ロロ監SSまとめ最終日のロロ監(学生・ヤンデレ)…次ページ
花火のロロ監(学生・甘)…3ページ
ロロVSエース(学生・ロロ→監←エース)…4ページ
思春期だったロロ監(学生/社会人・甘)…5ページ
花使いロロ(学生・ヤンデレ)…6ページ
新しい家電買うロロ監(社会人・ギャグ)…7ページ
してやられたロロ(学生・甘?)…8ページ
嫉妬するロロ…9ページ
交流会最終日。ナイトレイブンカレッジ生達は今日で帰ってしまう。監督生と呼ばれていた彼女も。最後にもう一度、礼拝堂だけでも見て行かないかと持ち掛けたら、彼女は「是非!」と嬉しそうな笑顔と共に付いて来た。……少しは警戒するとかないのかと呆れたが、こちらにとっては都合が良い。他の誰にも気取られないよう誘い出すことに成功した私は、彼女を伴って礼拝堂へ足を踏み入れる。いつもと同じようにここへ来ると、澄んだ清らかな気分になるなと思いつつ、私は彼女を礼拝堂の奥、講壇の前へ連れて行く。周りのステンドグラスを眺めるなら、ここからが一番よく見えるのだ。一度、他の連中を案内した時には言わなかった情報だ。お前だけに教えてやるのだよ。お前だから。
「わあ、凄く綺麗ですね。ロロさん」
「結構。気に入ってくれたようで何よりだ」
わざわざこちらへ振り返って笑顔を振り撒く彼女に、頬に熱が集まるのが分かる。可愛らしい。
そこまで考えて、はっと我に返った。いけない。この女は神の従僕である私を誑かした悪魔だ。気をしっかり持って立ち向かわなくては。神よ。どうか私を守り、お導きください。
「本当、ここに来て良かったです。グリムも気に入ってるみたいだし、こんな綺麗で良いところだから、実はもう少し居たいなって思ってるんですけど、そんな我儘言えないので」
……ああ、なんだ。彼女も私と同じだったのか。
「なら、卿だけここに居れば良いだろう。私からモーゼズ先生に掛け合ってみようか」
「え? ダメですよ。そんな勝手なことしちゃ……」
『勝手なこと』という単語が私の胸を突く。お前が、お前がそれを言うのか。
「勝手なこと? それはお前の方だろう。監督生」
「……え? ロロさん?」
『勝手に』私の中に入って来て、『勝手に』私の心を掻き乱して、そんなことをしておいて『勝手に』帰ろうとする。お前がそんな穢れた精神の持ち主だとは思わなかった。
自分でもどうかしていると思う。けれど、私の唇は最早私の意思など映してはくれない。一歩後退しようとした彼女の手首を反射的に掴み、講壇へ押し付ける。片手で聖書を開き、私は自分でも驚く程、冷酷な声音で言った。
「誓え。私の傍にいると。二度と私から離れない。病める時も健やかなる時も私と共にある、と」
彼女は怯えた表情で必死に抵抗しているようだが、そんなもの、私には何の障害にもならない。それどころか、あまりの非力さに私は哀れにも思った。可哀想に。魔法を使わずともこの程度なら、やはり私が守ってやらねばなるまい。
「嫌っ……!」
「っ!?」
足を踏まれて思わず手を放してしまい、そのまま彼女を逃がしてしまった。彼女が走り去った扉を見つめ、私は未だ手に残る彼女の肌の感触、体温を逃がすまいと握りしめた。
「……あくまでも私に抵抗する気か。宜しい。ならば、私とてもう手段は選ばない。必ず、お前を我がものにしてやろう、監督生」
そして、その身に刻んでやろう。私がお前に選ばれるべき者なのだと。聖書を閉じ、私は色を失った礼拝堂を後にした。
夜になった花の街は、抑えていたものが溢れ出すように祭りの熱も最高潮になる。人混みに揉まれた私と監督生、後はグリムと言ったか、あのモンスターはモーゼズ先生とはぐれてしまい、一先ず人混みを抜けることができた。
「すげぇ人だったんだゾ」
「ほんとだね。ああもう、髪もぐちゃぐちゃ」
「私が付いていながら、こんなことになってしまうとは……申し訳ない」
「あ、いいえ! ロロさんのせいじゃないです!」
「こいつがぼーっとしてるからなんだゾ」
「だって、花火綺麗だったんだもん」
