眠っていた記憶を呼び覚ませ。
痛みを熱に、感情を融かす。凍りついたそれが見せかけだったように、僅かな衝撃で動き出す瞬間がある。
サイレンが聞こえる。逃れた身体に埋め込まれた機械が、離れた個体の動きを察知して警笛を鳴らす。
もうそれでも、何があっても、この身体が壁の外を超え使いものにならないと分かっても、戻るつもりはない。
ふと見上げると、古びたビルの屋上に人影を見つけた。
月明かりが青白く、それはキラキラと光を纏い惑わせる。綺麗な青い翅。
凍えるような色味の青空の向こうで、それがこちらを振り返り、笑う。
張り裂けそうな高鳴りに、耳の奥を突き刺す感情に、名前が分からない。
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青い蝶のお話