準備編※※ご注意※※
・キャラ崩壊注意(駄々こねイデア氏・喉が心配になるイデア氏)
・元となったRPGはFFシリーズ・クロノクロスです。
・完全なパロディではなく、混ぜられる要素のみ取り入れているだけなので、元ゲームのネタバレはあまり無いです。
・作中、イデア氏がやたらゲーム内容を褒めていますが、後々凡人作者がのたうち回る為のハードル上げです。
・この世界では大団円ハッピーエンドのRSA向けRPGが主流という設定です。
・元となったゲームはもっと素晴らしいので、興味を持たれたら、是非プレイをしてみて下さい。全部スイッチでダウンロードできます!
それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
画面に映る大団円のエンディングを見届けながら、監督生は「う〜ん」という顔をしていた。それを近くで見ていたエース、デュース、オルトが不思議そうな顔をする。今日はイデアから借りた王道RPGを丁度クリアしたところだった。笑いあり、信頼あり、恋愛ありで大変良かったし、グラフィックも可愛かった。しかし、監督生はある不満を抱えていた。
「どうしたの? 監督生さん」
「これで終わりかぁと思って」
「どしたよ。何か不満そうじゃん」
暫し黙っていた監督生だが、次第に「あの」と切り出してくる。マブ三人は一先ず、話に耳を傾けてみようと黙っていた。
「最初に言っておくとね。決してつまんなかった訳じゃないよ。お話は可愛くて面白かったし、キャラクターも良かった。…………でもね」
そこから始まった怒涛の不満点にエース達は「あーね」と少しだけ同意してくれた。試練にぶつかる主人公を都合良く助けてくれる新キャラが何の脈絡も無く現れたり、何だかんだ主人公はなし崩し的に無条件でパーティメンバーに支えられ、助けられてボスを倒したり、最後の最後に序盤で助けておいた妖精の魔法でラスボスの罠から脱出したりという、どうしても「こりゃ制作陣、ご都合主義が過ぎますわ」と言いたくなるような展開が多かった。キャラ同士のぶつかり合いすら無く、終始一貫してパーティメンバーは仲良しこよし状態でモンスターを倒して終わりというストーリーだった。
「それはちょっとオレも思った。あそこでたまたま父親に薬を届けに来たラミナが助けてくれるって、ちょっとご都合じゃね? って」
「その後もよく分からない理由で最後まで戦ってくれるしな」
「ラミナが薬あげた瞬間、病気のお父さん、秒で治るしね」
「――まぁ、でも、それなりには楽しめたじゃん。笑いあり、感動ありで」
「足りねぇんだよ」
「そんな、何かの中毒者みたいに……」
「何ていうか、緊張感だけが無いんだよ」と話す監督生にマブ三人は非常に納得してくれた。その中でオルトが難しい顔をする。
「う〜ん……今の監督生さんが言った条件でおすすめのRPGを検索してみたけど、見つからなかったや」
「ええ? そんなことある? 一件も?」
「うん。一件も」
ふむ、と考える監督生を横目にエースは目の前のテーブルに置いてあるポテトチップスの袋に手を入れて二、三枚取って食べる。普段ならデュースと監督生に嫌がられる食べ方だが、件の二人が何やら考え事をしている間に食べてしまおうという考えである。しかし、それも僅かの間で、監督生は唐突に「おしっ」と手を一度鳴らした。
「パンが無ければ、作っちゃえばいいじゃない」
「どうしたんだ? 監督生。パン作るのか?」
「そうじゃねーだろ」
「作る……って、RPGをってことっ!? 監督生さん」
「うむ」と偉そうに腕組みして頷く監督生。だが、彼女にはそんな技術も機材も無い。なんなら、ノートパソコンすら無い。文字通り、無の状態からゲームを生み出すには誰かに頼らなければならなかった。そこで真っ先に思い付くのは、丁度目の前にいるマブの一人オルトの兄イデアだ。
「でも、ゲームを作るのって大変だよ? 監督生さんは一から作れる環境ではないよね?」
「だから、イデア先輩に頼んでみようと思って。キャラクターとか世界観の設定、シナリオは私が作ろうかなって。丁度、マブ達もいることだし」
「へ? なんでそこでオレら?」
不思議そうな顔をする三人に、監督生はしたり顔で言った。「みんな、ゲームに出てみたくない?」と。エースは「ええ〜? オレらが? 何だよ、監督生。オレらのこと好き過ぎかよ〜」と軽口を叩くが、嬉しそうににやにや笑いを浮かべ、デュースは「ぼ、僕がゲームに……?」と未知への世界にわくわく半分不思議半分といったところ。オルトは「わぁ、前に兄さんと話したゲームみたい!」と目をキラキラさせてはしゃいだ。自分達がキャラクターになってゲームに出る。もうそれだけでやる気は満々だ。しかし、目下の問題はイデアにある。
