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    SS集『人生で一番』言語道断冥庭『人生で一番』日野斎四『愛してはいるんだけど』言語道断正数『声も出せない。』?『大人しく降参して』日野家『箝口令』言語道断冥庭『最初から最後まで』十捌渚『覚めたくない夢』日野二梨『いっそ泣いてくれたほうがましだった』都木八・言語道断冥庭『手だけつないで』レイン・ミェーズ『雨も悪くない』六七『雨も悪くない』飯組『大事にしていた空箱』?『』日野一玖『おいしいごはんになれるといいけど』星月『フラメルの試験管』言語道断負数『五月蝿いその口を縫い合わせてやろうか』言語道断有里・こしば『腐り落ちた花籠のように』三橋洋介『花となり、夢となり、骨となる』ベルートン家『美しき裂傷』西折笹巳『カーテンコール』言語道断夜也『夢想のような』西折笹巳『君の最期に』都木八『大人になって、それからどうするの』編巡草太『どんな言葉よりも』編巡草太『例外的に』蚯蚓出一弦『出来ない事』六町啄木鳥『けがれ』六町啄木鳥『待つのはヤだ』六町啄木鳥『人生で一番』言語道断冥庭遺せるのならばと、男は幾度もシャッターを切った。刹那の時を生き続ける事でしか生を謳歌できぬ肩身の狭いその体で、幾百幾千の過去を切り取り遺す。淡く弾ける儚い過去を切り分け、今を生きる為に。然し──、
    「……兄さん」
    尤も、全てを切り分ける事など出来はしないのだと、男は識っていたのだ。『人生で一番』日野斎四「人生で……?」
    僅かに動揺した様子を見せる青年は、その奇怪な瞳を丸くする。瞳に宿る左右の世界は異なれど、決して混ざり合えぬわけでは無い。混沌と狂気を孕んでいようとも、世界の主人たる者が規律を重んじていれば如何と言う事はないのだ。
    「えっと、」
    困り果てた様に視線を泳がせ、青年は使い込まれた黒の革手袋を一度だけ摩る。
    「その。いまは……これが一番です」
    何処か愛おしげな声音で語る青年の表情は、ふわりとした雪解けを連想させる柔らかな笑みだった。『愛してはいるんだけど』言語道断正数うーん、と首を捻り唸る男は大層困り果てていた。男の人生の大半を占める問題に、今まさに直面しているのだ。何はともあれ男は現状に困窮していた。
    「ええ……?だから何度も言うけど、好きではあるんだよぅ」
    対応に悩み果て、男は再び唸る。そうして、解決策に気付く時など永遠に来ないのだろう。『声も出せない。』?急激に上昇する体温に対応出来ず、咄嗟に口を手で覆い隠す。とどまることを知らない”羞恥”と名付けられたこの感情は、制御を失った機械の様に暴走を続け熱を帯びていく。
    「っ、」
    反論をと口を開くも音は出ず、只々息が漏れ出るだけで終わってしまう。唇を噛み締め耐える事しか許されなかったのだ。『大人しく降参して』日野家「う、うぐ……」
    「潔く諦めたら」
    「やだ……っ!」
    「やー……、これもう完全にただの意地」
    「ソダネー。お兄ちゃんは微笑ましいけどな」
    「うぐぐぐ!」
    テーブルの上に無造作に積まれたカードの山。赤青黄、そして緑の四色のカードは無慈悲にも彼の手札を苦しめる。
    「大人しく降参して」
    『箝口令』言語道断冥庭いつだってそうだ。ぼくの大切なものは、ぼくの知らない間に壊れて消えて行く。どれ程希っても、縋り付き泣き喚いても……止めることなど出来やしない。──あの日、ぼくの兄さんが”消えた”あの日が、今でも真夏の日差しのようにぼくの頭を照らして焦がして行く。後悔など何の意味もなさないのだ。
    幾度涙を流した所で、ぼくの願いは叶わない。叶えてはいけない。分かっている。どうしようもなく下らない意地が連れて来たものは、ただの虚無感しか無かったのだ。 ぼくがぼく自身に課したこの箝口令は、一体誰を守るというのだろう。……誰の為の、黙秘なのだろう?『最初から最後まで』十捌渚生まれ落ちこの命尽きるその時まで、私は最期まで狗だった。そうであったと自負できるだろう。だが、あの男と出会ってからの生き様には納得している。後悔などはしていない。どころか、充足感すら抱いたのだ。私は”私”として生を全うした。だからこそ感謝を。そして、君の未来に祝福を──一玖。『覚めたくない夢』日野二梨「今日はなぁ〜お前にプレゼントがあるんだぞ!」
