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GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

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    ギルド結成話 弓弦が鳴る。
     一瞬の後、風を切って放たれた矢は、正確に魔物の目を射抜いていた。瞬く間に片目の視力を奪われた魔物は、金切り声を上げて転げまわる。
    「今、楽にしてやるよ!」
     ユディットは唇の端を吊り上げ、潜んでいた茂みから飛び出した。素早く剣を閃かせて魔物の喉元に切り付ける。ぱっと鮮やかな血が飛んだ。仰け反ったその腹に、返した刃が突き立つ。ピキッ、と一際高い声を上げて、魔物は地に伏した。そのままもう、動かない。
    「これで20体目ね」
     がさがさと茂みを揺らし、弾んだ声と共に現れたのはミンティアヌだ。歩く度に、矢筒がかさこそと軽快な音を立てる。
    「ユディ。一人で勝手に飛び出すんじゃない」
     最後に茂みから出て来たエンディアがそう言って、苦い顔でユディットの頭を小突いた。
    「勝てたんだから、別にいいだろー」
    「もっと強い魔物だったら、どうなったか分からないぞ」
     髪飾りを付けたユディットの髪を引きながら、エンディアは内心で溜め息を吐いた。村を出てタルシスを目指してから、何度このやり取りを繰り返したか分からない。
     世界樹へ行きたい。
     そう言い出したのはミンティアヌだった。危険だと言い聞かせても覆る様子の無い意志に根負けして、兄である自分も共に行く事を条件に許可したのが2週間前。半ば勢いでついて来た弟のユディットともども、未だ世界樹行きを諦めるつもりは無いようだった。何しろ、村を出てから倒した魔物の数を、嬉々として数えているくらいだ。
    「もうすぐ暗くなりそうね」
     弓を背負い直して、ミンティアヌは空を見上げた。森の中にはまだ橙色の陽光が差し込んでいるが、じきにそれも無くなるだろう。
    「もうしばらく進んだら、今日は休もう」
     足を踏み出しかけたエンディアは、しかしすぐに歩みを止めた。爪先が何かを引っ掛けたからだ。
    「どうしたの? お兄ちゃん」
    「また魔物か?」
    「いや、足に何か引っ掛かっただけだ」
     嬉しげに身を乗り出したユディットを手で制し、エンディアは爪先に引っ掛かったものを拾い上げる。
     デイパックだった。あちこちに引き裂かれたような傷があり、背中の部分には赤黒い染みが広がっている。蓋には鳥の紋章が刺繍されていたようだが、それもほつれて汚れていた。
    「兄貴、それって……」
    「前にこの森を通った、冒険者の物だろうな」
     弟妹達の表情が僅かに強張る。魔物のものと思しき痕跡を見付けた事は幾度もあるが、ここまではっきりとした爪痕を見せ付けられたのは初めてだ。
    「お前達、引き返すなら、今の内だぞ?」
     デイパックの中身を探りながら、エンディアは二人に向かって言った。
     今から飛び込むのは、こんな世界だ。戻れるのならば戻った方がいい。そんな兄の思いを知ってか知らずか、弟妹は揃って首を横に振った。
    「何度も言わせないでよ。今更戻る気なんて無いったら」
    「承知の上で来てるって」
     また溜め息を吐いて、デイパックを放ろうとしたその時。
     絹を裂くような少女の悲鳴が、森の中を駆け抜けた。
    「近くよ!」
    「待てよ、ミンティ!」
     悲鳴の聞こえて来た方向に向かって飛び出したミンティアヌに続いて、ユディットも地を蹴る。
    「待て! 二人だけで突っ走るんじゃない!」
     放りかけたデイパックを持ったまま、エンディアは弟妹の後を追った。

