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    神里ΩB①綾真の秘密 稲妻国において、御建鳴神主尊大御所の御威光の元に政を司る三奉行。その三奉行の中のひとつ、社奉行・神里家は、勘定奉行・柊家や天領奉行・九条家に比べ、歴史の長い家系だといわれている。
     だからといって、稲妻の神にゆりかごに揺られるようにぬくぬくと保護されてきたお家というわけではなく、むしろお家断絶の危機に無限に陥ってきた家系である。だが、なぜか、神里家は残り一人になっても生き残る。血脈をつなぐ一族なのである。

     神里家当主・神里綾人の妹であり、社奉行府の事務を一身に引き受ける神里さまこと神里綾華は、神里屋敷と呼ばれる居宅の広大な敷地内に設けられた神里一族しか立ち入りを許されない地下書庫で、神里家の人間が代々残してきた日記を読んでため息をついた。
     神里家には神里家の人間としての義務があるのだが、「日記」もそのひとつである。
     神里家には神里流太刀術など、あらゆる分野の技術が伝承されている。それを可能にしているのもこの日記の義務のお陰によるところが大きいかもしれない。
     特に神里家直系には、「奉行業務日記」「家業日記」「閨事日記」を各自記録する事になっている。さらに、神里家当主には「当主日記」も存在する。
     また神里家にお輿入れされた方々にもそれは課せられ、特に「閨事日記」は絶対に記録しなければならないと定められており、それを調べれば、大体において本当に神里家の血を継ぐ人間なのかわかるし、そのほかの日記の存在から伝統が失われることも少ない。ゆえに、それらの日記はむしろ現役の神里家の者たちが参考にするのである。
     そもそも神里家には結婚式などというものは存在しない。兄の綾人は、綾華によい方が現れたら式を整えようかと言ってくれているが、兄もしなかったものを妹の綾華が希望するはずもない。そもそもまだ心に決めた殿方は現れていなかった。
     大体、家の外に出れば綾華の兄は社奉行さまであるし、綾華自身も神里さまである。
     綾華の父も母も他界して10年経つか経たないかくらいにはなるが、屋敷内では父は旦那さまで母は奥さまだったものの、外に出れば社奉行さまであり、神里さまだった。ちなみにお二人が存命の折に次期当主としてお仕事をされていた兄は、小社奉行さま或いは社奉行の若さまなどと呼ばれていたようだ。
     しかしながら、今現在、我が家で若さまと呼ばれているのは、甥であるものの年がそこそこ近いので、実質、弟のような存在のリョーマである。
     ちなみに、リョーマ誕生の年に綾華の父は亡くなったが、名付け親は父である。ほぼ寝たきりであったのに、リョーマの産声に意識を取り戻し、震える手で、<命名 神里 綾真>と書き記し、かすれた声で読みを母に伝えたらしい。途切れ途切れの意識の中で考えていたようだった。
     リョーマの父親の名前がトーマであるので、そのあたりも考慮したものと思われる。
     リョーマの父・トーマとは、稲妻人とモンド人の間に生を受け、モンドで育ち父を追って稲妻に来たという人物だが、今は神里家の家司である。
     つまり実際に義兄でもあるが、綾華は兄の綾人ともうひとりの兄のように思っている。しかしながら、屋敷の外にでれば、トーマは神里家家司であり、臣下である。
     先述したとおり、神里家には結婚式を挙げ、まわりに新たな家族を周知するという習慣はないが、曰く、運命の出会いか恋愛を経て、神里家に入ってもらうしきたりの家である。身分は問わず、国籍も性別も問わない。
     なぜならば、綾華の祖父や兄のように、男性体でありながら子を宿す器官を有する神秘の肉体をもつ方が存在するから、というところが大きいだろう。(ちなみに女性体でありながら、子種を有する存在も記録にはあるようだが、綾華に第二性の器官はないらしい。)
     つまり、リョーマの母は兄の綾人である。
     綾華の父は、兄の綾人が第二の性を有することをなんとなく予感していたようだ。
     綾華の祖父(父を産んだ方だから祖母と言ってもいいのかもしれないが)に雰囲気が似ていて、神櫻と稲妻城におわします稲妻国の神たる大御所さまに認められし神守という巫子のような役目を背負っているという共通点があること。
     第二性を有する神里家の者から、第二性を有する子供は生まれないという法則性はあるものの、間に綾華の父を挟んでいることから、第二性を有さないという法則には当たらないということ。
     しかしながら、綾華の父は、祖父や兄に社奉行家・神里家のすべてを背負わせすぎているという負い目を感じている方だったので、兄に対するその可能性は否定したかったようだ。ようだが、その第二性というのが誠に厄介なものなのも承知されていた。綾華の祖父からきちんと話は聞いていたのだという。
     運命の出会いと表現すると聞こえはよいが、第二性を有する者に対する運命の出会いとは、ほぼ陵辱の果てに妊娠を経ての相手の神里家入りである。
     綾華は、兄たちの約10年前の閨事日記も、祖父の閨事日記も目を通した。つい先日、とある事件があったからだが、兄が微笑んでいつも通りに振る舞っていても、どこか魂が抜けたように生気がない理由がなんとなくわかった。

