デミセバ+アインズ様「喧嘩するほど仲が良い?」
ナザリック地下大墳墓王座の間。
「アインズ・ウール・ゴウン」と「デミウルゴス」はそこに居た。
ヤルダバオトの計画、その他の職務内容をデミウルゴスは次々と話してゆく。
捕獲したオークの皮や内臓、使用方法についてアインズに報告し、話が終わりをつげる頃、一人の男が王座の間へと現れる。
ナザリック執事「セバス・チャン」である。
「御呼びでしょうか?アインズ様。」
深くお辞儀をし、膝をおる。
セバスは頭を下げ我が主の言葉をじっと待った。
「呼び立ててすまないな、セバス。」
「いえ、アインズ様の御命令であればどの様な事があったにせよ迅速に参ります。」
「そうか。」
アインズは片手でセバスに立ち上がる様に指示すると、セバスは立ち上がりアインズの前に立つ。
横に居るデミウルゴスを一目だけ見ると同じくデミウルゴスもセバスを見る。
バチリと火花が一瞬上がるのをアインズは確認する。
仲が悪いのは承知しているが、何故此処まで…とアインズは思う。
たっち・みーさんやウルベルトさんと本当に良く似ている。
だが、本当に嫌いあっているか?
と言えばNOだろう。
と言う事はセバスやデミウルゴスも心底嫌いと言う訳ではないのではないか?
とアインズは考えていた。
今日は二人の仲を少しでも改善しようとアインズは二人を呼んだのだ。
デミウルゴスには計画の報告もして貰う事も兼ねているが…。
「セバス、デミウルゴス。お前達に聞いておかなければと少々前から考えていたのだが…。互いの事をどの様に認識している?」
「?第七階層守護者と。」
「ナザリック執事である事です。」
「…そうだな。え~っと、コホン。互いをどう思っている?」
アインズの言葉に二人は暫し沈黙する。
どちらも口を開きかけてはいるが中々答えない。
きっとアインズの前では言いにくいのだろうと「本音で構わん。」と付け足す。
二人は観念したかの如く徐々に話し出した。
「セバスは下等生物に甘過ぎる傾向が有ります。」
「デミウルゴスは高圧的、傲慢ですね。」
「へぇ…。」
「ほぅ…。」
二人はお互いの方を向きながら腕を組み、睨み合う。
「貴方は何時も我が儘ばかりおっしゃいますね。」
「それは此方の台詞では?デミウルゴス。」
「私の命令に従いなさい。」
「何故、私が従わなくてはならないのですか?」
「私がそう判断したからですよ。」
「…馬鹿馬鹿しい。」
セバスは目をそらし、明後日の方向を見ると「フン」と鼻を鳴らした。
その事にデミウルゴスの眉間に幾つもの皺を寄せ、黒いオーラを辺りに撒き散らす。
ただの人間なら既に急性心不全を起こしてもおかしくない程…。
だが、此処に居るのはアインズ、セバスのみ。
これしきで怯むはずがない。
しかし、ただならぬ雰囲気にアインズは困り果てた。
どう見ても不仲は確実で今にも殴り合いに発展するだろう。
「デミウルゴス。」
「はい。アインズ様、何で御座いましょう?」
「セバスに何か命令でも下しているのか?計画に必要な事を…。」
「いえ。これは個人的な事です。」
「個人的?」
セバスはジトリとデミウルゴスを見、あからさまに嫌な顔をしている。
デミウルゴスはそんなセバスを無視し、アインズとの会話を続けた。
「はい。セバスは誰彼構わず人間などと言う下等生物との接触を好んでいる節が有ります。ツアレの件はアインズ様が御解決なされましたが…もう一人、気になる者がおります。」
「何?セバス、どう言う事だ?」
セバスは心の中で「チッ」と舌打ちする。
「デミウルゴスは何か勘違いをしているのです。王国のラナー王女の部下、「アングラウス」の事を警戒しているだけで御座います。彼等と一緒に八本指の討伐しただけの事…前回、ご報告した通りの内容で御座います。」
「…なるほど。では、デミウルゴス。どう言う事だ?」
「あの「アングラウス」と言う男。セバスに何やら不穏な感情を抱いているかと…。」
「デミウルゴス!」
「セバス。」
「…申し訳御座いません。」
セバスはアインズに頭を下げ、言葉を飲み込む。
「それで、不穏な感情とは何だ?セバスを敵視していると?」
「いえ、むしろその逆で御座います。アインズ様。」
「?…では、好意と言う事になるな。」
「はい。まさに、恋愛感情ではないかと。」
「ん?」
「まさに愚の骨頂、万死に値するのではないかと存じます。」
「…デミウルゴス?」
「下等生物ごときがナザリックの執事に…いえ、私のモノに手を出そうなどアインズ様以外では許されざる行為で御座います!」
「…。」
デミウルゴスは鼻息荒く拳を握り締め熱弁し、アインズに訴える。
「私のモノ?」とは…いったいどう言う事だ?
