イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    ハルソラ高校受験の当日。あなたの人生を決めると親から何度も言われていた大事な試験の時間。その時間に私は屋台でラーメンをすすっていた。そのラーメンはヤケドしそうなほど熱く味なんてろくにわからない。ただ美味かった。こうやって食べるラーメンがこんなに美味いものだとは思わなかった。私の家はハンバーガーとかポテチとかコーラとかそういうモノを一才禁止する家庭で、ラーメンもそんな禁止食品の一つで、だから私はそれまでろくにラーメンを食べたことがなかったのだ。その時、はじめて自分の意思で食べたラーメンは本当に美味かった。思えばそれは自由の味だったのだろう。私は自由と孤独のほろ苦い味を心で感じていた。

    そんなふうに高校受験を自主的に失敗した私を親は怒るでもなく悲しむでもなく簡単に手放した。親にとって私は生まれてから今まで永遠に二番手で、トップを走るのは常に姉だった。親の関心をかうのはいつも優等生オブ優等生な姉で、私の頑張りは親にとって当たり前か無関心のどちらかだった。

    それでも私は親に褒められたくて、勉強もスポーツも習い事も長年頑張ってみたが、優秀な姉の前では空回りするだけだと流石に15年も生きたら気づいた。だから叛逆した。私のことをとことん無視するなら、こちらは自分の好きにやってやる。好きなように生きてやる。その象徴が屋台のラーメンなのだ。

    私は底辺の高校に進学して、派手な化粧と短いスカートに身を包み、同じような格好をした女の子たちの群れに紛れ込んだ。男を知るのはびっくりするほど簡単だった。ただ着飾っていればいい。明るく元気よく振る舞えば遊び好きの男たちが入れ替わり立ち代わり声をかけてくる。私は自分にある決まりを作った。男と寝るのは一回だけ。それもまだ女を知らない男とだけ。彼氏は作らない。キスはしない。もしキスすることがあったら、それは本当に好きな男と出会った時だ。それまでキスはしない。これは昔見た映画のマネだ。

    何人かの男は本当に私が初めてなのかいぶかしむほど上手に私を抱いたが、このまま別れたくないとは一度も思わなかった。彼は私を愛してないし、私も彼を愛していない。ただお互いの体をむさぼりたいだけだった。そんな性行為をした朝、家に帰る前に私は新しいラーメン屋を探して一人で入った。

    だから、私は毎日のように新しいラーメン屋の店の情報をチェックする。新しい店が見つからない時は決まって行く店がある。風来軒だ。

    風来軒は小さな町ならどこにでもありそうなラーメン屋だ。最近、店主が変わった。前は渋いおじさんだったが今は派手で若いお兄さんだ。味も少し華やかになった気がする。私はこの店のラーメンがわりと好みだった。店主が変わって味の変化が怖かったが、新しい店主の味もなかなかどうして悪くない。

    男と寝た朝、私はケータイをいじりながら、新しい知らない店の情報がないことを確認して、風来軒に向かった。

    朝ラーメンやってます。

    A4の紙に筆ペンで書いた黒い文字。筆跡に苦労の跡が見えるのがおかしい。そんな張り紙をしている小さな店の引き戸に手をかけて開けると、いい香りの蒸気が顔に当たった。

    この店の新しい店主がはじめた試みに“今日のおまかせ”のラーメンがある。店主は新しい味を探すのが好きらしくその一環でさまざまな味のラーメンが出てくるのだ。スープはみそ、醤油、塩、豚骨、魚介、鶏ガラとさまざま。麺も太めから極細までさまざま。モチモチした麺や硬めの麺、トッピングも色々に変化する。私はこの店の定番ラーメンを制覇してからというもの、店を訪れるたびに決まってこのメニューを頼んだ。

    ここの店主はお洒落だった。今日は派手な花柄のシャツを着ている。花柄といってもアロハシャツ的なリラックスした感じではない。もしかしたらレディースかな?と思うようなスリムでいて着心地の良さそうな都会的なシャツだ。この人の服のセンスはどこか変わってる。いつも自分の身近な男子はまず着ないような服を着ている。どこから見つけてくるのか検討もつかない見たことのない個性的な服が多い。でもこの人には不思議と似合う。足元だけはいつも決まっていて、汚れていない凝ったスニーカーだ。彼のスニーカーは同じ物を見ることがまずなかった。いったい何足あるのだろう。

