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    キスで魔力補給する話 天が唸り、地が怯え、空気が震えた。


    「来い!」


     鮮やかな紫珠の双眸に導かれ、暗雲から現れたるは雷の化身。
     山鳥のしだり尾の如き髭を蓄えた翁。

     巨大な手で一同を掬い上げ、手に携えた杖を振りかざして避雷針のように紫電を纏わせ、それを躊躇いなく一息に大地に突き立てる。

     刹那、弾ける光。
     置いて行かれた音が追いかけるように轟く様はまさに雷であった。

     帝国の機械兵は影も残さぬ光と散り、圧倒的な力がすべてを薙ぎ払う。
     草木は瞬く間に弾け、あたり一面は見る影もなく焼け跡が残るのみ。

     天候をも意のままにする、まさに神の力。
     人智を超越した力の前には、ちっぽけな人間など塵に同じ。

     目にする度に足が竦み上がり、焼野原となった平原に残されたのは小さな四人だけであった。


    「はは、何度見てもおっかねぇな…」


     これが、世界に選ばれた“王”の力。

     しかし、その強大な力を使役する代償は大きい。





    ばたん






    「あ、倒れた」

    「おーいノクト」


     ラムウが姿をいずこかへと霧のように消し、輝く瞳が光を失った頃、ノクティスは膝から崩れ落ちるように地に向けて倒れ込んだ。
     丸太の腕がそれを間一髪で支え、仲間たちが駆け寄る。


    「ここしばらく魔法をひっきりなしに使っていたからな、失念していた……」

    「近くで休める場所探すか、レガリアに戻るぞ」


     人外の力を酷使する代償。
     彼曰く、力が形となり弾ける瞬間に身体中の魔力と精神力を根こそぎ奪われ、立っているのも辛いらしい。
     疲労が祟り、先ほどの雷神の召喚がとどめとなってしまったのであろう。

     仲間たちの呼びかけにも応えず、瞼を深く閉じて眠りに落ちてしまった王子を抱えたままでは何も出来ず、一行は大事を取り近くの街へと戻ることとなった。









     濡れた毛先を柔らかなタオルが包み込む。

     キャンプ続きで砂埃が纏わりついた髪、流れた汗が乾いて不快だった肌、魔物の血や汗染みで薄汚れたシャツ。
     邪魔なものすべてを取り払って。

     全身、頭の先から爪先までを泡立てた手でなぞられ、たっぷりの湯で洗われた。
     ざぶり、泡を洗い流された後に溜めた湯舟に放り込まれ、数日ぶりの風呂の温かさが夜風に冷えた身体滲み渡った。

     ホテルに到着してから半分眠り込んでいたノクティスをイグニスは浴室へと運び、あれよあれよと慣れた手つきで風呂へと入れ、そして今に至る。
     浴室に置かれていた大きめのバスローブを雑に着せられ、水気を拭き取るのもそこそこに軽々と抱きかかえられたままベッドへと連れて行かれる。


    「イグニス、ごめん、」

    「謝るなといったろう?」

    「うん…、ありがとう」

    「気付いてやれなかったこちらの責任だ」


     覇気がなく、抑揚のない平坦な声を搾りだし、大きな腕の中に抱かれたまま寝台の上に座らせられる。
     眠くて眠くて、うつらうつらと目蓋を閉じて頭が上下に揺れるノクティスを案じ、顔を覗き込みながらイグニスが問うた。


    「どの体勢が楽だ?」

    「…膝乗る」

    「寝ていてもいいんだぞ」

    「これがいい」


     ベッドの淵に腰掛けた従者に手を引かれ、ノクティスはぺたり、膝を跨いでその上に座り込んだ。
     後ろに倒れ込まないように太い腕に腰を支えられて、いつもは見上げる彼と目線が同じ高さになる。

     膝の上で身体を密着させ、バスローブを纏った広い胸板に頭を擦り付けると、乾きかけの黒髪を大きな手が梳いてくれた。


    「いいか?」

    「ああ……」


     魔法を使いだした頃は“これ”がどうにも恥ずかしくて、拒んでは修練中にぶっ倒れてよく周りに迷惑を掛けていたものだった。


    (慣れ、って怖いな…)


