イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

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    MOON CHILD「悪い子!もうかばいきれない!」
    ――あなたは美しいと思っていたころもあった。
    「あなたが……こんな、こんなことをするなんてっ!」
    ――どうして人は、私から人権をとりあげようとするのだろう。
    「でていって!あんたの家はピットでしょ!でていけ!!」
    ――世界は美しいと思っていたころ、街の観光名所を駆けまわって
    「衛兵ーーっ!!」
     金属が擦れ合うガチャガチャという音。

     なぜ走ったのかって訪ねる?
     街の少年少女たちのなかには私を見つけると、まるでウサギを見つけたキツネのようになってしまう子がいるの。私のことを『浮浪児のネッフィー』と呼ばわりながら追いかけまわすのよ。

     私の右足はまえ、左足はうしろ、そう、腕もそんな感じよ、おんなの子が地面を思いきり蹴って空に浮いた絵を想像してみて。
     浮島にそびえる月宮殿は12の塔を抱えてる、国のお城はサファイア海の外套を肩に引っ掛けているわ。それから、猫だらけのアーチを潜って抜けた先に、旧市街、そのど真ん中には真珠貝の螺旋階段。そういう絶景を見て楽しむために走ってると思うと気が楽になるもの。嫌いな子ほど駆けっこの飽きがはやかったのよね。
    「どうなされましたか?マダム?」
     でも、ある日、酔っ払った貴族に捕まった。放り棄てるように入れられた縦穴は、そのまま私の住みかになった。街のキツネたちも下りてこないウサギの巣穴。その縦穴はひとりの力ではとてもあがれなかった。
    「この子、勝手に部屋にはいってきたの!信じられない!」
     私のことを気にかけて毎日のように果物を投げ入れてくれる婦人がいたわ。今日、その人が縄を投げてくれた。
    「自分に腹が立つ。あの子に言われたのよ。ほら、見てなさいよ。餌付けなんかしてると、きっといつか部屋のモノを盗りにくるわよって。月宮殿送りにしてあげて」
    ――お礼をいいに彼女の部屋を訪れただけだったのよ……私はちっとも悪くない。
    「わかりました」
     ⚠️部屋から外へ強制的に連行されるシーンは2秒ほど、ものが溢れる部屋!明るい外!って感じで表現したい語彙力。
    ――あの場所は、あなたのおかげで、空っぽではなかったの。
     そこで色や、物や、明かりを考えてみた。なにもかもが主のためのもの。では、私の唯一実在する場所は、どうなってしまうの?
    ――キツネは私の日常から遠ざかる。日常の欠け。
     玉石の路面を踏みながら。

     聞き覚えのある足音が聞こえた。身近なキツネが現れる。
    「ネッフィー!」「おまえ、ほんとうに……っ!」
    「……待った!」
    「そいつは、剣を握ったことがないんだ!探索のなんの役にもたちやしないよ!」
    「ネッフィー!誰が送り出した?」
    「12柱の月神様に撰ばれたということよ。だから、私は自分を晒すのが楽しみなの」
    「……モルドゥアなんか辿り着けないからな!?」
    「化け物がでるんだ!くそ…っ」
    「誰が彼女を送ったんだよ……!!」
    ⚠️浮島の下にいるわけではないけど、浮浪児に暗い影が射す。
     少年ともいえる年齢の男が眉を潜めて浮島を見る。


    浮浪児は衛兵と月宮殿の雑談を交わしながら、一緒に歩いた。少なくとも生活の質は上がるだろう。と衛兵が言った。
     相変わらず性別の見分けがつかない顔立ちをした者が数人バルコニーやらエントランスに座っていた。
    「嬢ちゃん、見てみろ、ドリミアだ。月宮殿では仲良くしておいたほうがいいだろう」
    ⚠️ドリミアは専ら盗賊で名の通る種族だ。連中が住みかとする建物郡を通過する。本物のキツネ。


    浮島の下はまるで夜の絵の具。太陽の運行にも影響されないの。
     私は、衛兵に付き添われて月門へ続く大通りを歩いている。夜に突入した私の透き通った白い肌は銀色と黒色にむらなく染まった。
     目が闇に慣れた頃には、槍先の刃を束ねたような屋根に目をとめていた。門衛のために建てられたのかもしれない家屋郡。
     真っ黒な窓に見つめられているみたい。

     闇酒場あるんじゃないかな?あそこにも義賊とか盗賊たちが隠れていそう。衛兵が実際には盗賊も好まない場所だと言った。


    ゴンドラに着いた。
     門衛に私を預けると衛兵たちは踵を返して去った。門衛は一言も口を利かずにゴンドラを巻き上げるための支度をはじめた。
     私はゴンドラの床に足を踏み入れる。ぎし。オーク製なら大丈夫、かな。
    ゴンドラが浮きはじめた。
     後ろには、掃除の行き届いた家が何千とあった。
    ――孤児となった場所、それらこそ、場所であった。

     暗闇の向こうは明るい。お城はね、サファイア海の外套を肩に引っ掛けてるの。この城の壁に螺鈿細工が施されているの。黒珠貝の虹色光沢をもった真珠層を切りだした板材料を彫刻が施された表面にはめ込んでるのよ。この街はね、螺鈿細工が有名なの。特に螺鈿細工が施された漆器や家具が有名よ。
     ゴンドラはどんどん上がる。どんどん。床が抜け落ちたら、あの屋根に突き刺さってしまうのね。また私は、まだ1時の明るいほうに目を向けた。駆け巡っていた街があんなにちっぽけに見える。
     上がるにつれて月宮殿の一番暗い側面、浮島の底辺、月の窓の牢獄が見えてきた。牢獄の床が開きっぱなしにされていて恐ろしかった。
     間もなくしてゴンドラは止まった。
     彼女は、目移りする。視線の先には誰がいる。
     門衛に付き添われて出口へ向かって。
     
    ✒️光であふれている。眩しい。
    ✒️特殊な環境だと思わせること。床やオブジェクトの特徴を描け。
     
     水浸しの白い床に戸惑った。エントランス?中庭?ここはなに?
     12柱の月神の姿を象った石像が扇状に設置されている。案内人に付き添われて中心の、まるで虹のように色づいた薄い光のプールに入った。12柱の月神のひとつ、狼月の石に同じ光があてられた。
     案内人に付き添われて縦に置かれた水盤、でも水盤の底がなくって輪っかだけ。なのに水面が穏やかで……不思議な水盤から水を汲んで口に注いだ。ごくり。

     それから、同じ案内人に付き添われて地下聖堂墓地へ続く長い階段を降りていく。
     オークの分厚い大扉を開けると、大規模な地下墓地が姿をあらわした。
     ✒️匂いはかなり独特だと思う。木材の匂い、蝋燭の匂い、修道子の匂い。清潔かもしれないし。匂いについて書くのならそれに目をむける。
     うわあ、棺が100はあるかなあ。
     ✒️一番強い匂い。泥。
     付添人は、私の足を泥の水槽の前へ運ばせるようす。
     老若男女入り交じる修道子たちが待っていた。
     修道子たちは水槽から手に泥を取ると私の頬や肩、腕や足に泥を塗りはじめた。手足はもちろん、顔はもちろん、泥を掴んだ指で髪を掬い、乳房から股の間まで。待って、目玉はいいの?――いいみたい。
     ✒️無言劇?物知り?
     仕上げに泥の水槽へ2つ折りの麻布が投じられた。

     今度は修道子に付き添われて蓋の開いている棺の前に立ち止まる。
    ✒️彼女の視線を辿る。感情をだすこと。 
     布擦れの音をだしながら歩み寄る3人は黒色の装いで性別なんてわからなかった。
     ミステリアスな3人に促されるがまま棺に入ると蓋が閉じられた。
     スルスルという布擦れを聞いた後で、呪文の詠唱がはじまった。
    ✒️武器を持つ男たちのことを考える。

     呪文を聞いていると身体がとても熱くなった。でも、顎とか全身が震えているのはなぜだろう。
    ✒️彼女は麻布にくるまれていて身動きがとれないし、状況を把握しようにも目も見えない状況だ。心もとさを感じる。聴覚だけが頼り。
    すごい剣戟の音……
    そろそろ赤帽は
    2人の赤帽は麻布にくるまれた私を石畳のグランドに放り投げる。手順は話に聞いているもの、わかってる。素早く毛布を剥いだら、落ちている武器を拾って、を警戒し――
    ✒️想像していた以上に戦場で面食らう。達人たちの剣戟に圧倒される。
    ✒️足に手を踏み潰されそうになる。血飛沫が降ってくる。 

    強い衝撃を感じたと思った、視界いっぱいに地面が迫って――ああ、ああッ、目が見えない!

     意識を取り戻したとき、水の中にいるとわかっていても、なんかだめ。口から気泡が噴きあがる。両手を突きだし、両足をばたつかせてもがいた。やっと水槽の縁を掴んで体を引き上げると空気をむさぼった。3度ほど空嘔をした。
     そうしていると、ぞっとする冷気が流れてくることに気づいた。あの鉄の柵を越えていく意思のないものは穴に飛び込めということらしい。その穴の底から血と腐臭と冷気があがってくる。水槽からでて、鉄の柵へと向かうために部屋を横切る。もちろん濡れすぼったまま、戦慄きながら。
     グランドに足を踏み入れるまえに、柵から頭をひょっこり頭をだして外の様子をうかがった。ざっと50人くらいの訓練生。
     オーソドックスな剣を好むいかにもな者たち、赤毛の弓使い、斧を振りかざす者、黒い鞭を操る魔法使い。双剣使いに槍使い、一度も攻撃を繰り出さず相手の攻撃を交わす身交わしの達人。メイスは僧兵希望者だろうか。痩せぎすだなぁ。戦闘意志がなくしたか情欲に励む者さえいた。苺月のもので違いないわね。
     武器は落ちてない。誰かが倒れるのを待つしかない。あるいは盗む、か。空気を切り裂いて飛ぶ嫌な音を聞いた。矢飛かな?と思ったときに頭に刺さっても、私は矢羽根を見つめ「こんなものとても交わせない」と思うだけの時間的余裕はあった。

     ふたたび水中。この分では水中にいる時間のほうが長くなりそうだった。
     
     グランドに出るまえに弓使いを探した。弓使いは何人かは居たように思えた。
     出てすぐのところすぐ隣で屈強な男がどうと倒れた。相手の男は斧を振りあげ――私は後ずさった。ハッとして、私は倒された男の懐から剣を引き抜いた。重い。とても扱えたものじゃない。男の首から斧を引抜きいた明るめの赤髪の男は私に丸っこい目を目配せをし、顎をしゃくった。「でかすぎる」と酒焼けした声でいい、懐から短刀を取り出すと「おう、そいつは俺みてえな雪月が使う。ほら、あんたにはこれだ。いいか、こいつをこう握って、この男を、こんな風に――グサッ――刺すといい」
    「とにかく、刺せ、腕が上がらなくなるくらい、いっぱいな。よおぉうっく練習しておけよ」と言い血みどろの短刀を差し出してきた。
    「ありがとう、親――」赤髪の斧使いは軽くかぶりを振り殺しに向かった。
    ✒️剣を見つめて、胸につける。いつか、刺さなきゃ。
     壁際から嬌声(きょうせい)が聞こえる。

     私は刺した。あばらに当たった。手が滑って返しにぶつけて痛かった。返しがついていない短刀だと、手が滑った場合、むしろ自分を傷つけるということも学んだ。
     私がこの男を練習台にしているあいだは遺体は回収されないようだったし、わざわざ引き剥がして私を斬りつける人もいなさそうだった。
     はやくも手が痺れてきている。刺して、刺して、刺した。

     忌まわしい弓使いを視野の隅に捉えた。はっとして凝視すると、赤髪の小男は弓を背中に戻し、黒檀のダガーを手に持って構えの姿勢をとった。迫ってくる槍使いを迎えようという。
     浅黒い肌の槍使いが有利に思える。槍先でちょいと叩いて牽制。ダンスが始まった。足元をすくう横払い、槍先は下を向いているため相手は槍をさばけない。小男は軽い、だから小男は素早く距離を詰めたが槍使いがひらりと交わす。だが、小男は動きを読んでいた。下に滑り込むように潜りこんでアキレス腱を切り裂いた。小男が坂道を転がる樽のように素早く距離をとった。相手の男のアキレス腱の傷は深かった。十分距離をとった小男は弓矢を放った。
    勝敗はついた。

     嬌声はうるさい。うるさい。
     私はまた刺した。グチャッ。刺した……。血があふれ、血の跳ねる音が聞こえる。

     どうという音がしてそっちに向くと麻布にくるまれた新参者が麻布を蹴飛ばして剥がしたところだった。
     年長者の男は誰かを捜している様子
    彼は素早く立ち上がる。
    ――泥。私たち、泥?
     奴隷商人に捕まって親方に買われたが彼らに反抗したか、自らの意思でここに来たか、私みたいに来るしかなかったものたち。一攫千金と名誉を夢見て地下世界への旅の準備を調える者たちもいる。ここは訓練所なの。

     なんて度胸なの!彼がどうやったのかなんて私にはわからないけど、彼がいま、剣を持った相手の腕を素手で捩じ伏せたのよ。それから頸骨を2本の腕を使って折って、相手の剣を奪った。
     と、ここで私の体は魔法使いの炎に包まれた。ファイヤー!
     砂で消そうと地面に転がる
    ――消えない!消えない!
     私はあまりの苦痛に悲鳴をあげる先に喉が焼け爛れた。この地獄の体験者の何人かこちらを振り返るのが見えた。
     痛いっッ……水の冷たさを炎の熱と勘違いして危うく溺死するところだった。しかし私は顔を水中に沈めた。練習台にしていた屈強な男が出てくるのが見えたから。
     
     あの年長者の男性が運び込まれた。血塗れだ……。係は彼を水槽に投げ入れるとそそくさと足早に柵の外へ消えた。
    ――泥
    ✒️恐る恐るそっと近づく。怖いから。
     年長者の水槽に近づいて中を覗き見た。
     手のひら、腕、致命傷の腹と切傷だらけだった。
     踵を返して鉄の柵へと向かう。眉尻は哀しみと失望に下がり、奥歯を噛み締めている。
     今日、あと何回死ぬの?
     後方で水を掻く音についで息つぎの音と勢いよくあがる水飛沫の音が聞こえたとき、不思議と口角が弛んだ。微かな喜び。


    私が__と、うさぎ顔の女は困った表情を浮かべて私を見上げた。「なに」とつぶやくように言いながら立ち上がって、拳を握ってグーをつくる。
    ――そう、身構えていてね。だって、私はいまから貴女を殴るの。
     私の背後には__100人あまりの男女が__を磨いている。ここは闘技場ではないわ。迷宮潜りを育む訓練所なの。
     拳を堅くするためにグーをつくった私は、思いきって困った顔に拳を叩きつけた。彼女はとっさに両手の平で顔をかばったものだから、彼女の手の平ごと殴った形になった。
     黒髪の女は、反射的に平手打ちを返した。私の頬に引っ掻き傷がついた。
    ――私は拳で殴ったわよ。なのに貴女は一度きりの平手打ちでいいの?彼女は私の肩越しに嫌なものを見た顔をした。私は、そのときには反射的に往復ビンタを叩きつけていた。勢い余って横ざまに倒れこんだうさぎ顔は
     その男は蜂蜜の匂いをまとっている。なにかがぶつかってきた。先程の年長者だ。
    「来ないで」柔らかな黒髪の女が身をよじり顔を伏せる。
    「あなたは……人を殺したの」彼女は耳を塞いで小刻みに震えている。穴潜りの小さな動物のように。
    「謝るよ「どっか行って!」……わかった。いくよ」
    ――ここでは殺しなんて当たり前のことじゃない。
    「あなたもよ、私のことは放っておいて!」唾の飛沫が飛んだ。

     わたしは壁際まで行き地べたに座る。ここで訓練所をざっくり眺めていました。
     炎に包まれた戦士を僧兵が癒して、__、私の身体を焼いたばかりの魔術師が今度は僧兵に向けて火球を放っていた。僧兵は魔法の盾で弾いていたけれど、召喚者が、自身の頭髪で作り上げた槍で魔術師の身体を貫いた。
     山のような大男がおっきな剣を振り回しているイメージが強かった。アルケミストの薬瓶から刺激臭が漂う。



    真っ暗闇の空間。
     私は息を吹き返した。大丈夫。大きく息を吸って吐いてを繰り返して呼吸を整えるの。2~3回繰り返す。やっと心臓が落ちついたところで。両手を棺の蓋にそえる。大丈夫。押し開けた。
     棺から人がぞろぞろと起きあがる。明るい赤毛の斧使いは目立つ。
     訓練所のグランドにぞろぞろと集まる参加者たちは、皆ぼろぼろで疲れていたのに。呪文の詠唱を聞いて眠りについた直後、地下聖堂に設置された棺の中で目覚めた。棺からでてくる人たちは皆綺麗よ。訓練所に取り残された自分たちを木偶の坊だと表現する者がいた。
     皆が棺からでて、行くべき場所へ行く。地下聖堂を離れて大聖堂を離れて大広間へ向かった。
     私は初夜だから月宮殿の塔に入る前に大広間で適当に部屋をあたえられるはず。


    飲み放題、食べ放題、歌い放題、盗賊が口笛を吹いて曲を締める。

     稀人に『ヴァルハラ』と呼ばれる由縁だね。
     月の12神のお力添えがあってこその宴。
     12月神の使者

     盛大に月の12神を讃える歌を合唱する。

     どうやら、あの赤髪の斧使いはここのムードメーカーみたい。マンモスの牙の杯を持っていて、自分や仲間の自慢話を吹聴してる。

     赤髪といえば……小男はどこだろう?壁に近い場所で刃の手入れをしていた。
     あん喘ぎの女は私よりも小柄で華奢だった。盗賊と一緒らしい。
    顔立ちが困り顔ということらしい。優しい甘さがふくまれていてとてもかわいらしい。魔法使いか僧侶か、錬金術師かもしれない。彼女の顔が覗ける位置に度胸のある男が座っていた。
     
     紙が届いた。これは部屋の地図ね。「吊るされた男」の部屋。
    ――吊るされた男のカード……
     フルーツパイを頬張った。
     お酒を飲めないし、歌も歌えない。だから、早めに部屋に向かうことにした。これは目立つ行為だった。
     そっか、陽気な歌の下に隠されている事実に気づいた。派閥がある。味方と敵がいる。私が練習台にしていた男に耳打ちをしてる者がいる。痩せぎすの僧兵だった。口を一文字に引き結んでむっつりしている様子から根に持つ質らしい。
     怖い。彼らに気を取られて足下を見なかった。誰かの足に躓いて転んだ拍子にテーブルクロスを掴んで思い切り引いた。皿はやかましく割れ神様の恵みのスープはこぼれた。言葉にならない声が口から溢れる。
     割れた皿を片付け、急いで__からタオルを借り、片付けに戻った。
     床を拭きながら、躓いた原因となった足の持ち主に丁寧に謝罪した。男は高い綺麗な、しかしややダミ声で言った。「いい」長い脚を突きだしていたのはとても綺麗な顔立ちをしたドイツ系の男だった。天使の姿をした悪魔という風の。ダガーを腰に差してある。
     やっと片付いた。でも、いまから、謝罪しに行こう。

     派閥がある、か。仲間を見つけないと。
     でも、いまはできないよ。急いで強くならないと。
     月の12神様の__ひとつひとつにお香を置き、青い炎を点してから謝罪の旨を述べた。後ろに数歩踵を返してから振り返ると、私を焼いた妖艶な魔法使いが佇んでいた。しっかり気後れをしてから顔をうつむき部屋を出た。



     吊るされた男?、うーん、うーん。
     螺旋階段を登り続ける。わからない。また降りる。また登る。ちいさな呻き声をあげていた。行き方がわからなかった。

     宴が終ったらしく、ぞろぞろと人が移動する気配がする。
    「おや?、迷子か?」赤髪の小男がぼそりとつぶやいて通りすぎた。
     観念して彼の後を追いかけて捕まえると道を訊ねた。ウォンバットを連想させるお茶目な男の眉があがる。驚いている。艶のある声が響いた。
    「あっ、こっちこっち」引き戸の前に立った。
    「よっしょっと」軽々と体を引き上げた窓辺に立った。
     うそ……うそ……。
    「こっちにおいで」
    「梯子が見えないか?ちょっと顔を突きだして見てみなよ」
     身を乗り出した。梯子を見上げる。小男は上の引き戸から顔を突きだして覗いている。黄色い髪の毛の男も覗いていた。ひょっとしてあのふたりが私のルームメートなの?
    黄色い頭をした男が「逆さ吊りにしないと入れない」と言った。二人が引っ込んだ私は梯子を急いで上がった。引き戸にたどり着いた。ロープなんか持ってない。私は、救出された猫よろしく引き下ろされた。

     彼らは自己紹介をはじめた。ひとりは道化師だったがもうひとりは偽物の道化師だった。

     私も自己紹介を終えたところで、道化師の口元が歪み笑いを噴き出した。小男もおかしそうに笑い声を上げた。

    『恋人』の紋章が目の前の扉に彫られてある。
    「あんたは騙されたんだ。あんたは親切だし、あいつが無職で良かったと思い始めたところだよ。というのも……この先の話が聞きたい?じゃあ、いくらか弾んでもらうよ!」この男性に見覚えがある。はて?――私は銀貨3枚を手わたした。月男は唄った。
    ⚠️歌!!!
    「はーっ、でも、調べてきてあげるから。待ってて」というと、とうもろこし色の道化師は普通に玄関から通路へ飛び出していった。
    ――あんたは騙されたんだよ!!
     小男を見ると椅子に落ち着いて銀のカップで液体を飲んでいた。
    「おや?お手玉を探しているのかい?ちょうど、ここに2つあるよ」露骨に引き、眉を潜めた私の表情に目をとめて「私の悪い冗談だ」と言った。
     そうして、月男は身交わしの上級者であることを思いだした。冷たい染みがひろがった。早く強くならないと……。

     月男が彼女にはどうだろう?という困惑顔を浮かべて部屋に戻った。ランタンを手に持っている。案内してくれる人がいないとたどり着くのは難しい部屋だと言った。私は彼らに改めて感謝の気持ちを述べた。弓使いが言った「それじゃあ、それじゃあ!」

    ⚠️
    『星のカード』の部屋から男が出てきた。複数人の男が囲んでいる。
     月男が口に手を添えて耳打ちした。「彼女は子なしの『苺月』。召喚師は自分の召喚獣を産み落とす」
    「そのため?」軽蔑をこめて口元に手を添える。
    「彼女の部屋は星。星のカードを引いた者は、身ぐるみ剥がされるんだけど最後に自立が約束される」



     ダークゾーンエリアであるゆえに人が寄りつかないという。一寸先闇の空間が広がっていた、うそ……。ランタンの火が消えた。月男が言った「とまって」手に取った。そして明るい小唄を唄いながら歩を進めた。私は気づいた。この通路は掃除されないままだ。小唄はやんだ。
    キィ……キィ……
    「ワっッ!!」びくっ「いま、驚かせようとしたの?」ばんばんっと私の背中を叩く。
    ――キィ…ギィィ……音のほうへ。
     音の下に来た。鉄の扉を押し開けると灯りがもれた。月男は手を離した。
    「この先。もうひとりでも大丈夫だね。それじゃあ僕は帰るよ。失礼するよ」私は感謝の気持ちに二枚の銀貨を手わたした。彼は踵を返し闇に消えていった。闇のなかから小唄が聞こえた。足元をふと見ると、色褪せた髪の毛が落ちていた。急いで鉄の扉を閉じて空嘔した。

    細い階段通路を登った先に部屋と書いてあるのに。

     扉を開けた。誰もいない。窓は大きくプライバシーは守れそうにない。長年積もった塵をはきだすために窓を全開にした。6メートル向かいの塔はのっぽで狭い、こちらとおんなじ造りで丸見えだ。向かいにはふたりの男が窓辺に立っていた。あの年長者だ。
     あちこちはたいて、シーツを広げてはたいた。雑巾できれいに磨いた。
    ――強くなって。仲間を見つけないと。
     後ろから足音が聞こえた。いきなり背中を短剣で横に引き裂かれた。背中を取り押さえられた。足をばたつかせて払い除けようとした。白い仮面を着けた男の腕はびくともしない。私は悲鳴をあげた。男は言った。「奴らは間に合わない」
     掴んでいた手に力が消えた。布擦れの音。バサッという音。ややダミ声のだが、高く綺麗な声が言った。「垂れ込みがあった。吊るされた男を見張れ、という。そいつは俺に銀貨5枚をくれた。多すぎる。なにかあると思えば。」
    「お、お金は足ります?」
    「さしあたり満足だ。まえから、このクズ野郎は消したかった」そう掃き捨てて死体を蹴りあげた。
     梯子をわたる音。窓辺に梯子がかけられていた。向かいの塔の住民が橋をわたってくる。窓を開けてあげる。床に降りた彼は心配顔だった。凛とした舞台俳優といった感じのイタリア系だった。バリトンの声が訊ねた。「なあ、無事か?」
    「あんたがやってくれたのか。助かった。私たちは来たばかりだから、……わからなかった。だから、私からも、礼を言わせてほしい。ありがとう」
    「始末書を提出さなきゃいけねえ。俺は書かない。いいか、誰も、目撃しちゃいねえ」
     凛とした男がうなずく。
    「吊るされた男が休憩したいっつってる。起きろ、クズ野郎」歌うように言い__。
    「手を貸そう」
     ふたりは死体を処理しに行った。
     もうひとりの年長者が来ていた。窓から梯子を撤去している。手伝おうとしたがあまりの手際のよさにしり込みする。畳んだ梯子を壁にかける。男は床に目をとめて、床についた血を拭きはじめた。
    「いいんだ……」「君は着替え……そうか……替えがない、か」シーツを几帳面に正確に切り、__に巻きつけた。
    「これは__という__でね。まだ、衣類が__頃に__」

     綺麗になった床に目をとめて、また床を拭きはじめた。神経質……。彼は、断りを嫌う質に思えて、なにも言えなくなったし、手伝いたくて桶の水を交換した。
    「ありがとう」

     舞台俳優風の男が戻っていた。ひとつ頷いて訊ねた。「君の守護神を知りたい。武器が必要だろう。剣か、杖か」
    「狼月様です」※
     床磨きの男が手を止めた。「狼月……ともすれば君は、満月の日に、獣の力を授かるわけだ」
    雑巾を桶に入れる。
    「ええ、はい」
    「私は蝶鮫……以前は、__にいた。お前みたいな(友人を指して)悪人を捕まえる仕事をしてた……」影のある顔をのぞかせる。
    「悪人…………悪と善は__だよ。__」
    「例えば、君たちはさっきの男を悪人と見る。だが、彼を雇った男からすれば君のほうが悪人で、彼は手前の代わりに汚れ仕事を受けた善人だ。そんなことに振り回される__。感情が__だから、気にしないことにしないか?」
    「これから俺たちは人を殺すのだから」

    「はは……まったく。面白いよ」低いバリトン。
    「面白いと言えば君、『吊るされた男』の恩恵を知っているか?」
    「神は部屋にも影響を能えてくださるのですね?」
    「『吊るされた男』の意味は『探求者』銘は『__男、他者から手助けを借りる』」

    「月は君を見ている」








    ※蝶鮫月様は諜報員気質の人間を好み、寒月様、別名を死の月様は暗殺者気質の人間を好む。狼月様ははみ出し者を好み、獣の力を能えてくださる。

    ふたりは私を心配して「吊るされた男」に一泊した。
    ソファーに座り、寝息をたてている。
     私はといえばベッドの真ん中で横たわりながら、眠れずにいた。5月の満月であられる花月様を見上げながらアザラシが人間に変身を解く姿なんかを想像して時間を潰した。
     花月様は変性の神であられる。でも、アルケミストが訓練生のなかにいたかしら?透明人間となった姿を思い描いて棺に入るところまで想像した。人目を避ける姿が身交わしのあの方を連想させる。
     あの月の方は、また私を助けてくれた。何か御礼の品を持っていこう。感謝しきれない。
     ふたりは道化師だった。という真実を思いだしてあの部屋の名前を知りたくなった。
     名前といえば……私は目の前の御二人方の名前をまだ知らない。知らなくていいのかもしれない。


    肩をそっと叩かれて目を開ける。
    「これを」舞台俳優風の男が言った。少女のワードローブにまともな服が一着掛けられた。「扉の前にいるよ」言葉の意味することは、送ってくれる。もうひとりの姿はなかった。彼のあの目、子供を見る親の目よね。
     着替えて通路に出た。


     年長者が口を開いた。子供が親元を離れ寮で暮らすことを「非常に残酷なこと」だという。私に親は……

    「私は、アレクサンダー……ああ、アレックスでいいよ」
    「『月』に__」
    「私は、その、名前を与えてもらえなくって」
     ショックを受けた人間の顔だ。
    「私の両親は大勢います。12人おられます。月神様です」アレックスは口元を引き伸ばした。笑みをつくってはなかった。苦しそうだ。幸せとは程遠い場所にいると悲観しているような。




    「私はこう思う。寮生活をしながら成長するなんて、すごく残酷なことだとね」

    「子供には親が必要だ。だから私は」

    「ふっ……そうだな。――私は、面倒をみたいんだな。護りたい……」声がかすれている。
     言葉を失った。
    「その、おっしゃる通りです。私には、あなたの助けが必要なのかも。といいますのも――」
    「ああ……彼から話は聞いている」

     売店を眺めて月男に贈る感謝の品はなにか思いつかないか考えていた。どのみち、買えそうにない。本人に訊ねてみよう。


     耳が彼の声を拾った。
    「銀貨をガッツリ稼がせてもらったよ!」
    「ねえ、ねえ、その子あたしよりかわいい?」
    「ねえ、僕に彼女のことを悪く言わせないで?君より可愛いんだ!。人を卑下したところで君はそれ以上可愛くなりっこないよ!」
    「あら、なに改心してんのよっ。__くせに。でも、いいの。彼女は狼月に選ばれたって知ってるの。__に聞いた。獣人って息がとぉうっても臭いのよ?__の口臭に空嘔するあんたがキスに我慢できる?耳から毛が生えてくるっていうし、あんたの服を毛繕いするのが今から楽しみなのよね!あはは!」彼は菓子の入った紙袋で娘のしりをバシッと叩いて逃げるように消えていった。

