【期間限定再録】blend, just for you【brmy逢由】「どうぞ」
「ああ、ありがと」
Aporiaのカフェシフト開始前の、ちょっとした空き時間。
シフト前の準備などを粗方済ませ、開店までSNSを物色しながら時間を潰していた宇京真央の下にやってきたのは、同じシフトを担当する城瀬由鶴だった。由鶴が差し出してきたグラスを受け取り、それをそのまま口に運んだ真央は──ところが、少し不思議そうな顔を浮かべた。
「あれ」
「ん、何かおかしかった」
「いや……別に不味いだとか、おかしいとか、そういうことじゃないんだけど」
何もおかしなことはないと言いながらも、小首を傾げたままの真央に、由鶴が少しばかり不安な顔を見せる。
「真央にそう言われると、やっぱり不安なんだけど」
「いや、ゴメン。本当になんかヤバいものとかがあるわけじゃないからそこは安心してくれて良いんだけど……ああ、もしかして」
そう言って、真央はもう一口グラスの中身を──由鶴が淹れたブレンドティーを口にし、やっぱり、と呟きながら由鶴の方を見遣った。
「このブレンドティー、お店に出してるやつじゃないよね」
「お店に出す分はいつも通り、奥の冷蔵庫の方に入れてるよ。これは俺が
自分たち用に用意したやつだから」
由鶴の答えに、真央はふーん、と意味ありげな笑みを浮かべてもう一口口に含み、少しだけ口の中で転がすようにしてから飲み込んだ。
「ねえ真央、やっぱりそれ何かあるんじゃ……」
「いや、何もおかしなところはないから大丈夫。何ならお店に出しても平気だよ──この
陛下ブレンド」
「…………えっ?」
真央の言葉に、由鶴は思わず自分用に入れていたグラスを手に取り、一口口に含んだと思えば、その顔色が一気に変わる。
「えっ、と……真央」
「なんで僕がそうだって分かったかって? 陛下の好みって意外と分かりやすいよ。それに今まで味わったことのないブレンドだったから、何ならちょっと戸惑っちゃって、だからこそ気付けたって感じなんだけど、極めつけは──」
「真央もういいって分かったから──」
「騒々しいな」
突然割り込んできた声に、由鶴と真央が揃って顔を上げる。
「逢さん」
「あ、陛下。お疲れさま」
「ああ」
口々に声を掛けられ、皇坂逢は頷きつつも、若干渋い顔のまま口を開いた。
「開店前だからといって、あまりに騒々しいと外に響く。その辺りはちゃんと意識しろ」
「はーい」
「すみません……」
素直な二人の返事に一応は満足したのか、再度頷き、逢はそのまま踵を返して事務所の方へと戻る──ように見えた。が、その前に立ち止まり、振り返ること無く由鶴、と声を掛けた。
「……はい」
反射的に、何となく言われそうなことを察したのか、由鶴は若干不安をにじませた表情を浮かべた。それを、真央が少しばかり愉しそうな顔で見ていることなど、当の由鶴は気付く由もなく、ただただ逢の言葉の続きを待っていた──そして。
「
俺専用ブレンドは、どうやら俺だけのものではなくなったようだな」
「えっと……」
「急ぎではないが、改良したものを用意するように」
「……はい」
「コーヒーの方は」
「そっちは他には出したことはないです」
「なら手隙でそちらを用意してくれ」
「分かりました」
その言葉にようやく満足が行ったのか、逢はではな、という一言と共に今度こそ事務所へと向かった。
そして、残された由鶴と真央はというと。
「気付かないフリした方が良かったやつ?」
「いや、前から改良自体はしようと思ってたんだけど……」
「ふーん」
独占欲の強いコイビト持ちは大変だね、などと、そんな真央のボヤキが由鶴の耳に入ったかどうかは──本人のみぞ知る話だ。