    「本当父さんっ!?」
    ぱあぁとその表情を輝かせた子は、己が父親に対して笑みを見せる。期待と幸福に満ちたその笑顔には一点の曇りもない。何処までも澄んだ川の様に、キラキラと輝いている。
    ──願わくば、このまま止めてくれと誰かが嘆いた。『いっそ泣いてくれたほうがましだった』都木八・言語道断冥庭「……」
    長い沈黙が耳を裂く。随分と長く切っていない髪を編み、ダラリと肩に乗ったその三つ編みが僅かにずり落ちる。沈黙が責め立てるかの様に暫し続いた。
    「……そう。分かった、大体は」
    静かに口を開いた僕の弟は、たったそれだけを告げ口を閉ざす。
    服に顔を埋めカメラを弄るその仕草は、昔からよく見た癖だ。何かを隠したい時、表情を誤魔化したい時。或いは──
    「……僕からの話は以上です」
    「…………分かった」
    如何にも居た堪れなくなり席を立つ。そんな僕に投げかけられた言葉は数える程も無かった。
    「話してくれてありがとう、……八」
    「……いえ」
    表情は伺わなかった。……否、窺わずとも知れたのだ。上手く押し込めなかった感情が。蓋をしきれなかった嘆きが。やり場の無い喪失感が。震える声が。その全てが手に取るように分かってしまった。
    ならば。
    ならばいっそ、泣いてくれれば。僕も彼も救われたと言うのに。『手だけつないで』レイン・ミェーズ「私にはやらねばならない事があります。この霧の街を守る事も当然ですが、それよりももっと大切な事です」
    「へえ?それは一体何だろう、聞いても構わないかな?」
    「ええ、勿論。私が私の為に生きる事、その生き様を貫く事です。妥協など一片も許されない。だから私は、…痛みと共に、歩むのです」
    『雨も悪くない』六七「おあー、雨だ」
    窓に手をつき外の景色を眺める。ざあと耳に心地よい雨音が室内に響くのは、嫌いではない。
    「ふむ……。雨となれば散歩は中止とする他無いな」
    「ねー」
    顎に手をやり思案する彼の側へと歩み寄れば、ふと顔を上げて此方へと視線を寄越す。ほんの数秒にも満たないごく僅かな間、キョトンとした表情を浮かべては「如何かしたか」と笑みを形作る。その移り変わりがちょっと可愛い。
    「何でもない。……あ、そうだ。お昼寝しよっか」
    「昼寝?」
    「昼寝。僕雨の日に寝るの好きだよ。えーっと、隔離されてるような気がする!」
    妙な所で自信満々に言い切れば、返ってくるのは何だそれはと言外に伝えて来る困った顔。大体いつも困ったような顔をしているとは言え、今のこの表情はどちらかといえば困惑の色が強いのだろう。でもそこも可愛い。
    「嗚呼然し、隔離と表現するのならば気分は良い」
    その愛らしい表情を変え、彼は口を開いた。
    「雨も、悪くない」『雨も悪くない』飯組「風邪引いちゃうから、帰ろっか」
    小雨よりも幾ばくか強い雨の下、傘も差さずに立ち竦んでいた僕の手をナルドは理由も聞かずにただ引いてくれる。
    「ナルド」
    「うん?」
    「雨って、悪くないね」
    「…そーだね。ちょっとしょっぱい雨も一緒に流れるしさ」
    そう言って、彼は僕を見て笑んだ。『大事にしていた空箱』?正方形の木箱。聊か古く、年代を感じさせる代物。大きさは掌ほど。
    鍵はかかっている。
    白い円柱状の箱。つるりとした箱に、不釣り合いな南京錠。
    鍵はかかっている。
    十字の刻まれた箱。常に身近に存在し、何時如何なる時も傍らに寄り添う。
    鍵はかかって──『』日野一玖「やあ、目覚めは最高かい?」
    と、白衣を纏い口に咥えたタバコを燻らせながら男は問う。
