年齢逆転の宇→善♀(炭善前提)「天元様は、鳴柱様に恋をされていたのでしょう」
どういった流れで須磨がそんな事を言い出したのかは覚えていないが、とにかく俺の嫁の三人のうちの一人がそう言い出した。
「ああ」
俺は素直に頷く。
「そうだったのかもしれねえな」
恐らく俺もたった今気づいた。その事実に。
尋ねてきた須磨は何にも言わずただ微笑んだ。妙に満足げで、俺は時々こいつが何を考えているのかよく分からない。
「けど、俺はお前らの方が大事だ」
「わかってますよお、そんな事」
だったらなぜ聞いたんだ。
普段は人一倍空気が読めずやかましく泣き虫なのに(まあそういうとこも可愛いらしくもあるのだが)、たまに恐ろしいほど勘が冴える時がある。
そういえば、俺の師匠もそういう女だった。
そう、俺の師匠は女だった。
初めて会った時の事を今でもまだはっきりと覚えている。
俺は鬼狩りになりたてで、御庭番だったころの戦い方が抜きれず鬼を殺るのを苦戦した時期がある。
忍と鬼殺の剣士は戦い方が違う。そもそも忍はどちらかというと暗躍が主な仕事だ。その上で暗殺を行う事は多々あったが、正面切って標的とぶつかり合う事はほとんどなかった。
忍は音もなく標的を殺す。だから劣勢になる事も己の肉体や知略をあらん限り尽くして戦うなんて事にも俺は慣れていなかった。
その上俺は嫁達を連れ忍の里を抜け出してその足で最終選抜に向かったので、育手に訓練をつけられていない。選抜には雑魚い鬼しかいなかったので生き残るのは容易かった。だが、剣士として基本的な戦い方を知らずに鬼狩りになってしまった。
俺が実戦を舐めていたのは認める。忍として生き続け死ぬ程の修行を続けてきた。その矜持がおごりに変わっていたのも認めざるを得ない。
幸か不幸か、俺ははじめ弱い個体にばかり遭遇していて、忍の修行で鍛えられた肉体を使い嫁達の援護もあり悠々と鬼を撃破していた。弱い雑魚は野生の熊なんかと同じくらいの強さや思考力しかない。下手をすれば熊より遥かに弱い。
しかしある日、変異個体に遭遇し俺は大変な苦戦を強いられた。結果は見事な惨敗。知能も優れているその鬼に煽られながら嬲られ、俺の矜持はズタズタになった。鴉が早いうちに応援を求めていたおかげで、駆けつけた上の階級の隊士が変わってその鬼を片付けた。そいつは俺の怪我を手当てしながらお前は鬼狩りに向いてないからやめた方がいい、と冷静に述べた。そんなことは嫌という程自覚している。しかし、俺にはこの道しか残されていない。
鬼殺の剣士になれなければまた忍に戻るしかない。それ以外の生き方がわからないから。
だけど忍にはもう戻れない。抜け忍である以上里に戻れば必ず罰を与えられるだろう。恐らく命までは奪われないが、俺は死んだ方がマシだと思える拷問を受け嫁達を奪われる。そうなればあいつらは里の男達の玩具になる運命だ。それが掟だった。
もう戻れない。嫁達を守る為にも、俺は戻る事は許されない。
目に見えて落ち込む俺に援護に来た隊士は、それでもまだ鬼狩りを続けたいのなら上の階級の者に弟子入りして稽古をつけてもらえと言った。
そう言うだけ言って居なくなったが、その一言は後に俺にある行動を起こさせる事になる。
しばらくはまた鬼狩りを続けた。ただし嫁達は連れて行かず一人で行った。
自分が未熟だと否応無しに自覚したので、何かあった時に嫁達を巻き込む可能性を感じたからだった。どうせ死ぬなら犠牲は最小限に。なら俺一人で死ぬ方が良い。忍の時の教えを嫁達に説いたが、あいつらは俺を一人で行かせるのを心底嫌がった。なんとか説き伏せ、俺は任務に出かけた。
