お巡りさん新人達に会う1
注意
このお話は影屋敷原作沿い長編夢小説です
新人達が入る前のお話を今やってますがのちに原作沿いとなります。
原作に登場する言葉やネタバレが存在してますのでアニメをこれから見る方、そして、本誌を読んでる方、単行本派の方は注意が必要です。
ネタバレが多く含んでることや、キャラ崩壊捏造が多いかもしれません苦手な方注意です。
びーの方ではなく愛されメインの友情、兄弟愛メイン。ちょっとした恋愛要素が含まれてるかもしれません。
今回はラッキースケベが少々含まれます。星つきたちが被害にあってますので彼らが好きな方は注意をお願いします。
なお、クレームは受け付けてません。
誤字脱字当の報告は受け付けてます。
予告なしに修正がございます。
愛だけで書いてます。
新人編に入ります!!
エミリコ達やケイト様達とやっと関わります。その後に原作材になります。
ネタバレ、キャラ崩壊注意です!
キャラがはっきりしてない医療班やマギーを捏造に書いてる部分があります。キャラ像がはっきりしたら書き直します
今回のお話はめっちゃ長いです
夢主
暁やしお
26歳のお巡りさん。
子供と甘いものが大好き。割と子供に好かれやすい。ホールケーキを1人で平らげることができる。コーヒーには砂糖とミルクをたくさん入れないとダメ。将来の糖尿病予備軍。
結構わがままなところがあり星つき達から大人の姿をした子供だと思われている。
今回エドワード達から大役を任されることになる。
暁やしおの崖の上に聳え立つ来客のない大きな屋敷シャドー家での生活は目まぐるしく過ぎていく。顔のない一族のシャドーも顔として作られた人に最も近い存在である生き人形のことも完全に慣れてしまった。常に顔のない存在がそばにいるのでそれが当たり前になってしまった。
人は慣れてしまうと怖いものである。
彼の紹介なんて遠い過去の彼方。
今じゃ子供達の塔を自由に行き来してる。
いけない場所といえば星つきの管轄の場所と大人達の塔くらいだ。
「あ、アカツキ様だ!」
「やしおー!!」
懐いてくれるシャドーや生き人形もいれば、未だにやしおを見るとまるで鬼と出会ったかのように逃げ出すもの達もいれば、敵意を剥き出しに絡んできたり、ゴマスリしたり、蹴落とそうとするものもいる。十人十色。それでも構わずやしおは好いてくれるものだけを優遇せずにみんな平等に接していた。
悪いことしたら叱るし、良いことをしたら褒める。
たとえ自分が嫌われてもシャドー達が生き人形が良き大人になってくれることを信じて
「お前達軽いなぁ」
とある昼下がりシャドー家の花が咲き乱れる庭園で少年シャドー達と戯れていた。
少年シャドーは2人、やしおの血管が浮き出てる逞しい二の腕にぶら下がってはしゃいでいた。
「アカツキ様!あれやってくださいよ!」
「はやくはやく!!」
最近自分のトレーニングも兼ねてこうやってシャドー達や生き人形達と遊ぶことが多くなっていた。
「しっかり捕まっていろよ、えーー、まもなく。突風メリーゴーランド発射いたします。当アトラクションは凄い勢いでぐるぐる回るため振り落とされないようにご注意ください、発信!!」
コマのような速さでぐるぐると回る。
すると少年シャドー2人から楽しげな悲鳴が響く。
やれもっと、もっとと黄色い歓声が響く。まわり
で順番待ちをしていた他のシャドー達も早くやって欲しいと騒ぐ。
みんなの中の一種の娯楽になりかけていた。
体的に疲れるが、筋肉はつくし太らないしやしおにとってはWin-Winだ。シャドー達も楽しい時間を過ごすし、言わばお互いにwinwinだ。
しこたま回って突風メリーゴーランドことやしお号は停車する。目が回っても楽しそうな主人をその顔をしながら生き人形達は回収する。
目が回ったので少し休憩してると、それを許さないとばかりに我も我もとシャドー達が集まってくる。
「えーー、ちょっと休憩を許してくれよー」
「だめ!!」
座り込んだやしおにシャドー達はキャーキャーと戯れつく。生き人形達も主人の顔をして楽しそうにしながらくっついてくる。
(こいつらみんな可愛いのになぁ…)
素直に心底からそう思った。
そんな彼らが抱える掟にはやしおはまだ慣れないでいる。
服なんて汚れたら洗えばいいじゃん、顔だって傷ついたらすぐに治るし、それに痕もゆっくりだが消えてくれるのに。
そんな掟を作ったのはここの主人である「偉大なるお爺さま」だろう。
顔も見たことない自分の主人、言わば社長に向かって恨みつらみが耐えなかった。
そして、子供達をネグレクトする大人達のことも。
やしおがここに来て数ヶ月、何人かのシャドーと生き人形がお呼ばれされたようだ。要するに大人になったようだ。
子供達の塔に就任されてすぐのことだったのであまり関わることはなかったが名誉あることらしい。
それをお呼ばれと呼ぶと大掃除を初めて手伝った日に誰かから聞いたような気がした。
そして星つきたちも子供達の塔の管理者のトマスに報告があるときは大人達の塔に行くらしい。
用があれば子供を呼びつけるくせにあとのことは子供任せ、トマスやエドワード達にもやしおは苛立ちを募らせていた。
(胸毛ホスト元気かな…あ、エドワードには悪いことしたなぁあの派手派手スーツ泥でダメになって着れなくなったんだよなぁ…)
胸毛ホストことトマスの顔をうる覚えで思い出したり、いちおう命の恩人であるエドワードの顔を思い出す。エドワードに対しては申し訳ない気持ちでいっぱいである。いらんお節介でもスーツを用意してくれたのだ。しかも上等なもので赤いペイズリー柄で派手だったがまあまあか心地よかった。とある一件でダメになってしまったのだけれど。
(でもネグレクトだな。保護責任者遺棄罪だぞ)
次会った時のために手錠を持っていくことにしようとやしおは思う。逮捕する気満々である。
やしおはここに配属されてから大人達から何も音沙汰がなし。だったら好きにやってやろうとシャドーや生き人形と関わってる。
いちおうバーバラたちから渡された約束事があるのに完全無視である。そのことについては会うたびにバービーやベンジャミン・ベンにキツく言われてる。それでも聞く耳を持たないので最近は匙を投げられかけている。
口を聞かないとか避けられてるとかは全然なく、普通に話したりするので全く苦ではない。
休み終わったやしおがまたシャドー達を回していた時に、血相を変えたベンジャミンとその顔をしてるベンが走ってくる。
「どうしたー?お前らも回して欲しいのか?」
やしおの周りに集まっていた子供達はうさぎが猟師を見つけたかのように凄い剣幕で逃げ出す。
そんなに、あからさまに避けなくても…とやしおは思った。そして、星つきたちは子供達に嫌われてるのではと少し思った。いや前から思っていた。そんなことも意に返さずベンジャミンは慣れた様子だった。
「ここにいたか、すぐに戻れ!!