     手を口元に持っていき、息を吐いて嗅いだ。
    「気にすることじゃない」アレックス。
    「そうね」なんだかんだいってふたりは仲良しなのだろうし。なぜだか、今日をダメにしてしまった気になった。
     
    「その貴方の相棒の名前はご存知で?」
    「いや、偽名かもしれない。わからないんだ……信用の問題、とだけ言っておこう」ふたりが抱える確執が見えた。
    「……チャールズ」
    「ありがとう。アレックス」

     調子のよいでかい声が聞こえた。明るい赤毛の斧使いだ。「俺は毛むくじゃらの熊の__」熊の女獣人と寝たとかいう自慢話だった。

    ――護りたい。

     視界の隅でアレックスが懐から小瓶を取りだして、錠剤を手の平に落として口に放り込んだ。飲み下す。アルケミストから買ったのだろうか?――と、アレックスの隣にチャールズが座った。彼の耳にやっと届くくらいの小さな囁きだった。私の耳にはこそこそと聞こえた。





    12月神に使えるそれぞれの使者12名が呪文の歌を歌い訓練生を浄める。狼月の使者の顔立ちは獅子っぽい。顔の作りが変わってしまうのだろうか?アザラシっぽい顔とは?一番楽しい想像ということであって、私はアザラシになりたいわけではないよ。花月の使者は意外にも華やかとは無縁の寡黙な男性だった。
     次は報告。
     北部人の雪月の使者が前に出て鐘をけたたましく鳴らした。私の練習台の男に近づき、いきなり首を裂いた。

    寒月の使者は冷たい目で事の成り行きを見守った。神様にはすべてお見通しということだ。雪月と寒月の間でやりとりがあったこと間違いなし。寒月『私の生徒は仕事を受けたまでです。__』
     説明なし。月男の視線が背中に刺さった。そんな気がするだけなのだろう。料理が運ばれた。
     先ずはフルーツを手に取り齧った。そしてアップルパイ、チーズパイ、そしてフルーツ。
     先ず、アレックスとチャールズがなにかと振り向いた。濃いフェロモンをだしている眼鏡をかけた妖艶な女が口をきいた。

    「お嬢さん、以前、闘牛希望の者がいました。牛になりたいはずのその者は、クルミのサラダ、クルミパイ、クルミばかりを食べた。やがて__の日がやってきて、狼月様がその者に能えた獣の力はリスだった」
    「その者は戦闘に不利な長くて太い尾を胴体から切り離してしまったわ」
    「貴女は何者になりたいのです」
    「果物を好んで食べる生き物は何かご存知?」
    「猿だなんて、貴女には不釣り合いではない?」
     目が肉料理を探した。ミートパイを掴んで頬張った。上目遣いで女を見る。女は微笑んで去っていった。数メートルはあるかという髪の持ち主だ。わざわざ忠告を。
    「猿だなんて……嫌」
    「猿……猿の獣人は戦闘においては、頼もしい仲間になりえるね。彼らの強靭な腕力には、誰も人間である以上敵わないだろうから……。オランウータンの腕力は人の骨を砕く。噛む力だって相当だ」
    「それに頭の天辺から尾の先までモフモフしていてキュートだろう?」どうやら、チャールズは猿所望らしい。彼にモフモフと可愛がられるのであれば猿になるのも悪くはないのかもしれない。
    「可愛がってくれる?例え私がゴリラになっても?」彼はなんとも言えぬしかし曖昧な顔を浮かべている。
    「ハルク……」ぼそりと言った。アレックスがチャールズを見た。


    訓練所に行く前にお祈りをしに出かけた。アレックスは自室に武具を取りに戻った。アレックスに子守りを頼まれたチャールズが出入口で私を見まもっている。暇そうに柱を眺めていた。
    「武器を持ってる?」私は斧使いからもらった短剣を手に取った。
    「いいな、これ……」
    「赤毛の斧使いからもらったの」
    「アンテナというんだ」



    「これをあんたに」
    「キャンドルスティック」

    「どうしたの?これ」
     彼は渋面をつくってはにかんだ。

    「盗んだの?誰から盗んだの?」
    「寒月なんでしょう?海狸月じゃなくて」海狸月様はスリ人の月神様であられる。
    「海狸月が守護神じゃないからという理由ひとつで、スリや窃盗といった行動を起こせなくなるわけじゃないよ。鍛練次第じゃぁ海狸月の上をいくことも可能だと俺は思ってる」

    ✒️チャールズの武器は盗品で間違いない。

    「ほら」
    「ありがとう!」私の顔は熱をおびて真っ赤だったに違いなかった。

    ✒️実のところは、自分で使う気だった。

    「あ……、あの、貴方のお名前を教えていてだきたくて」
    「チャールズ・ヴェスパシアン・ヘイル」
    「ありがとう、チャールズさん」
     顎をしゃくって訊ねた。「君の名前は?」

    「あ――名前……。街の人たちは私のことをネッフィーと呼びました。意味はネームレス、フェイスレス――」次の呼び名がでかかり口をつぐんだ。
    「彼らは私のことをネッフとかネッフィーと呼びました。言うまでもなくこのあだ名は大嫌いです」
     チャールズは彼女の全身を値踏みするような目でじっくりと見た。
     小柄で華奢な割には手足が長い。顔については細すぎるという印象はなく、ただ顎の先が細い。人の目を引く可愛い目は大きく、鼻のほうは小さい。背中から腰にかけカーブを描きしりは突きでている。そのしりはチャールズに蜂を連想させはしたが彼女に「メリッサ」という名前は似合わない。頭髪は長くて白い癖毛。肌は透き通る白さでピンク色。唇は赤い。白い睫毛が縁取る目はピンク。そう、彼女はアルビノだ。「ミア」は私のもの。「エフィ」は言葉遣いが丁寧ということだが退屈だった。「ミア」はどことなく気に入った。君しか持ち合わせていないもの。

    「ミア?」チャールズが囁いた。
    「……ミア?」私の口は三角に。目をしば叩かせた。チャールズが気恥ずかしそうにかぶりを振った。「なんでもないよ……」困惑顔を浮かべている。

     私はキャンドルスティックを腰に下げた。と、アレックスの姿を目に止めた。腰になにか下げている。
     チャールズはひとつ頷いて、歩いていった。振り返って私を見たあと足早に歩いて視界から消えた。

    ――ミア?

     私は幸福を噛みしめていた。彼が立っていた空間を見て微笑んでいる。
     
    「行こう。準備は――」アレックスは頷いた。


     

    月宮殿の水瓶を浴び、地下聖堂墓地の棺に体を横たえた。蓋が石同士を擦る音をたて閉じられた。呪文を聞いてると意識がもうろうとしてきて、とても熱くなった。

     訓練所のグラウンドに立っていた。隣人や周りを見ると、立ったままの状態で眠っているというよりは意識がないと言ったほうがたぶんにあってる。
     キャンドルスティックと短剣の位置を触って確かめる。扱い方はまだ学んでない。それを言ったらアレックスもチャールズだって知らない。チャールズは体術こそ優れてはいたが剣術に関してはまるっきし素人に違いない。
     ここは訓練所であってコロッセオじゃない。だから、みんなががみんなのための練習台になる。私はこのフレーズが気に入った。
     でも、もし私が友達の胸に剣を突き立てたら、友達に嫌われる。
    ――派閥。友達の敵は、私の敵ね。年長者と道化者の敵ってどれ?よく観察しておかなきゃ。

     ふと訓練所の外を見ると、売店の娘が来ていた。視線の先には思いびとでもいるんだろう。
     私はチャールズに思いを寄せた。偽名じゃない。でも、思いを寄せた結果、彼が所望する猿の力を授かってしまったら?――私は新しい父親アレックスに思いを寄せた。
     アレックスはどこにいる?ほとんどの者は目覚めていた。準備運動をしている者、空嘔する者、くっちゃべる者……他の者は熟練者の風格を漂わせていた。ただ、見かけに騙されてはいけない。

     周りが動き始めた。赤髪の弓使いは壁際に寄りかかり物色している。苺月様の女はもう男の上に乗って腰をまわしている。
     チャールズは無視を決め込んだみたいに背を向けていた。
    ――信用の問題、と言っておこう。

     動かない者がふたりいた。私の練習台とその共謀者が立っている。痩せぎすの僧兵が背中に隠れながら呪文を唱えている。気味が悪かった。彼らに気をとられていると、背後に人の気配がした。振り向くと、アレックスが立っていた。
    「真ん中は目立つ、こっちへ」
     赤髪の弓使いのほうのやや端まで来た。目があった。彼は、何を考えているかわからない類いの人間だった。――人を欺く道化者。裏切らないという保証はない。

     アレックスの息を呑む音を聞いた。
    ――ブオオオオオォォォォオオ!角笛が鳴らされた。鬨の声があがり剣が打ち鳴らされた。剣が盾や鎧にぶつかる音。呻き声。ガシャンッドダンッ私はキャンドルスティックを両手に握った。
     弓矢の飛んでくる恐ろしい音。弓矢は私に刺さらなかった。私は過呼吸になっていた。呼吸を抑えることを意識しながら周りにまるで車輪のように目を配った。
     遠くでチャールズが赤い花を咲かせて倒れた。足をばたつかせた後に、痙攣する姿を凝視した。共闘者が死ぬのを見るのは嫌だ。それは血の気が引く。ショックで体が硬直する。頬にたくさんの涙が転がって落ちた。
     ところが、数秒もすると体の硬直が解けて、自分でもビックリすることをした。
     私はアレックスを斬りつけた。アレックスは驚きはしたものの事態を飲み込んだ。5秒後に胸から鮮血が溢れてた。彼を驚かせただけ。致命傷ではないから、彼はしっかりと闘える。彼は口を開きかけた。
    「素早く構えないと、刺す!」私はそう言って宣言通りのことをした。アレックスは身を交わした。ただ交わしただけではなかった。警棒の先は私の首に突きつけられていた。低いバリトンの声が言った。「私に剣を向けるな……」
     このとき、アレックスは強者だと思った。私の推測はまもなく証明された。力任せに振り下ろされた剣を警棒で受け流し、相手の顎を素手で頭が反り返るほど打ちつけた。腕を取っていてはかば振り回すようにして倒して腕を折った。そして小瓶を取り出して中身を顔にかけた。嫌な音を立てて溶けていった。相手の体は指の先まで茹でられたみたいに真っ赤だった。
    でも、それはアルケミストの業。
    ――海狸月が守護神ではないからという理由で、スリや窃盗といった行動を起こせなくなるわけじゃない。
     私は彼を見上げて言った。「わかった。2度としない」警戒を怠らなかったはずのアレックスが呻き声をあげて倒れた。彼が倒れる前に呪文を聞いたような気がした。私は目まぐるしくあたりを見回して僧兵を探した。
     こちらに向かって突進してくるふたりの屈強な男は見るからにゾンビだった。背後に痩せぎすの僧兵が歩いている。恐ろしい。
     私は赤髪の弓使いを探した。
     弓使いのほうに走って逃げた。「シセロ!!助けてっッ!!」彼は弓を引き死体を射た。頭を貫いた弓矢は脳に達しているはずだが、あれはゾンビだ。彼がまた弓を引く、今度は目を射ぬいた。一瞬だけ動きが鈍くなった。「ヘンッ」という赤髪の罵りを聞いた。私は壁にぶつかるようにして逃げ込んだ。ビシュンッ。弓が振動する音。そして死者の両目を潰した。
     でも、まだ向こうから僧兵は歩いてくるし、ゾンビが迫ってきていて、__と距離を縮めてきいる。――と、私には別の壁が迫ってきた。魔法使いの炎だ。――なんて憎らしい!!
     今度は炎に包まれなかった。キャンドルスティックが灯されて炎の剣に姿を変えた。赤髪の弓使いは弓を背中にしまい、黒檀のダガーを握って構えた。なんて頼りになる人なんだろう!

     僧兵は呪文を唱えた。アレックスが倒れる前に聞いた呪文。命を奪う魔法。あればっかりは、防ぐ手段がない。どうにもならない。しかし、僧兵は頭を傾げている。同じ呪文を繰り返す。赤髪の弓使いは突然ぶちキレて僧兵に向かって突進していった。私は彼の戦いの成り行きを見守ることはできなかった。練習台のゾンビが目の前に迫っていた。

     先ず突進を交わすこと。相手が前のめりに倒れ込んでくれたらよかった。そうしたら剣を突き刺せたのに。だが、そうしてくれずに剣を抜いてくれそうだったから、突進を交わしたあと相手に突進して男だった者の振り向き様にキャンドルスティックを突き立てた。硬い感触があったが、脇腹に深々と刺さった。傷口から炎が噴き出した。ゆっくりと膝をついてそのまま動かなくなった。
     赤髪の弓使いの足元には鼻と口から血を流している、くずおれた僧兵がいた。見物だったに違いなかった。両目を潰されたゾンビはまだノロノロと歩いていた。気味悪く首を振り。

     駆けつける音が聞こえた。アレックスだった。「何が起こった?」私はいま起こったことを説明した。アレックスは僧兵をひと睨みした。
     ドイツ系の寒月の剣がゾンビの首を跳ねた。よほど嫌いらしい。きびきびした動きでどこか剣のあるところへ去った。
     


     数メートルはあるかという髪の毛の持ち主は召喚師だった。自分の髪の毛を自在に召喚して戦う。いまは髪を相手の首に巻きつけて絞め殺すというところだ。妖艶な女の目がこちらに向けられた。ウィンクひとつして敵に向き合った。と、ここで魔法使いの炎が彼女の髪を焼いた。彼女は自分の髪を切り捨て延焼を防いだ。ばらばらと黒髪が流れた。女同士の戦い。

     魔法使いの足元から髪の触手がのびて女の脚に絡みつくのを先駆けに、あっという間に体を太い触手がきつく締めげた。あまりに力が強いため、布は痛み、襤褸と化した。骨が砕ける音がした。巨人の手に掴まれたも同然だった。
     女は血を吐きながらも口を動かしていた。召喚師の様子がおかしかった。電流が駆け巡っているみたいに体を仰け反らした。発火して、髪が焼ける臭いが充満した。
     召喚師はとうに力尽きている。魔法使いが力尽きて倒れたが意識はまだあったがために、殺しの恐怖に興奮しきって、ぶっこみたくなっている男に犯される末路にあるようだ。大災害直後や戦場ではこういった醜い出来事が起きてしまう。私が倒れたとき、私は純潔さを守れただろうか?アレックスが私の向きを半ば強引に変えた。

     私は月男を徹底して避けていた。視野にそれらしき者が映ると見ないよう努めた。
     早くも召喚師が水槽からでてきたときには、魔法使いは餓えた男たちに囲まれていた。死んだほうがましと言わんばかりに魔法使いが自分を炎で包んだ。召喚師が男たちを髪の毛のジャベリンで串刺しにした。

     一体、彼は何度死んだんだろう?また鉄の柵からチャールズか入ってきた。胸が締め付けられた。私はチャールズのほうへ走った。これは、アレックスの言った通り、かなり危険な行動だった。
     後頭部に衝撃を受けて私の視界に笑う僧兵の顔が入ったのだから。あっという間に地面に叩きつけられていたの。歪んだ笑みを浮かべただろう僧兵がまたメイスを振り上げる気配がした、神さ――


     チャールズを真似て水槽から勢いよく這いでた私は鉄の柵へ走った。チャールズはまだあの辺にいるかもしれない。アレックスが僧兵を凝らしめているかも。
     手が掴まれた。力任せに引かれた。振り返えらされた僧兵だった。イヤだ!身投げの穴に突き落とされる!そう思った。
     壁に叩きつけられた。死の恐怖に喘ぐばかりで、足に力がはいらない。
     水槽に引き戻され、頭を水中に押し入れた。私は手足をばたつかせて必死に抵抗したわ。引き剥がそうともがいている間にも、肺に水が。ただだた辛くて。
     遠くで鉄の柵を激しく揺らす音が聞こえる?アレックス……。

    「忌々しいっッ!!」僧兵は首にボロ布が掛けられて絞められてもがいた。魔法使いだった。
    あまりの勢いに首の骨がポキリと折れた。
     そうして彼女は僧兵を身投げの穴に投げ棄てた。私を助け起こすと冷たい声で言った。「彼は死にました。もう二度と貴女を困らせることはありません」私に目をとめた。彼女は僧兵の呪文を唱えた。私は肺の傷は癒えたかもしれないけど、すべての水を嘔吐した。
     感謝の言葉を述べた。
    「いいえ、私は貴女を救えなかった。だから貴女は醜い男を見るはめになった……」そう言うと鉄の柵へ向かった。


    鉄の柵の前でアレックスが待っていた。彼は私を抱き止めた。ふたりはしばらくそうしていた。また殺られたの!?チャールズの死体を運ぶ赤帽子をまた見た。チャールズが鉄の柵からでてきたところで私は彼に抱きついた。本当のところは寒月ではないんじゃないか?いつしかそう疑うようになっていた。私は彼の腕を離さなかったために3人は行動をともにした。

     私は経緯をふたりに話した。アレックスは動揺していた。打ちのめされていた。チャールズは、石を見るようななんとも不気味な表情を浮かべていた。その顔を見て、私は再び裏切りに目覚めた。思いついたように短剣を手に持ちチャールズに斬りつけた。また、血を損なう。胸がちくりと痛んだ。短剣を構えて言った。「素早く武器を取らないと刺す!」短剣を突き出したはずの腕は彼に取られていた。私はなぜか地面に片膝をついて、腕を捻られている。彼は弱者なんかじゃなかった。「俺に剣を向けるな……」――デジャ・ビュ。
     屈強な黒人の戦士がチャールズに迫っていた。盾でチャールズを押し退ける、剣を横に振るった。彼はふざけて水の中に入ったかのように体を下げて避けた。ただ避けただけじゃない。相手の脚を蹴り、自分の脚で相手を挟むと腕で脚をバキリと折った。素早く立ちあがり、思い切り膝を上げ首を狙って踏みつけた。
    そうして死んだ相手から剣を奪った。私は咄嗟に叫んだ。「いますぐ剣を棄てて!」「マゾなの?!」

    剣を突き立ててやろうと思っていた相手に命を救われるときもある。驚異は取り除かれた。

     私には別の驚異。チャールズ・ヘイルポンコツ問題が残っている。彼の体術は素晴らしい。だけどいったん剣を持つと底辺のポンコツに成り下がる。私は続けて叫んだ。「だから、その剣をあきらめて!」
    「素手で闘えって?」彼は眉を潜めた。
     アレックスがため息をついた。「ここは訓練所だから、彼の好きにさせよう……」
    「わかった」私はそう言ってキャンドルスティックを手にチャールズに斬りかかろうと構えた。彼は相手にする価値もないという風に、キャンドルスティックを糸も簡単に叩いて払いのけた。私の顔がよほどだったのだろう。笑いで口許がゆがんでいた。
    ――なぜ死んじゃうの?疑問は晴れなかった。
     不満だった。剣戟の激しいあちらに行こうとする彼の腕を引いた。
    「また死んだら許さない」
    「お願いだから、死なないで!」悲願する。周囲の男が笑った。彼が困惑の表情を浮かべた。「うん……」ただそう言って、あちらに行った。どうせ死ぬくせに……。
     売店の娘の悲鳴がつんざいた。私の血の気が引いた。意味することはひとつしかない。私は勢いよく彼女に振り返り、彼女の視線を追った。屈強なノルドが剣に月男を引っ掛けて「俺が仕留めたぞ」と怒鳴った。悦に入って首を捻り千切った。「お前を殺してやるっッ!」売店の娘が怒鳴るかと思ったが、彼女は膝を地面につけうちひしがれていた。失禁してる。
     私の的は、あの男に定まった。アレックスが私の肩を掴んで引いた。「待て、気持ちはわかる。……だけど――」彼の声は聞こえない。
    なぜなら、月男の頭をベルトに引っ掛けたから。私は怒りに任せて走った。ドワーフ風のノルドは横に張り出していて丸っこい。
     結果なんて見えていないのは私ひとりだけだった。ドワマルは盾を構えて衝撃に備えた。――ドカンッ
     彼の盾にはトゲがついていた。私は刺さって身動きがとれなくなっていた。キャンドルスティックは兜に叩きつけたかもしれないが。ドワマルは無事だ。ドワマルは盾をバーベルを持ってすることのように腕を上げて下ろしてを繰り返した。まだ周りが見える。手を止めた困惑する赤髪の弓使いと対戦相手の赤髪に敬意を払い成り行きを見守る槍使い(恒例の様子)、口を抑えるアレックス、チャールズは見つからなかった。
     私を覗こうとした瞬間に隠し持っていた短剣で目を貫いた。2度。ドワマルは悲鳴をあげて盾を激しく振った。私の体はトゲから離れ地面に落ちた。まだ目が見える。アレックスがドワマルの首をシュッシュッと斬りつけた。月男の首を男の腰から切り離し、月男の遺体の切断面に合わせるように置いた。すぐさま__の者が二人を鉄の柵の中へ運んでいった。
     私には、まだ意識があったし、目も見えた。アレックスが側についてくれた。ドワマルが鉄の柵から出てきて、剣戟激戦区へと足を運ばせる。月男がぼうっとした様子で首をさすりながらでてきた。こちらを凝視してる。

    「なぁ、楽にしてやらねぇか……?」ドイツ系の寒月が近づいてきてそっと言った。アレックスは非難の目を向けた。寒月は顎をあげて口をしぃーと歪めて言った。「お優しいこった」
     アレックスは私に背を向けて、寒月は素早く目配せをした。寒月は私の側にしゃがむと私の額をそっと撫でた。「俺を見ろ。俺の名前はカール・タナー――」


     鉄の柵を閉めてその側で私はチャールズを探した。彼は剣戟の激戦区にいた。――なぜ?
     私の目の前に毛布が投げ込まれた。中から転げ出たのは黒髪の私より小ぶりの女だった。
     忍者。そんな職業が似合いそうな東洋人みたいな女はすかさず変わった足裁きでくるっと回転しながら周囲の状況を把握した。そして、迷うことなく剣戟の激戦区へ走った。――なぜ?一体どうして?凄腕なんだろうか。私はノルドの肩や頭を踏み台にして跳び跳ねながら手裏剣を繰り出す彼女を想像した。だけど、彼女が身につけていたのは双剣と弓だった。チャールズがどきりとして勢いよく振り返った。第六感というやつかな?彼女はチャールズではなく相手の男の首を跳ねた。チャールズが後ずさる。彼女は彼を見た。チャールズは山で熊と鉢合わせしたひとみたいだった。目をあわせてゆっくり後ずさるひと。ただ相手は小熊サイズだ。彼女は構わず弓を構え射た。早業だった。弓矢はチャールズの後ろに迫った男の口を貫いた。
     と、ここで角笛が鳴った。彼は私の願いを聞き入れた。

     チャールズは、振り返って私たちのもとへ歩み寄った。私は彼に抱きついた。「よかった!」彼が切り返した。「まったくよろしくないだろう。私は、アレックスのアドバイスをしゃんと守るようにと言ったのに」「君は……」「君は私を困らせた」私はうつむいた。



    大広間での宴の時間。今日は3人減って、1人増えた。
     忍者は孤独を好む質らしい。チャールズは、例の女の子の表情を見ることのできる席へ腰をおろした。
     私はシセロにお礼の旨を述べて銀貨を手わたした。そしてドイツ系寒月に感謝の言葉を述べて銀貨を手わたした。「だからあんたを気に入ってる」と彼は言った。
     席に戻る途中で月男が前に躍りでた。話をしたいから一緒にどうかと誘ってきた。私ははいと答え、ミートパイや仔羊のステーキを自分の皿に取り分けて、周りから離れた席についた。
     彼とはいろんなおしゃべりをした。
     獣の力のことを、思いきって売店の娘のことを訊ねた。「つき合ってる女の子はいる?」
     彼は言葉を濁した。「売店の子は?」
    「昔馴染みだからちょっと、お互いに愛着があるってだけだよ」うつむいた。「僕は恋がしたいんだ。あれはムリ。あんなヤマネコ絶対」
    「あなたのことを好きみたいだった。私を卑下してたもの」
    「ああやって、相手のまわりにトゲを撒いて刺激してるんだ。あの子は君のことを悪く言うけど、悪気はなくって」肩をすくめた。
    「僕たちは別に嫌われたっていいよ……その」
    「目の前にいる女の子が好き。うーん、うーん、好きなんだけど」彼は酒をあおいだ。すると噎せた拍子に喉に酒が詰まった。ガプッ、酒で流そうと思って酒を飲んだ。すると、余計に詰まった。彼はあわてはじめた。私は桶代わりにスープの皿を置き、背中を叩いた。ゴプッ、コポッ――彼の喉から水が跳ね回る音が聞こえた。なぜでないのだろう?「吐いて!胃のなかのものを!」酒は出ない。いよいよ苦しい。

    「丸顔の間抜け!」誰かが言った。確かに間抜けだわよ、これは。

    「ねえ、ちょっと、いい?」忍者が背後につき彼の鳩尾に両手を置いて胃をくっと押した。
    ブエエエェェーしばらくの嘔吐。空嘔。
    「よし、オーケー」忍者は自分の席に戻った。「ありがとう!」彼は言って皿の桶を押し退けた。

    「彼女、凄腕よ。だから次は掴まらないで」
    「僕からも、言わせてもらえば、僕のために死なないで」噎せた。「先ず、君とデートしたい。キスをして。またキスをする」

     



    誰も使っていないという部屋『塔』に入った。
    絵柄は先端が壊れた塔。
    「ミアよ。」
    「ミア?かわいい。誰からもらったの?」
    「友達」
    「僕らのショートケーキ。きみも座って」
     素敵!ベッドのことね。
     私は唇を重ねた。より深く。息を弾ませながら見つめあう。彼は私の白い髪をかき撫でながら私の赤い唇に自分の唇を強く押しつけた。むさぼるように。「君の髪のほうが白いね……」
    「ケーキみたいでしょう?」
    「ね、痛くしないで?」彼の肌に手をすべらせて下腹部を探った。「痛くしないよ。決して」彼はサラシを捲っていた。サラシが床に落ちて豊満な胸が露になった。とってもやわらかさそう。手のひらが触れる、やわらかい。もっと押しこむと指がうもれた。
     胸にぱくっとキスを落とす。彼のは温かくって気持ちいい。ぱくっ。
     私は脚を彼の肩に乗せた。私の隠し持っているペロペロキャンディーを見せてあげた。彼の口はキャンディーをぺろぺろと。気持ちがいいから声をあげている。すると不思議でもっと気持ちよくなってきてカップに紅茶を注ぎたくなったティーポットよろしくお湯が、お湯が。彼は例えるなら、遠出好きなスプーンかな。――でちゃう。
     彼のそれが中にはいったとき、私は「私のお月様」とささやいた。



    私はハンマーガール。人の部屋で勝手に営むふたりの邪魔をして「ちょっと!あんたたち、そこでなにしてんの?ここは私の部屋よ?」と言ってやりたかった。そしてケツを叩くなり蹴るとかして
    「ちょっと!!」「シーツを駄目にしないで!ソファーも駄目!!」と言ってシーツをひっぺ剥がしにかかりたかった。
     それなのに、私は自分の部屋の外のドアに寄りかかってふたりをぶつのを待ってる。「あんたたち、よそでやんなさいよ?」と思いながら。かぶりを振った。私はいよいよ退屈に耐えられなくなって探索をはじめた。

    見物やぐらまで階段を上がってみた。花月様の満月。私の守護神が街を照らしている。
     ここからじゃ双子の塔が邪魔で端のほうしか見えないけど訓練所が見える。私のもうひとつの体は雨に打たれようが嵐に倒されようがきっとあそこに突っ立てるんだろうな。屋根くらいつけてくれたっていいじゃない。
     街はラメをまぶしたようだった。機械とは無縁のおとぎの国。なんでもあり。魔法、妖精、獣人。神様。まったく、ふざけないで。
     誰か私に銃と弾薬、爆弾を頂戴。こんな世界ぶち壊して夢だと証明してあげるから。そうよ。私がベッドから目覚める手助けをして頂戴。――だけど、私だけが迷子になっているわけじゃなさそう。あのふたりは違った。明らかにこっち側の人間だった。鉄と硝煙の。


    まったく。私は一体なにをしているの?月なんか眺めちゃって。月神です?なんでよ?普通、太陽を崇めるんじゃないの?

    私は地面に座った。目をつむり、眠った。厳密には眠ったふりをした、か。じっとなんかしていられない。


    くそったれ。ドアを蹴破ってやる。爆竹でもあれば脅かしてあげるのに。

     破壊力のあるあん喘ぎが聞こえてきた。まだまだやる気らしい。我慢ならない。今度は階段を降りた。決めた。こんばんはここに戻らない。どこかで爆竹を手にいれたら戻るかも。
     双子の塔から窓を見えないかしら?