     二人きりのホテルの一室。
     腰と背に腕を回され、身体を、心の距離を近づかせる。

     風呂で血色の良くなった唇から、ほぅ、漏れた吐息が互いの間で交わって、鼻先が触れあう。

     ノクティスが指の腹で目の前の乾いた唇をなぞって、翡翠と瑠璃の視線が至近距離で絡まった。


    「たんと持っていけ」

    「しんどくなったら言えよ」


     どちらからともなく瞑った目蓋。
     このまま寝落ちてしまいそうになるのを耐えながら、顔を少しばかり傾けて。




     唇を重ねた。




     かさついた唇が触れあい、擦れあって、小鳥が餌をねだっているみたいに啄んだ。
     わざとリップ音を立てながらイグニスが慣らしながら角度を何度も変えて、触れて、離れる。

     互いの吐き出しあった吐息が肺腑を満たしていくのを感じながら、大きな手が頬に触れた。
     腰を抱き寄せられ、広い胸に押し付けられた行き場のない細い手がバスローブを掴む。

     次第に触れて啄んでいただけのキスは接する時間を増しながら、やがて上唇を食むようになる。
     それに加え、伸ばされた舌先が薄らと開かれたままの桜色の口元をなぞり始めて、合図とばかりにノクティスはキスで呆けたまま中途半端に閉じていた口をゆっくりと開いた。

     ぬるり、躊躇いながら入り込んできた舌先は簡単にお目当ての場所を探し当てる。


    (ミントの味する…)


     同じ歯磨き粉を使用したのだから当たり前なのに、ふわりと香って口の中をまさぐりだす彼の舌先に翻弄されて。
     舌を絡め取られる。


    くちゅ、ちゅくり


     唇の隙間から覗く二人の舌は隙間なく濃密に重なり、伝い合う唾液がゆっくりと滴となり垂れていく。
     しかし、これはまだ本番へ至る前の慣らしでしかなかった。

     緊張していたノクティスの四肢から力が抜け、弛緩しきったのを見計らいイグニスは一度ノクトの舌を唇で挟み唾液を啜った。
     そして再び自らの咥内に溶け込んだ唾液を舌に乗せ、触れあわせる。



    ズクリ



     身体の中を一筋の電流が駆け抜ける。
     腰砕ける衝撃にノクティスは尻を浮かせ、目を見開いた。

     分かっているのに、慣れない。
     舌が触れただけで、ズクン、身体の芯に響く痺れ。
     枯渇して乾ききった身体に力が直接流れ込んできて、満たされる、補填されていく。


     これが、“魔力供給”だった。



    「は……っ」

    「ノクト、腰が揺れてる」

    「だってこれ、すっげ…ぞくぞくする…」


     唾液や舌の粘膜を通して流れ込む魔力の奔流は多大な刺激となり、ノクティスの身体中を駆け巡る。
     ぬるり、触れる舌が直接神経を舐めて、なぞって、ダイレクトに脳へと走る電流。
     背筋を駆けのぼる一種の快感に悶え、びくん、逃げ腰になるのを太い腕が阻止する。


    「んっ……ん…」


     口づけられて。


     舌が、また。




    ぴちゅ、ぴちゃり







     ああ、気持ち良い。









     頭が、バカになっていく。









    びくんっ








     『逃げるな』強い力で身体を抑え込まれて。
     こじ開けられながら魔力を注ぎ込まれる。




    ちゅく




     まさぐる舌はこんなにも優しいのに。





    「すげ……いっぱい、入ってきて…」





     流れ込む奔流が身体中を駆け巡って、思考回路が焼き切れそう。






    (バカに、なる………)






     離れたいのに、もっと欲しい。
     もっと。
     もっと。






    「…っふ……ん、ちゅ、く……」









     たっぷり、数十秒。
     口の中を隅から隅まで唾液で汚されて。

     没頭するあまり、嚥下することを忘れた唾液が舌先から滴となってしとどに垂れて、口の端から顎を伝っていく。







    「ふ…ぅ……」


    「はぁ、は…ぁ、は……」









     惜しんで惜しんで。












     唇を離すことが、もどかしい。










    「は、ぁ…」









     呼吸をするのも忘れて。









     ゆっくり。








     震わせながら離れていく。








     ひとつに融け合っていた唇が、長い長い接吻を終えて。









     最後に、舌先が唾液の糸を引いたまま。







     うっすら瞼が開いて、熱に浮かされた緑青の視線が甘く絡まる。







    「は……イ、…ニ…ス…」







     ほんのり開いた口元は唾液塗れで、今までずっと貪っていた舌が覗く。
     そんな欲情的で今にも食べて欲しそうな。


    (また塞いで欲しそうな顔をして)


