじかれている者同士だ。
    そこに更なる不毛を重ねたとて、大して問題ではない。
    カラ松は単純にそう考えていた。

    『…俺は…俺、は…カラ松に応えることは…できない…』
    『何故だ?俺のことは嫌いか?』
    『そ、そうじゃない…!』
    『ならどうして?』
    『あ…アンタはさ、ちゃんといい人を見つけて、結婚して…子供を作って…
     平凡で幸せな家庭を築く方が、似合ってるよ…。
     こんなクズを相手にして…人生を棒に振ることない…。』
    『一松!!』
    『ヒッ…!』
    『…あ、すまない。怖がらせるつもりはなかったんだ。
    なあ、俺は一松と幸せになりたいんだ。一松は俺じゃダメなのか?』
    『俺、は…』

    ……………



    そうだ。
    同性で、実の弟で、しかも一卵性の兄弟という不毛でしかない相手に恋心を抱いていた。
    いつも夢に見ていたあの告白の場面の続きを不意に思い出したのを皮切りに
    脳内に次々と記憶が溢れかえってきた。
    松野カラ松であって、今の松野カラ松ではない、これは前世の記憶なのだと直感的に理解した。
    何故このタイミングで前世の記憶が蘇ったのか。
    十中八九、目の前に座るお見合い相手の女性が原因なのだろう。
    今目の前にいる女性が一松の生まれ変わりなのだ。
    根拠などないが、何故かそう確信できる。
    目が合った途端に見えた先程の白昼夢が、きっとその証明だ。

    脳内の洪水が収まり、カラ松がハッとして現実に帰ると、どうやら自分が声を張り上げてから
    そこまで時間は経っていないらしく、自身の声の余韻が個室から消え去ろうとしている程度だった。
    互いの両親は何事かと呆然としている。
    深い紫を称えるその瞳は、カラ松の突然の言葉に驚いていたものの、すぐにまた細められ、そして妖艶に笑った。
    紅が乗せられた艶やかな唇が開き、静かに言葉が紡がれた。

    「私でよろしければ、謹んでお受け致します。」

    今度こそ完全に置いてけぼりとなった両親を尻目に、お付き合い0日で2人は婚姻を約束した。

    ーーーーー

    2.

    正直、面倒でしかなかった。
    真面目ないい子に育った一松は、それなりに恵まれた人生を歩んできた。
    生まれつき少々身体が弱く、幼い頃は幾度となく入退院を繰り返したものの
    大人になるにつれそれも落ち着いてきた。
    両親に愛情を注がれ、器量の良いお嬢様として何不自由ない暮らしをしてきた。
    それなのに。
    それなのに、時折襲ってくるどうしようもない寂しさと苦しさは一体何なのだろうか。

    最初に気付いたのは中学生の頃だった。
    成績優秀、眉目秀麗、クールな性格だが病弱でいかにも庇護欲をそそる松野一松は
    学校では高嶺の花と云うべきポジションにいた。
    無論、目立つ事が苦手な一松にとってそれは決して本人が望んだポジションではない。
    それでも毎月、毎週のように男子から告白を受けていた。
    しかし、一松がそれに応えることは今までに一度たりともなかった。
    自分でも上手く説明できないのだが、言い寄る男子を見て、「この人は違う」と思ってしまうのだ。
    別に白馬の王子様を夢見ているわけでもないし、理想が高過ぎるわけでもない。
    それなのに「違う」と直感的に思ってしまう。
    一度そう思ってしまうともう受け入れる事なんて一松にはできなかった。
    そうして告白を断り続ける一松の姿は、益々高嶺の花に拍車をかけ、
    何としてでも落とそうとする不貞な輩もちらほら現れたものの、
    ついに学生時代に誰とも付き合うことなく成人を迎えた。
    告白を断る度に己を蝕む虚無感と泣き出したくなるような寂しさ。
    違う、この人じゃない。
    あの人でないとダメなんだ。
    まるで頭のどこかでもう1人の自分がそう叫んでいるようだった。
    あの人が一体誰の事なのか、一松自身にもわからない。
    わからないが、一松はいつも心のどこかで自分でもよくわからない"あの人"を探し求めていた。

    突然お見合いをさせられる事になったのは、大学を卒業して間もない頃だった。
    いつまでもこんな調子の一松を両親が気にして、どうやら強行に出たらしい。
    一度こういう事を体験しておけば、気が変わるかもしれないわよ、とは母の言葉だ。
    聞くところによると、相手は5つ年上のなかなかの企業に勤める人らしい。
    こちらの都合はお構いなしのまま、あれよあれよと事が運び、気付けば着付けも済まされていた。
    両親に気付かれないように、一松は小さく溜め息を吐いた。
    どうせ、お見合いをしたところで変わらない。
    この人は「違う」と思ってしまえばそれまでだ。
    違うと感じてしまえば受け入れられない。
    何か理由を見つけて断ろう。
    慣れない振袖に歩くのも四苦八苦しながら、一松は考えた。

    ホテルの中に設けられた和食レストランの個室の襖が開いた。
    中で待っていたのはいかにも女性受けしそうな精悍な顔立ちの男性。
    お見合い相手の男性は、一松の姿を見て驚いたように目を見開いている。
    一体何をそんなに驚いているのかはわからないが、気にせずに男性の正面に腰を下ろし、
    互いの父親がテンプレに沿った挨拶を始めた時だった。

    「結婚してください!」

    目の前に座る男性がよく通る声でそう言った。
    突然の言葉に今度は一松が目を見開く番となった。
    視線が交わる。
    その目を見て、思った。

    あ、この人だ。

    探し求めていたのは、間違いなくこの人だ、と頭の片隅にいるもう1人の自分が騒ぎ立てた。
    この人だ、この人だ。
    何故そう思ったのか、一松自身にも説明のしようがない。
    ただ、本能的にそう感じたとしか言えないのだが、目の前に座るお見合い相手の男性は
    間違いなく一松が追い求めていた人だった。
    だから、自然と綻ぶ口元をなんとかバレないようにしながら
    男性の、カラ松の言葉に応えた。

    「私でよろしければ、謹んでお受け致します。」

    カコン、と庭園に誂えられた鹿威しの音が聞こえた。

    ーーー

    それからはあっという間だった。
    何度かカラ松と2人で出掛けたりしながら親睦を深めつつ、
    新居を探し家具を揃え、お見合いから半年たった頃に婚姻届を役所に出しに行った。
    あの時本能的にこの人だと感じた己の直感は間違っていなかったようで、
    カラ松と過ごす時間は一松にとって非常に心地好いもので、
    出会って日が浅いのにも関わらず気の置けない相手になっていた。
    まるで、元からそうだったかのように、ごく自然に互いの生活に互いの存在が溶け込んでいった。

    新婚生活は至って順調だ。
    親族のみでささやかな式を挙げ、新婚旅行にも行った。
    新居は閑静な住宅街の一角の新築の戸建てを購入し、ご近所さんも皆いい人達だ。
    カラ松はいつだって優しくこちらを気遣ってくれる。
    けれど。
    時折、本当に時折なのだけど
    カラ松は一松を見つめては、ふと寂しげな表情をする事があった。
    その顔はカラ松でありながら別の誰かのようにも見えて、
    同時にその目は一松を見つめながら一松ではない誰かを求めているようにも見えた。
    さり気なく自分が何か気に障る事をしたのかと訊いてみたが、
    一松は何も悪くないのだと自嘲じみた笑みで返されるばかりでそれ以上は何も聞けなかった。

    もしかしたら、カラ松は本当は自分と結婚したくなかったのではないだろうか。
    あのお見合いの席での突然のプロポーズは、実は一松に断ってもらうために言い放った言葉だったのかもしれない。
    だって自分達は一度も、所謂夫婦の営みというやつをしていない。
    ああ、きっとカラ松は嫌々付き合ってくれていたんだ。そうに違いない。
    元より一松はネガティブ思考だ。
    一度思い込んでしまった己の推測を考え直すことのないまま、
    更なる負の連鎖に陥っている事にも気付けていない。
    夕食を作りながら尚も一松は考え込む。
    好きでもないのに付き合わされているなら、解放してあげた方がいいのではないか。
    バツがついてしまうが、カラ松ならすぐに自分なんかよりずっといい人が見つかるだろう。
    あの時、一松は自分が探し求めていたのはカラ松だと本能的に感じた。
    けれど、カラ松にとって探し求めている人は一松ではないのだ。
    あいつは優しいから、自分のことを憐れんで別れを切り出さずにいてくれているのだろう。
    そう考えると自然と涙がこみ上げてきた。
    流れる涙を拭いもせず、一松はキッチンに立ち尽くした。


    「…一松?」

    一体どれだけの間そうしていたのか、気付けばカラ松が帰宅していた。
    一松の様子にカラ松はギョッとした顔をして慌てて駆け寄る。

    「一松?!どうした、何かあったのか?」

    ハラハラと静かに涙を零す一松の顔を心配そうに覗き込み、優しく背中をさすり出した。
    だがその優しさすら、今の一松には苦しくて仕方なかった。

    「やめて…」
    「い、一松?」
    「やめてよ…もう僕なんかに…いい夫を演じることない…」
    「おい、本当にどうしたんだ一松?!」

    どこまでも優しいカラ松に、ひとりネガティブ思考でとことん自虐的になっていた一松は
    背を撫でるカラ松の腕を振り払い、今度は癇癪を起こした子供のように泣き出した。
    カラ松の眉根が困ったように下がったのと同時に
    その顔に昔を懐かしみ慈しむような表情を浮かべた事に一松は気付いていない。

