Mission:02 『オデッサの攻防戦』前編~八雪Side~
只今雪乃のマンションのPCルーム。
ブリーフィングルームという名のチャットルームにて、我が統合軍航空団第680制空部隊の軍議───
名目の次回ミッションへの参加の確認などを含めた雑談である。
材木座が戦闘機を買い替えたそうで、早速見せつけてきた。
【エイト】
「しっかしまた。エライ派手なMOD貼ってるな材木座。
ブルーのストライプにファイアーユニコーンのエンブレムとは」
【将軍】
「よくぞ聞いてくれた、我が相棒!
このF-20タイガーシャーク、元々はF-5Gと呼ばれるF-5タイガーシリーズの最終進化形態、勇気の行き着いた先でな。
エンジンはスーパーホーネットと同様、しかもF-5シリーズの軽快な運動性能をさらに向上させた、あのチャック・イェーガー氏も大絶賛した戦闘機なのだ!」
【エイト】
「………素直に『エリア88を読んで欲しくなった』って言えよ。風間真のタイガーシャークのカラーリングじゃねえか。
てかよくこんなMODがあったもんだな。誰なんだ作ったの」
【将軍】
「Amaz〇nで全巻大人買いした。
しかし台湾輸出のコンペではジェネラル・ダイナミックス社の政治的圧力に敗れて、結果台湾空軍はF-16を………」
【エイト】
「へ~………」
長くなりそうだな。トムさんのセッティングでもしておくか。
【将軍】
「我は知っているのだ! ジェネラル・ダイナミックスの悪行を!
ヅダ、じゃなかった、タイガーシャークは
幽霊戦闘機ではない!」
【スノー】
「でもこの戦闘機ってあまりに高性能過ぎて、『パイロットが高機動によるGに耐えられない』という致命的欠点があったと記憶しているのだけれど」
【将軍】
「それを言わないで雪ノ下嬢っ!?」
「“Silent”が入室しました」
【Silent】
「やってるなキミ達」
【エイト】
「こんばんは先生」
平塚先生が入室して来たか。
【Silent】
「なぁ比企谷」
【エイト】
「なんスか?」
【Silent】
「この第680部隊にフォネティックコードは付けないのか?」
フォネティックコードとはブラボー小隊だのヤンキー小隊などの、いわゆる部隊名である。
WoWの部隊なんて実質MMORPGのギルドみたいなものなので、フォネティックコードを付けないウチみたいなのはかなり特殊だ。
【エイト】
「別にいらんでしょ。なんだったらタマネギ部隊とでも名乗りますか?」
【Silent】
「アホかキミは。4人でクックロビン音頭でも踊れというのか。
よし、本日はこの部隊のフォネティックコードを皆で考えようではないかっ!」
【スノー】
「要らないと思いますけど」
【Silent】
「要る!
私はWoWが第二次大戦を題材にしていたバージョンからプレイしていたが、どこの部隊もそれはそれは格好いいフォネティックコードを付けていたぞ」
【エイト】
「………ようは大学時代からWoWやっていたんですね」
この人ってエヴァのミサトさんみたいに、自室じゃタンクトップにカットジーンズのみでPCラックの前に座ってそうだよね。
もちろんジョイスティックとジョイペダルも当たり前に購入してて、サイドコーナーには缶ビールを置いて。
【Silent】
「ではまず…」
【エイト】
「先生。最初に言っておきますけど。
イーグル・クロウ。メイジ。メビウス。ガルーダ。アバランチ。あとスカル小隊。ドラグナー遊撃隊。ゴースト・ライダーズ。ここら辺はとっくに使われてるので諦めて下さいね」
【Silent】
「う………」
この中に候補があったのかよ。
【エイト】
「先生ってアレでしょ。
TACネームも最初はマーヴェリックで登録しようとしてたクチでしょ」
【Silent】
「こ、このテのゲームなら。
誰だって最初はマーヴェリックで登録しようとするだろう!」
これも図星かよ。
いや、俺も最初はマーヴェリックにしようとしてたけどね。
WoWは登録スコアネームがいわゆるTACネーム、アメリカやNATOでいうコールサインとなる。
ダメ元で入力したらソッコーで『そのスコアネームは既に使用されています』って出てダメだった。
【将軍】
「八幡、我もアイデアあるんだけど!」
【エイト】
「………言っておくけど。ミラージュ・ナイツもレッド・ショルダーももう使われてるからな?」
【将軍】
「ぐはっ!?」
【Silent】
「そ、それじゃあっ! ほら、あれはどうだ!?
ラスト・リゾートッ!!」
【エイト】
「………ネトフ〇で見たでしょう先生。ちょっと待ってて下さい」
『ラスト・リゾート』がフォネティックコードとして使用出来るか調べてみた。
【エイト】
「………使えますね」
かくして我が統合軍航空師団・第680制空部隊のフォネティックコードは正式に『ラスト・リゾート』に決定した。
【将軍】
「ところで八幡よ。お主、次はステルス戦闘機にするのでは無かったのか?
