なんか変だ!その蒼い男は、己が夢中になっているものの話をしだすと止まらなくなる。
彼は、自分が興味のある事に関してだけは酷く饒舌だ。
ここ数日、バンドメンバーの蒼い男が熱心に話し続けている話の内容は、彼が昔から好きだというロボットアニメの話題だ。オレはあまりアニメと言うものを見ないので、内容について夢中になって話す彼の言葉に相槌を打つだけになってしまう。だが彼は、自分の話を聞いてくれるだけでも嬉しいと笑うのだ。
その笑顔を、オレはとても綺麗だと思った。
綺麗な笑顔を少しでも見ていたくて、オレは今日も、自分が見たこともないアニメの話に耳を傾けてしまう。アニメの事はよくわからないけれど、彼の心地よく響く低い声を聞き、心から楽しそうな表情を見ることができるのは、とても嬉しかった。
そんなある時。
夕陽が差し込む練習用スタジオで、自分の担当楽器を抱え込んだままに熱心にアニメについて語る蒼い男の話に耳を傾けていたオレは、ふいにある事を思い出した。確か今日は、彼が愛するアニメの主人公の誕生日ではなかったか。
会話の足しになるかと思い、何とは無しに彼にその事を話してみると、途端に蒼い男の眼が大きく見開かれ、よく熟れた果実のように紅い瞳がキラキラと輝き出した。
そんな事も覚えててくれたんだ。
蒼い男は、そう言って笑った。
とても嬉しそうに。
……とても綺麗に。
その笑顔を見た瞬間、大きく鼓動を打ったのはオレの心臓だ。胸の中で見えないドラムが激しく打ち鳴らされ、まるで湯にのぼせたように顔が、頬が、熱くなった。
一気に紅潮した顔を見られないように慌てて横を向く。隣の彼は不思議に思うかもしれないが、こんな赤い顔を見せる訳にはいかない。
少しでも落ち着こうと、目を閉じる。……ああ駄目だった。きつく閉じた瞼の裏にも浮かび上がってくる。蒼い男の、綺麗な紅い瞳が。綺麗な笑いが。
おやおや変なワンちゃんだねえ、一体どうしちゃったのかナ。
ヒヒヒ、と言う特徴的な笑いと共に、からかうような彼の声が聞こえる。自分は犬じゃなくて狼だと言い返しながら、オレはまだ、彼の顔をまともに見れずにいた。
頼む、心臓よ、落ち着け。
必死でそう願いながら、オレは思った。
ああ、オレは、この人が好きなんだ。
蒼くて紅い、綺麗な顔で笑うこの人が大好きなんだ……愛しているんだ。
綺麗なその笑顔をずっと見ていたい。オレのためだけに笑って欲しい。
静まる様子の無い己の心臓の音と一緒に、彼の声が聞こえる。
主人公の誕生祝いをしたいから、今日の晩ごはんはご馳走にしてよネ。
ああまったく、狼の気も知らないで。
……カレーでいいっスか?
必死で平静を装うオレの問いかけに、蒼い男は嬉しそうにヒヒヒと笑った。
まだ、彼の顔は見れない。