まちぶせ:1それは全くの偶然で。顔を上げた先に彼は居た。間抜けにも「ああ、実在していたんだ」などとぼんやり思って、その顔をじっと見つめてしまった。
それでも気付かれる前に目を逸らすが、代わりに心臓が高鳴り始める。交差点の横断歩道で、それぞれの道を行く一瞬の邂逅。
触れた空気に目を閉じて────
工藤新一は自覚した。自分は『彼』に一目惚れした。
二回目の出会いはそれから程なくしてからだった。学校帰りの商店街、彼の姿は喫茶店にあった。
彼は女の子と窓際にいて、制服は学ラン、女の子はセーラー。その服から江古田高校生だと察しが付き、随分遠出をしてきたと思った。
彼女とデートか買い物なのか。帰る前の一時だろうか。向かい合いお茶する彼らは疑いようもなく恋人同士の気配だった。女の子は嬉しそうに笑みを浮かべ、彼は優しい視線で彼女を見詰める。
恋を自覚して数日で失恋。ぽかりと胸に穴が空いた。それでも諦めようと思えなかったのは、薄暗い優越感を感じたからだ。
あの子は多分、彼の正体を知らないのだ────
醜い考えに苦笑を浮かべ、新一はその場を無言で過ぎた。次に会えるのは二日後だろう。その日は『怪盗キッド』の予告日だった。
偽りの姿で出会った時から、既に一年以上の時が流れた。自分は一足先に元に戻り、代償に仮の繋がりを失っている。
怪盗はその時の繋がりの一つ。唯一感じる未練であった。彼の前に出る事が出来ても、受け入れられる自信はない。
探偵である自分は、彼にとって邪魔なだけだ。ハンデを負っていた自分だからこそ、ハートフルな怪盗は相手してくれたのだ。