■第一夜
おかしい。
帰ろうとしているのだが、どうしても帰ることが出来ない。
帰るべき場所が分かっているのに、決して辿り着くことが出来ない。
路銀がない。
帰路が分からない。
住所が分からない。
途中で必ず足止めを食らう。
エレベーターが決して自分の階にピタリと着かない。
分かっているのに、帰るべき場所も、自分が今いる場所も。
ーー本当に?
今自分はどこにいる?
なぜそこにいる?
帰るべき場所とはどこだ?
徒歩、自転車、車、電車、船、飛行機……なにを使っても決して家にたどり着けぬのはなぜだ?
そもそも自分とは何者だ?
なぜそんなにも家に帰りたがる?
高校生だったりする。
大学生だったりする。
現実の私は違う。
過去の話だ。
なのにずっと囚われている。
逃げたいのか?
なぜ逃げられないのか?
安心できる居場所が我が家だけだと知っているからだ。
思っているからだ。
そして、最後には必ずこう思うのだ。
あぁ、今すぐにでも死んでしまいたい。
何処なら私は死ねるだろうか?
探す。
ここじゃダメだ。
探す。
ここもダメだ。
探す。
ここなら…いけるかもしれない。
けれど、あと1歩が決して踏み出せない。
死にたいのに死にきれない。
安心を得たいのに得ることは叶わず、死への逃避を望むくせして生にしがみつく。
なんと惨めなさま。
ーーそして、目が覚める。
良かった。自分の家だ。そして、今の自分だ。
夢の中でも、現実でも、心から安心できた試しがないのに。
それでも、探し求め続けるのだ。
私の帰るべき安心できる居場所を。家族を。
■第二夜
ーー"この世のものではないもの"と遭遇するのは末恐ろしい。
私の近所に現れたり、私の身内に化けたりとバラエティーに富んでいるが、決まってだいたいそいつらを主人公として対峙する羽目になるのは私だ。
以前は、読経を上げた、
今回は、ただ、逃げ回り怯えるしか無かった。
都合よくまぁまぁ丸く収まり良かった良かったとなる夢もあれば、
どうしようもなく、宛もなく、逃げ回り続けた結果、何とかなるかもしれない…といった状況で目が覚めることも多い。
おっかない顔をしてそれはそれはとても恐ろしい。
必死で明かりを探し逃げ回り続ける日もあった。
又は、たった1人、無人で暗く広い祖母の家の中、どデカい仏壇を目の前に立ち竦む日もあった。
或いは、私自身がそういった祓い屋もどきになっている日もあった。
ーー場所もその時々による。
それは無人の夜の学校だったり。
家の近所の古びた廃墟だったり。
山奥の森の中だったり。
そして、突然、唐突もなく襲いかかってくる。
この怖さは本人にしか分かり得ないだろう。
ーー正直、一体どうしろと言うのだ?
知ってる限りの読経を唱え、引き腰で対面し、成仏させたことも。
家中の扉や窓をすべて締め切って、どこかに逃げ隠れ込み、過ぎ去るのを待ち耐え続けたことも。
逆に、人通りの多い場所を、明かりを目指し、誰とも知らず同伴者たちと夜の森の中、わけも分からぬまま一緒に逃避行…なんて展開も。
ーー正直、1人よりはマシだと思っている。
(例え夢が作り出した住人であったとしても)
まァ、全て、夢の中の話であるから、
なんとか融通が効いたりするものだ。
それが夢だとは理解していなくとも、
なんとなく無理やり都合のよい展開に無理矢理持っていけたりなんてことが出来る。
ーー目が覚めて。夢だったとわかったときの安心感はなんとも言い難い。
夢だと頭では分かっていても、怖いものは怖い。
そういう日は、家中の明かりを灯して影という影をなくし、美味しいものを食べたり、不安を和らげる薬を飲んだり、音楽や動画を流したりと気持ち気分を上げるしかない。
ーーさて、今から温かいスープでも飲むか。