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    愛されることができないみたいだ愛されることができないみたいだ結んではいけない君はコーラが好き 


          かたく 結ぶ

          羽根は 2枚
     
          2枚 同時に

     揺らめいて みせよう みせてほしい

        この空の 藍が 赤く
     
        今も どこかで 赤く

       染められて いる なんて

          
     






    愛されることができないみたいだ









     おれのからだには、たくさんの糸がついているらしい。
     冷え込む冬の手前、夕焼けを隣に歩いていたらそう言われた。

    「キラキラしているから、何かなあと思いました」

     どこ? と探しても、全然見当たらない。どこについてるの? 取ってよ、ウィスパー。
     腕を上げたり、背中を見ようとしたりして探すおれに、いつもみたいに近く、顔を寄せてくる。それから、取れないですねえ、と白い手でおれの右手を持ち上げた。取ろうとしていないのに、何で分かるんだろう。それに、それってどうせ、

    「妖怪のしわざでしょ?」

     そう言うと、今日は反論してこなくて、むしろウィスパーのくせに真剣そうに、違いますよ、と何かを空中でつまむ。おれの右手の甲の上。きっとそこに、指に、糸があるんだ。よく女の子たちが話している、運命の糸みたいなものがおれにも。
     思わず立ち止まって、ウィスパーが辿る指の動きに見入ってしまう。歩道の真ん中で、左頬を赤く照らされながら、右手を浮かせたまま。
     
    「綺麗です」

     ウィスパーは、おれの目を見ないまま言った。どこを見ているのか、いまいち分からなかった。たまに、そう思う。何を見ているんだろう。何を考えているんだろう。
     糸は、おれの指にも、手首にも、怖いことに首にも、巻き付いているらしい。
     なんか、怖くない? 想像していたのと違う。
     それからその糸は、絡まることなく、みんな別々の方向にゆるく張られているんだって。
     怖いよ、なんだか。ねえ、ウィスパー。
     大丈夫ですよ、と微笑む顔が、少し離れていく。頬の赤みは、引いていた。向こうの空が夜を知らせてくる。
     
    「ケータくんは、たくさんの人と妖怪に愛されていますね」

     帰りましょう、と揺れる尻尾は、嬉しそうだった。
     一番愛してくれるのは、君なんだよ。



     ゆらり、ぐらりとゆりかごのような、船は、海の真ん中で。
     月の明かりに照らされた水面を覗くと、海の底には街があった。見慣れた街。毎日通う学校も、遠くで見ると大きいと実感するおおもり山も、おれたちが暮らす赤い屋根の家も、こんな風に見るのは初めてだった。
     飛行機から見るのとはまた違う。何よりも、どうしてみんな海の中にいるんだろう。
     溺れちゃうよ、と、ウィスパーの名前を呼んだら。
     しっかり握っていたはずなのに、つないでいた手が、ほどけていく。おれの手は、ウィスパーの手なんか簡単に包んであげられる。ちっちゃくて細い、頼りない手なのに、おれの手の内から、消えていく。
     大きく船を揺らして、焦っているのはおれだけだった。
     
    「ほどけちゃいましたね」

     おれの手も、さっきまで向こうの橋とをつないでいたはずのロープも、ほどけていた。船は流されて運ばれて、どこに行くのか分からない。おれの両手も、何を掴んでいいのか分からないまま、指先だけ冷たくなっていく。
     
    「みんなのところに行きましょう」

     うん、行こう。早く行こうよ。

    「今ならまだ、間に合います」

     今なら、溺れないの? どうやって海の中で息をするの?

