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    第四話「ゆきやどり(小説版)」時代小説吹雪の山道を二人の男女が歩いていた。膝まで埋まった雪をかき分け、片目の男が先頭を行く。「どこかでこの吹雪をやり過ごさないとな」男は女にいった。女は黙々と歩く、強い風のせいで聞こえなかったのかもしれない。男は手頃な洞窟を山肌に見つけた「少し休むぞ」そういうと洞窟に入っていった、女も後に続く。

    男は洞窟の中に散らばった枝や葉を集めて火をおこした。女は少し疲れているようだった男が「大丈夫か?」というと女はハッと気づいた「大丈夫よ」男はいった「火にあたれ」女は凍えた両足を手で温めながら火に当たった。女の足は凍傷になりかけていた。女はうつらうつらとした。寒さで凍えて意識を失う一歩手前だったのだ。

    男は女を揺さぶった「しっかりしろ」男は女の足の凍傷に気づくと、自分の手で温めようとした。女はそれを手で制した。「着物は濡れていないか?」男は羽織を脱ぎながらいった。女は大丈夫だというと、男は女に羽織をかけてやった。「止みそうにないな」男は洞窟から雪雲を見上げていった。「今夜はここで野宿か」その時、女が倒れた。

    男は女に駆け寄った。女は静かに眠っている、男はこの状況で寝るのは不味いなと考えた。男は女に寄り添いその体を温めた。肩に両腕を回して抱き寄せると、女とは思った以上に小さいと感じた。薄い女の体を胸に抱いていると、女が徐々に体温を取り戻しているのがわかった。女をそっと揺すると目を覚ました。女は自分の状況がよくわからないようだった。男の胸がすぐそばにあると気づいて、ガバッと体を起こした。「ごめんなさい。眠ってしまったみたい」男も体を起こすと「そのまま寝かせて死なれても困る」と笑っていった。

    「まずは体を暖めろ」そういうと石を焼いて袋に入れ女に渡した。男も同じものを作って懐に入れた。女は石の温かみで暖を取った。



    吹雪の中で男がなにか言った、よく聞き取れない、私は喋る元気もなく、ただ黙々とついていった。男が何かを指差す、崖に洞窟があった。男がそちらに向かうので私はついていった。

    私は感覚のなくなった脚を脚絆から開放した。手も足もひどく冷たく、うまく動かない、なんとか感覚を取り戻そうと、撫でたりさすったりしているうちに、男が火をおこしてくれた。「ありがとう」とつぶやいたが男には聞こえなかったようだ。ひどく疲れてひどく眠い。意識が遠くなりそうになってハッとする。気づくと男が間近にいた。私は内心慌てた。男は私の足が酷い凍傷になりかけているのに気づくと、なんと両手で足を触ってきた。この男に足を掴まれると想像しただけでどうにかなりそうだった。
    私は内心を気取られないように、男の手を制した。背中に男の気配がした、温かいものが背中にかかった。羽織だ。男の体温がまだ残っていて背中が温かい。私は嬉しくてたまらなくなった。「今夜はここで野宿か」と男はいった。

    眠るまいとしたのだが、体を横にしたらどれだけ楽だろうかという思いが消えなかった。私は横になった、そのまま意識が薄れていった、どれだけ眠ったのだろうか、寒さで目が覚めると男の体がそばにあった。私は飛び起きた、何が起きたのだ?男は涼しい顔で起き上がった。私の着物の襟も裾も乱れては居ない、勘違いした自分が恥ずかしくなって「ごめんなさい、寝てしまって」と詫びた。男は笑って応じた。

    男が温めた石を袋に入れてくれた。私はそれを懐に入れた、温かい。だけど、さっきの男の羽織のほうが何倍も温かい気がした。



    女はまだ寒そうだった、男が横になると女はそこから離れた所に横になった。「こっちにくればいい」男がそういうと女は大人しく男の横に寝転んだ。男に背を向けて丸くなる女、体はまだ震えている。「まだ寒いのか?」男が尋ねると、女は頷いた。「こっちを向きなさい」男はそういうと女を抱き寄せた。男は着物の胸をはだける「直接触れたほうが温かい」女が何もいわないのでそのまま抱きしめた。


