熱帯夜【注意書き】
・グ♀先天性女体化
・二人とも倫理観がだめになってる
女体化するにあたりの変更
・グ♀の名前を女性形にしている(グエル→グエラ)
・グ♀の一人称が「わたし」
捏造
・A.S.時代の成人年齢=18歳
・グ♀の年齢=18歳
・A.S.時代の地球環境、生活文化
・その他もろもろ
シャワーを浴びたオルコットが宿の主室の扉を開けると、ベッドの上で女が寝そべっていた。ただし、シチュエーションに反し、女──グエラ・ジェタークの体勢には色気の「い」の字もない。浜に打ち上げられたクラゲのように、だらりと手足を投げ出していた。ベッドの横の窓にかかるカーテンが、夜風にサワサワと動いている。どうやらこの部屋で一番涼しいのが、このベッドの上らしい。空調は停電の多く、貧しいこの地域の安宿には設置されていなかった。
「おい。寝そべるのはいいがシャツを着ろ」
そうグエラに忠告するオルコットの顔は、ベッドからそらされていた。彼女の今の格好はどうにかならんものか。彼の表情は苦り切っていた。
下は男物のスウェットで、上はブラジャー代わりにシーツを裂いて作ったサラシを胸に巻いただけである。ゆるく巻かれているらしいサラシの下の乳房が、ふんわりと山を作っている。健康的な小麦色の肌と、真っ白なサラシのコントラストが眩しい。サラシもジャージも、フォルドの夜明けが潜伏していた廃校舎で調達したものだった。
「悪いが断る。着たら暑すぎて死ぬ」
グエラは額の汗を拭うように、ピンクの前髪を掻き上げた。気怠げな様子に、オルコットの身体の奥で、グエラに抱くはずのない欲求の火が灯った。その事実がオルコット自身を打ちのめした。成人したとはいえ、この前まで学校に通っていた女になにを。
開いた窓からかすかに太鼓の音と笛の音が聞こえてきた。この宿の近くでは今日、AD時代から続く祭りが開催されるらしく、各地から人が集まってきていた。そのせいで宿が思うように取れず、二人は異性であるにもかかわらず一部屋に押し込められていたのだった。
「お前、仮にも大企業の経営者一族の総領娘だろ。お前にとって俺は人前でできない格好をしていい相手か?」
これから先、グエラのお人好しで活動的な本質と相容れなくなるであろうアイデンティティを以て彼女を従わせたくなかったが、そのような余裕は今はない。
「今は体裁より生命を優先させてもらう」
オルコットはぐっと苛立ちと文句を飲み込んだ。AD1700年代から人間に壊された地球は、北半球でも南半球でも、夏は過酷な季節になる。特に、オルコットたちのいる地域は酷暑に加え、湿度が恐ろしく高く、生命の危機を覚えるほどだ。正直女性がいる手前、上下しっかり服を着ているオルコット自身、人目のない安全な環境なら服など着ていたくない。グエラだってそうだろう。熱源である太陽が沈んだというのに、蒸すような暑さが引く兆しは見えない。
それでもこの女にシャツを着せなければならなかった。
「男と同室なのに無防備な格好をするな」
グエラは訝しげにオルコットを見つめた。
「襲われたらどうする」
本人にそのつもりがなくても、薄着であるということを「誘っている」と勘違いして事に及ぼうとする輩はいるし、宇宙だろうが地球だろうが治安の悪い地域では、実際に事に及ぶ例も悲しい事に多い。そんな下らないことで、彼女に傷ついて欲しくない。
なにより、止むを得ず同室に泊まる羽目になったこの男も、そういう輩と同じ獣性を持っているのだ。
「オルコットはそんなことしないだろ」
信頼しているような言動をするくせに、グエラは小さく挑発するような笑みを浮かべていた。
オルコットの苛立ちは頂点に達した。元から暑さに参っていた上に、年頃の女と同室で泊まるという顔を覆いたくなる状況、同室のグエラが薄着でいる事、その事へ自分の欲求不満の責任を転嫁している自分自身への憤りが積み重なっていた。
この女に男の獣性をなんとしても学ばせなければならない。その衝動に突き動かされたオルコットはグエラが寝そべるベッドの方へ大股で進み、枕元にたどり着くと、グエラの両肩をマットレスに押さえつけて命じた。
「抜け出してみろ」
有無を言わせぬ迫力があった。グエラは男の手首を握って外そうとするが、びくともしない。頭上のオルコットは涼しい顔をしている。
「どんな男も女とヤリたがってる獣だ。自分の尊厳は自分で守れ」
わかったら服を着ろ。そう言い捨ててオルコットはグエラの肩を離した。いろんな意味で乱暴にやりすぎたと鉄面皮の下で冷や汗をかいていた。これからの道中で気まずくなるのが面倒だ。だが、明日中には軌道エレベーターにたどり着くだろう。その後はもう二度と会わない相手だ、いいじゃないか。様々な考えが頭の中を高速で飛び交っている。
ベッドから離れようとしたオルコットの手を掴む者があった。
グエラである。
「続き、しないのか?」
「なに?」
頭の近くで爆発が起きたような衝撃だった。グエラの突拍子もない発言に、オルコットの思考は暫し停止した。
その間にグエラは男の傷だらけの手を両手で包み込んだ。
「二ついいことを教えてやるよ。一つ、このグエラ・ジェターク、好きでもない男の前で下着姿にならない。二つ、今考えているのは、ようやくわたしを食べる気になったんだな。だ」
そう言い放ったグエラは、狡猾だと罵るには真っ直ぐな瞳をしていた。その瞳の光に、オルコットは薄明に打ち上がったプロドロスの軌跡を思い出した。
畜生。オルコットは心の中で吐き捨てた。暑さと心身の疲れで正常な行動も思考もできないのを自覚していた。こんななし崩しに関係を持てば、どんな結果でもグエラはこの先きっと後悔する。
それでも、この女の手を振り払うことが出来ない。
グエラはオルコットの手を自らの方へ手繰り寄せる。彼女が誘うまま距離を縮めたオルコットはグエラの唇に自分のそれを寄せ、乳房に導かれた手はサラシの端を探さんと胸元を探り始めた。
幸か不幸か、それを止めるものはなかった。