    「そのたくさんの糸が、ケータくんをつなげていてくれて良かったです」

     そう言って、にっこりと笑うウィスパーを乗せて、船は漂う。下ろされて立ちすくむおれを、置き去りにして行ってしまう。
     もうロープも何もつながっていない、小さな船。ほどけてしまった、柔らかい手。
     


     たくさんの糸が、おれのからだについている。キラキラしているらしいのに、残念だけど、おれは一度も見えたことがない。
     綺麗だと、言ってもらえたのに。
     
     一度、聞いてみたことがある。
     運命の糸も見える?
     左の薬指。たぶん赤い糸。女の子じゃなくても、信じちゃうんだよ、いいでしょ。相手は、フミちゃんかな? それとも……。

    「今聞いちゃったらお楽しみがなくなるじゃないですかあ」

     そんなことないよ。だって、気になるもん。あと、それから、さ。
     おれがもう一つ聞くと、ウィスパーは目を真ん丸にした。何か変なこと言った? くるん、と宙返りして浮くウィスパーを見て、またこのお調子者は何を言いだすのかと思ったら。
     なんて顔してんの、って。言えなかった。
     おれは、おれはね。



     堪えきれずに、ぼろぼろと泣いていた。
     彷徨って、辿る道もない波の上。引き寄せるロープもないのに、風を受ける帆もないくせに、船は進む。真っ暗な海。街はもう見えない。白い見慣れた輪郭だけが、ぼんやりと目に映る。
     不安定に揺れる船の中で、ウィスパーは、溺れますよ、と言った。別にいいよ。
     君がいるなら、このまま沈んでもいい。
     おれの腕は、ウィスパーの背中全部を覆ってあげられない。どれだけ手をめいいっぱい回しても、ウィスパーのからだはおれの中に収まらない。
     もし、本当に糸があるのなら。
     ほどけないように、おれが結んであげる。
     おれが大きくなって、ウィスパーなんか簡単に抱きしめてあげれるようになっても、ほどけないように、固く、きつく。
     もし離れてしまっても、たぐり寄せて、引き寄せて、両手を広げて、抱きしめて、もう一度、何度でも、おれたちふたりごと締めて。

    「ウィスパー」

     おれのからだの糸、見える? おれは何も見えないけど、ウィスパーとおれの糸は、どれなんだろう。
     指に結んでいる方がいいのかな。首でもいいよ、怖いけど。ああ、それとも、おれとウィスパーは、糸じゃないのかな。
     ケータくん、と呼んでくれるその声に、瞼を下ろす。波の音は聞こえない。船につく膝も、痛くない。ほどけたと思っていた手が、おれの体温を奪っていく。
     1番愛してくれるのは、ウィスパーなんだよ。分かってよ。おれも、おれも……。

    「ウィスパー……」
     
     それから船は、揺れなかった。
     それはまるで、はじめから、空を飛ぶことができるみたいだ。






    結んではいけない









     落ち続けるイチョウの葉たちが歩道の隅に固まって、冬は目の前だと知らせてくる。
     私は、この景色が嫌いではありません。
     見慣れた街角に、ほんの少し彩りと変化を与えてくれるだけで、時間の経過を実感できる。遠くなった空を見上げているうちに、私の主人は、形の整った葉を見つけ拾い上げ、「見て」と振り返り微笑んだ。その背景で、茶色くなったしわしわの葉が落ちる。1枚、2枚。冷たい風が主人の頬を掠っていると、目に見えて分かるようです。
     こうやって、ずっと季節をみていきたい。
     小学校からの帰り道だけでなく、お母様の美味しいご飯だけでなく、ずっと隣で、あなたの成長とあなたの瞳に映るすべてのものを、共にみていきたい。
     連れていきたいと願っては、あまりにあなたが可哀想で愛おしい。こっちを向いて、ケータくん。
     ーー内心だけですが、呼ぶ声に返事がないと、私は滑稽なほど焦ってしまいます。
     しゃがんでいる背中にもう一度。ない心臓の高鳴りなんて聞こえないフリをして、ケータくんてば、と、”構ってちゃん”をする。

    「なにしてるんですか?」

     すべらかな頸と、冷えてわずかに赤くなった耳殻を眺めながら聞いた。

    「ん? こっちの方がきれいだなあって」

     勢いよく立ち上がると、ランドセルの中が跳ねていた。それを物ともせず、ケータくんは歯を見せて笑う。

    「ほら」

     夕陽にきらめく頬の産毛が、細く光る柔らかな睫毛が、緩やかな曲線を描く唇が、とてつもなく、美しい。
     ええ、綺麗です。とても。
     そう言いながら、見つめ合うと胸が痛い。
     綺麗なものを見つけたと微笑むならば、そうですね、私も、そうです。
     私はそっと、ケータくんに近寄った。



