Mission:04 『オデッサの攻防戦』後編まるでホバー機能すらあるかのように、海上を滑るようにギリギリに飛んでは突然上昇するなど、統合軍・反乱軍全てのプレイヤーをあざ笑うかのような行動をとる3機のE.D.I.達。
「おい! 統合軍の2位の奴があの金色のを1機撃墜したってよっ!」
「あれって映画に出てくる『エディ』って無人戦闘機らしいぞ」
「おいおい! ガルーダ1も撃墜されたってさ!」
「無人戦闘機の乱入とかグリスティスヴァレー奪還戦以来じゃね?」
まさにE.D.I.の動きは全方位、360度どこからも攻撃がくるようで、所謂新規プレイヤーには初めての経験だった。
本来のミッションを忘れ、統合軍所属プレイヤーも反乱軍所属プレイヤーも、ほとんどがE.D.I.の話題でチャット欄が溢れかえっている。
その時だった。
“Special Mission:E.D.I.を撃墜せよ!”
の表示が。
(まずい………)
各部隊の隊長は、統合軍・反乱軍関係なく全員渋面を作った。
ミッションが切り替わった以上、E.D.I.はもう新規プレイヤーだろうが初心者だろうが関係なく襲いかかる。
~八雪Side~
戦闘機の最大の弱点と言われるユニット。
それはパイロットと言われる。
何せGに耐えられない生身の人間が乗っているのだ。
これを克服する為、今アメリカを始め各国が急ピッチで無人機の開発を急いでいる。
映画『Stealth』は人間と会話まで出来る人工知能“E.D.I.”が落雷によるバグで自我がより大きくなり、ロシア攻撃の為暴走する───というストーリーである。
マッハ3を超えるVTOLステルス戦闘機が、無人なのだ。
マクロスのヴァルキリーレベルの機動で敵味方関係なく縦横無尽に暴れ回り、主人公達を圧倒する様は凄まじい。
【エイト】
「チ………バルカンも今ので打ち止めだ」
【スノー】
「一旦補充に戻りましょう」
映画さながらの機動を見せるE.D.I.に対し、弾薬も無しじゃ話にならない。
俺もトイレにも行きたいし、目も少し休ませたいしな。
【エイト】
「だな。作戦司令本部、こちらラスト・リゾート1。
再装備のため全機一旦帰投します」
現在、雪乃の淹れてくれた紅茶をすすりながら、VRバイザーを外しノーパソの画面を見ている。
俺らのトムさんは今回の統合軍のコンバット・コントロールである超大型原子力空母、チャック・ノリス級二番艦『デンゼル・ワシントン』の滑走路の上だ。
マジメな話、トム猫のターンアラウンドが5分程度で済むなんて、よほど熟練したメカニック達でない限り無理だ。
このテのゲームのメカニックって皆、ガンダムのアストナージさんみたいな人ばっかなのかね。
メカニックがアストナージさんで商人がマッコイ爺さんとかどんな世界だよ。
【Silent】
「エンジンの修理ってこんなに金がかかったか?
ゲーム開始当初はもっと安かったと記憶していたが………」
先ほどE.D.I.に撃ち抜かれたフランカーEの右エンジンの修理費に、ごっそりゴールドが飛んだのだろう。
半分怒りの交じった平塚先生のうめき声が、インカム越しに聞こえてきた。
【エイト】
「そりゃそうですよ先生。
ファントムとフランカーEの修理費を一緒にしないで下さい」
【将軍】
「こちらラスト・リゾート2、ターンアラウンド完了!
出撃する!!」
いち早くターンアラウンドを終えた材木座のタイガーシャークが、ディンゼル・ワシントンから発艦する。
『了解。ラスト・リゾート2、旋回して方位290へ。
こちらからのコントロールから離れたら、今度はE-2Dホークアイの指示に従ってくれ!
