つるつる(りゅさい) 照りつける日差しの中、眩しさも暑さも構っていられぬとばかりに袖を捲り、麦わら帽子をかぶって目の荒い手袋をして、重たそうな庭仕事用の籠を軽々と運ぶ室生と、室生がかぶるものより一回り小さい麦わら帽子をかぶり、作業服の上を脱いで腰に巻きつけた堀の姿があった。中庭の、日陰が一番少ない場所でもくもくと土弄りをする室生を気遣うように、堀が時折声をかけたり、指示を仰いだりしているその姿を、木陰のベンチに腰を下ろした芥川は煙草を吸い吸い眺めていた。サボっているのではなく、たまたま通りかかって二人を見つけ、そろそろおやつ時だから一緒にお茶でもどうかと誘いに来たのだ。今の所、その誘いは断られはしなかったものの、ちょっと待ってろ、という室生のきっぱりとした一言によってお預け状態である。室生の、汗で張り付いたシャツ越しに、背中の肉付きがいとも容易く想像できてしまって、なんとなく直視しにくく、堀ばかりを眺めていたら、目が合うたびに微笑み会釈をしてくる。律儀な弟子の姿に疚しい気持ちより微笑ましさが上回り、煙草を銜えながらひらひらと手を振っていると、それをなまぬるく眺めていた室生に舌打ちされた。
「はは、機嫌が悪いなあ」
「うるさい。邪魔するな」
「邪魔なんてしていないのに。ねえ、たっちゃんこ」
板挟みのようになりながらも、二人の遣り取りに目を瞬かせた堀は、仲良しですね、と心底嬉しげに笑っている。そんな他愛もない応酬が何度か続き、ようやく室生は手を休めることにしたらしい。ずっとしゃがんだままでいた足を伸ばしたり、屈伸するように筋を伸ばしながら、腹が減ったな、と零している。
「汗もかきましたし、少しお腹が空きましたね」
「おやつ時だが、今日はつるつるにしようか」
「ああ、いいですね」
「つるつるってなんだい」
煙草を銜えながら、ベンチから立ち上がって二人の傍に歩み寄った芥川は耳慣れない言葉に首を傾げた。何だかよくわからないが、二人の間ではそれで意味が通じ合っているらしく、先に行ってお湯を沸かしておきますね、と食堂の方へと行ってしまった。残された芥川は、日差しの眩しさに目を細くしながら、手袋を外して前紐に捻じ込んでいる室生を見下ろした。麦わら帽子のつばを指でつまんで、暖簾をめくるように持ち上げる。
「つるつるって?」
「つるつるはつるつるだろう」
何を言ってるんだという顔で即答されたが、全く意味がわからない。中途半端に持ち上がった麦わら帽子を脱ぐと、それを芥川の頭にかぶせて室生が歩き出す。斜めになった麦わら帽子を直しながら、面白がるような浮ついた足取りで室生の後を追いかけた芥川は、食堂で出て来た素麺を見て大笑いすると、その日一日中、何かにつけてつるつると口にしては室生に蹴飛ばされていた。