夢術廻戦(ごじょせん×男主)①
「ハイこれ」
「…なぁにコレ?」
サトルくんから気軽に手渡された黒いカードを受け取る。TでもdでもRでもない、見慣れないデザインのそれ。なんかものすごく高級そうな存在感あるやばぁいポイントカードかなんかかな????(遠い目)
この不審者の突飛のない言動に慣れつつあるみょうじだったので、直感的にゲェ…と嫌な顔をした。ぜってぇ碌なもんじゃないだろ。
「んっふふ、なんでも叶えてくれる魔法の不思議なブラックカードだよ♡ 実は、このシチュエーション一度はやってみたかったんだよね〜♪」
「ふーん、はじめて見たワ…」
やっぱ碌でもなかったな。
そう思いつつ、せっかくだしとおそらく今人生で一生眼にすることのないだろう手元のカードをまじまじと観察することにした。
よく金持ちと言えばイコール『黒いカード』のイメージだが、厳密に説明するならばそのカード発行元の最高級品質のサービスを受けられ、その上カード所持者の要望を可能な限り無理矢理通せるやべーカードなのだ。
会社名は聞いたこともない名前だったが、ソッチの業界かあるいは上位階級でしか流通されないものなのか。
どうでもいいが。
「ヘェ…スゴイじゃん、サトルくん。珍しいモン見せてもらったワ」
「…」
「…??ハイ、あんがとって」
「…うーん、これ伝わってない感じかな。僕それなまえにあげたつもりなんだけど」
「は????????」
「もう名義変えちゃったし。あ、要らないなら捨てといちゃって〜♡」
「えぇ…、マジぃ??」
「マジマジ♡」
ーーーものをあげてそれを『俺が』受け取った。
つまり、もうサトルくんにとってこのカードは完全に『俺のもの』判定らしい。
心底ダルいな、という感情をモロ出しにしつつしぶしぶ受け取って安っぽい自分の財布に丁寧に仕舞い込む様を、サトルくんはニコニコ顔で嬉しそうに微笑んで観ていた。
もちろん俺はコレを使う気など一切ない。
それを分かっていながらいろいろ寄越してくるので、コイツほんと頭イカれてんなと毎回思うが相手は俺が受け取った(押し付けられた)のを見るのが幸せらしい。
頭イカれてんな。
流石、警察に通報しても警察側から泣き泣き許してください此方では対応出来かねます…と号泣懇願された男。
今まで貢がれたさまざまなものは、わざわざ大手銀行の貸金庫サブスクして全部厳重に保管してある。手続きはばりくそ面倒だったし、サブスクでバイト代は溶けた。が、次記帳したら桁がおかしい額の金が振り込まれていたので口座を別個違う銀行で開設する羽目になった。クソが。
あと、何故かサブスク契約しに行った日にサトルくんが当たり前のように銀行前で手を振って待っていたのはいつものことなので割愛。見た目不審者スタイル良い加減辞めろ。俺への風評被害が増えるだろうが畜生死ネ。
ーーーーその次の日のテレビのニュース番組で、遠く離れた県外で大規模な崩落事故が起き少なくない人数が重軽傷を負ったらしいが、所詮他人事なんであーあ、ご愁傷様ァと胸の中で手を合わせて一瞬ですぐ内容なんて忘れた。