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    用心棒アルバイトするニコラシカの話「いらっしゃいませ! お一人様ですか? それでは、こちらのお席へどうぞ!」

     普段はこじんまりとした、素朴なレストラン。そこに、可愛らしい金髪赤目の女の子(名札にはニコラシカと書いてある)がアルバイトとして入ったようで、ここ数日は彼女を目当てにやってくる客で賑わうようになっていた。にこにことした、人懐こくて愛想の良い笑顔で出迎えられた人々は、つられて笑顔になって通されたテーブルへと付く。

    「お姉さん、ここのオススメ料理ってなんかある?」
    「私のオススメはですね、オムライスです! 卵がふわふわとろとろしていて……ケチャップライスとの相性が抜群なんですよ! えへへ、思い出したら私が食べたくなっちゃいました!」
    「お! じゃあ、お姉さんがそこまで言うなら、そのオムライス一ついいかな?」
    「かしこまりました! オムライスが一つですね! オーダー入りまーす!」

     ニコラシカの明るい声が店内に響き渡る。ぱたぱたと忙しなく駆け回りつつも、ニコラシカは笑顔でてきぱきと客に対応していく。笑顔を決して絶やさず、客との会話を楽しみながら料理を運ぶその姿に……目を奪われる男性客ももちろんいたりする。

    「ご注文はお決まりですか?」
    「お姉さんの笑顔……テイクアウトで!」
    「えっと……申し訳ございません! テイクアウトのサービスは当店ではお取り扱いがなくて……」
    「かー! 躱されちゃったか! ま、いーよ! んじゃ、お姉さんオススメのオムライス一つお願いね!」
    「かしこまりました!」

     ナンパされても嫌な顔一つせず、それでいてナチュラルに躱している辺りプロの店員なのだろう。凄いなあ、まだ若いのに感心するなあ……と観察していた瞬間。ドゴォ!と、店の扉を蹴破る音が響いた。

    「オイ!!飯と金寄越せやァ!!」

     屈強で、柄の悪い男が取り巻きの子分を連れて店に押し入ってきた。賑やかな雰囲気で包まれていた店内は一気に、悲鳴と恐怖に支配される。ガタガタと客達は震え、何とか逃げ出そうとするが……その集団はバンカーで。一般人である彼らは為す術もない。

    「おめえらあ! ここにいる客全員の金巻き上げんぞ!!」

     リーダー格であろう男が声を上げる。もう駄目だ……と、その場にいる客達全員が……絶望に陥りそうな時だった。

    「……やめてください」
    「ああん?」

     男バンカーの前に、ニコラシカが客達を守るように立ちはだかった。その表情は先程の笑顔とは打って変わって……凛々しく、険しかった。キッ!とまっすぐに、怯まず男を見据えている。

    「ここでの暴力沙汰はご法度です。……どうしても暴れたいというのであれば、お外に出ていただけませんか?」
    「なんだと?! てめえ客相手に指図する気か?!」
    「貴方達のような人をお客様とは呼べません」
    「この……!! 女のくせに生意気な口ばっか叩きやがって!! そんなに痛い目が見てえのか?!」
    「……痛い目を見るのは貴方達です」

     びしばしとした緊迫感溢れる空気。ニコラシカの手には、いつのまにやら槍が握られていた。
     ……そこで、ようやく気づく。思えば、彼女の胸元で結ばれていたリボンには……バンカーマークが施されていた。一見ほわほわとした雰囲気を持つ、普通の女の子に見えたあの子は……自分達には無い力を持つ、バンカーであったということに。

    「へえ? お嬢ちゃん、そんな形でバンカーだったのかよ?! 道理で生意気で威勢がいいわけだなあ?!」
    「……ええ。私が貴方達に負けたら、私の持つ禁貨もお金も……お渡しいたしましょう。バンカーバトル、ということでいかがでしょうか?」
    「……上等だァ! そのかわいいお顔、歪ませてやるよ!!」

     ニコラシカは彼等を店の外へと誘導する。その瞬間から、彼等はニコラシカへと一斉に襲い掛かった。
     ……バトル開始の合図さえしていなかったのに。不意打ちだ……!!

    「……そこです!!」
    「ぐあ?!」

     しかし。ニコラシカは不意打ちの攻撃に動じることはなく。素早く相手の攻撃を躱して、隙だらけの腹に蹴りを加えた。そのまま立て続けに、容赦なく持っていた槍を振り回して……次々と、自分に襲いかかってくるバンカー達を凪払っていく!

