第三者いわく 人は言う。
随分と正反対の二人がくっついたものだ、と。
それは、文化祭が終わって、すぐのことだった。
もとより、クラスの中心だった通形経由で知り合ったかなんだかで、話しているところを見かけたことは多々あったけれど。ふたりきりで仲良く肩を並べて歩く姿に、我がクラスはもちろん。隣のクラスにだって衝撃が走った。
世間一般の高校生よりも、ありとあらゆる方面で刺激が多いと言われるのが、我らが雄英高校ヒーロー科。そうは言っても、多感な年頃なのは、きっとみんな世間一般の高校生となんら変わりやしないわけで。なかでも、もっぱら他人の恋愛沙汰に関する話題は、それこそ瞬く間に2クラスの小さな世界を駆けまわって。次の日にはもう、ヒーロー科二年全土に知れ渡るほどだった。
ねぇねぇ。天喰と付き合ったって、ほんと? そう、彼女にはじめに聞いたのは誰だったか。
確か、彼女のひとつ前の席の住人だ。
すぐ傍で交わされたそんな言の葉に、そっと耳をそばだてる。
問われた当人と言えば、少しだけ躊躇うように息を潜めて。そうしてゆっくりと頷きながら肯定した返答を、きっと、教室に居たみんなが聞いていた。
ちらり。なんとなしに傍らを窺う。
細めた視界に飛び込んできたのは、ほんのりと桃色に染まった頬に、柔らかな笑み。
付け加えるなら、そりゃもう可愛い笑顔だったとでも言っておこう。
いつも天真爛漫にふるまっているからか、その反応はなんとも言い難いギャップに満ちていて。男子のみならず。数名の女子が心臓を抑えて、机に伏していた。
何を隠そう。自分もそのひとり。仕方がない。ほんのりとその白い肌を上気させて、小さく頷くその姿は、愛らしいと評する他がないのだから。
とにも、かくにも。かくして、1日足らずの噂話は実態を持ち。二人の仲は二年ヒーロー科に属する生徒にとって、周知の事実と相成ったというワケだ。
――ワケ、なんだけども。
「はぁーあ」
頬杖をつき、大仰なため息をひとつ吐き出す。
ぱちくり。空色の大きな瞳が瞬いて、首を傾いだ拍子に、色素の薄い髪が頬に流れた。
うん。相変わらず可愛い。来年こそは文化祭の花形でもあるミスコンに出てくれないかなぁ。と、望みの薄い願望を抱かずにはいられない。
まぁ、二つ返事で断られるのは目に見えてるから、近づいたらダメ元で一回提案するだけに留めておこうと思うけど。
「どうかした?」
尋ね、問われ。じっとその空色の目を見つめる。
澄んだ青い、青い。空の色。
ひとつ。ふたつ。みっつ。恨めしいほど長い睫毛が閉じて、開くのを眺めて。また一度、大きなため息を吐き出した。
「うー……」
頬を膨らませ、ずるずると腕を伝うように頬杖を崩す。
大きな窓から射し込む太陽の光に暖められた机が、近づく冬に冷えた額を暖めて心地よい。
緩慢に瞬く。ほんの少しぼやけた視界に、ひらりと細い指が舞って。なになに、どうしたの。なんて、隣のクラスの有名人を思わせる声が降り落ちた。
一度、硬く目蓋を閉ざす。くるりと机に額をつけたまま、顔を伏せて。大きく頬を膨らませた。
閉じた目蓋裏に、人影が浮かび上がる。
ついで、聞こえてくるセリフは、ここ数日で聞き飽きるほど耳にしたもの。
「べっつになにも」
細く、長く息を吹く。
肺を空っぽにして、形容しがたい感情まで吐き擦れられれば良かったけれど。それはどうにもうまくいかなかった。
『なんつーか、正反対のだよな。あのカップル』
あの日から、何度その言葉を耳にしたことだろう。
もう、いっそ耳にタコでもできそうなくらいだ。
きっと、当人たちに侮蔑の意識はない。
ただ、事実を口にしているだけのつもり。きっと、そう。
お似合いだとか、そうじゃないとか。周囲が評するものではないことを、当人の預かり知らぬところでそっと囁き合う。
まったく。ヒーロー志望が聞いて呆れる。
でも、ちゃんとわかってる。
何も知らないくせに。なんて言えるのは、自分が知っている側だからだ。
何も知らない人は、ただ、知らないだけ。それだけのこと。それだけのこと、なんだけど。
「納得はいかないんだよねぇ」
「だから、さっきからなんの話?」
のっそり。伏せた身体を起こす。
相変わらず、その愛らしい顔には、いくつもの疑問符が浮かんでいて。行き場のない感情を吐き出すみたいに、指先でその額をはじいた。
わ、と小さく悲鳴があがる。間髪入れずに膨らむ頬には、肩を竦めて舌を出した。
「まぁまとめるなら、知らない人は、わからないよねぇって話だよ」
忙しなく瞬く瞳に笑みを浮かべる。
知らないんだから、仕方ない。そう済ませる世界もなんだか違う気がするけれど。でも、こればっかりは、他のみんなは、知りようもないんだから。こちらが一歩。身を引いて達観視した方がよっぽどラクだ。
だって、私は知っている。
この子がどれだけ、彼のことが好きなのか。
あのふたりがひそやかに育んだ恋が、どれほど暖かなものなのか。
ポジティブな彼女と。ネガティブな彼と。確かに傍目から見れば、正反対なふたりだろう。不釣り合いなふたりだろう。
でも、それがどうした。
私は、ちゃんとわかってる。
だって、多分。通形の次くらいに、私は二人を見守っていた。数少ない人間のうちのひとりだから。
「お似合いだよ。ふたりは」
前に座る。彼女に聞こえぬように独り言つ。。
そっと目蓋を閉ざせば、楽しげに笑い合うふたりの姿が浮かんで、自然と綻ぶ頬はしっかりと手のひらで覆い隠した。