     双子の塔の引き戸を開けた。見えた!あいつら!弓を
    下から男の声がした。
    「なにをしてる?」
    「悩まなくたっていいことの自己処理。鳥がうるさいのよ」男は梯子を外した。「ちょっと!なにするの?」
    「弓を」命令口調だ。仕方ない。弓を投げた。
    「梯子を」
    「時代は?」
    「たぶんあんたと同じ」「ね、梯子!」もう1人の男が来ていた。「ちょっと、そこのあんた!借りを返してもらえない?この男をなんとかして。梯子をかけてもらえたらありがたいんだけど」
    「こいつはゴーストだ」
    「え?なにを言ってるのかわかんない」
    男は頷いた。「__」「私はアレクサンダー・マホーン。元連邦捜査官だ。お前は第一級殺人を起こしたよな。こんな形でお前を捕まえる日がくるなんて」

    「それ本気で言ってないわよね?オズの国ってアメリカにあったっけ?」

    「それで?、あんたはなによ?国際警察?」

    「リチャード・ローガン」

    「ふん、嘘よね?」
    「……へぇ、あんたがそう」
    「いいわ。認める。私はゴースト。本名なんか言わないから」
    アレックスは梯子を掛けた。「ひとつ忠告しておこう。訓練所の外では誰も殺すな。神の制裁を受ける」
    「本当だ……」
    ゴーストは勢いよく梯子を降りた。アレックスを勢いよく蹴飛ばした。アレックスの肩に跳び移り脚で締めて彼の首を人質に取った。
    「リチャード、床に手をついて!、そう、頭をついて、いいわね、」いつの間にかアレックスの手を紐でくくった。リチャードの手も紐でくくる。「それで、あんたたちの部屋はどこ?」




    アレックスとチャールズは目配せした。自分たちのシングルベッドを合わせて作ったダブルベッドの上でゴーストが大の字になって寝ている。キジのように鳴くけたたましい鳥によほど頭を悩まされていたのだろう。チャールズは紐を解いており、アレックスの紐を切っていた。「とんだ暴れ馬だ」
     下の層物置部屋におりて__の部屋のベッドを借りる。あんな危険因子の側では眠れない。



    「見たか、あの弓。錬金術師たる由縁だな」

    「稀代の天才だ。武器、衣服、乗り物まで、身のまわりのものを自力で造るんだ」『錬金術師』とはあるゲームタイトルが由縁。

    「窃盗からはじめるんだろ。彼女は、分解して勉強をして模範するだけじゃ__だから。鉄塊集めからはじめると」

    「そうしてかき集めた道具を何に使ったか。知ってるか?」アレックス
    「人助けか?」
    「_州をまたいで連続殺人事件を起こした」
    「使われた銃弾は__。たったひとつだけ_。彼女の部屋から押収した資料はすべて被害者の情報だった。ミリシアの幹部だったんだ。大量殺人を計画してた。大勢の人間、妻、子供が命を落としただろう」
    「そういうやつらなんだ。白人__説うくせに多くの同胞を傷つける。犠牲は__につくものだと言ってね。過去に受け持ったクライアントの何人かが殺されたな」
    「それから、まもなく新しい被害者がでた。次から次へと、名だたるミリシア代表者たちだった」
    「わからなくなるときがある。躍起になっていたのに……そのときばかりは殺人者に感謝した」

    「あんた、子供いないだろ」
    「あんたの子供は、息子さんか?それとも娘さん?」
    「息子が。名前は__。まだ__歳だった」
    「お前みたいな人間に……殺された」強大な闇に振り回されて、幸せには程遠い場所にいると感じるときがある。そんなときに、寄り添ってくれる息子が、私が犯してしまった罪の慰めになったものだ。

    「……言葉がでないよ。」

    「ふん、わかりっこないさ……俺の気持ちなんかわからない」



    チャールズの心は磨り減った。最寄りの教会の椅子に横たわり眠った。



    私のお月様とお茶会を楽しんだあと別れた。最寄りの教会から聞き覚えのある寝息が聞こえた。チャールズだった。
    自室に戻った後でふと窓を見るとふたりの部屋のベッドで忍者が横になっていた。ルームメイトかしら?
     あのふたりって恋とかどうなんだろう?
     ベッドにもぐって眠れぬ夜を過ごした。明日は獣の力を授かる日だった。――やっぱり猿は嫌だなあ。ミートパイも食べたし、仔羊のステーキも食べた。フルーツではないにしても、甘いものの食べ過ぎにはちがいない。


    目が覚めたらアレックスがベッドの縁に座っていた。「おはよう、アレックス」
    「まだ寝ていなさい。__」
    「どうしてチャールズは教会で眠ってるの?」
    「怪物に家を襲われて、逃げるようにでてきた……」
    「明日には、私も怪物に……」
    「……君は違う。人の子だ」

    「ねちゃった」
    「え?、ミア……ああ……そうか」「誰と」
    「彼を愛してるの」

    「でもな、ミア__」




    「やあ、ミア」
    「私のお月様、おはよう!」


    「おや。進展がはやすぎるんじゃないのか?」
    「彼のことをどう思う?」

    「人は、命を助けてくれた人に対して心を開くものだ……」チャールズ





     血の盃を手に取って口に運んでき、中のものを喉に流し入れた。








     ブオオオオオォォォォォォオオ!

     四脚が音をあげて伸びる!全身の骨が太くなる!脚の骨が湾曲していくのがわかる――よかった。猿じゃない!頸骨から背骨が浮き上がるのも、あばらの間隔が開いて前にせりでる!皮膚は硬化し白い毛皮に変わった。
     でかい。3メートル半はある。
     鋭く生えた牙をガチッカチッと打ち鳴らし、咆哮をあげた。歯を打ち鳴らして、首を振るった。鉄のように硬く鋭い鉤爪は地面を引き裂いて土の塊を撒き散らした。鼻と、ピンクの目は獲物を探した。ドワマル。あいつから試そう。駆け足でたった5歩。かなりの大飛びだ。

    「美しい……」チャールズ

     空高く放り投げた。ドアマルは地面に叩きつけられた。ドアマンドが挑んできた。斧は弾かれた。彼は反動の力を使おうか迷ったがやめた。爪のなぎ払いがきて、地面に転がるようにして避けた。ドアマンドから注意を反らそうと仲間が脇腹を激しく叩き斬り、アゴの下を剣で激しく突き刺した。が、いずれも硬い皮膚に弾かれた。脇腹の者は頭を掴まれ潰された。顎の者は噛み千切られた。
     
     忍者は弓を上空に向けていた。鳥でも射て暇を潰しているのだろうか?アレックスが上を見て、チャールズが叫んだ。「避けろ!動け!」
    ビシュンッ地面に弓矢が勢いよく突き刺さった。彼の声がして咄嗟に避けた。忍者が弓を構えてる。ビシュンッ――横に交わした。小鳥を狙う猫のようだった。ビシュンッ――




    ひとつ教えてあげるわよ。大狼さん。
     鹿が欲しいときに幸運に恵まれて鹿の親子を見つけたら、仔鹿を狙えって。子供を護ろうと親鹿が飛びだしてくる。それを狙うの。
     弓をリチャードにあからさまに向けた。ひとつ間をおいてから立て続けに離した。ビシュンッ、ビシュンッ、ビシュンッ――大狼はリチャードの盾になろうと駆け出した。ビシュンッ、ビシュンッ、ビシュンッ!皮を突き破った。何本も体を貫いた。犬はあの切ない鳴き声をあげた。キャインッ!ヒィ、ヒィッ!
    くそッ、早くくたばれ、いぬがっッ!
     横から男が突進してきた。黒いダガーを手に持って。ああ。わかった。銀貨めあてだ。

     私は刃をかい潜って、かい潜るだけじゃだめ、掴むべきところを掴むの。例えば、_でもよかったけど、大切なところを捻り潰した。そうして男の腹を蹴りあげた。2度。
     でも、大狼が来てた。
     私は自分の首に黒檀の冷たい刃をあてた。
     
     

    白い毛皮が血飛沫に真っ赤に汚れた。赤髪の弓使いが「血がどばーって!」と言ってから笑いをした。目は忍者の顔を凝視している。
     __が来て、彼は彼女から目を反らして私を見た。艶のあるかなり急ぎ口調の声が耳をつんざいた。「あははーはははっッ、おまえ、毛皮をまとった姿は、聞こえし者にそっくりだね!」手は捻り潰された股間にあてられている。悶絶している。彼の頬を涙が転がった。
     
    「おや」彼が顎をしゃくった先にはドアマルを先頭に__の戦士がいた。雪月のリベンジ。
    忍者の弓矢がまた刺さる。口に突き刺さる。口が固定された。ドアマルが首の後ろを鈍器で殴り付けた。ぐらり。グサッグサッ、と刺される。また口に突き刺さる。




    「あんた、リベンジしたいんでしょ?先ず、はっきりと言わせてもらえば、あんたには無理」
    「彼奴の情報を教えてくれない?」やっぱりね。深いんだ。でも、今回は。チームプレーね。


     仲間が大人の友達を足止めしてくれている。友情より銀貨がものを言うわよね。

     こちらに向かってくる。私は月男の脚を射た。次も。あら、膝にあたった。
     痺れるような衝撃が全身を貫いた。石が転がっている。痛いっッ。

    「うそよね、なんてやつっッこの」
    「バケモノっッ!」ビシュンッ!口をむなしく射ぬいた。



    「やめてえぇっッ!!」忍者の体を掴んで口に放り込んだ。ガブッ。どこかから艶のある声が「ヒイッ!」と言った。
     お月様は怯えていた。私は変身を解いて彼に近づいた。「大丈夫?」
     月男はもともと丸い目を更にまんまるく開けていた。彼女の口から彼女の脳みそが引っ掛かっていた。彼は口に指を差して教えた。私は口の中に啜った。彼はぞっとした表情を顔に張りつかせて両腕を使って尻を引きずりながら数歩後ずさった。「ごめんなさい、僕にはムリ……」
    「あっちに言って」


     


     私はとぼとぼと歩いた。殺された。それから何度も殺された。水槽の縁に忍者がぽけっと座っていた。角笛が吹き鳴らされるまで。獣人が忌み嫌われる理由はこれだ。――恐怖

     アレックスは執拗に雪月の嫌がらせを受けていた。見かねたチャールズに助けられたり助けたりしていた。私はただただ殺された。
     半殺しにあい、襤褸のように地面に叩きつけられた。そのうち角笛が吹き鳴らされた。

    助け起こされた。男の手。守護者の手。アレックスも傷まみれだった。チャールズは鉄の柵から出てきたところだった。





    私は男に言った。「食べた……私を食べたのよ。怖かったのよ……」
    「痛みとか、死ぬとか、そういう怖さとは別もの。人じゃないんだもの」

    「あんたはどう?あの毛皮に惚れてるみたいだけど」「例えば自分を見失ったハルクがあんたの真ん前に飛び込んできたら、あんたは怖いと思うでしょ?」
    「俺のほうは……あんたのことを怪物だと思ってたよ」
    「どういう意味よ?」
    「理由はともあれ、彼女に挑んだ。致命傷を負わせた。俺のクライアントを皆殺しにした」肩をすくませた。「それまだ引きずってんだ……」
    「ねえ――」角笛が吹き鳴らされた。「また今度」男が鉄の柵の向こうに消えるのを見届けてから口ずさんだ。「ねえ、次は時計の話でもしましょう」
     


    宴が始まり、牡鹿月どもが歌いだす。雪月どもが大狼に挑んだ者の名前を列ねて、そのひとりひとりがどんな風に闘って散ったかを話聞かせた。牡鹿月どもも交わり敗者を讃えはじめた。喝采。
     食欲がない。全くない。月男が売店の娘とくっちゃべりる様子がまざまざと脳裏に浮かんだ。「口臭を気にするどころじゃないよ!口に脳みそが引っ掛かってたんだ。うえっ」娘が背中をバシッと叩く。「そういうことよ!」
    ――バケモノっッ!
    ――ヒイッ!
     言うまでもなく皿はからのまんまだ。アレックスは食べなさいと言った。何か言ってたけれど聞きたくはなかった。
     隣に椅子を引く気配がした。忍者が立っている。「私が__を食べてる最中に、あんたの口に私の脳みそがひっかかってたって話をアイツらから聞かされても、なにも感じない。私はね」そう言って椅子に腰かけた。
    「でもあんたにはムリそう」
    「お腹が空いたら私の部屋を訪ねてきて。私は材料をくすねるのも、料理を作るのも得意よ。昨日あんたたちがいた部屋だから」そう言いながら皿にいろいろ料理を乗せて「はうっ」とかぶりついた。口の中に食べ物が残っているうちからしゃべりはじめる。「それに、ひとりは退屈。ほかの女子とは、話が合わなさそうだし……」「はうっ」口をもぐもぐ動かしながら首を伸ばした。そうして男に訪ねた。
    「ねえ、あんた。私にはリチャード・ローガンって名乗ったわよね?」
    「もう一回聞くけど、あんた本当に名前はリチャード・ローガン?」「はうっ」
    「……」
    「ジェラルドって呼んでいい?あんたのこと、ジェリーって呼びたいのよ」もぐもぐ。頭の回転が早いアレックスはくすりと笑った。リチャードは顔を赤らめた。忍者は口をもぐもぐ動かしながら話を続けた。「もちろん。__じゃなくって、__のほうで」

     あらら。だんまりしちゃった。いろいろあった嫌な出来事がこのときばかりは綺麗に吹き飛んでいた。「ジェラルド?本当の名前はジェラルドなの?」私は訪ねた。チャールズは顔を横に振っただけだった。
     



    ✒️主人公をヘイルに交替。
    ✒️ミアが抱える問題を解決させておくこと


    「いい兆候ではないだろう……」そうチャールズが言った。
     アレックスが返す。「あんたに気がある」口角がくすりと動いた。
    「まさか……私の知識に興味があるだけだよ」
     アレックスが納得して頷いた。
    「……彼女を仲間に加えることを考えないのか?」
    「おい、俺を餌にしてるな……」
    「あんたと彼女の気持ちはともかく、いいコンビになると思う。それに――」
    「賢明な判断とは言い難いね」


     アレックスはひとつため息をついた。
     チャールズの目が誰かを追いかけた。苺朱が前を通りすぎた。線の細い男と手を繋いでいた。横目で追っている。
     アレックスも気づいたみたい。



     私は狼月様に感謝の言葉を述べるために最寄りの教会に行きたいと二人に言った。アレックスも一緒に来ることなった。チャールズは先に自室へ向かったところでアレックスに訊ねた。
    「彼女にはリチャード・ローガンって名乗って、私たちにはチャールズ・ヘイルと。じゃあ、ジェラルドは?一体、誰に名乗ったの?」
    「世間に」
    「彼には注目願望があるのね?」アレックスはくすりと笑った。
    「どうして強いのに、たくさん死んじゃうのかわからない」アレックスが私の小さい手をとった。
    「彼女に護ってもらえばいい」




    ジェリーはきびきびと歩いて書個室にはいった。歴史を調べているらしい。

     あっ見失った。私をまくためにはいったわけか。ふうぅん。尾行はいい暇潰しだったのに。
    いまから眠りに落ちる瞬間までの長ったらしい退屈を満喫するってわけか。
     本、か。鉱石の本はないかな?――見つけた。私はどうせファンタジー物質「ミスリル」、「オリハルコン」、「アダマンタイト」が載ってると思って馬鹿にしたけど、知らない鉱石ばかりじゃないの。そういえば……赤髪の持ってる黒檀のダガー。他の人間が持ってるとこなんて見たことないと思ったっけ。
     お。琥珀の紹介ページね。あなたなら知ってるわよね?琥珀の色には二百種類以上のあるって。この『ネバーランド』には何種類あるのかしら?
     見たこともない色の琥珀を惚れ惚れと眺めた。写真をさする。これが欲しい。ブレスレットリングの形を想像した。彼の腕にはまったブレスレットリング。それには時計を嵌め込めるの。戦闘で時計が傷つかないように外しておける。デザインは……――紙にざっとアイデアを描いた。時計の中身は……彼が考えればいい。
    部品は私が造るから。必然的に機械時計になるわね。__は、私なら作れる。__を製作する機械だって。製図を描く。
    何時間たったのか時計のない世界じゃわからない。部屋には蝋燭も線香もない。でも「とっても、有意義な時間だった……」私は満足して自室に戻った。実は背後にジェリーが居て逆に覗かれてたなんてこれっぽっちも気付きもしないで。



    自室に戻ったとき、チャールズは明るい顔をしていた。何冊か本を手に持っていた。私を目にとめた。顎を引いてたしなめるような顔で言った。「寝る時間だぞ」
    「貴方まで、パパみたい」
    「そうしたいから、まだ起きてる」
    「それは?」
    「楽しい内容ではないよ……」
    「寝る時間だ、メア……」彼はまた言って本と紙と式用具を抱えて部屋を出た。私はアレックスを見た。彼は涼しい顔をしていた。
    「進展があった?」私の問いに、アレックスは「たぶん」と答えた。

     1日で破局した事実は私の心に深い傷をつけた。月宮殿、月神様、月男を思いだすきっかけなんて山ほどある。しばらくは駄目。いちいち思いだして駄目。まぎらわすためにチャールズを使うのも駄目。でも、ポンコツ問題を真剣に考えるのはいいでしょう?あら、彼って恋愛偏差値が低そう。
     




    私はパンのつまったバスケットを抱えてノックした。結局、料理しちゃった。ドアを開けたアレックスにバスケットを突きつけた。「これ。バーガーに似せたから。あの子に食べさせて。それじゃあ、おやすみ」
    「ぅぁ、……ありがとう。おやすみ」私はひとつ頷いてドアを閉めた。来た道をたどる。壁を撫でながら。材質の触感を楽しみながら歩いた。料理はいい暇潰しになった。
     双子の塔をでて夜風にあたる。あの子はフルーツバーガーにかぶりつく。アレックスは食べない。口にするとしても彼女のために毒味で噛る程度に。ジェリーは……わからない。バーガーなんて食べてくれるのかどうかすら。宴のときに彼の皿の中身を見たけど、食欲旺盛なほうじゃなかった。私が作る料理って美味しいのよ?ジェリー。
     今日、彼に向けて弓矢を放ったとき、おぞましい電流が身体中を貫いた。どきりとした。
     彼が頭脳で闘う人間なのはよく知ってる。2度めのときに、ふと彼の死に様に興味がわいて……だから彼を待って数えることにした。やつらは水槽に5回も放り投げいれてた。だから6回めのときは「ゴミを破棄するみたいに扱わないで!」と叫んだ。彼の腹から内蔵が飛びだしてた。――ウォッチメイカーの。
     ウォッチメイカーは世間には最悪の悪だけど、私にとっては天使よ。私は彼が好きそうな腕時計を盗んだ。『アストロン腕時計』世界初のクォーツ腕時計。そして彼に届くように彼と強い繋がりを持つといわれるメキシコのとある人物に贈った。この私がファンレターを贈ったの!
    ――こいつはゴーストだ。
     私を知っていたのはどうして?それは、彼のクライアントを殺して気を引いたからに違いないから。顔が割れたのは味方の誰かが寝返ったから。だからといって、私がファンレターの差出人だなんて知るはずがない。だから安心して。だって、バレたら恥ずかしいじゃないの。――だってゴーストは乙女だってバレたちゃうんだから。私の思考は停止した。もう帰る。



    美味しい!ぱくぱくとフルーツバーガーに齧りついた。アレックスとこの食べ物は不釣り合いだけど、口をもぐもぐと動かしながら紅茶をいれてる。バーガーは5つあったけど、このフルーツバーガーで最後。私ってフルーツのまえでは意外と大食いなのよね。
     更に時間はふけた。眠れない。アレックスはソファーで眠ってた。チャールズは部屋に戻らなかった。私は抜き足差し足で部屋を横切りそうっと廊下にでた。物置小屋のドアに耳を近づける。しゃっ、しゃっという音が聞こえた。ドアを開けて中にはいる。なにやら絵を描いてるみたい。チャールズが私を横目で見た。「そうか……」羽ペンを置いて、こめかみをグッと押した。
    「紅茶を淹れてこよっか?」
    「なにを描いているの?」
    「わあ。スッゴ…………ッ」緻密に描かれたわっかのなかにたくさんの歯車。数えきれないほどの歯車がつまっていた。
    「でも、一体どうしてこんなに歯車を描くの?風車の歯車を取って。余程好きなんだ?」(世界初の歯車は?)彼は含み笑いを浮かべた。
    「そうだね。……君の言うとおり、余程好きなんだろうな」
    「君の__に甘えることにして、ひとつ紅茶を頼むよ。砂糖ぬき」閉じられるドアの音を聞いたあと、彼は空気を深々と吸った。




    紅茶をテーブルにそっと置いた。
    「ひとつ訪ねてもいいか……?__ときに人はどうする?」
    「えっ」目を泳がせて口をぱくぱくさせる。「商館の御婦人方は線香に火を点します。あら、考えたこともなかった。時間は水のように流れるものでしょう?後で使うために桶に貯めておけるものでもないし……」

    「昔から香りには神が宿るといわれていてね。女性は芳香を持ち歩いていたんだ。君のいう通り遊女は芳香で時間を計った」

    「月神様が見ておられます……」
    「時刻の概念がないともすれば、時刻の神はさぞ窮屈な思いだろう。なあ、カルロス?」製図を眺めて言った。――この人病気なの?私はチャールズを再評価した。
    「貴方こそ、眠ってください!」「疲れているのよ、とおぉぅっても」
    「その名前の神様はいませんし、時刻の神様もいませんよ。こうみえて私は神学に強いの。12柱の月神様以外に神様なんていないの!」

    「ところがだ……13人目がいるんだな」

    「面白いのは太陰太陽暦を採用しているのに……太陰暦と呼んでいることだ」

    「ひとつ話をしよう」

    「12柱神は太陰暦を__意味している」

    「この暦は、月の満ち欠けの繰り返しで成り立つ。しかし29ないし30日からなる月を12回繰り返して一年とする太陰暦では、一年が約354日であり、太陽暦の一年に比べて約11日短く、3年過ぎると約1ヶ月のずれとなる……。このずれを放っておくと暦が実際の季節と大きく食い違ってしまう」
    「そこで太陽の運行を参考にした「__」という「月」を足し、一年を13ヶ月にすることで暦と季節のずれを正す方法がはかられた……太陰暦太陽暦だ」私はぽけっと彼を見ている。

    「ところがだ。太陽の一文字も使われない」
    「要約すると太陽はあんたたちの味方じゃなかった」

    「俺は、太陰暦も太陽暦もどちらも憎んでる。エレガントじゃないからね……」私は彼のお腹にちょいと指を突き立て押した。「あなたって、すっごいおしゃべり」



     アレックスにまで説明をして言った。「13番目の月名を知りたい」と。アレックスは頭痛を起こして、地平線の彼方へ避難したいと思ったに違いない。「うっ……ああ、成る程。それはなかなかに興味深い」もう、アレックスまで!
    「神父様に訪ねられてみたらどうです?」
    「いいや、彼には尋ねない。ミアも、いいな?……信用の問題と言っておこう」とチャールズ。私は、この話題を持ちかけられるだけで背信者に成り下がったような気がした。更にチャールズが続けた。「ごめんな、ミア」



    大広間に向かう途中にゴーストが私たちの横に並ぶようにして歩きはじめた。私は彼女の第一声を聞いてはにかんだ。「仲間にいれて」ゴーストは続けた。「私を仲間にいれてくれないと、そしたら、あんたを殺すはめになる。私の前に__予約の列ができてるからよ」大人の友達を素早く見やる。アレックスは賛成だが、チャールズの気持ちはそっぽを向いている。彼女が言った。「今度こそあんたを仕留めてやる」そしてあっち雪月や牡鹿月たちの元へ足早に向かった。「どうして断る?」とアレックス。彼はだんまりした。私もだんまりした。月男が前を足早に歩いていた。手にはお菓子が詰まった売店の紙袋。私の背中にふたりの保護者の腕が掛けれた。
    ねえ、ジェリー、私もあんなにも愛されたい。
     だって私の真ん前で肌の浅黒い槍使いと召喚者が身体をくっつけてるんだもん。
     あんたとは、ああいうことができないのは承知してる。あんたが恋愛しないのには理由があるからよね。でもね、そこを、してる。に変えたいのよ。
     あんたとは、ああいうことができないのは承知してる。――あんなラブレター送るんじゃなかった。
     ガツンッ!というカップを置く音がした。びっくりした。トアマンドが言った。「ブライエニーって言うんだ。まったくっ、あんな熊みてえにでっけえ女は見たことがねえ!しっかもべっぴんだ!」「剣のほうもすげえっ」
    「__あいだじゅうっ、彼女は俺を見つめてた!両想いだったんだよ!俺との間に子供が産まれていりゃあ、それは立派な指導者になってただろうな!」
    またカップをガツンッと叩くようにして置いた。「でえっかく育ったぞ!はははっ!」
    「だが、南部の女はなびかねえ」

    「チビの姉ちゃん!」なによ、やめてよ。顔をこっちに向けないで、玉ねぎ臭い。
    「あんたもすげえな。 大狼の獣人を追いつめたのがあんたがはじめてだ」
    「初めてって、ほかに獣人はいないの?」
    「俺が知ってんのは、そうだな。猿の獣人、栗鼠の獣人、鼠、獅子に鳥にワニに……」「__の像!」「バカ、それは眉唾だろ」私は白目を向いて地平線の彼方へ旅たつ準備をしようか迷っている。こいつらの話の発端の肌の浅黒い槍使いと召喚者が布の下を触りあっている様子を見るともなしに見てる。


    アレックスは例の小瓶を胸元から取り出して
    中のものを手のひらに転がすと勢いよく口に放り込んだ。とりあえず、私はフルーツパイを食べた。アレックスは上品に紅茶をすすり、皿の上の料理をつついて皿の端にタコを寄せたチャールズとなにげない話をしていた。知的で小難しい話を。
    錬金術師同士の対談みたいだった。鉱石がどうとか、機材の製図がどうとか。会話にでてくる彼女は一体誰だろう?なにかを作ろうとしていることは確かだった。
     昨日のこともあって私の頭はぐるぐるとまわっている。月神様のこと13番目の月名のこと、月男のこと、大狼のこと。私は大狼に変身する。蹴散らしてやる。
    「だのに何故断った?」
    「俺の問題だよ、アレックス」
    「解決しろ、__」あ、きついこと言われてる。皿の端に寄せられたタコが増えた。アレックスが堪忍袋の尾が切れたか、チャールズのフォークを持った右手を取りテーブルに叩きつけた。かなりの力を込めて押さえつけ脅した。耳打ちした。「__」そしてこちらも怖い。チャールズは目を細めてアレックスの目をひたと見据えた。口元は穏やかそのものだった。アレックスの背中をトンと叩いたその手の袖口には小瓶が隠れていた。
    ――海狸月が守護神じゃないからという理由ひとつでスリや窃盗といった行動がとれなくなるわけじゃないよ。
     チャールズは席を立った。



    独特の甘い香りが鼻をくすぐった。雪月の戦士が誰かをちらりと見た。肩越しに振り返るとジェリーが取り澄ました風に立っていた。どきりとした。「なに、どうかした?」彼は椅子を引き隣に座った。トアマンドが丸い目で凝視している。「手を出せ」ジェリーは小瓶を手わたした。「中身を調べてほしい。急ぎだ」そう言って席を離れた。「用事ができた……」私は席をたち、花月の者が入れる錬金術部屋に急いだ。



    身を清め、棺に入り、呪文の合唱を聞いて、訓練所に置き晒しの体で目が覚める。棺のほうではなく。次に角笛が吹き鳴らされ、鬨の声をあげ、剣や盾を打ち鳴らしながら剣戟相手を定める。私が大狼の獣人になった2日目、4メートルはあろうかという大狼の姿の私の前に、訓練所の花形という牡鹿月と雪月の屈強な戦士どもが数人取り囲んでいた。――そうして獣人が嫌われるネタが生まれる。噛み千切る、噛み砕く、切り裂く、踏み潰す、跳ねあげる、轢き潰す。どれもこれも遺体の損傷が激しいものばかり。私は嫌われてもかまわない。ミア。私を傷つけるやつは許さない。そうして死体の山を築いた。
     彼女は轢き潰された。あらぬ方へ手足が曲がり、折れていた――なんて無駄なの?彼女の口を借りて思った。



    死にに行くようなもの。落ちついて。挑戦しがいがあるってだけだから。
    「ねえ、ジェリー?」彼の両手を掴んで握ったときに小瓶を押しつけた。見つめる。思いっきり両手を引いて、口を思いっきり強く「はうっ」と押し当てる。まるで頭突きだった。ぺっ。口のなかの筒を押し出してジェリーの舌に押し当てた。ジェリーの舌が私を触ったとき胸に衝撃が走った。涙が転がった。むこうが引き離すまで唇を離さなかった。「私にはムリ。ごめんなさい」そう言って雪月の元へ離れる。心臓はやかましく鳴っている。
     振り返るとジェリーは壁のほうに歩いていた。

     角笛が鳴った。弓を構えて天を射た。大狼の脳天を貫いたんじゃなくって隣人の肩を貫いた。暗くなるまで少し時間がかかるわよ。さよなら、アレックス。トアマンドを筆頭に味方の戦士が剣や斧を打ちつける。大狼が気を引いている間に、雇われた盗賊が振り回されつつ鎖を巻きつけた。だが、その頃には周りの戦士が瞬殺され、転がった。最後のひとりはボールを蹴りあげられようにして蹴りあげられ地面に叩き落とされた。まるで茶番。はいはい、弓矢も駄目ね。
     あんたとのキス、最高だった――あんたはどおだった?
    ドカンッ!――うそ、嫌だっッ!意識がある!でも感覚がない。首から下の感覚がないっッ
     どこからともなく誰かが駆けつける。リチャード・ローガン……?「ジェリー……?」


    私は駆けつけてきたアレックスの横で怯えきった仔猫の鳴き声を聞いた。アレックスが短剣で彼女の首を引き裂いた。それから言った。「もう……こんなことをするのはよそう。こんな、酷いことを……うっ」アレックスは頭痛に頭を抑えつけた。小瓶を取りだして、手のひらにあけ錠剤を飲み下す。
     


    壁にもたれ掛かり紙を開いた。紙には薬名が書かれている。以上。チャールズ・ヘイルは安堵のため息をついた。__。やっぱりな。__覚醒剤。飲む回数が増えていたし、一度に錠剤を胃袋に入れすぎだ。私たちのために、彼には克服してもらわないと。いま彼はあらかじめスリわたしておいた偽物を服用している。なあ、アレックス、頭痛がするだろう?
     じきに彼は脚の壊れた三脚の椅子のような状態になる。誰の目から見ても危険な男に映るだろう。――廃人という言葉がしっくりくるような。だが、あんた自身のためでもある。この地獄の壁を乗り越えてもらわないとたぶんに大勢が困る。――ドカンッ――大狼が誰かを轢き潰した。……まさか――チャールズは目を背けた。どうして残酷にも彼女を轢き潰したのだろう。と困惑した。彼女に目を戻すとアレックスが彼女の首を裂いたところだった。
    ――怖かったのよ。
     胸がずきりと傷んだ。__弾のそれだった。細かい鉄の破片が組織を傷つける。
     美女と野獣は間違っている。獣人は人類に憎まれてしかるべきものだ。



