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    Adamas 3 チッ。
     と、スクアーロは舌打ちをひとつ。それから右手でがしがしと頭をかく。
     昨日の任務で大したヘマこそしなかったが、敵側にいた狙撃手に左手を狙われた。結果、戦闘の隙を縫っての被弾。相当の腕利きだと素直に感嘆を覚えたものの、もちろん骸となってもらった。
     ――目立った破損こそないものの、どうにも義手の動きに違和感を覚えるあたり、少なかれダメージをくらってしまったらしい。
    「オレとしたことが」
     もちろん任務は完遂した。
     報告書の作成はそこそこに、スクアーロが向かうのは義手のメンテナンス担当――というより義手の製作者そのもの――がいる部屋だった。
     みがかれた飴色の木製の扉を押し開ける。
    「おや。これはこれは、スクアーロ隊長。いらっしゃいませ、定期メンテナンスでもないのにご用ですか?」
    「あ゛あ」
    「となると昨夜の任務でなにかありましたかね? いえ、もちろんスクアーロ隊長が下手をなさるとは思いませんが。なにせ、この私アマデオの義手をお使いになっていらっしゃるのですから」
     出迎えたのは、三十代半ば頃の眼鏡をかけた男だ。いかにも学者然した風貌をしていながら、着ている白衣はなにかの染みであちこちが汚れているうえ、目の下にも隈ができている。そんな冴えない風体をしているが、眼鏡の奥の瞳は爛々と輝いている。
     まったくヴァリアーに似つかわしくない風貌の彼が、スクアーロの義手を作った、技師だ。
    「……耳が早いじゃねえか」
    「百万が一に備え、隊長が任務にお出になる際には待機しておりますゆえ。して、いかがなされましたか?」
     話を振られ、スクアーロは左手を覆っている手袋を脱いだ。
    「敵の狙撃を食らっちまった。少し違和感がある」
    「ほうほう。目立った外傷はないようですが……、違和感ですか。となりますと……」
     おかけください、と勧められるがまま、質素なパイプ製の椅子に座る。向かい合うようにして技師も向かい合わせに座り、そうして、横の作業台――スクアーロの目にはがらくたにしか見えない何かがこれでもかと散乱してる――その中から、見た目も軽そうな、ちいさな金槌を手に取った。
     アマデオはそのハンマーで、スクアーロの義手をコン、コンと軽く叩いていく。スクアーロは門外漢だが、おそらく、音の反響によって内部の違和感を調べているのだろう。
     何か所かを叩いて義手の状態を確認していた技師は、金槌を机に置くと、
    「内部の部品が壊れていますね。義手の交換をしましょう」
    「今のでンなことまで分かるのかぁ」
    「もちろんですとも。自分が作った作品は――我が子にも等しいものですから」
     と、そこへ扉が開く。
    「アマデオはいますか。ああ、スクアーロもいたんですね」
     入ってきたのはオルテンシアだ。日中は執務室に籠りきりな彼女にしては珍しい。
     とはいえ、この部屋はもっぱらスクアーロが利用しているものの、所属そのものは後方支援部隊に相当する。彼女の管轄、領域だ。おとないはなにも不思議なことではない。
     アマデオは椅子に座ったまま彼女を出迎えるが、オルテンシアが気を害した様子もなく。いつものことなのだろう、とスクアーロはなんとはなしに思った。
    「これはこれは、ごきげんよう、オルテンシア隊長。今日はどういったご用件ですか?」
    「強いていうなら様子見ですかね。――、スクアーロは義手の調整ですか?」
    「調整といいますか交換ですね。昨夜の任務で、少々」
    「……それ、邪魔でなければ見学をしても?」
    「私は構いませんが」
     アマデオはスクアーロに視線を向ける。
    「……好にしやがれぇ」
     では、とオルテンシアはスクアーロの斜め後ろ横、作業の邪魔にはならないだろうが様子が見える場所に、スクアーロと同じ質素なパイプ椅子を置いて座る。
    「義手の破損ですか?」
    「まあなぁ。相手に腕のいいスナイパーがいやがって、左手を狙われた」
    「君がしてやられるとは相当な相手ですね。……でも怪我がなくてよかった」
     いたわりの言葉とともにかすかに微笑みを向けられたのは、果たしてスクアーロの気のせいだろうか。
    「……たリめーだぁ」
     そうこうしている間に、交換用の義手の準備が整った。作業に必要な道具類も、さきほどは雑然と散らかっていたものが一部片付けられた作業台の上に用意され、アマデオは台の横、スクアーロと向き合う格好で椅子に座る。工具をひとつ、手に取り、まずは装着している義手の取り外しから始まった。
     さすがと言うべきか、技師の手つきはなめらかで、表情は真剣そのものだ。スクアーロもオルテンシアも無言で作業を見つめる。取り外しを終えれば、次は交換用義手の装着だ。
     スクアーロの義手には特殊なギミックがある。手首側の接合部分のとある箇所に力を込めると、手首の先が180度、正反対に折れ曲がるようになっているのだ。非常に難しい作業のように思われるものの、それでもアマデオはよどみない手つきで、複数の工具をこまめに使い分けながら交換作業を続ける。
     その仕事ぶりにはスクアーロも信頼を置いている。でなければ、彼がこれまで生き残ってこれたはずがないのだから。
     作業も終盤にかかり、ふ、とスクアーロはオルテンシアの存在を思い出した。
     自分は技師の仕事ぶりを確認する意味で作業を観察しているが、どうして彼女は自分に関わりのない作業を見続けているのだろう。
     疑問に思い、水を向ける。
    「見てて楽しいかぁ?」
    「興味深くはありますね。その技術をたまには確認しておかなければ。――アマデオを引き抜いたのはわたしですから」
    「なあっ!?」
     ぎょっと瞠目する。
     思いもよらぬ返事だった。
    「おや。ご存じなかったので? スクアーロ隊長の義手を製作するため、オルテンシア隊長が私をスカウトしたのですよ」
     作業の手を止めず、アマデオまでもが同意する。
    「初耳だぞぉ!!」
    「言ってなかったのですか?」
    「そういえばそうですね」
     事もなげに答えるオルテンシアはいたって普段通り、感情の薄いかおをしている。
     知らなかったのはスクアーロばかり、というわけだ。
     ふつり、と腹の底に熱が生まれる。自分だけが知らない事実に、自分だけがつま弾きにされたことに対してではない。
     それよりも、もっと重要な。
     かつて、むかしに――
    「さて、交換は済みました。どこか違和感はありませんか?」
     アマデオの声で我に返る。
     義手を一通り動かしてみたところ、違和感は、ない。交換を行ったかどうかすら疑わしいほど、しっくりする。やはり腕のいい技師だ。
    「では、わたしはこれで」
     それまで作業を見学していたオルテンシアが立ち上がり、部屋から出ていく。それを追いかけ、スクアーロもまた部屋を飛び出した。
    「っ、待てぇ!!」
    「あっ、まだ微調整が……」
    「後にしろぉ!!」

