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    【L月】嘘吐きが紡ぐ本心 夜神月の目の色は変わる。

    「竜崎、このファイルだが──、どうした?」
    「いえ。……それでしたら月くんはこれをお願いします。私はそちらを」
    「ああ、分かった。頼むよ」

     キラをヨツバと仮定して三日、現在の捜査本部はヨツバ本社を徹底的に洗うことにてんてこ舞いだった。
     作業に没頭している彼を気づかれないように観察する。私もそうだが彼の集中力は計り知れない。単純な向き不向きはあるにしろ、通常であればその疲労感は相当なもののはずだ。だが夜神は一切そんな様子は見せずに次々と効率的にすべきことをこなしていく。キャパシティの広さは言うまでもなかった。
     必要な甘味を摂取しながら、今の彼を観察したところでこれ以上の意味はないだろうと早々に結論づけ目の前の膨大な情報へと意識を固定させた。

    (やれやれ……)

     月を意識の外へと追いやったらしい世界の名探偵に、月は悟られぬように内心でため息をついた。キラだと疑われていることは知っている。そのための手錠であるし、もとより隣の男が自分の前に現れ名乗ったときからそんなことは百も承知だ。さすがに手錠これは予想外だが、同時に妙な納得もしていた。こいつならこれくらいやる、と。本人が聞けば形容しがたい顔で心外だと告げるさまがありありと見える。
     けれど月は嫌というほど知っていた。大学生活を共にするうちに、竜崎と呼ばれる男の非常識さをよくよく理解していたために。強引で、横暴。ときには傲慢にさえ思える倫理も法も知ったことかとばかりの手段は、けれどひどく合理的で無駄のない策ばかりだ。そのことを、父を含めたここにいる人間がどれほど理解しているかは定かではない。だがみなあの男を認めていたし、信頼さえしていることは明白だった。
     Lほどの立場であれば、物見遊山よろしく高みの見物だってできただろうにそうしなかった。興味のある事件しか扱わない、とはいえ”L”の価値を知らぬわけでも、どうでもいいわけでもないだろうに。さしたる興味もないだろうが。
     世界の切り札は伊達ではない。こうして近くで仕事ぶりを見ていれば嫌でも感ずるところはあった。Lが死ねば、世界の秩序は失われる。おそらくそれは悲観でも買い被りでもない。もはや一見珍妙で下手をすれば不審者にしか見えぬ男は、Lの名を冠する機能であり装置として完成していた。きっと我関せずでいられるのなんて良くも悪くも平凡な、キラ事件まではLの名すら知らなかった月を含む一般人くらいだろう。Lを背負う奇妙な男の重圧だなんて、世界どころかいまだ社会に出ぬ身としては途方もないものだ。

     月にとって現状はこれ以上なく不服だし業腹ですらあるが、Lの判断が間違いだとも思わない。出来事のみを見たときに疑わしい中に月がいることも、能力面と性格、プロファイリングにおいてキラ候補の筆頭であることも理解はできる。納得できるかは別だが、確かに我ながら怪しいと月だって思うのだ。Lはもっとだろう。第一、月は自分がキラでないことを知っている。今となっては唯一それだけが月の精神の支柱だった。
     そうして折り合いをつけられたとき、月の興味を惹いたのは竜崎だ。より正確に言えば竜崎から見た夜神月。月は確かにこれまで事件のアドバイスじみたことをしてきたし、事実それで進展や解決を見せたものもある。だが所詮はまだ学生でしかないのだ。Lと24時間行動を開始するようになってからはより一層思いは強まった。
     月は自身の優秀さを知っている。多少過信しやすいきらいはあるが、過小評価も過大評価もしていないつもりだ。だからこそ世界に名を轟かせる男が命を懸けている事件に容疑者とはいえ関わっていることが夢のようだった。どころか、キラ殺人鬼だと疑われていることは、ほんの少しだけ月を気持ちよくさせた。つまりそれは、この男にとって月はそれだけ用心に値する、興味も関心も払う必要がない無価値な人間ではないからだ。
     ”ただの夜神月”が”L”の興味を惹く人間でないことは理解している。夜神月=キラという前提がなければこの男はきっと露ほども気に掛けることはなかったに違いない。キラだと疑われLの思考を占めることは、窮屈な空間においてささやかな無聊の慰めにすぎなかった。疑いと、関心。正反対にも思えるそれをもたらすのが同一人物であることもまた、月の神経を逆なでする一因でもあるのだが。

     双方の心のうちはともかく、表面上はそれなりに打ち解けてきたように見えるある日のことだった。
     互いの手を手錠で封じている月とLは、当然仕事から私生活からすべてを共にすることになる。それでも行動に支障が出ないよう長い鎖を用いることで今まで大きな問題はなかった。いや、現時点においても表立って問題らしきことはない。ただ少し、ほんの少し竜崎が月にだけ分かる範囲で挙動不審なくらいだ。
     月も最初こそ心配の色を宿していたし、もしキラと常時行動することでLとして支障があるならと、己の軟禁を申し出てまでも竜崎のことを気遣った。普段の竜崎であれば揺さぶりがてら煽りに煽っていたかもしれないが、常よりも言葉少なに必要ないと伝えるのみだ。無論月がはいそうですかと簡単に頷くはずもないが、実際に何があったわけでもなし。頑なな竜崎に半ば折れ、半ば元から挙動不審なんだしそう変わりないと月は自身を納得させた。竜崎は物申したいと不服さを覚えたものの、好都合に違いないため沈黙を選んだ。