    アレックス?私のせい?きっと、そうなんだろう。こんな訓練所で獣の力を使うべきじゃないんだ。「はあ、あんたは……大勢を怒らせた」


    「仕留めてみて差し上げましょうか?」魔法使いが言った。
    「」
     肌の浅黒い槍使いが槍先を叩いた。セクシーなダミ声の持ち主だった。「よし、試そう!」
    槍と躍る男は3回転宙に身を翻した。戦闘開始の合図に大狼の腕を軽く叩いた。大狼の爪のなぎ払いを交わし、脚に軽い傷をさっとつける。ヒット&ウェイを繰り返し、槍先で細かい傷をつけた。鼻で笑った。
     地面から髪の毛の触手が伸びて脚に絡まった。「易しくなったわ」槍の刃は硬い皮膚に弾かれて食い込むことはなかった。「はっ降参だ、誰か、次の挑戦者は誰かいるかー?」ドイツ系寒月が顔をしかめる。赤髪の弓使いは顎に手をやっている。意外な人物が名乗りを上げた。「俺が」「ただ……その鎖はゆるめないでくれ」周りがざわついた。アレックスが驚きの表情を浮かべた。「チャールズ、やめないか」
     チャールズ・ヘイルが私のアキレス腱を激しく叩き斬った。何度も。刃こぼれしただけだ。牡鹿月と寒月が頷きながら剣じゃ無理だとぼやくのが聞こえた。次に刃をあてたのは、なんと人差し指だった。何度も、何度も、赤髪の弓使いから借りた弓で指を射て、穴が空いた箇所を激しく抉った。私は悲鳴をあげ続けた。間接部分の骨を残し、肉を斬った後で、剣をノコギリのように引いて使った。その内、指がぽとりと落ちた。チャールズは拾い上げ。懐にしまうと満足して壁のほうに戻っていった。殺した牡鹿月、雪月が集まっていた。
     私は変身を解いて訓練所の外へ逃げた。人差し指がなかった。


     弓矢が脚を貫いた。思考に脚がついていかず、私は前のめりに傾いだ、体は地面に強く擦られた。寒月だった。隣には赤髪の弓使い。
     ドイツ系寒月が近づいてきて言った。「おったまげた。逃げた獣人が脱走したとなりゃあ、そりゃ……」
    「おめぇ、ここが浮島だってことが、頭から抜き落ちちまったんだろうなぁ……」
    「いいか、俺ぁ脱走者を見たことがある。脱走者の追跡と保護は蝶鮫月と狼月の仕事だった」
    「そいつがどうなったかぁってぇとぉ、浮島の底辺の牢獄、月の窓にぶちこまれて……ヒュッ」
    「もう、おしめえだ」背中をトンッとひとつ叩いた。
    「あんたが敵を作った。受け入れるんだなぁ」


    「俺はガキじゃあなくって大狼の首を取りてえ。臆病者の犬め変身しろ!」悔しそうな顔。
     アレックスが苦しそうにこめかみを押さえている。



    首根っこをぐいと捕まれ殴られた。きたか。チャールズの爪先を硬い革靴で強く押し踏み潰した。「貴様、俺になにをした?」
    「この中身はなんだ?えェ?」
    「いいか?……俺にはこれが必要なんだ。教えてやる」
    「そうか……わかった」腹に強い衝撃が貫いた。
    「貴様らは__」
    「ンンっッ――」俺はある毒を塗った刃を突き立てていた。まだ死ぬまで__とかかる。刃を抜くと、くずおれるようにして地面に。俺は手早く首を引き裂いた。



    私は水槽の縁に項垂れて据わっていた。顔を上げるとリチャードが運び込まれてきた。私は彼の水槽の縁に腰をおろした。彼は勢いよく起きあがった。私は水槽のなかに彼を押し戻そうとして手を引いた。彼は私を見つけて困惑した。だから怒らせようとつとめた。「私がどうしてあんたのクライアントを全員殺したか知りたい?」
    「『ウォッチメイカーMr.ジェラルド』を名乗ってあんたがテレビに映ったとき、私は珈琲を噴いたんだから。あんた、時間にこだわりすぎよ?」ジェラルドは槍使い、愛称のジェリーは鉄の槍という意味をもつ名だ。ひとつの名前に槍が2つ。すなわち、時計だ。
    「その選択ミスのせいで、私はねっ、あんたが自分の時間を止めてしまうだろうとにらんだ」
    「だからクライアントを皆殺しにした。ねえ、奴らが好きだったなんて言わないでよ?」
    「時計って必ず主を裏切るんだもの。私があんただったら、裏切られるまえに叩き壊すっ!」時計製作__、

    「あ。それから、パソコン弁償してよ?」ジェリーはうつむいて感極まった顔をしていた。 目をつぶって――やめて、私は足早に素早く鉄の柵へ駆けた。やめてったら、私にそんな演技見せないでよ!
     鉄の柵の向こうの出口に差し掛かる前に、足を止めた。あんな獣と2度と戦いたくない。味方になりたいのに。そうだ。聞き忘れた。どうして私を拒んだのよ?と。なんならもう一度頭突きをかましてやってもいい。振り返って来た道をとぼとぼと歩いて戻った。ジェリーが相変わらずの表情で両手で鼻と口もとを抑えていた。私は数歩後ずさって来た道をまた引き返した。ウソよね?




    「待て……」催眠効果のある声がささやいた。
    「ゴースト」ジェリーは鉄の柵へ歩みより、柵を開けて私の背中をとり中に連れ込んだ。
    「俺は友達を裏切った」そう言って大狼の爪を手わたした。「いまじゃ大狼を憎んでる……」
    なんだ……そういうことか。


    「また殺されたら、ふたりに誘われても君は断ると思ってる……獣を仕留めたいんじゃないかな」
    「そうね」
    「花月の者は鋳造部屋まで使えるだろ」
    「刃を造るといい」
    「ずばり、時計目当てでしょ?」
    「まったく。さっき私に怒られたばかりじゃないの」目をぐるりとまわしたが美は損なわれない。

    「私あんたになんて言った?ほら、言ってみて。復習って大事」
    「捕まるな」

    「違う。もう一度」
    「__」

    「そのキャラクターやめて」
    「……」
    「その黙りやめてよ」
    「……いつもそんな風に賑やかなのか?」やめてやめてと。

    「いえ、いまは友達がいないから。ねえ、いきなり友達にならなきゃいけないなんて言わないでよ」

    「俺と一緒に仕事しないか?」
    「言い方変えただけだし」
    「なにかを造ってほしいわけ?ネジ、ゼンマイ、__だけどひとつ条件がある。完成品を頂戴」ジェリーは唇を引き結んだ。
    時計をプレゼント『同じ時を歩もう』というメッセージを持つ。

    「ひとつだけ?……俺はあんたに頼みたいことがもうふたつある」
    「ひとつ、部屋を使わせてもらえないか?アレックスと仲違いして……」
    「ふたつめは」
    「デートをしよう」
    「する理由は?」
    「そんなにがっつくな。あんたは一度にたくさん知りたがる」
    「ほら、昔、アストロンをくれただろう?ラブレターを受け取ったのはいつぶりだろう。」終わった。
    「__のカセットテープで」
    「あんたは怒ってた」
    「……あやうくパソコンに珈琲を噴きこぼしそうになったよ」
    「ウォッチメイカーを最も__であると讃える反面、俺はあまりにも浅はかで利己主義なため、実際に俺が__素晴らしい結果には至らないと信じていると言った。矛盾して聞こえるかもしれないが、完全に理にかなってる。証明まで」
    「君は『ハンマーガール』だな」
    「えぇ、私が『ハンマーガール』」
    「あんたと一緒にいる」




    アレックスが料理を運んでいった。給使に断る。「__」
     テーブルに料理を置いて、部屋に鍵をかけた。「もう違う」「あいつは入れない。……いいな?」そう言いながら小瓶の中身を屑入れに捨てた。引き出しから新しい錠剤を手のひらをあて口に放り込む。そのまま手のひらを口にあてたまま、ぼうっとした遠い目で見るともなしにどこかを見ている。汗が噴きだしているが熱ではなさそうだった。
     私は椅子を引いて座る。彼のひしひしとした焦りを肌に感じる。「食べて」と彼は言い、私は「貴方も」と言った。彼はうんと頷いて前の椅子に腰かけて、料理をつつきはじめた。フォークを持つ手が震えていた。今日は早く眠ったほうがいいと言った。アレックスは明日は医者に行くよと約束した。このとき、彼の目は鋭く燃えていた。




    「これがデート?」
    「君みたいな法に__しない花月の人間の協力が必要だった。好きな時間に錬金術部屋と鋳造部屋に入れる。__にも」
    「世界一危険な泥棒を連れて?」
     白い琥珀。桃色の琥珀と金のインゴットを手に取った。
    「なに?」
    「イヤリングを作ってほしい。イチゴの形をしたイヤリング」
    「ミアにプレゼント?」
    「別の彼女に」
    「……わかった。造るけど、時間をちょうだい」ジェリー、嘘よね?だって、彼女は誰とでも寝るような雌犬なのよ?それに彼女は毎日彼氏を変えるじゃない。







    「キャスリン様!」
     淡く鼻腔をくすぐる香りをまとっている。
     横に張り出している女性らしい丸みをおびた小柄な女とその従者は月宮殿へと続く小路を歩いていた。腕には背徳者の紋様がうっすら現れていた。触手の腕が伸びて魔法の刻印を浸食する。外出制限時間は、魔法の刻印が背徳の印に変わるまで、だ。月宮殿に舞い戻ってきたわけはただひとつ。極刑はお断り。
     行くての向こうには月のゲート。
     太陽は肌に悪い。
     門番が紋様を確認する。荷物検査をうけてゴンドラへ乗り込む。浮島に上がってからは、自室『女帝』へまっしぐら。従者ムシカは『魔術師』に帰った。衣服を投げ捨てベッドに体を投げ込んだ。夜になるまで、ひとりで気持ちよくなったあと体を洗い湯船に長い時間浸かった。お腹も前に張りだしぎみだ。また太ったかもしれない。私がそう言うと「肥え足りねえか!」牡鹿月と雪月はそう言った。まぁ、悪いきはしない。カッと晴れわたった青空みたいな気持ちのいい連中だ。私の肌は象牙色。しかし獣人みたいな尖りは生えなくて良かったな!
     いろいろな面倒は避けたかった。私を見て笑うやつは無知の極みといえる。知らぬ者には知らせてやったほうがいい。だから宴の時間に差し掛かってから大広間へと向かった。牡鹿月と雪月がこちらを見て驚きの声をあげ、両手を拡げて大大大歓迎をした。召喚者は微笑み、魔法使いが片手を上げた。まわりがざわついた。ったく、こっちは闇の眷属だっつぅーに。ああやって花形が私を頼る理由はひとつ。
    「強力な獣人が誕生したっつぅーねぇ」ムシカ


    「ただいま……」背徳の紋様と刻印はきれいさっぱり消えていた。
     口の早いムシカが答えた。
    「今回は4拍5日の予定で__の町に出向いて豊穣祈願の祭に出席したし、__の町を通りがかったっつぅー理由で興奮した町のために急遽即興、福祭を執り行ったね」
    「夏は夏で大畑に入って硬貨と水を吹っ掛けに行かなきゃな。あっ、それからねぇ、秋の収穫祭に誘われたね」
    「さっきはさっきで興奮した町人が蜂の巣箱持ってきてキスを落としてくれってせがんできたんから言うことを聞いてやったよ、蜜蜂まで興奮しちまって、人と昆虫の__と化したてよ。今年は蜜蜂は強健ね」
    「来年は蜂蜜酒がうまくなりそうだね」雪月は顔をキラキラさせてうまそうに蜂蜜酒を飲みながら話を聞いた。
     それから私は箱を開けて、花月のために錬金材料の幻といわれる花の大束をわたして彼女たちを喜ばせ、魔法使いと召喚者には美容のための素材(王族が愛用するような)が大量に詰まった鞄を手わたしてから席に戻った。
     牡鹿月が大皿にせっせとムシカの超好物フライドチキンを乗せていてた。大皿をムシカの前に置き、私を讃え豊穣の歌を歌いだした。ムシカは肉の香りを嗅いだ。サラダに食らいついた。

     

    「嫌じゃなかったらだけど、おでこつけていい?」
    「好きにしたらいい……」と言って枕を外して段差をつけた。私は枕をとって頭突きする勢いでおでこをつけた。ジェリーがため息を押し殺しているのがわかる。彼はソファーに横になって寝ていた(演技だった)彼を起こして強引にベッドに連れてきた。
    「ねえ、この世界の不思議をいくつ見つけた?」
    「疲れてる……」
    「わかった。また今度」

    「……ひとつ。太陽の運行を取り入れた太陰太陽暦を採用しているのに太陰暦を名乗っている」
    「……太陽が嫌われる理由を考えてた。熱だ。____」

    「ここが、こどもの国かもしれないってことお忘れなく」ジェリーがにやけた。「どんな?」

    「例えば?地面から芽生えた花を神様が大切に育てすぎたため茎は伸びに伸びて太陽になりました。太陽が熟して種の雨を降らして、翌年たくさんの太陽が咲きました。あまりにも熱くまわりのものを燃やしてしまうので大__が訪れました。神様は、あまりにも熱いので夜を作りました。それでも熱すぎたため、神様は怒って茎を切り落としました。そして子どもを切られて悲しんだ太陽は自分の茎を枯らして神様の手の届かない場所でいまも咲いています。太陽の種は夜になると輝きます。ですがあまりに地面から離れすぎているため芽をだすことはありません。おわり」
     ジェリーはにやけた。「月は……?」
    「月は……神様よ?」

    「こどもの国かもしれない、か……大人を拐ってなにをさせたいんだろうな?な?」
    「おままごと」
    「なあ、どんな子供だった?ジャングルガールだったりしたか?」
    「まさか、__だったの。鉱石を掘ってた。__地区が好きだった。店で気に入った商品を見つけたら主人に話をつけて職人を訪ねるような子供だった」ジェリーは眠っていると思った。彼は目を開けて言った。「最高だな」

    「手料理も旨かった……」そう言って目を閉じた。彼はそのまま眠った。食べ残したくせに。食べ物を粗末にするとバチが当たるわよ?


    今朝は空気がとても澄んでいると思った。木々の枝がぴんと張り、瑞々しい葉っぱが生き生きとしている。世界の美しさを考えていたけれど、人はそうでもないことを思いだしはじめてもいた。アレックスがいなかったら私はどうなっていたんだろう?と考えてからぞっとした。――アレックスはどこに行ったの?



     アレックスはドアの隙間に爪先を入れた。
    「奴はいるか?リチャード!話があるんだ。訓練のことで」
    「知らない」
    「今朝、あんたと一緒に居るのを見たんだ」

    「一切手伝わないわよ。ちょっと、__。」チャールズは物陰にいる。



    「硬貨は払う。いくらだ?……俺にはあの薬がいる……」
    「オーケー、それじゃあ」ゴーストは金槌を手に取った。
    「いい?ここにジェリーはいない。いまから5秒数える。だから、足を引っ込めてないと、靴に穴が開くから!」ガキィーンッ!思いきり金槌を地面に叩きつけた。アレックスは脚を引っ込めた。バタンッ!彼女はドアを勢いよく閉めた。「くそっ」という声がドア越しに聞こえた。私は彼の側に寄り囁いた。「朝食いるでしょ?」彼はうなずいた。だが、アレックスはあくまでも引き下がらないつもりだ。
    「チャールズッ!……へへッ……そこにいるんだろう?」彼の不気味な笑い声を聞いたハンマーガールこと私は目を細めて聞いた。「彼、解錠くらい朝飯前よね?」ジェリーの目は「もちろん」と語っている。
     扉前にはアレックスが立っていた。ただ彼は銃を手にしていた。「チャールズ……頼むから、俺に、銃を、向けさせないでくれ……」チャールズは手を挙げた。私も。――あらあら、ずいぶんごついオーパーツを『こどもの国』に持ってきちゃったのね。と思うだけの余裕はあった。
    「……持ってきてくれないか?」

    「あんたは俺を撃たない。俺に……」
    「聞きたくない!……早く、……もう、待てない……」「わかってくれ……」


    「薬ならここ、私が持ってる。バラトリールよね。緊張や不安を和らげる精神安定剤。だけど依存性と副作用が強烈よ」

    「私に銃をむけなさいよ。わかった?」「ゴースト……」「いいのよ、だけどこれが済んだら私の好きにさせてもらうわよ」ジェリーは困惑顔を浮かべた。アレックスは銃を私に向けた。
    「昨日、ジェリーがあんたの小瓶を持って訪ねてきた。急ぎで。中身を調べてほしいって。バラトリール。どうしてこれよ?ほとんど覚醒剤じゃないの」
    「中毒死だってありうる。あんたの人生に何があったかなんてどうでもいいけど、糞みたいな人生に轢かれて死ぬのってなんだか惨めよ」
    「ミアを護るって言ったんだから。責任もって護んなさい。薬なしで」

    「アレックス、天国にいる息子さんのためにも、もうひと踏ん張りできないか?」

    「俺には、親の……息子を思う資格は……ない」

    「以前にマイケルという男に……そっくりそのままなことを言われたよ。はは……一度は、そう……克服した。……息子のために」
    「俺の息子……」
    「時々、思う。闇の組織に振りまわされて、自分は幸せとは程遠い場所にいると感じるときがある。そんなときに、あの子は俺に寄り添ってくれた……いつも。俺はこの子のために、まだ頑張れると……そう思えばいくらでも踏ん張れた」
    「だが、どうだ?闇は俺の家に来た。俺の息子を殺した。まだ__歳だったんだ。妻も、帰る家まで失った……燃やされたからな」
    「遺体…の……写真を見た。なぜ……お前らは……人を、殺す?」
    「あのときの俺には、仲間がいた。……だけど、闇を綺麗に取り払った後、俺だけが独り取り残された……息子の幻覚を……見るようになったよ。俺の気持ちを……お前らに理解されてたまるか」

    「お前らは、世間の最も危険で最悪な人種なんだよ。牢獄に入っているべきなのに」
    「よこせ」ジェリーは胸元から小瓶をだした。「こんなことになって残念だよ。アレックス」
    もの悲しそうに小瓶を床に置いて後ずさった。私も同じく。アレックスは銃を向けたまま小瓶を拾うと数歩下がり小瓶を開け――銃声が響いた。アレックスは左脚を抑えた。私はアレックスの銃を蹴った。ジェリーは私の銃を横目で見た。彼は小瓶を拾いあげ胸元にもどした。
    「だって、薬中なんか説得したことないから」
    「はやく医療室へ運びましょう」




    私はフルーツバスケットを抱えたゴーストを部屋に招きいれた。暫くアレックスは床に伏すとのことだった。様子なんか見てないでもっとはやくに医者に見せればよかったと後悔した。
     ゴーストは窓の外を眺めていた。「そこ。しおれてたはずのアイビーが復活した」
     窓が震えだした。
    「ったく、この地揺れなによ?浮島って地震とは無縁なはずでしょ?」
    「おかしいといえば、大広間に変わったやつがいた。小柄で恰幅のいい女性。牡鹿月と雪月からかなりの人気をもらってる」
    「だけど会話がおかしいの。あいつら、彼女は獣人を倒す!って歌ってたんだけど。彼女が?そこで適当な人に聞いた。獣人ってほかにいるのって?そいつ、にんまりして言ったの。いないよ。獣人はね!って。このことについてジェリーがものすごい気にしてて」

    「言っちゃなんだけど、彼女弱そ」

    「ジェリーとエッチした?」「え?、なんて純粋な眼をして聞くの?」

    「しない。私たち、恋人同士じゃないのよ」
    「やっぱり彼の恋愛偏差値って底辺なのね」

    「あぁ……んん、そうみたい」チャールズが入ってきていた。立っている。「誰の?」
     チャールズはアレックスの私物の物色をはじめた。「毒が必要になる」
    「できる限りの大量の毒をかき集めて持ってきてくれ!__とかそういう強力なやつだ」
    「……あの女はちっとも『弱そ』じゃない。恐ろしい女だ」

    「ミア、これを大狼の爪に塗るといい」
    「……昨日のことはすまなかった」
    「私も謝りたい。貴方が彼女のこと愛してるなんてこれっぽっちも知らなかったの。彼女には2度とひどいことしないから……」
    「どうしてそんなふうに私たちのことを思うんだろう」木を筒状に削りだした。
    「でも、彼女はあなたに愛されたがってる。愛してあげてよ」
    「よしてくれ、俺がお人形に見えるか」私は唇を尖らせた。「子供扱いしないでっ」

    「こういう話はよそう」それきり黙り。
    「持ってきた」「これで足りる?」

    「ああそれ。素敵なおもちゃ作ってるわね」

    「だろ?」


    ――毛根から毛先の先っちょまで。ミア。そして、私のもの。私はこのお話の先を知らないの。だって、チャールズは、自分のお話ししてくれないんだもの。
    ――だから私が主人公でいられるのも、もう少し先までなのよ。
    ――まぁ、聞いたところでちんぷんかんぷん。頭がごっちゃになってしまう。

    ⚠️通路を歩くミアの前に肉が横に張り出した体格の女。
    ――神様に横に引っ張られたの?そんなに横に張り出して。あの人が相対するひとは誰?仲良しは誰?私たちの敵なの?
    ――ああ、違ったわ。あれは最近入れ替わった売店の娘よ。



    【宴の間】
    『チンッ、カンカンカンカッ』
    まず、越境者の存在が周りの目を引いた。次に海狸月の盗賊が皿を叩く音が注意を引いた。その次に、牡鹿月が歌うようにして叫んだ。
     いつも雪月と歌っているような祭りの歌なんだろう。やっぱりな
     歌い出しはキャスリンが何処から来たか、なにをするとこんな凄いことがおこるとか。概ねありそうにないことを伝えていた。井戸水のような富を友人たちに贈るとか――などと思っているうちに、自分が川劇変面を見ていることに気がついた。いや、気づくのに遅すぎたくらいだ。
     なんとキャスリンは、川劇変面を興じながらうねうねと踊り、盗賊気質の若者たちが演奏をはじめていた。
    それだけでなく、歌い手までいる。
    『ヴォッ、ヴォッ、ヴォッ、ヴォッ』のリズムにのせてムシカが唄う。
    「雪月は牡鹿月の手をとり踊る」
    「寒月と蝶鮫月は仲違い」
    「花月はお薬屋さん、苺月は子だくさん」
    「収穫月は金持ちだから、海狸月に気をつけて」
    「狩猟月はお外が大好き」
    「芋虫月は引きこもり、桃色月は人助け」
    「常闇月に大混乱、尻尾を小股にいれる狼月」

    『タン、タン、タン、タン、タン、タン、タン、タンタッ』
     元はキャスリンだった頭がくるくるとまわりはじめた。横に、横に、縦に、その間にも次々と顔が変化していく……こいつは、恐ろしい。
     雪月が大いに喜び、合いの手をおくった。
     こんなもの定命の者がまともに見ようともすれば失神してしまうだろう。

    『タカタンッ、タカタンッ、タカタンッ、タカタンッ、タカタンッ、タカタンッ、タカタンッ、タカタンッ』
     苺禾が顔を暗くして近づいてきた。やはりか、私も気になる人物がいる。
     苺禾がムシカを見つめている。
    「彼、アンシュだと思う?」
     チャールズの声は楽器にかき消された。
    『ヴォーーッ……ヴォーーッ……ヴォーーッ……』
    『ブオオオォォッブオオオォォォッ……ヴォッヴォッヴォッヴォッヴォッ――』

    『ブオオオオオォォん』キャスリンの顔に大きな布がかけられた。四本の腕が肩から生まれた。あの上の二本腕を天に上げてる動きは、まさしく、
     下の二本腕をリズムに合わせてうねうねとくねらせて踊った。

    「気がかりに思うことがいくつかあってね。」これも音にかき消されて彼女の耳には届かない。

    『ヴウォッ、ヴォッ、ブオオヴォウッ、ヴウァッヴ、ヴァヴォウァッ!』
    『ヴウォッ、ヴォッ、ブオオヴォウッ、ヴウァッヴ、ヴァヴォウォッ!』
    『ヴウォッ、ヴォッ、ブオオヴォウッ、ヴウァッヴ!』
     腕が布の掛けられた頭部を180度回転させ、布が引き抜かれて群衆の前に露になった頭部は――象だった。それも人の顔がついた象。片足を膝の前で組をだその姿はヒンドゥー教に登場した象頭神ガネーシャだった。ふっとわいたシミターが四つの手に握られた。
    『ダンッ、ダンッ』とリズムに合わせて地面を踏み鳴らし地揺れを起こした。

    「神の前に、礼拝の仕草をして立ち、贈り物を捧げる者はここにいない」チャールズは楽器と地鳴りに自分の声がかき消されていることを知りながらも話を続けた。
    『カンコン、カンコン、カンコン、カンコン、カンコン、カンコン、カンコン、カンコン、カンコンカ』



    いつも通り水瓶で身体を清めた後地下聖堂に降りて蓋が空いている棺のなかに横たわる。周りの棺は蓋が閉じられている。棺の蓋を何度も開ける妄想に夢中になったことがある。__の呪文の熱唱を聞いているうちに身体が熱くなる。そうして訓練所に置き晒しの身体のまぶたが開いた。訓練所の様子はいつもと変わらない。
     私の目は、例の新入りを探した。いた。牡鹿月と雪月と盗賊の人たちに大人気だっていう例の恰幅のいい女はあの人かぁ。確かに、弱そう。神様に槌で叩かれたの?ちっちゃくて、神様に横に引っ張られたの?肥えていてアザラシみたい。――アザラシの獣人は男か女かどっちともとれる人の頭をなでた。主と従者の間柄だった。

    角笛が吹き鳴らされた。

     私が大狼に変身するときも彼女は穏やかな顔で咆哮をきいていた。彼女はシミターが収まっている鞘からシミターの柄を掴んで引き抜いた。――いいの?だって貴女は肥えていて動きは鈍いのに。
     
     とここで牡鹿月の仲間に骸骨候と呼ばれている男が12時の方向から迫ってきた。拳で刃を受け止めて投げ飛ばす。7時の方向からトアマンド、と見せかけて6時と5時の方向から雪月のドワマルたち。いや彼らはそのまま走り抜けた。トアマンドが鬨の声をあげながら鈍器を後頭部に激しく叩き打った。さすがの大狼も星がちらついた。
     続けてドワマルが脚を、トアマンドがアキレス腱を激しく叩き打つ。何度も。それはちっとも痛くない。
     アザラシは一体何をしているの?腕を後ろに組んでのんびり見学?

     何者かが背中を駆けあがった。脛椎を狙ったひとさ刺し。そして狼の頭を踏んづけた。私の爪が引っ掻く前にムシカが軽々とした身のこなしで宙を飛んだ。身をひねり。とんと着地した。「かってぇ」
     そうよ、巨狼の皮膚は強硬なの。弓でなきゃ無理よ。
     アザラシはきっと軟らかいわね。
     大狼はキャスリンのほうに振り向いて、腕を上にあげてしなる鞭のように振り下ろした。口から悲鳴がほとばしる。
     キャスリンは大狼の爪を右腕の力だけで受け止めてみせた。刃が深々と手のひらに食い込んだと思ったらそのまま手の甲を貫通した。私は刃を凝視した。彼女は刃を鞘に戻した。

     私は素早く蹴りあげた。彼女はあんな体なのに身を交わした、と思ったら次にはムシカの手の平に乗ってる。これって、どういうこと?
     視界がかしぐ。――あれ?私の頭は地面のうえ?どうして私の体はそっちにあるの?私は目をぱちくりさせたのち闇に呑まれた。水中のなかで目覚がめたけど、状況がわからなかった私は水を大量に飲んで溺れかけた。水槽からあがってゴーストがべそをかいていた。そこで終了の角笛が鳴った。――え?


     一瞬の出来事だった――。


    あのあとあの女はミアの尻尾を切断した。雪月や盗賊系の収穫月、海狸月は思い思いに毛皮を求めた。あの女は彼らのために毛皮を剥いでやっている。ジェリーを真似て爪を持っていこうとする者もいた。――大狼のお肉屋さん……
     ミアが肉の塊になってく。私はどうすることもできずに見ることしかできなかった。ジェリーは石を見るような不気味な顔で成り行きを見守っていた。
    「常闇月……13番目の月名だ。まだ歴史が太陰太陽暦を採用していたころ、俺たちが閏月と呼んでいたあれ。でも、どうして神の力を授かるんだろう」
    「なに言ってんのかわからないジェリー」
    「彼女はヒンドゥー教の像頭神の力を授かったようなんだ」ヒンドゥー教?
    「今朝の地震は彼女が躍りで引き起こした」
    「じゃあ世界のどっかにはゴジラもキングギドラもいるわね」
    「太陽は関係なかったんだ。なんだ。豆の木ジャックを本気で信じはじめてきたところだったのに」
    「……ジャックの豆の木、だ」
    「ねえ、ミアがメチャクチャになってきた。あんた、なにも感じないの?」
    「俺たちにできることはないよ……」
    「ゴースト落ち着こう……」
    「あんたは落ち着きすぎ」
    「もしもの事態を想定しているんだね……魂を送る呪詛を聞きそびれたら、本物は棺のなかで永久の眠りにつくかもしれないな。そうなったら__は彼女を破棄せざるおえなくなるだろうな」
    「あんたが持ってるオモチャ貸して!」
    「おい」
    「なに?だって――はっ」あんたがポンコツだから「……それ、欲しいし」

    「待て……。あんたは、ミアに身体の大部分を食べられても問題はなかった」
    「えっ?、じゃあ、あんたが私の脳みそを彼女の胃から吐き出させたって話はウソ?」

    「ファンタジー世界の住人になる素質が君には充分にあるんじゃないか?」
    「あんたがいない世界なんてお断り」


    「俺は彼女たちに近づこうと思ってる。『外』の情報が欲しい」ゴーストが不安そうな顔を見せる。
    「だから君にはミアを護ってほしいと思ってる」
    「そ。やっぱり。時計目当てだった」ジェリーはトドのほうへ歩いていった。私はミア集めを。


     適当な雪月の戦士に吹き矢を使っていると、なにものかがぶつかってきた。獣の頭から下は人間の形をしていた。うわっ。
     ワーラットは成人男性の膝程度の背丈しかない。
     やだっ、針が心臓に刺さってる!