     一歩、また一歩、ゆっくりと進む。その足取りは、軽く見えなかった。しかし、砂を踏む音はしっかりしていて、確かめるように踵を下ろして、おもしろくなさそうに、足を持ち上げる。
     帰りたくないときのケータくんは分かりやすい。
     話し方も、私への目線も、手の指の動きも、まるで違う。
     なので私は黙ってついていく。手を差し伸べて、頬を撫でて、抱きしめてしまいたいけれど、何故だか私の手は空で止まって、固まってしまう。諦めて、その手を下げて、一緒に同じ夜を眺めるだけでした。

    「ウィスパー」

     水平線に目を奪われるように揺れたまま、ケータくんは私の名前を口にする。なんでしょう、と答えると、儚げに瞬きをして、また遠くを見つめるだけだった。
     でもきっと、私がそう見えるだけで、本当はこんなに切ない顔をしないでしょう。この子は小学五年生なのです。たった11才。そう分かっているはずなのに。

    「あのね」

     おれたち、と続く言葉とその瞳は幻でしょうか。
     強い茜。直線を浮かべるコントラスト。
     ケータくんが、とても眩しい。その身体に纏う、キラキラひかる糸がやけに主張されている。緩く張られた、無数の糸。
     それはきっと、これからも増えるでしょう。糸の太さも変わり、色だって、形だって、変わるのでしょう。ケータくんを守ってくれる、愛してくれる、大切な大切なつながりたち。
     何があっても、大丈夫ですよ。あなたなら。
     その美しさに、私はそっと瞼を閉じる。あまりの眩しさに、私は目が開けられない。



     風が強くなってきたので、早く帰りましょうと急かす。風邪をひかせてしまっては、有能執事の名が廃ってしまいますからね。
     次々と落ちる、色が抜けた葉を見送って、乾いた風の中を抜ける。先程拾っていた綺麗なイチョウの葉は、ケータくんの右手にあった。珍しい。そこまで植物に感心のある子だったでしょうか。
     すると、あっ、と呟くような声。

    「ちょっと待って。靴ひも」

     ケータくんの頭の位置が下がれば、私も浮遊高度を下げる。俯いて、片膝を立てて、ほどけた靴ひもを結びなおしていた。かじかんでしまった指は、感覚を掴めず、靴ひもが何度も滑り落ちている。おまけに、拾ったイチョウの葉は離さない。
     頬の赤みが、強まっていた。

    「ん!」

     やって、と言わんばかりに目線を投げてくる。それくらい〜と言いたいが、そういえば私は執事だった。お世話しましょう。喜んで私は、更に浮遊高度を下げる。
     星のマークがついたお気に入りの靴。
     家まで、明日の学校まで。そのあと公園でサッカーをするかもしれない。商店街までミチクサするかもしれない。どこまでもどこまでも、私が結んだ靴で歩んでいて。その横に私を置いて。そう思いを込めて、きゅっと結ぶ。蝶々結びの形は、ケータくんが結ぶより綺麗だ。
     もし、またほどけてしまったら。
     そのときも私が結んでいいですか。
     どれだけ固く結んでも、どんなに整った蝶にしても、また緩んでほどけてしまうと分かっている。

    「ウィスパー?」

     顔を上げて、浮力を上げながら主人の手を握る。冷たくて、かさかさしていた。これはハンドクリームを塗り込ませないといけない。

    「今日のウィスパー、あったかいね」

    「アータが冷たいんですよ」

     私の心配を余所に、悠長に笑うケータくんは、手をしっかりつないでいないと、ふわりと消えてしまいそうでした。風に攫われて、枝から離れてしまう葉のように。
     だから、私は、ケータくんの手を擦る。
     イチョウの葉が、幼い右手で楽しげに揺れている。



     ケータくんは、ロマンチストだ。
     好きな子との将来を妄想しては気障な演出をしたがるし、占いだって「本当かなあ」と言いつつ信じている。今日の運勢なんて、1位になった日はひそかに機嫌がいい。
     それに、運命の糸があるって、思っている。自分の指を、しかも左手の薬指を見つめて「見える?」なんて言う。
     そんな目を向けられても、私は困ってしまうんですよ。
     だって、だって私は、ね。



