どうしてそうなの? ジェームズの息子に初めて会ったのはいつ頃だっただろう。
あれは、スターフォックスが結成後やっと軌道に乗り始め、
休暇を取って故郷の惑星パペトゥーンに帰ってきた時だった。
いつもは小学校の寄宿舎に身を寄せて居るのを、父親が久々にゆっくり帰ってくると言うので
自宅に戻っているという。
おれ達がコーネリア軍に所属していた若かりし頃以来、
ジェームズの自宅へ招かれるのは本当に久し振りで懐かしい事だったが、
ようやくその息子に会えるというのも、本当に感慨深いものがあった。
何せ独立後は、何があったか思い出すのも一苦労なほど様々なことで忙しく、
ジェームズは出産にも立ち会う事が出来なかった程だった。
一度、写真が送られて来たよと言って、
微笑みの美しいジェームズの奥方が、可愛らしい赤ん坊を抱いている写真を見せてもらった。
(その時も、ジェームズの趣味からであろうが、電子処理などない紙の写真だった事は、些か衝撃的だった。)
「お前によく似てるな?」
おれは、長年の友が一人の父親となって多少寂しいような、
それでいてこそばゆくて嬉しいような気持ちで写真を見ながら言った。
「はは…何だか照れ臭い」
ジェームズはそう言いながらも、顔を綻ばせてとても喜んでいたものだった。
父親よりは若干色素の薄い金色の毛並みと、あどけなく笑う表情。
ジェームズにも、守るべき者がもう一人増えた。
おれはそう思い、その大切な幸せが続くよう、願ったのだった。
パペトゥーンの宇宙船ポートにグレートフォックスが到着したとき、
久し振りの再会に、奥方が出迎える事はなかった。
おれが聞いていいものかどうか言葉を選んでいるうちに、ジェームズの方からあっさりと
「妻はこの星にはもう長いこと居ないが、元気でやってるよ。家も散らかっててすまないがゆっくりしてってくれ。」
おれはその言葉がショックだったが、状況を悟り、それ以上何も聞くことはしなかった。
「ん…そうだったか」
「父さん!」
子供が走ってくる。ジェームズによく似たキツネの少年だ。
「フォックス!」
ジェームズも走り寄り、少年を抱き上げそのままくるくると回る。
二人は楽しそうに笑いながら、再会を喜んでいた。
「父さん、お帰りなさい」
この子がジェームズの…直接に会うのは初めてだ。
屈託無い親子の様子に、こちらも思わず微笑む。
少年はジェームズに、父親がいない間に何があったのかだとか、
学校では友達がどうしただとか、何を食べられるようになっただとか、
さも嬉しそうにおしゃべりをしていたが、
ふとこちらに気付き、
「この人だれ?」とジェームズに訊いた。
「ああ、フォックス。会うのは初めてだったね。父さんの長い友達だ。」
紹介を受けて、おれは挨拶した。
「やあ、初めまして。おれはペッピー。ペッピー・ヘアだ。よろしくな。」
少年はまじまじとおれの方を見ている。
「そら、ご挨拶。」
ジェームズに促され、フォックスはおれの目の前まで進んで来て言った。
「僕、フォックス。フォックス・マクラウド。お兄さん、はじめまして」
お兄さんなどと呼ばれて照れてしまい、こう答えた
「あははは、お兄さんじゃないな。もう随分おじさんなんだ」
「おじさん?」
「そうそう。」
「おじさんは、おじさんなのに自分のこと、『おれ』って言うの?変だよ。『わし』って言わないの?」
「何?!」
あまりに唐突な問いに、おれはずっこけてしまった。
「おじさんだったら、自分のことは、『わし』って言うでしょ?」
「こらフォックス。何言ってるんだ。いきなり失礼だぞ。」
ジェームズが礼儀について窘めるというのも、なんだか貴重な場面を見ている気がする。
「フライドポテトのコーネルおじさんも、自分のこと『わし』って言ってるもんね、ふふふ!」
そういうと、悪戯っ子フォックスは笑いながら、駆け出していった。
多分、よく見かけるファーストフード店の店先に設置された、宣伝ロボットの事を言ってるんだろう。
「悪いなペッピー…やれやれ、ああいう所は一体誰に似たんだかなあ。…おおい、フォックス待て!!」
ジェームズがフォックスを追いかける為に走り出す。
…絶対にお前だと思うぞ。
おれは起き上がって、フォックスと、フォックスを追いかけるジェームズの後を追いながらそう思った。
【後日談】
「フォックス、おれとジェームズと、どこか遊びに行くか」
「ペッピー!」
「ん?」
「『わし』だよ!わーし!」
「んな?!…はーいはい、『わし』な。全くもう…フォックス、わしと一緒に父さんのとこへ行こう」
「うん!」
【十数年後】
「ペッピー、あれ?どこ行ったんだろう」
「おう、わしを呼んだか?フォックス」
「ファルコ、ペッピーって年の割に口調が年寄りっぽいの何でなんだろうね…」
「仕方ねえだろ。爺さんは爺さんでしかねえ。」
「こらファルコ、スリッピー!誰が爺さんだ!」
「お、オイラは言ってないよ〜!年寄りくさいって言っただけだよ!!」
「同じだ、ばかもん!!」
「あっはっは…ペッピーも律儀に返すもんだから口癖になっちゃったんだよな…ごめんペッピー」
フォックスは幼い頃を思い出しながら、苦笑した。
了