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    アナスタシオスの憂鬱 アナスタシオス。
     古代キリシアにおいて『目覚めた男』。
     ナベリウス・カルエゴはまさにこの目覚めた男そのものであった。
     厳密に言えば、彼は決して古代ギリシア人でもなければ英雄などではない。陰湿で厳粛な悪魔である。
     そんな悪魔たるカルエゴがなぜ『アナスタシオス』なのか。
     話は少しだけ遡る。
     
     ナベリウス・カルエゴはいつものように悪魔学校バビルスで教師として鞭を取っていた。陰湿教師と恐れられながらも、生徒たちからの信頼は厚く、同僚の教師陣からも慕われていた。不遜極まりなく口も悪い彼であったが、存外情に脆く存外抜けている面もあり、あぶうノーマルクラスの生徒である問題児のうちの一人、鈴木入間の使い魔になっていたりするのだ。
     そして、そんなバビルスにおいてカルエゴが最も苦手としている悪魔があろうことか同じ校内に存在する。
     オペラ。彼は本来理事長であるサリバンの執事兼セキュリティデビルなのだか、訳あって教師としてバビルスに就任してきたのだ。
     カルエゴはしばらく胃薬のお世話になるこど腹痛に苛まれることになっていた。
     いや、そんなことははっきり言ってどうでもいい。どうでもいいのだ。些細なことだ。
     本題は、自分がそのオペラの横にいるとなぜか心が躍るというか、そわそわして落ち着かなくなるのである。もちろん、平然を装ってはいるが、これは由々しき事態なのだ。
     職務中、しかも番犬として絶対に裏切ることもできない教師という職業において、今の感情はカルエゴにとって煩わしいことこの上ない。
    「カルエゴ先生」
     そんなことを菅んが得ていると、佇んでいたオペラが小首を傾げて顔を覗き込んでくる。
     美しい緋色の前髪が揺れて、編まれた三つ編みも横に流されているが、普段のオペラとは違う髪型に未だ慣れないである。
    「別に、なんでもありません」
     尻尾をゆらゆらさせてこちらの様子を伺っているオペラを尻目に、カルエゴはそっけなく返事を返すと、さも忙しいとばかりに机に齧り付くように山積みになった書類に手を伸ばして作業を始めた。
     今、職員室にはカルエゴとオペラしかいない。
     つまり、二人きりなのだ。
     自分の気持ちを自覚した以上、これ以上心が揺れるのは避けたいところである。
     平常心、平常心と心の中で唱えて、まだ横にいるであろうオペラに気づかないふりをして、再び忙しい素振りを行なった。
    「! は?」
    「ふふ」
     山積みにされていたはずの書類が、いつの間にか綺麗さっぱりとなくなっていたのである。
    「このくらい、私にかかれば一瞬ですよ」
    「勝手なことしないでください」
     どうやらオペラがカルエゴの目を盗んで早技でやり終えていたようだった。カルエゴは、まあオペラにかかればこの程度造作もないことだ。しかし、仕事が自分より出来ると知ってはいるものの、カルエゴとしては癪である。だが、どうせオペラのことだ。考えていてもキリはない。これはこれでよしとして、さっさと切り上げてしまおうと席を立ったその時だった。
    「っ!」
     襟首を摘まれ、いや鷲掴みにされ強引にオペラの方へ寄せられたと思ったら、そのままオペラの唇が振ってきた。しかも、カルエゴの唇の上にである。思いもよらない行動をされたカルエゴは、普段の頭の切れはどこへやら。そのままオペラの唇を受け入れるだけで、されるがままだった。
     下唇をそっと舐められたカルエゴは一瞬身震いをするが、やられるだけでは腹が収まらないとやり返してみる。
     同じようにオペラの唇に舌を這わせてみたが、特に抵抗もなかった。
     ふとオペラの顔を覗いてみると、黄昏色と琥珀色の混じる美しい瞳が揺らめいている。
    「……一体、何のマネですか」
    「もう終わりですか? カルエゴくん」
    「は?」
    「続きはご所望でない、と?」