グッドラック!』
風間真仕様のブルーのストライプの入った材木座のF-20がヴェイパーコーンを靡かせながら、やがて見えなくなった。
「降ってきたな」
誰かがポツリとそう言う。
どうやら運営のサプライズその1の“レインコンディションでの戦い”はまだ続くようだ。
反乱軍迎撃部隊を駆逐し制空権を確保するためのミッションはE.D.I.との戦いに切り替わったが、統合軍の上級プレイヤーパイロット達は次々と青空に舞い上がった。
もちろん、これから飛び立つ予定の中には俺達も当然おり、材木座が空へと上がった直後にまた雨が降り出してきたのだ。
「八幡くん、こっちも終わったわよ」
俺が紅茶を飲み終えると同時に、もうVRゴーグルを装着した雪乃が声をかける。
ターンアラウンド完了まで4分53秒。早!
リアルの戦闘機なら有り得ない。
10分切れば凄いの世界、未熟なメカニックだと20分とかもザラだ。
それでも「もっと早くしてくれ」という要望も結構運営には来ているそうだが、運営としてはある程度リアルさも追及するWoWには、ターンアラウンドの時間はこれ以上短縮するつもりはないらしい。
爽快感を重視したいのならエスコンかアライアンスでもプレイしてろ、という事だろう。
「よし、いくか」
俺も再びVRゴーグルを装着し、アナログジョイスティックを握りしめる
『こちら作戦司令本部。全機上がったようだな。ラスト・リゾート1、ラスト・リゾート3は現在の方位を維持せよ。
こちらの制御解除後はAWACSのホークアイの指示に従ってくれ』
【スノー】
「こちらラスト・リゾート1。了解です」
そして、俺達のトム猫より少し遅れて平塚先生のラスト・リゾート3ことフランカーEが続く。
NPCの司令官の指示に返事を返すのも妙な話だが、それでも律儀に返すのが雪ノ下雪乃という女である。
【スノー】
「方位315。反乱軍及びE.D.I.に接近中」
【Silent】
「雨のグラフィックがまた一段とリアルになってるな。キャノピーガラスに本当に雨が当たっているようだ………。
雨でベイルアウトなんて悲惨だ。比企谷、雪ノ下。高度制限が解除されたら雲の上に出ないか?」
先生の言う通り本物の雨かと思うような豪雨が降り注いでおり、こんな所でベイルアウトしたらみっともない事この上ないのは間違いない。
【エイト】
「確かにそうですね。
雨でベイルアウトなんて恥ずかしくてもうログイン出来ませんわ」
ジョイべダルを踏みしめジョイスティックも目一杯倒し、高度を一気に上げたその時だった。
『こちら管制機ホークアイ。各機、迎撃体制をとれ。
今回は特別報酬としてミッション参加者全員に2,000ポイント、最後まで生き残った者には5,000ポイント。
そしてE.D.I.を撃墜した者には10,000ポイントが贈呈される。各員の健闘を祈る』
「「「「「「「「───っ!!!」」」」」」」」
『空の作戦本部』とも言うべきAWACSであるE-2Dアドヴァンスド・ホークアイから、“ボーナス”が出る事に統合軍の参加者全員が湧きかえる。
「マジかよ。金欠だから助かるぜ!」
「俺もライトニングに買い替えようかな」
WoWのポイントというのは割引ポイントみたいなものだ。
1ポイント=1円なので、今回は実質的に2,000円、5,000円、10,000円が貰えるものと思っていい。
【エイト】
「皆さん浮足立つのはそこまでにしましょうや。
ホークアイのレーダーでもこっちのレーダーにも捕捉した。真剣にボーナス取りに行きましょ!」
「「「「了解っ!!」」」」
~キリアスSide~
【アスナ】
「キリトくん、いたよ!