     駆け付けた先には、二人の少女がいた。一人は紫の髪を高く結い上げて、赤縁の眼鏡をかけている。もう一人は水色の長い髪に、毛糸の装飾が施された円筒形の帽子を被っていた。
     見るからにか弱いその二人の傍らには、蝶の魔物の姿があった。1体1体は小さいその魔物は、群れをなして少女達に迫っている。
    「誰か、誰かー!」
    「落ち着いて! お姉ちゃんの後ろにいなさい!」
     眼鏡の少女が帽子の少女を背に庇い、手にした杖を懸命に振るう。蝶の何匹かはそのでたらめな軌跡に撃ち落とされたが、群れの勢いは些かも減じていない。
     エンディアが何かを言うより、ミンティアヌが弓弦を鳴らす方が早かった。空を裂く一矢が、群れの中で一際大きい1体を射抜く。薄青い羽がふわりと揺らぐのと同時、ユディットが蝶達の中へ飛び込んだ。
    「オレ達が相手してやるよ!」
     剣を振るい羽を傷付けたユディットの声に応じたかのように、蝶達はゆるりと体をこちらに向けて反転させた。黒い胴体が不気味にうごめき、薄羽から鱗粉がこぼれる。
    「ユディ! 一人で勝手に突っ込むなって言っただろ!」
    「そんな事より戦おうぜー」
     嬉々として剣を振るうユディットの背中に怒鳴ったが、弟は振り向きもしない。苛々と頭を掻いて、エンディアも短刀を引き抜いた。高度を下げて突っ込んで来た1体を、真横に切り裂く。
    「鬱陶しいわね、こいつら!」
     降り注ぐ鱗粉を避け、ミンティアヌは弓を引く。軽快な音を立てて、矢が羽を貫いた。
     ユディットが1体の頭を切り落とす間に、エンディアは別の1体の目玉に刃を突き立てる。その合間に眼鏡の少女が杖を振り回し、また1体を叩き落す。
     そうして十数分が経つ頃には、どうにか全ての蝶を潰し終えていた。
    「大丈夫か?」
     剣を腰の鞘に収めて、ユディットが少女達に問い掛ける。頷く彼女らに緩く息を吐いて、エンディアは短刀にこびり付いた魔物の体液を拭った。
    「この辺りは、魔物が多いみたいだな……」
    「そうね。どうしてこんな所に、二人だけでいるの?」
     エンディアの言葉に頷いたミンティアヌの問いに、少女達は互いに顔を見合わせた。細い眉が不安そうに下がる。先に口を開いたのは、眼鏡の少女の方だった。
    「助けて下さって、ありがとうございます。私はノエリア。この子は、妹のメルティアです」
    「あたし達、ナイトウイングっていうギルドの、メディックとルーンマスターなの」
     姉妹が話したところによれば、とある迷宮からの帰り道に、彼女らはギルドメンバーとはぐれてしまったらしい。二人だけでは捜しに行く事もままならず、ここで立ち往生していたという話だ。
    「ナイトウイングっていうのは、鳥の紋章を掲げてるギルドか?」
    「お兄ちゃん、知ってるの?」
     首を傾げるミンティアヌに、エンディアは先程拾ったデイパックを掲げて見せる。ノエリアとメルティアが、息を呑む気配があった。
    「どうしよう、お姉ちゃん……二人だけじゃ、街にも帰れないよ」
     暫しの沈黙が訪れた。それを破ったのはノエリアだ。
    「皆さんは、タルシスを目指しているんですか?」
    「そうだ」
     首肯したエンディアに、ノエリアはまっすぐに目を向けて来る。
    「私たちを、仲間に入れてくれませんか? きっとお役に立ちますし、タルシスまでの道案内なら出来ます」
     恐らくこの二人は、ナイトウイングの一員として、世界樹を目指していたのだろう。メディックとルーンマスターとしての経験も、少なからずあるに違いない。タルシスまでの安全な道筋も、知っているかもしれない。
     だが――
    「断る」
     短く言ってデイパックを放り捨て、エンディアは踵を返した。ユディットとミンティアヌが慌てて後を追って来る。
    「兄貴! 見捨てて行くのかよ!」
    「お兄ちゃん!」
     抗議する弟妹を、足を止めて見返す。すっと目を細めると、二人が言葉を呑み込むのが分かった。
    「あれだけの会話で、あの子達がどういう人間か、お前達には分かるのか?」
     それに、と声を落とす。
    「あの子達が下手人じゃないって保証は、何処にも無いんだぞ」
     エンディア一人なら、あるいはあの姉妹を連れて行ったかもしれない。しかし現実にはユディットとミンティアヌがいる。兄として、二人を危険に晒す訳には行かないのだ。
    「行くぞ。日が落ちる前に、落ち着ける場所に行きたい」
     再び歩を進めると、ユディットとミンティアヌは黙って後をついて来た。