     兄が夫となるトーマと出会ったのは、16歳になったばかりの春、離島の海岸だった。その1週間程前に、父母から何かを伝えられ、神の目を授かったばかりだった。
     第二性は、強靱な理性を持つ兄の綾人ですら蹂躙したのだという。それどころか、第二性に対する相手も特殊体質らしく、2人とも獣のようになって、理性を取り戻した後の絶望感は相当なものらしいし、相当に激しい行為なので、お兄さまのお尻が傷ついて出血してしまったのだとか。
     ・・・・・・それはともかく、綾華は10年前に思いを馳せる。

     そう。あの日、兄は仕事とお稽古の隙間時間に外出されて、夜になってもお帰りにならず、週末番も屋敷の者も総出で探し回ったが見つからず、翌日の午後に離島の海岸で保護されたのだった。

     おうちに帰られたお兄さまのお着物はなぜかぼろぼろで薄汚れていて、襟首から覗くうなじにくっきりと醜い歯形のようなものが浮かび上がっていたのを覚えています。
     今も、その歯形は残っているそうですね。第二性が番った証なのだとか。
     トーマは縄を打たれて、うなだれていました。トーマもお兄さま同様になぜだかぼろぼろでした。
     お家の一大事に、お父さまも起きあがっておられて、お兄さまを抱きしめた時、やっとお兄さまは声をあげて泣かれたのです。あんなお兄さまは初めて見ました。

    「しかし・・・・・・」
     綾華は、どうにも腑に落ちない。
     一夜明けたら、その衝撃的な事件を打ち消すほど、トーマと兄の綾人は打ち解けて、トーマの綾人に対する甲斐甲斐しさといったら、それはもう甘々だったのだ。
     だったというのは少し違うかもしれない。今も甘々である。綾人もなるべく体裁を整えようとはするが、トーマの甘々を躱すことにはあまり成功していない。
     綾華としてはその照れた様子というか困った様子が大変お可愛らしいので止める気もない。限りなく過保護であるが、社奉行府や神里家に関わることならなんでも背負って采配してしまう神里家当主には丁度いいのかもしれないと思う次第である。
     そういうわけで社奉行府や屋敷の外ではきちんと主人と臣下であるが、神里屋敷の居住区にいる2人は、現在に至るまで仲睦まじい様子である。

    「・・・・・・ぅえ。・・・・・・姉上」
     ちょいちょいと裾を引く感触がして、ほんの少しだけ視線を下げると、10歳児と目が合って、綾華は悲鳴を飲み込んだ。甥のリョーマである。
    「母上のこと、なにかわかりましたか? 姉上」
     父親によく似た目元の甥は、まっすぐな瞳で綾華を見上げていた。
    「わかりました。わかりましたが、外に出てから話しましょうか」
     さすがに閨事日記を10歳児に見せることは憚られる綾華である。
    「はい!」
     綾華とリョーマは地下書庫を出て、しっかり錠を掛け、屋敷の中庭の四阿に移動した。

    「お兄さまは、リョーマのおじいさまのお母さまにあたる先々代当主の記録をよく参照されているようなのですが・・・・・・、実はリョーマのおじいさまは、先々代当主しかお知りにならないようなのです」
    「? どうしてですか?」
     リョーマはきょとんとして小首を傾げた。
    「あ。ええと、おじいさまはつまり、おじいさまの母上しかしらないということですか? おじいさまの父さまは?」
     リョーマは母の綾人を母上と呼び、父のトーマを父さまと普段呼んでいる。ちなみに綾華のことは姉上である。もっと小さな頃は姉さまと呼んでくれていたのが懐かしい。
    「おじいさまがまだ先々代当主のお腹の中にいるときに、おじいさまのお父さまもお二人のお兄さまもお一人のお姉さまもお亡くなりになったそうです」
    「え・・・・・・」
     リョーマは言葉を失った。
    「あの、ここだけのお話ですけど、先々代当主のお相手は、天領奉行・九条家のお方で、伴侶となられた後も天領奉行でご活躍されていた方なのです。その、一番上のお兄さまは九条家の養子になる形で天領奉行におられたので、お二人ともに殉職と書かれていました」
    「じゅんしょく。あぁ・・・・・・。えと、それではもう一人のお兄さまとお姉さまは?」
    「もう一人のお兄さまも、社奉行家当主代行としてご同伴されていたそうで戦死されています。お姉さまは璃月の方とご縁があって嫁がれたのですが、ご夫婦で璃月に向かう途中で船が沈んだそうです」
     リョーマは難しい顔をして考え込んでしまった。綾華だって、急に皆さんお亡くなりになりすぎでは?と思う。つまり、綾華の父が祖父の胎内にいたときに祖父と父以外の直系が死に絶えたということになるのだ。
     そして・・・・・・
    「先々代が奇妙な点として書き記しているのが、神里家次期当主として次男が育っているにも関わらず、約10年振りに急に伴侶の方がおややを熱心に希望したということなのだそうです」
    「あ・・・・・・!」
     リョーマは思い当たることがあって、大きく口を開けた。
     綾華にもある。
     稲妻国が鎖国して少し経った頃、トーマが挙児を希望して熱心に綾人を口説いていたが、年に1回は起こる薬で抑えられない第二性と伴侶の特殊体質の暴走が起こった際に、ついに第2子を綾人が懐妊したのだ。3ヶ月くらい前の出来事である。
     そして、つい先日、トーマが神の目所持者ということで目狩り令の件で捕縛され、結果として逃げおおせたものの命の危険にさらされた。
     ちなみに、御年10歳になるリョーマの下にはまだ弟も妹もいない。
     つまり、符号が合いすぎる。

