私がお仕えしているお嬢様は決して人前でお食事をとられることはない。
いつも自室で一人で召し上がられる。
唯一の例外はお嬢様の一番の執事だけで、彼がお嬢様の給仕係を引き受けている。
私はお嬢様のお部屋の前までお食事を運び、その後は彼が呼び鈴を鳴らすまでは下がっている。
以前、食器を下げるとき開いたドアの隙間から食後のお嬢様をお見かけしたことがあった。たっぷりの金の巻き毛から覗く雪より白いお顔。花の冠よりも可愛らしい唇には赤い汚れが付いていた。
「あぁ、またソースが口元にお付きになっておりますよ。このような風ではとても外でお食事を取ることなんて出来ませんよ?」
そういって執事がお嬢様のお口をお拭きになっていた。
貴族のお嬢様ともなればそういったことも人目を気にしなければならないのかと少し気の毒に思った。
その日のお食事にはトマトもベリーもなく赤いソースは使われてはいない。