     はらはらと、色のついた葉が落ちた。音も無く、気配もなく。
     ケータくんに動作を見つめられる中、私は靴に蝶蝶をつくる。さすが私、良い羽根が出来ました。そんなこと気に留めないケータくんは、満足げに結び目を確認する。
     これでまたしばらくは。
     さあ。
     靴ひもなら、結んであげた。
     あなたはこれから、存分に歩くといい。走ってもいい。
     黄色と赤色をした、この道を進むといい。
     もっと綺麗な葉が、見つかるかもしれない。
     
    「ケータくん……」

     ああ、夜が来る。
     夕陽が海の向こうに消える。
     大変だ。あなたの輪郭が朧げになったら、私は自分を止められない。
     私はイチョウの葉を拾う。
     ケータくんと同じで、拾ったあとどうするかなんて自分でも知らないのです。



     
    おまけ
    家出回の翌日


    君はコーラが好き


     ピンポーンとインターホンの音が響く。赤い屋根の下で人影が1つ、と、もう1人、実は立っている。
     
    「いやぁ、まさか土日2日間ともウィスパーさんとお会いするなんて……USAピョン、この意味が分かりますか?」

     イナホの問いに、USAピョンが半目を向ける。ため息をついて、

    「土日は私のアニメやイベントの充実させるべく時間なのにどうしてこんなことになっているんだろう、ダニ」

     と答えた。イナホはすぐさま「正解!」と指を指す。まったく、とUSAピョンがため息をつくと、ドアが開いた。
     出迎えてくれたのはジバニャンとトムニャン。ドアを開けてくれたジバニャンが3歩程下がり、「ようこそにゃん!」と笑う。

    「しゅわっち!」

    「邪魔するダニ!」

     テンションが上がってギターを取り出し始めたトムニャンを放って、3人はダイニングへ入る。テーブルの上には真ん中にホットプレートが置かれており、他にはコップが6つ固めて置かれているだけだった。

    「ケータさんは?」

    「ウィスパーと買い物に行ったにゃんよ。急だったから、何も用意してなかったにゃん」

    「トムっちはちゃんと用意したミャウ!」

     トムニャンが両手にメープルシロップを持って振り回している。ジバニャンは心底嫌そうな顔して、USAピョンは仕方なさそうに笑った。
     イナホは「そっかあ」と思わず笑みをこぼす。

    「ちゃんと仲直りできたんですね」

    「そもそも、ケンカなんてしてないにゃんよ」

     昨日のことだ。ウィスパーが家出をして、イナホの家にやって来た。事情を聞けば、ケータとジバニャンに寝ている間に顔を落書きされたからという
    くだらない理由。
     最終的に、ウィスパーはケータと共に帰っていった。ケータはウィスパーが家出をしたなんて知らなかったらしく、1人で空回った様はなんともウィスパーらしい。
     まあ何とかなっただろうと適当に切り上げて帰ったイナホとUSAピョンのところに、連絡がひとつ入った。

    〈明日、ケータんちでホットケーキパーティするミャウ!〉

     行く気満々のUSAピョンと、しぶしぶ承諾したイナホ。
     トムニャンが、ケータの両親がデートに行く約束しているのを見て思い付いたらしいのだが、肝心のケータとウィスパーは今日まで知らなかったようだ。

    「大変ですねえ、あの2人も」

     今頃、2人で騒ぎながら買い物をしているのだろうか。
     そう思いながらイナホはUSAピョンの顔を見た。



    「コーラは2本入れとこうよ」

     買い物かごを両手で持つケータは言った。ウィスパーは2リットルのコーラを1本持ちながら、「うぃす?」とそっと買い物かごにコーラを入れる。

    「ジュースはこれだけでいいと思いますよ。冷蔵庫に麦茶もカルピスもあったはずですし。それに、重いでしょう」

    「2本くらいなら持てるよ」

    「お母たまにいただいたお金で足りますか?」

    「あ、そっか」

     諦める、とそのままレジに移動する。ホットケーキミックスもなんだかんだで重い。自転車で買い物に来たわけでもないので、ウィスパーとしては出来るだけ荷物を減らしたかった。ウィスパーが持つとポルターガイストになってしまうので、手伝えない。
     会計を済ませてビニール袋に商品を入れていく。