その日の任務は、廃村になった山里に鬼が複数住み着いているので駆除せよとの命令だった。鬼は基本的に群れず個々で活動するが、たまにこうやって弱い個体が集まる事がある。そういった場合は大抵一匹の強い個体が他の個体を支配していて、女王蜂を中心かつ巣の心臓として社会を作る蜂の巣のような構造を持つ。のだと鴉に教わった。
山の麓に着くと同期の煉獄も同じ命令を受けていたらしく合流した。
山の中は一言で言うと阿鼻叫喚、地獄以外の何物でもなかった。
本当に”蜂"が山を支配している。中心となっている少女の女鬼が配下を作り、能力を分け与え従わせている。
その能力を与えられた雑魚鬼の中に、人間を操る神経毒を駆使する者が居た。実際、蜂の種類には他の昆虫を操って生きた屍のように操るのが居るらしい。
毒にやられ操られている隊士達は死んでなおその死体を操られるか、生きたまま人形にされ意識は保ったまま俺たちに刃を向けてきた。
俺と煉獄はなんとか他の隊士とも連携してその雑魚を薙ぎ払った。しかし、他にも能力を持った雑魚が次から次へと現れる。
そしてとうとう親玉、いや女王蜂である鬼が現れる。一見すれば幼くあどけない少女のようなその鬼は十二鬼月の一人だった。
俺達は大変苦戦を強いられた。煉獄とはぐれた俺は能力を持つ鬼と対峙した。その鬼は頭から下が完全に蜂と化した化け物で、強さ自体は大したことがないようだが他の人間を自分と同じ姿にして操るという厄介な能力を持っていた。
蜂は動きがトロい昆虫ではあるが、攻撃速度が速い。俺の動きほど素早くはないが体が縮んでいるそいつを、俺に群がってくる他の蜂達をかわしながら攻撃するのが中々難儀した。しかもそれまでの戦闘で出血し体力を消耗した上毒も食らっている。俺は忍の訓練で蜂の毒には慣らされていたが、それは血鬼毒だったので徐々に俺の体力を削っていた。
要約すると、俺はまた絶体絶命の危機に瀕していた。
毒が全身に巡り、とうとう動けなくなった。神経がやられてる呼吸による止血もままならない。蜂鬼は俺を刺す気満々で銛のような太い針をこちらに向けている。
万事休す。そんな言葉が浮かび、次に浮かんだのは雛鶴、まきを、須磨。嫁達の顔だった。まだ十や十一の娘であるあいつらは俺が居なくても無事に生きていけるだろうか。鬼殺隊は寡婦救済制度があるが、戸籍がない俺達は正式な夫婦ではない。そもそも結婚出来る歳でもない。とか、今思えばどうでも良い事まで一瞬で頭の中でぐるぐる回った。死にそうな時はそう言うことが起きる。
俺が死を覚悟した、次の瞬間。
音もなく匂いも気配もなく、そいつは現れた。
満月を背負ったそいつは、錦の髪をたおやかにはためかせて”降って”きた。
星が落ちてきたのだと思った。
が、その刹那轟音が鳴り響く。
俺にさえ見えない世界の中でそいつは
流星を雷光に変えた。
俺は地面に倒れたまま何が何だか分からないままで、毒が回りきってるのもあって夢を見ているのかと思った。
“柱”と呼ばれる存在が援護に来たのだと考え至ったのは自分がすでに頸を切られているにも気付かず、鬼がニヤニヤと「美味そうな女だ」と舌なめずりをはじめたのを見たからだった。
柱はおもむろに既に胴体と泣き別れた鬼の頭を拾う。その鬼は自分の視線が柱と同じ位置に来てようやく自分が頸を落とされた事に気付いたらしい。何事か恨み言をぎゃんぎゃん叫んでそいつは消えていった。
というか、女と言ったか?
女?
この化け物じみた緊張感と殺気を放っている剣士が?