アインズは後半の内容に酷く困惑する。
頭で理解した途端、「何ィー!!」と絶叫してしまうところだが、瞬時に感情が抑制された。
「デミウルゴス!アインズ様の前で何を言って!」
セバスは慌てた様にデミウルゴスの胸ぐらを掴み怒り出す。
そんなセバスにデミウルゴスは「落ち着きなさい。」とセバスの腕を振り解いた。
「セバス。大丈夫ですよ。」
「何が大丈夫なんですか!」
「アインズ様はもう、私達の関係にお気付きの様子。そうですよね?アインズ様。」
「!?」
「!?…えっ、あ、あぁ、そうだとも。私は初めからお前達の関係に気付いていた。」
「そ…そうでしたか…流石はアインズ様。」
「そ、そうだぞセバス。恥ずかしがる事も恥じる事も無いのだぞ。」
「アインズ様…。」
アインズはデミウルゴスの発言に感情の抑制を繰り返しながらセバスにあたかも事実を知っていた振りをする。
初めて聞いたのだが…。
デミウルゴスがそう言うのならば、その通りに振る舞わねば…。
「セバス。何故、アインズ様がわざわざ「本音」でとおっしゃったか理解したかい?私もその時、初めてアインズ様が私達の関係に気付いておられる事を確信したのだがね。」
「そうでしたか。」
「それで、アインズ様。」
「な、何だ?」
「セバスに安易にアングラウスと言う男に一人で会わせないで頂きたいのですが…。」
「デミウルゴス!ですからアングラウス君とは何も!」
「…君?」
「いえ、彼が勝手に私の事を師匠と呼んでいるだけです。」
「なるほど。「だけ」ですか?」
「だけ…です。」
デミウルゴスは口の端を上げ、口元だけに笑みを作りセバスを見る。
セバスはそんなデミウルゴスに何やら嫌なモノを感じた。
悪い事は一つもしていないにもかかわらず、自分が悪い様な気がしてくるのが不思議だ。
アインズは二人のやり取りを聞き、暫し考える。
ただのデミウルゴスの「やきもち」、「痴話喧嘩」だ…。
確かに喧嘩もするが…仲が良い。
「喧嘩するほど仲が良い。」と昔から良く言ったものだ。
しかも…「恋人かよ!」
心配して損した…。
アインズは溜息を付くと、事態の収拾へと向かう。
「デミウルゴス…お前の心配は解った。では、セバス。今後、任務に必要以外の個人的な接触を控えよ。」
「畏まりました。アインズ様。」
「有り難う御座います!アインズ様!」
「では、二人とも下がって良い。」
「失礼致します。」
「はっ!失礼致します。」
デミウルゴスとセバスは揃って部屋を後にするとアインズは王座に深く座り、精神の疲れを吐き出す様に溜息を付いた…。
まさかあの二人が…。
でもまぁ、仲が良い事だけでも解って良しとする事にする。
少々戸惑う事はあるが彼等が幸せならそれで良いのだ。
しかし…。
「リア充~かよぉ~。」
ちょっぴり羨ましいとアインズは自分の頬骨を軽く掻いた。
end