    チャールズはムシカに近づいた。近くにキャスリンがいるため彼女は警戒した。変身を解いた姿のムシカが立ちはだかる。ドリミア族に敬意を払う。

    ⚠️チャールズはキャスリンに接触を謀るため。ムシカに挨拶を試みる。アンシュの話題を。

     ムシカの背後でゴーストがミアを集めている。

    「その名は限られたものしか知らない。この界隈の者しか知らないね。稼ぎ頭だったから。あんなひどいことになって残念だよ」その言葉の意味することはひとつ。アンシュは苺禾や街人が思い描いたような善い義賊ではないということだ。

    「あんな獣に姿を変えられてしまうなんて」
    ⚠️アンシュを鼠に変えた魔法使いを話題にいれる。
    「ふうん。ひょっとして養蜂場のひと?」
    「友だった。実はこの国の門を潜れたのもアンシュのおかげでした。そのうち共通の友人を介して顔を合わせる機会が増えましたね」ムシカがうなずいた。

    「なるほど。じゃぁ彼女が例の」
    「彼女はあちら」

    「ふうん。話が見えてきたよ。その、あんたがアンシュのためにしたこと、アンシュとあんたに敬意を払ってキャスリンと話をつけてきてあげる。」
    「そうだ。私はシュリア。男に見える?っつーのも、ドリミアっつーのは、他の種族には性別の区別ができないみたいで」


    ゴーストは手に弓を握っていた。天めがけて弓矢を放った。これが意味することはひとつ。
    「足止めしてくれたでしょ。ありがとう。」

    「あの鼠の獣人、手強いわよ」汗をびっしょりかいていた。シュリアの安否が気がかりだ。彼は主に報告をしている。と、キャスリンがシュリアの頭にシミターを置いた。すると弓矢が剣に跳ね返り地面に落ちた。

    「……君の生まれはアメリカか」
    「アメリカ。なに?」
    「彼ないし彼女がムシカと呼ばれているということを考えてみたか?ゴースト?」
    「あの人が、ガネーシャの乗り物だといったら?」「ゴースト……」

    「ちょっと待って……」
    「鼠。知ってる。でもね……はあ」
    「軽々とあのまんまる大福餅を持ち上げたのよ。それも片腕で」
    「は。13月神の恩恵を受けているからでしょ。でもね……はあ、まったく」

    「そのおり。その鼠の元を辿れば、ガンダルヴァという神族にあたる。半鳥人種で神々のために音楽を奏でる役割を担っていた。ところが、ある日、ムシカはうっかりして神様の足を踏んでしまった。神の怒りを買い呪いにかけられたムシカは姿を鼠に変えられてしまった。鼠はガネーシャの友人の前に姿を見せたが、その度に彼を困らせた。そこでガネーシャは鼠を捕まえて自分のヴァーハラにしてしまったんだよ」

    「もおっ、だから、どおしてこっち側の神話が反映されんのよ」

    「不思議だなとおもう。彼はこの世界の住民であるにも関わらずムシカの力を授かった。ひょっとしたら、月宮殿にくる前に、キャスリンとはちょっとした物語があったのかもしれないな」
     ゴーストはジェリーをまっすぐ見つめた。汗の玉が転がり落ちる。視線の先に苺禾がいて、彼女は怯えた目つきでジェリーを見つめている。
     ゴーストは現実に打ちのめされた。ちょっとした物語があったのかもしれないね……
     ゴーストはポケットに手を突っ込んで見るともなしに地面を見つめている。
    「どんな物語よ?」ジェリーは黙ったままだ。ゴーストは一歩後ろに下がってジェリーから離れた。


    水槽からあがったゴーストはミアの水槽の縁に腰かけた。彼女の継ぎ接ぎの皮を見ていたら実家のパッチワークソファーを思いだした。
    ――……だから、どんな物語よ

    ――異世界で生きていく……?

    ・チャールズ・ヘイルが召喚される。風景ががらりと変わったことに困惑。
    彼はその場を直ぐには動かずに都会の喧騒を、幻覚から目覚めることをじっと待つ。
    ・やがて諦める。あと数時間で日がくれる。
    ・チャールズ・ヘイルに異世界だと最初に知らせたものは、人間の骨が集められたなにかの巣と主の羽根、そしてデカイ鳥の足跡だった。
    ・チャールズは空を見上げながら主が帰る前までには離れることにする。鳥の視覚の蘊蓄をたれる。

    ・人の足跡の轍に近寄る。数人、大股で早歩き。人が近くにいる。
    ・遠目から野伏らしいグループを見る。商人や貴族を襲いその日暮らしをしているような連中か。
    ・突然、別グループか仲間のひとりが姿を現した。ボウガンを構えていた。ヘイルは捕まった。性別不明の野伏が笛を吹いた。

     皆が童顔の人形顔で性別の区別がつかず少年とも青年とも区別がつかない外見の者たちがこちらに寄ってきた。
    「おい、あんた稀人か……」
    ・自分たちはドリミアだという。ヘイルの亜種発言に唾を吐いた。

    「ついてるな」
    ・霞みの国を見つけるのは困難だ。魔物や奴隷商人狩りをしているストライダーが徘徊しているが彼らは国を嫌うため入国の手伝いはしない。
    「霞みの国に入れてやろう」

    ・チャールズが月読国を発見する。入国するが、ドリミアとは別の道を行く。
    アチャックという名前の干し肉をベルトがわりにして腰に巻いている男と出会う。野伏のような身なりだが。買い出しをする金はある。
    「また迷いこんだか……」アチャック
    「力のある、金持ちの貴族は王のまわりに集まってくる。そして、力と金の存在するところには腐敗も存在するよ」アチャック
    「連中は手癖が悪い」「気をつけな」
     アチャックが答えた。「ドリミアが率いているような盗賊団は、都市の腐敗を食い物にする鼠だ。そして、鼠と同じように、彼らを完全に根絶するなど不可能だね」
    ・間違いなくアチャックはストライダーだろう。

    本屋は立ち読み厳禁ということらしい。主人に暦を訪ねた。本を買えと言われた。
     浮浪児の乙女が風のように走り去っていった。白かった。
     骨董品店に入る前に、男と女ともつかない小柄な人が風のように通りすぎていった。その背中を息も絶え絶えの衛兵が追いかけていった。屋根に軽々と上がった風は視界から消えた。衛兵は建物脇の細い路地に入った。
    ドリミアというのは盗賊気質らしい。

     花売り娘。同じ世界からやって来た娘が春を売っている。花かごを持って。まったく、やめてくれ。酒場の出入口から先程の男か女か区別のつかない者がでてきて花売りを抱きとめた。あれはぶつかったふりだ。衛兵がでてくる。

     花かごになにかをいれた。義賊か。

    ・義賊の噂をかき集める。とにかく情報収集をさせる。
    ・義賊に近づく。人形顔の義賊もチャールズが本屋から本をくすねていることを指摘した。盗む話をする。

    ・アンシュの提案で、使われてない部屋に泊まる。(浮島の間下にたくさん空き家屋がある)
    ・太陽の運行を調べ、盗んだ本で歴史を調べ、太陰太陽暦、地球とまったく同じなんて。だいたい合っていそうな世界地図を見て大陸は異なることを知る。
    「この世界の何が魔法の世界たらしめている?」チャールズは混乱する。
     
    ・アンシュに訊ねる。「なにがって……それは考えたこともなかった。神様とかじゃない?越境者どもから聞く噂だと神様っていうのは国の数ほどいるんだとさ。だから神様が12人以上いるってところまでは理解できる。俺が理解できるのはここまでだ」

    ・娘は宝石を売らない。受け取った金も使わない。
    ・アンシュは花売りの鞄に蝋燭を忍ばせた。「蝋燭のほうが」アンシュは言った。「だけど……持ってない」
    ・アンシュは「春を売るな」と言い、お香を持たせる。ぴったりの売り文句はお香で時間をはかりましょう。アンシュは夜に彼女を探す。馬小屋の隅で三角座りで眠っている。

    ・アンシュは魔法使いに捕まる。魔法の力で鼠にされてしまう。路地に宝石が散らばった。
     鼠のアンシュは恐る恐る__に飛び込んだ。
     アンシュの部屋にあの鼠がいた。本人だ。鼠と会話。

    ・花売りは騎士に見張られる(オーパーツ処理班)

    ・ヘイルはいつも通り、歴史を調べていた。
    ・アンシュは鼠になっても義賊をやめていなかった。
    ・娘は装飾品を金に変えないし、施し金も使わない。


    ・ヘイルは教会が所有する養蜂場の箱から勝手に蜜蝋を取る。
    ・集め終えた材料を部屋に。蜂蜜蝋燭をつくる。蜜蜂について色々思いを馳せながら。アンシュが前肢を器用に使って蜂蜜をペロペロ舐める。

    ・「蝋燭を」ヘイルは彼女に蜂蜜蝋燭を手わたす。ドライフラワーを飾るといいんじゃないか。「素晴らしいアイデアね。ありがとう」

    ・ドライフラワーをあしらった蜂蜜蝋燭は売れた。娼婦の館の出窓に置かれた。
    ・ヘイルは養蜂場に出向き、蜜蝋を売ってくれるよう説得する。
    ・彼女に説明をしに行く。すれ違い様に婦人から果実をスル。果実を彼女に差しだす。「また、ありがとう」苺禾「名前を聞かないのね?」
    「私、苺朱」
    「い、ち、か」発音しにくそう。
    「貴方の名前は?」
    「……チャールズ」「チャールズ・ヴェスパシアン・ヘイル」
    「ヘイルさん。でも、わからない。どうしてそこまで親切にしてくれるの?」
    ・一連のアンシュがやったことを苺禾はヘイルの仕業だと思いこんでいる。
    ・ヘイルは苺禾と力をあわせてアロマキャンドルや蜜蝋蝋燭を売り初める。
    ・害虫対策の蝋燭まで。
    ・本格的な取り組みに挑みがちなヘイルは森の中に箱を設置する。若い女王蜂を誘うために。

    ・大きく抉れた土地の真ん中に巨木。根元に浮浪児の女の子がいた。アルビノだろう。琥珀を見つめている。

    「箱を持って歩いてた」養蜂はじめようかと思って。
    「初めの蜜蝋はどこから?」苺禾の問いかけにチャールズははぐらかした。
    ・苺禾は月宮殿送りを危惧してる。「捕まらないさ」

    ・共通の話題をふる。
    「貴方も」
    「2020年から来たの」
    「それじゃあ、君は未来から来たんだ」

    「琥珀がすき」
    「圧縮琥珀だったけど金猫のブローチを持ってたの。彼氏、元気かな……」
     だが、チャールズ・ヘイルは話を聞いているようで聞いてない。
     今の松の琥珀は化石にならない蘊蓄をした。
    「200種類の色があるのね……」
    「ホワイトアンバー、ピンクアンバー、カリビアングリーンアンバー、レッドアンバー、ブルーアンバー……」

    ・デザイン重視のインパクトピアス。2色使い。「ピンクアンバー、ホワイトアンバーが欲しい」ピンクジェード(翡翠)

    ・ヘイルは2つの琥珀を擦って電気を起こす。アンシュがビックリして跳び跳ねた。苺禾が笑った。「ファンシーラット?」

    ・養蜂場の主が部屋を貸すと言う。息子を紹介する。アンシュは苺禾のところへ転がる。もっていかれると危惧した。
     

    「それで、誘われたの」
     彼女は自分があまりにも幼く見えるからといって、背伸びをしない。

     服を新調したんだね。薄いピンク。背伸びをしないタイプか。大変よろしい。
    「綺麗だよ」
    「主の嫁からは腰が細いから、健全な子供を産むのは難しそうだと言われたわ。ほんとに古い時代に来ちゃった」
    「__」

    「歩かないか?」外を歩こうと誘う身振り。

     白い風が駆け抜けた。かなり有名な浮浪児だ。
     おっと、彼女を抱き寄せた。彼女はすぐに離れた。手を離してと言った。
    「美しいわ……」
    「見かけるとき大抵走ってるの」
    「理由はわかるわ。街の乏しさをみればね」
    「灰色の風はやんでしまった」傍らにいるよ。彼は鼠になったんだよ。

    「結婚を考えてる。彼の子供を産むの」
    「それは、またどうして?」
    「愛してなんかないわ。保全策」
    「それじゃこれはどうかな。僕が君に『愛してるから結婚してください』と言ったら、君は、僕との結婚を考えてくれるのかな?」
    「……それはないわ」
    「どうして?」
    「嫌いだから」
     

    ・衛兵が苺禾の元にきた。
    ・アンシュが牧場主の息子を成敗したらしい。苺禾が衛兵に付き添われて牧場へ。

    「毒殺……」
    「でも、私……」
     主が連れていけと言ったから、苺朱は月宮殿送りにされる。

     ヘイル、魔法使いを誘拐。拷問、脅してアンシュを人間に戻す。アンシュは人間に戻るどころか化け物に。堪えられず塔から落下。ヘイルは魔法使いを殺した。雇い主の貴族を殺す。

     苺朱を助けようとする。苺禾は顔を背けて呟いた。「許せない……」最後に聞いた言葉だった。「私を人殺しにして許せない」

    アレックスは幻覚を見ていた。息子の幻覚を。息子の叫びを、炎に焼かれていく姿を、自分はなにもしてやれず、助けに行こうにも足が言うことを聞いてくれない。息子の名前を呼ばわった。炎が家を焼く音しか聞こえなくなる。
     目覚めると自分が汗まみれで、白い部屋の質素なベッドに紐でくくりつけられているのをゆっくりと、嫌でも思いだした。――だから……薬が……。
     マイケル・スコフィールドやリンカーン・バローズの言葉が反復する。ああ、それを言ったのは……ウォッチメイカーのほうだったかもしれない……――

     ……人殺し……

    「誰か……いないか」「……おい」水……

    ――男の足音。ああ、まったく。アレックスは男から顔を背けた。今一番嫌悪する類いの人間であることには違いなかった。
     紐を解く音。右手は自由になった。サイドテーブルにグラスが置かれる音を聞き取った。
    「アレックス」知らない声のほうへ顔を向けた。くそ、声に騙された。チャールズ・ヴェスパシアン・ヘイルが立っていた。耳まで……
    「効きそうなものを持ってきた」

    「はっ……」アレックスは鼻で笑った。信じていないという感じだった。

    「効きそうなものだと?お前にしては……ずいぶんと、曖昧な表現を使ったな。……効かないんだろ?え?」
    「最初の頃のガッツをいくらか取り戻したんじゃないか?な」
     癇癪が発動した。チャールズに水を吹っ掛けた。パリパリに糊の効いたスラックスに水が襲いかかり灰色の染みを作った。

    「いいさ……」そう言いながら、染みには目もくれず、見とれるような手さばきで茶葉を__。漢方薬と混ぜているのだろうか。
    「俺の世話はしなくていい」
     プロセスを見ているうちに気持ちが落ち着いてきた。妙な安堵感を覚えざるおえなかった。
     
    「本音を言うと、月宮殿から脱けだせたら、と思ってる」
    「…………ははっ、……ははは」

    「月宮殿承諾の元に旅をしていた訓練生が先日戻ってきた。彼女たちから話を聞いたところ、__だそうだ」
    「そこで、俺は、彼女たちの次の旅に同行すると決めた」

    「この茶葉と漢方薬は彼女たちが外から持ち込んだものさ。月宮殿の者にとって彼女たちは越境者ということらしい」
     アレックスはグラスを手に持つと口に近づけた。
    「その饅頭を先に口につけたほうがいいよ。苦味を緩和してくれる」
     アレックスはお茶を先に口をつけていた。日本独特の風味がする。
    「ぅゎ……んん、日本……水を」渋っ面をつくって言った。水を欲していた。水を受け取り流し込んだ。
    「日本……。あることを知ったとしても、たいして驚きはしないかな」チャールズはかぶりを振った。
    「……なにか、あったな」
    「恐らく、このオズの国には、もといた世界で考えうるあらゆる想像上の生物が混在していると思う」

    「待て、あんたは、俺に12月神の話をしてくれたばかりじゃないか」
    「あれからすぐに__されたんだよ。復帰次第、あんたも像頭神と鼠のペアをその目で見る」アレックスはぽかんと口を開けていた。アレックスはかぶりを振った。チャールズは立ち上がって__に置いておいた酒瓶を持ってきた。アレックスのグラスになみなみと琥珀色の液体を注いでサイドテーブルに置いた。「ありがとう」それからチャールズは自分のグラスに注いで口をつけた。ふたりは酒をあおりはじめた。

    「急がなくていい。私も楽しんでるから」
     自分の好敵手であるリンカーン・ライムの話を持ちだした。アレックスもリンカーンのことはよく知っていた。一緒に仕事をしたことがある。

     アレックスのFBI時代を聞く。
    「私が君なら休めない。……さぞ大変だろう。友達や家族とも距離ができる。悪者を追いかけてばかりだと。そんな毎日では……とても孤独になる」
    「息子さんがいて、幸運だったと思う。俺には時計しかない」
    「……人を助けて命を救う。君がやっていることは、実に立派な仕事だよ。誇りに思っていたはずだよ」

    「いつか、暗闇の話をしたな」
    「あんたには……ポリシーがある。恐らく……子供は殺さない……。……そうなんだろ?」
    「君は助からないが……」
    「あんたのことをどうするか決めるよ」

    「もう一杯いく、な?」チャールズが言った。チャールズは酔っていた。彼の精神に相当な負荷がかかったようだ。
    「チャールズ……その辺にしておけよ」
    「……わかった」そう言いながらグラスに液体を注いでいる。像頭神を見たのか。人の体に像の首が乗っかっているのだから。強烈だろうと思う。想像上の生物との遭遇に精神の負荷が相当にかかる人間を未知の冒険に出していいわけがない。

    「俺には好きな女がいる。悲しいかな。恐らく彼女は、俺のことを腹の底から憎んでる。彼女は、俺が外で人を殺したのを知ってるからね。冤罪をかけられた原因は俺にある」「彼女には近づけない」

    「そうだ。彼女には近づくな……好かれることはない。お互いにそれ以上傷つかないためにも距離を置くことだ……」アレックスがきっぱりと言った。
     チャールズが酒をあおいだ。そして言った。
    「我々が見、あるいは見ていると思う全てのものが、夢の又 夢であるに過ぎない」エドガー・アラン・ポーか。アレックスもいくつか詩を思いだした。


    「謎解きなんかさせないで…」
     苺禾はいつも線の細い男と一緒にいる。彼女の言葉を借りて言えば保全策。だが、今日はずっと一人きりだ。
     彼も冤罪なのよ。目がチャールズ・ヘイルを追いかけていた。朝、義賊の彼に似た人を見つけた。像頭神を見てしまった。異様な雰囲気に逃げ出したかったけど、像頭神を凝視しているチャールズの隣に立って一緒に躍りを最後まで見た。訓練所では、いつもの女性とお喋りしているのを見ていたら胸が騒ぎだした。いつも怪獣みたいに暴れる女に気に入った男を取られたくないと思った。でも、あの輪には入りたくない。


     アレックスはいくらか酒酔いしていた。だから__は幻聴かもしれない。
     華奢な小柄な女性が座っていた。チャールズの想い人だった。

    「私はチャールズ・ヘイルとは共通の友人を通して知り合ったの。その友人は、当時春を売ってた私を心配してね、お金をくれた。でも、私は使わなかった。義賊だったの。あの人は、鼠にされてしまった」
    「でも、不思議、ポケットの中に、かごに、宝石や硬貨がはいってる。不思議な日が続いたわ」
    「義賊とチャールズがよく一緒にいるのを見ていたわ。それで、チャールズに声をかけられた。はじめて。チャールズは、私に蜂蜜蝋燭をくれた。義賊の鼠も一緒だった」
    「チャールズは養蜂場の主と契約して、私に蜂蜜蝋燭の商売をもちだしたの。一緒に蜂蜜蝋燭を作って売ったわ」
    「わかるかしら?あっちのニーズにあった蝋燭をこっちで売ったって言えば。貴婦人たちに好評だった。養蜂場の主に認められて、牧場の一室を貸してもらうことになったわ」
    「私の傍らにはいつもあの鼠がいたけれど商品の質には影響ないわ」
    「牧場主の息子と縁談があった。いい保全策だと思った。それで、彼にデートに誘われた先でチャールズに相談したの」

    「彼の子供を産みたいって。その時から鼠はいなかった。彼は、縁談をはじめて知った顔を。彼は嫌がった。私の手をずっと」
    「衛兵が来て、養蜂場まで来いと言われて戻れば……婚約者が死んでた。毒殺だって」

    「私は主に指をさされて冤罪になったわよ。チャールズに疑いはかけられなかったわ、そもそも部屋に入らないの。作業場は別棟にあって牧場にはわざわざ来る理由はなかったの。けど、鼠は……いたわ。今になって思い返せばよ?あの鼠が怪しい……」
    「あの時は、私は、チャールズが殺したのだと思った。けれど、疑問と罪悪感は増すばかり」
     そういうことか。ふたりとも冤罪なんだ。鼠に罪はきせられない、か。
    「ここでも、違うわね。いままで保全を第一に考えて行動してきた。そうすることは普通なんだと思って、ね。けれど、物足りないのよ。寂しいの……。寂しいのは……あの幸福は、2度とないってわかってるから」

    「そうしたいなら、君から歩み寄らなければならない。君を想って距離をとってるだろうから」

    「ひとつ、訪ねてもいいかしら?」
    「彼、人殺しではない?」アレックスは目を背けた。彼女の硬い表情は、ここで自分がはいと答えた場合、寄りを戻そうとしているふたりの恋愛はここで切れることを示唆していた。
    「どうしてそう思うんだろう……?」

    「寒月って死の象徴なのよね。あっちの殺人者だけは嫌」
     時は残酷な秒を刻んだ。
    「君は、ジェラルド・ダンカンを知っているか?……そいつだ」
    「教えてくれてありがとう。ありがとう。話を聞いてくれて」彼女は消え入るような声をあげてパタパタと部屋をでた。アレックスはひとつため息をついた。長い夜に突入した。


    だいたいの時間を太陽の運行から察した。
    「やあ、アレックス。調子はどうかな?漢方薬だっけ?それが効いてるんじゃないか?元気そうだよ」
    「すまない。チャールズ……」チャールズの顔が一瞬曇ったように見えた。茶葉の詰まった袋と漢方薬の詰まった袋をバッグから取りだした。
    「自分でやる……ぃゃ、……やりたいんだ」チャールズはひとつうなずき、紐を解いた。
     チャールズの顔をちらりと覗き見た。穏やかな顔の裏は、ずる賢い叡智に満ちた頭脳があるのだが、発揮されるときは罪を犯そうと決めたときだ。これでよかった。世界一危険な犯罪プランナーと一緒にさせては駄目だ。
     チャールズはヤカンに水を入れはじめている。

     体勢を崩した。左膝に力が入らず折れたので左に傾いだ。倒れずにすんだ。チャールズが支える。「__」
     茶葉を__。漢方薬を__。
    「……魔法草のように見える。羽根なんじゃないか?これは」
    「不死鳥の爪と告死鳥の尾羽根、鼠の息に……__の雨音、骨鷹の頭蓋骨から脛椎」チャールズは鼻のむず痒さを感じてスンと鼻を鳴らして空気を吸った。
     アレックスが眉を寄せた。「音?」
    「ここは『こどもの国』だよ。アレックス」チャールズは笑みを浮かべた。

    「ミアはどうしてる?」アレックス
    「彼女は『吊るされた男』で養成中さ。どうして広場にいる男の子みたいに喧嘩っぱやいのかな……」
     湯飲み茶碗を手に持ち、口をつけた。音を立てずに啜った。舌で苦味を転がす。
    「和解は難しそうか?」アレックス
    「キャスリンのその日気分次第さ。ムシカと俺の共通の友人の力を貸りた。ま、見てな」
    「もう行かないと。ミアの面倒をみに。ゴーストに頼んでみたよ、ネグレクトだから駄目だ」
     チャールズが部屋を出た後で窓ガラスに何かがあたるのを見た。見覚えがあった。


    苺禾の側に線の細い男が歩み寄る。
    「2度と来ないでって言ったのよ」苺禾は足早に後にした。が、足を踏み外した。というより、階段の板が取り外されていた。盗賊系統の部屋ではよくある罠だった。足を挫いてしまったし、引っ掻き傷から血が滲んだ。
    「いいから、触らないで……」
    「医務室に行くわ、構わないで」
    「そっちじゃないわよ!」

    「……助けて」
     靴を脱いだ。そうして脱いだ靴を思い切り窓の外へ放り投げた。カツン、と壁にむなしく当たった音が聞こえた。もう片方の靴を手に持ったとき、叩き落とされた。苺禾は部屋に引摺りこまれた。男の足を蹴ろうとして階段の角に踵をぶつけた。ソファーに押し込まれた。苺禾は身体を捻って逃げようとした。何度も蹴った。体躯座りの形にホールドされた。右手で殴った。3発硬い拳に殴られた。
     男のうめき声がした。
     チャールズが立っていて、今一度男の腹を殴ったところだった。男はくず折れた。
    「酷いことを。君をいまから医務室に連れていこうと思うんだけど、君の身体を担がせてくれるかな?」

    「ねえ、だから、ウォッチメイカー」どきっ。
    「だから、あなたのことは大嫌い」
    「なにかを訊ねれば蘊蓄はたれるし、普段は寡黙だけど、じっとしていなくって、なにか始めたら……、あなたって猫のようにミステリアス。私には理解できないけど、どうして私のヒーローなんてやっているの?」
    「高ポイントを稼いだかも。まだマイナス値だってこと、理想値にはとても届きそうもないことは知らせておくわ。覚えておいて」
     片方の靴がない。
    『アレックスの靴が飛んできたわけがわかったよ』チャールズは思った。
     彼女の背中に腕をまわして上体を起こした。打撲傷を見た。

    「この程度の傷くらい、平気よ。ありがとう」
    「帰って?」
     チャールズの顔に見蕩れた。幸福を感じた。彼のほうはそうでもない。
    水槽の縁でゴーストは頬を濡らしていたように見えた。
    「待って。あんた、大丈夫?」ゴーストがミアに聞いた。顔を向け続けた「……もう、今日はじゅうぶん」
    「明日も明後日も動かなくていい。私たちには、たぶん休暇が必要」
    「私はサボるから」ゴーストは目のあたりをぬぐって言った。それきり黙りして、月宮殿に帰還してからも、食事を抜いて鋳造部屋へ向かった。それっきりその部屋に閉じこもったきりでてこない。

     今日の訓練場の様子を聞く限り、彼女の判断は正しかったみたい。私は、遅く戻ってきたチャールズに訊ねた。アレックスの容態を。

    「安定してる」
    「昨日は水吹っ掛けられてたよね?」
    「今日は女の子の甘い匂いがする」
    「ミア。あんまり話したくはないけど詮索好きだろ?彼女とはうまくいかなかったよ。彼女のこととは苺禾のことだが……」
    「う、汚いな。彼女の片方の靴を探してたせいだな。こんなこと、しなくてもよかったのに」チャールズは深いため息をついた。シャツを脱いでバスケットの中にきちんと畳んでから入れた。それから、水盤に清潔なタオルを浸し身体を拭きはじめた。
    「なびかない、そうなのね?」麻布でチャールズの背中を軽く拭いた。
    「……ミア?」
    「うまく事が運ばないわね。私も、そっちで大損をしたばかりだもの。丸顔の間抜け……満月に惚れたばっかりに狼の力を授かってしまったの。まだ猿のほうがよかったのよ」
    「もう昼には最悪に嫌われた」
    「嫌いをもらうだけで、なにもしてくれなくなるから嫌い」
     チャールズの肌にぴったり頬と身体をつけて言った。
    「そういう人間からも好かれる人間というのは__じて、自分の罪を認めて反省して、かつ、君を嫌いという人間に手を差しのべられる人間だけだよ」

    「もおいいの。彼にしてあげることはなにひとつとしてないのだから」水盤の水面に映る自分の顔を見つけた。私は、こんなに美しいなのに。
    「私を見て」
    「………」
    「やめるんだ……」チャールズは後ろに下がった。ソファーに腰をどかっとおろした。タオルで顔を拭く。そうしたら今見たものを頭から落とせると思っているかのように。
     チャールズは外に行った。


    チャールズは1人夜の月宮殿を散策した。夜風にあたってのんびりと歩く。退屈、の一言だ。だけど気のふれた少女がいる部屋に戻る気はなかった。

     なんとなく目についた教会の脇を通りかかった。入る気にはならない。馴染みのあるメロディーが耳をかすめたので、教会の前に足を止める。
    誰かが口ずさんでいるわけではなくて、スマホかなにかを通して音楽を流しているようすだ。曲に聞き入る。間違いなく『__』、しかも、フランス語ときた。ふと興味が沸いたので、静かに扉を開けて覗き見ることにした。誰もいない。
     教会に入る。結構な音量だ。音が漏れているのではないか?
     悪魔の石像……なるほど『悪魔』の部屋か。タロットと深く関連性を持ち、カードに選ばれ、そのカードの不思議な力の恩恵を授かる。
     もっともシンプルで力を持つカード『皇帝』『力』『正義』『法王』『戦車』は大抵、雪月や牡鹿月の者が引き、眠るのにもシフトを組むくらい部屋は超満員となると聞いている。
     盗賊が集中している『愚者』ほどになると空中ブランコならぬ空中ベッドというもので部屋が満たされ、実質、眠るための部屋と化すといわれている。
     戦士、盗賊の次に多い職業が僧侶と僧兵なのだが、彼ら桃色月を好むカード『節制』では、人の数も減り住み心地もだいぶ快適となる。
    『女教皇』のカードは、その性質から芋虫月や花月などを好むといわれている。
     我々、寒月や蝶鮫月はそういったカードには選ばれない。『隠者』や『運命の輪』、『太陽』などに集中しているようである。
     12月神の使者専用部屋なんてのもある。『審判』と『世界』だ。唯一『死に神』だけ空いている。

     こういったカードにはアタリとハズレがある。キャスリンの『女帝』は強力な力を持つ。生産性の極めて強いカードで、実際にキャスリンは『女帝のカード』の不思議な力をもってして生命を活性化させる。
     【越境者】の意味合いが強い『魔術師』の部屋をあたえられたムシカは、その名の通り物を運ぶ力を授かった。
     一方ハズレのカードのうちの『星のカード』を引いた苺禾は『星のカード』らしくすべてを剥奪されて路頭に迷っている。ハンマーガールであるゴーストはそもそも彼女自身が『塔のカード』の具現者だ。アレックスは『月』らしく危険な幻覚のなかを歩いている。さて、ともすれば『悪魔』に住まう者は、両性具有か?
     チャールズは悪魔の像を眺めた。
     悪魔は人を超えた次元に立つものだ。この人を超えた次元に立つためには、陰陽二分化を統合しなくてはならない。それは男女が一体化する例えで説明される。彼らは両性具有なのだ。この陰陽二極のうち、どちらかになると、その人は地上に転落する。そんな意味のカードだ。