     口角を上げなからニヤニヤとこちらを見つめて信じられない言葉を口にする。この美悪魔! 自覚はあるのか⁉︎ 俺でなければ襲われているというのに全く、なんて言い草だ。そうは思っても自分の気になる相手を不快な思いをさせゆような野暮な男でもない。カルエゴは「ゴホン」と軽く咳払いをすると、「そんな発言は、冗談でもしないほうがいい」と手短に伝える。案に危ないから気をつけろということだ。これで相手に伝わるといいが、相手はオペラなので果たして思惑通りになるかどうか。
     しかし、返ってきた言葉はカルエゴのさらに予想外で。
    「そのつもりで仕掛けたのですが」
     呆れて言葉も出ないカルエゴだったが、額に眉間を寄せながらも緩まった口元は隠せなかったようで、オペラから「キミだって、こうしたかったのでしょう」と告げられて、赤い服に身を包んだ美悪魔を腕の中に収めるのであった。
     アナスタシオスはこれから憂いを胸に生き続けることになる。
    みそ子 Link Message Mute
    2023/05/27 23:23:33

    アナスタシオスの憂鬱

    オペラさんは性別不詳です。 #二次創作 #二次創作小説 #魔入間 #オペラ #ナベリウス・カルエゴ #カルオペ

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    • 僕と君の物語Xでの大人の絵本企画の総集編です。本編は18禁のため、その箇所は省いて展示します。
      絵本や寓話をモチーフとした、年齢差など捏造も含みます。
      #二次創作小説 #魔入間 #二次創作 #ナベリウス・カルエゴ #BL #バラム・シチロウ
      みそ子
    • 星空の下の物語カルシチ短編集。if人間界、女装、年齢差あり。 #二次創作小説 #二次創作 #魔入間 #ナベリウス・カルエゴ #BL #バラム・シチロウみそ子
    • ダブルシュガー #二次創作小説 #二次創作 #魔入間 #オペラ #カルオペ #ナベリウス・カルエゴ #なべひらみそ子
    • ハッピーエンドロール #魔入間 #オペラ #二次創作 #二次創作小説 #カルオペ #ナベリウス・カルエゴ #なべひらみそ子
    • 真心と愛情真心を君に、愛情を先輩に
       
      「平尾先輩」
       啓護は平尾を呼び止める。ここは啓護の部屋だ。二人は多忙な時間をすり合わせて束の間の逢瀬を堪能していた。お互い仕事優先であり、なかなか会えなかったのだ。
       この逢瀬でも会うやいなや、挨拶なんていらないとばかりに顔を引き寄せられ荒々しく唇を喰み合い、服を脱ぐことさえ惜しらしく、お互い吐息を溢し口づけを交わしながら、服も剥ぎ取ってベッドへ向かう。
      「はぁ、啓護くん。もう、待てない」
       激しく啄むような口づけを交わしながらそう話す、珍しく余裕のない先輩に、啓護は思わず喉がゴクリと鳴らす。息を切らして上目遣いをこちらに向けてきて、待てないとは。可愛らしいところもあるものだな。そう感心しているうちに、啓護のシャツは平尾に脱がされ剥ぎ取られた。
       思わす身震いをした啓護だったが、自分ではなく平尾がこういうコトに積極的なのは珍しい。
      「待ってください」
      「は?」
      「あー、えっとですね。今、スキンを切らしているのでやりたくてもできないんですよ」
       そういうや、平尾は明らかに不機嫌になりそんな態度も隠さない。避妊具はセックスに置いて必需品だ。これは俺を守る役目、というよりも平尾先輩を守る役目が大きい。万が一を考えての最優先事項なのだ。
      「……わかりました。仕方ありません。今夜は我慢します」
       子供のようにわかりやすく不貞腐れる平尾を見て、啓護は愛おしさが込み上げる。仕事の時は無愛想で完璧主義で完全無欠の秘書が、自分の前ではあどけない仕草を見せるのだ。
       疑問に思って前に一度尋ねたことがある。なぜ、俺の前では幼くなるんでしょうねぇと嫌味も含めて。しかし、返ってきた答えは意外な、否、想定外のものだった。
      「君のこと、信頼していますから。それに、私は真心を君にあげたいんです」
       今思い出しても鮮明に思い出されて目頭が熱くなる。嬉しくなった俺はそのあと、平尾先輩に対して自分が持てる精一杯の言葉を返したものだ。