    「そんなわけないってね。ちょっとした意地悪さ」
    ケラケラと愉快げに笑いを一つ零した男は、「失礼」と咳払いを一度行う。しかしその目に反省や謝罪の色はなく、ただただ愉しげな彩りを放っていた。
    「にしてもキミって奴はどうしようもなく愚かだね。忠告はしてあげたのにさ」
    大仰に肩をすくめた男は続ける。
    「まあ、止めなかったんだけどさ。アクセルを踏み続ける車になんて乗りたくないだろう?つまりそういう事」
    元よりその先に関与する事も無いと知っていた男は無神経にも再び笑う。
    まるで他人の事など気にも留めないその身勝手な素振りを行った男は、ポロリと落ち行く煙草の灰に目を向けた。どこからともなく吹く風がそれを攫い、姿を消していく。その様を見届けた男は再び顔を上げ、ニヤリとした表情を形作るだろう。
    「好奇心はタダじゃ無い。必ずその欲求を満たす為の代金がいる」
    白衣のポケットに突っ込んだままだった左手をするりと抜き出し、人差し指を顔の前で立てる。ブレもなく真っ直ぐと向けられる瞳には、未だ愉楽の色が見えるだろう。彼にとってはただの暇つぶしにしか過ぎないのだ。
    「一つ。代金として最も支払われやすいのは好奇心そのものだ。気になるものを見た後、その好奇心は消え充足感で満ちるだろう?好奇心が変わったからさ」
    折り曲げていた中指を立て、男は続ける。
    「二つ。知ってしまったことに対して付随する地獄だ。知識は財産となる、なーんて言うけどさ」
    「それが全てに当て嵌まると思うのは愚の骨頂。知識は金なりと思うのなら、その裏側に『知らぬが仏』を貼り付けておくことをオススメするね。よぅく知ってるだろう?」
    責め立てるように細められた瞳で射抜くその仕草は、宛ら全てを見透かしているように思えた。だが実際の所、彼は何も知らない。
    「そして、三つ」
    ふ、と男は煙を吐き出し視界を曇らせた。立てられた薬指には指輪が嵌っている。風に誘われ薄くなっていく煙が消える頃、男は小さく告げた。
    「周りの人間に飛ぶ被害として支払われる事」
    随分と短くなった煙草を右手で回収し、さも自然な流れで未だ煙を吐き出すソレを落とす。
    「キミはアクセルを踏みすぎて、本来止まるべき箇所で止まらなかった。だから人間を一人轢いてしまった。キミは制御出来た筈のブレーキを踏まず、壊してしまった」
    淡々と、書類を読み下すかの様に語り続ける男は尚も口を動かす。
    「止めたりなんかはしないよ。誰が好き好んで暴走したブレーキの壊れた車の前に立とうとする?そんな事を考える奴はいやしないさ」
    「おっと、自殺志願者なら別かな?」と、愉しげの声が弾む。悪びれもなく、悪意も善意も身に纏わぬ音は止む事はないだろう。何故ならば、彼にとって他人事なのだから。
    「制御出来るとすれば、それはキミだけだ。キミ一人で全ての責任を負わなきゃならない。好奇心が味方している間、全ては思うがままだったろうさ。だけど彼らは魑魅魍魎と同一。キミが彼らを見限ったのなら、彼らは同じようにキミを見限り牙を剥く。よくあるだろう?幽霊に好かれている間は無害ってね」
    左手を下ろし、不法にも落とした煙草の火を靴底で踏み消す。ズリ、と地を踏み砂を引きずる音が響くも長くは続かないだろう。
    「ま、そう言うわけで。ボクはこの先の展開を楽しみにしておくよ。このまま人を跳ね続け憐れにも加害者のフリをした愚か者を続けるのか、ブレーキを踏めるのか……ね」
    「ボクは止めないよ。精々キミがタイヤを焦がし爆走して行った、その後に残る道路の生々しい焦げ跡を眺めるだけにとどめるさ」
    それじゃ、良い人生を。と、新たな煙草を取り出し咥えた男は身を翻し白衣をはためかせて去って行った。

    ──はたして、男の独白は一体誰に向けられたものなのだろうか?『おいしいごはんになれるといいけど』星月「あ、の……ええと…」