そんなトムキャットなんかに貴重なゴールドをつぎ込むくらいなら………」
【スノー】
「財津くん。トムキャット“なんか”とはどういう意味かしら?」
隣に座っているゆきのんさんの声のトーンが一段低くなる。
【スノー】
「トムキャットへの愚弄は私へ向けた愚弄も同然よ。よく憶えておく事ね」
【将軍】
「ズビバゼン………」
泣きそうな声だ。
どうやら氷の女王の冷気は、ボイスチャットでも画面越し、インカム越しに材木座に伝わったようである。
【Silent】
「ふふふ………」
【エイト】
「何がふふふです。アンタは釣りキチ三平の魚心さんですか」
平塚先生がこういう時は、何か自慢したい時だ。
だったら黙ってかつての恩師に報いるのが、教え子の務めである。
【Silent】
「実は私も機体を買い替えてな!」
【スノー】
「………先生。一ヶ月前にF-2を買ったばかりですよね?」
隣では雪乃も呆れ顔をしている。
きっとこの人って車もこんな感覚で買い替えてるんだろうな。
【Silent】
「見るがいい! これが私の新機体だっ!!」
【エイト】
「うっわ………。皆大好きフランカーじゃん………」
画面に映っていたのは、スカイブルーに塗装されたロシアの誇る第4.5世代戦闘機、Su-35SフランカーEだった。
戦闘機ファンに「格好いいと思う戦闘機を一つ選んで下さい」というアンケートを取ったら、必ずベスト10に入るであろうフランカーE。
トムさん、そしてF-15を上回る戦闘機をとロシアのスホーイが当時、総力を上げて開発した第4世代戦闘機であるSu-27フランカー。
そのフランカーを発展させたSu-35からカナード翼を取り、最新のアビオニクスを搭載したのが今回平塚先生が購入したSu-35SフランカーEだ。
ランキング1位の奴が乗っているスパホだが中国では「サイレント・ホーネット」なんて呼ばれている。これはスパホが簡易ステルス機能を持っているためである。
それと同じように、フランカーEもレーダー波吸収塗装と強力なアビオニクスを使う事により簡易ステルス機能を実現させているのだ。
因みにフランカーっていうのはラグビーやアメフトのウィングに位置するポジションの事。これ豆な。
それにしても、このテのゲームで戦闘機とか手に入れてくれる武器商人って何者なんだろうね。
エリア88のマッコイ爺さんみたいなのが、どのゲームにもいるんだろうかね!?
さて。
おしゃべりタイムもそこそこに、統合軍航空団のリーダーが揃うブリーフィングルームへ向かう。
もちろんあと1時間で始まる今回のミッション『オデッサの攻防戦』について話し合う為だ。
ウクライナの黒海南部の、沿岸の軍港都市であるオデッサ。
第二次世界大戦での「オデッサの戦い」や初代ガンダムの「オデッサの激戦」等で名前くらいは知っている、という方も多かろう。
WoWの世界ではここに反乱軍の本拠地の一つがある、という設定だ。それを奪還出来たら俺達統合軍の勝ち。
時間内まで守り抜いたら反乱軍の勝ち、だ。
今回の設定。マ・クベみたいな人が鉱物資源掘りまくってるのかね。
と、別の制空部隊のリーダーらしき人物がすでに揃っていた。
「第13制空部隊“マーキュリー”隊長だ。乗機はF-22ラプター。よろしく頼む」
「第73制空部隊“コスモス”隊長だ。F/A-18Eを使っている。今回は噂の680部隊とチームを組めるのを楽しみにしていた。
ウチはご新規さんの多い部隊だが、足を引っ張らんように気をつけるよ」
「第109制空部隊“サンライズ”隊長だ。ユーロファイター・タイフーンに乗っている。
俺もあのステルスハンターと一緒に戦える事になり、ワクワクしているよ」
【エイト】
「こちらこそよろしくお願いします皆さん。攻略戦は攻めが有利ですし、ドンドン押していきましょう」
彼らのTACネーム、コールサインはチラ見したがどうせ知ったところで意味はない。
大体WoWなんて、ほとんどの場合TACネームなんて部隊内やゲーム中で仲良くなった奴に分かればそれで十分なんだし。
【司令官】
「さて、自己紹介も済んだところでミッションを説明しよう。
今回の舞台となるオデッサには反統合軍の巨大な要塞がある。これを時間内の叩くのが目的だが、当然反統合軍はこちらの爆撃部隊、地上攻撃部隊を叩くため迎撃部隊を出撃させるだろう」
「そこでトップランカーを有した16の制空部隊を4つの特殊部隊として編成し、即座に反撃介入出来る態勢を整える。その4つのチームの内の一つが俺達ってワケさ」
NPCの司令官の説明の後、マーキュリーの隊長さんが今回の部隊編成を解説する。
前回のイベリア半島攻防戦のように、『守る側が勝つ』というのはWoWに限らずどんなオンライン対戦では珍しい。