      「啓護くん?」
      「あ、はい。すみません。考え事をしていました」
      「またですか。相変わらずですね、啓吾くんは。私、もう帰りますね」
       そう言って平尾は玄関や寝室の脱ぎ散らかした自分の衣服をかき集めて、それを着用しようとしている。
      「待って、待ってください、先輩」
       呼び止めると平尾はため息をついてこちらに顔を向ける。
      「だって、今夜はもうしないんでしょう。ここにいる意味がない」
      「別に、体を繋げるだけがセックスではないですよ。というか、セックスしなくったって、あんたと一緒にいたい。それだけじゃだめですか?」
       平尾の手を握りしめて真剣に話す啓護をよそに、平尾はいたずらっ子な顔を見せて舌をちろりと出すと、「私、欲張りなので両方欲しいです。君とセックスしたいし、一緒にいたい。他愛もない会話で笑い合いたい。ただ手を握って夜の眠りにつきたい」
      「ははっ。じゃあ、それ全部やりましょうよ。」
      「でも、さっき避妊具は切らしているって」
      「セックスは、挿入だけがセックスではないので」
       不敵な笑みを浮かべて平尾に話す啓護だったが、平尾はイマイチ理解していないようで小首を傾げて見せる。その仕草が啓護にクリーンヒットしたらしく、そのまま平尾に思いっきり抱きつくと「しきり直しです。挿入はしなくても、あなたをきっと満足させてみせますよ。先輩」
       啓護の言葉を聞いた平尾はイマイチ意味がわからないでいたが、ふふっと笑うと着衣が乱れたまま啓護の首に腕を回すのであった。
      「楽しみにしていますよ、私の可愛い啓護くん」
        #魔入間 #オペラ #二次創作 #二次創作小説 #カルオペ #ナベリウス・カルエゴ
      真心を君に、愛情を先輩に
       
      「平尾先輩」
       啓護は平尾を呼び止める。ここは啓護の部屋だ。二人は多忙な時間をすり合わせて束の間の逢瀬を堪能していた。お互い仕事優先であり、なかなか会えなかったのだ。
       この逢瀬でも会うやいなや、挨拶なんていらないとばかりに顔を引き寄せられ荒々しく唇を喰み合い、服を脱ぐことさえ惜しらしく、お互い吐息を溢し口づけを交わしながら、服も剥ぎ取ってベッドへ向かう。
      「はぁ、啓護くん。もう、待てない」
       激しく啄むような口づけを交わしながらそう話す、珍しく余裕のない先輩に、啓護は思わず喉がゴクリと鳴らす。息を切らして上目遣いをこちらに向けてきて、待てないとは。可愛らしいところもあるものだな。そう感心しているうちに、啓護のシャツは平尾に脱がされ剥ぎ取られた。
       思わす身震いをした啓護だったが、自分ではなく平尾がこういうコトに積極的なのは珍しい。
      「待ってください」
      「は?」
      「あー、えっとですね。今、スキンを切らしているのでやりたくてもできないんですよ」
       そういうや、平尾は明らかに不機嫌になりそんな態度も隠さない。避妊具はセックスに置いて必需品だ。これは俺を守る役目、というよりも平尾先輩を守る役目が大きい。万が一を考えての最優先事項なのだ。
      「……わかりました。仕方ありません。今夜は我慢します」
       子供のようにわかりやすく不貞腐れる平尾を見て、啓護は愛おしさが込み上げる。仕事の時は無愛想で完璧主義で完全無欠の秘書が、自分の前ではあどけない仕草を見せるのだ。
       疑問に思って前に一度尋ねたことがある。なぜ、俺の前では幼くなるんでしょうねぇと嫌味も含めて。しかし、返ってきた答えは意外な、否、想定外のものだった。
      「君のこと、信頼していますから。それに、私は真心を君にあげたいんです」
       今思い出しても鮮明に思い出されて目頭が熱くなる。嬉しくなった俺はそのあと、平尾先輩に対して自分が持てる精一杯の言葉を返したものだ。
      「啓護くん?」
      「あ、はい。すみません。考え事をしていました」
      「またですか。相変わらずですね、啓吾くんは。私、もう帰りますね」