     幸いにして、オルテンシアはすぐに見つかった。足音がスクアーロのものだと気付いたのだろう、歩みを止める。――彼女にはそういう察しの良さがある。
     これからスクアーロがなにを言いたいのかも、きっと理解しているだろう。
    「貴様、なぜ黙っていた。なぜオレのために技師の手配をした」
     テュールとの死闘ののち、スクアーロは利き手である左手を、自ら切り落とした。片腕でなお剣帝として君臨していたテュール。その剣の道を理解するために。
     死闘の疲労とおびただしいばかりの傷、そして出血のショックから気絶し、数日は寝ていたはずだ。意識が戻ったころ引き合わされたのが、義手の設計と製作を担うことになりました、と告げた冴えない風体のアマデオだった。
     その技師の手配がまさか、オルテンシアによるものだったとは。
     この数年間、スクアーロとて何も見てこなかったわけも、聞いてこなかったわけでもない。
     心にたったひとりと決めたそれを失った直後に平静でいられるわけがない。ましてや、仇と言っても過言ではないスクアーロのために、技師を手配する、など。
    「……わたしがしたことだと、特に言う必要を感じなかったので。アマデオを手配したのは、君がヴァリアーの一員だから。だから守る。だから活かす。そう考えたまでです」
     恩人であることをひけらかさず。
     今回のことがなければ、ずっと知らずにいたかもしれない――そう思うと、スクアーロの胸の内にふつふつと、熱く、苦いものがこみあげてくる。
     思わず、声を荒げてしまうほどに。
    「言っておけば、そうして恩でも売っておけば、よかったんだぁ!! そうすりゃあのとき――」
     数年前。
     ヴァリアーがボンゴレ本部に反旗をひるがえした、“ゆりかご”の直前。
    「そんなことで鈍る剣ではないでしょう、君の剣は。ただあのとき、君が斬るべきと思ったものを斬った。それだけです」

     スクアーロはオルテンシアを斬っている。
    帥(すい) Link Message Mute
    2022/06/21 3:56:32

    Adamas 3

    スクアーロ夢連載三話目です。たったひとりを胸に抱いた娘が、ひとりの男に惹かれていく物語。

    ※名前変換機能を使用していないため、夢主の名前が普通に出ます
    ※ヴァリアーに独自設定があります

    初出:Pixiv:2021年1月31日

    #家庭教師ヒットマンREBORN!  #リボーン  #スクアーロ  #夢小説  #女夢主  #復活夢

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