妖刀と銀弾編3話前編土曜日、寒い風がまだ吹く春先。
小林華藍瞳と烏野銀杏は噂話に聞く、「八つ裂き事件」の事故現場に来ていた。
そこは、惨たらしい噂話の元になる場所に相応しい状況であった。
辺りは竹林に囲まれ、未だ溶けぬ雪が残り笹のざわざわという音だけがこだましていた。
「さて、数百年前の人斬りはここにいるんだな。」
金曜日の放課後から小林と烏野は噂話を纏め、ある結論に至った。
数百年前、この大社市にはある有名な人切りがいた。
名前を『人斬り大矢』。
我々で言うところの幕末の時代に活躍したと言われ───────
「とても高い背に大太刀を持ち、なにより……」
「斬り殺した奴の四肢をばらばらにするんやったな。」
犯行場所、犯行パターン、噂話にある大柄な男の影。
様々な類似点からこの怪異の大元は『人斬り大矢』である事を烏野は示唆した。
元より怪異は古来より亡霊や怨霊、人が作り出した業が凝り固まった物と言われており、怪異は数日で収まり本来は人を殺すことは無い。
否、近年その様子が激変した。
怪異は人を殺すようになったのだ、昔より知性を持ち強力でなにより生きるもの全てを殺さんとする何かに姿を変えていた。
「さて、この八つ裂き事件がもし魔法によるものなら……魔素が事件現場にある筈だ。」
「ちなみに烏野、その魔素ってのはどうやったら分かるんだ?」
「ああ、この石だよ。」
そう言って烏野が取り出した石は南国の海を思わせる水色の中に水銀の様な液体の入った石だった。
「なにそれ」
「『魔振石』、こないだ授業でやってたやん。 魔素に触れると中の液体が沸騰して震える石。」
「へぇー…私、魔法学の授業はほぼ聞いてないからな。」
「あちゃー次のテスト範囲なんに聞いてないのか。」
そう言って烏野は地面に石を近付けたりして付近を調べ始めた。
数分後、烏野の顔色がおかしい事に小林は気がついた。
「どうした烏野。」
「んにゃ……おかしいな。」
烏野の手に持たれた魔振石は微量に震えるどころか全く応答が無いようであった。
「ここ、魔素が無いぞ。」
「魔法じゃないってこと?」
「らしい、どこもかしこも無いぞ。 そういえば怪異の習性ってどんなんだっけ?」
「『例外を除き夜間に行動』『概念を軸に作られており、忘れられると例外を除き消える』───────『魔素を取り込んで進化する事がある』 コイツはアタリか?」
「最悪だ、竹林の魔素全部持ってったって事かよ。」
青ざめた表情の烏野は様々な状況を考えているようであった。
「へぇ、烏野はもう帰っていいぜ。 危ないだろ?」
「馬鹿言え、私を舐めるな。」
「せめて危なくなったら逃げろよ。」
その時竹林の奥で笑い声がした気がした。
こちらを見て嘲笑うかのようなそんな嘲笑が。
「へぇ、斬り合いたいのかアイツは。」
す小林は手を前に出す、すると風が吹き抜けて気がつくと小林の手には一振りの日本刀が握られていた。
「『無彩』よ変質しろ銘を『烈火』。 其れは焼き殺す殺意。」
小林の手に握られた妖刀『無彩』はその姿を真っ赤な刀に変えてゆく。
周囲の温度が著しく上がり熱を放つ刀は鈍い赤から鮮やかな輝く赤に姿を変える。
「烏野、下がってろ。 私はその『人斬り大矢』を殺してみたくて堪らないんだ。」
「何その妖刀、妖刀の性質が変わんの…?」
「そう、『無彩』は彩がない故に何にでもなれる可能性を秘めてる。 だから何にでもなれる妖刀ってこと。」
「なるほどそれでアンタは戦争に参加出来ない『特級指定異能』って訳だ。」
それもそのはず、何にでもなれるならばこの国の他の強力な妖刀の完全なコピーとなり得るのだから。
赤い妖刀を持った小林は竹林を嘲笑の聞こえる方へ進んでゆく。
その目は明確な殺意と早く殺し合いたいという期待に輝いていた。