嫌い=好き?(デミセバ)嫌い=好き?(デミセバ)
ナザリック地下大墳墓第9階層廊下。
仕立ての良い黒の執事服に身を包み静かに歩く男が1人。
男の名前は「セバス・チャン」。
アインズ・ウール・ゴウンの忠実なる執事である。
本日の仕事を終え自室へと向かう途中、普段居るはずの無い人影を視界に入れる。
オレンジのストライプスーツに銀の丸眼鏡、スラリとした体格と澄ました表情を浮かべる男。
第7階層守護者「デミウルゴス」。
何故此所に?とセバスは思ったがアインズ様に呼ばれてこの付近まで来たのだろうと
軽く御辞儀をし横を通り過ぎようと心に決めた。
お互いに昔から気に入らない相手なのだ。
何かあったと言う訳では無いのだが、見ればお互い不快、反発しあう。
一言で言えばソリがあわないのだ。
デミウルゴスは遠くから近付いてくるセバスに気付いたようで其処で足をとめる。
口の端を少し上げ、腕を組む。
まるで好敵手が現れ喜んでいるように見える。
セバスはチッと心の中だけで呟き何食わぬ顔で廊下を歩いて行った。
「やぁ、セバス。もう仕事は無事に終わったのかね?」
「はい。デミウルゴス様。何事も無く終了しております。」
「そうですか。」
「はい。」
たったこれだけの会話だがセバスは早く此処から退散したいと思う。
きっとデミウルゴスとて同じだろうと思う。
デミウルゴスはセバスより少し身長が高いせいもあり、見下ろされている感じが嫌なのだ。
それと皮肉な感じの表情…。
何故何時も絡んでくるのか?
人の事はセバスも言えないふしはあるが…。
「では、これで失礼します。」とセバスは一礼するとデミウルゴスの横を通り過ぎようとした時、不意に腕を力強くガシッと捕まえられた。
一瞬何?っと自分の腕を掴んだ者の手をわざわざ確認する。
確認し「何をする!」と言おうと顔を上げた瞬間、自分の心臓が止まるかとセバスは思った。
デミウルゴスの顔が今にもくっつきそうなほど迫っていたからだ。
「!!」
「…。」
デミウルゴスはセバスの顔をじっと見つめ何も言わない。
セバスは掴まれた腕を振り払おうと動かそうとするが動かない。
動揺のあまり力がうまく入らないのだ。
力で言えばセバスと守護者達の差は同格、真の姿になれば守護者を越えるかもしれないのにデミウルゴスの腕を振り払えないのはどういう訳なのか…。
デミウルゴスはセバスの目をじっと見ていた。
普段キリッとしたセバスの目は見開き、動揺と言う色を浮かべてデミウルゴスを見、動けないでいる。
何時もは眼光の強い冷たい眼を向けてくる相手が違う表情、素の表情を浮かべていた…。
デミウルゴスの中で何かが生まれた気がした。
最初はセバスをからかってストレスを発散しようと待ち構えていたのだ。
にもかかわらず挨拶を済ませ、さっさと行こうとするセバスが許せなかった。
普段であればお互いにそうしていたかもしれないが、今日はわざわざ此処の階層まで来ているのだ。
自分の相手をしないのはいかがなものか?
怒りをのせ彼の腕を強引に引っ張り自分に向かせる。
強引に引っ張りすぎて顔がまるでくっつきそうなほどの距離にまで近付いた時、自分でも驚くほどに心臓がドキリとした。
嫌みの一つでも言ってやるつもりだったのにもかかわらず何も言えなくなってしまった。
ただただ掴んだ腕に力が入りセバスの目を、顔を見ていた。
「…っ…デ…デミウルゴス…は、放して下さい!」
「…。」
「デミウルゴス!」
セバスが彼の名を大きく叫んだ瞬間、デミウルゴスの目が大きく開きセバスを横の壁にドンっと両腕で覆うようにして叩き付けた。
「うっ」とセバスが衝撃で息をつめる。
デミウルゴスの顔がさらに近くなり鼻と鼻がくっつくほどだ。
異様な光景だった。
いや、異様な光景だとセバスは思う…。
そして、あり得ない感触がセバスにふりかかってきた。
「…!?」
「…。」
デミウルゴスはセバスに接吻してきたのだ…。
何も言わず、強引な荒い接吻でもない。
静かな、そっと口と口を合わせるように…。
セバスはあまりの事態に思考は硬直し、ただ目を見開き微かに身体を震わせるだけだった。
「…。」
「…。」
いったいどれくらいそうしていたのか解らないほどセバスは動揺し固まっていた。
デミウルゴスの目が己の中を覗き込むような、支配するような感じにギュッと目を閉じたのは先程だったのか?
たった今なのか?
そして、唇にぬるっとしたモノがあたりセバスの下唇の形を確かめるようにソレは動き、離れていった。
「…っ!」
ビクリと身体を震わせ、しばらくしてセバスは目をゆっくりと開けてゆく。
其処にはデミウルゴスの何とも言えない怒った様な照れている様な赤らめた表情。
こんなデミウルゴスは初めて見る。
先程何をされたかをも忘れ、そんな事をセバスは最初に思った。
だが、次の瞬間には彼がよく自分に向けている様な悪巧みしている様な顔に変わる…。
それは微笑み。
セバスからしたらゾッとするくらいの微笑みだ…。
「セバス。」
「…っ。」
「今日から貴方は…私のモノです。」
「…えっ?」
「女性は兎も角、男性は一切私は認めませんので気を付けて下さいね。」
「…なっ…何を?」
「まぁ…アインズ様でしたら…仕方無いものなのかも知れませんが…。」
「アインズ…様?」
「他の者達であれば…その者は切り刻み、ミンチにして恐怖公の元へ送ります。セバスは…ふむ、強制絶頂ですかね?」
「…は?…え?」
デミウルゴスは満面の笑みを浮かべ、まだ動揺しているセバスの頬に口付ける。
「では、今日はここまでにしておきましょう。おやすみセバス。」
「え?…あ、お、おやすみ…?」
セバスは何が何だか解らぬまま挨拶をかえすとデミウルゴスのやけに嬉しそうな背中を見送るのであった。
end