先程まではぐれないようにと繋いでいた手を見る。他人と触れ合うなど、あまり好きではなかった筈なのだが、相手がこの女となると、違う。ぎゅっと胸を締め付けられるような気がするが、嫌なものではない。むしろ、私は――
「……さん……ロロさん、大丈夫ですか?」
はっと気が付いて監督生を見る。心配そうな顔をしている彼女は、私の顔を覗き込んできた。距離が近い。いくら何でも不躾だろう。
「何お前までぼーっとしてんだ?」
「人混みに酔っちゃったんですか?」
「…………いや、大丈夫だよ」
そうだ。私は大丈夫。至って冷静でいつも通り。何の心配も無い。その時、また夜空へ一つ、花火が上がった。
「あ、花火上がりましたね」
「にゃっはー! 綺麗なんだゾ〜!」
監督生は、この交流会が終われば、ナイトレイブンカレッジに帰ってしまう。なら、せめて彼女の中に爪痕だけでも残したい。夜空を見上げる度、私のことを思い出すように。これは祭りのせいだ。祭りの熱が私にそうさせたのだから。
また花火が上がる。
「監督生」
「はい?」
振り向いたその顔、その唇に、私は、触れるだけの口付けをした。モンスターには見られたが、もうそんなもの関係無い。ただ、これ以上は周りに知られたくなくて、私はすぐ離れる。
「君が好きだ」
今はこれだけで良い。彼女には、私の気持ちを知っておいて欲しい。
監督生は一瞬呆けた顔をした後、自らの唇にそっと触れ、顔を赤らめる。そんな風に彼女が照れるから、私もつられていつものようにハンカチを口元へ宛がおうとして、止めた。
「……ロロ……さん……。私……」
「こんなところに居たのか、監督生、グリム、フランム君」
良いところでモーゼズ先生がいらっしゃり、私は何事も無かった風を装って彼女から離れた。今はこれだけで良い。いずれ、必ず私が手に入れるのだから。
今日は交流会最終日。あいつらが帰って来る日だ。寮長とグリム、デュースがいない分静かで過ごしやすかったけど、やっぱ何か物足りな……くはないけど、ま、オレはマブだし? 一応、心配してやるっていうか? あいつら、オレがいないとダメだからね〜。…………今のオレ、ダッサ。言い訳ばっかりじゃん。はいはい、ぶっちゃけ退屈でしたぁ〜。オレを置いて行ったってことで、ちょっとは仕返ししてもいいよな。
そう決めてオレは約束の時間ちょっと前に闇の鏡の裏側に回って待ち伏せする。あいつらが出てきたところで驚かしてやろ。
そうやって待っていると、学園長が来てオレと同じように鏡の前で待ち始める。学園長が来たってことはそろそろだ。そのままで息を殺しているうちに鏡が光って交流会に行っていたメンバーが続々と出てくる。もちろん、その中にはあいつらもいて、騒がしい声がする。へへへ、油断大敵ってね。
学園長の話が終わってはい解散となった瞬間、オレは鏡の裏から飛び出して「BOO!!」って具合にあいつらを驚かしてやった。監督生とグリム、デュースにエペル。後……やっべ、知らない人いた!
頭に対してやたらデカい帽子を被ってる目の下の隈がヤバい奴がオレを冷ややかに一瞥してから何事も無かったかのように監督生との話を再開する。デュース達は驚いてくれたけど、同時にすげぇ恥ずい。何この公開処刑。せめて、何か反応してくんない? 特に監督生! お前相変わらず反応うっすいな!! 何が「あ、エース」だよ! こちとら驚かしてんだよ! 空気読め!
そこで初めて監督生の方を見て、気付いた。いや、これは気付いてしまったって言った方が良いかも。状況は全っ然良くねぇけどな。あの、隈ヤバい人、監督生に恋してない? ってか、誰っ!? ほんとに! それで、監督生も何にこにこして楽しそうにしてる訳!? 一週間振りに会ったオレのことは放ったらかし? ……いや、なんでそんなことでオレが焦らなくちゃいけないの? 監督生はただのマブだし? 友達だし? でも、何かすげぇムカついてきた。
なかなかこっち見てくれない監督生に近付いて肩に手を置く。オレを無視するとか、良い度胸じゃん。ようやくオレに気付いた監督生は、不思議そうな顔を向けてきたけど、そんなの関係無いね! しっかり宣言しとかないとな!