     チャールズは悪魔の頭に手を触れた。
     空間が転移してしまった。と、思った。自分が転移したのだと気がついて足を止めた。『ウィザードリィ』のことは知らないが、
    カーブした広い廊下を

    回廊に立っていた。
     下手に動いちゃ不味いかも知れない。ぐるぐると同じ場所をめぐっている。……不味い。それとも転移を繰り返しているのか?
     こんな場所……果たして月宮殿にあっただろうか?湖が浮遊している?……いや、まさか!そうだ、これはサファイア海だ!そうだとすれば、ここは城内ということになる。ともすれば、自分は、かなり不味い状況下に置かれたのではなかろうか。
     悪い予感は当たった。自分の腕を見たが、背徳者の刻印こそ浮かんでなかったものの魔法の焼き印はしっかりと浮きあがっていた。事態は深刻さを増した。難攻不敵で名高い城に逃げ道などなかった。

     甲冑を身につけた衛兵がふたり回廊を進んでくるのがわかった。追い詰められて、捕まるのを待つしかなかった。白銀の衛兵はチャールズを見つけると、廊下を流れるように歩いていく脚が彼の周囲で乱れ、彼を回りこんでいく。
     チャールズは信じられないという顔で手を頭上にあげた。鼓動がやかましく鳴り、
     5人組の白銀の騎手はチャールズをテレポーテーションで__の間まで運んだ。
    ⚠️月読国城の謁見
     四人のロードは摩訶不思議な出で立ちをしていた。姿形がまるで同じで誰が誰かを他者に知らせるために色を使い分けている、という風なのだ。トランプの図柄に描かれているキングに似ているともいえよう。魔法生物に叡知と命を吹き込んで、主のために使える。ともかくロードはそんな印象なのだ。王は垢抜けた少年である。しかし、エンシェントだ。
     
     ロードからは、腹に響くような美声で、城内では強盗事件が相次いでいると聞かされた。12月神の使者の到着まで引き延ばされた。寒月担当の者が姿を現した。会議は再開された。私は月宮殿での知りうる限りの事を洗いざらい話した。
     使者の弁解は、脱出の力を授かる『死に神』の者の犯行ではないか?というものだった。
     寒月は頭脳明晰で身体能力も申し分ないが、あの回廊までをガーゴイルや絵画の監視を避けて通ることが実質不可能だということを指摘した。
     転移の能力者ならば。
     しかし『死に神』が来たのは今日であることが発覚して暗礁に乗りあげた。

     そこでチャールズは義賊の鼠の物語を皆に語り聞かせた。ロードの1人は、鼠はいないが、雀が時おり迷い込むのを見かけるのだという。しかし誰1人として宝石を咥えた雀など見たことがない。
     チャールズは続けた。もしも、雀に転移魔法を仕込めたとしたら。月宮殿の者の犯行だと見せ掛けたのだとしたらどうだろう?、と。

     騎士が前に進みでた。「転移魔法の__の弟子__は__で目認されておりますし。鳩レースの愛好者ですよ」と言う。それに続けと貴婦人が前に出て発言した。「その方は、帽子仕立て屋の夫に鳥の解剖図鑑を配布するくらいですから、よほど」その先を咳をしてごまかした。

    「雀の目は、主の目かな?それとも、雀自身の目かな?」ロードが聞いた。「あんな回路で何を探るというんだ」

    「『死神のカード』が登場する度に国は壊滅的損失を被る。前回は疫病が流行した」
    「国の至るところで天照人を見かけますわ!」


    __の方針で調査を進めよう。チャールズに感謝の意を述べた後、会議は閉会し解散した。チャールズは解放された。魔法で帰還できたが、自力で月宮殿まで歩いていくことにした。昨夜の散策の延長といこうか。実力のないうちは、とりわけいまは、下手に干渉をしない。ここは魔法を扱う世界だということ。

     人形師の作業風景に釘付けになる。

     夜のゴンドラは上がっていく。浮島の真下にある家屋郡のひとつの部屋から誰かがこちらを見ているような気がした。目を凝らして見る。ふむ、錯覚ではないようだ。


    噂は盗賊系統を通して呆れたほど早くひろまっていた。まずはキャスリンたちがすっ飛んできた。説明を省けるのだから、いいとしよう。
     彼女の話によると、こちらでも、いまから会議が開かれるそうだ。当然だろう。あっちやこっちに転移魔法が仕掛けられているのだ。

     大広間の、いつも自分が座る席にアレックスが座っていた。隣に腰をおろした。「おかげさまで。物事をしっかり考えられるようになった」ミアが隣に寄り添うようにして座った。

     12柱の月神の使者、今回の騒動発覚に関わる寒月の使者が2歩前に進みでた。
    『悪魔』と『死に神』の者と幾人かが行方不明だということらしい。おそらく、他所へ転移されたのだろう。蝶鮫月と狼月を総動員して捜索にあたっているのだとか。『死に神』の者が転移から脱出できていないのはなんとも腑に落ちない。

     先日は、訓練をサボってまでしてミアやアレックスの世話を焼いた。新人がどんな人物かはわからない。キャスリンとムシカはろくに見てないというし、嫌われているので苺禾に軽々しく近づけない。横の繋がりがまだまだ甘いと痛感した。では、カール・タナーやシセロはどうだろう?
     寒月の使者は言葉を続けた。城の調査隊が来ている。調査の邪魔をしないように、とのこと。

    ⚠️知り合いの元に行く!
     カールはかぶりを振った。「いんや……見てねぇ……いつもよりは少なかったぜ?」
    「少ない。ということは、木偶の坊(サボり組)が多かった、ということかな?それとも木偶の坊が減っていた……?」
    「チィっ、そぉーか……木偶の坊の数と合わねえ……深く考えなかったな」
    「ありがとう、カール。__」
     違和感に気づけても直ぐに戦闘に忙しくなるので簡単に忘れてしまうのだろう。
     シセロと最後に会話をしたのは大狼の獣人を傷つけるために弓を借りて以来だ。「あんたの力になれなくて残念だ。わたしは見てないのだ。……?あれぇ?ちょっと待て、ひゃぁ、見た、見たよ!(躍りながら手を打ち鳴らす)透明人間をわたしは見たよ!」シセロの相手をするときは穏やかな心と大きな忍耐が入り用だろ。
    「透明人間がいるとシセロが思ったときのことを、詳しく私に聞かせてくれないか?」
    「ええ、ええ!いいとも」シセロは面倒臭がるどころか喜んでいる。とても従順な性格なのだろう。
    「__まるで幽霊だったよ」脱出の能力とは転移できる力のことではない。透明になるということなのかも。「それから、もうひとつ、シセロ」果たしてこの先を解いていいのだろうか?
    「訓練生の数と木偶の坊の数は割りにあわないと思ったか?」
    「思った。うわ……」シセロは困惑顔を浮かべた。

    ⚠️アレックスの元に行く!
    「訓練がはじまる前には、木偶の坊が何者かによって転移されたということだよ。アレックス」
    「行くのか?」アレックスが察した。
    「地下聖堂の棺の中にはいまも被害者たちが安置されているだろうから」

    「迅速に対応するべきだった。遅すぎるくらいだよ。魂の帰還がない者は……」
     ゴーストの如く現れふたりを驚かせたのがゴーストだ。「私は訓練所に行ってあんたたちの身代わりの安否を確認してくる。屋根くらいつけて欲しかった」



    地下聖堂には調査隊が幾人いた。アレックスもついてきた。アレックスは構わず棺の蓋を開けた。その状態で木偶の坊のほうが力尽きたら、どうなる?本体に魂が戻らなかったら。

     訓練所の方にはゴーストが行ったが。

    「『悪魔』と『死に神』どちらのカードも木偶の坊と本人を消失してる。どういう訳だか知らんが、この犯人は、この新人『死に神』のほうに罪を擦りつけるつもりらしい。それとも、計画者の端くれか」
    「『城での強盗は月宮殿と結びつけなくともよい』としない人物なのだから」アレックス

    「透明人間の件。それについては傷を負った人の傷の具合を見てみないと……偽装ということもありうるからな」アレックス

    「『悪魔』のほうの目撃情報はないんだな」アレックス。
    「アレックス、『悪魔』は最悪のケースだ。棺のなかで転移させられたのだとしたら?いまもどこかで眠った状態で放置されている可能性が高い」
    「訓練生の大半が木偶の坊を転移された後で目覚めてる。訓練生が少ないほど木偶の坊の頭数が目立つが、なぜここに関心を向けさせる?」チャールズ


    「城の強盗犯は転移魔法の使い手だな。鳥をどうコントロールするのかが謎のままだが。転移魔法の罠を仕掛ける」アレックス
    「しかし『死に神』のほうは、だ。『脱出』という意味で転移できるというわけではなくて、あくまで透明になる力を『死に神のカード』から授かった、というわけだ」チャールズ

    ⚠️⚠️⚠️⚠️
    犯人が存在しない為。これを完成させる前に神話を創る必要性があった。更にエピローグまで進める必要があったので先に書いた。やっとエピローグが終わり神話のほうは完成した。犯人をつくらないといけない❗️
    ⚠️⚠️⚠️⚠️


    「『死に神』か侵入者のどちらかが、不都合な事実に気づいた」

    「侵入者が転移魔法の細工をしていると見抜いた『死に神』が、最悪、侵入者に近づこうとして返り討ちにあった場合」
    「あるいは、犯人が不都合に気がついて『死に神』を隔離した」アレックス
    「ほぼ合理的だが、完璧ではないし」チャールズ「そもそもここには危険なものなんかないのかもしれない。複雑機構にすぎない場合のこと、を言ってる。悪人を何人も追い詰めてきた君が何度となく見てきた。侵入者の目的は、大きな目的から敵の目を逸らさせるため。月宮殿と『死に神』はサブ演目にすぎない」
    「ともすれば、いま世界一危険な建物は城ということになる」
    「……あんたじゃないだろ?」チャールズは肩をすくめた。
    「十分な裏付けが取れないうちは動きが鈍い。とりあえず注意喚起だ」
    チャールズの触れた『悪魔』の石像の前に12月神の使者が囲んでいる。
    「では、彼は音に変換されてしまったというの?」苺月の使者が愕然とする。

    ✒️転移罠は他にあるのか、被害者は他にいるのか?誰に攻撃されていて、何故に狙うのか?
    「転移罠がまだ残っているうちは訓練生を」
    「私が」
    ✒️芋虫月神の使者、転移罠を探しに出かける。犯人を捕まえる手掛かりがなにかしら得られるかもしれない。――几帳面すぎるとか癖とか手がかりになり得る痕跡を――

    「私は、鼻の利く者を集める。敵は複数、班で動いているやもしれん。あなたの__」狼月。
    「あの豚の獣をあてがうのね」軽蔑を含んだ微笑みを浮かべた口元に手をあてた。芋虫月。
    ✒️狼月の使者、鼻の利く獣人を同行させる。豚の獣人は訓練生時代に芋虫月に告白している。

    ・使者たちの犯人考察。
    「ストライダーでもドリミアでもねぇ。あいつらのやることじゃねぇ」海狸月
    「考えたくはないけれどロスフィンデルの線は?」収穫月
    「イアロー谷からわざわざこれをやりにこない。そもそもやる意味がない。彼女のアーティファクトだとしても、本人が使用したわけじゃない」蝶鮫月
    「石の鏡を持たせたわ。娘たちに玩具をあたえた」芋虫月
    「」
    「旧天照国には反乱者が大勢いる。数ではオーク族に勝るってドリミアが言ってるぜ」海狸月
    「月神には懐疑的なんだよ。ヒルメはやつらの傍にいるんじゃないか?とな」寒月


    狼月の使者、獅子頭は、自分のお気に入りの生徒ジョリー・トーマの成れ果て――悪魔の石像――を見つめている。蝋燭にはまだ火が灯っている。その向こうには消えかけた蝋燭がいくつも見えた。消えそうだ。蝋燭台下のプレートには『悪魔のカード』が模されている。


    ✒️苺月の使者だけが花月神の使者の心うちを読む。
    「あなたの【影】とは無関係よ。」
    「あの類の石像を見ると、思い起こす……」
    ⚠️若い頃、恋に敗れた彼は、忌ま忌ましい欲情(霊体)を石に閉じ込めた。だのに芽生えるなんて。なんと穢らわしい!
    ・花月の使者が、杖を岩に向けて振った。転移呪文がかけられた岩はどうなるのだろう。
    「待ちなさい__!」と苺月。花月の使者は動じない。✒️彼は下に湾曲した口が特徴的。

     トーマは、床に転落するように転移する。驚いた桃色月神の使者が駆けつける。「なんてことを!」
     悪魔の生徒の容態は――戻ったかもしれないが意識がなかった。丸みを帯びた口をぱっくり開けて無意識に空気をむさぼるように吸った。



    ・使者、聖堂の秘密の部屋__にて。訓練生の糸が灰になったのを監視者が確認。
    ・使者、監視者の報告をうける。いくつか木偶の坊が力尽きた。使者、焦りを感じる。


    ・花月神の使者、独自調査へ乗りだす。例の場所に行く。トーマのことで。
    「なんと忌まわしい心臓か」※ミアが目撃。


    【街】
    ・チャールズ、アレックス組が独自に調査をする。庶民の格好をして城下町へ赴く。
    ・『街を歩く木偶の坊』はいるか?獣人たちが鼻を利かせている。
    ・城へ進捗はあるのか?
    ・鳩使い。転移魔法の使い手はロードから訊問審判を受けている最中だという。無実無根だった。
    ・告げ口をした婦人は、鳩使いの恨みを買い絞殺される。
    ・鳩の人をアレックスが追い詰める。捕まえる。「『月宮殿』へ行くつもりか」城へ突き出す。また訊問ですか?

    ・チャールズは歴史を知りたくてたまらなくなる。城へ。記録閲覧室は開放されなかった。

    ・チャールズ・ヘイルは、盗賊気質の高いドリミアを頼ることにする。適当に捕まえたドリミアは盗賊とは無関係だった。盗みが好きというなら【ブラック・ウィドウ】、【ブラック・バード】、【クック・ロビン】の元に行け。
    特に古の知識を有している賊は【クック・ロビン】の頭に限られている。名前はヴィック。最もコンタクトをとるのが難しいドリミアで有名だ。接触は不可能とのこと。
    ・歴史を深く考えない若いドリミアに訪ねるだけ無駄だった。
    「ああ、そんな罰当たりな書物は『書物の都ヒール』に行くか、やはり、ヴィックに聞くしかない」「彼に会いたい」

    ・ドリミアが【ブラック・バード】にコンタクトをとる。彼らはもっと上層部の使い走りとのこと。
    ・ドリミアは隠し部屋を探しあてる技能はぴかいち。【逆立ち猫のアーチ】に住むテリオン族の隠し部屋を見つける。資料を見つける。ドリミアの目に疑問符が浮く。この記号サイン。
    ・C.B絡みだな。【マルリルア】と関係がありそうだ。
    【ブラック・ウィドウ】のカトラーから信用を得て暗号【ロス・ニムヘス】をもらう。

    ・アレックスの元に戻る。
    ・城の記憶室開放。神話を読み漁る。

    ⚠️⚠️⚠️⚠️


    神話!!ちょっと今はむり!

    ・ロスフィンデルとかいう悪魔は力のアーティファクトを贈る癖がある。
    ・地底にモルドゥアという国がある。ひねくれたモルドゥオン・シーリンが治めている。民は彼女の政治に不満を洩らす。
    ・月読国の少年王と天照国のヒルメは婚約をした。シーリンはヒルメの魔法を気に入った。ある日茶会に招く。魔法を鍛えるから魔法をひとつくれ。
    ・月神がヒルメをとらえるために力のアーティファクトを望んだ。ロスフィンデルが常闇月に力のアーティファクトを贈った。最初の彼女の白昼夢が誕生した。
    ・ロスフィンデルはアーティファクトを持って直接会場へ赴き、石の鏡をヒルメに見せる。鏡には蝋台が映りこんでいる。傍にいた婦人が鏡を割ると、白昼夢の亡霊の群れが会場に溢れた。亡霊は参加者たちの魂を餓えた世界へ磔にした。
    ・月神はヒルメを封牢へ入れる。月読国と天照国、姉妹の太陽神はすっかり偽りの物語で騙された。
    ・ロスフィンデルは月神に利用され罪を擦りつけられた。
    ・ロスフィンデルが住まうギルキリス深淵のイアロー谷は強力な魔法の鍵が掛かけられていて誰も入ることができない。
    ・ギルキリスの深淵に繋がるとされるトラパニア・マイティは強大な悪魔たちが潜む。
    ・天照国王は躍起になって地下へ潜った。トラパニア・マイティの悪魔を刺激したため灰都ミスアルダのモルによって天照国は滅ぼされた。

    ⚠️⚠️⚠️⚠️

    ・旧天照国を拠点に活動する輩は、天照国の人間ではないことがわかった。
    ・偽りの神話を真に受けて
    ・で、敵は、誰だ?

    ・アレックスが音の鳴る石の欠片を拾う。『死に神』が転移された先は岩のなかだと気づく。

    ・旧天照国を拠点に持つ敵と戦う。二人は戦えない。

    ・戦闘に巻き込まれた『死に神』の岩が砕け散る。欠片を苺月神の使者が魔法で集める。
    ・使者が真犯人を倒す。

    ・大広間がざわつく。『悪魔』は稀代の美人だとわかった者たちが騒いだ。
    ・チャールズとアレックスに褒美。



    ・琥珀の部屋。散髪師たちがとても長い髪の毛をとかす。ハサミを入れる。

    ・月宮殿は暗い雰囲気に包まれている。地下聖堂に集まって。犠牲者の亡骸を焼かなければならない。
    ・苺月の使者は花月の使者に話しかける。
    「死神のカードが引き抜かれた。闇のとばりに鎌が振りおろされました。訓練生に試練が訪れましょう。私たちは彼らと共に闇のなかを歩くのでしょうか。カードの気まぐれに怯えながら……」


    後日、箱が月宮殿に贈られる。最上級の輝きを放つブルーダイヤモンドほどの価値がある、史上最上級のトリーと名付けられし史上最高傑作の魔傀儡。王族にのみ制作される魔法種族。その器だ。
    『死に神』の魂を幼女の姿をとる魔傀儡にうつす儀式がはじまった。

     使者は息継ぎをする。疲れ果てる。バラバラにされたトリーの魂をくっけるのだから。トリーが目を開ける。

    🤔信頼された訓練生は国や使者からお題を受けられるようになる。



    ⚠️クック・ロビン❗️
    ・馬を盗み、北のエスリマ大平原を駆け抜け、遠くにストライダーを見る。
    ・海岸まで背の高い丘が列なる。小さな半島に向かう。
    ・北海岸に大型の海賊船【クック・ロビン】
    ・ヴィックとは扉越しの対面だった。
    「なにようだ?」
    ⚠️もうちょっとマシな台詞思いつかない?
    「月読国と天照国の歴史……あんたは、『__書店』で調べていたんじゃないか。盗みとるなら……『戦神と魔女図鑑』のほうだった」

    「まったく肝心な事を話せないのだな。少年王どもは」

    「国の存在は、神と戦神が退屈しないための背景」
    「『戦神と魔女』というタイトルだ」
    「ここは使いこなされた卓上。花形である戦神もまた神の手垢で薄汚れた駒にすぎない。神もラデラの気まぐれに左右されている。ロスフィンデルに関しては……少し、楽しみだな」
    ・ロスフィンデルとは何者だ?神々は皆兄弟姉妹だという答えが帰ってくる。
    「プレイ中に姉妹の仲が拗れたおかげで椅子取りゲームにとって変わっちまったよ」
    「あんたは、このワールドで何を成したい?神々は皆わがままだ。」




     
     いま、おまえたちは試されている。
     荒野で置きざらしにあい
     野犬の目にさらされている。
     俺も稀人だから知っている。
     おれたちの人生は厳しく、汚く、短い
     主は、おまえに選択肢など残さない。
     王国の門をくぐることができればいいが、野犬の四肢は迅速で、あの王国は蜃気楼そのものだ。
     おまえたちは
     野犬に襲われ、骨まで禿鷹についばまられる運命か――。
     いいや、そうじゃないかもしれない。おまえは日の出を見るかもな。
     俺たちの腕を掴め。
     この悪夢は断ち斬るべきだ。主(月神)を裏切れ。
     それを示せば助けてやる。

     俺たちはストライダー。


     30メートル先にいる相棒が来いよというしぐさをして仲間を呼んだ。ストーミの側まできて六人の男たちが目にしたものは稀人が外出の際に必ず持ち歩く平べったい銀色の塊だ。
     ビリーがあたりを注意深く見まわしながら言った。「まだ近くにいる」
     下っ端が少し離れたところから地面を指差して言った。「野犬の群れも追っている」
    「それは少し違います」ストーミは静かで穏やかな口調で言った。「これは静穏の犬の足跡です……」
     ビリーが仲間たちのほうへ手を伸ばして指示した。「各員、ワイヤーを用意するんだ。間に合うか」
     ストーミはビリーを見やった。「どう近づきましょうか」
    ※会うためにサイレント。

    犬の巨体に隠れていて稀人の容態はわかりにくいが、犬は明らかになにかを噛んでいた。彼らは大股で荒れた駆け抜けた。
     稀人は足音を聞いたから「足を噛まれてるッ!助けて!」と、いまにも殺されそうな人のように叫んだ。
     コグマ顔の稀人は静穏の犬の顔をガンガン叩いていたので誰かが「目を突け!!」と怒鳴った。
    ――チビはちびった。しかしチビは犬の両目を強く圧しているだけだった。
     
     ストライダーの者が静穏の犬のしっぽの付け根を強く握り注意を自分に向けさせた。ほぼ同時に仲間が鈍器を静穏の犬の爪先に強打させた。犬は『キィヒィィン!』と悲鳴をあげた。鈍器が跳ね返った力を利用してまた痺れているであろう脚部に叩きつけるとその足はたまらなくぴょんと跳ねた。
     唇をめくりあげ牙をむいた犬が――といっても四メートルはある――唐突に鈍器に噛みついた。
     下っ端が喘ぐように「やめろ!!」と叫んだ。
     ビリーとストーミが四肢にワイヤーを絡まるように巻いて動きを封じた。
     ビリーは剣をゆっくりと一切の音を立てずに突き立てた。静穏の犬は『グガガガッ』とおおいにもがいて暴れたので仲間は何度か振り落とされた。
     鋭い鋼の切っ先が心臓に達した。

    「お褒めの言葉は?」ストーミが言い、仲間のひとりとビリーが彼の肩や背中を叩いた。


    「医者!」誰かが叫んで医者がかけつけた。コグマ顔のチビは顔中水まみれのぐしょぐしょだった。医者は顔を拭ってやり、酒を口に含ませた。チビは酒を吹きだした。
     チビは四人の男が静穏の犬の肉片を持って引きずってゆくのをみたので集落やらキャンプやらに持ち帰るつもりなんだと思った。


     残った三人のリーダーらしき人物が訊ねた。
    「おまえのところの西暦を教えてほしい」
     伏せたかったが聞かれたからには素直に答えた。
    「二千二十三年、冬…………」
    ――新しい稀人は、気の遠くなるような先の時代から来た人だ。

    「だって助けてくれたんでしょう?……違う?」
    「俺じゃない。おまえ自身がおまえを救うんだ」しかし、これはここにはいない友人にかけた言葉だった。
     ビリーは訪ねた。
    「おまえは、これからどこに行く?」
     コグマ顔は訪ね返した。
    「まず、ここは誰の土地ですか?」
     彼は即答し「王だ」だと言った。
    「案内するつもりはないのです…ね…?」
    「ああ、そうだ。俺たちは王国には行かない」ビリーは嘘をつかない目をチビに向けた。
    「映画で見た素敵な世界は忘れてほしい」

    「ビザ……証明書とか……必要になりますか?」
    「必要ない。あっちだ。__をまっすぐ」「本気か?」ビリーは懐からスマホをチビに返した。
    「あなたたちはどこから来ました?集落があって誘って?」
    「さあな、言えないんだ」高く盛った片膝に腕を置いた。
    「窮屈じゃないですか?病気は流行ってないですよね?」
    「あなたたちは、怖い。集落の男のひとたちは乱暴で酔っぱらってばかりでは?」
    「ここにいる方たち、無政府主義の集まりのように見えるのです」
    「俺たちは誤解されているようだ。この男はストーミ。冗談には付き合うが酒は飲まない。女は集るが、こいつが興味あるのは戦と魔物だ」
     コグマ顔は9頭身はあるかもしれない小顔の男を見た。その紹介された男の隣にいるガタイのいいやつを値踏みするような目で見て言った。
    「ひどいものですね。そのベルトバックル。乾燥肉ではないですか?……朝、昼、夜と乾燥肉を」
    「やはり、食べるに困ることが多々あるようですね」
    「俺が嫌いなのは無茶な要求だ」ビリーは眉を潜めた「朝食には焼いた生パン、たっぷりバターにはちみつ、必ず砂糖のたっぷりはいった珈琲をとオーダーするやつなんか……ないものねだりはやめてほしい」
     
    「いきなり死刑になったりすることです」チビは言った。
    「ああ、あるかもしれない」コグマのチビの顔がひきつったのを見て失望した。半端な海賊知識がある『子孫』とはあまり関わりたくなかった。
     ビリーは急に体の向きを変えた。コグマのチビは切り捨てる。
     下っ端が吐き捨てるように言った。「残念だ。俺は初めてだったのに。二千年台は」
    「ハッ、どんな話を聞きたい?俺が話してやるぞ」

     歩みが速い人という意味のストライダーは大股にとても速く歩いた。コグマは必死に走った。もし彼らが走っていたらと思うとゾッとする。そのうちのひとり、下っ端が振り向いた。首をかしげて言った。「あのチビ、あと追っかけてくるぜ」
     ようやく追いついた。「水、いるか?」下っ端が水筒を差し出した。

     王国のなかを探りに行こうと。
    「俺は……行かない。獣人の鼻は騙せないからな……」
    「おまえとおまえ」ビリーは下っ端とチビの見習いに王国を探れと指示した。ビリーはある私情があり行けない。
     チビはエメラルド色の海の外套をはおる城に釘づけになった。立ち止まって浮島を見上げた。浮島の下は真っ暗闇だ。
    「美しいな」
    「はぐれるなよ?チビ」
     ドリミア族がちかづいてきたから下っ端はチビを引き寄せた、と下っ端を後ろからかすめて通った奴がいた。まったく!きつく腕を掴んではなさなかった。下っ端はどうにかこうにかして巾着袋を取り戻した。

    「……ンンッ、臭いなぁ!フウッ、シューッ!」口を開けたときに空気が入ったのでチビは息を噴くように吐いた。『控えめに言って肥料の匂いがする』と思った。下っ端が「ああ、子孫さんは匂いに敏感だねぇ」と言った。
     チビを広場に案内した。生活必需品を扱う雑貨屋が多いし、喫茶店や逸話などここはロマンが集まる場所だったからだ。そういうのをこの下っ端はだいじにしている。
     しかし、いつもと雰囲気が違った。
     そこらじゅうに砕けた石が散らばっている。
     王国の様子がおかしいのは破滅国の者が暴れた結果だということを知るのにたいして時間は経たなかった。ストライダーにはどうでもよかった。
     しかし、事件を解決に導いたのがふたりの稀人であるというと話は違ってくる。下っ端はビリーにできるだけ、こと細やかに伝えるために頭の中のメモをとりペン走らせた。情報収集のあいだ下っ端はチビから目を離すことはしなかった。
     収集に満足すると次は雑貨屋でチビに必需品を選ばせて買った。会計前に三度もこれで全部かと訊ねた。

     

    仲間と合流したときにはチビに名前がついていた。
    ――チビリ屋さんのそのまんまチビリだ。それからはチビリと呼ばれるようになった。



    「アイス、待ったか」ビリーがアイスと呼ばわった男が__、黒髪を胸元まで伸ばしてる。

     ストーミは
    「」ストーミは鼻筋が通ったクール穏やかな男だ。
     ストーミは娼婦や婦人から人気を集めていた。
     静穏の犬肉があるので暫く狩猟は休めそうだった。

    ストーミの特徴
    少し蛇みたいな目。キツくない感じ。
    大人っぽく凛凛しい
    冷たい印象もある
    神秘的な魅力がある
    目と目が離れてる。
    かわいい
    クール
    不思議


    ・アイスの脇にストーミが座る。

    ・夢を語る。
    「牧場を持つこと……くたびれた農場を我が子に譲ろうとして嫌がられてしょげるくたびれた老人になることです。隣には老婆がいて……指輪は無くしているかも」
    「牛を自宅に連れて帰って妻を仰天させたい」





     チビリはすっかりストーミが気に入っていた。
     チビリが集落でまかせられたことは洗濯――というのもたまたまチビリがここにきて先ずはじめたことだったので、そのまま都合のよいとした男たちから自分のもと任せられた……。__は__と比べて汚れが落ちやすい合成素材ではなかった。とりあえず火を焚き、水が入った鍋をかけた。柑橘類らしい果物を入れてみた。あまり試してこなかった挑戦だった。なにがどう働くかなんてチビリのあたまにはわからなかった。

     洗濯物を干しおわったころ。チビリは居場所を探した。その場所はできるだけ人から離れた場所だろう。
     チビリはストーミが気に入っていたが、婦人の輪に入ることはしなかった。自分はフェミニストではないことをよくわかっている。
     チビリが好きそうな場所はないでもない。ただ席が空いていない。
     ビリーのまわりは王国の話題で持ち切りだった。
     ストライダーという者は身分が良いらしい。
     

     ビリーの半裸を洗濯物を抱えたチビリが――な、なんだこの筋肉は――という目で見た。ビリーはこういう女の自分に対する関心などは意に介さない。新しいシャツをチビリの抱える山へあたりまえのように放った。
     どういうわけかチビリはやる気に満ちていた。チビリにはこういう変な挑戦をする嫌いがある。

     静穏の犬肉が焼く焚き火を取り囲んでいた。
     下っ端が隣に座った。「あんた、変わってると思われはじめてる」
    「昼間はどこに行こうとしたんだ?集落のなかにいてくれないと困る」
    「ビリーさん、こいつに野伏の話を聞かせてやってくださいよ!」ビリーは快く受け入れ物語を聞かせた。
     口を開いたのはアイスだった。
    「こいつらは強すぎる。お嬢さん、俺の話を聞きな。」