「でも、イデア先輩、乗ってくれるかな?」
「そこは僕が説得するよ! むしろ、ゲーム素材を僕らで先に作れるだけ作っちゃって、兄さんのところに持ち込んだ方が断られにくいと思う!」
「ゲーム素材って? 何すればいいの?」
「そうだね。作るゲームにもよるけど、キャラクターを3Dモデルでフルボイスにするなら、みんなの声と写真がいっぱい必要だし、足音とかの効果音も必要かな。効果音はネットのフリー素材を使えばいいから、僕らが集めるとしたら声と写真だね」
「声なら今すぐできるな」
「あ、待って。まだシナリオもキャラもできてないから声収録はそっち出来てからにした方が良いよ」
「ってか、監督生。シナリオとキャラって大事なとこじゃん。宛あんの?」
会話の途中で監督生が出してきたノートに、彼女は必要なものを書いていたが、エースの言葉にぱっと顔を上げて笑んだ。
「任しといて。元の世界でやってた大作シリーズと一番好きなRPGを混ぜようかなって思ってる」
『大作シリーズ』という自信満々の単語に三人は「おおーっ!」と盛り上がった。監督生はページを捲ると、そこに次々と何やら書き出していく。
「ちょっとねぇ、世界観とキャラを書き出してから良い感じに混ぜる予定だから、結構かかるかも」
「そっか。んじゃあ、監督生の設定とシナリオ出来たら、オレらも素材集めやりますか」
「じゃあ、今日のところは解散だな」
「楽しみにしてるね、監督生さん!」
「うん。また遊び来てねー」
帰る三人を玄関まで見送った監督生は、書きかけのノートと筆記用具を持って自室へ引っ込み、一心不乱に続きを書き出すのであった。
それから三週間程経ったある日、教室に入って来た監督生は意気揚々と七冊のノートを取り出し、机に叩き付けて宣言した。
「出来た!」
「はっや。RPGの設定とシナリオだよね?」
「うんっ!」
「何か、テンション高くないか? 監督生」
「寝てないっ!」
「分かった、寝ろ」
「シナリオは読んじゃダメだからね」と言い残して監督生は授業が始まるまでの間、寝ることにした。僅か五分程度だが、寝ないよりましの精神だろう。彼女が机に突っ伏している間、エースとデュースは設定だけ軽く見ておくかとキャラクターとタイトルされたノートを開いた。
「おお……」
「監督生、凄いな」
前書きとして職業についての説明があり、その次のページはラフの状態だが、イラスト付きでキャラクター設定が書かれていた。グリムに始まり、エースにデュース、ジャックやエペル、セベクや他の先輩達のまである。これ一冊だけでもかなりの時間を費やしただろうことが伺える内容だった。ざっと目を通した時、魔法史担当のトレイン先生が入って来たところで、エースはさっと七冊のノートをしまい、隣で寝入っている監督生の頭にチョップを入れて起こすのだった。
「チョップは酷くない?」
授業後、ノートを返してもらった監督生は不満気に唇を尖らせるが、エースは「起こしてもらっただけ感謝しろよな」と返す。あれから授業と授業の間にキャラクター設定だけ見たエーデュースとグリムは、いくつか自分で変更したところはあるが、概ね「良いんじゃない?」と許可をもらった。
「オレが魔導士でデュースが騎士なんて、ステータス的にぴったりじゃん」
「それ、どういう意味だ。エース」
「二人共、ケンカしない」
「なぁ、子分。オレ様、納得できねぇんだゾ。もっとかっこいいの無ぇのか?」
「う〜ん……職業はねぇ。一応、初心者から上級者まで詰まないようにってバランス考えて設定したから、グリムが使いにくい職業になっちゃうと、パーティに入れて貰えなくなるかもしれないよ?」
「えぇ〜。じゃあ、しょうがねぇんだゾ……」
「この設定なら、オレ満足だし、もうイデア先輩のとこ持って行っても良いんじゃね?」
「何なに〜? 何の話?」
食堂でこんな話をしていると、自然と見知った顔が寄って来るのは常のことで、この時も例に漏れず、ケイトが近寄って来た。当然、知り合い全員巻き込む気でいる一年生達はこれ見よがしに監督生の設定ノートを渡した。
そんな調子でイデア以外の出演予定者には次々とゲームの話と共に設定ノートが渡り、素材が集まり、それらを持参して監督生はオルトと共にイデアの自室へ突撃した。