    「無理してっ…僕に、つ、付き…合わないで、いいよっ…!
     すっ好きでも、ないクセにっ…優しく、され、たら…よけい、ツライよ…っ!」
    「一松?何を言っている?!」
    「ねぇ、何でっ…何で、僕とけっこん、なんて…したの…」
    「一松!!」

    しゃくりあげながら言葉を紡ぐ一松をカラ松は強引に腕の中に閉じ込めた。
    一松の薄い肩が跳ね上がったが構わずに力を込められる。

    「カ…カラま「黙れ」っ!」

    いつもより1オクターブ低い声に遮られる。
    一瞬、空気が震えた。
    カラ松を怒らせたのだと理解するのに時間は要しなかった。
    体格の良い男性のカラ松と平均より細く頼りない女性の一松では力の差は歴然で、一松に抜け出すことは不可能だ。
    一体何がどうなっているのか。
    考える暇も与えず、今度は顎を掴まれ上を向かされたかと思ったら唇を塞がれた。
    無理やり口元をこじ開けられ、歯列を舌でなぞられ、驚いて逃げ惑う舌を絡め取られた。
    一松にとって今まで経験したことのない、ねっとりとした濃厚な口付けだった。
    されるがままの状態で呼吸が上手くいかない。
    頭がボンヤリと白んできた。

    …………



    『好きなんだ、一松のことが』

    夕暮れ時に、何の前触れもなく告げられた愛の言葉。
    それは自分が夢にまで見るほどに欲しかった言葉のはずだった。
    けれど、実際にそれを目の前にいとも簡単に差し出されて、一松がまず感じたのは罪悪感と恐怖だった。
    差し伸べられたその手を取れば、甘ったるく幸せな時間を手に入れることができただろう。
    しかしそれは一時のぬるま湯に過ぎない。

    『…俺は…俺、は…カラ松に応えることは…できない…』
    『何故だ?俺のことは嫌いか?』
    『そ、そうじゃない…!』
    『ならどうしてだ?』
    『あ…アンタはさ、ちゃんといい人を見つけて、結婚して…子供を作って…
     平凡で幸せな家庭を築く方が、似合ってるよ…。
     こんなクズを相手にして…人生を棒に振ることない…。』
    『一松!!』
    『ヒッ…!』
    『…あ、すまない。怖がらせるつもりはなかったんだ。
    なあ、俺は一松と幸せになりたいんだ。一松は俺じゃダメなのか?』
    『俺、は…』

    (僕もカラ松が好きだよ。…でも)

    『ごめん…カラ松。』
    『……そうか。』
    『ごめん。』
    『いや…俺こそすまなかった。今のは忘れてくれ。』
    『……。』

    言えない。僕もカラ松が好きだよだなんて、言ってはならない。
    だって不毛過ぎる。
    同性で、実の兄で、しかも一卵性の兄弟で。
    ただでさえ社会不適合者で燃えないゴミの自分がこれ以上罪を重ねてどうするのか。
    いや、自分が罪を背負うのはこの際構わない。
    けどカラ松はダメだ。
    カラ松は、ちゃんといい人を見つけて、幸せになってほしかった。
    自分ではどう足掻いたってカラ松を幸せになんてできやしない。
    だからこの想いは報われてはいけないのだ。

    突然カラ松から想いを告げられた時、本当は天にも飛び上がる程嬉しかった。
    こんな自分を好きだと言ってくれることが泣きたいくらい嬉しかった。
    でも、だからこそ一松はカラ松を突き放した。

    幸せになんてなってはいけない。
    そうだね、来世にでも期待しよう。
    来世来世 ー…

    …………




    まるで貪るようなカラ松の口付けに思わず意識を手放そうとしたところに
    一松の中に突如として再生された、誰かの記憶。
    誰か…いや違う。あれは自分だ。
    あれはかつての自分自身だった。
    六つ子の兄弟の1人だった頃の記憶。
    かつての自分は、実の兄に想いを寄せていた。
    まさか、そのかつての実の兄は。
    突然頭の中に溢れかえった記憶に頭痛を覚えながらも、
    一松はカラ松の力が緩んだ瞬間に力いっぱいカラ松の顔を押しのけた。

    「は、なせ、クソ松…!!」

    何故どんなにハイスペックな男性に言い寄られても、この人は違うとその気になれなかったのか
    何故この男を探し求めていたとあの時感じたのか、ようやく理解できた。
    冗談交じりに「来世来世」なんて言ったが、まさか本当に来世に持ち越されることになろうとは。
    どうやらお互いに相当執念深かったらしい。

    腕の中から逃れることはできなかったものの、執拗に口内を絡め取る舌からは何とか逃れた。
    2人の口元を繋ぐ透明な糸が一瞬伸びて霧散した。
    いつもの一松とは異なる荒々しい口調と懐かしい呼称にカラ松が目を瞠った。

    「その呼び方…一松、まさかお前…!」
    「…お、思い、出した…。」
    「ほ、本当か?!
     ああぁよかった!っていうかそうじゃなくて!すまない!いきなり乱暴なことをっ!
     いやでも一松が好きでもないくせにとか言い出すから!
     つ、つい頭に血が上って!!」
    「もういいよ…結果的にクソ松の無理やりなディープキスが思い出すきっかけになったんだし…。」

    非常にわかりやすく慌てふためき出したカラ松に話を聞いてみれば、彼は学生時代から夢は見ていたものの
    思い出すまでには至らず見合いの席で一松の姿を見て前世の六つ子だった頃の記憶を思い出したらしい。
    あの時に一松が前世の一松だと確信して思わず突然プロポーズの言葉を吐いていたのだとか。

    「じゃぁ、たまに僕を見てなんだか寂しそうな顔してたのって…」
    「ああ…。俺には前世の記憶があるのに、一松にはそれがないのがどうにも寂しく感じる時があってな。
     今世でこうして出会って、夫婦になれたのだからこれ以上の幸せはないし
     贅沢を言うべきではないと分かってはいたのだが…、
    人は一度幸せに慣れてしまうと、それ以上を望んでしまう欲深い生き物なんだな…。」
    「…じ、じゃぁ…今まで、全然…手を出してこなかったのは…?」
    「そ、それはだな…。」
    「うん?」
    「壊しそうで怖かった。」
    「は?」
    「今の一松は、可憐な女性だし、身体も決して丈夫とは言えないだろう?
     だからその…抱いた時に今まで溜め込んできた欲をブチまけすぎて
     傷つけてしまうのが怖かったんだ。
     ましてや、一松には前世の記憶がなかったから…優しくする自信がなかった。」
    「…アンタ、ほんとバカだね。」
    「えっ…?!」
    「確かに前世に比べたら、僕は力も弱いし頼りないけど…そのくらいで壊れたりしないよ。
     それに、今はもう記憶がある。
     …だから、その…た、溜め込んでたっていう分、全部受け止められると思う、から…。」
    「い、一松うぅぅぅ!!」
    「うっせぇ抱きつくなクソ松!」
    「フッ…やはり俺達は愛の女神によって結ばれし運命…ディスティニーだったんだな…。」
    「何でこのタイミングでイッタイ事言った?!」
    「ぐふっ!…な、殴らないでくれ…いや、もう解禁してもいいかなーと思って。
     解き放つぜ俺の魂の[[rb:詩 > うた]]…!」
    「解き放つな死ぬ程ウゼェわ!!」

    「一松。」
    「…何。」
    「生まれる前から好きだった。」
    「………僕もだよ。」

    その夜、本当の意味で思いが通じ合ったカラ松と一松は目出度く心ゆくまで愛し合ったのであった。

    ーーーーー

    3.