    男が横になった。私はすぐ横で眠るのもなんだかと思って入り口に近いところで休むことにした、しかし男が「こっちにくればいい」というので、ありがたく男の横で寝転んだ。入り口から遠い分まだ暖かいが、それでも寒い、今日は寝付けないかもしれないと思っていると男は「まだ寒いのか?」と聞いてきた、そして「こっちを向きなさい」といって抱き寄せようとするではないか、その上「直接触れたほうが温かい」と自分の着物の前をはだけ、そこに私を押し付けた。私は寒さどころではなかった、温かい男の胸がそばにある、私の頭は大混乱だった。どうすればいい、こういう場合なんて言えばいいの?息が止まりそうになった。寒さなどどこかに吹き飛んでしまった。



    女の体が少しずつ温まってきた。
    俺は女と俺の体の隙間から風が吹き込むのが嫌で、女を強く抱きしめた。これでより暖かくなると思った。その時だった、女は無我夢中で俺の腕から逃れた、俺は強く抱きすぎたかと思った。
    俺は俺に背を向ける女に「どうした?」と声をかけた。



    体が熱い、男に抱きしめられていると思うだけで体が熱くなった。それだけでも大変なのに、男は強く抱きしめてきた、何が起きたのだろう、強く抱かれすぎて私の唇が男の肌に触れた。私はたまらなくなって男の腕から離れた。男に背を向ける、多分顔が真っ赤だと思う。落ち着こうとしていると男が「どうした?」と尋ねてきた。



    女は怒っているみたいだった。やはり力を入れすぎたのだろうか、
    「悪いことをしたな」俺は女に謝った。女の扱い方はよく解らない、小さいといっても子どもとは違う、俺は腕組みをした、今のところはそっとしておけばいいのだろうか。



    顔のほてりが収まるのを待っていると「悪いことをしたな」と声をかけられた。
    悪いことなんて何もしていない、だから謝る必要なんてない。そういえればどれだけ楽か
    こんなことで顔が赤くなり動悸が激しくなる。そんな自分が嫌になった、私はこの男のことが好きだ、しかしそれを伝えると男は迷惑ではないだろうか、そう思うと何もいえない。



    女が振り向いた、目が何かを思いつめたようになっている、俺は何をいわれてもいいように襟を正した。女は俺の目を見つめた。俺も女を見た、こうやって見ると可愛らしい顔だ。女は何かを考え、俺の手に手を伸ばした。女の手はまだ冷たい。俺は温めてやろうと思って指を絡めた。女は俺の手を口元に寄せると、指に軽く接吻した。そして怯えたような目で俺を見た。俺はどうすればいいかわからなかった。



    あまり背を向けていると怪しまれる、そう思って私はえいと振り返った。男がこちらを凝視していた。澄んだ瞳がまっすぐに突き刺さる、美しい目元に思わず見とれた。私は彼の手を取りたいと思った。手を伸ばすと彼も手を伸ばしてくれた。指が絡まる。私はたまらない気持ちになった、思わずその手を抱き寄せ指先に口づけしてしまった。そうしてからしまったと思った。



    俺は女を抱き寄せた、女は無言で俺に身を委ねた、俺は彼女を抱きしめた。そうしたほうがいいような気がしたのだ。「私のことどう思っているの?」女が聞いてきた。俺は「どうって・・・」といって考えこんだ、仲間というとちょっと違う、家族でもない。かといって何もないわけではない。何か温かいものが心のなかにある。俺は考えた、何といえばいいのだろう。



    彼に抱き寄せられてひどく慌てた。私はなにか言葉にしないといけないと思った。何をきけばいいのだろうか、このまま何もいわずに深い仲になってしまうのだろうか、それは良くない気がする。そもそもこの人は私をどう思っているのだろうか。「どうって・・・」考えこまれてしまった。



    「私は貴方が好きなの」女はそういった。
    俺は驚いた。俺が好きとはどういうことだ?「貴方はどうなの?」女は怒ったような目でいった。俺は考えた、俺はこの娘が嫌いではない、と思う。好きなのだろうか。
    女は問い詰めるような真剣な眼差しで俺を見ている、何かいわなければと思い「好きだ」といった。女のホッとしたような笑顔はとても可愛らしかった。


    もうひと押ししなくてはならないのだろうか、私は一か八かの賭けに出た。
    「私は貴方のことが好きなの」彼は驚いた顔をしている。私は沈黙が怖くなり言葉を続けた「貴方はどうなの?」ひどく長い沈黙のように思えた。「好きだ」といわれて涙が出そうになった。

    この日は手を握り合って眠った。
    2016年1月29日
    2020年9月改定
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    2020/09/25 11:13:47

    第四話「ゆきやどり(小説版)」時代小説

    #オリジナル #創作 #小説 #創作小説 #ととりわ

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