至急大人達の塔に来るようにという通達だ!」
「ほー、大人達の塔にね…あ?」
やしおは今までにない辞令に驚く。
一応大人なのに大人達の塔に呼ばれることも行くこともなかったので驚いた。
俺なんかしたかな、覚えがありすぎて数えきれない。そんなことはまずやしおはベンジャミンと一緒に星つきの居住区に戻った。
すると日中、いや普段は研究班のラボに篭りっぱなしのオリバーや。医療班の仕事をしていたスザンナもいた。
「またお前はそのダサい服を着ていたのか!!しかも顔まで汚れてるし!先に風呂だな!五秒で済ませろ!いや3秒だ!!」
某アニメの老婆みたいなことをいうベンジャミンにやしおは「無茶言うな!」とツッコミを入れた。
「文句言ってる場合ではないわ!早く!」
「おうわかった!」
「やしお!ちんたらするな!!」
「わかってるって!!」
「早く行け!」
「押すなってば!!」
3人いや、6人に思いっきり押されて転ぶ形でお風呂場に入りシャワーを浴びる。その間もめちゃくちゃ急かす声が響く。
「アカツキ様、まーだーー???」
「髪は顔の見えない人形にしっかりとセットしてもらえよ!!!」
「あ、普段もセットして貰った方が僕的にはいいと思ってる」
「オリバーにだけは絶対に言われたくない!!お前はまずお風呂に入れ!!」
ギャーギャー、扉越しで大騒ぎをする三つの声に
他の子供達の前ではツンと覚ました顔をして偉そうに威圧的な態度をとっていたのを思い出す。
変わり身が面白いので毎度やしおは集まりがある時は笑いを堪えるのに必死だった。そして密かに真似をしてたりする。
「うるせぇ!!!!」
扉を軽く叩き威嚇する。
シャワーを浴び終わると服がないことに気がつく。仕方ないから常備してあったタオルを股間に巻いてガチャリと扉を開ける。
すると、「きゃああああ!!」とスザンナとスージーが顔を真っ赤にして叫びだす。
そりゃ無理もない。
モラルは隠してるがほぼ全裸の状態だ。
その状態で出る彼も彼である。
「お前達が突っ込むからスーツ持ってくの忘れたの!」
「こら!!早く服着ろ!破廉恥だぞ!!」
オリバーがオリーに命じて隠した地味目のスーツをクローゼット中から取り出した。
「?!?!?!どうやってトレーニングしてる!!教えてくれ!今度一緒にトレーニングしよう!」
ベンジャミンは生き生きとした様子でやしおに迫り、まじまじとその体を見つめていた。
スザンナはチラチラと見ていた。
無駄な贅肉は一切なく、健康的な体をしていた。
シックスパックもある。ガチムチとまでいかないがムキムキボディで男らしいのは明白。
ベンジャミンもやしおと同じような体型をしたそうである。
「おお!?シックスパック!!!!!」
感嘆の声をあげてやしおの腹筋を見る。
「あああ、六つにわれてる!!!すごい!!」
「ベンジャミン!!!ベン!あとで好きなだけ見せてやるから服着ていいか?!寒いんだけど!!!」
かなりの問題発言をやしおはしたが、場を収めるために致し方ないこと。
先ほどからスザンナの興味と羞恥の視線が先ほどからやしおの体に注がれる。そりゃまだ男の裸体なんて見たことない年齢だ。彼氏がいれば別だが、その様子だと純情な乙女そのものの反応だった。自分が逮捕されそうな気分である。
「俺のヌード見たっていいことなんてないぞ!!」
「いや、いいもの見せてもらった!俺はお前のような体になりたい!!今度そのトレーニング方法を教えてくれ!警察官っていう仕事をすればなれるのか!?」
ベンジャミンは十分だろうにこれ以上やったらボブサップに波になること間違いなしだ。
やしおは少し遠い目をした。
ちなみにバーバラとバービーは色々準備のために席を外してる。そしてその準備が終わっていたのでイライラとやしおを待っていた。
「遅い…」
「くそ、腹が立つ…一度様子を見に行った方がいいですね。行きますよバービー」
「はい、バーバラ様」
バーバラとバービーが煮え繰り返りそうな腹を抑えながらやしおの部屋に向かう。みるとやしおの監視及び身だしなみを任されていた他の3人が外に押し出されていた。3人からは見事に煤が出てるので不満がタラタラだった。
「アカツキさまは?」
「部屋の中よ、お着替えするから出てけって言われちゃったわ」
「くそ…またあの人はわがままを」
バーバラもやしおのわがままには怒りがしんとうしている様子。ドアノブに手を伸ばす。
「あ、バーバラ!今は入らない方がいいよ!」と止めるオリバーを振り切りバーバラはノックもなしにやしおの部屋の扉を開けた。
「これ以上の身勝手は許しません!!あなたの一つ一つの行動によって子供達の塔の風格が見られます!!今回ばかりはいうことをきいて…」
バーバラとバービーの目の前には半裸のやしおがいた。ワイシャツに袖を通そうとしていたようである。いつもは癖毛で少しクシャクシャな髪の毛もオールバックで綺麗に決めていた。
バービーの顔が少し赤くなる。
「ノックくらい」
「早く服をきなさい!!!!破廉恥です!!」
言葉は遮られて半ば逆ギレをしてバーバラが叫ぶとドアを乱暴に閉める。扉を突き抜けて煤が入ってきた。
「…理不尽」
悪いのはノックもしないで入ってきたバーバラなはず。完璧に自分はシロのはず
「まあいいか」
やしおは改めてどこの世界も厳しいのを痛感するのであった。
こうして半刻後にやっと準備が整う。
やしおは星つきたちからお使いに行く子供が母親にお約束ごとを取り付けられてるかのように色々言われていた。
「大人達の塔に赴き仕事を貰えることは名誉のことですよ、良かったですね!アカツキ様」
「おう」
「お行儀よくしてるのよ!」
「お、おう?」
「ムカついてもあの輪っかはかけないようにね!ほら、ダグラス達の時のように!」
「部屋に置いてきたから大丈夫だよ」
「失礼のないようにな」
こいつら俺をなんだと思ってるんだ、まさか子供だと思ってはあるまいな?と思ったが聞くことはなかった。またさっきのように言い合いになることは明白だった。生き人形達は主人の顔に成り切り心配げな顔をする。
「大丈夫だよ、一応これでも7年間は社会というものの荒波に飲まれてきたんだ。怖くて偉い人ともそれなりに関わってきたからうまくやるよ。お前達の心配してるようなことはしねぇから」
そして、またらたくさんのフラグを立てまくる。
バーバラ達の心配は消えないのか煤がモワモワと頭から出ていた。やしおはまるっきり信用されてないようだ。
「それではお気をつけて、おかえりをお待ちしてます」
バーバラ達はやしおを大人達の塔へ続く廊下。栄光の廊下の中間地点まで送り届けてくれる。
中間地点では顔の見えない人形が待っていてくれていた。やしおは星つき達が見えなくなるまで手を振る。
「大人達のどういった用件でやしおを呼んだんだろう?今まで何も音沙汰もなかったのに…というかまた無関心に戻ったと思ったのに」
「詮索するのはよせ」
やしおの姿が見えなくなった後にオリバーは疑問を呟く。それをベンジャミンは咎めた。
「だって、[[rb:私> スザンナ]]たちは何も聞かされてないのよ?ただ、やしお・暁を呼べって通達が来ただけじゃない?もしかして、………処分されるとか」
スザンナが躊躇なくいった言葉で冷たい何かが走る。スザンナ自身もドキドキしてるようで煤が出ているをその子のスージーも浮かない顔をしていた。するとバーバラがゆっくりと口を開く
「処分されてもおかしくないでしょう…彼は謎が多すぎます。大人だから、詮索しないでいたけれどスマホぉの件だってそうです、大人達はやしお・あかつきのことを警戒してるのかもしれません。やしお・あかつきが配属になったのもきっと何か理由があります。統率をする星つきが偉大なるおじいさまに試されてるとバーバラは思うのです」
やしおが子供達の塔に配属になった理由は確かに謎だらけ、そして彼自身もバーバラにとっては謎だらけ、増しては彼女達が生きている時代よりも遠い、遠い世界からきた未来人だなんて誰も想像はしない。
「私たちも彼が怪しい動きをしないか監視しましょう」
「変な行動をしたらすぐに突き出すぞ」
「そうね、疑うべきものは芽から摘まなきゃね」
「あいつが処分されたらすまほぉの全貌がわかるー!!」
シリアスの雰囲気の3人を尻目にオリバーだけは呑気に喜んでいた。その様子を見て3人は呆れた表情をし、鈴を出した。
やしおが大人達の塔によばれた本当の理由は処分なんかではない。
「よく来てくれた、アカツキ殿」
「エドワード、久しぶりだな」
処分されるには豪華すぎる部屋に通されたやしお。ここは一番最初に来たエドワードの部屋なわけだ。
(管理者のトマスは?)
てっきり子供達の塔の管理者でやしおの上司でもあるトマスが自分を呼んだのかと思ったので首を捻る。大人達の塔に伺った見れば待っていたのはエドワード。相変わらず金色のアイビーみたいな植物の柄が描かれているスーツを身に纏っていて派手である。やしおは赤いペイズリー柄のスーツを駄目にしてしまったことを思い出し、今更申し訳なくなった。
「随分と地味な格好だな」
外国人特有のオブラートに包まない発言がやしおに突き刺さる。やしおの服装はグレーのスーツだ。
「あー、あの派手じゃなくって高級そうなスーツは洗濯中なんだ」
ここは嘘も方便、星つき達の口癖の大人は子供に興味がないが役に立つ。どうせエドワードは子供達の塔に来ないからバレるはずはない。
「まぁ、この前の格好より様になってるからいいのでは?」
警官服のことをエドワードが苦々しげに呟く。
そんなに、ダサいかな。確かに貴族達が好むような色はしてないがあの制服はやしおの生きた時代、そして世界、故郷では正義の象徴なのに。
やしおにとってはヒーローの服そのものなのにエドワードの発言に少しムッとした。
「ネグレクトしてるぞ、憲法…」と一言反論してやろうと口を開いた際には
「お茶でも召し上がれ」と話は変えられてしまった。
やしおの好みを聞いていたのか大人達の塔で出されているコーヒーにはミルクと砂糖がたんまり入った色をしていた。そしていちごショートケーキも横にある。ありがたく頂戴することにした。