    目を覚ますと、まず目に飛び込んできたのは見慣れた天井だった。
    顔だけを横に向けると、そこには昨晩散々抱き潰した一松が眠っていた。
    宣言通り、一松はその細い身体でカラ松がこれまで溜めに溜めてきた想いを一身に受け止めてくれた。
    柔らかくしなやかな体を思い出し、自然と頬が緩む。
    結婚当初、かつて六つ子の兄弟だった前世の記憶を一松は持っていなかった。
    その事に少しの寂しさを感じてしまったために、
    知らずの内に一松を傷つけてしまっていたことを知ったのは昨日のことだった。
    気付かれないようにしていたつもりだったが、勘づかれていた事に申し訳なさを感じた。
    好きでもないのに優しくするな、等と言われて思わず頭に血がのぼり、
    噛み付くように半ば強引に嗚咽を漏らす一松の唇を塞いで。
    乱暴な事をしてしまったと今では反省しているが、その口付けによって一松にも前世の記憶が蘇ったのだから
    結果オーライと思っておくとしよう。
    時を越えて抱え続けてきたと言っても過言ではない想いがようやく結ばれて、
    これ以上ない幸福感と心地好い疲労感を感じながら、カラ松はすやすやと寝息を立てる一松を抱き寄せた。
    枕元の時計は9時半を示している。
    一松の額にキスを落とすと、カラ松はベッドから抜け出した。
    昨晩一松には無理をさせてしまったことだし、今日の朝食は自分が作ろうと思い立ったのだ。

    手早くトーストとベーコンエッグを作ってしまうと、カラ松は再び寝室へと向かう。
    部屋の扉を開けるとちょうど一松が目を覚ましたところだったようだ。

    「お目覚めかい、カラ松Girl?」
    「だまれくそまつ…。」
    「フッ…起き抜けの舌ったらずな声で言われてもキュートでしかないぜ?」
    「うっざ」

    朝食を済ませ、リビングには一松が食器を洗うカチャカチャとした音とテレビの音が控えめにこだましている。
    今日は休日だ。
    天気も良いし、何処かに出掛けるのもいいかもしれない。
    そういえばこの辺も桜が満開になったとかニュースで言っていた。
    花見なんてのもいいな。
    少し遠出して桜の名所を散歩するだけでも楽しめそうだ。
    ソファに腰掛けてテレビを見つめながら、なんとなくそんな事を考えていたカラ松だったが
    一松に話しかけられたため、現実に戻ってきた。
    洗い物は終えたようで、一松はカラ松の隣に三角座りで腰掛けた。

    「ねぇ。」
    「うん?」
    「僕達は奇跡的な確率でこうして会えたけどさ、他の兄弟も転生してるのかな。」
    「ああ、そういえばそうだな。
     もし同じ時代に生きているのなら会ってみたいよなぁ…。」
    「まぁ、そうだね。」

    話はそれ以上進まなかった。
    昔から見ていた夢のせいで一松のことしか気にかけていなかったが
    言われてみれば、かつての六つ子の兄弟もこうして転生している可能性もある。
    もし今を生きているなら会ってみたいものだ。

    ーーー

    それから月日は流れたが、他の兄弟に出会う事は未だなかった。
    進んで探したりしていないのだから、当然の結果とも言える。
    もし、今この同じ時代に生きているなら、幸せな人生を歩んでほしいものだ。
    人知れず、カラ松はそう思った。

    そんなある日の事。

    いつも通り仕事から帰ると、いつにも増して畏まって座る一松の姿があった。
    食卓にはきちんと湯気の立っている夕食が並べられている。
    本日のメニューは唐揚げのようだ。

    「ただいま帰ったぜマイハニー!」
    「おかえり…。」
    「…?どうかしたのか、一松。」
    「あー…うん。ちゃんと話すから、とりあえず手洗ってきたら。」
    「わ、わかった!」

    一松に促され、カラ松はスーツのジャケットを脱いでハンガーに掛けると、
    洗面所で丁寧に手洗いうがいを済ませて食卓へ戻った。
    先程からダイニングテーブルにつく一松はどこかソワソワしているように見えた。
    その様子に首を傾げながらもカラ松も席に着く。

    「それで、何かあったのか?」
    「えー…と、その…。」
    「一松?」
    「あ…」
    「あ?」
    「あ、赤ちゃんが、できた…。」

    一瞬、思考がフリーズした。
    赤ちゃん。
    …赤ちゃん?!
    頬を薄桃色に染めてカラ松にそう告げた一松は、恥ずかしさに耐えられなくなったのか
    パンッと大きめの音を立てて手を合わせ、上擦った声音で「いただきます!」と言うと唐揚げを頬張り始めた。
    カラ松は停止したままだ。
    一松が一つ目の唐揚げを咀嚼し終え、飲み込んだところで、ようやくカラ松は事態を理解した。

    「こっ子供?!」
    「うぇっ?!…あ、うん。」
    「お、俺と一松のか?!」
    「なっ…アンタの子に決まってんじゃん。…何、疑ってる?」
    「いや、疑ってなどいないぞ!
    そうか!赤ちゃんか!…そうかぁ~。…ぐすっ」
    「え。…え?!ちょっと、何泣いてんの?も、もしかして嫌だった…?」
    「まさか!嬉しいぞ!この上なく幸せだ!幸せ過ぎてつい涙が…っ
    嗚呼、ありがとう一松!ありがとう!!」

    現状を把握したカラ松は天を仰ぎ声高らかにセラヴィー!と叫び出したが
    一松にうるさい、と口に唐揚げを無理やり突っ込まれた。
    唐揚げは美味かった。

    妊娠を告げられてからというものの、カラ松は今まで以上に一松に献身的になった。
    検診には毎回同行したし、つわりがひどくて動けない時は代わりに家事の一切を引き受けた。
    産院の両親学級にも参加した。
    切迫流産で緊急入院になった時は毎日病室を訪れた。
    お腹が目立ってきた頃には毎晩のように話し掛けて、子守唄も歌ったりした。
    手を触れた一松の腹越しにお腹の子が蹴り返してきた時は感動を覚えたものだ。
    日毎どんどん大きくなる一松の腹を見ながら、カラ松は日々の幸せを噛み締めていた。
    前世では一松と結局結ばれる事はなかった。
    確かに互いに思い合っていたが、だからこそカラ松の身を案じた一松が拒絶したのだ。
    その事がひどくもどかしくもあったが、今世でこうして結ばれる事ができたのだ。
    夫婦となって、もうすぐ子供も生まれる。
    幸福感もひとしおだった。

    ーーーーー

    4.

    再び桜が咲き始めた季節の明け方、一松はカラ松の立会いの元、闘いの真っ最中だった。
    昨日の夕方に病院に入院し、日付が変わって空が白んできた頃にようやくここまできた。

    「松野さん、頭が見えてきましたよ!もう少しですからねー」

    「一松、一松!あと一息だ、頑張れ!」

    意識が朦朧として、気を抜くと眠ってしまいそうだ。
    実際に何度か意識を飛ばしては、痛みにまた目を覚ますという流れを繰り返していた。
    一松の右手を握るカラ松の声がどこか遠くに聞こえる。
    とにかく必死で腹に力を込めた。

    産声が響き渡った頃には、気力体力共に限界を超えていた。
    いつの間にか日は昇りきっている。

    「おめでとうございます。男の子ですよ。」

    産科医が祝福の言葉と共に一松の胸元に温めたバスタオルを広げ
    その上にたった今産まれたばかりの我が子を乗せてくれた。
    妊娠がわかったその時から、待ち焦がれていた瞬間だ。
    小さな身体で力いっぱい泣き声をあげる子を胸に抱くと、自然と涙が一筋零れ落ちた。
    1人産むのでさえ妊娠中から何から何まで大変だったというのに
    前世の母は一度に6人生んだのだから本当に尊敬に値する。
    今になって改めてマジ松代リスペクトである。
    …それよりも傍らに立つカラ松が大号泣している。
    えぐえぐと嗚咽を漏らすカラ松を呆れたように笑って一瞥し、我が子の顔をのぞき込んだ。
    生まれたばかりのはずなのにぱっちり開いた大きな目と、ぱっかり開いた大きな口。
    ……んん?

    「…………十四松?!」

    生まれたばかりの赤子なのだが、顔を見た瞬間、一松の直感がそう告げた。
    一松の掠れた呟きに、カラ松は気付いていない。
    気のせいだろうか?
    いや、確かにこの子は十四松だ。そう思えてならない。
    え?ってことは前世の兄弟が息子として生まれてきたの?マジで?!
    驚愕の事実にまた気を失いそうになった。
    頭がクラクラして眩暈がするのは決して産後の疲労だけではないはずだ。
    カラ松は相変わらず感動の涙を流しながらセラヴィセラヴィ言っているため、おそらくまだ気付いていない。


    結局カラ松が生まれた我が子の顔をしっかりと見たのは、母子共に後処理も終えて一段落し
    一松が病室のベッドに横になっている時だった。
    産湯で綺麗にしてもらった息子が白い産着に包まれ、小さな新生児用のベビーベッドに乗せられて
    運ばれてきたのでカラ松が抱っこに初挑戦することになったのだ。
    初めて腕に抱いたその子の顔を見て、カラ松は一松と同じ反応をしてみせた。

    「…………十四松?!」

    「…やっぱりそう思う?…僕も思った。」
    「一松もそう感じたのなら間違いないんじゃないか?
     そうか…まさか十四松が俺達の子供として生まれてくるとはなぁ。」
    「ん…驚いたよね…。」
    「ああ。…そうだ、一松。お疲れさま、よく頑張ったな。
     俺を父親にしてくれて、ありがとう。
     こんな可愛い奥さんと息子を持てて俺は果報者だ!」
    「ヒヒ…どういたしまして。
     つーか、前世の兄弟だけどね。」
    「俺達六つ子の縁は生まれ変わった程度じゃ切れたりしないってことだな!」

    小さな十四松(もう決定だ)をベビーベッドにそっと寝かせると、
    カラ松は部屋の隅に畳んで置いてあったパイプ椅子を広げ、一松が横たわるベッドの脇に腰掛けた。
    一松の腕には産後の感染症予防のための点滴が打たれている。
    明らかに疲労の色が見える一松の頬をカラ松が優しく撫でる。
    それから顔を近づけて、額に小さなリップ音を立てて口付けを落とした。
    いつもは照れ隠しで殴り飛ばす一松も
    (とは言っても前世と違ってカラ松にとっては大したダメージになっていない)
    今は抵抗する気力はないのかされるがままだ。