「監督生はオレのマブですけど、何かぁ〜?」
ごめん。何言ってんの、オレ。
「どうした? エース」
ほんとだよ。どうしたんだよ、オレ。もう分かんねぇわ。
いきなりのマブ宣言に死にたくなったけど、何となく隈ヤバい人には伝わったみたいで、――ふっ、って鼻で笑われた。ムカつく――「では、また会おう。監督生。ああ、そちらの彼にもよろしく」なーんて言って鏡の向こうに消えた。何だよ、あれ。オレの存在なんて、問題じゃありませーんって感じ。腹立つわ。
「エース、どうしたの?」
「べっつにー? それより監督生。早く荷物置きに行こうぜ。今夜はハロウィンパーティーだからな」
「またあのご馳走が食えるんだゾ〜!」
「こら、走るな。グリム」
「じゃあ、ボクも荷物置いて来る。また後でね」
「グレートセブンの銅像んとこで待ち合わせなー」
「分かった!」
走って鏡の間を出て行くエペルとグリム。デュースと監督生も歩き出す中、オレは一人、ちょっとモヤモヤしていた。「また会おう」って、何だよ……。…………監督生も、あいつに会いたい、とか思うのかな。
モヤモヤしたものを抱えそうになったけど、無理やり飲み込んでいつも通りを装う。いざってなったら、オレが何とかすりゃいいし、変な心配はしない方が良い。
その後、監督生達がくれたお土産は嬉しかったし、あの隈ヤバい人がノーブルベルカレッジの生徒会長だと聞かされて益々死にたくなった。
お前を見る度、この胸に黒い炎が、地獄の炎が見えるのだ。私にとっての脅威、魔女め。
想いを自覚してから、私は苦しみに苦しみ抜いた。愛しい筈の彼女にいっそ憎悪を抱く程には。だから、全て無かったことにしようと、私は火を放ったのだった。私の魔法が辺り一面に広がり、その中心にいるのは監督生と私だけ。今なら、お前の命はこの手の中にある。お前が私を受け入れるなら、救ってやろう。しかし、そうでなければ、灰になってしまえ。私を求めるお前以外はいらないのだから。
こつこつと靴音を鳴らして彼女に近付いて行く。逃げる素振りは無い。ただ、私の一挙手一投足をも見逃すまいと真っ直ぐな目を向けてくる。嗚呼、そうだ。お前はそれで良い。初めから私だけを見つめていれば良いのだよ。
「さあ、選べ。私か、死か」
火の外側にいる他の連中が何か言っているが、こちらに手出しをしなければ、問題ではない。マレウス・ドラコニアもこの場にはいない。私の独壇場。お前は哀れな罪人。どちらに主導権があるか、分かるだろう。
監督生はよろよろと立ち上がり、依然としてこの私を真っ直ぐ見つめたまま、確かに言った。
「ロロさんです!」
「実はあの時、私勘違いしてたんだよね」
「…………は?」
妻が私を受け入れたあの頃も過ぎ去り、つい先月結婚式を済ませて今は二人仲良く入浴している中、当時監督生と呼ばれていた我が妻は、そんなことを言ってきた。膝の上に座っている彼女が動く度、水面が微かに揺れる。
「勘違い、とは?」
「うん。あの時、ロロが選べ! って言ったじゃない? 私、あの時、ロロが自殺するんじゃないかって思って……」
「……ん? 何故そうなる」
「だって、急に魔法で放火し始めるし、周りの物燃やしながら泣いてるし、神経質なロロのことだから、精神的に限界来ちゃったのかと思って」
「お前は当時から失礼の塊なのか」
「ロロに言われたくない」
「だから、あの時咄嗟に私を救おうとして言った訳か」
成程と納得すると共に、何故あの時、彼女があんな顔をしたのか、長年の謎が解けた。
「私は、ロロさんを選びます!」
あの時、彼女はどこか悲痛な面持ちでそう言った。苦しんでいるのは私の方なのに、まるで同じように、下手をすると私以上に苦しくて堪らないと言うように。今にも胸を掻きむしりそうなその勢いに、不覚にも私は一瞬、見惚れてしまった。
「監督生、君は……私を選んでくれるのか?」
彼女のくれた言葉がどこかまだ信じられなかった私は、よろよろと彼女にまた一歩近付く。彼女は私の胸に縋り付いてきて、確かに「はい」と言った。ならば、私はこの手を決して放さない。
あの時、密かに胸の内で誓った言葉に、後悔は無い。無いが……。
「ロロがあんなに取り乱したの、後にも先にもあの時だけだったね」
「思春期だったのだよ。…………君があんな猫被り娘だと知っていれば、私ももう少し考えたものだが」
「そんな私を好きになったのは、ロロの方でしょ」
「ぐ、むぅ……」
言い返せない。彼女はこちらに振り返り、にっと勝気に笑う。可愛い。その唇にキスをしようと顔を近付けたが、いきなり頭を手で押さえられ、一瞬だけ水面に顔を付けてしまう。この、じゃじゃ馬……!