悪人面と評される風貌の割には上品にコーヒーとケーキを食す。
ちなみにやしおの世界には貴族なんて地位はない。みんな一般市民。家庭内でテーブルマナーは習うか習わないかだろう。
やしおの両親は厳しい方であった。
洋風和風のマナーを幼少期に叩きつけられたのだ。どこに行ってもやっていけるようにということらしい。
そのおかげで、やしおはこの時代に舞い降りても困ることはなかった。
「何のようだ、今まで音沙汰なかったくせに」
上品にケーキを食べながら優雅にコーヒーを飲むエドワードに問う。
「君の活躍は聞いてるよ。星つき達が言うには君は人気者らしいね。シャドーからも生き人形からも子供達に好かれやすいようだ」
え?ダグラス達に手錠をかけて懲らしめたのにか?驚きを隠せない、少し目を見開く。ちなみにこの事は星つき達の耳にも入っていたのだがお咎めはなしだった。
この事はエドワードには話さないことに決めて、
「まぁ、子供が好きだし…」
当たり障りのない返事をした
「それで、ただ褒めるために呼んだのか?」と付け加える。
「そんな子供好きな君に私の手伝いをしてほしくってね。私は大役を任されてね、本来なら子供達の塔の管理者がする仕事なのだが…今回は私が任されたんだ」
「ほーーー凄いじゃん。何任されたんだよ?」
どさくさに紛れてぺろりと平らげたケーキのおかわりをしながらやしおは聞く。
「お披露目の試験官だ」
「お披露目…」
お披露目というのは生まれたばかりのシャドーと生き人形が大人になるために試験を受ける大切な儀式。落ちたらどうなるか分からない未知の領域。胸の中に木々でもあるのかざわざわとざわつく。まるで突風が吹いたようにだ。
「………お披露目の何を手伝って欲しいんだ?」
間をおいて質問をする。
「今回の新人達と直接会い、吟味してほしい。
お披露目前だから屋敷の外に出るのは禁止されてる、まだ部屋の中にいる」
エドワードは新人達の情報が書かれた資料をテーブルの上にバッと広げた。
資料を見ると5人の見目麗しい少年少女とシャドーの写真。みんな、まだ初々しい感じだった。
「ほーーん、可愛い子ばっかじゃん。この子達のどこを吟味すればいい??」
「良いところ悪いところ長所、短所、欠点あとは、出来損ないかを確認してきてほしいそれをまとめてくれ。期限はお披露目の前日だな」
「わかった」
それくらいのことならとやしおは快く引き受ける。出来損ないという言葉が気になったが仕事はなら引き受ける他ない。そうしないと話が進まない。根っからの日本人気質のやしおであった。基本的イエスマンなのだ。ただ、人道的に反してると考えたら容赦なく手錠をかけることだろう。
(大人達は子供達の塔に行けないだけであってちゃんと気にかけてるってことか。グレーゾーンだな)
手錠をかける目的で来ていたやしおは少し思いとどまった。
「ところでアカツキくん」
「ん?」
「君はいくつケーキを食べるつもりだね」
「すまん、お前も食べたかったか?」
「いや」
いつのまにか大きなショートケーキのホールケーキは無くなっていた。かなり大きかった。1人では食べきれないはず。でも、エドワードが気がついた時にはもう既になかった。エドワードはドン引きした様子でやしおを見る。
やしおは悪びれた様子はない。
「とりあえず新人達と関わって仲良くなって色々まとめればいいんだな!!ご馳走様でした!!」
とてつもない満面の笑みを浮かべてエドワードにお礼を言うと資料を持って席を立つ。
「アカツキ!!別に仲良くなる事は…」
エドワードが言う前にバタンと扉は閉まった。
「………話を聞け!」
もう既にいない彼に向かって言う。顔の青筋がピキッと音を立てた。
*********
大人達の塔から子供達の塔に無事に舞い戻ったやしお。「ただいま」と声をかければバーバラ、ベンジャミン、スザンナはホッとした様子で、オリバーだけはがっかりしていた。
「すまほぉ、欲しかったな…」とぶつぶつ言いながら煤を出す。やしおの中ではオリバーはサイコパスなのではないかと密かに思っていた。
「残念だったな!!オリバーよ。俺のアラでも探して大人達に報告する事だな!!」
「うん、そうする!!」
「このやろー!!!」
「ぎゃー!!!」
否定もせずに肯定し増してはキラキラした笑顔で即答されたのでやしおはオリバーとオリーを締め上げる。彼から出る煤を避けながら締め上げた。
オリバーを締め上げながらバーバラたちに報告する。
「新人達の情報をまとめろとのことだった!直接会うのも可らしい」
「新人達に?」
「5人入っただろ?5人の全員分のだ。期限はお披露目前日までらしい」
今までにない異例のことなので星つき達の戸惑いが目に見えた。お披露目前の新人たちの情報は全て星つき達が纏めていたはず。それを来たばかりでしかもここのことを何もわかってないやしおに任せるなんて新人に仕事を取られたようなものだ。バーバラの体から煤が出始める。
「ふざけやがって…」とポツリとベンジャミンがつぶやく。
「あ、どうすればいいのか分からないな。途中途中でお前らに見てもらうことにするわ頼めるか?」
バーバラ達から出始めていた煤がスっと消えた。
腕の中にいたオリバーでさえの顔をあげて見ていた。
大人だからといって子供のバーバラたちを蔑ろにしたりせずに分からない事は子供にでも教えてもらう。やしおはこんな性格の男だった。
「子供達のことを一番よく理解してるのはお前達だろ?頼りにしてるよ」
その目には欲とかはなく、純粋さを物語っていた。
悪人面の見かけによらず心は善良そのもの。
困ったところもあるけどあの大人達の塔の知っている大人と比べたら優しすぎる分類に入る。
「それなら[[rb:私> バーバラ]]から提案があります。1日だと相手のことはわかりません。三日間ずつ一人一人と関わるのはどうでしょう」
「日数は少し少ないけど名案だな」
お披露目まで早々と時間はない。それなら短い三日間でも時間をたくさん使えば少しであるけど相手のことをみえてきてまとめられるだろう。
「今回は相当大きくやるらしいよ。内容は機密事項だから言えないけど」
全貌は見えてこないけど星つきたちも一役を買っているようだった。研究班のオリバーも手を貸してるってことは仕掛けとかもあるのか?しかし何も見えてこない。やしおはまだ見ぬ新人たちの身を案じる。
「とりあえず明日から新人達と接触してみるよ」
その不安を振り切りやしおは誰のもとに行くか5枚の資料を見ながら悩むのであった。
「何だ、浮かない顔をしてお前らしくもない」
「エドワードに…じゃなくって…お披露目担当に出来損ないを見つけてこいって言われたんだ」
「何だ、そんなことか簡単だよ関わっていけば分かるよ」
「あぁ、そうだすぐに分かるさ」
その口調はまるで雑草を抜くような簡単なものだった。今まで反論をしてきたが頭の中が真っ白になって何も言えなくなる。やしおはらしくなく黙ってしまった。
お披露目は一体何のためにやるのだろう。
本当に、成人の儀式なのだろうか。
一抹の不安が開花するきっかけにすぎない。
やしおは今日回ろうと思っていたが日を改めて次の日にする。五体の生き人形とシャドー達。
どんな思いをして生活をしてるのだろうか。
そして次の日、いつもの制服を身につけて
やしおは子供たちの塔の一般の居住区に来て地図を見ていた。バービーに書いてもらったものだ
「ちゃんと仕事しろよ」と釘を刺されながら。
ちなみに新人たちに自前に手紙を送ってもらったのでやしおがきても驚かないだろう。
ポケットの中には新人たちと一緒に遊べるかもしれないのでスマホが入っている。
「地図から近いのはジョンか」
一番近いジョンの部屋にたどり着いたやしおはこんこんとノックをする。
すると秒で中からドタドタと大きな音が響き渡る。慌ててる声も聞こえた。
「来たかっ!大人!!」
「ジョン様お待ちください!!」
ばーーんっと勢いよくドアが開けられる。勢いがあったのでやしおはぶつからないように避けた。
出てきたシャドーと生き人形を見る。
生き人形の方は黒髪のショートカットで如何にも頭が良さそうな顔をした少年。
その前に出てきてるのは同じように黒髪ショートカットで青い上等そうな服を着たシャドーだ。
この者たちがジョンとショーンだ。
ジョンは警戒してるのかそれとも緊張してるのか煤が出ており、ショーンは陶器で出来てるような無表情だが汗が落ちていた。
「こんにちわ、初めまして。君たちがジョン・シャドー様と生き人形のショーンだね、俺はやしお・あかつき。大人でここのお守り役だよ。よろしくな」
やしおは緊張を解してやろうと優しい声で話しかけた。すると警戒心と緊張が解れたのか煤が消えて「よろしくな!!やしお!!」と明るい声で言ってくれた。いきなり呼び捨てだがよしとして、やしおもうまく緊張を取ることができてホッとする。
「中に入ってお茶でも如何かな?」
「あぁ、ありがたく頂戴するよ」
ちなみに星つきたちはお菓子は絶対に出さないでくださいと手紙の中に書いていた。
そのことはやしおは知らない。
ジョンの部屋に入る。星つき居住区とは違い少し手狭だったが生き人形とシャドーが1人と一体なら十分な広さと言えよう。やしおはショーンが用意してくれた椅子にゆっくりと座る。テーブルには入れ立ての紅茶が用意しれていた。
「ありがとう」と声をかけるとショーンはニコリともせずにコクリとうなづいた。
ジョンはお喋りだけどショーンは無口なのか。
「やしおって大人の生き人形だろ?怖い顔しているな![[rb:俺>ジョン]]は驚いたぞ」
「ハハッ、よく言われるよ」
生き人形と言われたことについては否定はしたいが話を合わせた方がいいと考えてそうすることにした。
「やしおの主人はどこにいるんだ?」
「大人たちの塔にいるよ、別々に仕事をしてるんだ」
「そうか…大人って大変だな」
「そうだなぁ、俺はジョンたちのような子供に戻りたいよ」
「変なやつ」
嘘に嘘を重ねるこの場合は致し方ないのだ。