    「本当に、お疲れ。」
    「…ん。」
    「…ところで思ったんだが。」
    「何。」
    「俺達が他の兄弟に会ってなくて尚且つ今日、十四松が生まれてきたってことは…」
    「え…え?…ちょっと、嘘でしょ。僕も少しその線も考えたけどさすがに…」
    「いや、他の兄弟に会えない理由が、まだあいつらがこの世に生まれていないからだとすると…」
    「まさか…ないないない!というかないと思いたいんだけど!」

    「「…………。」」


    「一松、あと3人頑張ろうか。」
    「嘘だろおぉぉぉぉ?!!!?!」

    ーーー

    その後、
    十四松が生まれた2年後にトド松(♀)が
    更にその3年後にチョロ松が
    更に更にその2年後におそ松が生まれて
    無事に今世でも六つ子が揃いました。

    「待って、こいつら僕らが育てていくの?!」
    「フッ…当たり前だろう。俺と一松の愛の結晶達なんだからn「荷が重ーーーい!!!」えっ…」

    ーーーーー

    蛇足

    ●カラ松パパ
    一家のパパ。27歳の時に一松と結婚してその翌年に十四松が誕生。
    割と有名な大企業に勤める一家の大黒柱。
    転生してイタさは緩和されたがたまにイタイ言動をする(確信犯)
    一松マジ愛してる。死んでも離さない。
    子供達マジ可愛い。
    中でも女の子として生まれてきたトド松は特に可愛くて仕方ない。
    お嫁?絶対許しません!

    ●一松ママ
    一家のママ。22歳の時にカラ松と結婚してその翌年に十四松が誕生。
    大学を卒業してすぐに結婚したので就職はしてなかったが、
    現在は近所のドラッグストアでパートをしている。
    今世では少々身体が弱いのが悩み。
    子供達はみんな健康に生まれてくれたのはホッとしている。
    気恥ずかしさが勝ってしまうため素直になれないがカラ松のことはちゃんと愛してます。
    子供達にはデレ100%

    ●十四松
    明るく元気な長男。
    弟妹の面倒もちゃんと見るイイコ。
    中でもトド松が大好きな隠れシスコンでカラ松と共にトド松護衛隊を結成している。
    前世に比べてそこまで狂人ではないけど運動神経は抜群。
    前世の記憶は割と早い段階で思い出した。

    ●トド松
    おしゃまさんであざとい長女。
    お兄ちゃんの十四松が大好きな隠さないブラコン。
    彼氏?十四松兄さんよりカッコイイ人がいたら考えるよ!いるワケないけどね♡
    生まれ変わってもカラ松に「イッタイよねぇ〜」とツッコむのは忘れない。
    前世の記憶は小学校に上がった頃に少し思い出した。
    現在も随時記憶補完中。

    ●チョロ松
    しっかり者な次男。
    おそ松が生まれるまではヤンチャ坊主だったが自分以上にヤンチャな弟ができたことで
    お兄ちゃん心が芽生えたのかしっかり者のおそ松ストッパーに成長した。
    あざとい姉にいいようにパシられる率No.1
    両親も兄も姉もあんなんなので今世でも立派にツッコミ役を果たしている。
    前世の記憶はまだない。

    ●おそ松
    やんちゃな末っ子。
    末っ子なのでみんなに甘やかされてそうで実はそうでもない。
    とにかくやんちゃな悪ガキ。
    時折、一体どこで覚えてきたんだという下ネタを暴発する。
    常にチョロ松に怒られて引き摺られているが、なんだかんだでチョロ松にべったりなお兄ちゃん子。
    前世の記憶はまだない。


    お粗末様でした。
    ちなみに子供達の順番はあみだくじで決めました。
    #BL松 #カラ一 #転生 #女体化 ##転生カラ一

    ※非常に読む人を選ぶ文です。

    この作品は以下の要素を含みます。
    少しでも嫌悪感を感じましたら、今すぐブラウザバックをお願いいたします。
    ①転生パロです
    ②キャラの女体化、妊娠・出産の描写を含みます
    ③当然のようにキャラ崩壊
    ④書きたいところだけ書いてます

    ーーーーー

    1.


    (なぁ、一松…その、俺は…お前のことが…)

    ………



    ああ、またこの夢だ。



    スマホにセットしたアラーム音が鳴り響く。
    時刻は午前6時過ぎ。
    目覚めは最悪だ。

    一人暮らしのワンルーム。
    家具は必要最低限しかない簡素な部屋だ。
    アラームを止めてのそりと起き上がり
    寝ぼけ眼のままトースターに食パンを突っ込むと顔を洗いに洗面台へ向かった。
    顔を洗い、寝癖を直して部屋に戻るとトースターがチン、と軽快な音を立てた。
    程よく焼けたトーストを皿に移してローテーブルに置き、コップに牛乳を注いでテレビをつけた。
    テレビから流れる朝のニュースを流し見しながらトーストを齧り、
    食べ終わったら歯を磨いて着替えて家を出る。
    これがここ数年の松野カラ松のルーチンワークだ。
    就職を機に一人暮らしを始めて早5年。
    それなりの企業でそれなりの成績を上げているし、友人もいる。
    充実した日々を送っているはずだ。
    だが最近、カラ松にはある悩みがあった。

    夢を見るのだ。

    夢の中で、自分は誰かに想いを伝えようとしている。
    けれどそれは結局最後まで伝えられずに目が覚める。
    最初にこの夢を見たのは中学生の頃だった。
    それからというもの、ふとした時に思い出したように同じ夢を見る。
    夢の中で、カラ松は一松という人物に想いを告げようとしていた。
    わかっているのは一松という名前だけだ。
    夢の中で相手の顔をしっかりと見ているはずなのに、
    目が覚めるとその顔は途端にボヤけて思い出せなくなる。
    それなのに、相手を想う切なく胸が締め付けられるような気持ちは目覚める度に胸に残る。
    この夢から覚めた後は、いつもどうしようもない虚無感に襲われた。
    いっそ泣き出したい程に、確かに夢の中でカラ松は一松という人物を愛していた。

    さて、松野カラ松は容姿は悪くはない方だ。
    それなりの企業に勤めているし、今はそれなりの立場になった。
    言い寄ってくる女性も決して少なくないし、何人かと付き合ったことだってあった。
    しかし、どれもこれも全く長続きしなかったのである。
    興味がない訳ではない。
    恋人を作っていつか結婚して平凡な家庭を持ちたい、という思いがない訳でもない。
    自分を好きだと言ってくれた愛らしく可憐な女性と並んで歩き、
    少し高めのレストランで食事をして、ホテルで甘い時間を過ごして。
    ところがそうして愛の言葉を囁いた時に、脳裏にいつも一松のことが過ぎるのだ。
    どんな美女を相手にしても、いい感じの雰囲気になってきたところで毎回一松の事を思い出してしまう。
    そんなわけで、結局目の前の女性とそれ以上付き合うことが出来ず、呆気なく破局を迎えてしまう。
    それもこれもあの夢のせいだ。
    そもそも一松は実在するのかどうかも定かではない。
    それなのに、カラ松は一松に恋をしていてその影を追っている。
    夢を見る度に実際に会ったことすらない一松に惹かれていく自分自身に気付き、
    カラ松は己の救えなさに溜め息を吐いた。
    胸中に燻る虚しさや寂しさを紛らわそうと、何度か女性と関係を持ったが、
    こんな調子で返って逆効果だと気付き、もうここ最近は一切女性と関係は持っていない。
    どうかしている。
    夢の中の、それも姿を思い出せない相手に恋慕するなんて。
    しかし日毎増していくその想いをどうすることもできず、ただただ翻弄されるばかりだった。

    ーーー

    土曜日。
    完全週休二日制の会社のため、ありがたく休日を謳歌するカラ松はベッドの中で惰眠を貪っていた。
    今日はアラームに起こされることもない。
    日はとうに空高く昇っているが、そんな事はお構いなしに夢心地で微睡んでいた。
    が、
    そんなささやかな幸せの時間を破るようにスマホから着信音が鳴り響いた。
    予期せぬ着信に無理やり起こされたカラ松は眉間に皺を寄せ、寝ぼけ眼のまま手を伸ばしスマホを手に取った。
    相手を確認すると自分の母親の名前が表示されていた。
    その事により一層顔を顰める。
    正直無視したくて仕方ないのだが、そうすると後々もっと面倒な事になるのはこれまでの経験則で分かっている。
    カラ松は目を擦りつつ、渋々通話ボタンをタップしてスマホを耳に押し当てた。

    「…もしもし。」
    『もしもし、なんだか声が擦れてるわね。まさかさっきまで寝てたの?』
    「寝てたぞ…今日休日だからな。」
    『あらそう。ちゃんと食べてるの?次のお盆休みには帰って来なさいね?』
    「…ああ。」
    『ところで、来週の日曜日は空けておきなさいね。』
    「…え、何でだ?」
    『父さんがね、お見合い話を持ってきたのよ。何でも得意先の方のお嬢さんなんだとかで。』
    「は?!お見合い?誰が?!」
    『アンタに決まってるでしょ!断ることもできなかったみたいだし、
     父さんの顔を立てると思って、頼むわよ。
     いい加減アンタもそういうの考えてもいいんじゃないの。』
    「え、ちょ…」
    『それじゃ、来週日曜日に赤塚ホテルよ、ちゃんとしたスーツで来なさいね。』
    「いや、待っ」ブツッ

