夜砂を歩く
日中非情なまでに照り付ける太陽が息を潜め、代わりに白い月や星々の輝きが砂漠の大地を照らす。
砂に覆われた大地は昼夜での寒暖差が激しいと言われるが、この『砂縛』も例外ではない。
闇の気配が濃くなるこの時間は生と死の境が曖昧になるが、この一帯は特にそれを強く感じる。
日中に移動するよりも動きやすくはあるが、新たな危険も付きまとう。
黄金の骨の姿のまま生きる竜が、視界の端を横切った。
翡翠色に揺らめく炎を身に纏い、金色の粉を振り撒き、乾いた木のような声で鳴く骨の竜。
夜空を悠々と泳ぐ彼等は、この砂縛という地の、夜の象徴の様に思えた。
その姿には思わず見とれてしまう様な美しさすらあるが、彼等の吐く息には石化の呪いが含まれている。
鉢合わせても良いことは無い為、過ぎ去るまで息を潜めてやり過ごす。
腕に覚えがあるものは、価値の高い黄金の骨やその粉を求めて狩るそうだが、生憎そんな余裕は持ち合わせてはいない。
独特な乾いた声が遠ざかっていくのを確認し顔を上げると、先程よりも夜空が広く感じられた。
乾いた冷たい空気に、無情に感じられるほどに白い月。こちらもまた、美しいが恐ろしい。
遠くに見えてきた砂の国の明かりが、少しだけ心を落ち着かせてくれる。
人々の暮らす気配が、今はとても心強い。
膝についた砂を払い、また目的地に向かい一歩ずつ歩き出す。その音に驚いたのか、近くに居たらしい小さなネズミが砂を蹴った。
この地は魔王の支配が強いと聞いていたが、それに抗い生きる人々も確かに存在している。
今まで訪れた大陸――、竜と共に生きる火山の多いあの王国や、 海と共に生き海に支配されてもいたあの国とはまた異なった営みが、この土地には根付いているのだろう。
火の王国で、風に恵まれていると言われるもう一つの大陸の話も聞いた。
この地を終えたら、次はそこを目指そうか。