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    波紋『良かったら今度飲みにでも行きません?』

     その誘いは、何の前触れも無く提案された。いや、ラウネンのファンだと言っていたから、予兆はもしかしたらあったのかもしれないが、見た限りではこのメッセージを送ってきた堆は、ファンとしては一線を守りたいタイプのようには思えた。一度会っただけなので、目測を誤っているという可能性もあるが。

    『明日の夜なら空いてる』

     俺は少し思案して、メッセージにそう返信をした。実際特に予定も無かったし、たまには息抜きをするのも良い。
     それに、ここ最近ロリィが姿を見せないことをあって、俺は少しばかりストレスが溜まっていた。生憎バンドのメンバーは恋人との予定だの家族サービスだので時間が無い。いつもならあいつが傍にいて、何かしら煩いくらいに話をしてくれるものだから、一人でいる自室はやけに静かに感じて、何だか心が落ち着かない。前までは、別にそれが当たり前だったというのに。
     もやもやとした思考を追い払うと、ちょうどそのタイミングで堆から了承の返信が届いた。
     じわり、と、契約の刻印が疼く。これは決して浮気ではない、ただ知人と飲みに行くだけだ。
     そこまで考えて、何故浮気だ何だと気にしなければならないのかと思い直した。契約はしたものの、俺とロリィは別に恋仲ではない。ロリィだって俺以外の奴と何人も寝ているのだ。
     面白くない感情が心を苛むので、俺はそれ以上考えるのは止めた。独占欲は、見ないようにしなければいけない。

    *

    「あ、帆波さん。こっちです」

     駅前に着くと、堆がひらりと手を振って合図をしてきた。一応芸能人だからなのか、綺麗なブルーのファッションマスクをつけている。かく言う俺もマスクをつけてはいるが、声を掛けられる時はかけられるので、気休め程度の変装でしかないだろう。

    「予約した店、こっちです」

     嬉しそうな堆に短く頷いて、後を付いて行く。
     駅から数分歩いた先にあったのは、コンクリート打ちっぱなしの壁にネオンの看板が印象的な居酒屋だった。店員に案内されるとそこは小さな個室になっており、内装はダウナーな雰囲気がある。

    「へへ、沢山聞きたいことあるから個室にしちゃいました」

     ニコニコと笑っている堆は、何から話そうかと落ち着かない様子に見えた。一体何を聞きたいのか、ファンだと言っていたからその関係の話だろうか。

    「あ、帆波さん何飲みます?」
    「生ビール」
    「はぁい、俺はジンジャーエールかなぁ」

     短い俺の返事も気に留めず堆はそう言って、店員を呼び出して注文をした。食事は適当で良いよね、と、特にこちらに確認も取らずに勝手にいくつか頼んでしまう。…それは別に良いのだが、食べ切れなかったらどうするつもりなのか。

    「それで?」
    「うん?」
    「何か聞きたいことがあるんだろ」

     回りくどく聞くのが面倒臭くてそう問い掛けると、堆はへへっと笑って少し見を乗り出した。

    「ロリィ、もしくは松浦一人って知ってますよね?」

     ぴくり、と箸を持っていた手の動きが止まる。

    「…お前ロリィと知り合いなのか」
    「あ、やっぱり。俺は悪友みたいな感じ。ロリィさんに何処まで聞いてる?」

     質問に短く答えただけで、堆は次なる質問を投げ掛けてきた。何処まで、とはどういうことかと思案するものの、あいつから聞いた話なんて『淫魔』のことくらいしか無い。

    「…人間じゃねぇって話?」

     俺がそう答えると、堆はにっこりと笑顔になった。

    「俺も、淫魔なんだ~。ロリィさんに知り合いだって聞いて、ちょっと色々気になってさ」

     急に砕けた調子で話し始めた堆は、唐揚げを頬張りながら更に話を続ける。

    「ロリィさんといつから付き合ってんの?」

     問い掛けに、思わず顔を顰めてしまう。

    「別に付き合ってねぇよ」

     ロリィがそれを甘んじて受け入れるとは思えない。自由で、奔放で、束縛を嫌うあいつが他人と交際だって?寧ろそんな感情を向けたら嫌がりそうな奴だ。

    「じゃあ契約はしてるだろ?そんなオーラ感じる」
    「…まぁ、契約はした」

     こいつは一体何を聞き出したいのだろう。益々眉根を顰めてしまう。

    「じゃあさ、ロリィさんのことどう思ってる?」
    「…どうって…」
    「契約してるけど、他に恋人とかいないの?」

     興味津々な堆の瞳に、俺は大袈裟に溜息をついてみせた。

    「恋人はいない。契約はしたけど、それ以上でもそれ以下でもない。アイツのことは…」

     別に何とも思ってない。そう、答えようとしたのに、何故か言葉が詰まってしまった。
     嘘だ。本当は自分一人のものにしたい。誰にも渡したくない。俺以外の誰とも寝て欲しくない。俺だけを見ていて欲しい。…そんな、叶う筈のない身勝手な感情が、俺を襲う。