    ツー…ツー…ツー…

    「……嘘だろ。」

    まるで突然の嵐に見舞われたかのようだった。
    全く口を挟む間もなく、一方的に約束を取り付けた母はさっさと通話を切ってしまい、
    後に残るのは呆然としたカラ松の呟きと無機質な機械音のみ。
    唐突に告げられたお見合いの話は、カラ松の心に重くのしかかるばかりであった。
    今までも女性に対して散々な態度しか取れなかったのだ。
    ましてやお見合いだなんて無理に決まっている。
    相手には悪いが、適当に顔だけ合わせて理由を付けて断ってしまおう。
    その方がきっと幸せだ。
    自分にとっても、お見合い相手の女性にとっても。
    カラ松は今日何度目かの溜め息を吐いた。

    ーーー

    迎えた日曜日。
    薄く縦のストライプ模様が入ったスーツにパステルブルーのワイシャツを着たカラ松は、ホテルのロビーに佇んでいた。
    その表情は明らかに沈んでいる。
    表情が冴えない理由は乗り気でないお見合いをしなければならないだけではない。
    今朝またしてもあの夢を見たのだ。
    よりによってお見合いをする今日、見てしまったのだ。
    夢の中で、やっぱり自分は一松という人物に恋焦がれていて、その想いを伝えようとしていた。
    けれど、やはり最後まで想いを口にするのは叶わなかった。
    ただ、いつもと違って一松の姿は少しだけ記憶に残っている。
    ボンヤリとはしているが、確か瞳が深い紫色をしていた。
    瞳の色を覚えていたのは今日が初めてだ。
    それだけで胸の高鳴りを覚えたが、同時にまだ顔も見ていないお見合い相手に罪悪感も感じた。

    久々に会った両親と合流し、ホテルの一階に設けられた上品な装いの和食のレストランの個室に通され、
    相手方を待つことになった。
    憂鬱だ。
    早くこの時間を終えてしまいたい。
    カラ松は俯いてただただ時間が過ぎるのを待っていた。

    しばらく続いた沈黙を破り、個室の襖が開いた。
    反射的に顔を上げたカラ松は、相手女性の顔を見て思わず目を見開いた。

    (一松…?!)

    もう何年も夢の中で恋をしてきた相手。
    顔すらまともに覚えていないのに、何故かそう確信した。

    一松だ、やっと会えた!
    ずっとずっと君を探し求めていたんだ!

    心が、そう叫んでいるようだった。

    薄紫の振袖を身に纏った目の前の女性は、伏し目がちな深い紫色の瞳でカラ松を一瞥すると、
    何も言わずに静かに腰を下ろした。
    凛とした、けれどどこか色香を感じる人だと思った。
    互いの父親が決まり文句を並べた挨拶を交わしているが、それを遮ってカラ松は声を張り上げた。

    「結婚してください!」

    伏して半目状態になっていた振袖女性の目が驚愕でぱっちりと見開かれた。
    カラ松と一松の視線が交わった。

    視線がかち合ったその瞬間、世界が停止した。

    ………



    (なぁ、一松…その、俺は…お前のことが…)

    それを告げたのは確か家に2人きりの夕方だった。
    桜が咲き始め、日中の陽射しが暖かくなってきたものの夜はまだ冷え込む、そんな時期。
    長男はパチンコへ、三男はアイドルのイベントへ、五男と六男は連れ立って何処かへ遊びにそれぞれ出掛けていて、
    家には2人きり。
    お互い自由に家の中で過ごしていたが、チラリと窓際へ目をやると
    壁にもたれ掛かって微睡む一松の姿が目に入った。
    夕陽が一松の白い頬を照らし、窓から入り込む風で柔らかな髪をフワリと靡いた。
    一体どこからやってきたのか、窓から桜の花弁が一片ヒラリと舞い込み、一松の髪に乗った。
    その姿が、とてもとても綺麗に見えて息を呑んだ。

    カラ松は一松に…2つ下の一卵性の兄弟に恋をしていた。

    『一松。』
    『…何。』
    『なあ、一松…その、俺は…』
    『…どうかしたの。』
    『俺は、お前のことが好きだ』
    『……………え。』
    『突然すまない…だが、好きなんだ、一松のことが。』
    『ちょ、ちょっと待って』
    『一松…。』
    『待てってば!』

    一松の瞳に戸惑いの色が浮かんだのがわかった。
    カラ松にやけにキツくあたる一松の鋭い眼差しを直に受け止める度に
    一松がここまで横暴に自身を曝け出せる相手は自分だけなのだと歪んだ優越感を覚えた。
    同時に、その強気な顔を自分の手で歪めてやりたいと、
    その気怠げな目をドロドロに溶かして泣かせてやりたいと、薄暗い欲望が胸を擽った。
    一松もカラ松にキツく当たり散らしながらも、どこかカラ松のことを特別に見ていたことも察していた。
    自分と同じように、一松がカラ松の事を無意識のうちに目で追っているのをカラ松が見逃さないはずがなかった。
    世間一般から見れば到底赦されることのない想いだ。
    報われてはいけない想いだという事はカラ松も一松も十分に理解していた。
    しかし考えてみれば自分達はとうに世間からはじかれている者同士だ。
    そこに更なる不毛を重ねたとて、大して問題ではない。
    カラ松は単純にそう考えていた。

    『…俺は…俺、は…カラ松に応えることは…できない…』
    『何故だ?俺のことは嫌いか?』
    『そ、そうじゃない…!』
    『ならどうして?』
    『あ…アンタはさ、ちゃんといい人を見つけて、結婚して…子供を作って…
     平凡で幸せな家庭を築く方が、似合ってるよ…。
     こんなクズを相手にして…人生を棒に振ることない…。』
    『一松!!』
    『ヒッ…!』
    『…あ、すまない。怖がらせるつもりはなかったんだ。
    なあ、俺は一松と幸せになりたいんだ。一松は俺じゃダメなのか?』
    『俺、は…』

    ……………



    そうだ。
    同性で、実の弟で、しかも一卵性の兄弟という不毛でしかない相手に恋心を抱いていた。
    いつも夢に見ていたあの告白の場面の続きを不意に思い出したのを皮切りに
    脳内に次々と記憶が溢れかえってきた。
    松野カラ松であって、今の松野カラ松ではない、これは前世の記憶なのだと直感的に理解した。
    何故このタイミングで前世の記憶が蘇ったのか。
    十中八九、目の前に座るお見合い相手の女性が原因なのだろう。
    今目の前にいる女性が一松の生まれ変わりなのだ。
    根拠などないが、何故かそう確信できる。
    目が合った途端に見えた先程の白昼夢が、きっとその証明だ。

    脳内の洪水が収まり、カラ松がハッとして現実に帰ると、どうやら自分が声を張り上げてから
    そこまで時間は経っていないらしく、自身の声の余韻が個室から消え去ろうとしている程度だった。
    互いの両親は何事かと呆然としている。
    深い紫を称えるその瞳は、カラ松の突然の言葉に驚いていたものの、すぐにまた細められ、そして妖艶に笑った。
    紅が乗せられた艶やかな唇が開き、静かに言葉が紡がれた。

    「私でよろしければ、謹んでお受け致します。」

    今度こそ完全に置いてけぼりとなった両親を尻目に、お付き合い0日で2人は婚姻を約束した。

    ーーーーー

    2.

    正直、面倒でしかなかった。
    真面目ないい子に育った一松は、それなりに恵まれた人生を歩んできた。
    生まれつき少々身体が弱く、幼い頃は幾度となく入退院を繰り返したものの
    大人になるにつれそれも落ち着いてきた。
    両親に愛情を注がれ、器量の良いお嬢様として何不自由ない暮らしをしてきた。
    それなのに。
    それなのに、時折襲ってくるどうしようもない寂しさと苦しさは一体何なのだろうか。

    最初に気付いたのは中学生の頃だった。
    成績優秀、眉目秀麗、クールな性格だが病弱でいかにも庇護欲をそそる松野一松は
    学校では高嶺の花と云うべきポジションにいた。
    無論、目立つ事が苦手な一松にとってそれは決して本人が望んだポジションではない。
    それでも毎月、毎週のように男子から告白を受けていた。
    しかし、一松がそれに応えることは今までに一度たりともなかった。
    自分でも上手く説明できないのだが、言い寄る男子を見て、「この人は違う」と思ってしまうのだ。
    別に白馬の王子様を夢見ているわけでもないし、理想が高過ぎるわけでもない。
    それなのに「違う」と直感的に思ってしまう。
    一度そう思ってしまうともう受け入れる事なんて一松にはできなかった。
    そうして告白を断り続ける一松の姿は、益々高嶺の花に拍車をかけ、
    何としてでも落とそうとする不貞な輩もちらほら現れたものの、
    ついに学生時代に誰とも付き合うことなく成人を迎えた。
    告白を断る度に己を蝕む虚無感と泣き出したくなるような寂しさ。
    違う、この人じゃない。
    あの人でないとダメなんだ。
    まるで頭のどこかでもう1人の自分がそう叫んでいるようだった。
    あの人が一体誰の事なのか、一松自身にもわからない。
    わからないが、一松はいつも心のどこかで自分でもよくわからない"あの人"を探し求めていた。

