焦土にてシトシトと恵みの雨が降る。
先程まで獣に似た叫び声が響き、煙や銃声が絶え間無く続いて居た世界が嘘のようだ。
「………」
調停者は大きな岩に腰掛けて、雨に撃たれていた。
鳴り止まない銃声、永遠に空を焦がす赤。
緑をなめつくし、生き物達を黒く染めていく。
息苦しい世界が長く長く続いた。
どちらが先に争いを始めたのかは、解らない
誰もが、記憶の闇の中に置いてきてしまった。
彼等の元に石の巨人がやってきた時、彼等は後悔で苦しんだのであろうか
それとも、己の敵を全て薙ぎ払ってくれるとの僅かな望みを夢見たのであろうか。
どちらも傷付けあい攻撃しあう者達に
平等に、調停者は裁きを下した。
この地には、生命が消え失せている。
水も、大地も、空気も、全てが荒れ果て荒廃している。
そんな汚れた大地を、穏やかな雨が浄化していく。雨の力がまた新たな命の息吹を生み出す。
調停者には一つ一つの雨粒がひどく美しく、尊い物に思えた。
後ろの方で、足音が聞こえた様な気がした。
命など存在しないはずのこの地に、誰かが居る。
振り返ると、神々しい白い鎧を纏った者が居た。
宝石のように透き通った赤い瞳。肌は濃い藍色で腕が4本あり、大きな槍を軽々と持っている。
……どうやら人間では無いようだ。
「……ダレダ」
「私はミトラだ、貴様こそ何者だ」
「……ワタシハ、サバキヲクダスモノ」
「サバキ…?」
ふと、ミトラは辺りを見回した。
何も無い、荒れ果てた土地。
生命の息吹が無くなった世界。
「……もしやお前がアシユラが言っていた古代兵器か」
「コダイ、ヘイキ……」
"兵器"と言う言葉が、調停者の胸に刺さる。
所詮は、戦争の為に作られた存在だ。
けれども、それを認めたくない自分がいる。
あんな愚かしい物の為に、私は生み出されたのか。
「ここは戦争が長らく続いていたと記憶していたのだが、
……どうやら終わらせたようだな」
「サイゴマデ、オタガイヲニクシミアッテ、キエテイッタ」
「……愚かな者達だ。生物は人であろうと獣であろうと我々の様には長くは生きられん、生き急ぐ事もなかろうに」
「……」
雨が少しずつ弱まって来た。
もう少しの間、雨に撃たれて居たかった。
空が薄暗いまま、徐々にか細くなっていく。
「……アメガ、ヤンデシマウナ」
「お前は、雨が好きなのか?」
「…キライデハナイ。ココロガシズマル」
「……そうか」
フッ…とミトラが微笑んだ。
「……雨よ」
ミトラが、天に手を翳した
それに呼応するかの様に、弱まりかけていた雨がまた強く降り出した。
「オマエノチカラ…ダッタノカ」
「私は雨神だ、雨を自在に操れる」
「スマナイ」
「これでお前の気持ちが少しでも癒えるのならば、それでいい」
強く穏やかに雨が降り、大地を洗い流し、清める。
降り注いだ雨は調停者にもゆっくりと染み込み、彼の心の暗がりを、少しずつ洗い流していった。