幻想郷入りしたようですシリーズいつも寝坊気質な博麗神社の巫女、霊夢が寝ぼけ眼をこすって障子を開けた瞬間。
ぎゃぁ、と蛙をつぶしたような声が聞こえたのはつい先刻の事。
たまたま遊びに来ていた霧雨魔理沙が、なにごとか。
と、声のする方へ向かうと、障子を開けたまま尻もちをついてわなわな震える霊夢と、その目の前に緑の衣を着た温和そうな男性が立っていた。
「ちょ、ちょっとあんたなによおおおおお!勝手に人の神社に上がり込んで!」
わなわな震える霊夢は、ぶんぶんと幣をふまわしている。
男性なんて、香霖堂店主ぐらいしかいないものだと思っていた魔理沙も突然の来訪客に唖然としていた。
「なんの!妖怪だか知らないけど!早く出ていきなさいよ!」
ぶんぶんと振り回される幣に対し、男性はあははは。と穏やかな笑顔を浮かべるだけだった。
こうして、混乱した霊夢と、まだ見ぬ男性に唖然とした魔理沙が話しを聞くことが出たのは、ずいぶん後のことで。
「さっきは、霊夢がとんでもないことをして、わるかったんだぜ」
はい、と不機嫌そうに霊夢が出したお茶をすすり、魔理沙は笑いながら男性に謝った。
相変わらず、渋みのない出がらしだ。
そんなことを言えば、お茶がでるだけありがたいと思いなさい、と言われるにきまっている。
「いえ、こっちこそ…」
穏やかに男性は笑う。
「そういえば…、自己紹介がまだなんだぜ!私は霧雨魔理沙。霊夢の友達でたまーに遊びに来てやってんだぜ!」
「なによ…その上から目線!あー、私は博麗霊夢。この神社の巫女。一応ね」
ぽりぽりとばつの悪そうに霊夢は頬をかいた。
「私は石切丸という」
「!?」
その名前を聞いた瞬間、霊夢の顔色が変わった。
「石切丸って…外の世界じゃ有名な…」
「そう、石切神社の。」
外の世界。
その霊夢の言葉を聞き、魔理沙もいつになく真剣な表情になった。
なぜ。
外の世界のものがこの幻想郷に?
「外の世界は、大結界でわけられてて…ここに来ることはできないはずなんだぜ?」
「ええ。ただし、存在を否定され、忘れられたものはこっちに現れるけど。ありえない…。」
以前、外の世界から宇佐美蓮子とメリーがやってきたが。
それは全く例外の話で。
「私たちをからかってるなら、ここで成敗してくれてもいいのよ!妖怪め!」
ぐああっと、霊夢がいきり立った。
「嗚呼、そっか。ごめん、詳細を話してなかったね。」
「詳細?ここに来た詳細?」
魔理沙が聞くと石切丸は、うなずいた。
「先の戦闘で、手ひどくやられてしまって…しばらく手入れ部屋で横になってたんだけど…。」
あまりの痛みに気を失い、きづいたらここにいたという。
それを聞いて、霊夢と魔理沙はふぅんと、うなずいた。
「本来ここは、忘れ去られたもの。消えていったものが現れるもの。」
「石切丸さんがここに現れたってことは、外の世界の石切丸さんが消えかかっているってことなんだぜ。」
「存在が、きえる…か。」
石切丸は少し思案して、またつぶやいた。
「ただの刀に戻りつつある。それは私たちにとって死を意味するんだ。」
「と、いうことは、そういうことね。」
「死んでしまったということかな?」
首をかしげながら聞くと。魔理沙から残念ながら、という答えが返ってきた。
そうか、残念だな。
と、石切丸はつぶやき、霊夢の出したお茶をすする。
「?」
不意に何か違和感を覚えた顔をした。
「あ、ああ!お茶の味が薄いのはいつも通りなんだぜ!」
「いつも通りって何よ!もっと、金さえあれば!こっちだって新茶ぐらい入れるわよ!節約!」
「え、いやあ…お茶って熱い、はずだよね。」
へ?と二人はあっけにとられた表情をする。
もう冷めてしまったのか?
魔理沙が試しに口を付けると、まだお茶は口の中をやけどさせない程度のちょうどいい温度だった。
そして、石切丸が飲んでいたお茶の湯飲みを持ち。一口。
「熱いんだぜ。」
「どういうことかしら?」
ううんと、霊夢と魔理沙がうなる。
しばらく二人で考えた後、あ、と霊夢が声をあげた。
「温度感覚がないってことはさ、完全にこっちにきてないってこと?」
そうか!と霊夢の言葉に魔理沙は、気づく。
「完全にこっちに来てないってことは、外の世界にも半分存在してるってことなんだぜ!」
「つまり、死にかけ?」
「ええ、飲み込み早くて助かるわ。死にかけといっても、外の世界でいう死の一歩手前。」
早く意識を戻さないと、本当に死んでしまう。
そういうことだった。
「こまったなあ…私には外の世界という元いた世界には、未練があるんだけど…」
「だったらな、なおさら早く帰れる道を探すんだぜ。」
どう帰ればいいのかわからないまま、数日が過ぎた。
霊夢は相変わらず神社の仕事はさぼっているし、代わりに石切丸が境内の掃除などを行っており。
幻想郷の人々にもだんだんなじんできたようだった。
はた目から見ればそれはいいことだろう。
しかし、それは、存在がこっちに偏ってきて、外の世界での存在が消えつつある。
そういうことだった。
「まったくもってまずいんだぜ…。」
魔理沙がやばい、という顔をするも霊夢は
「神社の仕事を手伝ってくれるんだからいいじゃないの。」と楽観視していた。
とりあえず、
と、何か手がかりを得るため、魔理沙と霊夢は石切丸をつれて、外の世界と一番近い境界線がある山へ来たわけだが。
「なにも、ないじゃない…!」
山を歩くこと数分。
手がかりは一向に見えず、霊夢がいらだってきている。
「あ、」
今日も無理かと山を出ようとしたその時。
石切丸が、光の壁に気づいた。
「これ?外の世界の境界線って…」
「たぶん、ここが外の世界と一番近い場所だから…。」
「やった!そしたらかえれるんだ…!」
石切丸が軽く光に触れた瞬間。
吸い込まれるようにして、光に吸い込まれていった。
石切丸を吸い込んだ光は、やがて光を失い。
山の中の光景を映し出していた。
目が覚めたとき。
そこは見慣れた木目の天井で。
心配そうにのぞき込んでいる刀剣男子たちにぎょっとした。
「おい、…よかった。」
ふうといきをついたのは同田貫。
「敵の強襲にやられて、意識を失ったからいそいで手入れ部屋に投げ込んだんだけど」
それ以降意識を数日失っていたとのこと。
様子を見に来ていた刀剣男子の話を聞くに、時々体が透けて見えたとのこと。
つまり。
本当に存在は、幻想郷に引っ張られていたわけか。
自分の手を見て、思い出す。
あの幻想郷にいた時の感覚。
「?」
その様子を同田貫が不思議にみていれば。
「いや、なんだかとても騒がしい夢を見ていたような気がするよ。」
と、言って笑った。