    突然お見合いをさせられる事になったのは、大学を卒業して間もない頃だった。
    いつまでもこんな調子の一松を両親が気にして、どうやら強行に出たらしい。
    一度こういう事を体験しておけば、気が変わるかもしれないわよ、とは母の言葉だ。
    聞くところによると、相手は5つ年上のなかなかの企業に勤める人らしい。
    こちらの都合はお構いなしのまま、あれよあれよと事が運び、気付けば着付けも済まされていた。
    両親に気付かれないように、一松は小さく溜め息を吐いた。
    どうせ、お見合いをしたところで変わらない。
    この人は「違う」と思ってしまえばそれまでだ。
    違うと感じてしまえば受け入れられない。
    何か理由を見つけて断ろう。
    慣れない振袖に歩くのも四苦八苦しながら、一松は考えた。

    ホテルの中に設けられた和食レストランの個室の襖が開いた。
    中で待っていたのはいかにも女性受けしそうな精悍な顔立ちの男性。
    お見合い相手の男性は、一松の姿を見て驚いたように目を見開いている。
    一体何をそんなに驚いているのかはわからないが、気にせずに男性の正面に腰を下ろし、
    互いの父親がテンプレに沿った挨拶を始めた時だった。

    「結婚してください!」

    目の前に座る男性がよく通る声でそう言った。
    突然の言葉に今度は一松が目を見開く番となった。
    視線が交わる。
    その目を見て、思った。

    あ、この人だ。

    探し求めていたのは、間違いなくこの人だ、と頭の片隅にいるもう1人の自分が騒ぎ立てた。
    この人だ、この人だ。
    何故そう思ったのか、一松自身にも説明のしようがない。
    ただ、本能的にそう感じたとしか言えないのだが、目の前に座るお見合い相手の男性は
    間違いなく一松が追い求めていた人だった。
    だから、自然と綻ぶ口元をなんとかバレないようにしながら
    男性の、カラ松の言葉に応えた。

    「私でよろしければ、謹んでお受け致します。」

    カコン、と庭園に誂えられた鹿威しの音が聞こえた。

    ーーー

    それからはあっという間だった。
    何度かカラ松と2人で出掛けたりしながら親睦を深めつつ、
    新居を探し家具を揃え、お見合いから半年たった頃に婚姻届を役所に出しに行った。
    あの時本能的にこの人だと感じた己の直感は間違っていなかったようで、
    カラ松と過ごす時間は一松にとって非常に心地好いもので、
    出会って日が浅いのにも関わらず気の置けない相手になっていた。
    まるで、元からそうだったかのように、ごく自然に互いの生活に互いの存在が溶け込んでいった。

    新婚生活は至って順調だ。
    親族のみでささやかな式を挙げ、新婚旅行にも行った。
    新居は閑静な住宅街の一角の新築の戸建てを購入し、ご近所さんも皆いい人達だ。
    カラ松はいつだって優しくこちらを気遣ってくれる。
    けれど。
    時折、本当に時折なのだけど
    カラ松は一松を見つめては、ふと寂しげな表情をする事があった。
    その顔はカラ松でありながら別の誰かのようにも見えて、
    同時にその目は一松を見つめながら一松ではない誰かを求めているようにも見えた。
    さり気なく自分が何か気に障る事をしたのかと訊いてみたが、
    一松は何も悪くないのだと自嘲じみた笑みで返されるばかりでそれ以上は何も聞けなかった。

    もしかしたら、カラ松は本当は自分と結婚したくなかったのではないだろうか。
    あのお見合いの席での突然のプロポーズは、実は一松に断ってもらうために言い放った言葉だったのかもしれない。
    だって自分達は一度も、所謂夫婦の営みというやつをしていない。
    ああ、きっとカラ松は嫌々付き合ってくれていたんだ。そうに違いない。
    元より一松はネガティブ思考だ。
    一度思い込んでしまった己の推測を考え直すことのないまま、
    更なる負の連鎖に陥っている事にも気付けていない。
    夕食を作りながら尚も一松は考え込む。
    好きでもないのに付き合わされているなら、解放してあげた方がいいのではないか。
    バツがついてしまうが、カラ松ならすぐに自分なんかよりずっといい人が見つかるだろう。
    あの時、一松は自分が探し求めていたのはカラ松だと本能的に感じた。
    けれど、カラ松にとって探し求めている人は一松ではないのだ。
    あいつは優しいから、自分のことを憐れんで別れを切り出さずにいてくれているのだろう。
    そう考えると自然と涙がこみ上げてきた。
    流れる涙を拭いもせず、一松はキッチンに立ち尽くした。


    「…一松?」

    一体どれだけの間そうしていたのか、気付けばカラ松が帰宅していた。
    一松の様子にカラ松はギョッとした顔をして慌てて駆け寄る。

    「一松?!どうした、何かあったのか?」

    ハラハラと静かに涙を零す一松の顔を心配そうに覗き込み、優しく背中をさすり出した。
    だがその優しさすら、今の一松には苦しくて仕方なかった。

    「やめて…」
    「い、一松?」
    「やめてよ…もう僕なんかに…いい夫を演じることない…」
    「おい、本当にどうしたんだ一松?!」

    どこまでも優しいカラ松に、ひとりネガティブ思考でとことん自虐的になっていた一松は
    背を撫でるカラ松の腕を振り払い、今度は癇癪を起こした子供のように泣き出した。
    カラ松の眉根が困ったように下がったのと同時に
    その顔に昔を懐かしみ慈しむような表情を浮かべた事に一松は気付いていない。

    「無理してっ…僕に、つ、付き…合わないで、いいよっ…!
     すっ好きでも、ないクセにっ…優しく、され、たら…よけい、ツライよ…っ!」
    「一松?何を言っている?!」
    「ねぇ、何でっ…何で、僕とけっこん、なんて…したの…」
    「一松!!」

    しゃくりあげながら言葉を紡ぐ一松をカラ松は強引に腕の中に閉じ込めた。
    一松の薄い肩が跳ね上がったが構わずに力を込められる。

    「カ…カラま「黙れ」っ!」

    いつもより1オクターブ低い声に遮られる。
    一瞬、空気が震えた。
    カラ松を怒らせたのだと理解するのに時間は要しなかった。
    体格の良い男性のカラ松と平均より細く頼りない女性の一松では力の差は歴然で、一松に抜け出すことは不可能だ。
    一体何がどうなっているのか。
    考える暇も与えず、今度は顎を掴まれ上を向かされたかと思ったら唇を塞がれた。
    無理やり口元をこじ開けられ、歯列を舌でなぞられ、驚いて逃げ惑う舌を絡め取られた。
    一松にとって今まで経験したことのない、ねっとりとした濃厚な口付けだった。
    されるがままの状態で呼吸が上手くいかない。
    頭がボンヤリと白んできた。

    …………



    『好きなんだ、一松のことが』

    夕暮れ時に、何の前触れもなく告げられた愛の言葉。
    それは自分が夢にまで見るほどに欲しかった言葉のはずだった。
    けれど、実際にそれを目の前にいとも簡単に差し出されて、一松がまず感じたのは罪悪感と恐怖だった。
    差し伸べられたその手を取れば、甘ったるく幸せな時間を手に入れることができただろう。
    しかしそれは一時のぬるま湯に過ぎない。

    『…俺は…俺、は…カラ松に応えることは…できない…』
    『何故だ?俺のことは嫌いか?』
    『そ、そうじゃない…!』
    『ならどうしてだ?』
    『あ…アンタはさ、ちゃんといい人を見つけて、結婚して…子供を作って…
     平凡で幸せな家庭を築く方が、似合ってるよ…。
     こんなクズを相手にして…人生を棒に振ることない…。』
    『一松!!』
    『ヒッ…!』
    『…あ、すまない。怖がらせるつもりはなかったんだ。
    なあ、俺は一松と幸せになりたいんだ。一松は俺じゃダメなのか?』
    『俺、は…』

    (僕もカラ松が好きだよ。…でも)

    『ごめん…カラ松。』
    『……そうか。』
    『ごめん。』
    『いや…俺こそすまなかった。今のは忘れてくれ。』
    『……。』

    言えない。僕もカラ松が好きだよだなんて、言ってはならない。
    だって不毛過ぎる。
    同性で、実の兄で、しかも一卵性の兄弟で。
    ただでさえ社会不適合者で燃えないゴミの自分がこれ以上罪を重ねてどうするのか。
    いや、自分が罪を背負うのはこの際構わない。
    けどカラ松はダメだ。
    カラ松は、ちゃんといい人を見つけて、幸せになってほしかった。
    自分ではどう足掻いたってカラ松を幸せになんてできやしない。
    だからこの想いは報われてはいけないのだ。

    突然カラ松から想いを告げられた時、本当は天にも飛び上がる程嬉しかった。
    こんな自分を好きだと言ってくれることが泣きたいくらい嬉しかった。
    でも、だからこそ一松はカラ松を突き放した。