     夜神月の目の色は変わる。
     これが今は竜崎と呼ばれる彼のキラ容疑者・夜神月に下した結論であった。
     目の色が変わる、といっても当然比喩表現ではない。物理的に、というのも奇妙な話だが、全く違う色を宿すのだ。キラであった頃は赤茶色、キラの自覚及び記憶を持たない今はチョコレート色の瞳をしている。
     記憶により瞳の色が変わるならば、少なくとも今の夜神はキラではないと結論づけられる。夜神月はキラであるが、イコールではなくノットイコールと考えるのが妥当だった。しかしそれがどういった条件下で起きるかは不明。次の疑問は記憶により、あるいは人格により瞳の色が変わることは果たしてあるのかというもの。実際に起こり得ている夜神の変化がキラの能力と関わりがあるのか否か。こういったケースで真っ先に思いつくのは多重人格、あるいは解離性障害と呼ばれるものだがこと夜神には当てはまらない。夜神はキラが現れる前から今までの記憶を多少不鮮明ながらにはっきりと覚えている。不鮮明なのもキラに関する一部のみだ。
     こうなってくるとますます今の状況を作り出したのはキラとなってくる。そのことに竜崎は動揺していた。現状がキラの掌の上にあることではない。都合のいいよう動かされていることですら。
     つい先日、らしくもなく動揺を夜神に悟られ、あまつさえ気遣われたことを思い出す。冷淡さを湛えた瞳、完璧に作られた表情。竜崎の知る夜神月キラ。だが今の夜神は違う。

     ──違いすぎるから柄にもなくこんなことになっているのか。

     浮かんだ思考は瞬時に捨てた。Lには必要のないものだ。竜崎、と呼ぶ声には感情があった。キラだと言ったときには怒りの色を、やる気がないと言えば苛立ちの色を、甘味が足りないと松田を走りに行かせたときには呆れの色を、それぞれに宿していた。

    『全く、仕方がないな』

     あまり松田さんを苛めてやるなよ、と言った彼はけれど竜崎のことをそんな風にもって許容した。呆れる夜神は困ったような笑みを浮かべていて、彼には妹がいたなと考えたのは詮無きことだ。
     そうして竜崎は、夜神のことをほとんど知ることはなかった。チョコレートを溶かしたような甘ったるい笑みを、ついぞ見ることはなかったからだ。




    **********




     夜神月の目の色が変わることに気付いたのは実のところもう少し以前のことだ。夜神月の自白めいた提案に釈然としないながらも受け入れたときのこと。監禁してから7日目、夜神は人が変わった。憑き物が落ちたかのような顔で自身の無実を訴えだしたこともそうだが、確かに彼は嘘を言っていなかった。夜神の演技力には卓越したものがあるが、どれほど上手く表情を作れても瞳孔まではコントールできない。通常嘘をつくとき人の瞳孔は開く。だから夜神は自分の目を見るように言ったのだ。私自身の目で嘘かどうか確かめろ、と。あるいは嘘の判別というのであればポリグラフ検査にかける手もあった。だが嘘をつくことに抵抗がないキラには意味がないと断じた私はそれを選ばなかった。

     ジャラリと鳴る鎖の音にも慣れた頃。進展しない捜査に焦れていた私は飽きもせずにパソコンに噛り付いている夜神を見ていた。右手の先、手錠で繋がれた彼はどこにでもいる青年のように見える。これまで私が目にしてきた『友人』の姿はもやはどこにもなかった。この変化は長期に渡る監視・監禁、あるいは自身がキラだと疑われていることによるストレスからではない。そう私は結論付けた。これはキラではない
     お前は誰だと、問うてしまいたかった。Lとして。『友人』の竜崎として。私の知るキラ夜神月は赤がみかかった茶色だった。ブラウンの髪に赤茶色の瞳。ああ、だが。初めて彼を目にしたとき、確かに写真と違うと思った。
     
    ​​​​​​​ ──私がこれまで会っていた、ときには討論さえ交わした相手はどこにもいないのだ。





    **********





     ──彼の本心が一体どこにあったのか、なんて、今は知る由もない話でした。

     私は彼の死を知っていました。知っていて彼をむざむざと死なせた。それがLとしての判断なのか私という個の判断なのか私にも分からない。
     分かるのはもう二度と柔らかに笑む瞳を見ることはないこと。私は二度も友を喪ったこと。それだけです。
    浅上 汐 Link Message Mute
    2022/09/10 16:59:49

    【L月】嘘吐きが紡ぐ本心

    初出:2019.01.19
    白月とキラの間でぐるぐるするL。

    タイトルお借りしました◆指切りうさぎ

    #デスノート #L月

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