「今のはする流れだっただろう!」
「後でね」
「全く……。もっと素直な娘だと思っていたんだがね」
「簡単に捕まるのはつまらないじゃない?」
「……生憎と私は駆け引きが嫌いだ」
「知ってる」
彼女を引き寄せ、体を密着させると、丁度項の辺りに私の顔が近付く。そのままいつもの癖で密かに彼女の香りを楽しんでいると、「またそうやって嗅ぐ」と呆れた声が彼女の口から零れた。
「別にいいだろう。お前の香りが好きなだけだ」
「知ってるけど、それ、ぞわぞわするから止めてって言ってるのに」
「断る」
「匂いフェチ」
「何とでも言え」
そのまま向きを変えた彼女の首筋に顔を埋める。卒業してから伸ばした髪が私の鼻先をくすぐる。
「するんだったら、お風呂上がりにアイス」
「堕落の権化か、貴様」
「じゃなきゃ、しない」
「……仕方ない。悪魔の提案に乗ってやる」
「んふふ。これで共犯者だね、ロロ」
「その代わりに今からお前は私の奴隷だ」
「私がロロの奴隷なら、アンタも私の奴隷よ。ロロ」
あくまでも主導権は譲らないと言葉と表情で悠然と構える彼女に、私は胸の奥でどきどきと高鳴る心臓を知らない振りをして、同じようににっと笑う。
「受けて立ってやろう」
「元の世界に戻る手がかりを掴みましたよ!」と、朝日がたっぷりと差し込むオンボロ寮の談話室で、学園長は至極嬉しそうに報告してきた。突然の知らせだったが、監督生はどこかほっとして詳細を聞く。学園長が言うには、元の世界と繋がる扉を見つけたらしいが、それが一番よく繋がる時に飛び込まねばならないようだった。
「中途半端に繋げますと、監督生くんの身が危ないですからねぇ。何せ魔力量にかなり影響を受けているだけでなく、扉に対する供給が非常に不安定です。私が魔力を注いで安定させたとしても、君の世界とこちらの世界が結ばれるのは、一瞬だけ。日取りはいつでも宜しいですが、帰るかどうするかはよく考えて、後悔の無いようにお願いしますね」
「はい。……本当にありがとうございました。学園長。今までお世話になりました!」
「あれ? 私早速お別れの挨拶受けてません?」
それからの一週間は長いような短いような、寂しいようなそうでないような、いつもよりずっと賑やかで楽しく、寂しい一週間だった。帰る前日になって同じ一年生組がオンボロ寮に泊まりたいと申し出たので、皆それぞれの寮長に許可をもらって来てくれた。エースが持って来たトランプで勝負したり、枕投げでデュースとジャックのコンビに圧倒されたり、オルトが持って来たゲームで遊んだり。その間にはエペルの実家から送られてきた林檎を使ったお菓子を食べたり、セベクが紅茶を淹れてくれたり――もちろん、若様のお話付き――と、今までに無いくらい遊んだ。
夜も更け、お腹いっぱい食べ、思い切り遊んだ一同は、皆でソファに座り、エースが借りてきたアクション映画を観ている。そんな中、グリムがぽつりと零した。否、零してしまった。
「明日なんて、来なければいいんだゾ」
「おい、グリム」
「流石に今のは無いんじゃねぇの?」
「だって……お前らは良いのかっ!? 明日になったら、こいつ、帰っちまうんだゾ! オレ様……オレ様…………ぐすっ」
耐えきれなくなったグリムは、小さな体をめいっぱい広げてぎゅっと監督生に抱きつく。鼻をすする音に、監督生も我慢していた分、一気に寂しさと哀しみが押し寄せてきた。
「嫌なんだゾ! ここに入る時は一緒だったんだっ! 出る時も一緒が良いんだゾ!」
「グリム……そんな、我儘……言ったら、監督生が、こま、る……だろ……っ!」
グリムにつられてデュースまでも目に涙が浮かぶ。それを見てエースとジャックは「しっかりしろ」と厭に大きな声で言った。
「笑って見送るって決めただろ。腹決めたんなら、最後までやり切れ」
「うっ……ぐすっ…………でも、でもっ……! ジャックは寂しくねーのか!? もう、子分と二度と会えなくなるかもしれないんだゾ!」
「それは……」
「あのね」
そこで静かにオルトが切り出した。グリムを安心させるように、否、自分を含めたこの場にいる全員に言い聞かせるようだった。実際、そうなのだろう。どこか寂しげな笑顔がそう物語っていた。
「監督生さんが明日帰っちゃうって聞いた時、兄さんがね、こっちの世界と監督生さんの世界を安定して繋げられるようにしてくれるって。今はまだ必要な魔力量が多いせいで、実現不可能だけど、何年かかっても必ずやってみせるって約束してくれたんだ!」
「だから、ボクは悲しまない。いつか本当に会えるから!」と、希望に満ち溢れるオルトに元気づけられて、皆涙を拭う。
「……そうだな。あの人間なら、やってくれるだろう。……ぐすっ」
