ちょっと、美味しくないクッキーを買ってしまった。
いや、美味しくないというのも失礼か。ちゃんと商品として売られていたわけだし、これが好きだという人もいるだろう。なので、あえて言うなら、好みじゃないものを買ってしまった。と言うところだろう。
それでもモヤモヤが収まらなかったので、『異世界』にログインした後、ひたすらクッキーを作っている。
絞りクッキーはアーモンドの粉を混ぜたものと、ココアとラズベリーをフリーズドライにして砕いたもの。キャラメルがけのフロランタン風。チーズの塩気を利かせた薄焼きクッキー、それとはバニラ風味のプレーンはアイスボックスで、ベリーは型抜きで。チョコやナッツ、またはドライフルーツがそのまま入っているクッキーもいいが、今回はすべて粉末状のものだ。
微妙だったクッキーがそうだったんでな。それからメレンゲはコーヒーとレモン風味。と……。
「よし」
「終わりましたか?」
一通り出来上がって振り返るとそこには春の笑みを浮かべたカルが立っていた。
「あ、あぁ。そろそろおやつの時間だろう?」
「そうですね。紅茶を淹れましょうか」
リビングに向かい、作ったばかりのクッキーを並べる。ラピスやノエル、マーリン、レーノがやってきた。ガラハド達は今日は迷宮に行っている。
アーモンドクッキーを一枚、手にした。口に入れると、さくりとした歯触りと口の中でほろりと溶ける軽さ。アーモンドの香ばしさとバニラの風味もバランスがいい。我ながらなかなかいい感じにできたと思うな。カルが淹れてくれたレモンバームの風味をつけた紅茶も初夏の今は爽やかでいいな。
ニコニコしながら食べるラピスの頬についたくずを指で拭ってやりながら目を細める。カルとレーノも幸せそうに食べている。マーリンはそろそろ慣れろ。今回のは私が食べたいものを作ったので二人にはやや甘さが控えめだだろう。これはジャムで各自調整してもらっている。アイシングをしてもいいかもしれないな。
「ラピスとノエルはどれが一番好きだ?」
「ラピスはメレンゲが好き!」
「僕はチーズ味が好きです」
にこにこ笑いながら二人が答える。
ラピスは口の中でサクッとシュワッと溶けるのが楽しいらしい。ノエルはしょっぱいものが好きか。なんとなく酒飲みになりそうな予感が。ちなみにマーリンはコーヒー味のメレンゲが気に入った模様。
レーノとカルはどれも好きだが、レーノはプレーンがいいらしい。飽きの来ない味だとか。カルはアーモンドがこの中では好きとのこと。うむ、好みもいろいろだな。
残ったものは雑貨屋の売り物にしようかと思っていたが、どうも残りそうにないな。
一通りつまんで満足した私はそれぞれを見ながらお茶を飲む。さて、今日も一日頑張りますか。