僕のアブノーマル自分の両親が異常なことは物心がつく前から気づいていた。
僕には兄がいる。2つだけ年上の兄。
たったそれだけしか離れてないのに、僕の両親は兄より僕を愛していた。
1~2歳の頃はまだその意味が理解出来ていなかった。
ただ身近な遊び相手として兄に近づいた。
その頃はまだ幼く、お互いにお互いが不思議な存在にしか見えてなかった。
3歳になる頃、僕は異様に両親に愛され始めた。
それがどうしてなのかその頃の僕にはまだわからなかった。
親から愛されないことを悟った兄はだんだん僕からも両親からも興味を無くしていった。
感情表現が苦手な兄さんはとにかく僕を嫌っていて、遊んでほしくて近づいても殴られるだけだった。噛まれることもあった気がする。
僕はただただ不思議でしかなかった。
同じ血が流れてる同じ兄弟なのに。間違いなくあの両親から生まれた子どもなのに。
兄さんの方が僕より先に生まれているのに。
どうしてここまで扱いが違うのか。僕には全くわかってなかった。
観察を続けるうちに次第に理解していった。
兄さんは生まれた頃から根っからの暴れん坊で気性が荒く、感情表現がとにかく下手くそでことあるごとに噛んだり怒ったりしていたらしい。
それほど手を焼く存在に疲れ、母さんは兄さんを殺そうとさえ思ったという。
だからその二年後に生まれた僕が完全に真逆な存在だったことに安堵し、そこから全て違えてしまったらしい。
両親は兄さんを愛さなくなった。自分勝手な理由で。
その頃の僕には両親の気持ちは微塵も理解出来なかった。
ちゃんと向き合えば済むことなのになんで向き合わないのか。
兄さんが癇癪を起こすことがどうして苦痛なのか。
兄さんの気持ちを知りたいとは思わないのか。
まだそんな言葉を知らない僕でも自然と両親を人でなしだと思うようになっていた。
早々に両親を見限るようになっていた。
それから僕の興味は兄だけに向けられるようになった。
僕だけは兄の味方でいたい。自分のことさえ自分でもわからない兄の理解者でありたい。誰よりもよく知りたい。
そう思って何度も付け回しては「キモい」といわれて拒絶された。
僕は僕の存在が兄の劣等感を煽り、傷つけていたなんて知らなかった。
「俺なんかに執着してねぇでとっととお仲間のところにでも帰れよ。
俺より優秀なお前ならどこだって受け入れられるだろ。わかったら二度と近寄るなっ!!」
僕は僕が兄より優秀なことに気づいてなかった。
ただ純粋に兄の役に立ちたくて色々出来るようになっただけで。
ただ純粋に兄のことが知りたくて全ての分野で1位を取るようになっただけで。
それが簡単に出来ること自体が異常だなんて気づいてなかった。
それが簡単に出来てしまったことが兄を悩ませているなんて気づいてなかった。
それに気づいてしまってから僕はどう生きていいのかわからなくなった。
ただ兄に褒められたかった。僕の存在を認めてほしかった。受け入れてほしかった。許されたかった。
僕が居ることで兄さんが苦しんでしまうのなら、消えてなくなりたい。
僕はただ兄さんの「弟」でいたいだけなのに。
兄から愛されないのなら、兄を苦しめてしまうのなら、こんな才能なんてほしくなかった。
クズで無能なのは僕でいいのに。代わってあげられたらいいのに。
どうして先に生まれた兄さんが恵まれないのかわからない。
本当なら先に生まれた兄さんが持つべきなのに。
どう生きていいのかわからなくなってから、僕と兄さんとの間には今まで以上の溝が生まれてしまった。
僕は兄さんにとって何であればいいんだろう。
僕が男じゃなければ兄さんも救われたんだろうか。
僕が女だったら兄さんの身体も心も癒せたかもしれないのに。
生まれるべき身体を間違えたかもしれない。
生まれるべき家を間違えたかもしれない。
でも兄さんは両親に嫌われてるからそうなったら兄さんは一人ぼっちになってしまう。
何でも出来るのに。僕は兄さんのためには生きられない。
存在自体が疎まれているから。
だから、兄さんにボコボコにされることが何より気持ちよかった。
男の僕でもそれで満足させてあげられるなら。
僕が壊れるまで殴ってくれていい。
「お前って本当に頭おかしいよな。なんでそこまで俺に固執するんだよ。遊び相手なら他にいくらでもいるだろ?」
「頭がおかしい……僕が……?兄さんより……?本当に!?」
「……やっぱお前気持ち悪いわ。病院でも行ってこいよ」
僕にはその言葉の意味が全くわかってなかった。
とにかく兄より劣る部分が一つでもあることが嬉しくてどうでも良かった。