    小耳に挟んだ程度の知識を鵜呑みにし、あろう事かろくに確認もせず口に出してしまった自分が恨めしい。叶うのならば数十分ほど時間を戻してほしいものだと、後悔の念にかられつつ向けられる視線から逃れるように首元のリボンを指で弄る。ああ、視線が痛い。
    「其れで、選択肢として提示された物を選んだが……」
    厭らしくも言葉を止め、さも愉快だと言わんばかりの表情を此方へと向けてくる。本当に「ご飯かお風呂か私か、どれがいい?」なんて言わなければよかった。後悔先に立たずとはまさにこの事なのだろう。
    「うぐ……」
    依然向けられる逃げ場の無い笑みに打ち勝つすべのない私は、せめてもの意地として顔に笑みを貼り付け喉を震わせた。
    「ぉ、いしい…ごはんになれ、ると……いいのだけれど」
    震え上ずった声と恐らく引きつっていたであろう笑みを見た彼は、ふ、と笑った。それは所謂私にとっての死刑宣告だった。
    『フラメルの試験管』言語道断負数「知識。こいつは人の身には過ぎたるものだろ?」
    厭に顔の整った男は空の試験管を摘みカラカラと振って見せた。光を反射し輝くその試験管は何の変哲も無いものだ。
    「僕は。僕はだ。それでも与えてやりたいね」
    チラリと試験管に視線を寄越した彼は愉しげな笑みを口元に浮かべる。果たしてそれは、『五月蝿いその口を縫い合わせてやろうか』言語道断有里・こしば「私はその煩い口を閉じろと念じ、お前に恨みがましい目を向けています」
    「げー!そんな酷い事をさも平然という!?」「ま、まあ……気持ちは、その、分かります…」「でもよぉ、幾ら何でも直球過ぎるんじゃねぇか?」
    「私は立ち上がりお前に近付きます。そして口を開きます。黙ってろこのハゲ」『腐り落ちた花籠のように』三橋洋介色鮮やかな花籠など最早見る影も無く、目を楽しませていた筈の色彩は既に腐り落ち醜悪な姿を晒す。しかしそれでもなお花売りは籠を拾い上げる。憐れにも救いがあると信じ、再び死した籠へと花を摘み入れるのだ。
    「……諦めたく、ないんです」
    震えるその声に力はなく、只々無意味な決意があるのみ。『花となり、夢となり、骨となる』ベルートン家「いいかいニコラス。世の全てに魅了される事は素晴らしい事です。眼に映るもの全てが燦然と輝くの様は生きる活力となるでしょう…。しかし。忘れてはなりません。この世の全ては、すべからず骨となり朽ちるという事を」
    「どういういみ?」
    「今ら知らずとも良いのですよ。いずれ分かればいい」『美しき裂傷』西折笹巳ぐらり、巨体が崩れ落ちる。
    ──後は頼みましたよ。等、軽々しく口にしてくれたものだと青年は一人目を細めた。男の覚悟を背負う事を肯んじ、彼が眠りについたのを見届けた瞬間に、其れは唐突に青年の胸へと来訪したのだろう。
    「……あゝ、矢張り、呆気ないものなのですな」
    果たして、其れは何者か。
    『カーテンコール』言語道断夜也「何?私に出ろと言うか貴様は。可能ならばそうしてやりたいがなぁ!!」
    齢十数程に見える男性は大仰に両手を広げケラケラと笑い声をあげた。それはかつて、この男が見せていた笑顔と寸分違わぬものであった。が、迫る手が許しはしないのだろう。
    「だがここで私はこう告げよう。『もう全てが遅い』」『夢想のような』西折笹巳「お前も泣き虫じゃないか」
    にへらと笑みを浮かべたその表情はまるで憑き物が落ちたように晴れやかだった。埋もれた体を引き抜く為に手を差し出す。取られた手にはありふれた温もりがあり、冷たくも無ければざらりともしておらず柔らかい。
    「喧しいですぞ」
    あゝ、帰ってきたのだと、私は安堵した。『君の最期に』都木八もしも、僕があんな選択を選ばなければ。
    もしも、僕がアンタの身を案じなければ。
    もしも、僕が身近な存在で無ければ。
    或いはそんな未来もあったかもしれない。だが、いくら吐こうともこれはただの夢物語だ。選んだ罰を、僕は受けなければならない。

    嗚呼、友よ。
    願わくば、君の最期に──『大人になって、それからどうするの』編巡草太『お前が大人になってどうする』