IFFにもかからない。E.D.I.だよ!」
【キリト】
「………今回のポイントは渡せるならシノンに渡してやりたいな」
勿論WoWにおいてRMT行為はいかなる理由を置いても禁止だし、他人に買い与える事も出来ないが。
アスナが今回のAWACSのE-3Gセントリーがキャッチしたデータをリンクし統合軍機及びE.D.I.を捉えたことを確認し、スロットルレバーを前に倒し機体を加速させる。それに続きクラインも後を追う。
他の味方機も次々加速していった。
そしてセントリーからの指令が伝達される。
『サバイバー1、サバイバー3へ。
敵機を全機撃破し制空権を掌握しろ。基地には到達させるなよ。
サバイバー1。余裕があればE.D.I.を最優先で頼む』
【キリト】
「了解。指示は頼んだぞ」
『今データをそちらに送る』
勿論E-3GからのボイスはNPCだが、まるでNPCとのやり取りとは思えない。
現在こちらに来ている統合軍機、そして3機のE.D.I.の位置データなどがリンクシステムにより送られる。
【サイファ―】
「こちらサイファ―。サバイバー1、そちらの噂は聞いている。ずいぶん器用な奴だってな。
撃墜率89%は確かにチート扱いされても仕方ないな」
【アスナ】
「こちらサバイバー1、私達もそちらの噂は聞いてます」
【サイファー】
「ふっ、そうか」
「グランディア隊から各機へ。さっさと片付けようぜ。明日は早出でね、早めに寝たいんだ」
【クライン】
「サバイバー3、了解だ。だが、ボーナスは俺が貰うぞ。
ポイントでグリペンあたり買っちゃおうかね!」
【アスナ】
「キリトくん、セントリーから捕捉データがきたよ!」
【キリト】
「そうか。それじゃあ機体を軽くしたいし。スラマーで牽制してみるか」
使用変装を次世代スパローともいうべきAIM-120AMRAAMを選択し、先制攻撃の準備に入る。
【クライン】
「悪いがサイファーさんよ。ボーナスだけは譲れないんでね。
こちとらしがないサラリーマン、こういうチャンスは逃したくないんだよ」
【サイファー】
「それはこちらも一緒さ!」
俺に続きクライン、そして各味方機もE.D.I.への先制攻撃の準備に入った。
俺はVRバイザーに映るHUDを見つつ、アスナがセントリーからのデータをリンクし、レーダーをロックオンするのをただじっと待つ。
【アスナ】
「キリトくん、ロック!」
そして隣からアスナの声、インコムからロックオンしたことを知らせる電子音が鳴り響き、HUDで3機、ロックしたことを確認する。
【キリト】
「サバイバー1、FOX3!」
俺はジョイスティックのミサイル発射ボタンを押す。
主翼下部のハードポイントに装着されていた4本のアムラームが切り離され、自由落下を始めるがすぐに火が付き、ロックオンした目標に向かう。
【クライン】
「サバイバー3、FOX3!」
【サイファー】
「サイファー1、FOX3!」
「スティクス1、FOX3!」
「ディアブロ2、FOX3!」
それに続いて各機が次々とアムラームを発射する。
これだけ放てば、数秒後には最低でも1機のE.D.I.が墜ちるだろう。
誰もがそう思った。しかし───
【キリト】
「なっ! 全部外れたっ!?」
【クライン】
「こっちもだ!?」
俺達の放った26発のアムラームは、E.D.I.には当たらず全て外れたのだ。
しかも、その直後にロックオン・アラートが鳴り響く。
【アスナ】
「キリトくん! ロックされたわ!?」
【キリト】
「くそ!?」
ロックされた味方機はすぐさまに散開するが、ロックは外れず次の瞬間にミサイルアラートに切り変わった。
【キリト】
「ミサイル!? 全員回避! 回避!」
俺はすぐに回避機動に入り、急旋回、インメルマンターンからの急降下など機動をしつつ、チャフ・フレアをいつでもバラ撒けるようにする。
アスナも時折ルームミラーなどで、ミサイルが見えるかどうか確認している。
ワイヤレスインカム越しに耳に響く轟音。
僚機が次々と撃墜され炎に包まれて落下していく。
幸いにも俺とアスナのスーパーホーネットは、回避機動をしているうちにミサイルアラートが消えた。
【アスナ】
「ミサイルを回避出来た……のかしら?」
【クライン】
「サバイバー3、ミサイルを回避!」
クライン以外の皆からはミサイル回避報告が来ない。
WoWではミッション中に撃墜された奴は、最低30分は参加出来ない。
という事は。
俺達のスーパーホーネットとクラインのラファール以外、全てスクラップにされたという事だ。
これは困った事になったな………。
まさかご新規さん達に「付いてこい、援護してくれ」という訳にはいかないだろう。
【クライン】
「キリト、何かおかしいぜ。俺たちが発射したのは一発も当たらなかった。
いくら人工知能の無人機だからってこんなバカな話があるか?」
クラインの言うとおりだ。
俺達が放ったアムラームの数を考えれば、少なくても1機は撃墜するはず。しかし、3機ともレーダーから消えていない。
その時であるセントリーから無線連絡が入った。
『全機へ告ぐ。
E.D.I.は強力な次世代ECM“ケロべロスⅡ”を発動させている!
