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    生きる理由を語ってもいいじゃない誰かが祈りを捧げた時。
    それは確かに生まれた。

    死ぬための命として。
    誰かの祈りのための命として。

    生まれた命は
    生まれた理由さえ知らずに死んで行き。
    死ぬ理由さえ知らずに死んで行く。

    死んで、いった、後には
    また新しい死ぬための命が生まれてくる。

    それに気づいてしまったのはいつの日か。

    生まれた理由もわからず。
    死ぬ理由もわからず。

    ただただ。
    生まれた少女たちは。
    ミンフィリアという一つの形態として消費されていく。

    何も知らず。
    何も与えられず。

    少女は祈りのために生き、祈りのために死ぬ。

    好々爺はひどく泣き崩れた。
    その事実に憤ったこともあった。

    名前を呼ばれども。
    笑顔を向けられようとも。

    少女はその命を消費していく。
    ミンフィリアとして。

    少女は生まれたその時から、少女としての存在を許されることはない。
    誰かが求めた光の巫女ミンフィリア。

    死にゆくたびに誰かがつぶやいた。

    どうせまたミンフィリアは生まれてくる。

    そして、誰かが言った通り、またミンフィリアは生まれて。
    死んで行く。

    幼い少女が。
    無関係な祈りのために。今日も。

    好々爺は主であるヴァウスリーが罪食いとの停戦を言い渡したとき、ひどく安堵した。
    これで、少女は、やっと生きることが許される。

    日々の武術の修練も。
    すべては少女が理不尽な理由で死なぬようとするためのものであったというのに。

    「また、お前は。」

    死にに行くのか。

    零れ落ちた言葉は、誰も拾い上げることなく、床に消え失せる。


    光の戦士がラケティカの遺跡内にてエンシェントテレポで喪失したヤ・シュトラの魂を探す中。

    ファノヴの里に、人影二つ。
    男と少女。

    男は先ほどからイラついた様子を隠せず、少女はたまにこちらのほうをちらりと見やるだけであった。

    熱帯林独特の蒸し暑さ。
    少女は思い出したように、ぎこちなく、そんな厚着で苦しくないんですか。と聞くが、男は厭だ厭だと、ぶつぶつ呟くばかりで返事はない。

    暑さに交じり、森の中で響く虫の声。

    光がまるで熱を帯びているかのように思えて、少女は一つ息を吐きだした。

    「さっきから、なにをいってるんですか。」
    「んあ?」

    やっと、気づいたように男は少女を視認した。

    「厭だ厭だって…。」
    「………。」

    男は少し、考えた素振りをして見せる。

    じぃぃぃぃぃ。と、空気を、耳を鳴らす声。

    少女は木々を見るように、ぐるりと目線を泳がした。

    「虫、ですか?」

    少女が聞くと、男ははぐらかすように肩を竦めてみせた。

    多分、これは、正解。

    「確かにうるさいですけど、でも、理由を考えれば、それはそれで納得いきますけど。」

    そう、少女が言うと男は、大きく息を吐いて、また、厭だ、と言い出す。

    「だって、生まれてからのほとんどの時間を土の中で過ごして、外に出たら、7日しか生きれなくて、その7日を次の命につなぐため頑張ってるのは、」
    すごく、全力でいいと思うんです。

    そういうと、聞いていた男は嫌悪感に顔をゆがませる。
    本当に【厭】なのだろう。彼、エメトセルクの場合は。

    「私は、誰かのために生きて、死ぬ。から。」

    つまり少女は。
    虫のたった7日間だけの命を美しいというのだ。

    光の戦士は、まだ見つける気配はない。

    男の脳裏にある考えが浮かんだ。

    「昔、」

    そう切り出すと、少女はうつむいた顔をこちらに向ける。

    昔、昔。

    そうやって切り出された話はどこの村で聞いたものなのか。
    彼の記憶には、それはもうない。話だけが漠然と残っている。

    昔々。
    神様が生き物を作って、どの生き物に寿命を与えるか考えていた時でした。
    そこへロバがやってきて。

    「神様、私の寿命はどのくらいでしょう。」と聞きました。
    神様は、30年くらいだろうと、ロバに30年の寿命を与えました。

    そうしたらロバは
    「神様、30年では長すぎます。私は朝から晩まで重い荷物を運ぶのです。30年もそんな生活が続くなんて嫌です。どうか寿命を減らしてください。」
    と、神様にお願いしました。