が、反乱軍の参加人数の少なさに助けられたのもあるし、今回はこっちに同じような事態が起きないとは限らない。
気を引き締めていくか。
~キリアスSide~
全員が着席(?)し、話は我が第207航空部隊サバイバーを含む精鋭達の今回のミッション時の行動についてのブリーフィングが始まった。
【アスナ】
「それで、私達サバイバーは今回どのように動けばのですか?」
ブリーフィングも少々重苦しい空気が画面越しに伝わるが、無理もない。
ヨハネスブルグ攻防戦。イベリア半島攻防戦。俺達反乱軍は2連続で統合軍に敗北を喫したのだ。
特にヨハネスブルグ攻防戦では、俺達サバイバーと共に精鋭と呼ばれるヴァルキリアのF-35が例の“ステルスハンター”のドラ猫にほぼ撃墜され、反乱軍全体に衝撃が走った。
反乱軍の一部では「チーターなんじゃないか?」なんて噂も広がっているが、あのドラ猫の強さは俺とアスナが前回嫌というほど味わっている。
「勿論。ランキング2位のあのトム猫を徹底マークしてほしい」
WoWは撃墜されると「買い替えた方が安い」というだけ修理費がかかるので、皆ドラ猫とやりあうのは避けたいのだろう。
クラインみたいなのはともかく、あまりプレイ時間のない社会人プレイヤーなどは特に。
【キリト】
「分かりました。前回はあのドラ猫とはモヤッとした勝負の付き方でしたし。俺とアスナで止めます」
その言葉にインコムのイヤフォンからブリーフィングに出席している全員の安堵が聞こえた気がした。
「ありがとう。今回のミッションは参加者も多そうだし何とかなると思う。
ま、運営からのサプライズとやらが何かは知らんけどな!」
「ヨシ。では一旦解散。今のウチに飯食うなりコンビニ行くなりしてくれ。30分前には集合な」
一旦ブリーフィンングは解散となった。
【シノン】
「ねぇ………運営からのサプライズって何かしら?」
【クライン】
「さあな………。
どんなゲームでもイベント時の運営のサプライズで、嬉しかったもんなんて経験した事ねぇぜ」
そう。
クラインの言う通り、対人要素のあるオンラインゲームの“サプライズ”なんて大抵ロクなものではない。
嬉しい要素でも微々たるモノだったり。
大抵はご新規さんがドン引きして、すぐに離れるような内容ばかりである。
それはアスナも同じ気持ちのようだ。
眉間にシワを作りながら、ウェポンセレクトを始めた。
ウクライナ最大の港湾を備え、同国を代表する工業都市オデッサの外れに位置する平野の傍に造られた反乱軍要塞基地。
普通はこんなところに要塞など作らないとは思うが、ゲームにそういう設定のツッコミを持ち出すとキリがない。
ミッション開始5分前。
レーダー等はミッションが始まってからではないと使えないが、開始と同時に索敵出来るようにはしておきたい。
【シノン】
「で、今日引き込む奴らが現れるのは?」
【アスナ】
「この海沿い………だと思うの。来ればレーダーに映るはず。しののん、お迎え頼むね」
【シノン】
「ったく、引き込む場所くらいはっきりしなさいよ……。それにお迎え役は私だけじゃないでしょ」
シノンは愚痴るが気持ちは分かる。出現位置が全く予想出来ず、索敵にそれなりに時間を割かれていたのではあっという間に勝負が決まってしまうだろう。
【クライン】
「要塞を攻撃に来るのは攻撃機や爆撃機だけだよな?
戦車とかそんなもんまで来たら……」
【キリト】
「いや、WoWは3Dフライトでもあるし、さすがにそれはないと思う。
まあ、その前にこちらの迎撃部隊を叩くための支援航空部隊と一戦交える事になるだろうけど」
クラインの不安に答えた時、アラートが鳴り響いた。いよいよミッション開始だ。
同時に哨戒機のレーダーが捉えた、IFFこと敵味方識別装置に反応しない機が、77機。
前回同様とてつもない数だが、今回はこちらもプレイヤー数は揃っている。
【アスナ】
「運良くこの近くに出て来てくれたみたい!」
【シノン】
「やれやれ……行きましょうか」
シノンのぶっきらぼうな返事に苦笑いをしながら、俺達はサバイバーの格納庫へと向かう。
俺とアスナのスーパーホーネット、シノンのイーグルⅡ、クラインのラファールの3機が離陸するのは、その1分後だった
To Be Continued...
後書き
今回の表紙はキリアスの乗る、VFA-154“ブラック・ナイツ”仕様のF/A-18Fスーパーホーネットです。
3DデータにペタペタMOD(スキン)を貼り付けてゲンナリしていたら海外の壁紙サイトで「商業利用しなければ自由にどうぞ」というありがたい一文があったのでそちらを使用させていただきました。
次回はpixivの方でアクシズさん、黒いオオカミさん、duck.haradaさん、プラ太郎さんからあったあのアイデアを使おうかと。
では。