       そう言って平尾は玄関や寝室の脱ぎ散らかした自分の衣服をかき集めて、それを着用しようとしている。
      「待って、待ってください、先輩」
       呼び止めると平尾はため息をついてこちらに顔を向ける。
      「だって、今夜はもうしないんでしょう。ここにいる意味がない」
      「別に、体を繋げるだけがセックスではないですよ。というか、セックスしなくったって、あんたと一緒にいたい。それだけじゃだめですか?」
       平尾の手を握りしめて真剣に話す啓護をよそに、平尾はいたずらっ子な顔を見せて舌をちろりと出すと、「私、欲張りなので両方欲しいです。君とセックスしたいし、一緒にいたい。他愛もない会話で笑い合いたい。ただ手を握って夜の眠りにつきたい」
      「ははっ。じゃあ、それ全部やりましょうよ。」
      「でも、さっき避妊具は切らしているって」
      「セックスは、挿入だけがセックスではないので」
       不敵な笑みを浮かべて平尾に話す啓護だったが、平尾はイマイチ理解していないようで小首を傾げて見せる。その仕草が啓護にクリーンヒットしたらしく、そのまま平尾に思いっきり抱きつくと「しきり直しです。挿入はしなくても、あなたをきっと満足させてみせますよ。先輩」
       啓護の言葉を聞いた平尾はイマイチ意味がわからないでいたが、ふふっと笑うと着衣が乱れたまま啓護の首に腕を回すのであった。
      「楽しみにしていますよ、私の可愛い啓護くん」
        #魔入間 #オペラ #二次創作 #二次創作小説 #カルオペ #ナベリウス・カルエゴ
      みそ子
    • スモーキング・アンド・ラブここはとあるマンションの一室。
       煙草をふかしている主が再度息を吐くと、出された煙が部屋の中に充満する。
       この場所は鍋島啓護のマンションの一室でるため、煙草を吸っているのは他ならぬ啓護である。
       今日は平尾は訪れてるため、遠慮してキッチンの換気扇の下で吸っているのだが、黒革のソファに座っている平尾は嫌そうな顔をしている。
       それでも啓護は気にした様子もなく、くつろいで煙草をふかしていた。
       匂いに敏感で煙草の匂いもそれの類なのだそうで、苦手という平尾のためにタバコの臭いが充満しないよう配慮したつもりだが、換気扇でも緩和することはできなかったらしい。
       そんな啓護に平尾はため息をつくと、黙って手を差し出す。「これ、よかったら」と短く伝えると、手に持っていた袋を啓護へと差し出した。
       袋を広げて確認してみると、中に入っていたのは大量のコーヒー豆と瓶に入っているミルクだ。
       それをみて啓護は苦笑する。あの後、結局のこうした方がお互いのためだということで、このマンションの合鍵を渡していたのだが、上手く活用したようだ。
      「せっかくコーヒー豆を頂いたので、淹れてあげましょうか?」
       という問いに、平尾は首を振った。そして、そのかわりにといって渡されたものがあと一つ。どうぞと言って渡されたが、中身に見当がつかない。
      「甘いものは苦手でしたよね。なので、こちらも持ってきました」
       渡された物はチョコレートだった。
       煙草を嗜む啓護にとって甘味の嗜好品などというものはあまり縁がないものだった。
       しかし、先輩が自分のために選んだと言っていたので、たまにはこういうものもいいだろうと思って受け取った。
       平尾先輩曰く、こちらはビターチョコなのだそうだ。一口だけ口に含めてみると、確かにあまり甘くないタイプの類ではあるが、やはり自分には甘くないコーヒーやカフェオレの方が性にあっているのだなと再確認させられるだけだった。
       それでも、せっかくもらったものを無下にするわけにもいかず、何より悪い気もするので一応全て飲んでみることにする。
       それにしても、わざわざ自分の好みを覚えていてくれて、それに合わせてくれたというのは嬉しいものだ。
       そう思いながら、コーヒーを飲む。
       うん、やっぱり自分はこちらの方のほうが口に合っている。