毒で感覚が鈍っている俺でさえ肌がひりつく程の緊張を感じる。こんなに強い人間は生まれて初めて出会った。十二鬼月の鬼と対峙した時でさえこんな緊張感を覚えたことはない。味方であるはずなのに。
しかし一瞬でその緊張感と殺気は消え、柱の纏う空気も変わった。
「君っ! ねえ! 大丈夫!?」
そして妙に情け無いような腑抜けた声で俺に駆け寄ってくる。
「あああ、かわいそう……こんなに血も出ちゃって……ごめんねぇ~~~~痛いよねえごめんねぇ~~~~もっと早く来てあげればよかったぁ~~~~~~~~」
言いながら柱は急にびいびい嘆きだす。しかし、その傍ら俺の傷口を縛り手当てしていた。ごめんねごめんねと泣き喚きながら。
止血されたお陰か、ようやく視界もはっきりしてきた俺はまた度肝を抜かれる事になる。鬼がなぜその柱を女だと決めつけられたかわかった。
やたらとでかい胸が、破けた隊服からまろび出ている。
「ごめんね、俺解毒剤は持ってないんだ。後で紫色のちょうちょみたいな髪飾りした綺麗なお嬢さんが解毒してくれると思うから、その子を待っててくれる? 俺は他の子達を助けに行ってくるから」
どうやら女柱は自分があられもない格好をしているか気づいてないらしい。服からこぼれでた乳房は、白い膨らみはもちろんのこと桃色の乳首も何もかもつまびらかになっていて、そいつがあわあわと喋るたびにぶるぶる揺れている。
いや待て。
その様でよそに飛び出していくつもりか。
俺は忍の頃に閨房術の訓練を受けていた為、今更女のもろだしの乳を見たくらいで大して反応しない。しかし、他の隊士はどう思うか。まず柱であるそいつを痴女だと認識するだろう。
俺はほとんど残っていない体力を絞り出しなんとか腕を動かして、今にもかけ出しそうなそいつの袴を掴んだ。
「え!? どうしたの?」
俺の動きがあまりにも切羽詰まっていたから緊急性を感じたのか、女はすぐに振り向く。さっきから物凄く揺れてるし服も燃えまくってるのになぜ気づかないんだ。どんだけ鈍感なんだこいつ。
「ふ……っうっ! く、ひゅ……」
毒のせいか喉も舌も上手く動かない。おまけに唇さえ動かないときた。口からはひゅーひゅーと音にもなりきってない息が漏れるばかりである。
「ん? 何? ゆっくりでいいからそのまま言ってみて」
女は耳を傾けてくる。俺はわかるわけないだろ、と思ったが言われた通り「服が燃えて胸出てる」と発した。発したつもりだが案の定呼吸が漏れるばかりだ。
なのに、その音を女は読み取ったらしい。
「えっ」
俺に指摘されて自分のまるだしの乳を確認した女の絶叫が、森中に木霊した。
おいこれ鬼に見つかるだろ。
「ああああああ!! またやっちゃったああああ!! どうしようどうしよう炭治郎に怒られる!!」
女は胸をなんとか両腕で覆って俺の視界からは遠ざけた。羽織も上着も下着さえもビリビリに破けて、というか燃えているので他に覆えるものがない。俺の服は血まみれだから貸してやれそうにもない。
というかとりあえずうるさくて怪我に響くから静かにして欲しいんだが。あと鬼達が集まってきてる気配がする。
案の定、あの女王蜂の配下と思われる兵隊が声を聞きつけて群がってきた。見るからに先程よりも弱そうな雑魚ばかりだが、俺は戦えないし、女もこの様子じゃまともに動けないだろう。
またも絶体絶命かと身構える。しかし、再び雷鳴のような轟音と閃光が複数轟くと一瞬の刹那のうちに雑魚達の首が撥ねられていた。
そして、女は更に服が燃えて上半身はほぼ裸になっていた。
「ちょっとおおおお!! もう出てこないでよおおお!! これ以上服燃やさせないでよおおお!! こんなんじゃ俺帰れないじゃん!!」
お前が騒ぐからだろ。
声さえ出ればそう告げてやれるのに、俺はただ呆然として見てるしかない。
「どうしよう、どうしよう……! と、とにかく隠の人達待って……で、でもこんな恥ずかしい格好見せられないし、それにこんなの炭治郎に見つかったら……!」
何やらブツブツ呟いた上さっと顔が青ざめていく。さっきから「たんじろう」とやらにやたらと怯えている。鬼なんかよりも遥かに。
「そ、そうだ! 君、具合はどう!?」
急に俺の存在を思い出したのか、振り返って容体を伺う。いやもう完全にまるだしなんだが。もはや袴しか履いてない。(その袴も半分以上燃えている)
「ご、ごめんねこんな格好で……応援を呼びに行けないからお姉さんとここで待っててくれる……?」
俺は頷くこともできないのでまたひゅうひゅうと音を出した。「わかった」と言ったつもりだった。
「ありがとう!」
そいつはまた俺の声にならない声を聞き分ける。こいつ、どんな耳してんだ?