    「そんなにコーラ好きでしたっけ?」

    「うーん。普通かな」

     空になったカゴを戻して、ケータが「よいしょ」と言いながら袋を持った。自動ドアを抜けて、はあ、とため息をつく。

    「半分持ちましょうか」

    「平気だし。そんなに重くないよ」

     ゆっくり歩くケータに合わせて、ウィスパーも浮遊する。トムニャンのお誘いも急なもんだ、と考えていると、ウィスパーの妖怪パッドにヒキコウモリからメールが入った。

    「なになに? もう皆さん集まってますよ。ですって」

    「はや! トムニャンに余計なことされる前に帰らないと!」

     じゃあ荷物持ちましょうか? と言うと、半分ね、と目尻を下げた。



     ケータとウィスパーが帰宅すると、ジバニャンやイナホたちは、ケータの部屋でトランプをしており、ケータの姿を見たイナホは目を輝かせた。

    「ケータさん! ケータさんがお菓子作り得意だと伺ったので、あとはお任せました! 頑張ってください!」

    「え、ええ……」

     そして盛り上がる大富豪。ケータは呆れながらも、そのまま部屋を出て台所に入る。ちなみに、別にお菓子作りが得意なわけではない。ちょっとこだわってしまうだけだ。
     追いかけてきたウィスパーが、テーブルの上に一旦置いたジュースを冷蔵庫に入れた。スーパーの袋を畳んでから母がストックしている棚に入れ、ホットプレートのコンセントを差す。

    「ありがとう」

    「いえいえ。楽しみですねえ」

    「それ温かくなったら、ジバニャンたち呼んできてくんない? すぐ出来るし」

    「うぃっすー」

     ホットプレートに手をかざして首を傾げている。尻尾は楽しそうに波打っていた。
     その様子を少し見守ってから、ケータもようやく、計量器を取り出し始める。



    「イナホさんとUSAピョン何飲むのー?」

    「カルピスでお願いします!」

    「ミーもダニ!」

     ジュースを入れている横で、メープルシロップを大量に入れようとするトムニャンを止めるジバニャン。トムニャンがいると、ウィスパーが大人しい部類に見える、とケータとジバニャンは思っている。
     
    「ケータ! トムっちコーラがいいミャウ!」

    「おれっち麦茶にゃん」

    「ジバニャンは自分で入れなよ……」

     とりあえず、この猫たちが暴れているので2人のジュースをコップに注げない。「仕方ないなあ」と言いながら、ケータはコーラを手に取った。

    「じゃあ、はい。ウィスパーの分、先にいれるね」

     迷い無くウィスパーのコップにコーラを注ぐ。ウィスパーはお礼を言いながら、ジバニャンとトムニャンに落ち着いてくださいと促す。
     その対面で、目を丸くするイナホとUSAピョン。

    「はい、トムニャン。日本のコーラだよ」

    「ミャーウ! 日本のコーラもウマいミャウ!」

     暴れるのをやめたトムニャンが、コーラを一気飲みする。ジバニャンが甘えたような目でコップを差し出してくるので、ケータは、はいはい、と麦茶を注いであげた。
     その間、ケータのコップにはウィスパーがカルピスを注ぐ。イナホとUSAピョンが顔を見合わしていると、ケータが、「これもう食べていいよ」とトムニャンに1枚、ホットケーキを差し出した。

    「いやいやいやいや」

    「これは……」

     カルピスを一口飲んで、「どうしたの?」と不思議そうな顔をするケータ。イナホとUSAピョンは慌てて「何でもないっすよー」と手を振った。
     それからトムニャンのギターと歌がうるさいBGMになるだけの、ホットケーキパーティだ。