     バスローブの結び目から潜りこんだ手が、滑らかな白磁の背筋を撫で上げた。
     つ、指が背骨を辿って、ノクティスは喘ぎにも似た官能的で上ずった声を発した。


    「これ…セックスみてぇだよな……」

    「まぁ、していることは然程変わらないな」


     互いの唇が触れあう距離で囁いた。

     倦怠感に塗れたノクティスの口から放たれた魅惑的なひと言に、不敵な笑みが浮かぶ。



    ちゅくり、



     うっすら開いたままの唇に食らいついて、顎に添えた指を少し引いて出来た隙間にまた舌を捻じり込む。
     すぐそこにある赤い舌に触れて、ぬるり、絡ませて。

     唾液に乗せた魔力を受け渡してやる。

     甘受するノクティスは目を蕩けさせたまま、呑み込んで、満たされる感覚に身体の芯が熱くなる。




     それは、“彼”だけが成せる役目であった。




    「魔力交換は王と魂が近いほど親和性が増す」




     知ってる。




    「だから誰よりも近く、深く……魂を交わらせる必要がある」




     知ってるって。
     だからわざわざ。




    「ンなやらしい言い方しなくても」

    「だからもっと、心を開いてくれ……ノクト」




     誰も居れない場所に、今だけでいい。
     俺を招き入れて。




     囁かれ、ああ、この声に弱いんだ。
     ぞくりと粟立った身を抱きしめられ、くちゅり、舌が絡まった。









    『はじめまして、ノクティス様』


     親たちに手を引かれ、二人が出会ったのは物事の分別すら未だつかぬ幼子の頃であった。
     ノクティスは「そんな昔のこともう覚えてねーよ」と言っていて、イグニスもまた挨拶をしたことは鮮明に覚えてはいたが、その後のことはといえば記憶に霞がかかったようにまばらにしか覚えてはいない。
     それくらい幼い頃からの付き合いで、よくも飽きずに互いに一緒にいるものだと思う。

     少しばかり年上であったイグニスは言葉も上手く話せぬノクティスに愛しさと庇護心を抱き、叔父とレギスに頼まれるままに甲斐甲斐しく世話をした。
     なにをするのも一緒で、数えきれない多くの時間を共に過ごして、起きるのも、眠るのも、いつも二人一緒だった。


    『おやすみ、ノクト』


     毎夜夢の中へと旅立つ王子に側付きが与えたひとつの口づけ。

     それは誰に言われたわけでもなかった。
     自発的に始めた行為が、まさか将来的にここまで大きな意味を持つことになるなんて。


     そして次第に、クリスタルの恩恵を受けたノクティスの身体には父王と同じく魔力が宿り始め、大きな怪我を経て自らの力を開花させていくこととなる。
     戴いた王の成長ぶりにイグニスは臣下として誇らしくあるとともに、もっと力をつけて彼の側にいたいと子どもながら強く心に願うようになった。


    『見つかるよ…?』

    『大丈夫、ノクト…』

    『イグ、……ん…』


     同時に幼い頃から絶え間なく続けた就寝前の慣習はその意味を変えていき、二人きりになるタイミングがあれば、彼らは人目を忍び秘密のキスを繰り返すようになった。
     これが知らずの内にノクティスの魔力をイグニスが体内に取り込んで馴染ませながら、魂の親和性を増すための儀式になっているなど露に知ることもなく。


     今にして思えば、きっとこれは予定調和だったのだ。


     月日の流れは早く、思春期を迎えた二人はいつしか互いを意識し合い好意を越えた愛情を持つようになった。
     性別という枠を越え、仕えるべき主人と侍従という役目を忘れ。
     一人の人間として。