そこでしばらく半裸の女と待機……になるはずだったが、女は急にぎくりと体を硬直させた。様子がおかしい。
「こ、この音は……!」
胸を両手で覆いながら顔は青ざめている。
「やばい……!!」
すると女は何を思ったのか、俺の上半身を抱き起こして後ろに回る。そして抱きかかえるようにしてぴったりと体を押し付けた。いや当たってるんだけど。
妙齢の女性に豊満な胸を押し付けられる。それも生肌で。
「ごごごごごめんね……! しばらくこうさせて……!」
世の童貞どもが聞いたらよだれを垂らして大喜びしそうな図式だったが、その時の俺は毒で視界がぐるぐる回っており血も足らなくて全くそれどころじゃなかった。何考えてんだこの女。
ややあって、がざがさと茂みをかき分ける音が聞こえてくる。鬼の気配ではない。別の隊士が救護に来たのだろう。恐らく回収部隊の隠か。
と思ったら違った。
現れたのは、俺や煉獄より数歳ほど歳上の男だった。赤みがかった長い黒髪を縛っていて、額に大きな痣がある。
そういえば煉獄に聞いた事がある。今の柱には、「始まりの呼吸」の剣士の世代で廃れた呼吸法を何らかの形で取り戻し伝説と謳われていた”日の呼吸”を皆伝した剣士がいるのだと。
その男は額に痣があり、花札のような耳飾りをつけている。
つまり、この男が……────。
「善逸! 無事か? 鬼は倒したか? ……何してるんだ?」
その男は俺ではなく俺を通り越して後ろにいる女に声をかけた。ぜんいつ?こいつの名前か?
何をしてる、は当然の疑問だろう。俺が聞きたいくらいなのだから。
「た、たんじろぉ。お疲れ。俺は無事だし鬼は倒したよ~。なんかね、この子毒にやられちゃったみたいで、介抱してあげてるんだよ」
女は明らかにしどろもどろになりながら答えた。どんな介抱の仕方なんだよ。
「そうなのか? 実は彼も毒にやられたみたいなんだ。しのぶちゃんに解毒してもらわなきゃならないから蝶屋敷に連れて行こうと思う。その子も連れて行こうか?」
言って男は背中を見せた。言われるまで気づかなかったが、煉獄を背負っている。俺とはぐれた時は俺より軽傷だったように見えたが、今は見るからに全身ズタボロだ。意識はあるようだが、視線がはっきりしない。俺のように声も出ないみたいだった。俺とはぐれた後に何かあったのは明白だった。それにしても男の方は全く傷一つなく泥汚れさえなくピンピンしている。
俺は思わず煉獄の名を呼ぼうとした。女がそれに気づいて顔に耳を近づけてくる。
「どうしたの? ……ああ、あの子友達なんだね」
俺は同期だと言っただけだが、女はそれを拡大解釈した。
それを見ていた日柱の顔が引き攣る。顔にあからさまな怒りの色が見えた。
「ところで善逸、いつまでそうしてるんだ? っていうか何でその格好なんだ? 毒を食らってるなら起こしてるのはかわいそうじゃないか」
声音にも怒りの色が篭る。俺は忍の頃の訓練で、人の声で大体の感情がわかる。そしてこの声は……なんだこいつら、そういう事かよ。
「い、いやこれは……! あの、炭治郎、隠の人達を探して連れてきてくれないかな? この子毒が回りきってて俺一人で運ぶのは危なさそうで……」
女の妙に上手い誤魔化し方が俺の癪に障った。嘘はついてないからタチが悪い。俺の体が毒でやられていて動かせないのは確かだ。しかし、男が尋ねた言葉には答えていない。この態勢をしている意味はなんなのかという質問に。
俺はすぐに察した。要するに、この女は服を燃やした事を男に知られると分が悪くなるのだ。
恐らくは恋仲だから。