    「今日はありがとうございましたー!」

    「ケータのホットケーキ美味しかったダニ!」

     玄関で、イナホとUSAピョンを見送るケータとウィスパー。なぜかケータよりも胸を張るウィスパーに、USAピョンが苦笑いする。

    「お礼に今度、セラピアーズの」

    「え!? ああ! そんなのいいから! ね!?」

     セラピアーズに興味はない、と必死に遠慮する。それに、これはトムニャンの企画だ。ケータからすれば、別にそんな必要はないらしい。お互い巻き込まれただけなのだ。
     そうですかーと残念そうなイナホに冷や汗をかきながら、ケータは「気をつけてね」と手を振った。

    「はーい! また明日学校で〜!」

    「ばいばいダニ!」

     ドアが閉められて、ホッと息を吐く。ケータとウィスパーは顔を見合わせると、ウィスパーが背中からハリセンを取り出した。それを受け取ったケータは、リビングのソファーの上で眠っている猫たちめがけてハリセンを振り下ろす。

    「ジュースこぼさないでって言ったよね!?」



     日が暮れるのが早くなった。それでも早めに解散したおかげで、まだ空は明るい。これならまだ、ゆっくりアニメを見る時間はありそうだ。
     イナホは今日を振り返る。昨日の今日だ。どんな状態になっているのか、多少気になっていた。

    『ケータくんにとって、私は必要ないのかもしれませんね』

     そう言って涙を流していた彼は、どういう心境なのだろうか、と。

    「なんていうかさー、あの2人、おもしろいよね」

    「その片方からメールが来たダニよ」

     USAピョンが妖怪パッドを眺めている。ウィスパーから、メールが来たらしい。「読んで」とイナホが言うと、

    「USAピョン、イナホさん、昨日はご迷惑をおかけいたしました。うぃす」

     と、USAピョンは歩きながら読み上げていく。

    〈ケータくんてば、私が家出したこと知らなかったみたいで、ほんと失礼なご主人様でうぃす! 池に放り投げられるし、なのにトイレットペーパーちょうだいとか言いだすし!〉

    「投げられてたね……」

    〈でもちゃんと、帰ろうって言ってくれました。家に帰ったら、ケータくんとジバニャンにさんざん馬鹿にされましたが、私がイナホさんとUSAピョンが羨ましいって言ったら、こう言ってくれたんです。
     おれたちあの2人より仲良いでしょって。
     そうなんですか? USAピョン、どう思います?〉

    「そこ聞いてこないでほしいですな」

    〈今日のわたしたち、どうだったかなあって思って。USAピョン返事くださいでうぃす〉

    「え? USAピョンとウィスパーさんてそんな仲だったの?」

    「違うダニ! ミーはウィスパーとそんな仲良くなった覚えないダニ!」

    「そんなこと言わず友達はたくさんつくってくださいよ〜。もうウサギだとか小汚い小動物だとか悩まなくていいんだから……あ、今も小動物でしたね! 失礼いたしました!」

     ビッと敬礼するイナホに、USAピョンがキレる。両手をふるふると震わせて、立てた親指でヘルメットのボタンを押した。

    「ベイダーモード」

    「わっ! わっ! ごめんって! ごめんなさーい!」

     逃げるイナホと、銃を連射するUSAピョン。 
     結局、メールの返信はしなかった。
     相談教室じゃないんだから、と呆れたからというのもあるのだが、何より、見せつけられてたまらないのはこちらの方だ。
     早く、早く。あんな空気を纏う2人になれたなら。
     自分もこんな気苦労しなくて済むのになあと思うのはまだ、小動物だからかもしれない。

    Link Message Mute
    2018/12/30 22:16:17

    愛されることができないみたいだ

    2016.12.10
    ピクシブに投稿したウィスケーです。

    閲覧・評価ありがとうございました。

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    • ハッピーエンド2017.4.2に
      ピクシブに投稿したウィスケーです。

      閲覧・評価ありがとうございました。
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    • 混沌ビィザー 他ウィスケー短文まとめです。

      2016.3.7
      ピクシブ掲載分でした。
      閲覧・評価ありがとうございました。
    • 七夕 他ウィスケー短文まとめです。

      2015.11.4
      ピクシブ投稿分でした。
      閲覧・評価ありがとうございました。
    • 無題2018.4.15
      ピクシブに掲載していたウィスケーです。

      閲覧・評価ありがとうございました。
    • テストテストだよ〜
    • アニメ放送6周年目おめでとう!
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