「うん……その時、何か手伝えることあったら言ってね、オルトクン」
「うん! だから、監督生さんも泣かないで。ボク達、必ず会いに行くよ」
「会いに行く」その言葉が嬉しくて、監督生はうんうんと何度も頷いた。
「ま、今こうやって別れ惜しんでるけどさ。案外またすぐ会えるかもしんないじゃん。だから、監督生もお前らも湿っぽくなんなよって」
「うん……ありがとう、エース」
涙を拭ったばかりの監督生が見せる弱々しい笑顔に、今度はエースが限界を迎え、滲む涙を見せまいと顔を背けた。
「別に! またすぐ会えるんだから、寂しくなる必要無いんだって、思ったことそのまんま言っただけ」
最後まで素直じゃないエースに、また皆で笑った。
翌日、まだ皆が眠っているうちに監督生は出て行くことにした。学園長には事前に言ってあるので、問題無い。ただ、旅立つ日に誰かと言葉を交わせば、気持ちが揺らいでしまうかもしれないと思ったからだ。湿っぽく別れるのは監督生も望んでいなかった。ゴースト達とも昨日、寮に帰宅した時に挨拶をしたお陰か、それとも気を遣ってくれたのか、本当に誰とも会わないまま、鏡の間まで辿り着いた。
扉を開けて中へ入ると、闇の鏡の隣に棺桶の『扉』があり、鏡の前で学園長とロロ・フランムが談笑していた。
「あれ? ロロさん。どうしたんですか?」
「ああ、来ましたね。監督生くん。ノーブルベルカレッジのロロ・フランムくんも、お別れのご挨拶に来てくれたんですよ」
その時、学園長のスマホが鳴り、「何ですか、こんな時に」とぶつぶつぼやきながら、「ちょっと失礼」と言って鏡の間を出ていった。後に残されたロロと監督生は、お互いに最後の話をしようと歩み寄る。
「クロウリー学園長から聞いたよ。元の世界に帰るのだそうだね」
「はい。ロロさんにも交流会の時はお世話になりました」
「その話をされると、正直複雑なものだが、まぁ、いいだろう。扉は既に学園長の魔力によって開かれている。私が見届けるから入りなさい」
「本当に、ありがとうございました」
「ああ、そうだ。最後にこれを卿に、私からの贈り物だ」
そう言ってロロは監督生の髪に一輪の白い花を飾る。どこか百合の花に似たものだった。
「これは?」
「それはオーリニウム。とても美しい花で観賞用として人気が高いものだ」
「ありがとうございます。帰ったら、ちゃんと水に……」
くらっ、と監督生の視界が大きく傾ぐ。足元が覚束無くなり、倒れそうになったところで、ロロに受け止められた。
「……この花に触れている間は眠りに就く。その特徴から眠り花とも言う。魔法耐性のある魔法士の子供の間では眠り姫ごっこなどの遊びに使われるごく弱い魔法植物だが、耐性が無い卿にはこうもよく効くものなのか」
くく、とロロの喉奥から笑いが漏れる。愛おしげに指で髪を撫で漉き、しっかりと眠っている監督生を腕の中に収めた。
「ああ、漸く私のものになる。ユウくん、これからは私が卿を住まわせ、着せ、食べさせてやろう。もう元の世界やナイトレイブンカレッジなどという卿を惑わせるようなものから私が守ってやろう。……これからは、ずっと一緒だ」
運びやすいように監督生を抱え直したロロは、すやすやと眠っている穏やかな寝顔に頬を寄せ、額にキスをすると、闇の鏡を通り、ノーブルベルカレッジへ戻って行った。
「いやぁ、私ったらとっても忙しいので、電話が長引いてしまってすみません……って、フランムくんだけですか? 監督生くんは……」
「ユウくんならば、もう帰ってしまいましたよ。あまり長く留まっていると、帰りたくなくなってしまうと言っていましたから。扉は私が責任を持って閉じましたが」
ロロの言う通り、監督生の世界へ通じていた扉は固く閉ざされ、そこに沈黙していた。
「ああ、良かった。これで何もかも一件落着ですね。監督生くんは優秀な生徒でしたが、元は異世界の住人。いつまでもこちらの世界に置いておく訳にもいきませんでした」
「クロウリー学園長もご苦労が絶えませんね。では、私はこれで失礼させて頂きます」
「ええ、本当に。では、フランムくん。また何かあれば、お願いするかもしれません。その時はどうぞよろしく、とあちらの学園長さんにも伝えておいて下さい」
「承知しました。では……」
闇の鏡の前に立ったロロの姿が消える。消える間際、学園長からは見えなかったが、確かに彼は自身の勝利にほくそ笑んでいた。
「冷蔵庫が逝った!」
帰宅して早々、玄関先で仁王立ちをしている妻に、ロロ・フランムはげんなりとした顔をした。取り敢えず、いつまでも玄関にいる訳にもいかないので、彼女を連れてリビングに入る。冷蔵庫の話は夕食を食べながらでも話そうと、ダイニングテーブルに就くと、程なくして夕食が並べられる。どんなに遅くなっても夕食は共にすると言い出したのは、彼女の方だ。
