盗人 三ヶ月が過ぎた。砂漠の薔薇を売って手に入れた金も底をつき、キラの手元には僅かな金しか残っていなかった。これでは今月の家賃も支払えない。キラはペトラに相談してみることにした。
「家賃を安くしてもらえないかしら? これでは支払えないわ」
「そう言われてもねえ……。私だってこれで生活しているんだよ。申し訳ないけど、これ以上安くは出来ないね。何とかしな」
「そう……。」
キラは溜め息をつくと部屋へ引き揚げた。ベッドの上で膝を抱えて座り込み、考えた。他の仕事の求人は出ていないし、仮に有ったとしても田舎出のキラを雇ってくれるところはそう有るものではない。これがカラルの村なら、皆が助けてくれるのに。このままでは治療費どころか、生活も危うい。ふと、キラの頭にラマーダの高級住宅街が横切った。本来であれば、あそこに住んでいる裕福な人々が貧乏人を助けるべきなのだ。村では当然の事だ。そうよ、あれだけ裕福なのだから……。
夜、キラはラマーダの丘へ向かった。灰色の石造りの豪邸が目に入った。窓の明かりは消えている。留守らしい。キラは裏口に行ってみた。鍵が開いている。キラはそっと木戸を開けると中へ入った。台所を抜けて広い廊下に出る。少し歩いて居間へ侵入した。贅沢なゴブラン織りのソファーに、大理石のテーブル。壁には大きな絵画が掛けられていた。キャビネットの上に銀の壺が飾られている。キラは背嚢に壺を入れた。キャビネットの引き出しを開けて、何か無いか探していると、
「誰だ!」
入り口に男が立っていた。
「何をしている!」
キラは窓から逃げようとしたが、男はキラにタックルをかまして取り押さえた。
「ウッ」
床に押し倒されたキラは痛さで呻いた。背嚢から壺が転がり出る。
「このこそ泥め!」
男は吐き捨てるように言うと、キラの頭を殴った。キラはその場に気絶した。