本当は自分に主人なんていないし、生き人形でもない普通の人である。そして今までに一度も疑問に思わなかった。エドワードやトマスの主人はどこで何をしている?自分と同じ大人への疑問だ。
「やしおの被ってる帽子かっこいいな!」
「帽子?ありがとう、え?」
ジョンの返答にやしおはびっくりする。ここに来てからというもの正義の証をクソダサ帽子だの金ピカ帽子だの、カッコ悪い、ダサいと言われ続けていた。
それなのに今、ジョンは…。
「ジョン、今なんて言った?」
「え?その帽子カッコいい!どこで手に入れた?ジョンも欲しいな!!」
好感度上昇爆上がり、やしおは勢いよくジョンを抱きしめた。ジョンは大絶叫してる。
「ジョンっ!!!お前ってやつは!!!!!いい子だな本当に!!」
「ぎゃーーーーーーーー!!!!!!」
やしおは構わずにジョンをぎゅーーー!!と抱きしめる。その声は若干涙声だった。煤を大量に出しジョンはジタバタ暴れていたが力が強すぎて諦めた。悲鳴を聞きつけて戻ってきたショーンは陶器の様な固い顔に驚きの色を浮かべていた。
「やめろ!!!!」と瞬時に主人の危険を察知しやしおにタックルを浴びせる。不意の攻撃だったので筋肉質の手がジョンをやっと離した。
「か、硬かった…すげー硬かった」
「ジョン様、大丈夫ですか?」
ショーンはジョンに怪我はないか服が破れてないか確認して異常はどこにもないことを確認するとやしおをぎりっと睨みつけた。
「すまん、嬉しくてつい…」とやしおはバツが悪そうに謝る。やっと自分にとっての誇りが褒められたので嬉しかったのだ。
「へ、変態だぁ……」
「ジョン様に近づかないでください、何しに来たんだよ!」
ジョンは少し怯んだのかショーンの後ろに隠れる。ショーンは守る様に前に立ち少し辛辣な口調でやしおに問う。
「悪かったって……」
いきなり新人の一組にも嫌われた。今回は自分の落ち度なので反省する。彼は一応警察官だというのに子供を抱きしめて怯えせるなんて懲戒免職もいいところである。というかピンクとしていじめられること間違いなしである。
やしおがゆっくりとジョンとショーンに近づいた時に胸ポケットから手帳が落ちる。ここに来て使わなかった手帳である。それをみたジョンがショーンの合間からそれを拾い上げる。
「あ!!」とやしおは凍りつく。落としたのは警官手帳。あまりここでは見せたくないものだった。
「何だこれ」
ショーンが嗜めていたがジョンは構いもなく人の私物をぱらりと開く。手帳の中にはやしおがキリッとした表情をして敬礼をしていた
「○○市警視庁
暁やしお巡査」
外国人の方も読める様にローマ字でも書かれていた。「なんて書いてあるんだ?」とジョンは首を傾げていた。
「○○けいしちょう、あかつきやしお、じゅんさ…」とショーンが代わりに読み上げる。そして、やしおの方を向いた
ちなみに警察手帳は大人達に見せたきりで星つき達にもマリーローズ達にもローズマリーたちにも見せてないのだ。
やばい見られた、入れっぱなしにしていたのを忘れていた。
なんとか誤魔化せないものかと頭を悩ませる。
「やしお…」
ジョンがフルフルと体を震わせている。煤は出てないが顔が真っ黒で表情をしてないのでわからない。あ、ショーンを見ればいい。やしおはショーンを見るにちゃんと顔をしていた。
おお、この子は優秀かもな
「じゅーさってどう言う仕事なんだ?」
「巡査な、お巡りさんのことだよ。警察官。弱気を助け、悪しきを挫く正義の味方、救いのヒーローだ」
ジョンの表情は分からないが集中して聞いてる様だ。感情は分からないのに憧憬の眼差しで見られてる様な気がした。何となくだが。
「おおお!!!すごいな!!お巡りさん!大人になればそんなかっこいい仕事につけるのか!!すごいな!!しごとをしてるやしおもスーパーヒーローな生き人形ってことだな」
「まぁ」
そういうことにしておこう、色々訂正がめんどくさいし訂正したとしても混乱を招くだけ。やしおは深く目をつぶる。
「すごいな!かっこいいな!!抱きついてきた時は変態だと思ったのに!!」
「たしかに」
どストレートな物言いにグサリと胸に刺さるが否定はできないのでまた目をつぶる。ジョンに抱きついた自分はどうかと思う。
「やしおはヒーローだったのか!かっこいいな!」
「かっこいいのか分からないけどそれはどうも」
「ヒーローになるとその帽子を被れるのか」
「そうだな、ヒーローの特権だ」
誇らしげに指で頭に被っていた帽子を撫でた。
「ジョン、ショーン、被ってみるか?」
「いえ……」
「被ってみたい!!!」
遠慮するショーンを横にジョンは乗り気だった。やしおはゆっくり帽子を外すとジョンの頭に被せた。
「おぉ、意外と似合うな」
少し不恰好だが何年かすればきっと頭にフィットするに違いない。ジョンはぶかぶかな警官帽子を被りながら鏡の前に立つ。
「んー、なんかカッコ悪いな。お世辞を言ったんじゃないだろうな」
文句をこぼし煤が出る。もくもくとこんもりと出るのでどうやら彼は多めの様だった。
「お世辞なんかじゃないさ、大きくなればきっともっと似合うよ」
少し苦笑いを浮かべて煤を多めに出すジョンの頭を警官帽子越しで撫でる。
「大きくなれば…よし!必ずお披露目に合格するぞ!!な!!ショーン」
「はい!!」
拳を作り両手を広げてジョンはやしおに決意表明する。ショーンも拳を握っていた。
「んで、やしおみたいなヒーローになる!そしてもう一つの夢も叶えるぞ!」
もう一つの夢とは何だろうか、やしおはあえて聞くことはなかった。このくらい?の男の子には聞かれて恥ずかしいことは一つや二つある。
その生き人形であるショーンもよくわかってない様子で密かに首を傾げていた。
しかも、ショーンは主人のテンションについていけないのに頑張って顔を作っていた。それをみかねたやしおは「俺の前で顔は作らなくていいよ。ショーンとも話してみたい」といった。
するとショーンは難しい顔をしてやしおを見る。
ジョンとは違って警戒心が強いらしい。
ジョンとショーン、この組シャドーと生き人形の性格の違いがよく分かるとやしおは評価した。これは2人が出来損ないと評価されやすいと思うので書かないことにする。
チリンチリンと夕食を告げるベルが鳴る。
もうそんな時間か、窓の外を見ると夕日はすでに傾いて綺麗なオレンジ色に染まっていた。
「今日のところはお暇するよ」
やしおは席を立つ、するとジョンも立ち上がりやしおの腕を掴んだ。
「えーもう帰っちゃうのかよ!!もう会えないのか?」
少し寂しそうな雰囲気だった。新人のシャドーはお披露目に合格するまで外に出てはいけない決まりなのだ。話し相手とすれば生き人形のショーンしかいない。しかし、このショーンもかなり無口と見た
「まあ明日も来るよ」とやしおが優しい声でジョンに言えば出し始めていた煤がすっと止まる。
「そうか、待っているぞ!!!」
今にでも飛び跳ねそうな嬉しそうな声を出す。
ジョンの体はすでに飛び跳ねていた。
顔のショーンはというと気難しそうな警戒した顔をした。無理もない。
やしおが外に出るとショーンが送ってくれる様で部屋の外までくる。ジョンも後から遅れてくる。
「おい!ジョン様に何かしたら承知しないからな!この変態」
陶器のままの顔でショーンはやしおを指を刺す。
感情を表に出さないだけあって主人思いなのかもしれない。
「あぁ、わかってるよ」
やしおが髪を撫でようとするとショーンはその手を弾いた。
「また明日、おやすみ」
「やしお〜!!絶対に来いよ〜!!」
ジョンはぴょんぴょんとウサギのように飛び跳ねながらやしおに言う。本当に初対面と話してみての印象が違うやつだ。
「あぁ」
ショーンの静止を振り切り優しくジョンの頭を撫でるそして見送られて部屋を後にする。色々わかったのか微妙だが有意義な時間を過ごせたとやしおは思う。わかったのはジョンとショーンは性格がチグハグなことだ。
しかし、それは書かないことにしようとやしおは思う。
星つき居住区に戻る廊下を1人で歩く。
お披露目後のもの達はすでに部屋に戻ってるのかしぃーんと静まりかえっていた。
1人で歩くと不気味である、まるで放課後の校舎を歩いてる様な気分。
やしおは側と足を止める。
「誰かそこにいるのか?」と声をかける。
視線を感じた、殺意とかそう言うものではなくただ品定めをしてるかの様な感じのもの。
シャドー達だろうか?生き人形が主人なしで外に出るはずがない。
しばらく待ってみても返事がない、気のせいだと片付けて帰路に着こうと足を動かした。
星つきの居住区に帰るまで続く。
全て気の所為だと思い足早に歩く。
そう言えば今日はバーバラと食事の約束をしていた。
やしおは自分の部屋で食べる時もあれば呼ばれて一緒に食べる時もあった。
彼らなりのスキンシップを測ろうとしてくれてるのだろうと解釈する。
ただ一つ面倒なことはスーツに着替えなきゃならないこと。スザンナとオリバーはともかく、バーバラとベンジャミンはあまりいい顔をしないので一度自分の部屋に戻った。
そしてクローゼットを開けスーツを取り出す。
服を脱ぎスーツを着ようとした瞬間にカサリと紙切れのようなものが落ちた。
はて、紙類は一度もスーツには入れてない。普段は着ない様にしてるし。
「何だこれ」
手を伸ばして紙を拾い上げる。やしおは見た後に訝しげに顔を歪めた。
「ミライカラキタヒトヨ、オマエガナニモノナノカカンシサセテモラウ」と言う内容だった。
そこらの脅迫状よりはマシな文であるがやしおが未来から来たというのを知ってるのは一応大人達だけであって、今のやしおには心臓の悪い文面である。こう言うのを気にしないのはこの男で捨てようとするが星つきや顔の見えない人形に見られたら色々と面倒だとテストの点が悪かった時の定番の机の奥底に隠すことにした。
簡単な身支度を済ませるとバーバラの部屋に向かった。