    「なっ……なんだと~?!」

     四方八方へと吹っ飛んでいくバンカー達に、リーダーの男は目を白黒させるしか他ない。それはそうだ。相手は……自分よりずっと小さくて、どう見たってか弱そうな女のバンカー。……それが、自分の想像を遥かに超える戦闘力を持つだなんて、夢にも思ってなどいなかったのだから。

    「さあ、お覚悟を……!」

     倒れゆくバンカー達を踏み台にして、ニコラシカはリーダーの男目掛けて高く飛んでいく。槍を突き出し、男の足下を目掛けて突き刺した。

    「ヒッ、ヒイイ……!!」

     リーダーの男はへなへなとへたり込む。……ニコラシカはわざと、男の足から数センチずらした地面に槍を刺したのだ。

    「……お客様、お支払方法はいかがなさいますか」

     男の喉元に、槍の穂先を向ける。ニコラシカの気迫に、リーダーの男はガタガタと震えて……。

    「す、すみませんでした~!! い、いくぞお前たち~!!」
    「へ、へえ!!」

     ありったけの禁貨とカネーを置いて、男達は撤退していった。……嵐のような、一瞬のできごと。あんなにも、か弱そうな普通の女の子が……あのならず者バンカー達を撃退したという事実に、その場にいた全員が驚いた。

    「ふう……。あ、皆様、ご無事でしたか?! お怪我をした方がおりましたら、是非仰ってください! 応急手当てをさせていただきますので……!」

     あんなにも凛々しかったのに。ニコラシカはわたわたと、客である自分達の身を案じ始めた。
     ……ああ、バンカーには先程のような悪い人達もいるけれど……彼女のような、善良なバンカーもいるのだと。彼等は思いながら、ニコラシカの勇姿に感謝の気持ちを口々に告げた。


    ***


    「ニコラシカちゃん、今日は本当に……本当にありがとう!! お陰で、お客様達にもこれといった被害が出なくて助かったよ!!」
    「いえいえ! お仕事ですから当然です! お給料、ありがとうございます! また、よろしくお願いします!」
    「こちらこそ!! ニコラシカちゃんがバイトに入ってくれると助かるからね。また待ってるよ!」

     仕事着であるメイド服を脱ぎ、ニコラシカは店主から給料を受け取る。いつもの衣装に身を包んだ彼女は……ただ一人のバンカーへと戻る。

    「あっ、ニコラシカちゃん!! 待ってたよ!」
    「え? あ、あなたは先程の……!」
    「覚えててくれて嬉しいなあ! おれ、ニコラシカちゃんとどうしても仲良くなりたくてさ……。ね、これから一緒に、」

     遊びに行かない?と、男がニコラシカの手を握ろうとした瞬間。ぞわ、と……男の背筋に寒気が走った。

    「……オイ、いつまでも待たせてんじゃねえよ。とっとと帰るぞ」
    「え? レモネードさん!」

     ニコラシカの肩に腕を回し、自分の胸元へと引き寄せた……青い痩身の男。レモネードと呼ばれたその人は……ニコラシカの彼氏なのだろうと、勘の良かった男はすぐに察した。

    「あ、アハハ……ニコラシカちゃんって彼氏いたんだね……そりゃそっか……」
    「……ケッ。分かったならとっとと失せるこったなあ?」
    「あーハイ! そうしまーす!」

     レモネードのただならぬ気迫に圧されて、男はそそくさとそこから逃げていった。

    「レモネードさん、もしかして……私のこと、お迎えに来てくれたのですか?!」
    「ああ? だったら悪いかよ」
    「い、いえ……! かなりお待たせしてしまったのではないかと思って……!」
    「くだらねえこと気にしてんじゃねえ。……バイク止めてるから、後ろ乗れ」

     レモネードはニコラシカの腕を引いて歩き出す。……ニコラシカがバイトをすること自体に、彼はとやかく言うつもりはない。けれど、彼女と過ごす時間が減ってしまうのは……レモネードにとって、面白くないことなのだ。少しでも多くの時間を、共に過ごす為ならば……レモネードは手段を選ばないだけ。

    「今日頂いたお給料で……レモネードさんに、おいしいご飯をお作りしますね!」
    「……せいぜい頑張るんだな」

     にこにこと嬉しそうに笑うニコラシカを、レモネードは微笑ましく見ていた。
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    2022/09/26 23:18:34

    用心棒アルバイトするニコラシカの話

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