自分の情人の女が外で胸をさらけ出して他の男に見せただなんて、まあ、大抵の男だったら嫉妬で怒り狂うだろうな。
だからと言って、俺を盾にしていい理由はない。
体の良い防波堤に使われた事が頭に来て、俺は最後の最後の力を振り絞り女の体を押しのけた。
当然、全裸の胸がぼろりとこぼれ出て日柱や煉獄の前で露わになる。
「あっ」
今日二度目の叫び。
「なんっっっっって格好をしているんだお前は!!!!」
日柱はやたらとよく通る声をしていて鼓膜が破けそうなくらい響く。余計な事するんじゃなかったと若干後悔した。
ちなみに目の焦点があっていなかった煉獄も急に視点があうようになった。普段何事にも動じない性格だが、さしもの煉獄でも目の前に女の裸が出てくる事は予想外だったらしい。たとえ死にかけでも。
すると日柱は赤面する煉獄の目をとっさに覆う。いやもう遅いだろ。
「ごめんってばぁ炭治郎ぉ~~~~~気づいたら服燃えちゃってたのぉおお」
「まさかまた火雷神を使ったのか!? よっぽどの事がない限り使うなと言っただろう!」
「仕方ないじゃないの! この子が鬼に襲われてて、霹靂一閃より確実に間に合うようにしたら出ちゃったんだもん!」
だもんって……。この女の口調はともかく、こいつらの会話で俺は女の服が燃えた理由を知った。薄々感づいてはいた。
この女の技が速すぎて、空気抵抗の摩擦により熱が起きてしまうのだろう。
つまりこの女は着ている服が耐えきれない程の速さで技を繰り出した。恐らくあの、”星が雷に変わった”瞬間。
俺達鬼殺隊の隊服は特殊な糸を特殊な製法で編み上げた生地が使われている。更に製造過程で強化が施されている。なので、簡単に破れたり燃えたり凍ったり溶けたりしない。なのにこの女の服は燃えた。それはもう”丸出し”になるまで。
俺は視認する事ができなかった。忍時代に動体視力は鍛えているので、そこらへんの隊士よりは見える方だと自負している。それでも女の技は全く捉える事は出来なかった。
こいつ、本当に人間か――――?
「全くお前って奴は……」
すると日柱は一旦煉獄を俺の隣に寝かせ、自分の着ている羽織を脱いで女に着させた。ようやくこれでぼろぼろと丸出しだった胸やら臍やらが覆い隠された。
「まあ、その子が助かったのだから良しとしよう。ちゃんと助けて、偉いぞ」
突然にこりと微笑んで女の頭を撫でだした。
「………うへへぇ」
女は元々締まりが無かった顔を更に緩ませる。へらりと心底嬉しそうな顔で笑った。……俺は一体何を見せられてるんだ?血まみれで。本当にこいつら柱のくせに何なんだ。威厳もへったくれもない。
だけど。
だけど、俺を救った刃の太刀筋は一つも迷いがなく、その実力は本物だった。
あのド派手な技の鮮やかさは、俺が生きてきて見たものの中で一番眩しかった――――。
俺はある事を胸の内で決定しながら、意識を手放す。隣の煉獄も気を失っているようだった。
その女が鳴柱・我妻善逸だという事を知ったのは、一週間後に蝶屋敷と呼ばれる家で目が醒めた後の事だった。
俺が目を覚ますと、前日に意識を回復させていた煉獄が回復を喜んで顔を覗き込みに来た。俺は開口一番、あの女は何者かと問い詰めた。先に仔細を聞いていた煉獄は、あの女性は鳴柱だと教えてくれた。
「お前は見ただろうが、あのお方の攻撃速度は鬼殺隊随一、いや、鬼殺隊の歴史の中でも最速と謳われた初代鳴柱に匹敵するものらしい」
俺らを治療したらしい蟲柱に聞いた、と煉獄は言った。
「しかし、その。うむ。見ただろう?」