       そして一通り飲み終えたところで、ようやく本題に入ることにした。まず最初に言っておかなければならないことがある。それは今回の件についてだ。そもそもこれは自分ひとりの問題であり、他人を巻き込むべき問題ではない。だから、この件に関しては礼を言うつもりはなかった。
       むしろ巻き込んでしまったことを謝ろうと思っていたくらいなのだから。だが、いざ口に出そうとするとなかなか言葉が出てこなかった。そんな自分が情けなく思えてきて、ますます焦りだけが募っていく。
       そんな時、ふいに声をかけられた。
      「――ありがとうございました」
       いきなりお礼を言われて戸惑ってしまう。一体なんのことだろうか? 確かに色々と世話になってしまったことは事実だし、こうして助けてもらったこともそうだ。だが、それだけなら別に礼をいう必要はないはずだ。それに今のお礼の意味もよくわからない。
      「……何の話ですか?」
       だから素直に疑問をぶつけることにした。それに対して、平尾は笑顔を浮かべるだけで何も答えようとしない。それが余計に不安を感じさせる。そして平尾の手がゆっくりと伸びてきたと思うと、頬に触れられる。少しひんやりとした感触が伝わってくる。そこから伝わる温もりはとても
      「私はあなたに助けられたのです」
       先輩が再び口を開く。そこで初めて気づくことができた。さっきの言葉は自分に言われたものではなく、平尾に向けられたものだったということに。つまりあれは自分の心の声が聞こえてしまったということなのか。
      「だから私からも言わせてください。本当にありがとうございます」
      「それとすみませんでした」
       啓護は思わず目を丸くしてしまう。何故先輩が謝罪する必要があるのか理解できなかったからだ。むしろ迷惑をかけてしまったのはこちらだというのに。
       しかし、その疑問はすぐに解けることになった。
      「本当はもっと早くにこうしなければならなかったんです……でも、どうしても怖くて出来なかった」
       その一言で全てを察することができた。
       おそらく先輩自身の過去のことを指しているのだと。
       そういえば以前、こんなことがあった。あの時は確か屋上でのことだ。あのときも同じように手を伸ばしてくれていた。その時、自分はどうして先輩に触れられることをあんなにも恐れてしまっていたのだろう。それはただ単に恥ずかしかったからというだけではなかったような気がする。もしそうなら、今も怖いだなんて思うはずがない。
       それは多分、この人があまりにも優しく触れてくれるせいだったんだろう。まるで壊れ物を扱うかのように丁寧に扱ってくれているのがわかる。だからこそ、なおさら自分の汚さが際立ってくるようで辛く感じてしまうのだ。
       そんなことを考えながら、目の前にある顔を見つめ返す。そこにはいつもと同じ優しい笑みがあった。その表情を見て安心したのか、自然と体が動いていく。
       そのまま平尾の抱きつくようにして身を預けると、平尾もまた察したようですぐに頭を撫でてくれた。その心地よさに身を委ねるように目を閉じる。
       (ああ、ようやく理解できた。俺は……これが欲しかったのだ)
       俺は先輩に抱きしめてもらいたかったのだ。
       ずっと寂しくて仕方がなかったのだ。
       それを自覚した途端、涙が流れ出してきた。
       一度溢れ出た感情は止まることはない。
       次から次に押し寄せてくる波に流されないように必死に耐えようとするけれど、とても耐えられそうにはない。
       今はただ泣きじゃくるしかなかった。そんな自分を包み込むように先輩は強く抱きしめていくれる。その優しさに甘えるように啓護は声を上げて泣いた。
       そしてどれくらい時間が経った頃だろうか。ようやく落ち着きを取り戻した啓護は顔を上 げた。まだ目は赤く腫れぼったくなっているだろうし、鼻水も垂れてしまっている。そして酷いことになっているであろうその顔面をじっと見つめられてしまい、どうにも落ち着かない気分になってしまう。
       しかし、平尾は特に気にした様子もなく微笑んでいる。