「こんちくわ〜! イデア先輩〜!」
「キャァアアアアアアッ!!? 陽キャ誘引剤ー!!!!」
絹を裂くような悲鳴を上げてイデアは、持っていたコントローラーを真上に高い高いし、反撃を脳天に食らう。
「ヒィッ! 痛い……」
「イデア先輩、一緒に王道RPG作りませんかっ!?」
ベッドの上に転がったコントローラーをへっぴり腰で持ち直したイデアは、やっと意識を監督生に移し、「え、なに?」と訊き返す。
「一緒に! 王道RPGを! 作りませんかっ!?」
「全部バルガスで言うの止めてクレメンス。――王道RPG?」
「です!」
清々しい程のドヤ顔で差し出されたのは、あれから色んな人が好き勝手に変更や手を加えた設定ノートとまだ誰にも見せていないシナリオノートを含めた七冊の暴力だった。その厚さと数にイデアは少し身を引いた。
「ちょっ……タイムタイムタイム! いきなり他人の部屋に来て何事!? それを拙者にどうしろと!?」
「大丈夫です。怖がらないで下さい。私はただイデア先輩に見て頂きたいだけなんです」
「あのね、兄さん。実は……」
大変興奮している監督生より冷静なオルトがイデアに説明する。だいたいの話が分かったイデアは少し考え込んでから言った。
「なるほど? 自分の納得できないRPGが多いから、納得できる王道RPGを作る。ねぇ……」
「そうです!」
「ほうほう。なるほどなるほど……。でも、ざーんねん! 拙者、今月は推しのイベント走りまくる予定なんで、監督生氏の暇潰しなんぞに付き合ってる暇無いんすわ〜! いやぁ、ほんと残念だけど、ご自分で作ればいいかと――あっ、監督生氏、パソコン持ってないんでしたなぁ〜! フヒヒッ。これは失敬失敬。ってワケで拙者忙しいんで、諦めてもろて……」
「そんなこったろうと思ってましたとも」
ぴら、と監督生が取り出したのは二枚のチケット。見覚えのあるそれに、イデアは彼女の手にあるチケットを凝視する。灰色の背景に落ち着いた青い文字で『崖っぷち』まで読み取れると、驚愕に目を見開いた。
「えっ!? ちょっ…………ちょっと待って! それ――」
チケットをよく確かめようと伸ばされたイデアの手は、監督生が一歩下がったせいで、空を切り、ベッドから体ごと落ちる。見間違いで無ければ、それは先日イデアが応募して見事落選した限定ライブのチケットだ。
「あ~あ。イデア先輩が『もし』協力してくれたら、このがけもちゃんの期間限定ライブチケット、オルト君のと合わせてプレゼントするつもりだったのに、ダメなんでしたら仕方ないですね。私とオルト君で行くしかないですよねー?」
「『もし』かぁ。良い響きだね、監督生さん」
「いったた……待って! 待って! 監督生氏! 拙者と監督生氏の仲でしょっ!?」
「それに折角、うちのマブ達やアズール先輩、ジャミル先輩達も素材集めに協力してくれたのに、イデア先輩がこんな調子じゃ、ねぇ?」
「え、アズール氏も関わってるの? これ」
「更に言うと、熱砂の国の大富豪カリム・アルアジームさんや夕焼けの草原の第二王子レオナ・キングスカラーさん。世界的モデルであり、俳優のヴィル・シェーンハイトさんに茨の谷の次期当主マレウス・ドラコニアさんも参加してるよ! 兄さん」
「ヒィッ!? 資金力with権力にものを言わせてくる面々……!!」
「更に更にケイト先輩やルーク先輩もウッキウキで協力してくれました!」
「まさかの陽キャ頂上決戦再び!?」
「この面々を全員敵に回してもだいじょーぶ♡っていう場合だけ断っても良いですよ。イデア先輩」
「う゛、う゛ぅぅぅぅぅ……ウボァー…………!」
勝負は決した。この日の為に入念に準備してきて良かったと、監督生とオルトはハイタッチした。すっかり床にうつ伏せになって虫のようになってしまったイデアに監督生はもう一度、ノートをちらつかせた。
「なので、まずはその……設定を見て頂きたいです。イデア先輩にも楽しんで貰えたらなーって」
「兄さん。僕も監督生さんの世界のゲーム、やってみたいな」
「……………………………………………………わかった。みせて」
その姿勢のまま、イデアは監督生からノートを受け取ると、設定ノートを手に残りのノートを背中に乗せて読み始めた。
たまに質問とやり取りをしながら全てのノートに目を通したイデアは、「ふぅ……」と溜息と共に閉じる。恐る恐る「どうでした?」とお伺いを立てる監督生にふるふると震えていたイデアはばっと顔を上げて早口で捲し立てた。