     ただ、欲しくて。
     欲しくて欲しくて、人の性に従い、欲望のまま踏み越えてはいけない一線を二人で新月の夜に越えてしまった。




    『いたい、か?』

    『へーき…』



     神への冒涜と知りながら身体を重ねた。
     月も星も隠れた夜に、天蓋のカーテンの内側で。
     何度も、何度も。
     気持ちを通わせた後のキスほど甘美なものはなく、二人は手を繋ぎ合わせ、この世のものと思えぬ悦楽を抱きながら一夜の内に数え切れぬほど唇を塞ぎ合った。


    『後悔する』

    『…構わないさ』


     痛みを伴いながら精器と精器を繋げて、汚しあった。


    『イ…ッ、イく……ぁ、イグ、…ぁ、ぁん』

    『一緒に、果てようノクト』


     互いを殺し合った夜のことは、忘れられない。



     そして待ちに待ったときが訪れた。



     高校へと王子が入学するのと時を同じくして、イグニスはレギスより王の力を授かるに値する器を持つことを認められた。
     ただの側付きとしてではない、ノクティスに生涯の忠誠を誓う剣になると御前に跪き、祝福を受けることが出来るという選ばれた者にしか与えられぬお役目。

     幼い頃からの夢であった、名実ともにノクティスの最側近となり王の力を分け与えられるという誉れ。
     しかし、それは同時に生涯逃れられぬ鎖で彼を繋いでしまったことをも意味した。


    『イグニス、ごめん…』

    『王が謝るな、俺が子どもの頃から望んだことだ』

    『うん、ありがとう』


     彼の初めての剣となることを心に刻み、王の力を分け与えられ、すべてを捧げると。
     淀みなく告げたイグニスにノクティスは表情を曇らせたが、彼の真摯な気持ちは今も昔も、決して変わることはなかった。











     そんなイグニスの献身的な心遣いで今、こうやって魔力を分け与えてもらっている。
     長い年月をかけて馴染ませあった魔力を身体に取り込みながら、うっとりと二人は舌をゆっくり絡ませた。

     力を明け渡しすぎると、今度は逆にイグニスが辛くなりしんどい思いをすることになるというのに。

     もう充分だからと返すのに、キスを深くされて蕩けている間にまた押し戻されての押し問答。
     なにより彼からのキスは本当に毒で、すぐにこうやって麻痺して何も考えられなくなっていく。

     結局、何をしても無駄なので貰えるものは受け止めておくことにした。


    (イグニスの魔力、温かくて、心地いい……身体に馴染んで、ひとつになっていくのが……すげ、気持ち良いんだ…)


     睫毛がふるりと震えて、瞼を開く。
     何度目か数えるのも忘れた口づけから目覚めて、舌を離した。


    「……ここまでしたなら、もういっそシたい…」

    「ふ、それはまた…元気になったらな」

    「ん……」


     苦笑しながら、また塞がれて。
     お腹一杯なのに、欲しくなる。


    「だから今日はもう少し……」


     再度に流れる黒髪を耳に掛けられて、顏が耳に寄せられる。


    (あ、また…あの声で)


     目をきゅっと瞑った。



    “このまま悶えるお前を見ていたい”



     大好きな低い声で吐息ごと囁かれ、鼓膜が震えてゾクゾク、だからダメ…だって。

     傍から見れば他愛もないキスを繰り返しているだけ。
     しかし、水面下では二人だけにしか分からない魔力の受け渡しを延々繰り返して、互いの神経をなぞりあう。

     まるで、セックス。


    「はっ、…ふ…」

    「んぅ、んっ…ぁ……」


     昂り合った身体が火照りだし、漏れ出る声の合間にも貪り続ける唇。
     呼吸が早まり、ちゅくり、舌を吸われて膝の上に跨る足が蛙のように痙攣した。


    「セックスにも勝る気持ちよさを教えてやる…ノクト」

    「ん…」


     眼鏡の奥の翡翠が細まり、唾液の糸を繋いだまま、ノクティスの浮かされた脳裏に過ぎる予感。

     一度火の点いてしまった彼は、なかなか寝かせてくれないのだ、と。



    「しょーがねぇから……つきあってやる」

    「ありがたき幸せ」



     数えるのも諦めた今夜何度目かのキスをして、ふるり、浮いた背を逃がすまいと腕でホールドされた。








    .
    うさみ@ignc Link Message Mute
    2018/08/09 22:54:17

    キスで魔力補給する話

    #イグノク
    キスで魔力補給する話

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