地上の神様(志賀と武者)「志賀ってそういうところあるよね」
武者は時折そう言いながらため息をこぼす。
「そういうところってなんだよ」
「そういうところだよ」
これ以上の説明は不要とばかりに口を閉ざして、手元の本に視線を戻した。
志賀の部屋に突然やってきた彼は、特に何かをするでもなくただ持ち込んだ本を読み耽っていた。
志賀も志賀で特にそれに口を出さずに自分の作業を進める。
二人の友人関係は前世を含めて一世紀弱にもなる。それだけ長く続いてきたのは、会話をせずとも苦にならない関係だったからだった。
それだけ気を使わずいられる間柄だからこそなのだが、志賀に対して何か思うところがあると、こうやって言葉少なに問いを残していくのが武者の癖だ。
「……この間の、奇襲作戦」
「は?」
「僕はこれ以上言わないよ」
奇襲作戦、と言われてすぐに昨日の任務を思い出す。斜陽が侵食者のターゲットになったそれは、作者である太宰の精神にも影響し、それはもう図書館全体を巻き込んだ大変な事態になったのだった。
「べっ……つに、太宰とは何もなかったぞ……?」
トントンとペン先を原稿用紙に打ち付ける。ネコや司書に太宰について尋ねられたことはあったが、太宰本人とは関わっていない。いつものように彼が食ってかかってくることもなかった。
「そうじゃないよ」
武者がベッドに背を預ける。桃色の髪がさらりと揺れた。
「じゃあ他になんかあったかよ?」
「それに気づかないのが、志賀が志賀だってことなんだけどね……僕だって少しは思うところがあるんだよ?」
膝の上に本を置いて、ため息をこぼす。
不思議そうに首をかしげる志賀を見上げて、武者は心の中で静かな笑みを浮かべた。
神様と呼ばれ、神様であり続ける親友を、武者は時々困らせたくて仕方がない。人間らしい小さな悩みのタネを一つずつ撒いていく作業は、彼を人間の世界に引き止める手段に思えた。