わがままの話「好きって言って」
おひいさんは一瞬キョトンとした顔でオレを見つめてから、すぐにお腹を抱えて笑い出す。オレはそれを微妙な気持ちで見ている。
「笑いすぎじゃないですか?」
「ふふ、うん、ごめんね。あまりにも可愛いからつい」
「あんたがわがまま言ってみろって言ったんでしょーが」
「一日中考えて出したわがままがそれなのが可愛いね、ジュンくん」
散々笑った後、おひいさんはオレを抱きしめて「好きだよ」と言った。
「そもそもこれはわがままじゃないし、毎日言ってるね」
「まぁ、そうっす、けど」
「他にはないの?簡単すぎてつまらないね」
あれ買って欲しいとか、これ食べたいとか。おひいさんは指を折って数えながら提案をする。
オレにだされた「わがままを言う」課題。
欲しいものは自分で買うし、食べたいものは自分で作る。『それは重要なことだけど、ぼくだって好きな子のわがままを叶えてあげたいんだよね』そう言われて一日中考えたが思い付かなくて。そして冒頭の一言を言って笑われた。
「抱きしめて欲しい」
「今やってるね」
「明日オレの代わりに掃除機かけて欲しい」
「えっ、そういうのはちょっと」
「チッ…」
ネタ尽きた?そう言っておひいさんが笑う。オレの機嫌は悪くなって、おひいさんの方を向いていたへそもすっかり曲がってしまっている。
「ジュンくんもっと自分に素直になった方が良いんじゃない?」
「今言ってますけどねぇ?」
オレを抱きしめていたおひいさんが離れて、オレの肩を掴んで顔を覗き込んでいる。オレはおひいさんを見つめ返す。
「まだ言ってないことあるんでしょう?今度は笑わないから言って」
「ほんとかよ」
「本当だね」
きっとおひいさんはオレのこのわがままを見抜いていて、それを聞き出すためにこんなことを言い出したのかもしれない。いや、考えすぎか。
とりあえずわがままを言わないことには解放してもらえなさそうだ。ゆっくりと深呼吸をした。
「……おひいさんが欲しい」
「ぼくが欲しいの?」
「欲しい」
オレの答えに、おひいさんがもう一度オレを抱きしめる。抱きしめたままゆっくりフローリングに倒れ込んだ。押し倒すように覆い被さったおひいさんが妖艶に笑う。
「ジュンくんのわがまま叶えてあげるね」