     綾華とリョーマは顔を見合わせて、次の瞬間駆け出した。

       ***

    「お兄さま! 綾華はお兄さまを一人にはしません!」
    「母上ーーーー! 僕も、母上と一緒にいます!」
     自室で珍しくくつろいでいたらしい神里家当主に、綾華とリョーマは飛びついた。もちろん、お腹にはソフトタッチである。
    「どうしたんだい? 2人とも」
     すこし驚いた様子で、綾華の兄であり、リョーマの母である綾人は2人の頭をなでた。
     綾人の傍らに座していた家司の方が心外そうである。
    「なんだか聞き捨てならない言葉が聞こえたけどどういうことだい?」
     むしろ心外ではなくご立腹であった。
     綾華とリョーマは、名残惜しげに綾人から離れて2人並んで正座し、トーマにぽつぽつと説明した。
    「そうなのかい? 綾人」
    「・・・・・・いえ。そのようなことは・・・・・・ない、です」
     笑顔を作ることに失敗した無表情に近い状態で神里家当主は言ったが、その様子がかえって夫・妹・息子に確信をもたらした。
    「と、トーマ、綾華、リョーマ。本当です。心配してはいません」
     社奉行府にいるときの神里綾人という人物は、大変厳しい仕事人間である。とにかく仕事量が多いので、世辞に時間を割く輩はそもそも論外であるし、礼を失する相手も話にならないと早々に切り上げる。いつも清廉な姿に笑みを絶やすことはないが、常に何かを考えて、人の一歩先、二歩先に進んでおり、この人が道を行くと、いくら荒れた道であっても、何事もなかったかのようにすべてが丸く収まるのだ。当然、ただ道を行くだけではないのだが、大多数の者にはそう見えてしまう。
     しかし、この人から仕事をなくすと、家族思いのやさしい人なのだ。その上、かわいい人なのである。夫は常にそう思っているし、妹も、息子ですらそう思っている。
     だから三者三様でひしっと綾人に抱きついてしまうのは仕方のないことなのである。
    「いや、でもね。命の危険を感じたから、もう一人子供がほしいと思ったわけではないよ。10年くらいかかってしまったのは申し訳ないけど、天守閣は無理としても、稲妻城に俺も入れる目処がいくつか整ったから、なにかあっても綾人を城から助け出せると思ってお願いしたんだ」
     稲妻国の神・御建鳴神主尊大御所が住まう稲妻城、そこに出入りできるのは、基本的には神の眷属か奥詰衆といわれる大御所直属の臣下及び三奉行家当主かあるいは神守の任を拝命している神里家神守しかいない。
     つまり神里家としては、社奉行家当主であり神守である綾人と、神守の才を認められ2人目の神守となっているリョーマのみしか稲妻城には入れないのであった。
    「詳しくはいえないけど、合法だから安心して」
     そういう神里家家司に一番不思議そうにしてたのは、当の神里家当主である。
    「別に城内に危険はないですよ?」
    「あるでしょ?!」
    「あります!」
     夫と息子の剣幕に驚いたのは綾華であった。
     そんな義妹を横目に夫は息子の勢いにのって
    「リョーマ、あとで詳しく教えて」
    といい、そのやりとりに神里家のかわいい人はうろたえた。
    「私なら大丈夫ですから、その、リョーマ、内緒にしてください」
    「お兄さま! 内緒はだめですよっ」
    「綾華まで・・・・・・。ほらほら、家司殿、そろそろ夕餉の支度の時間では? 綾華、リョーマ、社奉行府でお願いしたいお仕事があるので社奉行府の方にいらっしゃい。いいね?」
     収拾がつかなくなり、神里家のかわいい人は、社奉行さまに戻られることにしたようだ。
     よって稲妻城での身の危険についてはまた後ほどと相成ったのであった。 
    駒嶺くじら Link Message Mute
    2022/07/16 22:58:46

    神里ΩB①綾真の秘密

    #オリキャラあり
    #トマ人
    #gnsn #二次創作

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