温泉旅行(現パロ)商店街の福引でペア温泉旅行を当てた。
冬休み中の俺と、年度末休暇を強制取得させられたという伯父さんしか都合が合わず、俺は内心どころか全身でガッツポーズをしたものだ。
ダウンにニットキャップ、ナイロン鞄の俺と、ロングコートにマフラー、革手袋に革のボストンバッグと対照的な2人が駅に着いたのは午後3時。旅館の迎えの人がにこやかに車へ案内してくれた。俺が好む騒がしいゲーセンがなくても構わなかった。なにしろ伯父さんと居られるのだ、堂々と!
旅館の部屋は初めてだったからきょろきょろしてしまう。荷物を置きながら伯父さんが軽く笑う気配に我に返る。くそ、またガキだと思われた。
お食事の前に、ひと風呂いかがですか。今なら空いていますよという仲居さんの助言は正解だった。用意されたユカタとタオルを手に浴場へ迎えに向かうと俺たち以外誰もいなかった。ロッカーではなく脱衣籠にパーカーとTシャツを適当に脱いでいく。なんとなく照れ臭くて隣で脱いでいる…脱いでいる!伯父さんの方を見られない。ぱんつ一枚残すところでためらったが、ええいと下ろすために屈めた視線の先に伯父さんの膝下、なまあし!が!う、うわ、えっ、見てよかったのかなどうしよでも、と動けずにいると、上からどうした、と声がかけられた。デスヨネー!
「なんでもな、っ」
役得にしてしまえ、下から全部見てしまえと視線を上げたら、えっ、あの、その、おじさ、ぱんつ、黒、いや、細、ヒモ?え?なにそれ??尻出てるよ???なに??エロ???
「どうした」
なに涼しい顔してんの!?そんなえっちなぱんつどんな顔して買ったの!?はいたの!?なんでそれはいてきたの!?
混乱を極める俺の視線が伯父さんの腰というか黒い布っぽいものに注がれていると気づいたのか、「動きやすい」とだけ言ってそれに手を掛け、するすると、下ろし、
「マヘンドラ」
視界が暗転した。
気づけば部屋の布団に寝かされていた。
「はしゃぎすぎたようだな」
どこか楽しそうに、窓際の低い椅子に腰かけた伯父さんが言った。
なんだっけ。
「あー!えろいぱんつ!!!」
言って飛び起きた俺に新聞紙の筒が見事にヒットした。騒ぐな、とそっぽを向く伯父さんの浴衣から見える首元が少し赤い。
「じき、食事が来る。風呂はその後だな」
「うん!」
家では見ない気取った器に、きちんと行儀よく盛られた料理が、時間をかけて何種類も並べられる。どれも美味しくて、もっと食べたい、もっと、とはしゃいでいたら、伯父さんが一品?て言うの?俺にくれた。ありがと!伯父さんは?なんか交換しようよ。お刺身食べる?えっ、あっ、そっちの煮物でいいの。やーなんかごめん、俺それは得意じゃなくて。
小さなお鍋がくつくつとこれまた美味しそうな音を立て始め、いい匂いが漂う。
「んー!いいにおい!まだかなー」
「火が消えたら食べ頃だ。火傷をするな」
はいはーい!あとちょっとで消える!うわーこのちっちゃい燃料おもしれー。
小さなアトラクションに夢中になっていた俺は案の定伯父さんの言葉の後半を聞いていなかった。素手で、十分に火が通った蓋を掴んでしまう。
「っあっっつ!」
「バカが」
咄嗟に手を引かれ、指が冷たくて湿ったものに包まれた。おしぼりにしてはなんか、やらかい。
「え」
ちゅ、と音を立てて伯父さんの唇が離れて行く。俺の、指先から。
「念のため水で冷やして来い」
あ、ハイ、ソウダネ、伯父さんの口の中は、人肌の温度ダモンネ?
えーと水、水の出るとこは、っと。あった!あれ、部屋にもお風呂ある…えー!
「伯父さん!風呂!部屋の!露天!マジで!?」
俺のテンションに若干引いた伯父さんが、指は冷やしたのかとため息混じりに確認する。したした、水掛けたからへーきだって!
「なら、入れる。脱げ」
えっ 伯父さん積極的 いきなりそんな 俺まだ 心の準備がっ シミュレーションはばっちりだけど ほらその、伯父さんはもっとこう、 恥ずかしそうに、わー!だからそのえろいぱんつをためらいなくおろさないで!脱がないで!
手のひらで顔を隠すふりをして指の間から見、フヮ〜オ!!!!!!えっ、あっ、タオル巻いちゃうのっ。えー尻しか見てないのに!
「今度は気絶するな」
「やーご迷惑をおかけしましたっ」
てへぺろ、としても伯父さんの表情は変わらない。伯父さんのそーゆうとこ嫌いじゃないけど、健全な青少年が変な趣味に目覚めたらどうしてくれるんだよ!なんて言いながらルパンダイブしたい。伯父さんに。
実際は慌てて脱いだせいであちこちぶつけてカッコ悪いったら。あーキマらない。
「うわぁ…」
個室についてる露天風呂ってめちゃくちゃイイ雰囲気なのな!弱い灯りがぽつぽつついてて、しかも伯父さんと二人きり!えええこれはマヘンドラくんがんばろうぜ!?やれる、お前なら行ける!
二人で並んで湯船に浸かってたら、伯父さんが俺の肩に頭を預けてきて、
「のぼせてしまった…」
「フフ、俺にかい、伯父さん」
なんて!なーんてな!
もちろんのぼせたのは俺で、気がついたら布団に寝かされていて(1時間ぶり2度目)、横で丈の足りない浴衣を着た伯父さんがゆっくりとうちわで扇いでくれている。うっそだろ俺。情けなくて涙が出てくる。
「水を飲めるか?」
「う、うん…」
体を起こそうとしたのを手のひらでそっと制される。え、なに、起きないと飲めな、
「うン」
柔らかくて、温かくて、湿ったものが唇に当たる。それから、冷たい水も。後頭部に添えられた手があたたかい。
「あの、伯父さん今の」
「まだ飲むか?」
「あ、うん」
状況に理解が追いつかない俺は、揺らされたペットボトルを受け取ろうと手を伸ばしたがかわされる。大きくあおると、伯父さんが俺の顎に指を添えて、もう一度。これどう反応したらいいの?!かっこよく、スマートに!?って!?どうしたらいい!?教えてバドラ!お前モテるじゃん!ってラインも知らねーや!詰んだ!詰んだ俺!
「………おっ……おやすみ!??!」
「いつもの威勢はどうした」
「だって…伯父さんがカッコよくて…」
「お前のシミュレーションと違って?」
「そう、伯父さんはもっと恥ずかしがり屋さんで…ってなんで知ってんの!?」
「風呂に入る前に言っていただろう」
声に出てた俺のバカーーーーー
「マジで泣けてきた…立ち直れない…」
「これしきで折れていては成人までもたんな」
「それって!」
「一度寝ろ。夜中に起きたら、ゆっくり風呂に入るぞ」
「うん!うん!!」