    「…帆波さん?」

     言葉を切ってしまったからか、堆が心配そうな表情で俺を覗き込んできた。

    「…いや、何でもねぇ」

     考え込むなんて、らしくない。アイツのことを責めることは出来ないんだから、俺が我慢するしかないんだ。

    「そういえば帆波さんって次の誕生日で三十六歳でしたよね」
    「……ああ、よく覚えてたな」
    「推しの誕生日はチェック済なんで!」

     そう言った堆の笑顔はとても眩しくて、ファンとしては大事にしないとなと思った。けれどそう思った刹那、とんでもない言葉をぶつけられる。

    「三十六になったら多分魔力量は激減するけど、契約続けんの?」
    「………は…」

     寝耳に水だった。魔力は淫魔にとっての生命線だ。俺はそれを与える為に体を重ね、満足そうに笑ってくれるロリィを見るのが好きだ。ロリィも俺の魔力は美味いと言ってくれている。
     けれど俺の魔力で足りなくなったら?他の奴で食欲を満たさなければいけなくなったら?

    (……俺は、用済み…か)

     思わず眉間に皺が寄る。考えたくなかった想像がいよいよ現実味を帯びてきて、俺はジョッキのビールを勢い良く煽った。

    「あっ、ごめん。余計なお世話かもしれないけど、ロリィさん意地っ張りな所があるから、難しいとは思うんだけど…好きなら、素直に気持ち言ったほうが良いとは、思う」
    「………そういうんじゃ、ねぇよ」

     俺はそう否定したものの、心の奥がちくりと痛むのを感じた。
     何を悲しんでいるのだろうか。そのうちロリィが飽きて離れていく時が来るだろうと、最初から覚悟はしていたのだ。あいつの好意を半ば確信してはいるものの、それがいつまで続くか自信が無い。本当に俺らしくないとは思うけれど、繋ぎ止めておけるような奴ではないと、そう感じるから。だから今のこの関係で俺は充分だと、そう思っている筈なのに。

     悶々とした気持ちのまま食事を負え、俺は会計を済ませて駅に向かった。堆も後からちょこちょこと付いてくる。

    「それじゃ、帆波さん」

     堆は踵を返しかけて、再び俺に向き直ってきた。

    「ロリィさん、帆波さんのこと好きだと思うよ」
    「…何を根拠に」
    「いや…この間話した時にそうかなって思っただけなんだけど…」

     短く問うと、堆は首を傾げてそう答える。

    「何か、二人共不器用なだけなのかなって思った」

     堆の言葉に思いきり顔を顰めると、堆は「ごめん、勝手な想像」と軽く笑った。

    「今度はロリィさんのこと抜きで飲もう。あっ、メンバーのみんなも連れて来てくれたら俺が嬉しい」
    「もう飲まねぇ」
    「ええ~~、良いじゃん折角なんだし」

     何が折角なんだ。こいつは人の感情をかき乱すのを楽しんでいるとしか思えない。けれどちらりと目をやった堆は純粋に期待に目を輝かせているように見えて、俺は小さくため息をついた。

    「……気が向いたらな」

     何だかんだこういう目には弱い自分に、内心呆れる。

    「やった!じゃあまたね帆波さん」

     堆は飛び跳ねそうな勢いで言って、今度こそホームに向かって踵を返した。それを見送って、俺も自分が乗る電車が来るホームへと向かう。丁度電車が滑り込むようにやって来て、俺はそれに乗り込む。空いていた座席に座ると、思わず溜息が零れた。

    (不器用、か…)

     確かにそうなのかもしれない。ロリィのこととなると、いつもままならない。感情を持て余してしまって、余裕が無くなる。好きなのだ、あの自由な男が。誰よりも、他の何よりも。そのくせそれを言う勇気が無い。想いを伝えた途端に、あいつが目の前からいなくなってしまいそうで、それが何より怖い。こんなにも自分が臆病な奴だとは思わなかった。他人に翻弄されて、一途な想いを向けて、気を揉む日が来るなんて思っていなかった。
     途端、ロリィの顔が見たくなった。声が聞きたくなった。あの声で、名前を呼んで欲しい。

     俺は、自分の気持ちを見ないフリをするように目を閉じた。電車が駅に着けば、きっとまたいつもの日常に戻る。それで、良いんだと。
    上條尋之 Link Message Mute
    2020/12/12 13:05:14

    波紋

    @tonamamo_TL 長くなったのでGALLERIAで失礼します。※自キャラしかいません
    これ【https://twitter.com/kamijou_hirono/status/1335989642512896003?s=20】の後日。

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    ボクのとなりのまものクンは。
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