沈黙が続く、バーバラとの食事は基本的に静かだった。あの3人の中で一番静かかもしれない。何度か星つきたちと交互に一緒に夕食をとってみてそう感じた。その次にベンジャミン。その次にスザンナ、そしてその次にオリバー。オリバーはかなりうるさい、何せ研究班のシャドーや生き人形達も混ざるので余計にうるさい。賑やかな方が好きなので気にしてなかったが。
沈黙が続く、バーバラとの食事は基本的に静かだった。あの3人の中で一番静かかもしれない。何度か星つきたちと交互に一緒に夕食をとってみてそう感じた。その次にベンジャミン。その次にスザンナ、そしてその次にオリバー。オリバーはかなりうるさい、何せ研究班のシャドーや生き人形達も混ざるので余計にうるさい。賑やかな方が好きなので気にしてなかったが。
(弟達も妹も喋る方だし…沈黙が辛い)
話題を振ってみようと考えたものの
何せバーバラは怒りっぽいし、その生き人形のバービーは手が出やすい。1人と一体は怒らせない方が無難である。
「アカツキ様、初仕事は如何でした?」
不意に聞こえた静かな声にやしおは思わず驚き持っていたフォークを落としてしまう。フォークは地面にカツーンと音を響かせた。洋食のマナーでは落としたものは自分で拾ってはいけない。
そばで待機していたバービーがすぐに拾い上げて新しいものと交換してくれた。「ありがとう」とやしおがお礼を言うもただ睨むのみ。
「まぁ、ぼちぼちってところかな。ちょっと警戒されたけど…」
やしおはジョンとショーン組のことについて話す。
「子供って感じで元気でやんちゃなやつだったよ
可愛いやつだ警官帽子を見てかっこいいって言ってくれた」
やしおが嬉しそうに報告すればバーバラは淡々とした口調で
「まぁ、生まれたての子供ですからね」
お前も子供だろうと無下なツッコミを入れたくなったがやしおは言うのをやめた。
そしてバーバラは続ける。
「これから屋敷で色んなことを学んで大人への道を歩むことでしょう。能力がなければ脱落しますがね」
「能力がなければか…ここで大人になることってそんなに大変なのか?」
「煤量、顔との相性、日頃の生活態度の基準を満たすと大人になれます」
「というと…」
「並大抵のことではないということです」
色々聞きたいことはある。しかし聞きたいことが多すぎて頭がパンクしそうになる。
(シャドー家は競争率の高い会社って例えればいいよな)
業績が悪いものから切り捨てられるここもそういうところなのだろう。それは子供達のうちから経験させてる。
(後で少子高齢化で悩んでもしらねぇからな)
まだ見ぬシャドー家の当主の(偉大なるお爺さま)に悪態をついた。
「ジョンとショーンペアの次はどこに行くのですか?」
バーバラの質問に
「シャーリーとラムペアかな」とやしおは答えた。理由は何となくだ、男の子の次は女の子を行った方がいいと思った様だ。
「そうですか、精進致しなさい。シャドーハウスのために、偉大なるおじいさまのために」
「…あぁ…」
やしおは歯切れの悪い返事をする。
そして、考え込む。俺ってこいつらの部下なのか?上司なのか?一応生き人形と同じ姿だし?部下?今まで悩んでこなかったことである。
やしおと星つきの関係は非常にめんどくさいものがありお互い手探りで行っていた。
「お疲れの様ですね」
口数が少なくなったやしおを見てバーバラは気にかける言葉をかけた。
「あぁ、ちょっとだけな。多分すぐに慣れるよありがとうなバーバラやバービー達は毎日個性豊かすぎるシャドー達や生き人形たちを纏めて子供達の塔のことを考えて尽力してる、すごいことだと思うぞ。子供なのに俺がよく知っている子供達はこんなことできない」
ふとした時にやしおは元の世界の子供達のことを言ってしまう。バーバラ達はその子供達よりも大人びていてしっかりとしていた。時代柄なのだろう。
「ただ、無理だけはしないでほしい。辛くなったら頼ってくれよ、そのために派遣された大人だって俺は思ってるよ」
このことは他の3人にも伝えてる。すると決まってみんな何も言わない。不快感や怒りを見せるわけでもなく何言ってんだこいつと言ったような唖然とした顔をする。
大人達の塔が子供達の塔のことを今までネグレクトした結果だとやしおは思っていた。
「とにかく俺は管理者のトマスともエドワードとも違う、何かあったら必ずお前たちを全員助けるよ」
「…はい」
間を開けてバーバラが返事をする。渋々と言った感じだったがやしおは気にしなかった。
バービーは睨むこともせずにじっとやしおを見つめた。顔をしてるのだろうか?
こうして少し気まずかったバーバラとの夕食が終わった。
部屋に戻ったやしおは未来にいた癖でお風呂に入ってしまう。普通のお湯ではなくって泡風呂という名のジャグチーなのだが。
一息つくと明後日に行く組のことを考えた。
写真?それとも自画像?
黒髪でベリーショートに近い髪の毛の生き人形と
そのシャドー。
自画像からでもわかる、何らかの意思を感じる。
警察官柄なんとなくそういうのなわかるようになっていた。人がいっぱい映る写真見て一発で指名手配班を見破った刑事もいるほどなのだから。
「会ってみないことには分からないよな…」
やしおがつぶやき湯船から上がった時に顔の見えない人形がノックをして入ってくる。やしおは驚きの声をあげる。きゃーー!!!の○たさんのエッチみたいな感じである。
「まだ隠してないから!入ってこないでくれ!!」
顔の見えない人形はあらでもない姿を見たとしても何も言わない。挨拶をしてもしない、ただ黙々と仕事をする。寝巻きのバスローブを置いて行ってくれた。
「あ、ありがとう」
何を言っても答えてくれないことは分かってる。でも、お礼を言わないと気が済まない。
何も言わずに顔の見えない生き人形は静かな動きでいなくなる。
「寝よう…」
気の抜けた声でやしおは全裸という間抜けな姿で言った。
次の日、やしおはジョンの部屋に訪れた。今日で最終日である。
「他の奴らの訪問が終わったらまたすぐに遊びに来てくれよ!」
やしおを正義のヒーローだと思ってるようで抱きつく事件があったというのにそれを忘れて懐いてくれるジョン。ショーンはずっと警戒したままだった。
「絶対だ!絶対に!!」
「分かった、分かった、服を引っ張らないでくれ!伸びてしまう」
すごい勢いで引っ張られて着ている制服は伸びること伸びることこのままでは制服がダメになってしまう。とやしおは思う。
そしてジョンの服も自身が出した煤で汚れていた。
「ジョン様、お洋服が」
掃除していたショーンが見かねて言えばジョンはハッとする。
「わあああ、交換してくる!!やしお!まだ帰らないでくれよ!ここにいてくれよ!」
やしおの目の前でぽぽーんと服を脱ぎ散らかす。
「あぁ、こら、こら!」
ジョンは、纏わない姿になった
そして何度もここにいてねと釘を刺す。
そして小さい子供が母親を確認するかのようにチラチラとバスルームからやしおを覗く。
ショーンは呆れた果てたような戸惑いの顔を見せる。
「居るから、早く着替えておいで」
そしてやっとジョンは扉を閉めて着替え始める。
ショーンはジョンが脱ぎ散らかした服を集め始める。
「なぁ、ショーン。お前はジョンとはどうだ?」
ショーンは聞かれてぴたりと動きを止める。
静かにやしおを見る
「ぼちぼちだ」
ニコリともしない愛想なく冷たく吐き捨てるように言われてしまった。あの一件からやしおへのショーンの評価は最悪だ。
「そうか…俺にはジョンの動向に戸惑ってるように見えたけどなぁ…」
確信に責めることを言えば陶器のような顔に汗が滴り落ちる。パッと顔を上げたその顔は彼らしくない不安そうな顔をしていた。
「前まではあんな行動取らなかったんだ、もっとクールで、最近になってから、俺とも距離を縮めようとしてくるし、生き人形とお影様は違うのに」
ショーンは思わずやしおに言ってしまう。
何故だがわからないが目の前にいるよく知らない大人の男は信用できると思ってしまった。
(生き人形たちはシャドーのことをお影様って呼んでるのか…)
すっと伸びてきた太くて逞しい手にショーンはいけないことを言ってしまったと思ったのかビクッと体を動かす。
「何かきっかけがあればジョンのこと分かるようになるよ。今は出会ったばかりでお互い歩みを進めてる途中だから戸惑うのも無理ないと思うから大丈夫。みんな最初はできないんだから…そうだなぁ、お前の場合誰かとの出会いで変わるかもな」
まだ見ぬ金髪の可愛らしい少女を何故か頭に思い浮かべるやしお。
ショーンはダンマリと聞いていたが陶器の顔でも、冴えない顔でもなく、何かが落ちた清々しい顔をしていた。
ジョンも顔があればさやかなな感じなのだろうか?と思う。
「くよくよしない!お前はまだ始まったばかりだ!ほら、掃除の続き」
ジョンの部屋はまだ煤汚れが残っていた。これだけ残るということは煤量が多いのだろう。
(そういえば新人たちの煤量も見ろって言われたんだよなぁ)
ちゃんと仕事をする自分偉いと思う。
ショーンはテキパキ掃除をしながらやしおに聞いてきた
「あの…怒らないのか?」
「なんで?」
「お影様…自分の主人のことを相談したから…」
「怒る理由ないだろ!!溜め込むより誰かに相談したほうがいい」
「…生き人形は余計なことは考えないんだ、シャドー家の道具なんだから」
つきものが落ちた清々しい顔から陶器のような顔に戻ってしまったショーン。でも、昨日よりは着実に距離が縮まったような気がする。
ショーンはジョンが脱ぎ散らかした服を持ってどこかに行こうとしていた。
「顔の見えない人形が来てくれるはずだ」
「え?普通に洗濯物入れ中に入れるんだぞ?」
「へ?」
ショーンと一緒に洗濯物入れがあるところに迎えば
「ここに入れれば洗濯してくれて時間が経てば戻ってくるんです」
ショーンはジョンの汚れた服をその洗濯物入れとやらに突っ込む。するとそれらは闇の中に消えていってしまう。
言葉が出なくなってしまう。自分の洗濯物は全て顔の見えない人形が回収してくれていた。
でもここには顔の見えない人形はいない。いるのだとしたら顔兼執事のショーンのみ。
(俺ってもしかして監視されてる???)
