ベルベット・ラプンツェル ベルベット ラプンツェル
「けいごくん? 顔がなんだか赤いような?」
「な、なんでもないです」
ふと触れた頬が、まるで極上のベルベットのような、滑らかで柔らかな肌で。
「けいごくん?」
まだ寝起きでしたったらずな平尾先輩に呼ばれたが、生まれて初めての体験で彼は耳まで赤くなり何も返すことができない。
それも無理ではなかった。
朝日が差し込む部屋において、平尾の無防備な姿に図らずながら胸の辺りが締め付けられて、つい。
魔が刺してしまった。
横ですやすやと寝息を立てている平尾の顔を珍しいと思って眺めていただけだったのだが、美麗で陶器のような肌に目を奪われ、そっと平尾の頬を自分の指の腹で触れてしまったのだ。
同棲してはいるが、お互い生活のサイクルも合わずに会話をする時間もなかったせいもあり、一緒に暮らしているという実感はまだ薄い。
ただ同じ家に住んでいるだけの存在になっていたのだ。
だが今こうして触れてみると。
まるで人形のように、綺麗だと素直に思えた。こんなにも愛らしい人が俺と同じ空間にいて一緒に住んでいるだなんて信じられないとさえ思えるほどに。
愛らしい視線をこちらに向けてくる平尾を見るや、気付いた時には無意識のうちに唇を重ねていた。
触れる平尾の唇は、もう幾度も重ねているはずなのに、初めて口づけたあの時と同じく、柔らかく甘かった。
(このまま時が止まればいいのに)
啓護は叶わない思いを浮かべるが、すぐに思考を切り替える。
我を取り戻したのは、平尾が起き上がってからだった。
驚いた啓護であったが、それは杞憂に終わる。
平尾は未だに夢でも見ているような、寝ぼけているようなフラフラと舌状態で、なんとは啓護の場所までやってくると、啓護が平尾の視界に入るやいなや、自ら啓護の腕の中に入り込んできたのである。少しだけみじろいで自分の収まりやすい位置が見つかったのか、満足そうににっこりと微笑むと、また啓護の腕の中で一眠りついたのである。しかも無防備に!
自分の腕の中で眠る平尾の姿の、なんと無防備でなんとたおやかであるか。
「黙っていれば、絶世の美人なのに」
未だ無防備に安心し切って眠る平尾をよそに、そういえば昨夜、この人を抱きしめたまま眠ったんだっけと思い出す。
少しばかり窮屈であったが、お互いの呼吸が重なり合ったりして、その温もりが心地よく感じられた。
「俺のベルベット・ラプンツェル。姫が望むのであればどこへなりとも」