    神様は、分かった、お前の寿命を18年にしよう。

    そうしてロバは神様から18年の寿命を与えられました。

    次に来たのは犬です。
    神様は犬に30年の寿命を与えました。

    そうしたら犬は
    「私は30年も走り回ることはできません。牙も10年で抜けてしまいます。走れず、獲物に噛みつけない人生を送るのは嫌です。なのでどうか寿命を減らしてください。」と言いました。

    神様は犬の願いを聞き入れ、犬の寿命を12年与えました。

    犬が立ち去り、次は猿が来ました。

    神様は、猿に30年の寿命を与えました。
    そうしたら猿は辛そうに
    「いいえ、神様。私の人生は人を笑わるためにおかしないたずらをしたり、変な顔をしたりすることです。そんな人生が30年も続いてしまうなんて耐えられません。」

    神様は、猿の訴えを聞き、猿に10年の寿命を与えました。

    最後に来たのは人間です。

    神様は人間に30年の寿命を与えました。
    そうすると人間はとてもがっかりして
    「なんて短い人生なのでしょうか。これから家を建てて、人生を楽しもうとしているときになぜ死ななければならないのですか。」
    神様は人間の願いを聞き入れ、ロバの寿命を付け足しました。

    「さあ、これでまんぞくだろう。」

    そういう神様に人間はこう言います。
    「それでもたった48年です。」

    神様は仕方なく「それでは、犬の12年もつけたそう。」
    それでも人間は満足しませんでした。

    困った神様は
    「仕方がない、猿の10年もつけたそう。それで人間の寿命は終わりだよ。」

    そういって人間を帰らせました。

    こうやって人間の寿命は70年になったのです。

    人間の寿命の最初の30年はもとからあった寿命です。
    次にロバからもらった18年がやってきます。その18年間は家を建て、家族を養うため、責任を背負って働かなくてはなりません。
    その次に犬の12年がきます。
    犬の12年は足腰が弱くなり、歯が抜けていきます。
    犬の12年が終わると、猿の10年がやってきます。
    猿の10年は、だんだんと頭が鈍くなり、おかしなことをしようとしなくてもしてしまい、みんなの笑われ者になるのです。