「ロロは寂しがり屋さんだから」とは彼女の談だが、当の本人はそんなつもりは一切無い。が、彼女がそう言うのだから、そうなのだろうともロロは思う。自分のことは案外、他人から見ると違って感じたりするものだ。
それはさておき、冷蔵庫がお亡くなりになった件だ。彼女の証言では、彼女が帰宅して買ってきたアイスを冷凍庫に入れようと開けたところ、既に中は惨劇の後で、その場にくずおれてしまう程度にはショックを受けたようだ。
「中は綺麗にしたんだけど、ゴミが凄くて」
「あいつが出そう……」と零す彼女に眉間の皺が濃くなるロロ。幸い、今日は金曜日で明日は二人共休みだ。
「明日、店に行くしかないな」
「イデア先輩におすすめ訊いとく?」
「…………いや、いい」
ロロが更に顔を顰めたのを見て、彼女はくすくすと笑った。
「何がおかしい」
「だって、あなた私と結婚したのにまだ先輩達に嫉妬してるんだもの。もうおかしくて……」
「それを言うな。君はもう少し人気者である自覚を持ち給え」
戯れにむにむにと頬を摘んでくるロロから、逃げるように彼女は顔を僅かに背ける。
「もう、やめて」
「私の性格を知ってるだろう。そう言われるともっとしたくなる」
「いや、真面目に明日のご飯とかどうすんの?」
「……食べに行けばいいだろう」
「今月大丈夫?」と急に甘い恋人モードから仕事人モードに切り替わった彼女に、ロロは内心もうちょっといちゃいちゃしたかったなと思ったが、決して表情には出さないようにした。
翌日、取り敢えず、自治体には電話をして午前中にはご冥福をお祈りすることになった冷蔵庫を引き取ってもらうことになり、粗大ゴミステッカーを元気良く貼り付けた冷蔵庫を二人で外へ運び出すことにした。
「んぎぎぎぎ……っ!! これ、魔法使えば、良いんじゃないのぉーーーーーー!?」
「魔法は悪ぅーーーー!!」
あくまでも魔法不使用派のロロに、彼女は一旦冷蔵庫から離れるように言い、珍しく彼は言うことを聞いた。
「ロロ、一旦倒そう」
「そうだな。一旦、横にしてから……」
ズヌン、とロロの身長より高さがある冷蔵庫から放たれる威圧感に、二人は圧倒され、「ヒェ」と鳴き声を発した後、徐に魔法石を取り出したロロは言った。
「魔法使うか」
「……うん」
次の冷蔵庫は処分する時のことも考えようと身に染みた経験だった。彼女ももう「デカけりゃ良いよ!」なんて言わないと心に誓った。
魔法を使えば、こんなに簡単にできるんだよジェシー、まぁ、素敵ねトムという具合に外に置き、業者が取りに来るまでの間、出かける準備をしたり、それぞれ暇を潰して荷台に乗せられた冷蔵庫と最期の別れをした後、いざ家電量販店へ向かう二人。買う物が大きいので、帰りが楽なよう、ロロの車で行くことになった。
「今度はどんなのにする?」
「……もう少し小さめのにする」
「冷食買うから冷凍庫広めなのが良いな」
「それだとまた大きいサイズになるだろう。間抜けめ」
「何よむっつりスケベ」
「スケベじゃない! 心外だ!」
「スーケーベ! スーケーベ!」
「大声を出すんじゃない! 大人しくしていたまえ! クラクションを鳴らすんじゃない!!」
挙げ句の果てには真顔でクラクションを長押しする彼女に、ロロはとうとう観念して止めさせる。
「勝った!」
「くっ……なんで私はこんな女に……」
「惚れた方の負け」という一文がロロの脳裏を掠めたが、それには一切触れないようにした。
「全く、本当にとんでもない女だな。君は」
「ふふん。勝つ為ならなんだってするのよ。私は」
その一言に、やはり学生時代に彼女を転校させるべきだったとロロは大変に後悔した。
店に着き、車を停めて中に入ると、二人で冷蔵庫コーナーを見に行く。ここに来るまでにイデアに頼るかどうするか訊いたが、頑としてロロが意見を変えなかった為、店員におすすめを訊くことにして、彼女は条件を絞りつつ、店員と話し合っている。
「それで、こちらがおすすめの……」
そこで店員は営業スマイルのまま、ぴたりと固まった。彼の目には微笑みを浮かべて説明を聞いてくれている奥様と、その腰に手を回してこちらを睨み付けている旦那様の姿があった。ただでさえ、目の下にある濃い隈が更に凄みを醸し出している。何が気に障ったのか、全く分からない彼は手早く説明を終えると、そそくさと自分の持ち場に戻って行った。
結局あれこれ悩んだ結果、彼女の押しに負けたロロは先代とあまり大きさの変わらない物を購入し、車から家の中までまた魔法で運び込んだ。
「ふぅ……。これはまた壊れたら大変だぞ」
「その時はその時よ。うちには頼れる旦那さんがいるんだし」
ぎゅっとロロの右腕に抱き付き、彼女はとびきりの笑顔を見せる。