       それがなんだか悔しくなって、仕返ししてやろうとおもい、至近距離まで近づいて耳元で囁いてみる。
      「あんたも泣いたっていいんですよ」
       驚いた顔を見せてくれると思ったのだが、逆に嬉しそうな笑みを浮かべられてしまう始末。どうにも敵わないなと思いながらも、啓護は満足げな笑みを返した。

       啓護は自宅のリビングで一人寛いでいる。ソファに深く腰掛けて天井を見ながら、ぼんやりと煙草の煙を吹き上げる。それでも、以前のような虚しさは込み上げてこない。それは間違いなく平尾のおかげである。愛しい人からの力は絶大だ。これからも、鍋島啓護は煙草を吸うたびに平尾から救われたことを思い出すだろう。 #魔入間 #二次創作 #二次創作小説 #カルオペ #オペラ #ナベリウス・カルエゴ
      ここはとあるマンションの一室。
       煙草をふかしている主が再度息を吐くと、出された煙が部屋の中に充満する。
       この場所は鍋島啓護のマンションの一室でるため、煙草を吸っているのは他ならぬ啓護である。
       今日は平尾は訪れてるため、遠慮してキッチンの換気扇の下で吸っているのだが、黒革のソファに座っている平尾は嫌そうな顔をしている。
       それでも啓護は気にした様子もなく、くつろいで煙草をふかしていた。
       匂いに敏感で煙草の匂いもそれの類なのだそうで、苦手という平尾のためにタバコの臭いが充満しないよう配慮したつもりだが、換気扇でも緩和することはできなかったらしい。
       そんな啓護に平尾はため息をつくと、黙って手を差し出す。「これ、よかったら」と短く伝えると、手に持っていた袋を啓護へと差し出した。
       袋を広げて確認してみると、中に入っていたのは大量のコーヒー豆と瓶に入っているミルクだ。
       それをみて啓護は苦笑する。あの後、結局のこうした方がお互いのためだということで、このマンションの合鍵を渡していたのだが、上手く活用したようだ。
      「せっかくコーヒー豆を頂いたので、淹れてあげましょうか?」
       という問いに、平尾は首を振った。そして、そのかわりにといって渡されたものがあと一つ。どうぞと言って渡されたが、中身に見当がつかない。
      「甘いものは苦手でしたよね。なので、こちらも持ってきました」
       渡された物はチョコレートだった。
       煙草を嗜む啓護にとって甘味の嗜好品などというものはあまり縁がないものだった。
       しかし、先輩が自分のために選んだと言っていたので、たまにはこういうものもいいだろうと思って受け取った。
       平尾先輩曰く、こちらはビターチョコなのだそうだ。一口だけ口に含めてみると、確かにあまり甘くないタイプの類ではあるが、やはり自分には甘くないコーヒーやカフェオレの方が性にあっているのだなと再確認させられるだけだった。
       それでも、せっかくもらったものを無下にするわけにもいかず、何より悪い気もするので一応全て飲んでみることにする。
       それにしても、わざわざ自分の好みを覚えていてくれて、それに合わせてくれたというのは嬉しいものだ。
       そう思いながら、コーヒーを飲む。
       うん、やっぱり自分はこちらの方のほうが口に合っている。
       そして一通り飲み終えたところで、ようやく本題に入ることにした。まず最初に言っておかなければならないことがある。それは今回の件についてだ。そもそもこれは自分ひとりの問題であり、他人を巻き込むべき問題ではない。だから、この件に関しては礼を言うつもりはなかった。
       むしろ巻き込んでしまったことを謝ろうと思っていたくらいなのだから。だが、いざ口に出そうとするとなかなか言葉が出てこなかった。そんな自分が情けなく思えてきて、ますます焦りだけが募っていく。
       そんな時、ふいに声をかけられた。
      「――ありがとうございました」
       いきなりお礼を言われて戸惑ってしまう。一体なんのことだろうか? 確かに色々と世話になってしまったことは事実だし、こうして助けてもらったこともそうだ。だが、それだけなら別に礼をいう必要はないはずだ。それに今のお礼の意味もよくわからない。
      「……何の話ですか?」