これによりミサイルの誘導力が大幅に低下。中・遠距離ミサイルは全て使い物にならないと思え!』
【キリト】
「ケロべロスⅡ…」
地獄の番犬の異名通り、イギリスが生んだ傑作ECMと言われるケロべロス。
その次世代ECMと言われるケロべロスの『Ⅱ』が噂されたのは2011年。
しかしイギリス国防省は軍の予算削減と、「プログラムを最新の物にアップデートすればあと20年は使用可能」という意見もあり、現行のケロべロスをバージョンアップして継続使用する事を決め、Ⅱは開発中止になったはずだ。
(………架空戦闘機の次はお蔵入りになったハズのECMか。流石ゲームの世界だ、何でもありだな)
まぁ、愚痴っていても仕方ない。
【キリト】
「クライン。谷間飛行はできるか?」
【クライン】
「問題ない。行ける」
中・遠距離ミサイル攻撃は全て無力な以上、低空から接近してドックファイトに無理やり持ち込むしかない。
俺達のスーパーホーネットとクラインのラファールは高度を下げ、山と山の間に走る谷へと入る。
(そういえば、あのドラ猫と初めてやり合ったのもピレネー山脈での谷間飛行だったっけ)
そんな事を考えていた次の瞬間───
【クライン】
「くそ! 背後を取られた!」
いつの間にかクラインのラファールの後ろには、ぴったりとE.D.I.が付いていた。
ボディカラーが黒で、さっき見た金色じゃない。
(しまった! こいつは元々ステルス機だったんだ………っ!!)
どうやらケロべロスⅡのせいで俺達が混乱している隙にセントリー、そしてアスナの索敵をかいくぐり、1機が密かにこちらに接近していたようだ。
クラインを撃墜すべく、E.D.I.の胴体兵装格納庫ウエポン・ベイが開く。
【キリト】
「アスナ! 捕捉頼むっ!!」
【アスナ】
「もうやってるよっ!!」
E.D.I.相手に2対3では分が悪すぎる。
どれかをまず片づけないと。
ケロべロスⅡがまだ発動している以上、近づいてのサイドワインダーかバルカンしかない。
ターゲットマークが重なったっ!!