     下っ端はストーミを目立たないところから見つめているチビリを見る。ストーミは仲のよい婦人からフェラされていた。

     チビリがいない。
     ストライダーたちは野犬狩に集落をでた。

     


     
     巨木の幹、チビリがこそこそしているところを下っ端に見られる。流し目で見つめ、顔は色っぽく、女の芳香がする。
    「ここにいるんだな。」風が吹いて巨木の水滴が一斉に落ちた。
    「なあ、あんた……」
    「あっちの世界でも、こんな……」下っ端
    「端から馴染もうなんておもってなかった」
    「でも、歩み寄らないと……」
    「あなたたちは獣です。暴力に酒。それに性の暴力。窮屈じゃないですか」
    「強い酒を飲ますのは反乱をおこさせないためだ」
    「アレくらい普通だ。あいつは同意してた」
    「しんっじらんない……」
    「私を怒らせた!」
    「誰もあんたを怒らせてなんかない」
     下っ端は踵を返して引き返した。
     ミシリッという音が聞こえた。


     チビリは戻らなかった。下っ端はビリーに教えた。巨木にいると。下っ端は教育係なのでまた行くはめになった。「ったくっもう」
     アイスが代わった。
     アイスは巨木に近寄った。チビリはいなかった。

    ――フガフガッ


    敬語を使う場合ではなかった。
    「なんか来たっ!狼男みたいなのが来たっ!!」チビリ
    「豚みたいなのがきたんだよ!!」
     疑いもせずに足の速いものが集落を飛び出た。彼はメッセンジャーのひとりだ。
     侍が刀を
     豚の獣人が柵をぶち破り入ってきた。目についた相手を次々と倒していった。戦闘能力があろがなかろうが関係なく。拒んだ者たちだからか。
     ちびった。
      侍の刀は折れた。
     下っ端は守ろうとした。だけどチビリは一緒に隠れようと言った。だが下っ端は戦にでていった。
    「おまえの体臭から集落がプンプン匂った。この森でしか獲れないキノコの匂い……!」
     静かになったと思った頃に物音や地響きを感じ、壁に液体がかかる、シャッという音が聞こえることも。まさに地獄だった。
     前の女は壁に寄りかかっていたために、壁ごとテントをなぎはらった一撃の被害者になった。テントはとっぱらわれてチビリは逃げたかったのに足が痺れて動けなかった。
     体をつくために槍をひいたとき、胸に矢が刺さった。ストーミの矢だ。


     ビリーたちが帰ってきた。
     先ずはビリーが刃を交えた。豚はあっという間に囲まれた。

    「!!??」豚の体はワイヤーに食い込んだ。お構いなしにワイヤーを引っ張りストーミを投げとばした。
    ビリーが
     ストーミは投げ飛ばされたを利用していた。壁を走って__まで行き__を蹴って宙に飛んだ。そして人には真似できない動きをした。
    ――断頭台。彼の時間の流れかたがどうなってるのか。
     豚は大の字になって倒れた。ビリーがとどめをさそうと近づいたとき槍の柄でストーミの腹を殴った。ワイヤーはまだ繋がっていた。左手で引っ張り、腹を折って苦しむストーミを利手で掴もうと豚の腕がのびていた。ビリーがストーミを突き飛ばした。そして代わりに彼が捕まった。剣を持つほうの腕を握りつぶされた。
     仲間がすぐさま豚の頭をカチ割った。医者に見せに行こうとしたが医者は死んでいた。
     
    「ここを離れよう……!」
     ストーミは残骸を引っくり返して彼女または親友のアイスを探している。
    「アイスは……?」
    「誰かアイスを知らないか?」
    「……」折れ曲がった刀を見せる。へしゃげていた。
     ストーミの顔から色彩が消える。ぽろりと涙がこぼれた。

    「歩けるか、チビ」歩けそうにない。仲間のうちのがたいのいいやつがチビリをかついだ。
     皆、落ち込んでいた。あたりを警戒しながら先を進んだ。
     途中の休憩、ビリーはチビリに感謝を示した。罠を張りめぐらせ待ち伏せされていたにちがいない。
     ストーミは仲のよい婦人が自分の子を宿していたことをビリーに告げた。
     どこか遠くへ行ってしまうのが怖い。
     チビリの心は窒息し死ぬ寸前においやられた。死ななかったのは慈悲深いビリーの眼差しがストーミとどういうわけかチビリにもむけられたからだ。
     ストーミはアイスを探した。


     水は底をついていた。豚が井戸に死体を入れたから補充できなかった。

    「いないんですっ……彼が――」

     道中チビリがかわいい!モフりたい!と思った動物はストーミの矢が命を奪い、皆それを焼いて食べた。
     どこからともなく複数の小さなか弱い生き物の鳴き声が聞こえてきた。仲間が連れてきた。七匹いた。こちらも七人だ。モフモフの子だ。彼らはわけあい、首を折り非常食にと腰に吊るした。
     チビリにはできなかった。彼らは目を交わしあったがあえて口出ししなかった。
     新しい教育係らしいがたいのいい男は毛皮をなめしていた。乾燥させるために背中にひっかけた。チビリは懐にいれていたのでミーミーうるさかった。人のあやしなど獣耳には届かない。
     
     川を見つけると、喜んで水を満たし、喜んで皆入った。チビリは少し流されていた。小さな命をかくまっていたのだ。仲間が腕をつかんで引っ張った。
    唐突にジャングルが終わった。

    北北東の
    平野でも荒れ地なかった。山間地帯、小山の連なり。
    急な下りと急なのぼり坂の連続。疲弊は避けられない。ビリーや仲間は誰一人として知らなかった。


     ビリーは人の弱点を知るのに長けていてストーミは下手だった。チビリが憧れていることにもうっすらとも気づかない。チビリの自尊心はあまりにも低すぎる。それは、あの独りよがりな行動を引き起こす原因になっている。
     だが、チビリの忠誠心は育てがいがあるようだ。
     ビリーはストーミに言った。夜、おまえも感謝の礼を伝えてほしい。簡単だった。ストーミはビリーに忠実だから。なぜ夜かは聞かなかった。が、うっすらとも気づいていない。
     
     チビリは皆から少し離れがちだ。おそらくミーミーうるさい小さな命を懐にいれているから。皆の気を煩わせないようにするためだろう。
     ビリーが唐突に聞いた。「マスターテリオンを知ってるか?」男たちはうんとひとつふたつとうなずいたマスターテリオンの話をした。
     錬金術を極めた者が追いがちな研究。チビリが想像したホムンクルスのようなものではなく、異形の種同士の掛け合わせで一体の合成生物をつくるのだとか。素材というのは奴隷、稀人は特に好まれた。ロマンがあるということだろう。
     奴隷商人に見つからないように、他の群れに見つからないように、とのビリーの警告だった。
     ここは最悪の土地だった。

    ――少ないリスクで大きな利益をあげられるなんて、最低だ。

     地図を偽造する画家もいる。画家はサイン代わりに、模範防止にオリジナルの地形や小道、ときには孤島や新大陸――しかしよくあるのが幻の島だ――を地図に描き印す。これは海賊時代にもよくあった話だった。
     だから地図を信用してはいない。
     ふと気になってチビリに訪ねた。そういった欺瞞を法は裁けるか、と。欺瞞、航海時代には有名な詐欺師がたくさんいたのだ。
     チビリは少なくとも自分がいた国では出版されることすらないと言った。

    北北東へ進んでいた。
     上って下っての繰り返しだった。しかし、日が暮れた。無風だ。テントすらない。今日はこのくぼみで夜営だ。蛇の驚異の嗅覚には注意するように。

    夜間だったのと火を焚いておらず、ただロープ頼りに仲間の位置を知っているにすぎなかった。
     チビリは少し離れてミーミー鳴く小さな命をあやした。水を飲ませて母親の肉を食べさせた。かわいいモフモフ。足音が近づいてきた。足元を見るとストーミの靴だった。なんと……
     
     ストーミはチビリの横に膝を曲げて座った。彼の足は長いから高く盛り上がった。膝に腕をのせて、少しうつむいた。チビリはちっとも嬉しくなかった。彼の言葉がおそらく彼女のこころに直接きこえたからだ。――面倒くさいと。チビリにはそういう悪い癖がある。
     あいかわらず小さな獣耳はミーミーうるさかった。
    「食べましたか?朝、昼、晩と……」ストーミの声色は静かでやわらかい。
     チビリはかぶりを振り、耳辺りの悪い裏返りぎみの声色で「晩のみです」と答えた。
     ストーミは、あなたのことです。とは言わずに代わりに「名前、ついています?」と訊ねた。
     今度はかぶりを振っただけだった。ストーミは膝の上で腕を組んだ。チビリは、いまの声色が恥ずかしかったし、ストーミのことは、女は集るが興味があるのは戦と魔物だと紹介したけれど、ストーミはやはり女好きなのではないか?という雑念がよぎった。
     しかし、ビリーにこそ感謝されたが、自分自身の命は彼に救われたという事実を思い出すと、顔を彼に向けた。言葉はまだでてこなかった。
     銀色に染められたストーミの横顔は美しかった。
    「……つけるべきです。面倒をみるというのなら」
     こちらを向いた彼の顔はヘビに似ていた。ヘビ顔というやつだ。(こんなに近くで彼の顔を見るのは初めてだった)。チビリは遅れてうなずいた。
    「朝も昼も食べさせてあげてください。小さいうちはあっという間に弱りますからね……」
     そんな話は聞きたくなかったが彼は訊いた。
    「彼女……私の彼女ですが、どんな風に……」
     チビリは「知りません」と答えた。彼は知らない。すぐ目の前のテントの革に埋もれていたなんて。知らなくてもいいと思った。獣人の驚異の腕力が彼女の頭部をへしゃげたなんて。そして思った。無情だ、と。残念だとも言えないのだ。おそらくこの無情さだけはしっかりと相手に伝わったのだろう。
     しばらく時間がたった。ミーミーやかましかった。
     彼には、もうどっか行ってほしかった。
     彼は言った。「私には長かったような短かったような旅を共に過ごした特別な人がいて……その人の名前を子どもに授けたかったのに」
     いきなりチビリは腰をあげ立ち上がった。あっちのほうがましのような気がした。それでそうした。あまりに非情だ。彼女がいなくて良くなったとおもいはじめているせいもある。


     ストーミはまだあちらにいる。ビリーは彼をちらちら見ていた。
     見張り役を決め、就寝する頃、チビリはまだあっちにいる見張り役のストーミの傍に行った。ただ、隣に座っただけだった。
    「私があなたの小さな仲間を預かりましょうか?あなたは……眠れそうですか?」
    「眠らなくてもいいので、お体のために横に寝かせてさしあげてもよろしいのでは」
    「ストーミさん……あなたの弓矢に命を助けられました。私は、どう、あなたに借りを返せばいいのでしょう?」
    「そんな借りだなんて……。『ありがとうストーミ』の一声をあなたからかけていただくだけで私は十分満足です」ストーミは続けて言った。「……ありがとう、チビリ」チビリは「どうも」と言って受け取った。獣耳がミーと鳴いた。なんて耳に心地の良い声色だろう。
     でももう一通り怖いことは聞いてしまった。これ以上、何を恐れるのか。
    「チビの口を塞いで……夜襲です」と言いロープを三回強く引っ張った。三回。
     

     チビは黙らなかった。

     先ずはストーミが弓を射た。

     暗闇でのロープを使った戦闘は圧倒的な有利だった。敵はあっけなくロープに躓いた。ビリーのカトラスが胸を貫いた。「ただの野伏だ」
     次の波がきた。小さな波だったけどチビリには脅威すぎる。とりあえずチビリは倒れている敵から盾を盗んで構えた。上に構えすぎたせいだ。
     チビリは腹を蹴られた。ギャアッというチビの悲鳴が懐から聞こえた。胸に爪が食い込んだ。後ろざまに倒れるさい頭を仲間の足にぶつけた。チビリの足を掴んで槍を突き刺そうとした。誰か仲間が横から割って入り突き飛ばした。チビは無事だ。
     ビリーの剣術は正々堂々としていた。性格がでるらしい。おそらく汚い手は一切使わない。
     ストーミは九頭身もあるくせに敵の懐――特に膝元――に潜り込むのに長けている。短剣を敵の下腹部から肩口まで一気に走らせた。

    「アチャック……」教育係がうつぶせに倒れていた。
    「ちくしょう……」

    「足でよかったな。剣だったら……もっと最悪だった」誰かが言った。
    「いままで俺たちが助けた者は、お前を除いて……皆、死んだ」ビリーは月をあおいだ。満月が浮かぶ夜空に星々が瞬いている。ビリーの目には月と星はどう映っているのか。

    「注意しろよな。しょんべんのときもある」っぺっ
    中身は酒だった。仲間は喜んで酒を胃袋に流し込んだ。ストーミは酒を飲まない、はずだった。普通に飲むようだ。「私のかわいいお雛さん」
    仲間が酒瓶をチビリにまわした。ビリーはチラッと見た。チビリに酒は無理だ。受け取った酒瓶を隣にまわした。懐に隠れているチビをあやした。


    チビリはまぶたをあけた。夜明け前らしい。
     ストーミは目を閉じていた。どうやら昨晩は見張りなしの状態で月の目にさらされていたらしい。
     チビリは仲間の寝顔を見るのにしばらくのあいだはまった。懐のなかでチビがあくびをするのがわかった。
     しかし、少し移動したとはいえ__から流れ出た排せつ物の匂いがまだ漂っている。しかし、糞が出たということを考えれば近くに酒場や集落があるのかもしれないし、まあ、狩猟はできそうだ。
     チビは懐から毛むくじゃらな顔をだした。テリアに見えたほど。チビはまた懐に戻りなにかを探った。何かまでは言わないがチビは一生懸命に前肢で左右交互に踏みを入れた。チビリは、いまきみが飲んでいるものはチビ自身の唾液だよと言いたくなった。
     チビのために水を飲ませた。

     仲間が起きはじめた。最後につつかれて起きたのはストーミだった……。頭が痛いと言っている。
     少しの休憩――とはいっても用を足すとか干し肉や乾パンをたべるなど――を挟んで仲間は歩きはじめた。
     チビリは考えていた。戦いかたを知らなすぎる。
    「ストーミさん……私にも扱える武器ってありますか?」
    「そうですね……お優しいお方ですので、相手を攻撃したときに自身に振動が伝わる剣や槍などは向いていません。あなたには……投_武器、例えば弓やボウガン……投槍なんてどうでしょう?」
     ビリーが言った。
    「ボウガンだ。それなら至近距離でも対応できなくはないからな。充填__に時間がかかるくらいの欠点しかないしな」「きみのために調達しておこう」ビリーは続けてはきはきと言った。「んでも、本当にわからない。剣が得意になるかもしれない。稽古ならいつでも相手になるよ」
     遠くに霞んでうっすらと険しい山脈が見えた。
     山間地帯というものは表情が豊かだ。マントルが押し上げたマグマの影響で?世界遺産を紹介する番組を観るのが好きだったが知識は錆びてしまった。
     ストーミはまたも夢の内容を話した。夢の中で絵を描いたそうだ。絵には、くたびれた老夫婦になった自分たちの愛の物語がつまってるんだ。


     てっぺんから前方の大地に小川らしき筋をみつけて仲間はおおいにはしゃいだ。小さな石に見えるものは農場だろうか。
     農場は荒らされていた。昔は家畜がいたのだろう。
    「食えるもの、鞄しかない」侍が愚痴った。
    「小川には何かいたか?」ビリーは訪ねた。
     ストーミが代わりに答えた。「チビリが探しに行ったきりもどりませんね」
     ビリーは真顔で「なあ、……ストーミ」とストーミを見つめて続けた。「どうしても老婆は彼女でなきゃ駄目か?」
    「――……?」ストーミの目に疑問符が。
     チビは廊下を仔犬のように駆け回っていた。
    「ッ!、ビリー、あなたは――」ビリーが矢継ぎ早に「彼女が心配だ」と言い、ストーミは唾を飲んだ。
    「……っ」ストーミは口を開いたが続く言葉をビリーに奪われた。
    「お前は大切なひとを失った。辛い気持ちなのは十分にわかる」
    「だが、お前はいまを生きる。重なる貴重な一秒をだ。俺たちの人生は厳しく、汚く、短い……」
    「明日を一年後だと思えるくらいには短いな……」
    「いまいちど彼女の確認をしてきてほしい」
    「知らんぼビリー」ビリーに命じられストーミは踵を返した。


    仲間は信じられないと言うだろうが、チビリは牛を見たような気になっていた。小川の向こう側に。目を擦った。きっと疲れている。お腹もすいてからけっこうな時間が流れた。最悪だ。
     
    「……食材となりそうなものは見つかりましたか?」唐突な声に胸が痺れた。少し間があいたが「この小川にはカエルがいます」チビリは答えた。ストーミがぽつりと「嫌ですよ」と言ったのを聞いて、チビリはゴキュリと変な音をたてて唾をのみんだ。
     ほんとうに、嫌そうな顔で小川をにらんでいたのだ。
     直ぐにストーミは踵をかえして農場へ戻った。
     チビリは自分が見たかもしれない牛を追いかけた。
     ストーミ。そのひとがチビリを最後に見た唯一の目撃者だった。





    二足歩行の蹄には見覚えがあった。牛の獣人は月宮殿の脱走者だった。ヤツは牛に化けた。変性魔法も使えるということだ。
     ビリーたちは、ふつうの牛を捕まえて拷問をした。
    正直に馬鹿らしいとさえ思えた行動だが、彼女はどこにいる?というたったひとつの問いに牛は答えた。
     金に変えた。最初から知っていたことだ。
     決断を迫られた。
     ストーミと仲間はあれほど嫌う王国へと向かう。脱走者を突きつけるために一緒に歩かせた牛は道中糞重い牛になりやがった。
     王国についたころには、ビリーは腹を決めていた。彼も門をくぐった。城へ行き、謁見が許可され、謁見ではすべての詳細を述べられた。自分がしたこと、豚の獣人が集落を滅ぼしたこと、牛の獣人のこと、行方不明の仲間を助けてほしいと願掛けた。
     広間には月宮殿の十二月神の使者が集まった。
     先ず、狼月神の使者が深くお詫びを申し立てた。すでに罪人こと細やかな事情は月神直々に伝えられていた。狼月は豚や牛の獣人を憐れんだ。
     牛は裁かれた。牛の頭は月宮殿の居間に飾られた。
     狼月の豚を殺害したが、稀人の殺戮は無許可だったため――むしろ稀人の救出命令が発令されていた――正当防衛と見なされ、逆に豚は罪人となった。
     ビリーの罪は、驚くほど軽かった。訓練生や元訓練生が犯した罪は月神が見定め、自身の使者にオラクルで伝えるのだ。ビリーの月神は華やかな男鹿月だ。
     王国と信仰深い民は、彼らの旅の仲間が見つかりますようにと月神に願掛けをした。
     少しばかりの犠牲もあった。
     十二月神のとりわけ男鹿月神は、彼を誇りに思い、その高い能力を買った。民や稀人を奴隷商人や野伏などの犯罪者から守護するようにと権限をあたえ命じた。なので自警団が結成された。やることといえばこれまで通り王国近隣の巡回任務に王国が加わったことくらいだった。しかし今回からは立場が違う。月神から権利をあたえられた。

     それなのに、ストーミは月宮殿へ行くことを打ち明け、ビリーを戸惑わせた。()
     ビリーはストーミたちに「満月が__登る__に戻ってこい」と命じた。能力泥棒をしに行くだけだと言った。
     ビリーが理解するまえに月宮殿へ向かった。ストーミは数日も待てなかった。ビリーは自分が彼に言った一秒の重さを感じていた。
     ビリーはドリミアの情報網をあてにし、同期のチャールズに手紙を送った。彼は『リンガディンドン』のボスだ。
    ――必ず見つける。
    「おチビさん……」チビはミーミー鳴いた。
     どうやら月神は、ストーミの力が欲しいらしい。
    ・ミアやトリー&トーマ以後トマトは仲良くなる。一緒によく遊び、使者からのお題に挑む。

    ・チャールズは手品の男を見かける。

    『月』の部屋にチャールズ・ヘイルが戻った。
     アレックスは茶葉と魔法薬草を磨り潰している。幻覚症状はでなくなったと聞いて安心した。
    「12柱の月神の対応は迅速だ。神に見切りをつけられた者は助からない。彼らは、頭数の調整にはいった。と、俺が言うのも、あっちやこっちで新人を見かけるからさ」チャールズは顎をドアのほうにしゃくった。
     アレックスはドアのほうを見て言った。「はいってこないのか」家は外と違う世界だと思うことはごく当たり前だが、ここではよそ者が入ってくる。鍵を差し込む方が珍しかった。

     バタンッと勢いよくドアが閉まった。ふたりの視線がノックもなしに入ってきたゴーストを追う。彼女はチャールズの前に立ち、バッグから取りだした箱を手わたした。
    「あんたに頼まれたものを持ってきた。それじゃ」そう言って足早にドアまで部屋を横切り、勢いのそのままにドアを開け放った。
     コアラみたいな顔の小柄な女がゴーストの気迫に押し出されるように部屋に入ってきた。ドアの勢いよく閉まる音に眉を潜めた。彼女はドアを見つめた後、こちらに振り向いた。
     ひどく臆病な性格らしい。声を恐怖に震わせ「は、はじめまして」と挨拶をした。こちらに歩み寄ってから、勇気と声を絞りだして芋虫月のトアだと自己紹介をした。消え入りそうな声だった。

    「……でも、君は日本人なんだろう?」チャールズが尋ねた。「あぁ、はい。そうです!私の苗字は外国の方にはとても発音しにくいと思いました。なので、こ、……はい。偽名を使うことにしました」また勇気を振り絞った。
    「正直に言いますと、こちちは異世界じゃないですか。自己紹介をした後で話がおかしなほうに進むかもしれない風変わりな名前を使うのが恐いんです」
     君は映画の見すぎではないか?
     ミアが覗いている。
     アレックスが顎をあげてたずねた。「それで、君は『月のカード』を受け取ったわけだな?」
     彼女はふたりにカードを見せた。
    「待て……それは『太陽のカード』だろう?」
     あり得ない。とチャールズは思った。
    「きみを歓迎できないじゃないか。まあ、いいんだ。ようこそ。私はチャールズ・ヘイル」
    「私はアレックス・マホーン。その部屋は別の棟に……ぁぁ……、__ったところ__を__んだ」
    「わかるか?」
     トアの目はカードに釘付けのまま。
    「どうやらそうみたいです。私もびっくり……どうも、すみませんでした……」
     まったく。どうやら__の間でカード争奪戦が熱いようだ。


    ・手品の男を見つめる。
    ・事件の後始末をしている班がそっちにあっちにいるなか。

    「のこのこ……」帽子を深々と被った髪の長い中世風のコートをはおった女がいた。
    「おまえ、ちょっと来な」
    「だせ」
    「なんですか?あなたはだれですか」
    「とぼけんな。太陽のカードだよ。おまえが持ってんだろ」蔑んだ目を向けられた。可愛い目だった。
    「あっ、あります!酷いことしないでください」
    「ではあなたのカードは」
    「知るか」
    「でも、あなたはいま余分にカードを持っているんでしょう。そのカードをくれないと、交換にだすカードが必要です」
    「売った」
    「え……」
     彼女は威嚇するように言い放った。その口には鋭いのだが極端に短い犬歯があった。
    「黙れ。なんで私が、あんたのカード探しを手伝わなきゃいけない」
    「そいつ月に行くだろ。持ってるカード消費するしかねえんだ」
    「クラスを教えろ」
    「芋虫月」
    「ああ……。噂の、稀人なのに芋虫ってやつ」
    「消えろ」
     な、なんなの、この女海賊みたいなひとは……!
     はあ、また……
     トアは月に戻るために、歩を急いだ。「あの男の手品に参加したからだ」


    月の扉を潜ったのは青年だった。
    「チョコレート詰めを持ってきました。いかがですか?」チャールズは彼が手に線香を握っているのを見ていろいろと勘ぐった。
     感謝の気持ちを表すため握手をする。
    「やあ、ようこそ。僕はチャールズ・ヘイル。あなたが来てくれて嬉しいよ」
     こちらは頷きながら「ようこそ。アレックス・マホーンだ」

    「ありがとうございます。こちらに来れたことを嬉しく思います。私は、ストーミ・ヴェナブルス‐ヴァーノン‐ハーコート・ホールと申します」
     簡単な自己紹介の後、チャールズが部屋の案内をした。彼についてまわった。
    「」
     アレックスが続けた。「良い短剣だ」
    「見た目が好いだけではありませんよ」黒い外套で隠した。
    「」
     そしてアレックスは続けて尋ねた。
    「きみは、どこから来た?」
     ストーミはすぐには答えなかった。しばらく物思いに耽った。
    「__」



     ストーミは静かで穏やかな美青年だった。__たころに、彼は扉を抜けて出ていった。
    ⚠️節制のカードは売られた。
    「それでは『月のカード』は消費されたんですね」と声が聞こえた。ああ、哀れ、トアか。
     チャールズとアレックスは彼女を部屋に招いた。

     ストーミの本来のカードは『節制のカード』だということがわかった。しかし月のカードは消費され跡形もない。余るカードは恐らくは名高い盗賊系か戦士系の部屋だ。
    「……カードの恩恵は受けないかもしれないが、自由に使っていい」アレックスは言った。「__を」
     チャールズは咳払いをしてアレックスを横目で見た。近い将来に――厳密に言えば明日から――時計製作に使うと決めた部屋だ。と言いたげな。

     ストーミはトアに過ちを認めて謝った。トアはかの女海賊の話を持ちだして悪いのは手品師だと言った。
    あなたから謝罪の言葉を聞きたくない。手品師に謝って欲しいと言った。
    「クラスは」またしてもアレックスがストーミに尋ねた。
    「狩猟月です。自分は短剣のほうが扱い慣れていると思っていた」
    「殺しのプロか」アレックスが尋ねた。
    「そうですね……あちらでは人を相手に戦うことはあまりなく、国王から魔物討伐指令を直々に承け狩猟する場合が多かったんです。ですが、よく訓練された人が相手でも負けはしないでしょう」
    「魔物が相手?」チャールズだ。
    「帝都の空を脅かしていたグリフィンや献上品のコカトリスが息を吹き返し暴れたこともありましたね、見晴らし砦を占領したひとつ目の巨人を引き連れた小鬼の軍団討伐、それから帝都民の討伐依頼掲示板でも色々とやってきました……平原や森を跋扈しているキメラや人食いオーガ、こちらの運悪く遭遇してしまった竜などです」
     内心アレックスとチャールズは安堵した。魔物討伐が本職の者が敵となってはひとたまりもない。ミアのために。

    「お話を聞いているあいだ、気になっていたのですが、いいですか、そのジャケットの鱗は皮?」
    「これはホワイトサハギンの皮を鞣したものです」
    「すごい……!」
    「私も外套を羽織ってみたいです」黒いストールを見つめて言った。
    「あなたはどこから来ましたか?」
    「……――」
    「ちょっと見せてもらってもいいですか?これです!__が緻密ですね」耳さわりのとても良い声だった。
     ストーミはトアをじっとり見つめた。
    「……あなたは――」言葉が続かない。ストーミはチビリの本名も国も知らない。なにも知らない。
    「あの被害者のお知り合いではないですか?」
    「え?違います」
     チャールズは目を細めた。
     自分たちはどうやらまたもや最先端に居るらしい。
    「」

    ハリー・ポッターの魅惑に取り憑かれているわかったトアにチャールズが言った。
    「ほお、よくわかるよ。さて、君が先ず覚えなければいけないのは蝋燭に手をかざして火を灯すことじゃないかな」

    「それなら、行くだろ?……いいところを知ってるんだ」トアがストーミをちらりと見てから扉を閉めた。

     アレックスはお茶を啜りながらチャールズとトアが出たドアを見つめて、ため息をついた。
    「ストーミ、飲むか?」
    「ええ、いただきます」先程からストーミが窓を気にしている。ミアが覗いているのをアレックスも知っている。
     ストーミが言った。「カーテンをかけられたらいかがでしょう」
    「彼女はミア、私の義理娘だ……」ストーミはグラスをテーブルに置いた。
    「どうした?」アレックスは事件の真相を聴く体勢にはいった。
     
    「……助けてください」ストーミはそれに甘える形をとった。
    「私の……仲間が行方不明に」
    「ぅぁ………」アレックス
    「ヤツは金に変えたと白状しました……」

    アレックスにとって、
    ストーミは特別な存在だった。月宮殿の訓練生であると同時に稀人の守護者であり、王国にはびこる犯罪者を処刑する権利を持っている。彼に月宮殿の訓練など必要なかった。街におりて王国の兵士、ドリミア、商人から噂をかき集めている。チビリともう一人の稀人を。


    【ストーミ】
    ――私のせいで、チビリは。

    ・ミアはストーミに接触を試みる。彼のことは少し怖い。この辺りでは見かけない顔立ちだから。異世界渡りとはなにか訊ねる。
    ・ミアは元浮浪児で独自の人脈がある。義賊と繋がりがあり浮浪児を奴隷にからまもる老人がいる。浮浪人の衣装を渡す。「訪ねてみたら?」

    ・『いや、《彼女》なら……ここには来ない』。と思いながら浮浪人に成り済ます。ミアから紹介された男に会う。なんだか宗教臭い老人。
    ・奴隷商人が浮浪人の稀人になにをするか、浮浪児たちに囲まれたなか語りはじめる。ストーミの目は死ぬ。
    ・浮浪児のひとりが『テリオンカード』を所持していることがばれる。ストーミとテリオンを可愛がっていたところを見つかった。
    ・老人に取り上げられる。月読国ではテリオン族は死罪。ストーミと揉める。



    「ここは書物庫ですね」本人は不満を隠しているつもりだろうが声の質にありありと不満が溢れていた。
    「月宮殿は12の塔を抱えている。__だが、この__に立つ塔は『芋虫月』でね。『女教皇』や『__』の__、塔の大部分は魔法書倉庫だ。芋虫月に選ばれた者しか入ることを赦されない」

