異能物語妖刀と銀弾編3話後編まだ少し雪の残る竹林、嘲笑を追って友を置いて走って来た小林はその嘲笑の主を見つける。
それは身長2mを超える巨体を持った大男。
手には鮮血の付いた大太刀を握る。
顔は爛れ落ち、表情が読めない。
服装は古く、ボロボロになり墓からそのまま出てきかのような見た目をしている。
「顔はどうした?」
怪物は答えない、ただただ嗤っている。
「もう喋れる程の何かもないか。」
小林は刀を構える、妖刀『烈火』から放たれる熱は周囲の雪を少しづつ溶かしてゆく。
怪物が笑うのをやめて刀を構え、そのまま振り下ろしてきた。
金属同士が激しくぶつかる音が竹林に響く。
「コイツッ……!」
想像以上の力でこちらをねじ伏せてくる。
熱を持った刀と触れた大太刀の鮮血が瞬時に蒸発し、周囲は血の香りで満たされる。
その時だった。
大男は片手で小林の頭を掴む。
小林は未来視によりそれを予測していた。
だがもはや身体が追いつかない。
刀から力を抜けば一瞬で真っ二つにされ、逆に掴まれればそれこそ死に直結する。
大男の手は小林の頭を掴み地面に叩きつける。
立ち上がる間もなく大男は、小林の頭部を足で踏みつける。
地面に亀裂が入り小林の顔が埋まる。
「ああ……クソ…いってえ…」
小林の頭から血が流れ、大男は少し満足げにしていた。
そして頭を掴み、小林の左目を懐から出した短刀で突いた。
血が流れる。
「ああああああああああ!!!!」
だが、これを小林は待っていた。
小林は瞬時に刀を構え大男の胴を深く袈裟斬りにした。
大男は胴を割られ、同時に妖刀に焼かれて甚大なダメージを負ったかに思えた。
大男の傷はみるみるうちに治り、最初から傷が無かったかのようになった。
「ンなのありかよ…!」
大男は小林を掴む
最早これまでか、窮地は小林に諦めるよう言っている様だった。
「小林を離せやこのデカブツ!」
その声はよく聞いた友の声だった。
来るな、来ても勝てっこない。
そう思った小林の耳に入ったのは乾いた発砲音だった。
次の瞬間小林を掴んでいた手が落ちる。
そこにはいつもより険しい顔つきで銀色をしたオートマチックの拳銃を構える烏野がそこに居た。
「小林から離れろ!耳あるんか?! 失せろ!!」
2発、3発目が放たれる放たれた弾丸を躱そうと怪物は動くが全弾ことごとく当たってしまう。
怪物がよろよろと後ろに下がると、小林が立ち上がっていた。
口から血の混じった唾を吐き捨てて怪物に向かって言う。
「テメェのそれ、妖刀だな?」
小林は1連の怪物の様子からその妖刀を看破した。
妖刀『比怨』、かつて人斬り大矢が使っていた妖刀だ。
伝説上ではその妖刀は「比較して敵より己を強くする」という物だ。
「それが妖刀なら────私にも写せる。」
小林は刀を鞘に収め低い姿勢を取り、全神経を尖らせ妖刀を観察する。
そして、みるみるうちに小林の妖刀は大矢が持つのと変わらない大太刀へと姿を変える。
「銘は、比(くらべ)にしよう。 これでお前と一生だ。」
血の流れる片目をつぶったまま、小林は大男に切りかかる。
その速度も力も先程とは比べ物にならなかった。
ばさりと斬られ大男の片足がもげる。
状況を理解したのか焦り逃げようとする大男に烏野が言う。
「ワレどこ行くつもりや、ワレが行くのは地獄や」
烏野は大男すぐ後ろに立ち、その背中を撃ち抜く。
続いて心臓、両肩、残っている足の関節と撃ってゆく。
怪物は程なく抵抗を諦め、動かなくなった。
「根性無しやな。」
更に烏野の放つ凶弾は大男をボロボロにしてゆく。
「クソ死ね。 はよう死ねゆーとるやろ。」
小林が大男の元にたどり着く時には大男は原型を留めていなかった。
ボロボロの大男はその後、灰のように消えた。
戦いが一段落して、応急処置がされた小林が烏野に聞く。
「なあ烏野。」
「何?」
「それ、その銃もしかして異能か?」
すると烏野はニヤリと笑って
「私も使えるんだ、これからも仲良うやろうや小林。」
と言った。
この後小林の目は数週間の魔法による治療の後回復の兆しを見せたという。