自分は生き人形でもシャドーでもないから顔が見えない人形がつけられてるだけだと思いたかった。
「あーー!!やしお、いたー!!。俺抜きで何やったたんだよ!」
着替えがちょうど終わったのかジョンが慌ただしくやしおに駆け寄り腕に抱きついてくる。少し拗ねてるようで、煤が出ていた。
「申し訳ございません、ジョン様。俺の仕事をアカツキ様にお教えしてたんです」
「そういうことだ、ジョン。話の続きをしよう」
腕に抱きついたままのジョンを連れて退出する。その間にショーンがお風呂場の掃除をするようだ。監視されていたことはともかく今は責務に真っ当しよう。監視されるのは仕方のないことだとやしおは思うことにする。
「なぁ、やしお。今からいけない話をしていいか?」
「お、おう?」
はて、いけないことは何だろうか?
やしおは首を傾げる。
「怒らないで聞いてくれるか?」
「いじめをしたり、他のシャドーの嫌がることをしない限り俺は怒らないよ」
そう、前のように手錠をかけたりしないって事である。あの時は他の子達にも危険があったので
ダグラスたちに厳重注意をしたと言うわけだが。
基本的には多分温厚の方だ。
するとジョンはモジモジと身体をくねらせた。
「ひ、ひとめぼれしたんだ、誰にも言うなよ!
もちろんショーンにもだ!」
「一目惚れ?どこで?新人のシャドーって外にでちゃいけなかったんじゃなかったっけ?」
「窓の外を見ていたらさ、生き人形が窓から落ちてさいけない事だって分かってたけど気になって外に出たんだ。そうしたら……」
「そうしたら?」
やしおは身を乗り出してジョンの話を聞く。
その目空色の目には輝きがあった。彼は甘いものの次に恋バナが好きらしい。少女漫画ももちろん大好き。自分より年下の子供たちの甘酸っぱい話も好き。ジョンの話をキュンキュンしながら聞いていた。
「赤い服が似合う可憐なシャドーだった、一輪の薔薇のような」
赤い服?そういえば…ジョンの同期の中にその服を着ていたシャドーがいたような気がする。
「お披露目の時に声かけてみればいいじゃん。かける機会があればいいけど。たださ、積極的に行きすぎないようにな。そうしたら相手は引いてしまうし距離が縮まらないかもしれない」
的確なのかわからないアドバイスをやしおなりにジョンにする。
「最初は紳士的にって事だな!」
「そうだ!俺が来た時にみたいに慌ただしく開けちゃダメだぞ、落ち着いたシャドーだと思われなきゃな」
ぎくっと肩を震わすジョンを見てやしおは乾いた声で笑った。
「とにかく頑張れ、その子がジョンのことを好きなってくれるといいな」
やしおはジョンの頭を優しく撫でた。
可愛い少年の甘酸っぱい思春期にやしおは心の底から愛らしく思うのであった。
恥ずかしそうにジョンはコクリとうなづく。羞恥でも煤が出るのか大量に出ていた。
こうして、ジョンとショーンの訪問は終わった。
週三で遊びにきてくれとジョンは言うので、しばらく来れないことを言えば大量の煤を出し先程のように寂しがられた。
他の新人たちと訪問が終わったら来るよと言えば
「約束だぞ」と言われたのでやしおは指切りげりげんまんをすることにした。
「ほおら、指切りげりげんまんだ!」
「ゆびき…って怖っ!!!」
「物理的に切るんじゃない!」
ジョンに突っ込みを入れると自分の小指を出してみる。するとジョンもおずおずとやしおの真似をする。
「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指切った」
やしおはとても優しいいい声で歌を歌う。
ゆびきりげんまんはやしおのいる時代の国の歌である。約束事をしたい時に歌うことが多い。最も小さい頃の話だが。
ショーンとジョンはその歌を聞くと笑い出す。
「面白い歌だな!約束破ったら歌の通りに本当に針千本だぞ!」
「多分、ただの口約束の歌じゃないかと…」
「そうだぞ、針千本用意するなよ!」
「どうしようかな」
ジョンは気に入ったのかうる覚えで鼻歌を歌って部屋の中に引っ込んでいくやしおはその後ろ姿を見送る。
「ひょっとしたらジョン様は寂しかったのかも….あんなに楽しそうにするのを見たの初めてだよ」
ショーンが徐に口を開けばやしおは首を横に降る。
「いや寂しそうには見えなかったよ」
やしおがそう告げればショーンは目を少し見開く。
「いや寂しそうには見えなかったよ」
やしおがそう告げればショーンは目を少し見開く。
「ショーンがいるからだよ」
すると安心したような少しくすぐったい様な顔をしてショーンは陶器の様な顔を少し崩して笑う。
思わずショーンの頭を優しく撫でてしまった。
主人を思う気持ちは余計なことではない。
「また来るな、ショーン」
「ジョン様共々待ってる」
「大丈夫、一体に2日かかる訪問なだけだからすぐに会えるよ」
やしおは伝えるとショーンと手を振り別れる。
そしてまた帰路についた。
まだ、新人の生き人形はショーンとしか話したことなかったが、既存の生き人形たちとはなんだか違う部分があった。そのちがう部分に違和感を感じやしおは首を捻る。既存の生き人形たち、ローズマリーやミア、星つきの生き人形たちで気をつけねばならないことは「外に出よう」「コーヒー飲むな」などであり、個があるように接すると生き人形の方から「私たちはシャドー家の道具です」なんて言われてしまう。
その癖、皆朝掃除の時とかは普通に話しかけてくる。未だに警戒して班全員で話しかけてこない奴らもいるが、まあ、その話というのはご褒美の珈琲が今日はもらえる日とか貰えない日とか早く飲みたいねって話だけど。
やしおは他の生き人形の前では死んでもブラックが飲めないことを言わなかった。
「まぁ、いいや、はやく帰って寝よう…」
考えれば考えるたびに疲弊していく。
やっぱりここ(シャドーハウス)はおかしいのかもしれない。
次の日、やしおは扉の前で悩んでいた。
一組の同じ新人であるシャーリー・ラムペアのところに来てるのだが一向に扉を開けてもらえないのだ。ノックは何回もしてるけど開けてもらえない。新人は外に出たらいけない決まりなのでもちろんこのペアも外に出てないだろう。
「おーい…、シャーリー、ラム…開けてくれないかな?」
控えめに声を出してトントンと優しくノックする。最初は一切反応はなかったが中から静かな音が響きおずおずと扉が開く。
中から現れたのは黒髪ベリーショートでリボンの指輪をつけてる生き人形。不安そうに瞳を向けている。
「お、こんにちわ」
やしおは優しい声で、笑顔で言うと黒髪ベリーショートの生き人形はビクッと体を震わせる。そしてうるうると瞳を潤ませて後退りをする。
「ん、どうした?。確かラムだよね?シャーリーは中にいるのかい?入ってもいい?」
お世辞にもこの男は優しい顔とは言えない。どちらかと言えば子供に仇なす悪人の様な顔をしてる。だから、怖がる子もいるわけで。
「いやああああ!!!」
ラムが絶叫するとやしおが入ろうとした瞬間に勢いよく扉を閉めた。
「へぶ!!」
避けることができなくってやしおは顔面を思いっきり強打する。
「痛い……」
やしおの鼻から鼻血が溢れる。多分顔も真っ赤になっていることだろう。持っていたレース製の綺麗なハンカチで拭く。
ぼたぼたと溢れ出る赤い鮮血。鼻を押さえながら上を向き変な格好のまま歩き出す。
今日は諦めて居住区に帰ろうとすると間が悪く医療班のギルバードとその生き人形のギルと鉢合わせする。
「アカツキ様、お務めご苦労様です」
野球ばりの声と軍人の様な敬礼。
彼にやしおの警察官としての敬礼が刺さったらしい。よく会うとビシッと敬礼してくる。
ちなみに彼だけである。
「おぉ、お疲れ様」
赤い顔に血だらけのハンカチ。ギルバードの顔色が変わった。そして不安からの煤を出す。
「その顔どうされたんですか?!?!」
ガッと肩を掴まれてやしおは逃げようにも逃げられない。両手は鼻血はのために塞がってるし血がついてるのでギルバードの服に血がついたら困ると思ったからだ。
「すっ転んだ…」
本当はラムにおもいっきり扉を閉められた時に顔面を強打した。
なんて言えるはずもない。
「あぁ、なんてお労しいとにかく手当てを!!」
「いや、いいって鼻血だしすぐに止まるよ」
「いーや、この出血量、顔に傷があるかも!!
心配いりません、我々は腕が確かです!!
班長に見てもらいましょう!!」
「いや、いいって…おーい聞いてんの?」
班長ってスザンナか…
半ばずるずると引きずられる形でやしおは医務室に連れてかれた。
案の定ギルバードの言った通りにスザンナとスージーがいてやしおの顔を見て心底驚いた顔をする。
「スージー、すぐに手当の準備を!!アカツキ様!