    「鍵を開けてもらったら見学するつもりだ」
    ・ヘイルは魔術書目当て。
    ・彼女は警戒しているが、どことなく上の空という様子。ふわふわしている。
    ・芋虫月と一緒なら書物庫の中へは容易に入れる。
    ・トアが本を開けようとしたが開かない。困惑。
     まさかと思い自分も適当な本を手に持って開こうとした、が、開かない。
     魔法生物が現れた。芋虫だ。
    「見合う魔力の所有者のみ閲覧できる。魔無しのあなたが閲覧できる本はここにはない。クフフフ……」笑いながら消えていった。
    「いま、はっきりと、おっしゃられましたよね。私には魔力がないと……」
     チャールズは肩を落とした。
    「なぁに。行く場所が増えたというだけさ」
    「次はどちらへ」
    「内緒にしておきたくてね」
    「わかりました。図書館ですね」
    「そこは一般人にも解放されている……」

    「少し……」
    ・トアのペースに事が運ばない。
    「せっかくお誘いいただいたのに、どうしても行きたくないんです。残念です」ストーミの口調を真似した。
    ・トアは困惑してその場を去ろうとした。
    「すまない……」
    「君の期待に答えられなかった……」
    「これでよかったんですよ」

     チャールズは無言で図鑑を戻した。
    「残念ながら、魔力をあげる方法はわかりませんでした。ないのではないでしょうか……」
    「芋虫月神は理由があって君を引き抜いた」
     
     チャールズは頭を軽く掻きむしった。
    「チャールズさんの頭、藁の山みたいになってますよ?」その言葉を聞いたチャールズが頭を軽く掻いてもっと頭をボサボサにしてみせた。彼の頭がそうなることは稀である。

    「そういえば、ストーミさんもそんな感じでした」
     ぽけっと頭を見つめている。その目がチャールズの落ち着き払った無表情の顔を見た。無言劇。

    「帰るか?」無言劇が続けられた。彼女の頭がこくりと縦に揺れた後で左右に振られた。どっちだろう。眉を潜めてはいるが途方にくれた顔だ。
     目をおろおろさせながら哀愁を帯びた声で言った。彼女の目は最後にチャールズの頭をなにか言いたそうな目でぽけっと見つめた。

    ・結局やることがないトアは図書館に残る。結果は得られない。魔力を得る方法はないのか?
    ※『花月』の塔の内部。鋳造部屋、錬金術部屋、図書室、材料の倉庫

    ・最低限の愛着を持たせること!これがなくては不自然。
    ・二人はトアとトマトのお題に巻き込まれる。
    ・ミアはストーミは浮浪人をはじめたことをアレックスに話す。力になれなくて残念がるアレックス。
    早朝、朝食を抜いて街へおりたふたりは公園の噴水に腰かけて、サンドを噛りながら、サファイア海を纏う城の風景を楽しんだ。
     チャールズは苺禾の話をした。彼女はひとつひとつの話を丁寧に聞き、義賊の男、花売りの女、魔法使い、義賊の鼠、蜂蜜蝋燭、養蜂場と牧場、オークの巨木、月宮殿、苺禾の靴の話を聞きだした。
    ・苺禾に興味をもつ。

     機械式時計の__みたいに磨かれた頭の中身。清潔で完璧。あなたの研磨された思考が汚れて錆びてしまう。

    ・蜂蜜牧場。オークの巨木の元に行く。話を持ちだして後悔する。トアは神出鬼没の芋虫を見つめけて見ている。

    「琥珀」彼女は琥珀を打ちはじめたので、代わりに電気を起こしてやる。

    「吐きだしたほうが楽になりますよ。……気持ちが整理されていきますから」
    ――良いなぁ、私も愛されたいな。

    ・街へ行く。義賊の鼠がどうやって苺禾に宝石を運んだか話をきかせる。
    「苺禾は使わなかったんだ」トアは無言で微笑んだ。彼女は肩を落としている。見るからに疲れ、落胆している。失望してさえもいる。

    ・魔法の道具を取り扱う店を訪ねてまわった。店主に訪ねてはみたが、そのような稀人のための道具はないとのことだった。

    ・チャールズはイヤリングを売り払った。箱の中身を確認した店主は驚いている様子だ。鑑定をしに奥の部屋へ消えた。
     トアは、瓶に詰まった木の実を眺めている。ゲームではあることが現実にはない。
     チャールズは自分がしたことを洗いざらい話した。驚いたことにトアの反応は淡白だった。もうどうでもよいと言いたげだった。
     自分の悩みで頭がいっぱいということらしい。当然だろう。

    ・チャールズは食事に誘う。食事の席でチャールズは手紙を書いてだす。
    ・最後にサファイア海の真下に行く。トアは両手を頭上に伸ばした。どうしてこぼれないの?と、ひとりごちった。至る場所で芋虫を見つけては見つめた。神出鬼没の芋虫。

    「話を聞いてくれて、ありがとう」
    「もちろん。あなたのためなら、どんなに貴重な時間だって割きます」
    「本当です」

    ――昼間夢見る人は、 夜だけしか夢見ない人には見えない多くのことを知っている。か……

    ・帰り際
    「ああ、また芋虫です」
    「トア。そんなのほっとけばい――」
    《危険!この先、暗闇領域》に芋虫が這っている。消えた。
     転移魔法。トアは闇の中に転移した。急降下をした。どこまでも落ちていく。急上昇に身体が吃驚してお漏らしをした。急上昇と急降下を繰り返すと、誰か大勢にぶつかったというよりは轢かれたに近い。跳ね返されて、__が加わる。コインを掴んだ。地上に出た。路面に転がり、衝撃を受けた身体が動かない。なにやら、複数の犬に匂いを嗅がれた。
     チャールズ・ヘイルはここにいない。
     
     道化の格好をした巨大な唇が、躍りながらクイズ番組風の口調で喋っている。
    『幸運な者たち!手のなかにコインを持ってるね?そのコインはなくすんじゃないぞ!ここでの唯一の通貨!__コイン!』


     不浄の幻獣バイコーンが駆けまわっている。

     通貨の使い道で喧嘩をしている人びとがいる。

     軒先に吊るしアンコウの如くセイレーンが吊るされている。叩き斬られた状態だ。

     これが、闇競売……。水槽のなかの人魚たち。得たいの知れないタマゴ。ミニチュアドラゴンたち。ああ、隠れる必要がないから野外でできるんだ。あのユニコーンは角を切られる運命だ。凄い人集り。ユニコーンの角は人気がある。

    『制限時間は、バイコーンが__を13週回したときさ!急いだ急いだ!』
    『さあ、何を買う?さあ、何を買う?』
    『手に握る通貨の価値はどれくらい?』

    『おや?月宮殿の訓練生がいるね』――絡まれた。
    『守護月は?――芋虫月だ!!』どおしてわかった?『君は外套屋をあたってごらん!』

     不思議な外套。

    「禁止された魔法を取り扱ってる」
    「抱擁者の命を奪う外套。透明外套。」
    「魔力をあげる外套はありますでしょうか?」
    「人間の癖に芋虫月神に引き抜かれちまったんだな」
    「外套じゃないな、」カッコいい黒装束。
    「それは呪いの品だ。誰も買わなかった。元々、周り物だし、いいよ。ほしいなら、やる。」
    「魔力を上げますでしょうか?」
    「そういう話しだ。__家の隠し部屋で発掘された。そいつは有名な寒月が着てたローブさ。強烈な闇の魔力と駆けまわる使い魔を嫌がってコレクターもとても部屋に置いておけないらしい。噂のおかげで買い手はつかない」
    「__コインを使わない?」
    「そ」
    「異世界のガラクタしか持ってない」
    「いいよ。ああ、たまに見るよ。これ。それなら欲しい。よし、物々交換をしようじゃん」
    「呪いとは?どんな類いの呪いなのでしょう?」
    「着てからのお楽しみ」
    「着心地は普通です」


    「トア。そんなのほっとけばいい……」
     何処からともなく馬の駆ける音が聞こえてきた。血を震わせる音が、迫ってくる。壁の向こうから。壁から飛びだしてきた者にチャールズ・ヘイルが驚愕して後ろに飛び退いた。バランスを崩して尻餅をついた。死の化身を凝視している。血染めのローブを纏い、フードのなかに顔はなく、尚且つ、双眸にぼんやりとした青い光を灯す闇の馬に跨がっているのだから。馬具に刻まれたネームプレートを読んだ。コシュタ・バワーはデュラハンの愛馬。
     騎手の体型がコアラだということは、これはトアか?
    「トア?」
    「やりました!わたしを見てください!ついに魔力を手に入れました!!」
    「それは言えてるね……。きみのいまの姿はまさしく死の精霊というものさ。きみを取り囲むオーラが景観を歪めている」トアは後ろを振り返った。「驚かせてしまってすみません!」
     トアはコシュタ・バワーから降りてフードを後ろにはらった。顔はちゃんとくっついている。チャールズに手を差し伸べた。
    「ありがとう。ああ。腰を抜かしたようだ」立てなかった。トアが地べたに座った。
    「どうして、その格好を」
    「それがそこの壁なんです、変な空間に繋がっていたようで、急降下と急上昇をする空間にです。コインを掴むと、闇市に転移して……そのコインってその買い物に使える唯一の通貨なのだとか」
    「これは物々交換で入手しました。著名人の寒月が愛用してたローブ。このコシュタ・バワーが喧しいそうでファンが手放したという話です」
    「あ、そうだ」小さな箱を取りだした。
    「あなたにミスリルのアンクレットを差し上げます。ホワイトムーンストーンがここに、魅了に対する抵抗力がつくようです」
    「ありがとう。嬉しいよ」
    「僕はこのアンクレットを最も効率的に使いたいんだ。ある人が、僕に想いを寄せている」

    私は自分の部屋『吊るされた男』に『トマト』を誘ってカードゲームに興じていた。ミアとアレックスとは互いの部屋の窓を開けている。彼の耳には心地よいトーマの声が届いている。彼は窓辺近くで読書をしていた。
     トーマが視線をアレックスに向ける。
     トーマは大広間から失敬してきたフルーツバスケットの中からアプリコットを選んで手に取り、口に近づけ皮ごと噛りついた。
    「ほんとうに、猿になっちゃうわよ?」ミアが言った。
    「まさか」とたかをくくってる。
    「トリー、ダンディーなゴリラを望む」
    「ハルク……」ミアがいつぞやのチャールズ・ヘイルが一言つぶやいたのを真似た。トマトが反応した。
    「」ミアはまた街に繰り出すつもりだった。例の稀人を探さなくちゃいけない。ストーミと約束をした。
     アレックスの耳に初耳だった。トーマの目もきらっとした。


    ・魔道書閲覧室
    「『コシュタ・バワー』は帰ってくる」
     何処からともなく彼の駆ける音が聞こえてきた。天井を突き抜けて床めがけて跳ね、なめらかに着地した。後肢で立ちあがって前肢で宙を掻いた。

    「人間はそもそも背表紙のタイトルすら読めないのですよ!デュラハンモードになって初めて――」チャールズは目をしばたたいた。
    「どんなタイトルがあるか教えてくれよ」

    「この書棚は、変性魔法の本で目のまえがいっぱい」
    「そうですね。これは『照明』、こっちは『不可視』、こっちは『無音』で隣のは『歩行速度』」
    「これは?」
    「空を飛びたい。『空中浮遊』。『筋力増強』、『病耐性』なんてのもあるんだね」
    「あら?この部屋、変性魔法の書庫みたい」
    「『念力』と『水中呼吸』に『水中歩行』、『解錠』、『鉱物変換』、『変身』、『転移』、『活性』、『麻痺』、『武器破壊』、『防具破壊』、『修復』、『ミスリルの盾』、『ダイヤモンドの騎士』、『リフレク』、『再生』、『研磨』、『拡大』、『縮小』……ほかにももっといろいろ。でも、もういいでしょう?」
     開けて?と言わんばかりの小さな子供のようだ。「可愛いことしている自覚ありますか?」

     浮かびあがった文字がつむじ風の如く流れる。頭のなかに入り込んできて私に幻を見せた。流星群が流れる夜空は天の川がわたり、いく千億もの星が煌々と夜空に浮かぶ。圧倒的な景色。夜空の下にはなにもない。いや、ある。椅子がある。椅子の上に冊子が置かれていた。習得する者は__を__するべし。――我の名は?
     著者の名前?
    ――愚か者!
     そう言うと幻は閉ざされ、私は意識を取り戻した。ヘイルさんが抱き支えていてくれていた。「著者の名前を求められました。けど、答えられなかった」
    「__・__!……開いた状態じゃなきゃ、当たり前です。はは……はあ、えい!」
    ………………………………………………………………………………………………………………
    目を開けると彼の顔があった。

     穏やかな琥珀色の灯りがチャールズを照らした。チャールズの手の上に揺らぐ焔。思いきり息を吹きかけてみた。細かな粉が煌めきながら舞っていった。粉が空間にとどまって辺りを琥珀色に染めた。
     
    「『ダイヤモンドの騎士』『ミスリルの盾』もいっておこう」



    私は鋳造部屋にこもってジェリーのために__を作ってる。
    『月』のドアの前にじもじしていた奴がいたっけ。コアラみたいな奴。
    「ゴースト、チャールズが呼んでる」男は、ゴーストの汗をたっぷり染み込んだタンクトップを見て眉を潜めた。
     ジェリーが待っていた。
    「ゴースト。やあ、例を言ってなかったよな。ありがとう。これを君に贈ろうと思って」ゴーストはその場で箱を開けた。
    「ミスリルのアンクレット?……これ、どこで手にいれたの?」
    「闇市場」
    「聞いたことがある。開催中は特別な時間が流れるそうね。双子の片割れが参加したら次の瞬間にはひとまわり大きくなって戻ってきたって、そんな話だけど」
    「だいたい合ってる」
    「ああ……、ありがとう、ジェリー」
    「で、どうだったの?」
    「彼女はそのジェリーを心の底から嫌ってる。きっぱりと振られたよ」ジェリーに笑みが浮かんだ。
    「いいさ。彼女に縁があるのは盗賊ということらしい」
    「そう……それは、残念だったわね」
    「あんたの新しい仲間たちはどう?なんていうかあんたたち、かなり個性的だし」
    「……」
    「朝、アレックスから聞いた。芋虫月神が人間を引き抜くというのは前代未聞ね。そんな魔法使いの素質のない彼女にどうやって魔法を仕込むつもりなのよ?」
    「今日は街に行ってきたのよね?」
    「闇市場に行ってきたのはあんた?」
    「神出鬼没の芋虫に導かれてね」
     ゴーストの顔は明るい。
    「それ詳しく聞かせて」ゴーストは腰に手を当てて背をわずかに伸ばした。
    「またの機会にできないか?」
    「今度は魔法書目当てだ」ジェリーの腕を取って胸を押しあてた。「私に近づいたのって時計製作のためだった」ジェリーは苦笑いを浮かべた。
    「いま、旋盤をあんたのために造ってるの。サンドイッチくらい奢ってくれてもよくない?」
    ジェリーは仕方なく私に付き合う。
    「はうっ」サンドイッチにがっつく私を無視してジェリーは思い詰めた顔で遠くを眺めている。
    「はうっ、引きこもってる間にいろいろと動いてるのね」
    ――ストーミの話題を振ると居心地を悪くする。つまり彼は、ストーミに嫉妬してる。
     ゴーストは、にやけた口元を隠さなかった。
    「もう行かないと。『人と会う約束』をしているから」ゴーストの咀嚼が止まった。こんな時間に?ジェリーが席を立つ。


    アレックスは心配顔でトアの世話をしていた。チャールズ・ヘイルが部屋に戻った。彼女が解けないのなら自分がデュラハンの魔力を使ってでもして物語の謎を解いて彼女を導いてやるつもりでいた。


    大人の喧騒を聞き目が覚めた。喧騒は下のほうから聞こえてきてこの部屋が2階であることはわかった。ベッドからおり、部屋をでる。急な階段に繋がっている廊下の軋む板を踏んで、悲鳴をあげる階段を下りきると酒場にでた。
     普通の客と冒険者たちで賑わう酒場だった。そういう客に紛れて伝説の人物たる者がいる。
     彼らは地下迷宮の噂『ダイヤモンドの騎士』について話をしていた。
     
     太古この地に禍をもたらしめた魔術師であり建築家がいた。3つの世界たる__調和を__するゲートキーパーが囚われたことにより、__は災害がもたらされた。賢者は大地が分断され、砕かれる。水はすべて流れ落ち、空は空でなくなり、鳥が闇に呑まれ、地上のものもまたすべて滅びると預言した。建築家は強大だった。彼の建てた迷宮は怪物も騎士もいないのにも関わらず、何人も攻略できない、罠のせいだ。派遣された者は必ず討ち滅ぼされた。
     賢者は小人に防具を造れと命じた。
     刃が通らず、__、__と。
     小人は言った。鉄ではそんなものは造れません。
     そう、だから騎士では攻略できぬのだ。魔術師が口ずさんだ。その言葉を耳にした戦士が鼻で笑った。なら、その魔法とやらで刃の振り子を止めてみせろ。断壁の巨大鎌を粉砕してみせろ、と。
     だが、魔法の防御壁を纏うことは可能かもしれない。魔術師は、賢者に、証明せよ。と言われた。
     かの者が目に見えぬ鎧に騙されて朽ちることを願った。男が迷宮に入って数週間がすぎた、この酒場、この椅子に座って騎士が笑ったのさ。

     暗転した。目の前に、張り巡らされた罠。テーブルの上に紙がある。『鎧』の魔法だ。チャールズは魔法を使った。慎重に歩を進めた。罠を作動させたらしい。
    ――痛い!なんて痛みだ!
    『本』が落ちている。魔法を重ねがけする。

     痛い!……

     ダイヤモンドの騎士が立ち上がった。束縛から解き放たれている。
     ダイヤモンドの騎士はチャールズの顔を哀れみをこめて嘆いた。愚か者よ。自分の__強欲さよ
    ――愚か者とは?
    「魔術師」
    ――その通り!


    「…………………………………………」チャールズは力なく歩き、近い距離で囁いた。「魔術師」と。コシュタ・バワーが彼からローブを強引に剥ぎ取ると主人にそっとかぶせた。

    ・ストーミは臭い浮浪児に辟易している。目蓋を半分閉ざした目は死んでいた。愛雛を探さなきゃ。

    ミア「あの……ストーミ……ちょっといい?」
    「彼女の居場所がわかったかもしれないの」
    「兎に角、穢らわしく、もっと馴染んで……それだけ浮浪人は狙われにくいから」
     ストーミは浮浪児から借りた汚れた服に着替えた。
    「大変だもの。あなたが稀人だなんて奴隷商人にバレたら」
    「使者には私から言っておいたわ。とっくに知っていたみたいなの。オラクルって不思議」
    ・チビリはマスターテリオンされてしまった可能性大。
    ・このマスターテリオンには大勢のオークが関わっている。オークがオークの為にテリオン族を売るのだから。
    ・豚の獣人を雇ったのもオークということらしい。そして大勢のオークを切り捨てた犯人は愛雛で間違いない。ミアは知らない。愛雛も探していることを。
    ・施設はわからない。オークがバ・ダ山脈以外の場所から湧いてる。


    ・ストーミ、苦痛すぎてどうにかなる。土砂降りの雨のなか着替えて土砂降りのなか月宮殿へ向かう。五日のうちに一度は戻らなければ背徳者になってしまう。
    ・ストーミは月の部屋に久しぶりに戻る。訓練所が再開されていなくて非常に残念がる。アレックスに一通り進捗を話す。紅茶を飲みながら。ミアも一緒。
    ・対話は退屈になりがち。ミアとトマトがチャレンジしている月神使者のお使いを手伝うとか?物理の効かない幽霊が相手とか。マーフィーゴースト的な?
    ・新鮮な噂を授ける井戸の妖精を頼るとか?


    ・最後、ストーミはゴンドラを降りて割りと直ぐにドリミア盗賊団【ブラック・ウィドウ】に取り囲まれ捕まる。頭は稀人とドリミアのクォーター、カトラー。ドリミアの頂点気取り。オーク族とズボズボな関係。


    ⚠️ビリーの過去❗️

    ・ビリーは海に落ちた後召喚された。
    ・突如、海➡️陸上(草むら)。全身びしょ濡れのなか困惑。
    ・自分の目を疑う。今まで見たことがない小鬼、そいつらの強襲。数が多いが対処する。
    ・狩人の男と出会う。なぜびしょ濡れなのか訊ねられる。男の名はストーミ。
    ・ストーミの森へついて行く。見える人には確認できる国があるらしいのだがストーミにはまったく見えない。
    ・初めは国に興味が湧く。
    ・月宮殿へ赴く。地下迷宮送りの罪人や召喚された稀人が集い、訓練。
    ・12柱の月神から力を授かる。
    ・地下聖堂では棺には入り、泥で型を作り、分身(木偶の坊)を作成する。
    ・本体は棺に入り魂を転移させる。訓練所に輸送された分身が戦う。

    ・訓練所でチャールズ・バニスター(以後C.B)との出会い。
    ・C.Bたちは訓練にうんざり。彼は芋虫月の魔術師。天照国経由の稀人は珍しい。魔力附与の装飾品を身につけており難なく魔法魔術を習得した。
    ・仲間には桃色月の双子のシャーリーとケヴィンがいた。双子は訓練が大嫌い。訓練相手から逃げ回っていた。
    ・ビリーは訓練生の剣からCBを護る。
    ・訓練所にはとんでもないやつがいる。そいつは叫びで相手を吹き飛ばす。挑んでみたが駄目だった。
    ・ビリー、怪我を負った仲間を癒す桃色月のケヴィンから好かれる。優先的に傷を癒してもらう。

    ・訓練が終わる。大広間にて雑談。CBは地下聖堂の棺を気にしている
    「俺たちは迷宮送りにされるときに死ぬんだ。」C.B
    ・山脈を越えた、北には冒険者の棺を置く聖堂がある。早かれ遅かれ、俺たちはそこへ行く。
    ・双子は『蘇生魔法』を覚えるまで待って!

    ・CBは転生後すぐに野伏に襲われた。銃殺をした。野伏の荷物を漁った。知り合いの服――シャーリーの――がでてきた。それで双子に再会できた。

    ・双子も蝸牛になってる。「僕たちは、なぜ裁かれないといけない?」
    ・月宮殿から逃げるCBの作戦に便乗。背徳者になる。
    ・CBは北の聖堂を見たい。ビリーは森のほうへ行く。ストーミを求めた。
    月宮殿の獣人に追われるながら森へ。獣人に追いつかれる。ストーミと再開。狩友になる。
    ・王国周辺を巡回し、魔物を狩ることで召喚された稀人を護る。
    ・遠方から厄介事を抱えたアイスが通りかかる。アイスの厄介事を片付ける。
    ・ストライダー結成。

    「さあ、どう戦いましょう……」状態異常を打ち消すアイテムは、常に備えを……一命を救うこともあります。
    ・とりあえず、集落を拡張する。

    ・転生者が劇的に増える。野犬に襲われ、なかには従わないものもいる。
    従わない者は大抵死ぬか奴隷商人に捕まった。マスターテリオンにされるのだそう。



     
    ねず Link Message Mute
    2024/01/15 3:03:47

    MOON CHILD

    #二次創作

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    • 地獄の壁 #フロントミッション #地獄の壁
      ねずの小説「Frontmission」更新。書き急いでる。いろいろ置いてきぼり。
      来月の6日まで、ねずはギャレリアお休みします。
      ねず
    • 2ジャパニーズボブテイルとジョシー・ダリン #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら

      右に同じく「ネコとスーパーモデル」のコピー。
      イラストを描くときに使った口癖「もぉ~やだ」
      ねず
    • 10Metalworker #metalworker #ウォッチメイカーねず
    • 7ジェフ #いつものヤツら #オリキャラ から ジェフ
      ねずのハートのいろは黄色でっスマ!
      そんなことより6枚目の写真に写ってるカーテンダサい。
      ねず
    • 2エキゾチックとゲッタ・セドリック #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら
      右に同じく摸写。
      あなたも猫の気持ちになってみてください。
      ねず
    • 2Twin moon #いつものヤツら#ウォッチメイカー から
      いつものチャールズ・ヴェスパシアン・ヘイルとジョリー。


      ※摸写である。
      ねず
    • 2双子月お絵かきソフトCOLOR'S3dを使って2DSLLで描いたイラストをスマホに落としてからフーディーで加工しました。

      #いつものヤツら #ウォッチメイカー から
      チャールズ・ヴェスパシアン・ヘイルとジョリー


      摸写です。
      ねず
    • 2Metalworker荒れてるな。誹謗中傷スタンプを貼られたら、そりゃびっくりする、悔しいよな。自分の誹謗中傷を耳にしても「聞かせんな」とはねのけちゃえばいいです。追うのは疲れる。私はそうしてます。だって、そいつ、忘れ、とぼけの天才だから。
      そいつだって骨折や病気をひとつでもしたら普通の人生を歩めなくなります。場合によっては無職にもなりうる。無職は死ねとか簡単に言う人は、自分の頭で考えて言った訳じゃない。
      Webや都合の良い仲間の(愚かな)考え、またはジョーク、皮肉を理解できずに、自分の頭からひりだしたまともな意見だと思って、言っちゃいけないところで使ってるだけ。思考停止脳の持ち主なのでは。
      キモイ、K印などはくだらない引用にすぎない。
      そして、くだらないことを言っても無駄です。言ってやった当人の賢さがアップします。ボーナスの振り分けありがとうございました!と言っちゃってもいいな。
      で、も、気になるものが気になるのが繊細な心を持つヤツなんだよな。はあ。

      っつーのがねずのいまの気持ち。じゃぁ、また6日。
      ねず
    • 3アビシニアンとミリガン・アシュトン #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら

      右に同じくコピー。
      ねず
    • ハバナブラウンとジョリー #いつものヤツら からジョリー・バニスター

      右に同じく。Pinterestで偶然見つけた「ネコとスーパーモデル」よりコピー。
      ねず
    • ジョジョ。ジョリーとジェフさはい、 #いつものヤツら から いつものヤツです。
      小説、「Frontmission」更新しました。
      荒は気が向いたときに直します。
      まだまだ続きます。

      ※摸写🙇※荒木先生のジョジョとは無関係🙇
      ねず
    • 2シャルトリューとフランソワ・ルタン #ウォッチメイカー #いつものヤツら #チャールズヘイル

      「ウォッチメイカー」よりチャールズ・ヴェスパシアン・ヘイル。右に同じく。摸写。
      ねず
    • 2ピーターボールドとデイヴ・スターリング #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら

      Pinterestで見つけた写真「スーパーモデルと猫」から摸写🙇
      ねず
    • 3チャールズ #いつものヤツら #ウォッチメイカー からいつものヤツら。ねず
    • 2アリス #いつものヤツら からアリス・アスクウィスさん。

      ※これは模写だね。3DSソフト、カラーズで描いた。
      ねず
    • ハングオーバー #いつものヤツら
      過去絵だけど。
      ねず
    • 2泥棒さん #いつものヤツら から #オリキャラ ジェフ

      ※摸写🙇
      ねず
    • 13いつものヤツら #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら からみんな。
      チャールズ、ゲッタ、ミリガン、シャーリー、ジョリー、ゲーオ、ジョシー、マルコ、トラヴィス、ケヴィン、デイヴ、リーバス、グリーグ
      ねず
    • FM――いつものヤツら――(推敲公開)悲しいかな。私は小説を書こうとすると作家様に助けを求めたくなります。冒頭ではスティーブン・キングの『ライディング・ザ・ブレッド』を、ジョリーの物語では『ヒストリアン』から引用したように、作品から拝借しなければ表現できないのです。ここ『frontmission』からは頻繁に引用を使っています。
      物語自体はオリジナルですが――シーンについては悲しいかな。オリジナルとは言えない――、フロントミッションの二次創作物です。(続)の意味は文字通り、『frontmission』は終ってないということ。後日更新します。気が向いたら。1年後かも。
      #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら
      ねず
    • 5リスナーとシセロ #スカイリム #シセロ #いつものヤツら

      「おまえを見ている」の🖐️を届けたくなる季節。
      ねず
    • チャールズ・バニスター #いつものヤツら からチャールズ。ねずのクソ小説『Frontmission』 にでてきたやつ。ねず
    • 2双子ちゃん #いつものヤツら からシャーリーとケヴィン。

      ※模写だね。Pinterest『つきおばけ🌚』のほうにも遊びに来てね。
      ねず
    • 6ブラックサンタ #スカイリム #シセロ #闇の一党ねず
    • なにか言いたげシャーリーちゃんはい、 #いつものヤツら から いつもいないヤツ。

      さっきのは、新着のお隣さんとミラクルコラボしたみたい。はかってないです。偶然です。
      ねず
    • ジョリー・バニスターはい、 #いつものヤツら からいつものヤツです。ねず
    • 喉が渇いたジョリーはい、しつこいねずです。 #いつものヤツら から はいはい。きみらね。
      #ウォッチメイカー から チャールズ・ヴェスパシアン・ヘイル

      ※摸写🙇
      ねず
    • 踊らない男 #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら

      からゲッタ・セドリック
      ねず
    • 五十代アメリカ人男性を描けない悲劇 #ウォッチメイカー #チャールズヘイル #いつものヤツら
      おお、朝起きて様子見に来たら賑わってるじゃないか。ほかは知らないけど、ここは未明とか、朝に賑わうのかな。昨晩は大人しくて、いろいろ評判とか調べにでかけたくらい心配したよ。
      昨晩から利用させて頂いてます!ってあれ?新着いっぱいあったんだけど投稿したらなくなって…?違うページだったの?なんだか、さっきは何を見たのか、よくわからないけど、賑わえ、ギャレリア。
      ※摸写です。
      ねず
    • 5丸顔の間抜けムーンボーイとか前のムーンボーイ絵を消した。
      目について、ごめんな。

      #氷と炎の歌 #ムーンボーイ
      #地獄の壁
      #スカイリム #声がでかいマーキュリオ

      マーキュリオ「認めろよ!俺がいないんで、道に迷ったんだろ?」
      ねず
    • 4ジョリーパスタパスタを食べにね「ジョリーパスタ」行ったの。
      チーズ臭いとか言われるのはイヤじゃない。
      ジョリーパスタでジョリーがパスタ食べてる『ねずがジョリーパスタ入った』記念イラストを描きたいんだけど、なんかね、面倒くさい。
      だからタイトルだけ。
      かなり古いイラスト。

      #いつものヤツら #ジョリーパスタ
      ねず
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