竜崎と成人月「……なんだこれは」
「お酒です」
「僕の聞き方が悪かった、こんなにどうするんだ?」
「飲み比べをしましょう」
「飲み比べ」
「はい」
「一応聞くけど、どうして?」
「月くんとより親交を深めるために」
「そうか、僕たちはそんなものなくても十分に親しいから必要ないな?」(お酒没収)
──二時間後──
「月くんはケチです」
「まだ拗ねてるのか……。あんなチャンポン、胃を悪くするだけだ」
せめて二種類に絞れ、という月はようやく片付けが終わった先の光景を思い出してうんざりした。
日本酒、焼酎、ワインにビール。見るからに高級品からスーパーに売られているようなものまでが並ぶさまは壮観の一言だったが、酒屋の方がよほど謙虚に思えるありさまだった。
「なんだってあんなに? そもそも竜崎、別に酒が好きなわけじゃないだろう」
酷使した手をほぐしながら問えば、竜崎は決まり悪げな顔をした。この顔にもすっかり見慣れたなと月は少々ズレたことを考える。親に叱られる前の子供を相手にしている気分になるのはこれが初めてではなかった。
粧裕も昔はこんな感じだったな……。怒る母から幾度となく妹を庇っていた長男らしい思考だが、相手はアラサーの成人男性だ。色々と絵面が酷いが月は辛抱強く子供(仮)の言葉を待った。
「……友達は」
「うん?」
「友達は、宅飲みというものをするものだと聞きました。私は月くんとお酒を飲んだことがありません」
「……ははっ」
「月くんは無神経ですデリカシーに欠けています心からそう思います」
「僕にそんなことを言うのはお前くらいだよ」
不貞腐れた顔がたまらなくおかしかった。自分よりもずっと年上のはずのこの男の、幼い子供を思わせるアンバランスさを月はこの上なく好ましく思っているのだ。
ああ全く、なんておかしくていとおしい『友達』だろう!