    「なあ、兄貴」
     日が落ちかけ、辺りの気温が下がり始めた頃。最後尾を歩いているユディットがエンディアを呼んだ。
     振り返れば、素早く木陰に身を隠す小さな影が見える。
    「あの二人、ついて来てるぜ」
    「放っておけ」
     顔を見合わせる弟妹に一瞥をくれ、また前を向く。暫く、下生えの草を踏む音だけが響いた。
     寒くないかと弟妹に聞いて、マントの前を掻き合わせ、鼻先を埋める。辺りは既に暗い。
    「お兄ちゃん、あそこ!」
     不意にミンティアヌが前へと飛び出し、前方を指す。暗闇の中、仄かに見える橙。街の灯だ。
    「やっと一休み出来そうだな」
    「オレ、腹減ったー」
     ユディットが両手を振り上げ、大きく伸びをする。
     その直後だった。巨大な何かが頭上から降って来たのは。
     それは瞬きをする間に木々を薙ぎ倒し、盛大な音を立てて地面の上へと降り立った。立っていられないほどの震動がその場を襲う。
     崩した体勢を何とか立て直しながら、エンディアは見た。巨大な獣の顔が、遥か頭上にあるのを。
    「……何、あれ」
    「カンガルーだろ?」
    「あんなに大きいカンガルーなんて、いるわけないでしょー!」
     ミンティアヌは悲鳴じみた声でそう叫んだが、突如として現れた獣は、ユディットの言う通り巨大なカンガルーと表すのが適切なように思えた。
     3人の中で1番背の高いエンディアの、ゆうに3倍はあるだろうか。腹の袋には子がいたが、その子ですらこの場にいる誰よりも大きい。赤い目は爛々と光り、こちらを完全に捉えている。
    「お前ら、騒いでる場合か! 来るぞ!」
     言い終えるが早いか、カンガルーの魔物は黒々とした拳を振り抜いた。避け損なったユディットが吹き飛ばされ、木の幹に体を打ち付ける。ミンティアヌが目を狙って矢を放つが、腹の子に叩き落とされた。
    「お兄ちゃん、これ、勝てる気がしないんだけど!」
    「奇遇だな。お兄ちゃんもそう思ってるところだ」
     短刀で隆々と盛り上がった足の付け根に切り付けるも、魔物はそんな傷などものともしない。
     ユディットが咳き込んで身を起こし、木によじ登り枝を蹴って跳躍する。魔物の頭に着地したユディットは、剣の角を力いっぱい叩き付けた。わずかに血がしぶき、魔物がうるさげに身をよじる。
     大部分の体毛が白っぽく、暗闇の中でも比較的姿が捉えやすいのが救いだろうか。振り下ろされた拳を避けながら、エンディアはそう考えた。恐らく勝ち目が無い事に、何の変わりも無いのだけれど。
     逃げなければならない。そう分かってはいる。だが、魔物の照準はこちらにぴたりと合っていて、外れてくれそうにない。
     振り落とされたユディットが跳ねるように飛び起き、魔物の足に取り付く。振り払った刃が、闇の中で黒っぽい血を飛ばした。
     魔物が切られた足を高々と持ち上げ、爪先に蹴られたユディットが転がる。
    「ユディ!」
     踏み潰そうとしているのだと察した瞬間、考えるより先に体が動いていた。倒れたユディットの襟首を掴んで引き、自分と位置を入れ替える。
    「お兄ちゃん!」
     ミンティアヌの声に、重たい物が落ちる音が重なった。全身が軋み、息が止まる。体にかかった圧力が無くなっても、身を起こす事が出来なかった。
    「兄貴!」
     立ち上がらなければと思うのに、指先ひとつ動かせない。大地の震動で、魔物が近付いて来るのが分かった。
     ここまでか。そう覚悟した刹那。
     口の中に広がっていた血の味が、不意に消えて無くなった。全身の軋みも和らいでいた。
     動ける。
     短刀を支えにして立ち上がり、すんでのところで魔物の突進を避ける。視線を背後へ巡らせれば、空の薬瓶を手にしたノエリアと杖を高々と掲げたメルティアが見えた。
    「大丈夫ですか?」
    「馬鹿……何やってるんだ、二人とも!」
     逃げろ、と叫んだ声は、魔物の唸りに掻き消された。メルティアが杖の先端を魔物に向け、細い眉をつり上げる。
    「そーれー!」
     ぱん、と氷の花が魔物の腕に弾けた。微かに怯んだ隙にもう一度。
     魔物は身を引き、ほんの少したじろぐ気配を見せた。巨体に塞がれていた街への道が、僅かに開かれる。
    「今です! 逃げましょう!」
     ノエリアが言い、メルティアの手を引いて走り出す。二人が魔物の脇をすり抜ける間に、ミンティアヌとユディットも駆け出した。
    「兄貴、走れるか?」
    「平気だ」
     弟に短く答えてエンディアも走る。魔物の鼻息が間近で聞こえた。
     こちらが走る分だけ、魔物も走る。跳躍されて頭上を飛び越えられたら、と思ったが、そこまで知恵は回らないようだ。
     遠かった街の灯が、徐々に近付いて来る。転びかけたメルティアを後ろからユディットが支え、更に走る。
     街の入り口に灯された松明の火が見えて来る。足元の地面が、森の下生えから舗装された道へと変わる。
     そうして足音が柔らかな草を踏む湿った音から、石畳を踏む硬質な音へと変わり始めた頃。
    「とうちゃーく!」
     メルティアの声が街への到着を告げた。
     振り返っても魔物の姿は見えない。振り切ったようだ。
     何処かの酒場から漏れた歓声が、エンディア達の耳を打った。