よく顔を見せて!」
スージー達に命令をすると
スザンナはやしおの顔をガッと掴むと傷はないか繁々と確認する。
「ただの鼻血だから」
「すごい出血量だった、どこかに傷があるのかもしれない!でも、アカツキ様は転んだだけって言うんだ、転んだだけでこんなに血がでるか?!」「そうね、確かに…」
「誰かに殴られでもしない限りこんなには」
スザンナ、ギルバードと同じ班員のエヴリンとバートラムがハンカチの血を繁々と眺める。
医療班ってことは看護師や医師の擬の集まりってことか。
「いーや転んだの!ボケッと考え事をして歩いていたら階段からゴロゴローって」
「どこの階段?」
スザンナが鼻血を止めるためにティッシュを丸めてやしおの鼻に突っ込見ながら質問する。
その顔(スージー)は笑顔だった。
流石にやしおはぎくっと肩を震わせる。
「うーんと皆が集まる場所の……」
「でも、あなた…今日新人の子の面会よね?お仕事はどうしたの?まさかサボってたの?」
ずいっと真っ黒な顔と見目麗しい顔がやしおに近づく。やしおの顔からは大量の汗が出てくる。
「ちゃんと行ったけど、怖がって出てきてくれなくって諦めて帰ったら階段で転んだ」
「どこの階段ですか?」
この男、階段から離れればいいのに。どんどん自ら墓穴を掘っていく。このまま白ばくれて医務室を飛び出そうかと考えたが四体と四人がそれを許さないだろう。逃がさない様に四方八方を囲んでいたので自白するしかなかった。
ラム、お前のことは絶対に守る。
事の顛末を話せば顔に傷ついてるかもしれないと言う重大な事なのにスザンナ達は笑い出す。
「ンフフフフ、なるほどねぇ!」
「確かに悪人面だ、でも俺は暁様の良さを知っているから気を落とすな!!」
「見かけによらず優しいわよね」
「それを知らない者は怖がりますね」
好き勝手笑われて言われてしまったら当の本人は面白くない。「笑うなよ」と年甲斐もなく不貞腐れてそっぽを向いてしまった。
「アカツキさまがさすさすしてあげるから機嫌治して!」
「私からもやってあげる!」
許可を取らずにスザンナはやしおの逞しい背中をさする。するとエヴリンも便乗してやり始める。最近色んなところでおもちゃのように扱われることが多いのでやしおは好きにさせることにしてため息をつく。男組のシャドーはやしおの方をポンポンと叩いていた。
励ましてくれているつもりらしいが少し鬱陶しいし擽ったい。やしおがやめろと身を捩る。
ギルバード達を仕事に戻す。もう逃げることはないとわかったのか素直に戻っていった
「言っておくがシャーリーの生き人形は悪くないからな!俺が驚かせたのが悪いんだ」
ラムへのフォローを忘れずにスザンナ達に言う。
「俺がこう言ってんだから罰則はなしだ!」
「ンモー、今日だけど。でもね、その生き人形評判は最悪よ?何度も物を落として壊したり、集めた煤を撒き散らしたり酷いもんらしいわ」
「ラムがか?…」
ここに来て聞けた思わぬ収穫。
「無能って報告が上がってるわね」
「その報告ってどこで?」
「生き人形の班長会議よ、アカツキ様参加したことなかったわね、機会があったら見せてあげるわ」
班長会議ってものがあるんだ。そして班もあるのかとやしおは思った。
あ、だから班ごとに行動したりすることが多いのかと思った。
「1〜10まであるわ」
「結構多いんだな」
「館は広いからねぇ、それでも足りないくらいよ」
今更聞けた重大な事項だった。
時に恐れずに聞くことも大事である。今回は偶然が重なったからだが
「どうするの?大人達には報告するの?」
「いや、まだ、シャーリーに会えてない」
口ではこう言ったのだが報告しないつもりであった。そんな鼻血が出たくらいでチクるようなものは心が狭い。こちらも悪人面を見せて怖がらせた悪い部分もあるのだから。
でも、また明日行ったとしても簡単にシャーリーには会えないだろうとやしおは思った。
なら、生き人形のラムと接近してから主人のシャーリーと会った方が無難だと思った。
仲良くなるならまずは外から崩し中は最後の方だ。
「班長会議の報告があったってことはさラムは大掃除に参加してるんだ」
「えぇ、新人達もそろそろ出始めてるんじゃない?タイミングはまちまちだろうけど」
「ほーーー」
部屋はまず開けてもらえないと判断して明日は朝の大掃除の日だ。そこを狙うことにする。
ラムが大掃除に出てるっていい収穫だ。
「ラムってどこの班?」
「確か…双子の」
「あぁ」
何もないところで転びそうになって服が汚れそうになったイザベルとミラベルか。
生き人形の名前はベルっていうのか。
***********
次の日、やしおは大掃除のベルの音で目を覚ます。生き人形と同じ姿をしてるけどヒトでもあり大人なので関係ないとか、余計なことは考えるなとか言われたが、取り忘れてる方が問題の様な気がする。
早く起きるのは慣れてるので軽く伸びをしてカーテンを開ける。
鴉なのかよくわからない黒い鳥が頻回に飛んでお爺さまと共にある塔 所謂大人達の塔に飛んでいくのが見えた。
「そういえば、生き人形達ってどこで寝てるんだろう?」
今度聞いたら見せてくれるのかな?
仲良くなった子達からはよく煤を取る部屋があってあまり好きじゃない話は聞くのだが全貌が見えないのでやしおはよくはてなマークを浮かべていた。とりあえずこんなこと今は関係ない。
顔の見えない人形が持ってきてくれた朝ごはんをかっこ見身支度を整えると大掃除に向かう。
最初こそは怖がったりしていた生き人形たちもやしおの姿が見るのが大掃除の日常となると何も言わなくなった。
「おはよう、やしお〜」
「おはようございます」
普通に挨拶をしてくるレベルにまでなった。
ただ、ダグたちは自分の主人がされた一件を怖がっているので避け気味である。
「今日はベル班の手助けをする」
新人教育が大変なのは知っている。
やしお自身も六年目なので新人を育てている。
部下は十人十色、反抗する物、覚えるのが遅い物、早い物様々だ。
何ならラムが慣れるまで手伝おうと思った。
煤を撒き散らしたり、物を壊したり、どんなおドジちゃんだ?
意外と元気ちゃんなのかな?
あれこれ考えを巡らせてやしおはベル達の掃除してる区域に辿り着く。
その時、ドサっと何かが倒れる音がした。
「早くしてよこのペースじゃ終わらないわよ」
「この子また泣いてるわ」
集めた煤袋がぶちまけられており水拭きしたばかりの床を真っ黒く汚していた。
そこに蹲るのはラムで肩を震わせている。
「ぁ、あぁ…」
「泣きたいのはこっちなのに…」
どちらかのベルが泣きべそなんてかいてないのに
肩をすくめていた。その隣にはマーガレットの生き人形の姿がある。ラムを助けようとせずに同じように首を傾げていた。
ラムは手を汚して泣きながら煤を集めてる。
3人はその様子をくすくす笑って見ていた。
やしおはその様子を見てハッとしたこれはイジメだと瞬時に見抜く。
「こらあぁああ!!!!」
大きな声をあげて双子とマーガレットの生き人形、そしてラムに近づく。
「あら、行き遅れじゃない」
「朝から暑苦しいこと」
先方に紡がれるのは失礼な言葉。
この双子はやしおをよく思ってないのは周知のこと。ダグラス達の生き人形と共にあからさまに嫌悪感を出す。
自分の主人やプライドを傷つけられたと思ってるのだ。
会うたびに「行き遅れ」とか失礼な言葉を浴びせてくるがそんなことを構ってられない。
「ラムを手伝ってやれ!!お前たち班長だろ?!」
主人のイザベルとミラベルが班長ならこの双子も班長になるわけだ。
「これは罰よ。この子…ドジなのよ。困っちゃうわ」と双子のどちらかのベルがラムを見据えながら言う。ラムは肩を震わせてシクシクと泣いていた。
「困っちゃうわじゃない!!、それを助けるのが班長だろ?!」
「えー、嫌よ。私たち助けたくない」
片方は二つに結んだ栗色の髪の毛を手でほぐしながら気怠げに言った。正直やしおの血管は今にもはち切れそうだった。
「お前たち、下手したら犯罪になるぞ…」
思ったよりも低い声がやしおから出る。双子たちは少しびく付いたが気に求めてないようだ。
どうやら、手錠をかけたダグラスたちよりも根性が悪いようである。
「ベル、ん?どっちが…ベルだ?」
「どっちもベルよ」
「うんそうか、間際らしいな。ベルツインズ!とお前は?」
「マギーです…」
「マギーとベルツインズ」
「その呼び方やめて」
だって間際らしいんだもん!!とやしおは素直に思う。
「それよりも、お前たち…。大人になったらな
嫌な人間の手助けをしたり、一緒に働かなきゃいけなくなるんだ。いちいちいじめていたら大変なことになるよ」
3人に目線を合わせて優しく説く。マギーは俯いていたがベルツインズには響いてないようだ。
お澄ましの顔をしてる。
しかし、諦めないで説き伏せる。因果応報というものがあって良い行いも返ってくるし悪い行いも返ってくるよ。悪いことばかりしていると自分2倍になって降り掛かってくるよ。
その話をしているときに取り越し苦労だろうか双子に対して言いようもない嫌な予感をした。
「ベルツインズ!!何だその態度は?!それって人の話を聞く態度?!」
危機感のない双子たちにやしおは流石に強い口調で言ってしまった。双子たちはビクつきはしたが泣いたりはしなかった。
「何よ、カッカしちゃって…」