    幼い頃に散々聞かされた覚えがある。今となっては何と下らないと一蹴出来るが、当時の俺は真に受けるばかりで。
    「どーするの、ねえ」
    何の気なしに咥えた煙草を燻らせ空を見上げた。青い。
    「どーするもこーするも、このザマだっつの」
    出た声は想像以上に小さかった。『どんな言葉よりも』編巡草太声が。
    声がする。
    外からの侵入ではなく、内側からの”侵食”が。魂などと言うものが本当に存在しているのなら、紛れも無く俺の魂は侵食されてしまったのだろう。
    「っ、たあの夢かよ…」
    極彩色の夢から醒め、汗を拭う。思わず口から零れ落ちそうになった言葉を飲み込んで、俺は「消えてくれ」と願った。『例外的に』蚯蚓出一弦此れならば、まだ全盲になってしまった方が良かったのではないかと。そう思った日が無かったわけではない。この片眼鏡に縋り視る世界は、あまりにも見にくい。醜くて仕方がない。
    嗚呼、あれはいつの頃だっただろうか。私の世界が破壊されたのは。世から例外的に弾かれたのは、いつの日だったか。『出来ない事』六町啄木鳥勿論、初めから理解してたのよ。だってそうでしょ?誰だって、……いいえ。誰だっては言い過ぎかしら。それでも、大凡の人は愛する家族に危害を加えられたくないでしょう?まともな子なら尚更。だから、分かっていたからこそだったのよ。本当は……あんな事したくなかっただなんて。虫が良すぎるわね。『けがれ』六町啄木鳥“こんなもの”に身を堕としていたからこそ、もうどうだっていいと思っていた。全てを些事であると、客観的な視点とこの先も過ごすものだと、そう思っていた。でも、違った。
    「……ああ、きもちわるい」
    どうでもいい筈だった。穢れたって、どうなろうが。なのに、
    「いやだ、……こんな、……っ」
    自分が思っていた程、僕は強くなかった。
    『待つのはヤだ』六町啄木鳥恐らく、この”顔が分からない”という状態は普通じゃない。それぐらいの事を理解出来る頭はまだ残っていて。けれども、一体何がどうしてこうなってしまったのか、とんと見当もつかなかった。見えなくなって、かれこれどれ程の時間が経ったのだろう。ひと月か、ふた月は経ったのかもしれない。
    「……」
    「どうかした?」
    ふと、隣に座る彼の方を見た。当たり前の様に顔を見ることは出来ず、今彼がどんな表情をしているのかすら分からない。僕を見ているのかさえ、分からなかった。
    僅かに、頭の辺りに存在する靄のような、黒く塗りつぶされたような色が傾く。ああ、今のは恐らく首を傾げたのだろうと推測を立てる事が出来るようになってきたのは不幸中の幸いなのかもしれない。

    彼は、僕を好きだと言った。けれども、その時の表情を僕は見てはいない。それでも彼が僕に恋情を向けていると確信出来るのは、彼が……彼からの行動があるから。何よりも、受け身である筈の彼が動くから。それは紛れもなく、彼が僕に興味を抱いている証拠に他ならない。それはこれ以上とない幸福であることは間違いなかった。
    それでも、
    「……ねえ」
    それでも。
    そっと彼の手に自分の手を重ねる。少し暖かい手を軽く握れば、何を思ってかその指先は少しだけ動く。
    顔が見えないを理由にしてしまえば、きっとこの先も彼からの寵愛を受けられるのは間違いない。けれど、だとしても。

    じわり、じわりと這い上ってくる”羞恥”という感情に堪えながら、ゆっくりと口を開いた。
    「……キス、……しても、いい……かしら」
    ただただ待つだけというのは、少しばかり嫌だった。
    ぽっぽこぴー Link Message Mute
    2019/12/27 5:06:48

    SS集

    ##TRPG ##文章
    鳥で呟くだけ呟いてたシリーズ。

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