       だから素直に疑問をぶつけることにした。それに対して、平尾は笑顔を浮かべるだけで何も答えようとしない。それが余計に不安を感じさせる。そして平尾の手がゆっくりと伸びてきたと思うと、頬に触れられる。少しひんやりとした感触が伝わってくる。そこから伝わる温もりはとても
      「私はあなたに助けられたのです」
       先輩が再び口を開く。そこで初めて気づくことができた。さっきの言葉は自分に言われたものではなく、平尾に向けられたものだったということに。つまりあれは自分の心の声が聞こえてしまったということなのか。
      「だから私からも言わせてください。本当にありがとうございます」
      「それとすみませんでした」
       啓護は思わず目を丸くしてしまう。何故先輩が謝罪する必要があるのか理解できなかったからだ。むしろ迷惑をかけてしまったのはこちらだというのに。
       しかし、その疑問はすぐに解けることになった。
      「本当はもっと早くにこうしなければならなかったんです……でも、どうしても怖くて出来なかった」
       その一言で全てを察することができた。
       おそらく先輩自身の過去のことを指しているのだと。
       そういえば以前、こんなことがあった。あの時は確か屋上でのことだ。あのときも同じように手を伸ばしてくれていた。その時、自分はどうして先輩に触れられることをあんなにも恐れてしまっていたのだろう。それはただ単に恥ずかしかったからというだけではなかったような気がする。もしそうなら、今も怖いだなんて思うはずがない。
       それは多分、この人があまりにも優しく触れてくれるせいだったんだろう。まるで壊れ物を扱うかのように丁寧に扱ってくれているのがわかる。だからこそ、なおさら自分の汚さが際立ってくるようで辛く感じてしまうのだ。
       そんなことを考えながら、目の前にある顔を見つめ返す。そこにはいつもと同じ優しい笑みがあった。その表情を見て安心したのか、自然と体が動いていく。
       そのまま平尾の抱きつくようにして身を預けると、平尾もまた察したようですぐに頭を撫でてくれた。その心地よさに身を委ねるように目を閉じる。
       (ああ、ようやく理解できた。俺は……これが欲しかったのだ)
       俺は先輩に抱きしめてもらいたかったのだ。
       ずっと寂しくて仕方がなかったのだ。
       それを自覚した途端、涙が流れ出してきた。
       一度溢れ出た感情は止まることはない。
       次から次に押し寄せてくる波に流されないように必死に耐えようとするけれど、とても耐えられそうにはない。
       今はただ泣きじゃくるしかなかった。そんな自分を包み込むように先輩は強く抱きしめていくれる。その優しさに甘えるように啓護は声を上げて泣いた。
       そしてどれくらい時間が経った頃だろうか。ようやく落ち着きを取り戻した啓護は顔を上 げた。まだ目は赤く腫れぼったくなっているだろうし、鼻水も垂れてしまっている。そして酷いことになっているであろうその顔面をじっと見つめられてしまい、どうにも落ち着かない気分になってしまう。
       しかし、平尾は特に気にした様子もなく微笑んでいる。
       それがなんだか悔しくなって、仕返ししてやろうとおもい、至近距離まで近づいて耳元で囁いてみる。
      「あんたも泣いたっていいんですよ」
       驚いた顔を見せてくれると思ったのだが、逆に嬉しそうな笑みを浮かべられてしまう始末。どうにも敵わないなと思いながらも、啓護は満足げな笑みを返した。

       啓護は自宅のリビングで一人寛いでいる。ソファに深く腰掛けて天井を見ながら、ぼんやりと煙草の煙を吹き上げる。それでも、以前のような虚しさは込み上げてこない。それは間違いなく平尾のおかげである。愛しい人からの力は絶大だ。これからも、鍋島啓護は煙草を吸うたびに平尾から救われたことを思い出すだろう。 #魔入間 #二次創作 #二次創作小説 #カルオペ #オペラ #ナベリウス・カルエゴ
      みそ子
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