「か、か、か、監督生氏! これ、本当に君の世界のゲーム? 最初シナリオを通しで読んだ時は『なにこの絶望!?』って思ったのに、設定読むと全部合致するし、処理しきれない感情に苛まれる! モヤモヤが残るんだけど、それすら快感に変換できてしまうというか、トゥルーエンドに行くまでこれ攻略情報見ないで行くのはなかなかに厳しいのでは? 拙者くらいの玄人にはヒントさえあれば、すぐに分かるだろうけど、ゲーム初心者にはちょっとキツいんじゃないかなって。でも、この要素抜いたらこのゲームの魅力半減しちゃうし、調和っていうメッセージが消えちゃうってことだよねっ!? やだ! 拙者それだけはやだ! そういう妥協はしたくないでござるっ! そして、何よりもこの壮大なストーリーを落とし込んでフルボイスにするしか無い使命感に駆られている自分が嫌ぁあああああああああっ!!! 絶対、作業量尋常じゃない――――――っ!!!!!!」
「イデア先輩、それハッピーエンドですよ?」
「違うもんっ! こんなの、ハッピーじゃないもんっ!!!!」
とうとう頭を抱えて発狂してしまったイデアを落ち着かせようと監督生とオルトの二人がかりで宥めに掛かる。途中でオルトがイデアの口に突っ込んだチョコバーのお陰で静かになった。もそもそとチョコバーを食べるイデアに監督生がゲームに落とし込むにはどういった擦り合わせや素材等が必要かと相談すると、彼は「あ、一年と二年の時に拙者が作ったソフトとかツールで最初のステージだけちょっと作ってみるから、その時に言うよ」とだけ言って、打ち合わせはまた後日ということになり、先に音声素材や写真データを送ってその日は寮へ帰った。
それからは毎日のように監督生はイグニハイド寮へ顔を出し、イデアと設定、ストーリーだけでなく、ゲーム中のモデリングについて打ち合わせをしていく中、途中から他の寮生達も参加するようになり、当初思っていたよりクオリティはハイレベルなゲームになっていった。最初は小規模に2Dドットで作る予定だったところを寮生達に「いや、こんな素晴らしい世界観を再現するには、絶対3D!!」と押しに押され、そんな圧力に抵抗できる訳も無いイデアがOKを出した。そうやって時にじゃれ合い、時に煽り合い、時にぐだぐだしながらゲームが完成したのは、丁度、がけもの限定ライブ一週間前だった。死にかけのイデアの手からオルトに渡り、監督生の元へ届けられたゲームディスクは丁度、八枚。それと、監督生用にイデアが用意してくれたノートパソコンが一台。
「ええっ!? パソコンまで!?」
「うん! 兄さんが折角、ゲームするなら必要でしょって監督生さんにプレゼントしてくれたんだ! 前にあげた据え置き機のコントローラーを繋げば快適なプレイができるよ!」
「ありがとう、オルト! これは相当なお礼をしなければ……」
「なんだぁ? 何してんだ? 子分、オルト」
丁度、部活から帰って来たグリムに監督生はゲームが完成したことを言うと、グリムも大いに喜び、早速やろうと準備に取り掛かる。パソコンを起動すると、既に使える状態になっており、テレビ台からグリムがコントローラーを持って来る間、「じゃあ、僕は他の人達にも配ってくるね!」と言い残し、七枚のゲームディスクを手に出て行った。
「またねー。本当にありがとう!」
「また遊びに来るんだゾ〜! オルト」
背後から友人二人の声を受けて返事をしつつ、オンボロ寮を出たオルトは、まずはハーツラビュルに行こうと、鏡舎を目指した。
「ゲームできたのか! オルト」
「うん! ここにパソコンってあるかな?」
ハーツラビュル寮に入ってすぐ出会えたエースとデュースにそう言うと、二人は談話室の共有パソコンの前に案内してくれた。本来は調べ物をする時等に使う物だが、皆大抵スマホを使うので、たまにしか使われない。対応OSが合っているかどうかだけ確認し、コントローラーのことを言いつつ「やってみてね!」と言ってディスクを渡したオルトは、次の寮へ行こうと出て行った。
当然、残された二人は早速やってみようとケースからディスクを取り出し、パソコンへ入れた。
「おっ、説明書も付いてる」
「凝ってるな。あ、主人公――」
「あー……。ま、こうなるとは思ってたけどね」
説明書を開いて2ページ捲った先に現れた主人公の名前とイラスト。企画当初、主人公を誰にするか決まらないと言っていた監督生だったが、現れたイラストを見て、二人は互いに顔を見合わせ、納得した。