「別にアカツキ様には関係ないでしょ?私たちの班の問題なんだから、バービーに言いつけるわよ、大人でも生き人形なんでしょ?あなた」
なるほど双子が態度が悪いのはこのせいだったのか。やしおは生き人形に見えるのは確かである。
大人たちの塔の大人のような威圧感はないだろう。顔は怖いが。
「どうぞ、俺あいつに蹴り入られても別に痛くも痒くもないもんね」
やしおは肩をすくめながら言う。
「あっそう、勝手にすれば?」
「この子のことはあなたにお任せするわ、そんなに贔屓したいのならお掃除もよろしく、マギーもやっておいてね」
「え…」
双子はそう告げるとその場をそそくさと立ち去る。やしおは根性の悪い双子にため息をついた。そして、掃除を1人で黙々と続けるラムにひと言謝った。
「ごめんな、何の力もなれなくて」
ひと回り小さな彼女は体を震わせてビクッとした。そして何も言わなかった。
やしおはラムの掃除を手伝おうと手でまだ溢れてる煤を集め直す。
「あのね…アカツキ様…」
苦々しい顔で一緒に掃除をしていたマギーが口を開く。やしおが怒ってると思っているのか顔色を窺っていた。だから、できるだけ優しい声を出して返事をする。
「あの子たちが煤袋を持ってるラムを転ばしたの…」
「そうだと思ったよ、なんてことをするんだ…
こんな重たいのを持ったら今度は怪我するかもしれないのに…」
双子は徹底的にいじめはダメだよって教育しなければならぬと決意する。
「あ、ラム、怪我はないか?」
怖がらせないようにラムに静かに近づきあまり距離の近くない方法で見る。
膝は擦りむいてないようで、顔も無事だ。
ラムは口をパクパクして仕切りに何かを言おうとしていた。
「なぁ、マギー…怖いと思うけど。ラムがいじめられたりしたら助けるってことはできないか?」
優しくとけばマギーはブンブンと首を横に振る。そして説明してくれた。あの2人は星つきのお気に入りでしかも優秀だと思われてるから刃向かったら自分も大変なことになるかもしれない怖い。と言う。
(あいつら、子供のくせに贔屓してるのか…ちゃんと弱い立場の子を守らないで)
子供特有なのかもしれない。広い範囲を見なければならないときに細かいところを見落とす即ちまだ子供で心が育ってないってことだ。
「それにね、あの子達2人なのに1人の仕事しかしないの…全部私たちに押し付けてくるの…」
段々とマギーの声が泣きそうになる。朝掃除は早いから寝るタイミングはそれぞれだとしても寝不足の子もいるだろう。優しくマギーの頭を撫でて目に浮かぶ涙を拭いてあげた。
「分かった。ラムのことも心配だし…あいつらがちゃんと掃除をするまでここのお手伝いをするよ」
「い、いいの?バービーに怒られない?」
「オレが怒られるから平気だよ」
毎日怒られてるし、そうやしおは毎日バービーに怒鳴られてる。彼女の声が掠れて出なくなってしまうんじゃないかってくらいに怒られてる。
しかし、本人は気にしないでバービーに絡みに行く。
「ほら、掃除しよう。んで、早く終わったら少し仮眠を取ろう。マーガレットとシャーリーが起きる前に」
マギーはそれをきくと小さく微笑むとコクコクとうなづいた。ラムは何も言わなかったが始終ぱくぱくと口を動かしてる。
こうして、何とか掃除が終わった。
「ありがとう、やしお」
「いいよ、気にするな。マーガレットにお花育てたいから育て方教えてって言っておいて」
抱きついてきたマギーに
やしおは優しく抱きしめながらいうと腕の中で嬉しそうに笑った。
「ラム……」
ラムはやっぱりやしおがまだ怖いようで少し遠くの方で様子を伺うだけだった。
無理強いは良くないとラムを呼ぼうとした手を止めた。マギーとお別れした後に帰路に着こうとするラムを追いかける。
「なぁ、ラム。お前の主人に会いたいんだけど」
その一言はやしおの口から出なかった。
今日はやめておこうと思う。
いじめられて、怖いと思って追い返した男に助けられて、この上なく辛い思いをしてると感じていた。
「訪問はまたにするよ。上には適当に言っておくから大丈夫だよ。多分君の主人も落ち着いてないんだろう?」
声も聞けぬ目の前の君に優しく語りかける。
ラムはゆっくりとやしおを上目遣いで見つめる。
「2人の不安がなくなるまで待ってる、だから焦らなくていいって主人にも伝えておいてくれ
んじゃな、起きるまでしっかり睡眠とれよ?」
と伝えて、静かにラムから離れた。
そんなラムは静かにやしおを見つめていた。
その大きくて逞しく優しい背中にラムは指輪をついてる指を曲げて
「…ありがとう、この前は酷いことしてしまってごめんなさい」
小さく呟くような声で静かにお礼と謝罪をした。
ただやしおには届いたのかは届かなかったのか彼の優しく微笑む目が物語っていた。
しかし、どうシャーリーとラムのことを判断しようか…頭を巡らせた。
行くのは何とか別のところで時間を潰せば誤魔化せるし、しかし、書く内容だ。
「すごい静かで喋らなかったって書けばいいか
ラムも静かって書こう、煤は出てませんでしたとも書こうか」
帰路に着くとジョン・ショーン組は報告書が3枚も超えたのに今日書く、シャーリー・ラム組は一枚の半分にも満たなかった。
星つきに2組の報告の日にもちろんやしおは怒られるわけなのだが。
「一組目は突っ込みたいところですが、不問にします…が,2組目…ちゃんと訪問したのですか?」
バーバラはピラリとラム・シャーリー組の報告書を見せる。
「したよ、やっと2日目にできた」
勿論してないわけだがやしおは嘘をつく。ラムとは一言も喋ってないけど関わったので
まぁ、許せる範囲内だと勝手に判断してる。
「これだと少なすぎます。本当に訪問したのですか?」
「相手が喋らないんじゃ、書きようがないだろ?」
首をすくめてケロッとした態度で言うとバーバラから煤が出る。バービーは険しい顔をしてやしおを睨む。
「だから相手が喋らないんじゃ書きようがない!!!恥ずかしがり屋で喋るのが苦手なだけかもしれないだろ!!」
怯まずにやしおは言い返す。
「アカツキ様、甘いわよ」
普段、やしおに一際甘いスザンナが重々しく口を開く。彼女からも煤が出ていた。というかもう全員煤を出してる。
「現にシャーリーの生き人形のラムの悪い報告は上がってるわ、物を壊したり、集めた煤を撒き散らしたり他にもたくさん。それにあの組からは会話もないし触れ合いもしてないって情報が挙げられてるわ。そのことについては聞いた?」
「触れ合いっておやすみのキスのことか?恥ずかしがってできない組もあるからいいんじゃないの?」
「そう言う問題じゃないんだ、ここは出来損ないが淘汰されるところなんだよ。だから、この組はお披露目を受けさせる前に…」
「処分しろってことか?」
ダンっとやしおはテーブルを叩く。そして悪人面を般若にさせて星つき達を交互に見る。彼らの煤は驚きすぎて止まる。
「簡単に処分処分言うな!!!!まだ2日しか会ってねぇだろ?!お披露目まで期日はまだあるだろ?!2日だけの評価で処分ってアホすぎるだろ!!ふざけんな!!俺が任されたからシャーリーとラムの処分認定はさせない!!!他の組が終わった後もちょくちょく行ってみる!!それでいいだろ!!」
怒鳴り声が響き渡る。
驚愕の迫力であった、普段体躯がよく子供達への脅迫、様々なことを無理矢理説得するベンジャミンでさえ圧倒されて何も言えずじまい。
オリバーとスザンナは顔色を真っ青にさせてる。
「YES?!NOー?!どっち?!」
何も答えない星つき達にやしおは顔を近づけで四体を交互に見る。生き人形達の顔は冷や汗でだらだらだった。
「……わかりました」
やっとバーバラが口を開く。
「この組の報告は不問とします。但しお披露目の前日に報告すること」
「他の組は随時報告していくよ」
やっと彼はいつもの怖い顔をしてるけど優しい雰囲気をしてるやしおに戻った。効果音をつけるのであればケロッとした可愛らしいものだ。
「怖かったな、ごめんな?」
自覚があったらしくバーバラ達に先程の態度と怒鳴ったことを詫びる。すると、ベンジャミンがいきなりやしおの胸ぐらを掴む。
「おい、言ったからにはちゃんとやれよ…他の組はシャーリー・ラムのような甘さは許さない。ここは出来損ないは淘汰されて当たり前なんだ。役に立たない出来損ないはいらない、慈悲は無用だ」
「はいはい、わかってるよ」
数々の凶悪犯に胸ぐらん掴まれてるのでベンジャミンになんて動じてないやしおは飄々とした様子だった。ベンジャミンの手を軽々と外し衣服を直す。
「俺はそろそろ休む。明日にはパトリック・リッキー組に行くからな、めっちゃ詳しく書いてきてやるよ!ジョン・ショーン組の倍!!」
ジョン・ショーン組の報告書が3枚なのでその2倍ということは6枚である。
「何、ムキになってるのよ」
スザンナは呆れた様子と子どものように躍起になってるやしおを見て心配している様子だった。
「言われたら悔しくなって見返したくなるタイプなの!!任せろ簡潔に丁寧に書いてくるからな!」
ビシッと指を刺せば「シャドーに向かって指は差さない」とバーバラからの小言が入る。しかしやしおには耳に入らない
「じゃ!!おやすみ!!」
みんなの前で敬礼をするとやしおは自分の部屋へと戻っていった。
「…くそ腹立つ…」
バーバラの舌打ちのような小さな声が会議室に響いた。
やしおはやはり彼女らにとって扱いづらい存在であった。
続く。
次回「パトリキ、ルイルウが登場します!!」