    幸せになんてなってはいけない。
    そうだね、来世にでも期待しよう。
    来世来世 ー…

    …………




    まるで貪るようなカラ松の口付けに思わず意識を手放そうとしたところに
    一松の中に突如として再生された、誰かの記憶。
    誰か…いや違う。あれは自分だ。
    あれはかつての自分自身だった。
    六つ子の兄弟の1人だった頃の記憶。
    かつての自分は、実の兄に想いを寄せていた。
    まさか、そのかつての実の兄は。
    突然頭の中に溢れかえった記憶に頭痛を覚えながらも、
    一松はカラ松の力が緩んだ瞬間に力いっぱいカラ松の顔を押しのけた。

    「は、なせ、クソ松…!!」

    何故どんなにハイスペックな男性に言い寄られても、この人は違うとその気になれなかったのか
    何故この男を探し求めていたとあの時感じたのか、ようやく理解できた。
    冗談交じりに「来世来世」なんて言ったが、まさか本当に来世に持ち越されることになろうとは。
    どうやらお互いに相当執念深かったらしい。

    腕の中から逃れることはできなかったものの、執拗に口内を絡め取る舌からは何とか逃れた。
    2人の口元を繋ぐ透明な糸が一瞬伸びて霧散した。
    いつもの一松とは異なる荒々しい口調と懐かしい呼称にカラ松が目を瞠った。

    「その呼び方…一松、まさかお前…!」
    「…お、思い、出した…。」
    「ほ、本当か?!
     ああぁよかった!っていうかそうじゃなくて!すまない!いきなり乱暴なことをっ!
     いやでも一松が好きでもないくせにとか言い出すから!
     つ、つい頭に血が上って!!」
    「もういいよ…結果的にクソ松の無理やりなディープキスが思い出すきっかけになったんだし…。」

    非常にわかりやすく慌てふためき出したカラ松に話を聞いてみれば、彼は学生時代から夢は見ていたものの
    思い出すまでには至らず見合いの席で一松の姿を見て前世の六つ子だった頃の記憶を思い出したらしい。
    あの時に一松が前世の一松だと確信して思わず突然プロポーズの言葉を吐いていたのだとか。

    「じゃぁ、たまに僕を見てなんだか寂しそうな顔してたのって…」
    「ああ…。俺には前世の記憶があるのに、一松にはそれがないのがどうにも寂しく感じる時があってな。
     今世でこうして出会って、夫婦になれたのだからこれ以上の幸せはないし
     贅沢を言うべきではないと分かってはいたのだが…、
    人は一度幸せに慣れてしまうと、それ以上を望んでしまう欲深い生き物なんだな…。」
    「…じ、じゃぁ…今まで、全然…手を出してこなかったのは…?」
    「そ、それはだな…。」
    「うん?」
    「壊しそうで怖かった。」
    「は?」
    「今の一松は、可憐な女性だし、身体も決して丈夫とは言えないだろう?
     だからその…抱いた時に今まで溜め込んできた欲をブチまけすぎて
     傷つけてしまうのが怖かったんだ。
     ましてや、一松には前世の記憶がなかったから…優しくする自信がなかった。」
    「…アンタ、ほんとバカだね。」
    「えっ…?!」
    「確かに前世に比べたら、僕は力も弱いし頼りないけど…そのくらいで壊れたりしないよ。
     それに、今はもう記憶がある。
     …だから、その…た、溜め込んでたっていう分、全部受け止められると思う、から…。」
    「い、一松うぅぅぅ!!」
    「うっせぇ抱きつくなクソ松!」
    「フッ…やはり俺達は愛の女神によって結ばれし運命…ディスティニーだったんだな…。」
    「何でこのタイミングでイッタイ事言った?!」
    「ぐふっ!…な、殴らないでくれ…いや、もう解禁してもいいかなーと思って。
     解き放つぜ俺の魂の[[rb:詩 > うた]]…!」
    「解き放つな死ぬ程ウゼェわ!!」

    「一松。」
    「…何。」
    「生まれる前から好きだった。」
    「………僕もだよ。」

    その夜、本当の意味で思いが通じ合ったカラ松と一松は目出度く心ゆくまで愛し合ったのであった。

    ーーーーー

    3.

    目を覚ますと、まず目に飛び込んできたのは見慣れた天井だった。
    顔だけを横に向けると、そこには昨晩散々抱き潰した一松が眠っていた。
    宣言通り、一松はその細い身体でカラ松がこれまで溜めに溜めてきた想いを一身に受け止めてくれた。
    柔らかくしなやかな体を思い出し、自然と頬が緩む。
    結婚当初、かつて六つ子の兄弟だった前世の記憶を一松は持っていなかった。
    その事に少しの寂しさを感じてしまったために、
    知らずの内に一松を傷つけてしまっていたことを知ったのは昨日のことだった。
    気付かれないようにしていたつもりだったが、勘づかれていた事に申し訳なさを感じた。
    好きでもないのに優しくするな、等と言われて思わず頭に血がのぼり、
    噛み付くように半ば強引に嗚咽を漏らす一松の唇を塞いで。
    乱暴な事をしてしまったと今では反省しているが、その口付けによって一松にも前世の記憶が蘇ったのだから
    結果オーライと思っておくとしよう。
    時を越えて抱え続けてきたと言っても過言ではない想いがようやく結ばれて、
    これ以上ない幸福感と心地好い疲労感を感じながら、カラ松はすやすやと寝息を立てる一松を抱き寄せた。
    枕元の時計は9時半を示している。
    一松の額にキスを落とすと、カラ松はベッドから抜け出した。
    昨晩一松には無理をさせてしまったことだし、今日の朝食は自分が作ろうと思い立ったのだ。

    手早くトーストとベーコンエッグを作ってしまうと、カラ松は再び寝室へと向かう。
    部屋の扉を開けるとちょうど一松が目を覚ましたところだったようだ。

    「お目覚めかい、カラ松Girl?」
    「だまれくそまつ…。」
    「フッ…起き抜けの舌ったらずな声で言われてもキュートでしかないぜ?」
    「うっざ」

    朝食を済ませ、リビングには一松が食器を洗うカチャカチャとした音とテレビの音が控えめにこだましている。
    今日は休日だ。
    天気も良いし、何処かに出掛けるのもいいかもしれない。
    そういえばこの辺も桜が満開になったとかニュースで言っていた。
    花見なんてのもいいな。
    少し遠出して桜の名所を散歩するだけでも楽しめそうだ。
    ソファに腰掛けてテレビを見つめながら、なんとなくそんな事を考えていたカラ松だったが
    一松に話しかけられたため、現実に戻ってきた。
    洗い物は終えたようで、一松はカラ松の隣に三角座りで腰掛けた。

    「ねぇ。」
    「うん?」
    「僕達は奇跡的な確率でこうして会えたけどさ、他の兄弟も転生してるのかな。」
    「ああ、そういえばそうだな。
     もし同じ時代に生きているのなら会ってみたいよなぁ…。」
    「まぁ、そうだね。」

    話はそれ以上進まなかった。
    昔から見ていた夢のせいで一松のことしか気にかけていなかったが
    言われてみれば、かつての六つ子の兄弟もこうして転生している可能性もある。
    もし今を生きているなら会ってみたいものだ。

    ーーー

    それから月日は流れたが、他の兄弟に出会う事は未だなかった。
    進んで探したりしていないのだから、当然の結果とも言える。
    もし、今この同じ時代に生きているなら、幸せな人生を歩んでほしいものだ。
    人知れず、カラ松はそう思った。

    そんなある日の事。

    いつも通り仕事から帰ると、いつにも増して畏まって座る一松の姿があった。
    食卓にはきちんと湯気の立っている夕食が並べられている。
    本日のメニューは唐揚げのようだ。

    「ただいま帰ったぜマイハニー!」
    「おかえり…。」
    「…?どうかしたのか、一松。」
    「あー…うん。ちゃんと話すから、とりあえず手洗ってきたら。」
    「わ、わかった!」

    一松に促され、カラ松はスーツのジャケットを脱いでハンガーに掛けると、
    洗面所で丁寧に手洗いうがいを済ませて食卓へ戻った。
    先程からダイニングテーブルにつく一松はどこかソワソワしているように見えた。
    その様子に首を傾げながらもカラ松も席に着く。

    「それで、何かあったのか?」
    「えー…と、その…。」
    「一松?」
    「あ…」
    「あ?」
    「あ、赤ちゃんが、できた…。」

    一瞬、思考がフリーズした。
    赤ちゃん。
    …赤ちゃん?!
    頬を薄桃色に染めてカラ松にそう告げた一松は、恥ずかしさに耐えられなくなったのか
    パンッと大きめの音を立てて手を合わせ、上擦った声音で「いただきます!」と言うと唐揚げを頬張り始めた。
    カラ松は停止したままだ。
    一松が一つ目の唐揚げを咀嚼し終え、飲み込んだところで、ようやくカラ松は事態を理解した。

    「こっ子供?!」
    「うぇっ?!…あ、うん。」
    「お、俺と一松のか?!」
    「なっ…アンタの子に決まってんじゃん。…何、疑ってる?」
    「いや、疑ってなどいないぞ!
    そうか!赤ちゃんか!…そうかぁ~。…ぐすっ」
    「え。…え?!ちょっと、何泣いてんの?も、もしかして嫌だった…?」
    「まさか!嬉しいぞ!この上なく幸せだ!幸せ過ぎてつい涙が…っ
    嗚呼、ありがとう一松!ありがとう!!」

    現状を把握したカラ松は天を仰ぎ声高らかにセラヴィー!と叫び出したが
    一松にうるさい、と口に唐揚げを無理やり突っ込まれた。
    唐揚げは美味かった。

    妊娠を告げられてからというものの、カラ松は今まで以上に一松に献身的になった。
    検診には毎回同行したし、つわりがひどくて動けない時は代わりに家事の一切を引き受けた。
    産院の両親学級にも参加した。
    切迫流産で緊急入院になった時は毎日病室を訪れた。
    お腹が目立ってきた頃には毎晩のように話し掛けて、子守唄も歌ったりした。
    手を触れた一松の腹越しにお腹の子が蹴り返してきた時は感動を覚えたものだ。
    日毎どんどん大きくなる一松の腹を見ながら、カラ松は日々の幸せを噛み締めていた。
    前世では一松と結局結ばれる事はなかった。
    確かに互いに思い合っていたが、だからこそカラ松の身を案じた一松が拒絶したのだ。
    その事がひどくもどかしくもあったが、今世でこうして結ばれる事ができたのだ。
    夫婦となって、もうすぐ子供も生まれる。
    幸福感もひとしおだった。

    ーーーーー

    4.