「何をだ」
「うむ。だからその、あの状態をだ」
「あぁ?」
「だから! 鳴柱の格好を見ただろう! 女性の大事な場所が公になっていただろうに!」
「あぁ……」
いよいよ赤面した。こいつ、あまりにも物怖じしない性格なので女の裸にも反応しないのかと思っていたが、一応歳相応に恥という概念はあるらしい。
「ありゃ空気抵抗で燃えたんだろう」
「流石は鋭いな。その通りだそうだ。今までも攻撃速度が強すぎて羽織が破けたり刀が毀れた者は何人か居たそうだが、隊服までほぼ全焼するのは前代未聞らしい。それ故隊服も強度を練っているそうだが、それでも鳴柱の速さがどんどん上昇するので服の強化が追いつかないと。……凄まじいな」
「げっ……マジかよ」
いよいよ化け物じゃねえかあの女。
「故に滅多な事がない限り、雷の呼吸の最強奥義である漆ノ型は封じられているそうだ。そのような理由で禁じ手になるとは中々に難儀だな」
「本当にな」
つまり俺はその最終兵器を使って助け出されたって事か……。
なぜか、俺の目の前で揺れてた脂肪の塊が頭を過ぎった。
その後煉獄は俺とはぐれた後に何が起きたか語った。
俺の見立て通りあの赤毛の男は日柱・竈門炭治郎だった。
十二鬼月の下弦の伍と対峙した煉獄は、累と呼ばれる少女の鬼に苦戦を強いられた。俺と同じように血鬼毒にやられ絶体絶命の危機に瀕したところ日柱が現れ、見惚れる程鮮やかな呼吸戦法を使い息もつかぬ間に鬼の首を落としたのだと言う。俺とまるで同じだ。
俺達は己の力不足に一時肩を落とす。煉獄は由緒正しい鬼狩りの家系だが、数代前から力が衰えつつあるらしい。一族の誉れを取り戻す為にも炎柱になると毎日のように猛っている。俺と同じように後戻り出来ない立場だ。
が、この様だった。
しかし、いつまでもくよくよしていられない。俺達は一分一秒でも時間が惜しい。
「なあ、煉獄よ。俺は決めたぜ」
「む、宇髄。貴様もか!」
俺が突然宣言しだしたというのに、煉獄はこういう時だけとびきり察しがいい。互いに治療服をまとったまま格好もつかないが、俺達は同じ言葉で同じ決意をする。
「俺は鳴柱に弟子入りする!」
「俺は日柱の継子になる!」
若干言葉尻は違ったが、する事は同じだ。
俺はあの女に弟子入りする。絶対に。決めた事は二度と覆さない。
「ド派手に生きる」と決めたあの瞬間から、俺の進むべき道は決まった。
見舞いに来た鳴柱に「弟子にしろ」と迫るまであと二時間。
「無理!!!」と即答されるまであと二時間と五秒。
俺と煉獄は来たるべき未来に思いを馳せ、それぞれの獲物を確実に捉えるべく画策しあう事にした。
続く(と思う)
次ページは読まなくていい補足。
補足
天元くんは15歳
杏寿郎くんは14歳
雛鶴さん・まきをさんが11歳、須磨さんが10歳です。
お嫁ちゃん達はまだ嫁いできていませんでしたが、里を抜ける際に「見せしめに嫁候補達を殺す」と言われたので三人とも義妹として連れ出しました。
なので鬼殺隊でも妻帯者扱いになっていません。
一時は三人をお館様に託して養女に出そうと考えましたが、三人が嫌がったので一緒に居ます。
重婚はこの頃も法律違反なので(そもそも戸籍がない)四人で夫婦になるには鬼殺隊での地位を上げなければならない、と天元君は考えているようです。
っていうのを考えましたが割と蛇足だと思ったので本文には入れませんでした。
炭善については続き書けたらそこで!
※続きは炭善の結婚妊娠とか絡んでくる上死ネタ(未亡人だよっっっ)に繋がるのでダメな人はここで忘れて下さい。