    斯様に人は面白く、そして下らぬことを作るのだと思っていた。

    人より生死に過敏で。
    下らぬ優劣をつけるものはいないと、そう自負している。

    不完全なもの故に。
    縋りつくものがないと生きてはいけない。

    哀れで。
    愚かで。
    馬鹿々々しい。

    「それが、普段、厭だという理由ですか。」

    あまりにも人が傲慢にも欲しがるから。

    「さあな。」

    この話にせよ、7日の間に求愛のために泣く虫も。
    厭だ。そういう意味では間違いはない。

    何もかも
    すべてが無価値。

    立ち止まり
    気に
    唯々
    通り過ぎるのみ。

    「それでも、」

    こうして、生きた証を残せるのはすごいと思います。

    「私は、ミンフィリアでしかない…。」

    個としての生存主張。
    生きた証。

    たしかに、そこにいきていた。

    「この世界では、私は、唯のミンフィリアでしかない。」

    ジッ

    虫が、声を、あげ。

    大木から落ちる虫は、土にかえり、消えていく。
    消えていき、また生まれて。繰り返して。

    意味のない。
    価値のない。
    無駄でしかないサイクルを繰り返す。

    「だから、生きる証を残せるって、すごく羨ましくて、美しくて、いいなって。」

    正論か。
    理想論か。

    死ぬことを恐れる人も。
    生きることに貪欲な人も。
    7日しか外の世界を見ることができない虫も。

    美しく
    力強く
    その刹那に、足跡を残す。

    「綺麗事か。」

    新雪に足跡を残せども
    枯れた大地に足跡を残せども。

    雪が、風が、消してしまえばなかったことになる。

    あしあとがひとつありました。
    かぜがあしあとをけしていきました。
    そのうえにまたあしあとがつきました。

    いまは、だれもそのしたにあるあしあとは、わからないのです。

    「………、えっと、ごめんなさ、い。」

    少女は遠慮がちに目を伏せた。
    その様子をエメトセルクは意に介さず、言葉を続けた。

    「話を変えるか。それを羨むだけか、おまえは。」
    「………?」

    はっと目を上げ少女はひょこりと首をかしげる。

    「個の存在証明をできる他人が羨ましいだけか。」
    「それは、」

    少女の脳裏には親代わりとなってくれたサンクレッドの視線がよぎる。
    少女の向こうにいる誰かを見ている眼。

    それは、ひどく悲しくないといえば、うそになる。

    「…、言ってもいいんですか…?」
    「すきにしろ。」

    胸元にある少女の手に、少しだけ力がこもった。

    「わたしも、そうなりたいなー…なんて。」

    それは、夢みたいなことですが。

    とつぶやかれた言葉を、鼻で哂い一蹴する。

    「【それ】は、お前が思っている以上に過酷だ。」
    「………。」
    「今この時、あれらに個としての存在証明をするのは簡単すぎる。」

    だが、そのあとだ。と、エメトセルクは言う。

    その後。
    10年、100年でもいい。その先で、お前の存在証明は消されていく。
    結果的に残るのは、お前。じゃなくて、ミンフィリアとしての存在。

    それでもと、少女は言う。

    「ずっと先の時代で、わたしがわたしじゃなくなっても。わたしの生きた証はどこかに残るから」

    それは誰かの話の中で。
    それは誰かの歌の中で。

    「遠い未来の、全ての人が知らなくてもいいんです。誰かが、わたしは生きていたって言ってくれれば」

    それは、わがままなのでしょうか。

    わがまま。
    傲慢な願い。

    人の。
    否。
    生きるものの生への執着とは。

    古代人は何故
    我々は何故
    明日を必死に求めて足掻いたのか。

    それは、少女のいう、小さなわがままと変わりないのだろうか。

    「まあ、」
    「?」
    「精々足掻け。お前はまだ若い。他人に強いられた選択肢ほど愚かなことはあるまいよ」

    ふらりと動き出す猫背を少女は目で追い後ろをついてくる。

    誰かのための命でしかないもの
    いつしか、自分のための命であって欲しいと願ってしまった。

    きっと過去のミンフィリアも願ったはずなのに。
    わたしだけ、こんなわがままを、叶えてしまっていいのか。

    「わたしは、」

    虫の喧騒はいつしか止んでいた。

    「言っただろう」

    気だるそうに返る言葉。

    「お前はまだ若いと」

    後悔する選択肢はするな。

    そう放たれた声にはいつもの不遜さはなく。

    少女が何かを問おうとした時には、エメトセルクは歩き出していた。

    「……」

    己が己でありたい。
    少女のわがままを、ミンフィリアは許してくれるのだろうか。

    「後悔」

    願うだけでは、きっと変わらない。

    「しません」

    静かな森に、また虫が鳴き始めた。

    エメトセルクの唇が何かを型取り、言葉を乗せた。
    しかし、虫に食われたその言葉は少女に届くことはない。

    届かない言葉は、落ちて、埋もれて、踏まれて、死んでいく。

    「厭だ厭だ」

    見上げた空に、闇はなく。
    そこにあるのは嘗ての人が焦がれた光。

    「本当に厭になる」

    吐き出された言葉は、また落ちて、埋もれて、死んだ。
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    2022/06/17 17:51:41

    生きる理由を語ってもいいじゃない

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    #エメトセルク
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