    再び桜が咲き始めた季節の明け方、一松はカラ松の立会いの元、闘いの真っ最中だった。
    昨日の夕方に病院に入院し、日付が変わって空が白んできた頃にようやくここまできた。

    「松野さん、頭が見えてきましたよ!もう少しですからねー」

    「一松、一松!あと一息だ、頑張れ!」

    意識が朦朧として、気を抜くと眠ってしまいそうだ。
    実際に何度か意識を飛ばしては、痛みにまた目を覚ますという流れを繰り返していた。
    一松の右手を握るカラ松の声がどこか遠くに聞こえる。
    とにかく必死で腹に力を込めた。

    産声が響き渡った頃には、気力体力共に限界を超えていた。
    いつの間にか日は昇りきっている。

    「おめでとうございます。男の子ですよ。」

    産科医が祝福の言葉と共に一松の胸元に温めたバスタオルを広げ
    その上にたった今産まれたばかりの我が子を乗せてくれた。
    妊娠がわかったその時から、待ち焦がれていた瞬間だ。
    小さな身体で力いっぱい泣き声をあげる子を胸に抱くと、自然と涙が一筋零れ落ちた。
    1人産むのでさえ妊娠中から何から何まで大変だったというのに
    前世の母は一度に6人生んだのだから本当に尊敬に値する。
    今になって改めてマジ松代リスペクトである。
    …それよりも傍らに立つカラ松が大号泣している。
    えぐえぐと嗚咽を漏らすカラ松を呆れたように笑って一瞥し、我が子の顔をのぞき込んだ。
    生まれたばかりのはずなのにぱっちり開いた大きな目と、ぱっかり開いた大きな口。
    ……んん?

    「…………十四松?!」

    生まれたばかりの赤子なのだが、顔を見た瞬間、一松の直感がそう告げた。
    一松の掠れた呟きに、カラ松は気付いていない。
    気のせいだろうか?
    いや、確かにこの子は十四松だ。そう思えてならない。
    え?ってことは前世の兄弟が息子として生まれてきたの?マジで?!
    驚愕の事実にまた気を失いそうになった。
    頭がクラクラして眩暈がするのは決して産後の疲労だけではないはずだ。
    カラ松は相変わらず感動の涙を流しながらセラヴィセラヴィ言っているため、おそらくまだ気付いていない。


    結局カラ松が生まれた我が子の顔をしっかりと見たのは、母子共に後処理も終えて一段落し
    一松が病室のベッドに横になっている時だった。
    産湯で綺麗にしてもらった息子が白い産着に包まれ、小さな新生児用のベビーベッドに乗せられて
    運ばれてきたのでカラ松が抱っこに初挑戦することになったのだ。
    初めて腕に抱いたその子の顔を見て、カラ松は一松と同じ反応をしてみせた。

    「…………十四松?!」

    「…やっぱりそう思う?…僕も思った。」
    「一松もそう感じたのなら間違いないんじゃないか?
     そうか…まさか十四松が俺達の子供として生まれてくるとはなぁ。」
    「ん…驚いたよね…。」
    「ああ。…そうだ、一松。お疲れさま、よく頑張ったな。
     俺を父親にしてくれて、ありがとう。
     こんな可愛い奥さんと息子を持てて俺は果報者だ!」
    「ヒヒ…どういたしまして。
     つーか、前世の兄弟だけどね。」
    「俺達六つ子の縁は生まれ変わった程度じゃ切れたりしないってことだな!」

    小さな十四松(もう決定だ)をベビーベッドにそっと寝かせると、
    カラ松は部屋の隅に畳んで置いてあったパイプ椅子を広げ、一松が横たわるベッドの脇に腰掛けた。
    一松の腕には産後の感染症予防のための点滴が打たれている。
    明らかに疲労の色が見える一松の頬をカラ松が優しく撫でる。
    それから顔を近づけて、額に小さなリップ音を立てて口付けを落とした。
    いつもは照れ隠しで殴り飛ばす一松も
    (とは言っても前世と違ってカラ松にとっては大したダメージになっていない)
    今は抵抗する気力はないのかされるがままだ。

    「本当に、お疲れ。」
    「…ん。」
    「…ところで思ったんだが。」
    「何。」
    「俺達が他の兄弟に会ってなくて尚且つ今日、十四松が生まれてきたってことは…」
    「え…え?…ちょっと、嘘でしょ。僕も少しその線も考えたけどさすがに…」
    「いや、他の兄弟に会えない理由が、まだあいつらがこの世に生まれていないからだとすると…」
    「まさか…ないないない!というかないと思いたいんだけど!」

    「「…………。」」


    「一松、あと3人頑張ろうか。」
    「嘘だろおぉぉぉぉ?!!!?!」

    ーーー

    その後、
    十四松が生まれた2年後にトド松(♀)が
    更にその3年後にチョロ松が
    更に更にその2年後におそ松が生まれて
    無事に今世でも六つ子が揃いました。

    「待って、こいつら僕らが育てていくの?!」
    「フッ…当たり前だろう。俺と一松の愛の結晶達なんだからn「荷が重ーーーい!!!」えっ…」

    ーーーーー

    蛇足

    ●カラ松パパ
    一家のパパ。27歳の時に一松と結婚してその翌年に十四松が誕生。
    割と有名な大企業に勤める一家の大黒柱。
    転生してイタさは緩和されたがたまにイタイ言動をする(確信犯)
    一松マジ愛してる。死んでも離さない。
    子供達マジ可愛い。
    中でも女の子として生まれてきたトド松は特に可愛くて仕方ない。
    お嫁?絶対許しません!

    ●一松ママ
    一家のママ。22歳の時にカラ松と結婚してその翌年に十四松が誕生。
    大学を卒業してすぐに結婚したので就職はしてなかったが、
    現在は近所のドラッグストアでパートをしている。
    今世では少々身体が弱いのが悩み。
    子供達はみんな健康に生まれてくれたのはホッとしている。
    気恥ずかしさが勝ってしまうため素直になれないがカラ松のことはちゃんと愛してます。
    子供達にはデレ100%

    ●十四松
    明るく元気な長男。
    弟妹の面倒もちゃんと見るイイコ。
    中でもトド松が大好きな隠れシスコンでカラ松と共にトド松護衛隊を結成している。
    前世に比べてそこまで狂人ではないけど運動神経は抜群。
    前世の記憶は割と早い段階で思い出した。

    ●トド松
    おしゃまさんであざとい長女。
    お兄ちゃんの十四松が大好きな隠さないブラコン。
    彼氏?十四松兄さんよりカッコイイ人がいたら考えるよ!いるワケないけどね♡
    生まれ変わってもカラ松に「イッタイよねぇ〜」とツッコむのは忘れない。
    前世の記憶は小学校に上がった頃に少し思い出した。
    現在も随時記憶補完中。

    ●チョロ松
    しっかり者な次男。
    おそ松が生まれるまではヤンチャ坊主だったが自分以上にヤンチャな弟ができたことで
    お兄ちゃん心が芽生えたのかしっかり者のおそ松ストッパーに成長した。
    あざとい姉にいいようにパシられる率No.1
    両親も兄も姉もあんなんなので今世でも立派にツッコミ役を果たしている。
    前世の記憶はまだない。

    ●おそ松
    やんちゃな末っ子。
    末っ子なのでみんなに甘やかされてそうで実はそうでもない。
    とにかくやんちゃな悪ガキ。
    時折、一体どこで覚えてきたんだという下ネタを暴発する。
    常にチョロ松に怒られて引き摺られているが、なんだかんだでチョロ松にべったりなお兄ちゃん子。
    前世の記憶はまだない。


    お粗末様でした。
    ちなみに子供達の順番はあみだくじで決めました。
    焼きナス
  • 記憶の中の殺人鬼Need not to know ... #転生 #恋 #刀 #和風 #雪 #月 #両儀式 #空の境界 #fgoキチゴエ
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