「これからも頼りにしてるからね、ロロ」
「んふふ。当たり前だ」
そのままいちゃいちゃしようとした矢先に彼女の一言で全てぶち壊された。
「さて、夕飯の買い物行きますか」
初めて彼女を知った時、哀れだと思った。魔力が無いのに、魔法士養成学校に入学し、モンスターと二人でやっと半人前の者など哀れみを感じずにはいられない。だから、私が救ってやろうと思ったのに。
結論から言えば、私の計画は失敗した。ナイトレイブンカレッジの魔法士共が束になって私を襲って来たのだ。流石の私も苦戦を強いられ、遂には押し切られる形で鐘を鳴らされた。不愉快。実に不愉快だ。中でも特に不愉快なのは、あの女! あの女が街の住人を救助し、あまつさえ憎い魔法士共と一緒になって英雄扱いされていることだ。魔力なしの癖に! ただの人間のくせに! 私に救われることを拒否して思い上がるなんて! 傲慢の極みだ! あの女にだけでも報いをと思い、私は謝罪したいという嘘の口実で彼女を呼び出した。やはり、こういった話の場合は校舎裏だろうかと思い、今は彼女と二人でいる。神よ、私は今から主に代わってこの女に鉄槌を下すのです。
「話って何ですか? ロロさん」
「今回のことで卿にも迷惑をかけたので、その謝罪をしたいと思ったのだよ」
「まぁ、わざわざありがとうございます」
そんな訳が無かろう。馬鹿め!
つい、そう言いたいのを堪える為にいつものようにハンカチを口に当て、落ち着く。さて、女にとって何が一番傷付くか。ここはやはり、恋愛にでも持ち込んで心底惚れさせたところで、酷い振り方をしてやるのが良いだろう。こいつら女は皆頭が花畑の馬鹿ばかりだからな。
「今回のこと、本当に詫びても詫び切れないと思っている。それ程までに街の人々にも卿達にも迷惑をかけた。……こんなことをいきなり言われても、卿は困惑するかもしれない。けれど、私は恥を晒すと分かった上で告白しようと思う。監督生くん、いつの間にか、私は卿のことを想うと胸が苦しく、張り裂けそうになっていた」
「はぁ、そうなんですか」
嗚呼、自分で言っていて鳥肌が立つ。嫌悪感と憎しみでな。
「卿にはその責任を取ってもらいたい。さもなくば、やったことに対して責任すら取ろうとしない無責任で傲慢な人間だったと触れ回る……こともできるが、どうする? 選べ。私か死か」
「あ、そういう話なら、お断りします」
…………………………ん?
「え?」
「そういう話なら、お断りするって言ったんです。さっきから聞いてましたけど、ロロさんって絶対に謝らないですよね。『詫びても詫び切れない』とか『迷惑をかけた』は謝ったうちに入りませんよ。思ってることは素直に言った方が、言われた方も分かりやすいと思います」
なんだこの女。
「後、ロロさん、私のこと好きみたいなこと言いましたけど、嘘ですよね」
「な、何を……」
「ふふ。だって、ロロさんの目。恋してませんから」
どきり、とした。恋をしていない? 馬鹿な。そんなことが分かる訳が……。同時にある疑問が浮上する。恋をした目とはなんだ?
「そんな訳が……」
「あなたが私を罠に嵌めようとしているのは、分かってました。私がロロさんの立場なら、私や皆のこと、許せないと思いますし。でも、他人の気持ちを利用しようとするなんて、私も許せません」
そう言って澄んだ目で真っ直ぐ見つめてくる彼女に、つきり、と胸の奥が痛んだ、気がする。すぐ後にどきどきと心臓が早鐘を打ち始め、私は心底混乱した。不覚にも、その瞳を、う、う、美しい、だなどと……。
「お話はこれでお終いです。それでは、これで失礼します。私、荷造りしなきゃいけないので」
「あ……」
彼女が行ってしまう。そう思うと同時にいつの間にか、私はその細い手首を掴んでいた。ほ、細い。本当に細いぞ。
「何ですか?」
少し怒った口調と共に、でも、振り返ってくれた彼女に、私は何か言いたくて、でも、頭の中がぐちゃぐちゃで、やっと絞り出したのが……。
「……お」
「はい?」
「……お、お、お前のことなど、何とも思っていない! 勘違いするな!」
何故。何故言った、私よ。こんなことなら、最初から何も言わない方がましまであるぞ。もうそれ以上、墓穴を掘りたくなくて、黙り込む私に、彼女は「ほう」という顔をして、こちらに向き直る。
「じゃあ、私も何とも思ってないです。放してくれませんか」
「それは……い、嫌、だ」
「我儘ですね、ロロさんって」
「…………離れたら、お前の悪評を広めてやる」
「へぇ……。具体的にどういう感じですか?」
「……わ、私、を惑わした魔女……と……」
「声ちっちゃ」
くそ! くそ! 何故、私はこんな女に良いように反撃されている!! この魔女め! 何もかもこいつのせいだっ!