    「ありがとう、助かった」
     街の広場まで足を進め、改めて全員が安堵の息を吐くと、エンディアはノエリア達に向き直った。ミンティアヌとユディットも、それぞれに感謝の言葉を口にする。
     それらに首を振った後、ノエリアはにっこりとした笑みをエンディアに向けた。
    「一緒に戦いましたから、もう仲間ですよね?」
    「……まだ諦めてなかったのか」
    「後には退けませんから」
     半眼でじろりと見るが、ノエリアの笑みは些かも揺るがない。
    「ねえ、お兄ちゃん……」
    「なあ、兄貴……」
     弟妹の声が重なった。見ればメルティアまでもが、何かを期待するような眼差しをこちらに向けている。
     エンディアは溜め息を吐いて髪を掻き上げると、弟妹達に背を向けて歩き出した。行き先は銀の看板――冒険者ギルドだ。
    「新しい冒険者か? よく来たな」
     扉を潜ると、肌の浅黒い男が声をかけて来た。彼がギルド長だろう。
    「新しいギルドの申請をしたいんですけど」
    「メンバーは何人だ?」
     問い掛ける男に、エンディアは掌を開いて見せる。
    「……5人です」
     直後、背後から歓声が上がった。うるさいぞと振り返れば、弟妹達は手を繋いで小さく円になっているところだった。
     ノエリアが一歩進み出て、笑みを深くする。
    「これから、よろしくお願いしますね――お兄ちゃん」
    「……あ」
     まだ、名乗っていなかった。
     エンディアがそう気付いた時には、ノエリアは踵を返して弟妹の円の中に入って行ってしまっていた。
    あずは Link Message Mute
    2022/07/05 19:29:18

    ギルド結成話

    SQ4が10周年という事で、もう消してしまったTumblrに投稿していたものを再投稿。

    ##世界樹の迷宮 #SQ4

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