    この店主は髪や服装で毎回ガラリと雰囲気を変える。それでいて芯には同じ物がある。不思議な人だと私は思っていた。この人の作るラーメンもこの人のファッションと同じように毎回違う。それでいてどこかしら共通している。私はそんな変化と共通点の両方を見つける遊びを心から楽しんでいた。

    その日はラーメンと共に紙が渡された。何かと思ってみると採点表だ。スープの味、麺、香り、トッピング、見た目、それぞれ5段階評価で採点するという試みらしい。そして”好き“か”嫌い“かも。

    ふうんと私は思う。こどもの人生の採点をする国家システムから自ら離脱した私にラーメンの採点をしろというのか。私は考える。この採点は誰も傷つかないだろうか?うん。大丈夫。きっと大丈夫だ。

    私は“今日のおまかせ”のラーメンを注文し真剣に味わい採点した。

    ーーーーーー

    久しぶりに彼女の顔を見た。早朝から開けるのは夜型の俺にとっては辛かったが、彼女の顔を見て眠気が消し飛んだ。
    派手な化粧、短いスカートやホットパンツ、体のラインがあらわな服。長い足。来るのは決まって早朝。どこかの男の部屋に泊まったのは見え見えだ。正直、ロクな女じゃないと思う。でも彼女はどこかしら可憐だった。

    長い間、水商売の女性なのかなと思っていたが、酒に酔っていることは一度もなかった。見た目からして遊んでそうだなと思うが、他の女性客はたいてい男と来るのに彼女はいつも一人だった。なんだかミステリアスな人だと思った。そして彼女は実に美味そうにラーメンを食う。彼女のその食べっぷりが俺は最高に好きだった。

    美人の女は周りに大勢いる。俺は雑誌のモデルを兼業してるから、キレイな女の子は仕事仲間にたくさんいる。ただし俺は自分自身を美形じゃないと思っている。だからモデルの仕事をスカウトされた時は驚いた。でもこの仕事をしていて服の魅力を引き出すのは完璧な美の持ち主だけではないのだとだんだんわかってきた。実際スーパーモデルは必ずしも絶世の美女ではない。服のモデルにはその時代やデザイナーのイメージを表現する力を持っていることが求められるのだ。

    俺はそんなモデルの世界の片隅に居たから、いわゆる美男、美女といった見た目を売り物にできる人たちとの繋がりはあった。だから、彼女の発散するミステリアスな魅力が気になったのかもしれない。彼女はキレイな女の子だった。それこそ雑誌の専属モデルくらいできそうな、背が高くてスタイルがいい子だった。そういう、どんな服でも着こなせそうな子が、派手な化粧で女を嫌と言うほど見せつける服で着飾っている。でも、それを好きで着ているという匂いがしなかった。これは武装だと俺は思った。彼女は女を鎧っている。女という服で自分を守っている。毛先から爪先までピシッと整えて、一部の隙なく女になりきって自分を守っている。

    その服を俺は脱がしたいと思った。彼女が着ている服を、熟れた桃の皮をむくように丁寧にはがして、中の柔らかい実を食べたいと思った。彼女が誰にも見せまいと守っている果実。それを心ゆくまで味わいたいのだ。

    俺は彼女のキレイに整えられて様々に飾られた爪を見る。その長い爪を生やした指が小銭をつまみ出しカウンターに並べて行く。俺はお釣りを計算して彼女に渡し、こういうのだ。
    「ありがとうございました」。俺と彼女との会話はいまのところ「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」の二種類だけだ。

    俺はカウンター席を掃除しながら、彼女に渡した紙を回収した。そこには丁寧にラーメンの採点がしてあった。コメント欄を見ると、ほどよい大きさの文字でラーメンの感想が書いてある。あの派手な見た目からは想像できない綺麗な字だった。この採点表が満点になったら俺は彼女にちゃんと話しかけようと思う。話しかけて仲良くなって、あわよくば告白して付き合いたい。そんな風に夢みたいなことを本気で考えてる自分が馬鹿みたいで笑えた。

    (終)
    ととり Link Message Mute
    2021/02/11 18:48:52

    ハルソラ

    #オリジナル #創作 #オリキャラ

    ウチのドール(ミソラと春馬」の物語を考えてみました。

    more...
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    NG
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品