「いい加減、放して欲しいんですけど」
「………………何故、お前は私を恐れない?」
「なんで私があなたを恐れなくちゃいけないんですか」
「傲慢の極み……!」
「なんて?」
とんでもない女だ! こいつ! 私を恐れるに値しないとは!! 生意気な!
女は非常に困惑した表情で私を見つめていたが、何か思い付いたような顔をして、空いている方の手で私の手を掴んだ。
「えぇー……放してくれない。う〜ん……そうですねぇ。ロロさん、どうしても私に復讐したいなら、私を本気で惚れさせてみせてください。その上で手酷く振ればいいじゃないですか」
ぐい、と手を引っ張られて彼女に一歩近付いた時、ふわりと香る女の甘い匂いとちゅ、と頬に柔らかな感触。その意味に気を取られ、私はつい彼女の手を放してしまった。
「頑張って下さいね」
それだけ言い残し、颯爽と去って行く彼女の背中を呆然と見送りながら、私は、私は……。
「助けてください、『正しき判事』……!!」
負けた屈辱と厭に高鳴る心臓を持て余し、両手で顔を覆ってその場に蹲った。あの、悪魔め……! あの悪魔めぇ……! 私より強いなんて聞いてないぞ!!
まるで彼の名前をそのまま表したかのようなエメラルドグリーンの瞳。少し離れた位置にあるテーブルに置かれたランタンの灯りがちらちらと瞬く度、彼の瞳も濡れたように光る。ただ、その輝きに見惚れていて、彼の顔が近付いてきていることに半ば気が付かなかった。
あ、キスしちゃうと思った瞬間、私の瞼は閉じていて、少しだけ顎を上げる。期待していた。
彼の吐息が感じられる距離にまで近付いた時、真横から聞き慣れた声がした。
「これはこれは、随分とその魔法士と仲良くなったようだね。ユウくん」
決して見つかってはいけない人の声に、私は反射的に身を引いて彼から離れた。視線の先には生徒会服に身を包み、私の夕食が入っているだろうバスケットを持ったロロさんがいた。さっきの言葉とは裏腹に表情は険しく、明らかに怒っている。
「ロ……ロ……さん」
どうしよう。この場をどうやって穏便に収めよう。殆ど停止した思考をしている中で冷静な部分が考えを巡らせる。その間につかつかと近付いてきたロロさんは、素早い動きで彼の首を掴み、そのまま前へ少し押し出した。咄嗟のことで彼も私も反応できなくて、苦しさに藻掻く彼の体は半分程、鐘楼の外へ乗り出してしまう。だめ! ロロさんが手を放したら、彼が落ちちゃう……!
「や、やめてくださいっ。ロロさ――」
「選べ、ユウ。この男の命惜しさに正式に私のものになるか。それとも、私を拒絶し、この男を見殺しにするか。今、お前に選ばせてやろう」
口調はひどく落ち着いているのに、その表情は一切の無で、ロロさんは本気なんだと思った。ロロさんは、私を鐘楼に閉じ込めた張本人で、彼はそんな私をここから自由にしてくれようとした。彼は一人で何もできなかった私に、勇気と愛をくれた。対してロロさんは外の世界は危険だと私に孤独を与えた。
嫌いだ。暗くて冷たいあなたなんて、嫌い。でも、嫌い、なのに、彼の命と引き換えだと選択肢を与えられては、魔力の無い、無力な私が選ぶべき方は、既に決まっていた。
辛くて、悔しくて、両目から止めどなく溢れる涙をそのままに、私は床に手と膝を付いて頭を下げた。
「お、おねが……お願い、します。あなたのものになりますから……どうか、どうか彼だけは助けてください――!」
答えを聞くと、ロロさんは約束通り、彼を室内へ引っ張り込み、床へ強かに放すと、冷たく言い放った。
「聞こえただろう。卿はもう用済みだ。どこへなりと消えるがいい。但し、二度と彼女の前に現れるな」
彼は口惜しそうに私の名前を呼んでくれたけど、ロロさんの無言の圧力に負けて、出て行ってしまった。さよなら、ありがとう。私を連れ出してくれて。――大好きだった、よ……!
ぼろぼろと涙が零れて、滲む視界にロロさんの黒い服が入ってくる。
「ああ、ユウくん。辛かろうなぁ。だが、これも卿の為なのだよ。邪悪な魔法士共は君の心を惑わし、この世の真実を捻じ曲げてしまう。これからもあんな連中に惑わされぬよう、私が守ってやろう」
あなたなんか嫌い。そう言ってやりたいのに、口にしてしまったら、彼の命が危ないと思うと、私はどうしても言えずに、温度の無い唇を受け入れた。