【アスナ】
「ロックオン!」
【キリト】
「もらったっ!」
トリガーを引いた瞬間、致命傷とはいかなかったが、20㎜バルカン砲にケロべロスⅡは関係ない。
右主翼を穴だらけにされたE.D.I.はよろよろとクラインのラファールから離れ、回転しながら山岳へと墜ちていく。
残るE.D.I.はあと2機。
【キリト】
「このまま一気に行くかっ!!」
俺はアナログジョイスティックをしっかりと握り直すと、機体を急上昇させある程度の高度まで上昇させ残る2機のE.D.I.が待ち受ける空に飛び立つ。
~八雪Side~
【エイト】
「ようやく見えた!」
AWACSであるホークアイが強力なジャミング電波を発してくれているおかげで、E.D.I.に捕捉されずには済んだが。
こっちもE.D.I.のECMであるケロべロスⅡによりかなり近寄らなくてはならなくなり、ほぼタイマンの形になってしまった。
【スノー】
「やっぱり目視出来るくらいじゃないと駄目みたいね」
【エイト】
「折角ニュー・フェニックスをターンアラウンドした意味が………って来たっ!!」
バレルロールなどの機動をしながら、E.D.I.がこちらに向かってくる。
VRバイザーを付けているせいで、本当に臨場感が凄い。
もちろんあんな機動をすれば、凄まじいGがパイロットに襲い掛かり、何度もブラックアウトしそうになるだろう。
しかしここはゲームの世界。Gなんて関係ないのだ。
その時である。
周波数をどう盗んだのかは不明だが、無線に謎のマシンボイスが。
【E.D.I.】
「警告する。E.D.I.はこれから『キャビア・スイーツ』を実行する。
私の邪魔をするなら武力を以って排除にかかる」
【エイト】
「………何がキャビア・スイーツだテメー。
これからバイカル湖にいって旧核設備施設を攻撃するってのかよ」
映画では自我を強くしたE.D.I.は、一般市民のPCから国防省のスパコンまであらゆるコンピューターに侵入しまくり、冷戦時代にアメリカが旧ソ連を攻撃する際の仮想作戦である『キャビア・スイーツ』を探り出した。
それを実行に移そうとし、主人公達と交戦になるのだ。
【スノー】
「ちょっと何する気っ!?」
【エイト】
「俺はお前と違って正攻法ばかりじゃないんでなっ!!」
俺はこっちに向かってきたE.D.I.に向かう。
こちらのAWACSのホークアイのECMのおかげで、E.D.I.も今は中・遠距離ミサイルは使えない筈。
ならば俺達を迎撃するのは、至近距離でのドッグファイトしかないだろう。
【スノー】
「距離はある、回避できるわ!」
【エイト】
「する気はねーよ!
先生! 材木座! スタンバイ頼む!!」
ゲームの世界とはいえ、まさかE.D.I.とチキンレースをする事になるとは。
登録し、ログインした当時では考えられんわ。
『ラスト・リゾート1、このままでは9秒後に衝突するっ!!』
ホークアイのNPCオペレーターから当然のように警告が入る。
【スノー】
「向こうはまだ動いてくれないわね…!」
【エイト】
「最悪ぶつかったっていいだろ。どうせゲームの世界なんだっ!!」
隣で雪乃が怒鳴っているのが分かるが、俺はさらにスロットルレバーを引いた。
頼むぜ、映画の設定通りであってくれよ………。
俺はアナログジョイスティックの発射ボタンを押す。
文字通り轟音の後に発射された第4世代サイドワインダーが、赤いストライプを描きながらE.D.I.に向かっていく。
瞬間───
E.D.I.が視界から消えた。
【エイト】
「材木座! 任せたぞっ!!」
【将軍】
「うぬっ!!」
予想通りだった。
映画ではE.D.I.はステルス機能や人工知能を始め、国家機密クラスのテクノロジーばかりで作られている。
その為、敵に回収されテクノロジーが解析されるのを防ぐ為に
「敵陣で撃墜される事態だけは絶対に避けねばならない」
という危機管理プログラムが組み込まれているのだ。
ならば俺とあわや正面衝突、なんてリスクは犯さない筈。そして左右には材木座と平塚先生を配置させている。
案の定E.D.I.はギリギリまで勝負するチキンレースのような真似などせず、狙い通り左に回避してくれた。
待ち構えていた材木座のタイガーシャークから放たれた20㎜バルカンにより、E.D.I.は瞬時に炎に包まれる。
【将軍】
「八幡! 我も10,000ポイントゲットッ!!」
インコムから材木座の嬉しそうな声が流れた。
表情が安易に想像出来るな。
【エイト】
「良かったじゃねえか。課金のカネが浮くな」
【Silent】
「くっ! 私も狙っていたのに………」
【スノー】
「先生は社会人なんですし構わないでしょう」
雪乃の冷静過ぎるツッコミが入る。
~キリアスSide~
クラインのラファールの背後に付いていたE.D.I.に威嚇でバルカンを放つが、当然のように当たらない。
しかしクラインからは少し距離を置いてくれた。チャンスだッ!!
