妖刀と銀弾編1話路面電車が街を走る、着物を着たご婦人達が明るい声で話しながら通り過ぎてゆく。
ふと目を止めた店のショーウィンドウ越しに彼女は自分の姿を見る。
ベリーショートの酷く暗い青の髪にメガネをかけている、セーラー服を着て鞄を持つほぼ一般的な学生だ。
どこか気だるそうで面倒くさそうな自分の顔を見て彼女は機嫌を損ねる。
その時、後ろを通り過ぎたどこぞのお嬢様学校の生徒達は美しい袴を着て通り過ぎてゆく。
少し、少しだけ羨ましい。
「ケッ……金持ちお嬢様はさぞいいご身分でしょうね。」
彼女の名前は小林華藍瞳、悪態をつきながら登校するこの物語の主人公の1人だ。
そこへまた1人かけてくるセーラー服を着た学生が1人。
「おはよ〜小林ぃ〜学校クッソだるいわ……」
「おはよう、烏野無理すんなよ。」
これまただるそうに現れたロングヘアーの彼女の名は、烏野銀杏。
小林の友人で同じ学校に通っている。
それから学校でいつもの気だるい授業を2人は受けた。
放課後、いつもの帰り道を2人は歩いていた。
「なあ烏野、なんか今日いつもより暗くねぇか?」
小林が烏野に尋ねる、警戒した様子で辺りをキョロキョロしていた。
「たしかになー…嫌な感じがする。」
「だろ烏野、私こういう時は『何か出る』って知ってるんだ。」
「馬鹿言え、出たらどうするんだ。」
「斬って殺す、起きろ『無彩』仕事だ。」
そう言った小林の手にはどこから取り出されたかも分からない刀が握られていた。
その白銀の刀身はキラキラと白い光を纏い、所々に虹色を覗かせていた。
烏野がため息混じりに言う。
「小林はホントおっかないねぇ……」
すると烏野の方に振り向いて目を合わせてきた小林がいつもより真剣な声で呟く。
「出たら騒がす私の後ろにいろ、いいな?」
「ハイハイ善処善処……怪異は異能使いに任せろってね…」
やれやれと言った具合で烏野は後ろに下がる。
すると黄昏時の酷く暗くなった所からそれは現れた。
あの世とこの世の境目から這い出て来たようなそれは不定形だった身体に意味を持たされてグズグズになった自身の身体を持ち上げた、身長は2mはあるだろうか。
巨体を持った影は色彩を得る、「カエリタイ」そう告げた巨体はスーツ姿で足元は骨の見えた所々腐り落ちた肉塊のようになり、それが元々何だったのか分からないぐらい変化している。
腕は生えては腐り落ち、生えては腐り落ちを繰り返し醜悪な姿へとそれを変えてゆく。
それは俗に言う『怪異』と呼ばれるもの。
ゆっくりと存在しない顔を持ち上げたそれは小林に襲いかかってきた。
腐った肉体を持つ異形とは思えない、鮮やかな右ストレートで小林を捉え殴り殺そうとする。
だが、小林はそれをギリギリで躱す。
躱しざまに見えた彼女の左目は紅い色をしていた、深い紅だ。
「見えてんだよ、このクソノロマ。」
そう吐き捨てるように怪異に言った小林は想像もつかない速度で間合いを詰め、怪異の懐に斬りこむ。
彼女には未来が見えている、「殺人」に関わる未来を見る目を持つ彼女には簡単な攻撃は予測されてしまう。
肉を刃で引き裂く音がした、小林の光を纏った刀は怪異の胴を深く抉るように切り裂いた。
真っ黒な血飛沫を上げながら怪異は後ろに倒れ込む、完璧とは言えないが受け身をとる様は、元々は人間だったのではないかと思われた。
「まだ息あんのか、しぶといな。」
小林が少し面倒そうに呟やいた。
「小林ぃ終わった?」
後ろにいた、烏野がこちらに向かって歩いてくる。
「あと少しだ、引っ込んでろ。」
答えた小林は倒れ、仰向けになった怪異の横にたってその首を切り落とした。
ゴロゴロ転がる首は日に当たって溶けていった。
「じゃあな、お前にもあの世があるといいな。」
怪異の身体が壊れ出す、気がつくとそこには何も無かったかのようになっていた。
「終わったぞ烏野、帰ろう。」
「おー、小林は頼れるねぇ。」
「そいつはどうも、私はこれぐらいしか出来ることがなくてね。」
そう言って家路につく彼女達は夕陽の向こうに消えていった。