脱稿ルド君
ロナルド君の原稿が上がった。いつもはハイテンションになり寝かしつけるまで大層苦労するのだが、今回はなぜか鬱っぽくなっている。ソファに座りなにやらグチグチ自己嫌悪しているので気分転換をさせてやろうと思い、クソではない普通の映画を観ようと提案した。
「君アクション好きだけど今日はやめよう。昔の映画でも観る?」
「なんか夢のあるやつがいい…」
「出たよロマンチストゴリラ」
「うるせえよ」
「誰も不幸にならない物語っていいよね」
私が選んだハッピーに進行してハッピーに終わると思っていたコメディ映画は途中で意外なシリアス路線になり、主人公が見知らぬ他人のために骨を折ったにも関わらず、感謝もされなければ報われもしない観ている側にとっては苛立ちが募る展開が待っていた。
どうやら思い出したくない場面は忘れてしまっていたようだ。その先は面白くて心が温まるエピソードが続くのだが、ロナルド君に勧める映画としては選択を間違えたかもしれない。エンドロールが流れ始めてもロナルド君は無言のままだった。
「君ってさ、他人の不幸せが許せないんだよね?」
「なんだよ、それ」
「気がついてないの?」
「お前の言うことは時々わかんねえ」
……いつか君にもわかるさ、そう心の中で呟きながら肩の重みにハッとして横を見ると、眠りに落ちたロナルド君が私にもたれかかっていた。
<終わり>