俺とクラインは共にバレルロールをしながら、チャフ・フレアをバラ撒きミサイルを回避するE.D.I.の背後をとろうと試みる。
そのまま続けてまたバルカン砲を撃ち込むが、意図も簡単にジグザグ飛行をしながらかわすE.D.I.にはまたも外れた。
元より操縦者がいないE.D.I.には、ああいう変態機動もお手の物なのはシノンを撃墜した時点で分かっている。
俺達をあざ笑うが如く、E.D.I.は山岳へと向かっていく。
【アスナ】
「キリトくん! 山岳地帯に逃げたよっ!」
【キリト】
「………ったく。あのドラ猫といい、最近は随分と山岳地帯に縁があるな」
俺達サバイバーの2機はそれぞれ、E.D.I.へのターゲットロックを試みる。
バルカンとサイドワインダーしか使えないが、それをここで愚痴ってもどうにもならない。
E.D.I.は山岳地帯をまるで、流れるプールのように悠々と高速で飛行していく。
【クライン】
「やっべ………キッツイわ………」
WoWはこうした障害物にも当たり判定がある為、自然こういう場所での高速移動に慣れているものは少ない。
【キリト】
「クライン離れてろ!」
クラインのラファールもいい戦闘機だが、やはり機動性はスーパーホーネットの方が上だ。
それに岩肌の出た山岳地帯とはいえ、E.D.I.と戦う際は出来るだけ広い空間を確保したい。
【キリト】
「アスナ! ロックの準備をしてくれっ!!」
【アスナ】
「うんっ!」
恐らく広い空間に出た時に、奴は攻撃を仕掛ける筈………。
そう思った矢先だった。
【アスナ】
「キリトくん、ロックオンッ!!」
【キリト】
「アスナ! 奴はそのままロックしててくれっ!!」
俺は引き金に指をかけ、ジョイペダルの足の位置を直す。
その時。E.D.I.が視界から消える
(きた………っ!!)
そう。シノンの時と同じように。またフックターンをかけてきたのだ。
瞬間。
俺も反射的にスロットルとフラップを操作し、E.D.I.の背後を取り返していた。
【キリト】
「もらったっ!!」
ターゲットマークが重なった瞬間、一気にトリガーを引く。
あっという間にE.D.I.のボディから炎が舞い上がる。
排除対象を無くした俺とアスナは反転し、全力で離脱を開始した。
【キリト】
「………こちらサバイバー1より各機へ。敵攻撃部隊の迎撃に成功した」
「おい、まじかよ!」
「スゲーッ!!」
統合軍・反乱軍に関わらず。
ボーナスを取り損ねたプレイヤーたちはガッカリしながらも、E.D.I.が3機とも撃墜された事にどよめく。
「ランク1位、フックターンをやり返して撃墜だってよ」
「でも残りの2機は2位の部隊が落としたって」
「へー!」
「いやいや。1位は2機落としたってさ!」
色々な情報が錯綜する中、統合軍と反乱軍のどちらにも所属しているプレイヤーが詳細を説明していく。
【シノン】
「はー………。プライド傷つけられちゃったわ。10位からさがりそうね、ランク」
E.D.I.のフックターンに引っ掛かり迎撃された詩乃は、キリトが同じくフックターンで迎撃したと聞いて溜息をついた。
【アスナ】
「しののんもいっそスパホにしたら?」
【シノン】
「傷口に塩を塗り込むような事言わないで」
詩乃はDL購入リストからまたイーグルⅡをクリックする。
◇◆◇◆◇
「よし。この5,000ポイントにいくらか足してまた新しい機体を買おうかな」
「………しばらくフランカーで行くべきだと思いますがね。
先生、言っちゃ悪いですけどフランカーの性能の50%も引き出してないっすよ」
「うるさい」
fin
後書き
………次回はオフ会。の予定ですが。
このシリーズの今後についてはマイピクでお知らせします。
では。